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Summer Dayz 〜拓真と陸王〜コミュのA parallel story 前編

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たまには野球部以外のキャラを、ということで。
なお、本編の今後の展開と必ずしも一致したお話ではありません。

パラレルストーリーとしてお楽しみいただければ。

では、どうぞ。




-----------------------------

the others story

「クニと大谷」




イルミネーションの点滅と、自分の鼓動が同じリズムを刻んでいた。
少し息苦しい気がして、マフラーを外した。
冷たい空気が心地好くて、歩くのをやめてあたりを見渡す。

(なんでこう、クリスマスってやつは、あったかくて切ないんだろう)

別に彼氏とかがいなくても、少し優しい気持ちになったりする。
みんなが幸せだといいなぁとか、普段思いもしないことを考えたりする。
そしてその先には、大切な思い出とか、大好きだった人の記憶が待ってたりするんだ。



BGM[タイムマシーンについて] by メレンゲ



(高3のクリスマスだったよな)

告白しようかどうしようかなんてことを、拓真に相談していたっけ。

「告ってみりゃいいじゃん。イエスかノーかは別にして、伝えればわかることたくさんあると思うし」
「でもさ、相手が相手じゃん」
「男同士ってこと?」
「うん。まぁ」
「そりゃ女に告るより、100倍勇気いるよな」

もう何年も前のクリスマスになるのに、その時の鮮やかな拓真の笑顔が今でもくっきりと浮かぶ。
それから俺は、大好きだったあいつのことを思い出した。



そいつの名前は大谷といった。
本当は下の名前で呼びたかったんだけど、出会った最初の頃に照れくさいなんて思っちゃったもんだから、完全にタイミングを失ってしまった。
だから、俺はそいつのことを大谷と呼び、大谷は俺のことをクニと呼ぶ。
俺の名前が邦洋だからだ。

「すげー名前だな」
「なんで?」
「だって邦楽の邦に、洋楽の洋だろ」
「あぁ。なんか日本と世界との架け橋になるようなって意味らしいよ。なんつー勝手な名前を付けてくれたもんだ」

大谷との最初の会話は忘れてしまった。
これが記憶にある一番古い会話だから、これを最初の会話にしておこうと思っている。
でも、大谷を初めて見た日のことはよく覚えている。
っていうか、入学式の日だから間違えようがない。


桜はもう散ってしまっていた入学式。
道路の片隅で茶色い塊になっていた、桜の花びら。
アスファルトに溜まっているけれど、あれもいつか次の花を咲かせる養分になれるんだろうか。
そんなことを考えながら、駅から学校への道を歩いた。

「掲示板で自分のクラスを確認して教室に入ってください」

生徒会か何かであろう在校生が、メガホンで叫んでいた。
人だかりのできている掲示板の前。
背は人よりも高かったから、すぐに自分の名前を見つけることができた。
D組だった。
名簿の横にある校舎の見取り図で教室の場所を確認して、昇降口に向かった。
真新しい上履きを鞄から出して、今度は下駄箱に付けられた自分の名前を探した。

(えーっと、五十音順か)

自分の名前を最後の方に探そうとしたその時、最初の方の下駄箱に手を伸ばしている奴と目が合った。
それが大谷だった。

(あ、)

あ、の続きは何もない。
本当に「あ」と思った。
めちゃくちゃイケメンてわけじゃないんだけど、なんだか心にとまるオーラをまとっていた。

それから3年。
あ、から始まった3年。
最初は「なんとなく気になる奴」くらいのポジションだった。
俺は中学から続けているバレー部に、大谷はテニス部に入った。

どうして仲良くなったのかは覚えてない。
でも俺の名前を「すげー名前」と言えるくらいの仲になるのに、大した時間はかからなかった気がする。

そして、俺が大谷のことを本気で好きになるのにも、あまり時間はかからなかった。
気がついたら目で追っていた。
席替えで近くになれば嬉しかったし、柔らかな笑顔を見る度に幸せな気持ちになった。

「クニ」
「ん?」
「一緒かえろーぜー」
「へ?」

夏の気配を感じ始めた、中間テストの時期。
部活もなくて、そろそろ帰ろうかと思ったところで、大谷にそう言われた。
へ?と言ったのには訳がある。
俺と大谷の家は正反対の場所にあって、校門を出た瞬間から別々の方向に歩きはじめるんだ。

