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真夜中、幽霊、シーツ、七階コミュの刺繍

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荷物をバンから降ろしている時だ。「引っ越してきたの?」白に近い金髪の少女が話し掛けてきた。
父は横でにやっと笑いぼくを小突く。「そうなんだ、お嬢さんはご近所さんかな?」「隣に住んでる。ここの人たちはみんな優しいわ。わたしはアンナ。宜しくね。」ぼくはまごついて何も言えないでアンナのギンガムチェックのスカートの裾ばかり見ていた。
夜、ピザを食べていると怒鳴り声が聴こえてきた。「何だ、お隣か?」父は顔をしかめる。「ビー、明日アンナに会っても訊いたりするんじゃないぞ。」「そんなことしないよ。」チーズが粘ついていつまでも口に残っていた。
次の日朝早くアンナは訪ねてきた。
「遊びましょう。町を案内するわ。」父は目で行ってこいと促した。「うん、ぼくはビー。」
ビー、アンナは繰り返す。色んなところへ行った。と言ってもこの町は人口が五百にも満たない本当に小さな町だ。父はそこが気に入ったらしい。離婚をし少なからず傷ついている父にぼくはすぐ賛同した。
「何だかこの町の建物や家には殆ど模様があるね。昔テレビで見たアジアの刺繍みたい。何か意味はあるの?」下見に来た時から不思議に思っていた、大抵の建物は白く、褐色の模様が描かれている。具体的でない、とても抽象的なもので、建物によって模様も少しずつ違う。「勿論よ。わたしたちはこれに守られている。悪いものはここには入れないの。」だからビーはいい人よ、アンナは微笑んだ。
次の夜も怒鳴り声が聴こえてきた。大人の、男の声だ。「アンナはいい子だったかい?」「うん。」「ちょっと見に行ってこよう。」そういう父に着いていき隣家のチャイムを鳴らす。蒼白い、ひどく汗をかいている痩せた男が出た。アンナの父親だろう。「なんだね?」「ご挨拶遅れました、隣に越してきたチャールズです。宜しく。」「クラウリーだ。」「アンナが息子と仲良くしてくれているんですよ。こちらは息子のビーです。」部屋の奥からアンナが見ている。「悪いが帰ってくれ。」
アンナは、あのお父さんに暴力をふるわれているのかもしれない。いやな感じがした。
次の日もアンナは訪ねてきた。
「アンナ、ずいぶん早いね、朝食は食べたかい?」父は優しく訊く。「まだ。」じゃあ食べていきなさい、と父はパンケーキを焼き始めた。アンナは微笑む。ぼくははにかんだ。
朝食を摂り、また探検をする。町ゆく人々は皆気持ちよく挨拶を返してくれた。「ビーね」「今度良かったら家に遊びに来て」「集会にも是非」「集会?」ぼくが訊くとアンナはみんなでおしゃべりして食事をするのよと教えてくれた。次は明日よ。そう言ってまた微笑んだ。
その晩も怒鳴り声が聴こえてきた。父はため息をつく。「あまり他人を悪く言いたくないが、クラウリーさんには気を付けなさい。」

眠っているのを叩き起こされたかと思うと、目の前にクラウリーさんの顔があった。大声で叫ぶ。「何だ!」父が飛び込んできてクラウリーさんと取っ組み合いになる。「ビー、警察を!」「やめろ!」クラウリーさんが怒鳴り足がすくむ。ふと見ると、ドアから影がのびている。アンナだった。「やってくれたわね、クラウリー。」「違う、私は」クラウリーさんがそう言おうとした瞬間アンナはクラウリーさんを撃ち抜いた。一瞬何が起こったか、わからなかった。アンナが銃をもっている。父は困惑しているが落ち着いた調子で言う。「アンナ、それをこっちに寄越しなさい。それから救急車を、」「無駄よ、頭を撃ったもの。」心臓はおいしいから駄目にしたくなかったの。アンナは倒れているクラウリーさんに近付き、床に拡がりつつある血だまりに指をつけ舐めた、まるで味見をするように。「美味しい。それだけがこいつの取り柄ね。」「アンナ、これは、」蒼い顔の父にアンナは素っ気なく言う。「この町はわたしたちのテリトリー。わたしたちは燃費が良いけれど、やはり食事は必要なの。だから時々客人を招くのよ。」この前は大家族だったの。だから子供は食べなかった。それがクラウリーよ。逃げようとしたからクラウリーの兄弟はころした。勿論美味しく戴いたわ。クラウリーはあなたたちを見逃してくれ、自分が犠牲になると五月蝿かった。あなたたちを逃がそうとしたのね。善人は美味しいの。本当は明日の筈だったのだけれど、「今日は三十年ぶりの食事。」階段を、沢山のものが上ってくる音が、した。

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