ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

自作小説お披露目会場コミュのソローブレイカー 1−5

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
(この少女は何者なんだ?)

 少年は戦慄していた。
 眼前で天使と平然と肉薄する少女に。
 元より、不思議な少女ではあった。
 初めからこうなることを推測した上で、それでも自分に関わろうと思った――そのことそのものがそもそも異常な行為だが、それだけに留まらず、こちらの話を聞いても億することなく、襲撃を退け、天使を足蹴し、そして今、まるでそうであることが当然であるかのように自分が与えた異能をさも当然のように扱っている。
 少年の力は確かにそういうものである。異能を優々と使いこなせているのも、異能が彼女に指示を出し、彼女は指示通りにとりあえず動いているだけで、異能の使い方自体は初心者のそれだ。
 だがしかし、それ以外は達人のそれである。
 元より有している才能もあるだろうが、それと共に相当な強者から惜しまず、幼少の頃から親切丁寧に一から十まで理論尽くで教え込まれなければ有することはできぬだろう卓越され、洗練された年齢不相応の技能。
 どれだけの努力を尽くしてその領域にこの年齢で至ったのか――少年には皆目見当も付かなかったし、想像することさえもできない。
 ただ分かるのは、それが狂気の沙汰であること。
 何かが狂っていなければ、何かが歪んでいなければ、何処にでもいそうな一介の少女が達人に、人の身で神域に位置する天使と肉薄することができる技能を有することなど絶対的に不可能だろう。
 それでも。
 その姿は目を奪われるほど、息を飲むほど美しく、
 何より、その姿が少年にはある人物と被って見えた。
 そんなはずない。世代は同じだが、容貌は違い、性格も違い、戦闘形式も全く違う。だから絶対にそんなはずなどなく、単なる錯覚に過ぎない――はずなのに、不思議と、何故か、どうしてか、彼女の姿は少年にある人物を想起させた。

(……そうか。だから、俺は――)

 不意に思い至る。
 だから、自分は彼女に力を与えようと、あと一度くらいならば頑張ってみるか――そう思えたのだ、と。
 その実、少年はここで終わってもいいと思っていた。
 単なる意地で始めたこと。無様で、惨めで、未練だらけの意地で始めたこと。それ故にいつ終わったところでそこが自分の終着駅だから問題はなく、異論もない。むしろようやく終わるのか、と安堵さえした。
 だけれども、少女は舞い降り、そして言った。
 責任を取れ、と。自分を殺さなかった責任を果たせ、と。
 そのままの意味で受け取れば、後ろ向きなのか前向きなのか分からないし、それ以前にとんでもないことだ。正気を疑う狂気の台詞である。
 だが、そこには厳しくも優しい確かな思いやりがあった。
 それしかなかった。それだけが込められていた。
『責任』という言葉は、罪の意識を持たせることによって能動的であれ、こちらに生きる目的を与えるためなのかもしれない。もしくは、細かいことを考えず、ただただ目的を果たせるように、目的に向かって走れるようにするために。
 その意味では、こちらに転機を与えた、という意味でなら、想起したある人物と彼女はそっくりだった。瓜二つと言ってもいい。
 だから、責任を取ろうと思えた。
 だから、後一度くらいは頑張ろうと思えた。
 その時だった。

「――なるほど。確かに『嫌な風』ね」

 無粋な声が上空から降り落ちたのは。


『主。上空より広域攻撃反応だ』
「――なるほど。確かに『嫌な風』ね」

 夢火が告げた、刹那、夢乃はその無粋な声を聞いた。
 刹那、弾丸の勢いを持った雨が降り注ぐ。
 夢乃は反応しようとしたが、男と戦闘行為をしている最中のことであり、新たなる脅威に対して、反応しようとはしたが、体が追いついてくれなかった。
 まずい――そう本能的に思ったその時、灰色の影が躍り出てきたかと思えば、その影は何をしたのか、右手を飛来する雨に向かって突き出しただけで、弾丸の勢いを持った雨は不可視の力によって吹き飛ばされ、霧散した。

