眠れる預言者エドガー・ケイシーコミュの眠れる預言者の肖像　―　エドガー・ケイシー略伝（２）　―

（３）リーディングの発現

　２３歳を過ぎた頃にケイシ―は喉頭炎を患い､か細い声しかでなくなってしまいます｡彼はその頃保険の外交員をしていましたから､その仕事を続けることが出来なくなりました｡声を使わなくてもそれほど支障のない写真師の仕事をしながら､その病気を治そうとして１年以上が経過した頃､地元にやってきたサーカスの催眠術師､ハートが､彼の病気は催眠術で治るかもしれないとその実演を申し込んできました｡

　ハートが催眠術をかけると､ケイシ―の声は正常のはっきりとした声になりましたが催眠術を解くと､また元のか細い声に戻ってしまいます｡何度やっても同じ状態だったので､ハートは治療をあきらめてしまいました｡その後、クワッケンボス博士が彼を深い催眠状態に長い間とどめることで彼を治療しようと試みましたが、うまくいきませんでした。

　その後に登場したのが、アル･レインと名乗る青年でした｡彼は、整骨療法を通信教育で学んだこともある治療家志望の若者でした。レインはケイシ―が催眠状態のときに、病気の原因や治療法をケイシ―自身に聞いてみようと思い立ったのです｡その実験は１９０１年３月３１日の日曜日の午後に行われました。

　レインは、ケイシ―の無意識の心が喉の悪いところを見つけ出して、治療法を告げるように暗示を与えました。しばらくするとエドガー･ケイシーの声が答えました。｢そうだ、我々はこの肉体を見ることが出来る｡我々が発見する障害は、神経の緊張に基づく声帯の部分的麻痺である｡この状態を除去するには、今この肉体が短い間この障害の部分に血液循環を増すように暗示するだけでよい｣(｢奇蹟の人｣霞ヶ関書房より)

　レインが暗示を与えた後、目覚めたケイシ―の声は病気を患う前の正常な状態に戻っていたのでした｡このときレインは、ケイシ―がトランス状態になると、自分の病気だけではなく、他の人の病気も、その原因や治療法を同じように口述することが出来るに違いないと思い、まずはじめにレイン自身の病気の診断をケイシ―に持ちかけました。

　その実験で確信したレインはケイシ―に手伝ってもらって、リーディングで診断して治療する仕事をはじめたのです｡これがエドガー･ケイシーの霊的診断(フイジカルリーディング)の始まりでした。

　それから彼の診断には患者さんが必ずしも目の前にいなくてもいいことがわかりました｡それどころか世界中のどこにいても眠れるケイシ―の前で、依頼者の今いるところが告げられると、正確な診断が為されました。時にはわけのわからない薬の名前や古今東西の様々な治療法について語られることもありました。この医療リーディングはケイシーの残した資料の中でも最も数が多く、１４３０６件のなかで９６０５件、実に全体の６７パーセントに当たります｡

　一般にエドガー・ケイシーはその医療リーディング故に心霊治療家であるといわれます。広い意味ではそうかもしれませんが、そうだとしてもケイシーは特異な存在であるといえます。

　心霊に力を借りて病気を治すという意味ではイギリスの故ハリーエドワーズ等に代表される手から何らかの霊的エネルギーを流して病気を治す方法、いわゆる心霊治療とフィリピンの故アントニオ・アグパオア(通称トニー)等に代表され、患部を素手を使って手術する、いわゆる心霊手術の2種があります。

　しかしケイシーの治療法では、直接彼が病気を治したことは一度もありません。彼は一般の医師にはわからない患者の過去の事故などを透視してそこに病気の根本的な原因を見いだし、その病気を治す方法として古今東西のあらゆる薬草や療法の中から適切なものを選び出して指示しただけでした。治療するのはあくまで医師であり、それを受けるのは患者の自由意志に任されていました.。治療は少しづつ時間をかけて行われ、完治するまで数ヶ月を要するものもあり、患者には忍耐が必要でした。それはしばしば患者が本来持っている自然治癒力を助けるように作用し、患者は薄紙をはがすように快方に向かったのです。

