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自作小説お披露目会場コミュの無題SS〜好奇心は面倒を招く〜

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 人間は生まれながらに物事を知ること――即ち、好奇心を有している。
 それは決して悪いことではない。何事においても、学ばなければ成長は、進歩は、進化は訪れない。
 ただ、往々にしてやり過ぎが面倒の起因にしかならないように、こと好奇心においてもそれは同じことが言え、良し悪しに関わらず純粋であるが故に性質が極めて悪い。
 ――例えばそう。
 最強は誰なのか――そんな些細な疑問であったとしても。

 某月某日。食堂にて。

「イリスとソルナってどっちが強いんだろうな」

 先輩戦士・藤間大護の適当な問い掛けに、後輩に当たる少女・カルミア=アルヴァレスはミートソースパスタを食べる手を止めず、

「私はソルナさんに一票投じます」

 似たような調子で即答した。

「そっちの方向で聞いたわけじゃねぇんし、素っ気無い即答でお前はどんだけあいつのことが嫌いなんだよ、とか突っ込みたくなるが、それは皆々置いておいて、その理由は?」
「別に嫌っているからってソルナさんに投じているわけじゃありません。私は冷静、かつ論理的に客観視した結果を言っているだけです」
「……そういう別に聞いてもいない言い訳をすることを世間一般じゃ『嫌っている』って言うんだよ」

 カルミアと話題に上がっている一人――イリス=ジャッジメントなる少女は、何と言うか致命的なまでに馬が合わない――というのは、団の中では周知の事情となっている。性格正反対なのに馬が合っている大護ともう一人の人物――ソルナ=デイヴィスという例があり、団の中ではつくづく人というのは複雑な生き物だな、と双方の関係を見た者は日に日に、常々思っている。

「今はあいつとソルナさんのどちらかが強いか、という話では?」

 実際問題、当人であるカルミアは不機嫌さを微塵も隠そうとしていない。
 大護は、やれやれ、と思いつつも話題を戻す。

「だな。で、冷静、かつ論理的に、客観視したその理由ってのは?」
「やけに突っかかりますね。というか、不謹慎ですよ、大護さん。私達は戦争をしているというのに身内同士でどっちが強いだの弱いだの。不毛過ぎます」

 カルミアの言い分は正しい。休息時間であるとはいえ、こうしている間にも世界の何処かでは魔物による様々な被害が拡大していることは、今の世の中では『当たり前』となってしまった事実となってしまっている。

「こういう時勢だからだよ」

 大護は、ばつの悪そうな顔をしながら、それでもはっきりとした口調で言った。

「確かに不謹慎だし、不毛だな。だがな、カルミア。俺は潰れるわけにはいかねぇんだ。そういう立場に俺達はいる。それなのにいっつも緊張していたら、いざって時に疲れちまうし、何より民間に不安を誘うだけだからな」
「…………」

 呆然と見つめ返してくるカルミアの視線に気付き、大護は微苦笑を作り、頭を掻きながら話題を戻す。

「で――お前の理由ってのは?」
「…………」

 すると、今度は打って変わり、カルミアは渋そうな、非常に言い難そうな顔をした。
 それでピンと来た大護は、昼食を食べ進める手を止め、恐る恐る訊ねた。

「……まさかお前、あいつが序列第一位だから――とか言うつもりか?」
「そ、そんなわけないじゃないですか!」
「なら聞かせてくれよ。お前の理由を」

 大護の言及に、カルミアは折れた。

「……すみません」

 その暴露に大護は破顔して、続けようとした。が、

「面白そうな話をしているな」

 そこで二人の会話に割って入る声が上がった。必然的に二人は振り向く。そこには、話題に上がっていた当人――灰色の髪の下にこれでもかと言うほど自信たっぷりな表情を浮かべている青年――ソルナ=デイヴィスがトレイを抱えて立っていた。
 ソルナは断りもせずに、大護の隣に座り、そして何事も無かったように会話を続けた。

「実のところ、俺も気になってはいる」
「いつも思っていますけど、ソルナさんって意外とノリがいいですよね」
「戦士を志した以上、最強を追求したくなるのは当然だと思うが?」
「理解不能です」
「それはカルミア女史が恋する乙女だからだな」

 さり気無い発言にカルミアの顔が一気に茹で上がった甲殻類生物のように赤く染まった。

「そ、ソルナさん!」
「それはそれとして、俺とイリス女史の優劣の違いだが――」
「華麗に無視しないでください!」
「自分の不利な話を自分で蒸し返すなよ……」

 突っ込んだのは大護だった。そして、それは至極事実である。
 必然、三人の間には沈黙が訪れる。もっとも、会話の停止というだけで、大護もソルナも自分の昼食を食べ進めてカルミアの回復を待っている。この場で本当の意味で沈黙しているのは、カルミアただ一人だった。