「何のつもりだ、ガブリエル!!」

 怒気を微塵も隠さずに天上へと叫んだ男の声に、

「苦戦しているみたいだから力を貸しただけよ」

 ガブリエルと呼ばれた女声が悪びれた様子無く返って来る。
 夢乃は上空を仰ぎ、見て、そして知った。少年の言葉は事実だったことを。
 灰色の空には、少女がいた。
 数分ほど前、新羅家の敷地内の竹林で倒れていたあの天使少女が。

「……その右腕――やはりお前だったか。この少女に襲撃を仕掛けたのは」

 ガブリエルの右腕部分には、本来あるべき右腕が無く、空となっている袖が虚空で踊っていた。男はそこから夢乃に敵をけしかけたのが彼女であることを悟ったのだろう。

「分かっているのなら聞かないで」

 ガブリエルは忌々しげに呟いた後、嘆息して、

「塵芥だと思って油断したのよ」
「……慢心しておいてよく言うわ。今そこでそうして偉ぶっていられるのは、あたしが現場への到着を優先したからなのに」
「その一点においては感謝しているわ。おかげで彼の力を得て調子に乗っている貴女という塵芥を――」

 その先もガブリエルは何かを言ったようだが、それは突如巻き起こった風によって、視界ごと遮られた。
 風の牢獄――そんな形容が適当過ぎる確かな意志を持った風。それによって夢乃と少年改め青年は外界から遮断されてしまった。

「……今日は厄日ね」

 夢乃が捨て鉢気味にぼやけば、

「(向こうの都合だろうな)」
『回答不能だが、可能性としては向こうの都合だろう』
「分からないが、考えられるとすれば、向こうの都合だろう」

 夢刃、夢火、そして少年改め青年が各々の言葉で突っ込んでくる。

「何だろうね、この置いてきぼり感……」

 意味不明な状況に由愛は不満を漏らさずにはいられなかった。


「どういうつもり?」「どういうつもりだ?」
「言わなきゃ分からないほど低能では無いでしょう」

 片や怒気を押し隠し、片や胡乱げな質問に何の前触れも無く、何の前置きもなく、風と共に現れた緑髪碧眼の少年は飄々と告げた。

「あれを解除しなさい。さもないと溺死させるわよ?」
「怖いですね。ですが、思うだけにしてください。貴女と僕じゃ相性上、勝負にはなるでしょうが、決着はつきません。そんなの時間の無駄で徒労以外の何物でも無いでしょうし、それを良しとはしませんよね?」

 ガブリエルの怒気を少年はさながら柳のごとく、素知らぬ風情で受け流し、

「作戦会議だそうです。経緯はどうあれ、あのお嬢さんが目標の力を手に入れてしまったことは変わらない。変わらないが、だからといって対策できないとも、またしないわけにもいかない。だから――」

 少年がそう言った時だった。何かが切断されるような音が響き、それに伴い強風が周囲に吹き荒れた。見れば眼下、そこには刀を肩に担ぎ、こちらを不承不承の色を宿した瞳で見据えてくる少女の赤みを帯びた漆黒の双眸と視線が交わった。
 少年はその双眸を見据えつつ、

「――一旦帰って来いとのことです。そういうわけで、すみませんね、お嬢さん。僕達は戦略的撤退を図らせてもらうとします」

 二人に向かってそう告げ、

「いい風をお持ちです、お嬢さん」

 そう言い残し、少年を含めた三人はその場から風と共に姿を消した。


『主。状況終了だ。臨戦態勢を解除する』

 嵐の後の静けさを破ったのは、夢火の事務的な言葉だった。
 夢乃が頷くと、その言葉通りなのか、炎が突如として舞い上がり、そんなことが起きたかと思えば、炎は夢乃の目の前で集束し、圧縮し、やがて銀の鎖で繋がれた紅い十字架のネックレスの形を象り、虚空にふよふよと浮かぶ。

「次からはどうすればいいの?」

 ネックレス状となった夢火を取り、装飾しながら夢乃が訊ねれば、

『我に呼びかければ良い。それに呼びかけずとも主が窮地になった時、我は自動的に臨戦態勢へと以降する。――汝の刃と同じように』

 夢火はやはり事務的な口調で答えてくれた。夢刃のことも声量を絞って言ったので、本当に抜け目無い。色々融通が利き過ぎるような気がするものの、こういう方向性でならいいか、と夢乃は納得することにして、