　エドガー・ケイシーはその性質から治療家というより霊的診断家であったといったほうがより正確でしょう。心霊治療家や手術師は、死後も患者を治すことはできませんが、ケイシ―の場合、彼が生きていた頃よりも亡くなった後のほうが助けられた人がはるかに多いのです。その処方した薬や、オイルを使った健康法はエドガー･ケイシー療法と呼ばれ、現在でも世界中何千万もの人々に使用され、その効果を実証しています｡

　彼がリーディングの中で言及した医学知識は、人間を全体として捉える医学の新しい潮流、ホリスティック医学のなかで見直され、再発見されてきました。それゆえにエドガー･ケイシーはホリスティック医学の父と呼ばれ、現在でも多くの心ある進歩的な医師達は、ケイシ―リーディングを研究し、医学の新領域を探究することで、２１世紀の新しい医学を模索しているのです。彼のリーディング能力は、その後、１９２３年になって新たな展開を見せることになります｡次はその、新たなる展開について見ていきましょう。

（４）新たなる展開
　
　彼のリーディング能力は最初の２２年間は医療診断にのみ向けられていましたが、その後、１９２３年になって新たな展開を見せることになります｡オハイオ州デイトンに住む裕福な印刷業者、アーサー･ラマーズとの出会いがその始まりでした。

　ラマースはケイシ―が人の病気の診断と治療法が口述できるなら、その他の質問、例えば人生における悩み事の相談や、哲学や形而上学、宗教的な問題、古代史の謎、この宇宙の成り立ちや人類がいまだ解き明かしていないことについても正確に答えることが出来るのではないかと主張しました｡

　そしてその手始めにラマース自身が知りたい形而上学的な謎を解くためのリーディングの依頼を受けて欲しいとケイシ―に持ち掛けました。彼の提案に魅力を感じたケイシ―ははじめて病気の治療ではないリーディングを取ることに同意しました。

　このリーディングの最後にケイシ―はこれまでの人生に考えもしなかった驚くべき思想に出会うことになります｡リーディングはラマースがかつて僧であったと語ることで、東洋に伝わる輪廻転生の思想が、真実であると告げたのです｡熱心なクリスチャンであったケイシ―は、最初は大きなショックを受けましたが、少しづつこの思想を受け入れていきました｡

　人生における様々な悩み事や人間関係のトラブル、そしてしばしば病気に至るまでもが、その原因が過去生から持ち越したものであったり、そのときの行為や思いが時を越え、象徴的にあるいは教訓的な形で反映されている｡その思想を受け入れることで人生に最も合理的で、深い洞察を伴う理解が与えられる。

　これがケイシ―リーディングで２番目に多いライフ･リーディングとして残されているものです｡彼によって多くの人の過去生とカルマが明かされました｡確認され、検証されたケースもありますが、医療リーディングほど顕著ではないので、ケイシ―の語る過去生もそれが真実であるかどうかは、わからず、結局は信仰の問題になってしまいます｡それではライフリーディングを受け入れるに当たっては何が大切なのか｡以下リーディングの引用です｡

　｢あなたが生き、死に、そして祖母の庭にある桜の木の根元に葬られたということだけを知り得たからといって、それによってあなたが、ほんの少しでも良き隣人、市民、母、または父になれるというわけではない｡しかし、もしあなたが不親切な言葉を吐いたことによって苦しんだことがあり、現在それを高潔に生きることによって正すことができるのを知るなら、それこそ価値のあることだ｣(リーディング№5753-2)

　ライフリーディングを取るようになってからケイシーのリーディングはその他の様々なテーマに拡大されていきました。夢解釈や瞑想と祈り、精神的霊的な問題、潜在能力の開発、ビジネスに関するもの、超古代アトランティスについて、世界情勢や天変地異など、ケイシ―には答えられない質問は何もないように感じられました｡晩年の彼は｢眠れる賢人｣とか｢バージニアビーチの奇蹟｣と呼ばれ、多くの人から賞賛されています｡

（５）リーディングの原理と情報源

　それではリーデイングはどのような原理で、また、その情報源はどこにあるのでしょうか｡以下に考察してみましょう。エドガー･ケイシーは２０世紀最大のチャネラーとしばしばいわれてきました。