「平然と昼食を再開しないでください!」

 程なくして、復活したカルミアが机を叩きながら叫んだ。

「お、戻った」
「中々の回復速度だ」
「お・ふ・た・か・たっ!?」

 洒落にならないくらい殺気が篭った声での進言に、大護とソルナは閉口した。

「――個人的には一度手合わせを願いたいと思っている」

 一拍置いて、ソルナが会話を続けた。

「となると、後はイリスが了承すればいいわけか」
「ですね。でも、あいつが乗るとは到底思えません」
「だよなー。イリスのノリの悪さは筋金入りだからなー」

 と、その時だった。

「陰口は当人の聞こえないところで言うことをオススメするわ」

 そんな、昼時の温和な雰囲気を一瞬にして凍て付かせる絶対零度の声が三人の耳をついた。反射的に三人は振り向く。そこには、近づき難い冷たい雰囲気を放つ、腰ほどまである長髪を一つに結わえ、やはり冷たい色を宿している朱の双眸を湛えた少女――イリス=ジャッジメントが立っていた。

「――相変わらず地獄耳ね」
「おかげで聞きたくも無い話を聞いたわ」
「何しに来たのよ」
「食事を取りに来た以外でここに来る理由があるのならば是非とも拝聴願いたいわ」
「……喧嘩売ってるでしょ?」
「これは心外ね。あたしは事実を口にしているだけなのに」
「あ、貴女――」

 カルミアが腰を上げ、イリスに食ってかかろうとした時、ソルナが自身の得物である大剣を音も立てずに抜き放ち、対立する二人の間に滑り込ませた。

「そこまでだ、二人とも」
「――だそうよ、カルミア=アルヴァレス」
「……アンタに言われなくても分かっているわよ」
「それは重畳。で、話は変わるけど、さっきの言葉は本当なの?」
「さっきの言葉――というのは?」
「手合わせを願いたい、とか何とかってやつよ、ソルナ=デイヴィス。実を言えば、貴方とは本気で手合わせしてみたかったのよ。でも、貴方って規則とかに存外煩いでしょう? だからまあ、言い出さなかったわけだけど……って、何よ?」

 紡がれた言葉に三人は目を見開いていた。カルミアに至っては、口を開閉して驚いている。

「――イリス。確認だが、今の言葉、嘘じゃねぇな?」

 問うたのは大護だった。イリスは首肯する。
 イリスが首肯するや否や、大護は携帯電話を取り出し、ある番号へと電話をかけた。

 社会的、実力的立場にいる者でも昼時になれば昼食を取る。どれだけ仕事に追い込まれていようとも。そして、追い込まれているが故に、時には娯楽に触れたいと思う時がある。
 守護団団長・ミカミ=セラフィートの現在の心境が、まさにそれだった。
 場所は執務室。その中央奥に鎮座している机には、天上を目指さんとしたバベルの如く、積み上げられた書類の山が机を占領している。傍目、かつ事情の分からない者が見ても多忙であることが一目で分かる光景である。
 そんな彼の元へ、今一通の着信が入った。

「……もしもし?」
『団長。単刀直入に聞くぜ。イリスとソルナ、どっちが強いか気にならないか?」
「……何の話だ」
『どっちが強いかって話だ」
「だから、それがどう――」

 言いかけて、彼の聡明なる脳が――多忙を極めすぎていて、娯楽を求めていた脳が高速に会話の流れと得た情報から過程を想定し始めた。
 守護団の団長にして頭脳――その思考回路は、働かせようと思えばあらゆる分野でもそれ相応の結果を導き出す。例え、それが戦時中の今では如何に不謹慎で、不毛と呼べる方向だったとしても。
 事実、彼がその想定を終えるのにさして時間は必要なく、

「許可する」
『はっ?』
「イリスとソルナの模擬戦闘を許可すると言っている。イリスとソルナは無論のこと、生で見物したい者は生で、事情があって見物できない者には通信班に通達し、全面的補助を要請しろ。何か文句が出たならば『私が許可した』と言って構わん。まあ、文句を上げる者はいないと思うがな。それとものの次いでだ。その試合を博打にする。ちなみにその資金は団の運営に回すものとする。以上だ」

 矢継ぎ早に言って、ミカミは席を立ち、扉へと向かった。
 即断即決即実行をモットーとする彼にとっては、それが当たり前の行動だった。付け加えて、今は願っても無い娯楽の機会。千載一遇の好機を逃すほど、守護団団長は愚者ではなかった。