「とりあえず、何とかなったわね」

 少年改め青年を起こすために手を差し伸べる。

「よく追わなかったな?」

 こちらの手を取りながら、青年が訊ねてくる。夢乃は彼を引き上げつつ、

「一対三で、相手は全員未知数。あの男にしても本気でやってくれていたかどうか……ま、これでも引き際と攻め時は弁えているつもりよ。それに――正直言うと、結構バテバテなのよ」

 夢火が臨戦態勢を解除した途端、夢乃の体には、長距離走をした後のような疲労感が押し寄せてきたのだ。歩けないこともなく、立っていられないこともないが、これ以上の戦闘行為は無理、というのが本音である。

「未調整のまま戦闘行為を行ったことによって、私の力――」
「夢火よ」

 語りだそうとした少年の言葉を由愛は止める。

「『夢』に『火』で『夢火』。名前を付けてくれと頼まれたからそう名付けさせてもらったの」
「夢火――火は分かるとして夢というのは何処から?」

 その指摘で夢乃は自己紹介がまだだったことを思い出す。

「あたしの名前からよ。あたしは夢乃。新羅夢乃よ。新聞の『新』に修羅の『羅』で『新羅』。夢乃は『夢』に『乃』よ。安直とは思ったけど、まあ本人が気に入ってくれているみたいだからいいかなって」
「なるほど。で、話を戻すが、まああれだ。頑張って慣れてくれ」
「急におざなりになったわね……まあ、別にいいけど。しかしまあ、天使――それもガブリエル。あたしもあたしだけど、貴方――」
「フォールだ」
「ホール? コンサートでも開くの?」
「……柔軟過ぎるのも問題だな。私の名だ。まだ名乗っていなかっただろう?」
「そうかもね。しかしまあ、あたしが言えた義理じゃないけど『落ちる』は幾らなんでも安直過ぎやしない?」
「他に思いつかなかったんだ。別にいいだろう」

 青年は視線を逸らしながら言った。そんな外見不相応な態度に可笑しくなって、夢乃の口が自然と綻んだ。

「笑ってくれるな。惨めな気分になる」
「ごめん、ごめん。で――ああ、そうそう。フォールもフォールでよくもまああんな面子相手に今まで無事だったわねってことが言いたかったわけよ。運が無くても運が良い方なのね、きっと」
「君と出会えたことは悪い気がするが」
「そこは言わないでくれると嬉しいわ」

 そう言って、夢乃は彼へと手を差し伸べ、
「じゃ、帰りましょうか。あたし達は一蓮托生になっちゃった身だからね」

 その手を少年はしばし凝視していたが、

「……君は本当に強引だな」

 何処か諦めた、しかし何処か楽しそうな風情で言い、その手を握り返した。


 その場所は――会議場、と形容するのが適当だろうか。
 背景は白。果てはあるのか否か。白一色に染まりきった背景は、一寸先だろうが、千里先だろうが、白という色の情報以外何も得られない。
 その中央には、星――五芒星を象った流麗な細工が施された淡い灰色の台座があり、五つある頂点には、椅子が頂点と同じ数だけ存在している。
 その内、四つは空席で、上空から見て最上の位置にある席だけが埋まっている。
 そこに座しているのは、白髪碧眼の男。
 齢は三十から四十くらいだろう。衰えるには若々しい体付きをしているから、短く整えられた髪の色は地毛なのだろう。或いは何らかの理由で脱色してしまったのかもしれない。引き締まった痩躯を包み隠すのは、純白で統一された外套。
 と、不意に、その場所に風と共に二人の男と一人の女が忽然と現れた。風と共に現れたというのに、三人の装いには一切の乱れが無い。
 現れた三人――ラファエル、ウリエル、ガブリエルは言葉を交わすこともなく、己に宛がわれた席へと向かっていく。ラファエルは上空から見て左下への座席へ、ウリエルは上空から見て右下の座席へ、ガブリエルは上空から見て左上の座席へ。