　彼が医療リーディングをする時、医学の専門用語を駆使して病気の根本的原因が語られるのですが、ケイシ―自身は医学を学んだことはなく、目覚めた後、速記録に目を通すと、用語が専門的過ぎて発音すら出来なかったということです｡

　リーディングが我々と表現することからも、霊界の複数の医師達がケイシ―を通して語ったに違いないと推測する研究家もいます｡もしこれが真実であれば、エドガー･ケイシーは高級霊や天使たちの言葉を媒介したチャネラー達と何ら変わらないことになります｡たしかに彼を通じて天使や霊界にいる聖賢たちが語ったこともありますが、それは稀なケースです。

　リーディングはほとんどの場合、ケイシ―自身の超意識の心をもって為された所産と見るべきです｡例えば医療リーディングであれば、病人の細胞の意識とコンタクトしたり、それぞれの潜在意識からの情報であったり、ライフリーディングであれば、魂の記録、インド哲学で宇宙のすべてのものが記録されているというアカーシァの記録、あるいは聖書に記されている生命の書、近代の心理学でユングによって提示された集合的無意識の領域で、ケイシーの超意識の心はダイナミックに活動していたのです｡

　１９１０年１０月１０日のニューヨークタイムズ紙には、エドガー･ケイシーの紹介記事が掲載されました｡その中でケイシ―自身が自分の能力について説明しています｡以下、彼の伝記｢奇蹟の人｣からその部分を引用してみましょう｡

　『この不思議な知識の源は何かと尋ねられた氏は、潜在意識的状態において次のように説明した。「エドガー・ケイシーの心は、他のすべての潜在意識と同様に、暗示に感応しやすい。しかし、さらに彼の心は、同じ種類の他の人々の潜在意識から得た知識を、外の人の客観的心に解釈して聞かせる能力を所有している。潜在意識はどんなことでも忘れることがない。顕在意識は外部より印象を受けて、全てを潜在意識に移す。いったん潜在意識に移ると、たとえ顕在意識が破壊されることがあっても、あらゆる知識は存続する。」氏は氏自身のことを第３者と形容し、更に氏の潜在意識は直接他の潜在意識と交流していて自分の客観的心を通じて解釈し、受けた印象を他の客観的心に伝達する能力を有し、このようにして何千万という他の潜在意識が所有する全知識を集めるのだいっている。』

　もう一件、参考になるケイシーのリーディングを引用します｡
「この人物から与えられる、または得られる情報は、提示（誘導者から言葉で与えられるもの）が情報を引き出してくるその源から集められてくるのです。このトランス状態においては、心の意識は潜在意識、超意識又は魂に支配されるようになります。そして同じ種類の心と交流するようになります。―そして魂や潜在意識は普遍的宇宙存在になります。どんな潜在意識からでも情報が得られます。現在の地上からも、すでにこの世を去った人物によって残された印象からでも、得られます。身体の諸力を征服することによって魂の諸力を用いて、現在いる他の人の心や、またすでに亡くなった人の心を通して、この人物は情報を得るのです。」（3744-2）

　このように考えると、ケイシーの才能は一般的なチャネラーの比ではありません。

（６）エドガー･ケイシーの生涯が示すもの

　エドガー･ケイシーのリーディングは私達の内にある大いなる叡智の存在を明らかにしています｡それこそがリーディングの源なのです｡誰もが、瞑想や祈り、夢の解釈などを通して、同じ源に接することが出来るのです｡

　エドガー･ケイシーの生涯が私達に示すメッセージはまさに広大な世界観です。人間はちっぽけな肉体に閉じ込められた物質的な存在ではありません。大いなる叡智を内に秘め、宇宙いっぱいにも広がりうる霊的な存在であることを万人が悟るべき時期がすでに到来しているのです｡

　人間が内なる宇宙に目覚めていくアクエリアスの時代がいよいよ始まらんとしている今、その時代に先んじて、エドガー･ケイシーが人類に指し示した霊的世界観。パイオニアとしてのエドガー･ケイシーの価値は今後ますます高まっていくことでしょう。