「校門までしか一緒じゃないじゃん」

俺がそう笑うと「だから校門まで一緒に帰ろうぜ」と、ものすごく自然に言いやがった。

俺が大谷を好きになったのは、多分その時だ。

それからの3年は、ほとんど毎日一緒に帰った。
部活は別々だったけど、部活の後にトレーニングルームで待ち合わせ。

いや、待ち合わせなんて思ってたのは俺だけで、大谷にしてみたら、深い意味はないけどなんとなく、ってだけのことかもしれない。

「スタミナいるんだから、そんなにデカイ筋肉いらないって」
「俺はジャンプから膝を守る筋肉いるからさ」
「テニス、そんなジャンプしないし」

毎日がそんなような会話。
大谷のしなやかなニ頭筋肉の動きとかを見ては、ドキドキしたりときめいたりしてた。
でも一番は、やっぱり大谷の笑顔とかオーラが好きだった。

(好き…なのか?これって)

最初はそんな感じだった。
なんとなく流行りに乗るように、どの女子が好きだとか、バレンタインをきっかけに付き合いってもんを経験したことがある中学時代。
でもいつも「好き」がなんなのかわかんなくて、別れたり振られたりしていた。

「なぁクニって童貞?」
「は?なんだよいきなり」
「こんなんに前置きある方が変だろ」

大谷は笑って、Tシャツを脱いだ。
童貞ってキーワードと大谷の上半身を見て、俺の心が一気に跳ね上がった。

「なに?意外に経験済み?」
「い、意外にってなんだよ」
「だってクニってそういうのに真面目そうだもん」
「失礼だなぁ」
「え?あんの!?」
「…ないよ」
「なぁんだ」

大谷はあんのか?と聞こうと思ったら、大谷がヤッてる映像が浮かんできた。
それはなんていうか、いろんな意味で俺にとって特別なものだと気がついたのはもう少し後の話しだ。
大谷は、内心であたふたする俺には全く気づかないで話しを続けた。

「ま、俺もないけどね」
「んだよ、偉そうに言うからあるのかと思った」

大谷は、睨み顔の俺に笑って答えた。

「だって大事なバージンじゃん。捨てるなんて、もったいなーい。俺は童貞を捧げるの」
「誰に?」
「さぁ?」

大谷は外人みたいなゼスチャーで、そう答えた。
二人してしばらく笑った。
笑い終わって、カバンを持ち上げて、体育館を出た。

「本当は早くやりたいけどな」

校門へ向かう道の途中で、大谷がニヤッと笑って言った。
その時には余裕を取り戻していて、俺も「だな」と笑った。
その頃から生まれた、小さな切なさには気づかない振りをして笑った。

それからは自問自答の毎日だった。

(俺って…ゲイなんかな…)

できれば否定したい気持ちだった。

(別に他の奴は気にならないし。気になるのは大谷だけだし)

だけど、大谷の裸とかそういうのにドキドキする自分がなんなのか、説明ができなかった。

(誰にも説明する必要ないじゃん。大谷のことが好き。そんだけの話しじゃん)

思考はいつもそこで行き止まりになって、最初に戻る。
もう大谷が好きなことは間違いのない事実になっていて、自分が男が好きなのかどうかが問題になっていた。
それじゃ、なにもどうにも進まないのはわかっていたのに…。

誰と誰が付き合い出したらしいみたいな話題には、事欠かない高校時代。
そんな話しになる度に、胸が苦しかった。
みんなと違うことが苦しいんじゃない。
大谷にその思いを伝えられないことが辛かった。


夏も終わり、秋の季節は短く、気がつけば頭上にはオリオン座。
いつの間にか俺達は、黙々とトレーニングをして、それから誰も通らなくなった校門で話し込むのが習慣になっていた。

「クニは好きな子とかいないの?」

いつか聞かれるんじゃないかと思ってたこと。
もう意識するのを忘れた頃に、突然聞かれてしまった。

「へ?」
「いやいや、へ?って変だろ」

大谷は笑って、突っ込んできた。

(その笑顔が好きなのに…)

苦しい胸の内を、一番仲良くて、一番大切な親友に伝えられない。
それが悲しかった。

「大谷こそ好きな奴いないの?」

聞きたくないのに聞いてしまった。

「いるよ」
「誰?」
「クニが先に言えよ」

好きな人がいるとも言ってないのに、大谷は俺に答えを求めた。
大谷に好きな子がいることも、俺が大谷を好きなことも、どっちも苦し過ぎて、逃げ出したかった。
不意にこぼれそうな涙を、寒さで鼻水が出たようにごまかした。
バカみたいに上を向いて鼻をすする俺に「寒ぃけどさ、鼻出すぎだろ」と笑って、大谷は俺にティッシュを差し出した。

