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ガンダムSEED 【逆襲のカズイ】コミュの機動戦士ガンダムSEED 逆襲のカズイ 26話〜

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第26話 出撃

 敵陣の配置を確認していたダコスタが、そろそろ出撃準備を促そうとしていた時だった。
「そろそろ、出ます」
 自らもそれを目にしていたのだろう。ゆっくりとキラが立ち上がると、バルトフェルトが振り向いた。
「キラ、無茶はするなよ」
 言って聞くと思ってはいない。だが、そうして欲しいという願望を込めながら忠告した。
「解っています。みんなも、気をつけて」
 完全に敵に傾いてしまった流れをひっくり返すには、それ相応の覚悟が必要だろう。普通に戦っていては、勝算が無くなってしまう。そう考えながらも、キラは微笑を称えて模範解答のように返した。すみません、と心中で謝罪の言葉を述べながら。
「バルトフェルドさん、エターナルを頼みます」
言って目礼すると、キラはブリッジの外に出る扉に向かった。そして、それを開く直前に、目で合図を送る。
 自分の後ろに、いつも傍らにいる気配が続いてくるのを感じながら、キラはブリッジを後にした。
「前にも、こんなことがあったね」
 エレベーターに乗った途端、胸に飛び込んでくる少女を抱きかかえながら、キラは彼女の耳元に囁くように言った。
「……先のヤキン・ドゥーエの時ですわね」
 額を胸に押し付けたまま、か細い声でラクスは答える。
 あの時、これが終われば平和になると信じていたはずだった。それはメサイアの時も同じである。それなのに、また戦争をしている。
(いったい何時になったら人は戦いを止めるんだろう?)
 彼女の頭の後ろにそっと手を添えながら、キラは思った。そして、今回こそが最後であってくれるようにと、天を仰ぐ。
「どうして、こんなことになっちゃったのかな……?」
 再び戦争が始まったことか、戦況が思わしくないことか、それとも戦うべき相手が旧友であるからか――悲しみが満ち溢れていたキラの問いに、ラクスは口を閉ざしたままだった。どの問いに対しても明確な答えを持ち合わせてはいなかったから。
 エレベーターが止まって扉が開くと、キラはラクスの肩を叩いて離れるように促した。
名残惜しそうに、ゆっくりとラクスは顔をキラの胸から離した。そして、ジッとキラを見上げる。その瞳は心痛からか、激しく揺らいでいた。
「返ってきて下さいね。私の元へ」
「うん」
 同じ場所で同じ台詞。無意識にとった二人のやり取りは、ちょっとした願掛けだったのかもしれない。前と同じように、必ず勝利し無事に帰ってくるように……。
 彼女の肩を押すようにして振り返ると、キラは軽く床を蹴った。進む先にあるのはMSデッキ、これから戦場に立つという高揚感など微塵も湧かない。ただ、虚しさだけが心を支配していく。それでも、
(勝って……そして帰って来る)
 決意と覚悟は変わらない。世界を再び混迷の闇へと閉ざす訳にはいかないのだ。
 少しずつ小さくなっていくキラの後ろ姿。そんな彼の背を、ラクスは胸の前で手を合わせて、祈るように見つめることしか出来なかった。あの時と同じように。
 時を同じくして、ミネルバ艦内の会議室にアスランの姿はあった。デスクに向かい合って、彼の反対側に艦長だけで、二人は険しい顔で打ち合わせを行っていた。
「――以上のように取り計らってください。オレはそろそろ出ます」
「はっ! お気をつけて。艦の指揮はお任せください」
 テーブルに両手を突いて立ち上がるアスランに艦長は続くと、直立不動の姿勢をとって敬礼した。
 部屋を出てブリッジに向かう艦長に別れを告げると、アスランはMSデッキへと歩みを進め始める。
 短い間だったかもしれない。だが、通路を一人きりで進んでいると、自然に甦ってくるのは、フェイス時代に共に戦った三人のパイロット達の事だった。
 一人は既に命を落とし、残りの二人は行方不明になっている。しかし、きっと直ぐに現れるだろう。あの時と同じように敵として。
 何故彼らを説得できなかった、とは考えなくなっていた。デュランダルに対する不信、そして自らの身に危険が迫っていたとはいえ、脱走し、再び同朋に刃を向けた事実に変わりはない。彼らにとって自分は裏切り者に違いないし、そんな人間の言葉に耳を傾けるはずもなかった。
