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iM@S サイドストーリーコミュの蒼い鳥 その3 2/2

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 美希もいよいよデビューだな。おーおー、偉いさん相手にタメ口かよ。挨拶くらいちゃんとしてくれよ、まったく。律子が居たらきっと、頭を押さえつけて強引にお辞儀させたりするんだろうなあ。あ〜あ、社長も慌てちゃって。
「ふふ」
「なんです?」
「プロデューサーの顔になってますよ?」
「と言うよりも、保護者の気分ですよ」
「気になりますか?」
「そりゃあ、少しは」
「━━━━━あの……」
「はい?」
「少し、良いですか? お話」
「ええ、構いません、けど?」
「それでは。……その、律子さんのことなんですけど。本当に良かったんですか?」
「なにがです?」
「アイドルとして頂点に立ってすぐに引退。業界内外を問わず、社会現象にまでなって、誰もが律子さんの引退を惜しみました。10年に一人の逸材と言われ、この先」
「あと10年は続けていられるのに、と」
「ええ」
「確かに、会社的にも、そして多くのファンの方にとっても、大きな損失だったと思います。でもそれは、最初から決まっていたことなんです」
「『アイドルは通過点。あたしの目標は、もっと先にあるの』 律子さんの口癖ですね」
「ええ」
「でも……」
「まあ、本人が決めたことです。僕たちはそれを陰で支えるだけですよ。━━━━━ところで小鳥さん。小鳥さんは、なぜ引退されたんですか?」
「わ、わたしですか?」
「ええ。小鳥さんのことこそ業界では語りぐさですよ。『陸に上がったセイレーン』とか『生まれた時はコマドリだったけど、羽ばたく様はさながら鳳凰だった』とか言われてますよ?」
「そ、そんなこと言われているんですか?」
「ええ、僕が765プロに入る前のことだから、色々と付いた尾ひれがどのくらいなのかは分かりませんけど」
 思えば、小鳥さんの引退も衝撃的だった。アイドルから一転してマルチタレントとしての才能を一気に開花させ、液晶画面の向こうに小鳥さんの姿を見ない日が無いくらいだった。
 それがある日、生放送中に突然の引退表明。翌日にはスポーツ紙の一面が全てその話題を扱い、一般紙でさえも三面記事として掲載されるほどだった。
 その時出された公式表明は「普通の女の子に戻ります」だった。
「あれは、本当なんですよ?」
 小鳥さんの座るワークチェアーが、床を軽やかに転がる音がした。
「芸能界にいると、時々、分からなくなることがあるんです。自分の居場所、って言うのかな。居心地は良いのですけど、そこは用意された居場所で……。そこから後ろを振り返ると、沢山の人が順番待ちをしている様な、凄く、追い立てられている様で」
「分かります」
「そう考えたら、そこにわたしが居座り続けていちゃいけない、って思っちゃって。それで、一時は事務所も辞めて、本当に芸能界とは全ての縁を切ったのですけど、気が付いちゃったんですよね。わたしだけの居場所もあったんだって。それで、社長に無理言って、今に至るってわけです」
「765の娘らは、何故かみんなそうなりますね」
「社長さんのせいですよ、きっと。会社のことより、女の子達のことを第一に考えて下さいますから」
「ええ、そうだと思います」
「それから、プロデューサーさんも、ですよ?」
「えええ? 僕もですか?」
「担当した女の子、みんなトップアイドルになったと思ったら、アッサリ引退させちゃったじゃないですか」
「たはは……。おかげで業界では、余りいい顔されません」
「ふふふ」
「そう思うと、ダメな事務所なのかも知れませんね、芸能界では」
「でも良いじゃないですか。そんな事務所が一つくらいあったって」
「そうですね」
 そう言うと小鳥さんは、席を離れて給湯室の方へ向かった。
 ━━━━━そうだな。ユニット解散はそのまま引退ということにもなり得る。千早は再デビューという形になるけど、春香のことは、まだなにも決まっていないんだ。
 引退━━━━。
 それを春香が望むだろうか。
 企画として春香のピンも悪くはない。ユニットで地力を付けた春香なら、様々な展開が可能だろう。しかし、人気商売はシビアだ。一度付いたレッテルを貼り替えるのは容易くない。他の誰かとユニットを組み直すにしても、そのことに代わりはないんだし。
 とにかく、社長と相談だ。

「━━━━━プロデューサーさん。わたしが言うのもなんですけど」
 いつの間にか戻ってきていた小鳥さんが、お盆からお茶を一つ、俺の机に置いてくれた。
「ああ、すみません。いただきます」
「二人のこと、よろしくお願いしますね」
 そう言って、小鳥さんは社長室へと向かっていった。
 顔に出ていたのか、なにか感じるところがあったのか。さすがは小鳥さんだな。
「ええ、任せて下さい。お願いされましたとも」
 ここは胸を張ってそう言うべきところ、だろ?

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