「ありがと」

胸のつかえを追い出すように鼻をかんだら、ツンと鈍い痛みが広がった。



月日は百代の過客にして。




二年のクラスは大谷と別になった。
でも俺の毎日は変わらなかった。

眠い目を擦って起き上がり、ぼんやりと授業をして、夢中でバレーをして。
ネットを片付けるころには、向こうも部活終わったかなとテニスコートにいる大谷を思い浮かべる。
トレーニングルームで顔を合わせる俺と大谷は、特に挨拶なんかしないで、それぞれのメニューをこなした。
それから、もう誰もいなくなった学校を最後に出て、暗くなった校舎を背中にした校門の前。
何をそんなに話していたんだろうってくらい、いつまでも俺と大谷は話し続けた。
そして「帰るか」のタイミングはいつも二人同時で、そんなことがまた嬉しくて。
「まったなー」と手を振って校門の右と左に歩き出す。
家に帰るともうクタクタで、味も何もわからないような状態で飯をかきこんで、風呂に入って、ベットに倒れ込んで。
そして大谷のことを思い浮かべてちょっと嬉しくなって、すごく切なくて涙が滲んで。

春の大会が過ぎても、蒸し風呂のような夏の体育館での練習が続いても、その毎日は変わらなかった。
いつか、いやそう遠くない未来にその日々が終わるのはわかっていたのに、永遠に続くような気持ちでいた。


「今度試合いつ?」
「ん?」
「来週かな」
「今週は?」
「ないよ」

地方大会も終わって秋の終わり。
その週末は珍しくオフだったから、ずっと前に「一回くらいは大谷の試合見に行くよ」と言った約束を果たそうかと思って聞いた。

(なんだ、試合ないのか。…さすがに練習見に行くのはおかし過ぎるもんな)

「なんで?」
「いや」
「クニは?」
「ん?」
「週末は?」
「休みだよ」
「マジで?俺も休み」

どっちもたまにしかない休みだから、休みが重なることなんか滅多になかった。

(ちょっとどっか行ったりしちゃう?)

瞬間的に、なんだかデートの約束を取り付けたような気持ちになっていた。

「あのさ、野球見に行かない?」
「どこに?」
「うちの野球部の試合。勝ち残っててさ、今度決勝なんだよ」
「あー聞いた聞いた。勝てば甲子園確実なんしょ?」
「そうそう。俺さ榎本と幼なじみなんだ」
「へー」

校門の前でとりとめもなく続けた話しの中には、大谷の小さな頃のことなんかもあった。
その話しを聴いた時は、可愛かったんだろうななんて、見たこともあるはずのない、子どもの大谷を頭に描いて愛おしい気持ちになったりしていた。
榎本はクラスが一緒になったこともなくて、しゃべったことはないけど、いつもニコニコして、よさそうな奴だった。
その榎本が、俺が知らない大谷を知ってることを羨ましく思った。
そんな自分に苦笑い。

「別に約束したわけじゃないんだけど、応援行きたくてさ」

忙しく動く俺の頭の中には全く気づかない様子で、大谷は言葉を続けた。

「うん。いいよ。俺も野球好きだし、義人とか割と仲いいし」
「安西?」
「そう」
「クラス同じだっけ?」
「うん」
「なんかちょっととぼけた奴だろ?」
「あ、でもいい奴だよ。なんか実は良く見てて、気ぃ使いでさ」
「へー」

そんな会話があって、大谷と電車に揺られて出掛けた。

一塁側のスタンドに入って、その広さに胸がすく気がした。

「野球場ってこんなに広かったっけ?」
「だな、俺も思った」
「うちら、小さいコートやなぁ」
「ボール追ってる時は『もっと狭くならんかいっ』って思ってるけどな」

どうせなら、しっかり応援しようと、父母会やらの陣取るエリアに紛れた。
パラパラと知ってる顔も見えた。

相手校は県商。
俺でも知ってる、甲子園常連校だ。

「どうなん?勝てるん?」

周りの応援団に聞こえないように、大谷に聞いた。

「俺もよくわかんないけど、実は有名選手がそろってるらしいよ。うちの高校」
「誰?」
「ピッチャーの佐山とか、四番の水島とかは、県外の私立からスカウトきてたくらいなんだって」
「へぇ」
「あとキャッチャーの桜木と、ショートの島崎も有名なバッターらしいよ」

どの名前も知ってるし、顔もわかる。
でも話したことがある奴はいなかった。

「あとさ『なんといってもチームワーク』だって」
「ん?」
「榎本が言ってた。ホントに仲いいって」
「へー」

そんな会話をしているうちに試合は始まった。
正直な話し、俺は野球部がどうとかよりも、俺のすぐ隣にいる大谷の声とか私服とかの方が大切だった。
試合はこちらの先攻。
ピッチャーは佐山ではなくて、一年生ピッチャーだった。
初回は抑えたものの、2回と3回に2点ずつ取られた。
4回の表で3点返して、その裏。
また突き放されそうな、ピンチを迎えていた。

そのころには、俺もすっかり試合に夢中になっていた。
確かに大谷の言うとおり、キラキラとした雰囲気の声が飛び回っていた。

「ピッチャー交代かな」
「なんでわかるん?」
「意外と野球好きなんだぜ」
「そうなん?」

初めて聞く話し。
大谷の好きなものを一緒に見られるのが、なんだか嬉しかった。
そして大谷の言葉どおり、陸が出てきた。
この時はまだ、この後あんな場面に立ち会うなんて思ってもなかったし、拓真や陸と仲良くなるとも思ってなかった。
陸は豪快で伸びやかなフォームをしていた。
次々に三振を奪っていく。

「雨、降り出しそうだな」

大谷がそう言って間もなく、細かい雨が舞い出した。
雨と共に苦しい展開になってきた。
さすが甲子園常連校。
陸の球を、徐々に捕まえ始めた。
陸を励まし続ける拓真の声に、祈りがこもるように聞こえた。
二人の強い強い絆に、心が震えて仕方なかった。
いくつもの展開を越えて、ついに最終回。
守り切れば勝利。

ふと大谷を見ると、真剣な横顔。
キュウっと音を立てて、胸が締め付けられた。

「頑張れ頑張れ」

一打逆転のピンチが続く。
大谷が祈るように、頑張れと繰り返した。
大谷のそういう姿は初めて見た。
いつも柔らかな笑顔だったり、とぼけた表情だったり。
テニスをしてる時は、こういう顔をしてるのかもしれない。
俺もなんだか泣きそうな気持ちで、グラウンドを見つめた。

「こーいっ!!」

球場全体が鳴るような声援の中なのに、拓真が陸を呼ぶ声が聞こえる。
苦しそうな陸が振り絞るように、投げた一球。
相手のバットがガキンと音を立てた。
マスクをかなぐり捨てて、ボールを探す拓真。

「こっち!」

真下にあるベンチに向かっているファールボールを教える叫び声が飛びかった。
飛び込んで来た拓真は、ボールを捕まえられなかった。
だけど、強い光の目をしているように見えた。

「タイム!」

審判がコールして、拓真がマウンドへ歩いた。
そして拓真が何かを言って、陸が目を閉じた。

「え?」

自分の見たものを疑った。
拓真は陸の腰に手を回して、陸の頬にキスをしたんだ。
キスと気づいたみんなが、目を見開く。
それと同じように、目を見開いていた陸。
そして拓真が笑い出し、やがて陸も晴れやかに笑い出した。

「なんか、すげー」

大谷が笑った。
それはなんだか、奇跡の風景だった。
俺も笑ったけれど、それは感動し過ぎて泣けた続きのような笑いだった。
毎日、大谷のことを考えては切なくなる自分にとっては、本当に奇跡の風景だった。
自分が心から望んでいて、でも誰より自分自身がありえないと否定していた風景。
それがこんな大観衆の目の前にあることが、信じ難く、そして嬉しかった。
話したこともないけれど、自分と同じ空間にそんな二人がいることが嬉しかった。

それからのスリーアウトの、なんて爽快だったこと。
野球に詳しくない俺でも、すごい球を投げているのがわかった。
いつの間にか立ち上がり、いつの間にか空は晴れていた。
雲間から差し込む陽に照らされる野球部員達。

気がついたら、涙が溢れていた。
涙を拭うこともせずに、真剣に拍手をしていた。

「泣いてんの?」

いきなり大谷にのぞきこまれて焦ったけど、もう隠しようもなくて、開き直って「だって超よかったじゃん」と表情を変えずに言った。
大谷は少しの間、俺を見つめて、そして「そうだな」とゆっくり笑った。
少し恥ずかしくなった。

その日の帰り道は、なんだかいつもと少し違って、大谷が近くなった気がした。






後編へ
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=49164872&comm_id=4571111



コメント(2)

読んでいて涙が出てきた。(←きっと酒のせい。)
続きが楽しみわーい(嬉しい顔)
まゆちゃん>

お酒のお供になったようで、光栄ですぅ。
俺も書きながら泣いた作品w

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Summer Dayz 〜拓真と陸王〜 更新情報

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