 自分の行動が間違っていたとは思っていない。だが、それが最善の方法だったかと問われれば、首を縦に振ることは出来なかった。だからこそ、本当はどうすれば良かったのか、という想いが心の奥でずっと引きずられている。
ただ一人進む先に浮かび上がる、あの日の幻影。振り返って自分の名を呼ぶ彼らの顔が瞬いて消えていく。
(……すまない)
 心ならずも信頼を裏切ってしまった過去の事か、奪ってしまうかもしれない彼らの未来に対してか。それはアスランにも解らなかった。ただ、彼らへの謝罪の気持ちで胸が裂けてしまいそうだった。
「キラ・ヤマト、フリーダム、行きます!」
「アスラン・ザラ、ジャスティス、出る!」
 エターナル、そしてミネルバのカタパルトから二機が飛び立った。
 ヘリオポリス襲撃事件を皮切りに、無類の強さで戦場を駆け抜けた最高のコーディネーター、キラ・ヤマト。
 ザフトのエリートを示す赤服を纏い、最高の栄誉であるネビュラ勲章を得て、フェイスにまで上り詰めたアスラン・ザラ。
 ここ数年の戦争は彼らの独壇場であったと言っても過言ではない。それぞれの剣、ストライク・フリーダム、インフィニット・ジャスティスの名と共に生きる伝説と化している。
 エターナルの進路上に位置を取る、対照的な白と赤に彩られた二つのMS。それを確認したラクス・クラインが
「ミーティア、リフト・オフ」
 下した命に合わせて、エターナルの両舷からMSの数倍はあるミーティア――核駆動MS専用巨大補助兵装が切り離された。
 腰部から挟み込むようにミーティアとドッキングした二つの機体は、戦闘艦にすら匹敵する火力と機動力を手中に収める。
「アスラン!」
「ああ。行くぞ、キラ!」
 互いの掛け声に答えると、戦略兵器並の力を有した伝説の二機は、スラスターを全快で噴かして敵陣の真っ只中に、その身を加速させていった。
 カズイ・バスカーク率いる艦隊が用意していたジェネシス用のミラーブロックの数は全部で四つだった。その内、オーブ近海への威嚇射撃、オーブ・プラント連合軍への攻撃に一つずつ使用し、残りは二つだけとなっていた。
 もっと多くの数を用意できなかった訳ではなかったが、艦やジェネシスと違い、ミラーブロックをミラージュコロイドで隠すことは出来ない。今回の作戦は秘密裏に進行させている。その為に、これ以上は得策でないという理由から最低限の数に留めたのであった。
 作戦を立案したアーサー・トラインに誤算があったとすれば、敵の進攻の速さと強さであろう。ジェネシス発射前に幾らかの敵部隊が抜けてくるのは予想済み。だが、それに防衛隊が押し込まれるとは考えていなかった。
「――あっ」
 叫びを押し殺した小さな吐息が、ルナマリアの口から漏れ出した。
 三角錐の骨組みのような形をした巨大な鏡が、音を立てて崩れ去っていく。その様にメサイアの陥落を重ねながら、ルナマリアは唇を強くかみ締めていた。
 それを成した相手は、矛先を次の目標に向けようとしているはずだった。彼らが破壊しようとしている物と、彼女が死守しなければならない物は、全く同じ。
 コクピットに響く警戒音。同時にモニターには、望遠カメラが捕らえた敵影が映し出される。
 アーク・エンジェルと二機のインパルス、そしてアカツキ。同じように敵を確認したのであろう。味方機は、これ以上は進ませんと彼らに向かって接近を始めた。彼女もそれに続くように、乗機を前進させていく。
 残された最後のミラーブロックが、彼らの背後で陽光を反射させて煌いていた。
 七基のドラグーンが浴びせる21条のビームの雨、ケルベロスの巨大な渦、味方機の多くが巻き込まれて火の塊の連鎖が起こる。
 それを掻い潜って距離を詰めることが出来た機体は少なくない。彼らが引き連れたムラサメ隊と戦闘を始めている。
 その内の一機。フォース・インパルスは自らと同じ名を持つ、緑を基調とした敵機に狙いを定め、ビームサーベルを叩き落そうとすると、
「やらせるかよ!」
 対艦刀のビームの刃が遮った。
 割り込んだのも同じ名を持つ機体だった。こちらは赤を基調とした、接近戦に特化したシルエット。
 連結させたエクスカリバーの片側でビームサーベルを弾き飛ばし、左手に装備していたビームライフルを蹴り上げる。
「――くっ」