「三人ともご苦労だった」

 三人が座したことを確認してから、白髪碧眼の男が厳かに口を開いた。遠雷のように低く、威圧感のあるその声音は、大気全体を振わせるほど重く、深く、大きく、不気味に白の会議場に響き渡った。

「さて――ラファエルの予想通り、我らには悪い流れとなったわけだが、彼の者の力を授与された者はどうだ?」
「強い」

 白髪碧眼の男の問い掛けに、ウリエルは簡潔に告げた。

「塵芥の割にはね」

 ウリエルの回答にガブリエルが忌々しげに呟き、

「あれでも『塵芥』ですか。貴女の基準が僕にはさっぱりです」

 そんな彼女の呟きにラファエルは肩を竦めた。

「二代目はそれほどまでに強者か」

 白髪碧眼の男の感想に三者は一斉に頷き、

「ガブリエルの襲撃を回避し、俺と肉薄、極めつけはラファエルの結界を容易く破壊――いや、あれは『斬った』か――とにかく、そんなことを平然とやってのける者が二代目だ」

 ウリエルが敬意と理解の篭った風情で補足した。

「気になったのですが。ガブリエルはどうしてお嬢さんの後を追わなかったのです? まあ、何某かアクシデントがあったのは分かりますが」

 ラファエルはガブリエル――正確にはガブリエルの右手を見ながら言う。口調は変わらず軽いが、そこに茶化す様子はない。
 ガブリエルは無くなった右腕を一瞥して、

「何もかも斬られたわ。その反動でちょっと動けなかったの」
「そうでしたか。これでまた判断材料が増えたわけですが、これらのことを単独でやってのけるあのお嬢さん何者なんでしょうね?」
「分かることは、その者はまだ数年しか経っていないとはいえ、『天子』として覚醒した汝らが、思いはどうあれ、実力は認めざるを得ない、ということか」

 白髪碧眼の男は簡潔に告げると静かに立ち上がった。その突飛な行動に三人は三者三様の驚きを浮かべる。

「大将自ら行くのですか? 妙な風の吹き回しですね」
「少しばかり確かめたいことがあるのでな」
「そんなに私達が信用できませんか?」

 ガブリエルの異論めいた質問に男を横に振り、

「そうではない。単に興味が湧き、直に見てみたいと思ったからだ」

 簡潔に答えると、ガブリエルを見た後、ウリエルを見て、

「お前達は我がいつもやっていることを頼む。二人いれば我と彼の者が戦闘行為になったとしても問題はないだろう?」
「了承した」

 それにウリエルは首肯し、

「それは罰ですか?」

 ガブリエルは質問を投じた。男は変わらぬ口調で、

「そう受け取るなら、それがお前にとっての解なのだろう」
「僕は?」

 ラファエルの気だるそうな確認に白髪碧眼の男は即答する。

「彼の者のことを調べてくれ。どんな仔細なことでもいい。方法は任せる」
「了解しました」

 答えるや否や、ラファエルはやはり風を撒き散らしながら姿を消した。

「では、留守を頼む」

 ラファエルに遅れること数秒、白髪碧眼の男は、ラファエルとは対照的にまるで初めからそこにいなかったように忽然と姿を消した。


 同時刻。新羅家敷地内。
 そこで黒のジャージに身を包んだ少年にも少女にも見える人物は一人佇み、携帯電話に耳を当てていた。

「電話をした理由? 目算通り、事は皆々上手く進んだことを報告しておこうと思った次第だ。補足としては『彼女』の家がちょっとばかり大変なことになってしまっているが、その辺は安心してくれ。怪しまれずかつバレないように修繕を施しておいたから。と言う具合で報告は以上だが、伝えておくことはあるか? あるのであれば適当にでっち上げてそれとなく伝えるが? ――ふむ。はは、了解した。誓ってちゃんと伝えておく。ではな」

 通話を終了させると少年にも少女にも見えるその者は天を仰ぎ、

「少々上出来過ぎるのが問題ではあるが、いずれにせよ始まった以上、後は『彼女』に全てを委ねるとして、彼の者達の言葉をどう伝えたものか……」

 誰かに聞かせるような風情で独りごちた。

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

自作小説お披露目会場 更新情報

自作小説お披露目会場のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング