ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

mixi小説:白球のゆくえコミュの第22話

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「ウチのおじいちゃんはね、ウチの高校の野球部OBなんやよ〜。
でね、高校野球の大会の近くになると試合の日程とか自分で調べて見に行っちゃうの。
毎年公式戦はほとんど見てるんやないかなぁ。
それでさ〜…」


さっきから小野由美は1人でしゃべり続けている。


「小野整骨院」という小さな医院は住宅の入り組んだ所にあるので、大通りに出るまで道案内してくれると言い出したのは彼女だった。


一応は大した怪我ではない。

疲労によって肩の内部が軽く炎症しているだけだと、医院を営んでいる小野由美の祖父は言った。

そして、しばらくは投げ込まないこと、肩周りの筋肉を強化すること、体幹を鍛えること、もっと下半身主導の投球フォームを身に着けることなどなど、多くの指示を受けた。

さらに最後に一言、
「ま、1回ちゃんとした病院で検査受けてみるんじゃな」と。



…あのじいさんの診察は結局アテになるのだろうか?



「相原君もおじいちゃんに診てもらったことあるんよぉ」

「え、そうなの?それいつの話だよ?」

「えーっとねぇ、相原君と同じクラスになったときやから、去年の4月やね」



去年の4月か…、ということは僕が入学して間もない時だ。


知らなかった。

相原先輩が肩を故障していたなんて。



「おじいちゃんは凄いよ〜。
誰かが怪我とかして変な動きしてたら一発で見つけちゃうんやから。」


小野由美は得意気に祖父自慢をしている。

僕は話の長い彼女に少々うんざりしていたが、そこまで眼力のある彼女の祖父の話はなかなか興味を引かれた。

「それでね、今年の夏の大会でキミが最後にフォアボールを出して負けたでしょ?」



この女、僕の胸の痛い話をいとも簡単に口にしやがる。



「ねぇ、聞いてる?」


僕の少し前を歩いていた小野由美がふと振り返って僕の顔を覗き込んできた。

その顔が僕のすぐ目の前にきたので、僕はハッとしてその視線を逸らした。


「あれ〜、赤くなってるぅ。
カワイイ〜。キャハハハ」


小野由美は僕を見てケラケラと笑い声をたてた。


「うるせぇ、聞いてるよ」


この女といると何となく自分のペースを崩される。

早く大通りに出ないのか…?


「で、その試合はアタシもおじいちゃんと一緒に見てたんだけど、キミのことを指して、『あのピッチャーは肩に力が入りすぎてる。あれじゃその内肩を壊すぞ』って言ってたの。
だからアタシは相原君に、キミに会わせなさいって言ったのよ。
でも相原君はいっこうに紹介してくれないんだから…」


まだ小野由美はしゃべり続けている。

女という生き物は本当におしゃべりが好きだ。


「まぁ相原君がアタシにキミを紹介してくれない理由がなんとなく分かったな〜」

「え、何が?」


僕が聞き返すと、彼女は足を止めた。




「だって、けっこうイイ男やもんね、キミ」




そう言って振り向いた小野由美の顔を見て、僕は胸の内がドキッとするのを感じた。



夕焼けの影になった彼女は、よく見ると僕が以前東京に住んでいた頃に片思いをしていた女の子に似ていた。


「さぁ、ここまで来れば道分かるでしょ?」


気がつくと、町を縦断する国道に出ていた。


「ちゃんとおじいちゃんの言いつけを守るのよ〜」



僕に向かって手を振っている小野由美に片手だけ上げて返事をし、僕は自宅に向かって自転車を漕ぎ出した。




第23話へ続く




コメント(2)

ログインすると、みんなのコメントがもっと見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

mixi小説:白球のゆくえ 更新情報

mixi小説:白球のゆくえのメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。