 ソード・インパルス相手にこの距離では分が悪い。そう判断したルナマリアは一度距離を取ろうと上昇させる。
「甘いんだよ!」
 それを見通していたディアッカは、自機をソード・インパルスの影から飛び出させて、四連装ミサイルランチャーを発射した。
 咄嗟にシールドでそれを受けるフォース・インパルスだったが、爆煙に包み込まれて視界を失う。そこに、
「落ちろ!」
 正確な位置が把握できないにも関わらず、イザークは二本のビーム・ブーメランを投げ込ませた。
 戦士としてのイザークの勘は鋭かった。一つはコクピットに向かって一直線に飛んでいく。しかし、視界が戻るまで待つのは危険すぎると、一瞬先にルナマリアが背部のスラスターを全快で噴かさせる。
「きゃあああああああ!」
 機体に切り裂く刃の感覚。自らの身に刺さるような錯覚からあげた悲鳴が、フォース・インパルスのコクピットに響き渡った。
 赤い瞳に飛び込んだ映像は衝撃的だった。無線越しに届いた耳をつんざく悲鳴は、彼の心を震撼さるに十分過ぎた。
 全力でデスティニーを飛ばして駆けつけたシンが見たのは、爆煙から抜け出したフォース・インパルスの姿だった。肩口から左腕を、大腿部から左足を失っていた。切断面からは行き場を失った電気が弾け、小さな火花を散らしている。
 血の気が引いて寒気が襲い、体中に震えが走った。血管が凍りつくように感じたのは愛するものを失う恐怖か、それともかつての再現だからか。
「よくも……よくもルナを!」
 声に出した瞬間に凍りついていた物が溶解し――沸騰した。
「とうとう真打の登場ってか!」
 ケルベロスの照準をフォース・インパルスに合わせようとしていたディアッカは、それを庇うような位置に現れた二機に対して笑みを零した。
「デスティニーと……セイバー!? ようやくお出ましか!」
 イザークもそれは同様である。
 もっとも、二人の目には一機しか映っていない。目に焼きつくような、自らの存在を知らしめるような真紅のMS。
 以前の敗北から生まれる復讐心もありはした。だが、それ以上に――
「貴様を落として終わらせる!」
 ――セイバーを撃墜するということは、この戦争を勝利に導くという意味を持っている。
 最高の手柄を上げられるという功名心、そして友を危険に晒さずに済むという想いが、二人の戦士を高揚させていた。
「ルナ!」
「――シン、総帥も!」
 シンの叫び声、そしてデスティニーとセイバーの姿にルナマリアは顔を輝かせた。安堵と歓喜が入り混じって吐息を漏れる。
「無事か?」
「うん!」
 モニターのウインドウ越しでも、シンが必死な形相しているのが解った。それほどまでに心配してくれているということから、喜びが込み上げてくる。
「まだいけるか?」
 次に問い掛けてきた男は、ウインドウに映ってはいるものの、こちらを見てはいなかった。恐らく、敵の動きに注意を払っているのだろう。
「はい、大丈夫です。いけます」
「なら換装を済ませて来い。まだ戦闘は終わっちゃいない」
「了解です」
 一瞥したカズイが顎で行けと示すと、ルナマリアは頷いた。そして、被弾した各部をパージする。
「総帥、お気をつけて……。シンも……無事でね」
 分離してコア・スプレンダーのみになると、ルナマリアは飛び去った。
 沸き立つ怒りはジャスティスに切り刻まれたインパルスを目にした時の比ではない。その瞬間を目にしてしまったことが大きかったのだろう。彼女の身が無事だったことなど、焼け石に水に過ぎなかった。
 彼女を傷つけ死の寸前まで追いやった。それで十分だった。
生み出された激昂を抑えることなど出来はしない。いや、抑えようとは微塵も思いはしなかった。彼女を傷つけた者は許さない――激情が心を満たす。
「よくもルナを……貴様等! 絶対に許さないからな!」
 叫んだ刹那、SEEDが弾けた。はっきりとした音を立てて感覚が拡大していき、シンの瞳にいつもとは違う光が宿る。
 シンはアロンダイトをデスティニー抜き放たせた。そして、残像を残して二機のインパルスに向かって突っ込んでいく。
「――馬鹿野郎!」
 止める間もなく突き進むシンに、カズイはうめくように吐き捨てた。

コメント(1)

第27話 業火

 単機で突っ込んでくる敵機に対し、エクスカリバーを構させたイザークは、その様子に訝しさを感じていた。
(連携がとれてないのか……それとも?)