 どのような時勢であれ、人間という種は祭りが娯楽であるということを忘れない。
 そして、このような時勢だからこそ、騒げる時に騒いでおくものだということも心得ている。
 ――従って。

「レディイイイイイス、アーンド、ジェントルメェエエエエエエエンっ!!」

 急遽開かれることになったイベントにも関わらず、その盛り上がりは今では余裕が無くなって開かれることが無くなったサッカーないし野球の世界大会か五輪の開催を想起させるレベルであった。
 場所は訓練室。そこには現在、いつもならば満席になることなど絶対に無い客席が満席になり、そこに座す者は司会進行を買って出た大護の一言を聞くや否や、日々の鬱憤を晴らすかの如く、声を張り上げ、大いに場を盛り上げる。

「親愛なる同志諸君、突発的極まりないイベントだってのによく集まってくれたな! だがまあ、気持ちは分かる! 何せ、期待の新星イリス=ジャッジメントと我等が序列第一位ソルナ=デイヴィスが雌雄を分けるってんだから、一戦士として勝負の行方が気にならなきゃ嘘だよなぁ、おい! というわけで、御託はこの辺にしてまずは選手紹介だ! 必要ないと思うが一応するぜ! まずはクールを気取ってはいるが、内心は不死鳥の炎を想起させる意外と熱い我等が第一位……」

 言葉を止めるや否や、鳴り響くドラムロール。そして、

「ソルナァアアアアア、デイヴィイイイイイイイス!」

 大護が示した東側にスポットライトが当たり、そこにいたソルナの姿が明るみとなった。と同時に、会場が一際――特に女性陣の黄色い声援がより声量を増した。

「そして、振るう刀はあらゆる邪を切り伏せ、罪を刈り取る。期待の新星……」

 再びドラムロール。後はソルナの時と全く同じ流れで、イリスの姿が明るみとなり、

「イリスゥウウウウウウ、ジャッジメントォオオオオオオ!!」

 そうなるや否や男性陣と一部特殊な性癖を持った女性陣の声援が間欠泉の如く噴出した。
 そんな沸き立つ会場に対して、

「人のことは言えんが、誰も彼も物好きだな」
「……馬鹿ばっかり」

 当事者たるソルナとイリスは、各々感想を吐露してから予め指示された定位置まで歩み寄った。
 それを確認するが早く、審判も買って出ている大護がルール説明を始めた。

「ルールは簡単。どちらかが降参を認めるまでだ。それ以外は何でも有り。ただし、これはあくまでも『模擬戦闘』だ。そこんとこ、ちゃんと頭に置いておいてくれよな?」

 大護の確認に双方同時に頷く。
 それを確認して、大護は軽く跳躍して二人から距離を取った。着地した瞬間に始めるためか、大護が後退するや否や、ソルナは得物である大剣と大型自動拳銃を、イリスは日本刀をそれぞれ抜き放つ。
 やがて、大護が小さく音を立てて着地。
 それが、合図となった。
 咆哮を上げるが如く、拳銃が弾丸を吐き出す。それは、音は一つなれど、弾は全段である七つ。
 刹那で向かってきたそれを進軍しつつ、鋼色の弧が一度の閃きで、全てを切り伏せる。
 ついで大剣が猛威を振るう。大気を裂帛の如く切り裂いたそれは、衝撃波となって地を疾駆する。
 迫る衝撃波を、短い息遣いと共に放たれた鋼の一線が切り伏せる。

「――分けか」
「そのようね」

 息を呑む攻防の終わりは、始まりと同じく不意に訪れた。
 イリスが握る刀はソルナの首――頚動脈寸前で止められていた。
 一見すれば、イリスの勝利だろう。
 だがしかし、イリスの腹部にはピタリとソルナが握る自動拳銃が突きつけられていた。
 いずれも必殺の一撃の停止。
 それ故に引き分け。
 得物を退くのは同時。それに伴い、会場が終了の余韻に包まれた。

「――では諸君、後片付けの方、尽力するように」

 ――かに見えたが、戦時中である現状では、娯楽に走らなければならない時はあっても、いつまでも余韻に浸っていられる余裕はない。
 訓練室は僅かな時間の戦闘行為であっても、散々たる光景となっていた。ソルナとイリスの攻撃の余波が、訓練室の床や壁、天井に痛々しく爪痕を残している。その余波は、二人の優劣を決するには至らなかったが、双方が強者であることを再認識させるには十分過ぎるものであった。
 団長ミカミの一声で、会場に足を運んだ者はいそいそと片付けを始めた。

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