 気がかりなのは、後ろに控えたセイバーだった。いや、取り残されたといった方が正しいだろう。デスティニーが離れた直後、多くのムラサメによって取り囲まれている。
 こちらをデスティニーに抑えさせた隙に、戦力を削ごうという腹づもりなのだろうか。
だとしたら、舐められているとイザークは思った。あの時に見逃された屈辱が甦り、腸が煮え繰り返りそうになる。
「ならば、すぐに引きずりだしてやるさ!」
 怒りを声にぶちまけて、イザークは冷静さを保たせた。考えようによっては、返って好都合である。いかに自信家の彼であっても、デスティニーと同時にセイバーを相手にすることの危険性は熟知している。ならば、「まずはコイツを叩き落とす! 行くぞ、ディアッカ!」
「おうよ! 雑魚はさっさと片付けちまおうぜ!」
 呼応するディアッカに頷きつつ、まずは目標へ到る障害の排除に専念することにした。
 光の翼によって散布されたミラージュコロイド。それを利用して生み出される光学残像が、突進するデスティニーを幾つにも重ねて見せた。
 ただでさえ量産機とは比べ物にならないスピードに、残像まで重なれば動きに目がついて行かずに焦りが生まれる。視覚的にも精神的にも、それは絶大な効果を発揮するはずだった。ただし、並のパイロットが相手の場合であるが。
 間合いを一気に詰めてアロンダイトを上段に構えるデスティニー。その残像に惑わせられることなく、冷静に敵機を睨みつけていたイザークは、(まずいか!?)
 強度にいささか不安を覚えてエクスカリバーの連結を解いた。そして、二本になった対艦刀の刃をソード・インパルスは平行に構える。
「うおおおおおおおお!」
 シンの激しい咆哮と共に振り下ろされるアロンダイト。それを正面から受け止めるエクスカリバーがデスティニーの出力に圧されて微かに軋む。
 その威力を一つの刀身に集中させていたら、長く持ちはしなかった。瞬時の判断に安堵しつつ、イザークはアロンダイトを受け流しにかかると、「くっ!?」
 目の前のデスティニーに実体が消えて無くなった。
残る幻影、続く残像には目もくれず、端で捕らえていた流れに合わせて機体を反転させる。
「落ちろおおおおお!」
 後ろに回りこんだデスティニーが、再びアロンダイトを叩き落す。
「なっ!?」
 取ったと確信した一撃だった。
 背後から放った薄いブルーの対艦刀が描く軌跡、それは半身になって避けるソード・インパルスの紙一重の空間を虚しく薙いだだけだった。
 驚愕に開かれるシンの瞳。そこに飛び込んでくるのは、自らの分身を切り裂かんと二刀を構えるかつての愛機。
「甘いんだよっ!」
 イザークの嘲りと同時に半身の体勢から放たれた一刀目。右手のエクスカリバーが居合抜きのような形で横になぎ払われる。
 エクスカリバーが紡ぎだす赤いビームの刃がはっきりとシンには見えている。だが、それに対しての自分の体、そして機体の動きが鈍重の感じられた。
(――間に合え!)
 祈るような気持ちで噴かすスラスター、そして――赤い軌跡がデスティニーの頭部を真っ二つに横切った。
「チッ!」
 手ごたえはない。消えつつあるデスティニーの幻にイザークは舌打ちしつつ、「見えてるんだよっ!」
 下方に避けた機影を逃しはしなかった。左手で逆手に持ったもう一本がデスティニーに上方から襲い掛かる。
「くそっ!」
 初撃をかわした間を利用して、デスティニーは何とかアロンダイトを振り上げる。
 再びぶつかり合う対艦刀。だが、デスティニーの体勢が不十分な為にエクスカリバーは一本でも圧されはしない。しかし、
「ふんっ!」
 鼻を鳴らすイザークは、そんなことに付き合うつもりは毛頭無い。振り下ろした勢いと交錯するビームの刃を支点にして、ソード・インパルスを前方に回転させた。
 流れるような連続した動作をシンは目で追うことしか出来ない。降って来るように背後に回るソード・インパルス。振り向く間は与えられない。
「くらえっ!」
 勢いそのままにソード・インパルスの強烈な蹴りがデスティニーの翼の中央に炸裂した。
「ぐあああああああああ!」
 激震する機体とその身にシンは叫んだ。主が手綱を失いかけたデスティニーは衝撃に身を任せて、ただ虚空を流れる。
「ディアッカ!」
「おうよ!」
 片方が隙を作らせて、もう片方が止めを刺す。長年轡を並べ続けた彼らのコンビネーションは既に円熟の域に達している。周りの敵機に気を配りながらも、ディアッカは最初からこのタイミングを狙っていた。
 無様な姿を晒して吹き飛んでいくデスティニー、ディアッカがそれに合わせる照準には一分の狂いも無い。
「コレでジ・エンドだ!」
 ブラスト・インパルスの腰の両側に構えられた二門のビーム砲――ケルベロスにエネルギーが集束し、そして走った。
 ひたすら闇と光の瞬きが流れるコクピットのモニターで、シンはその瞬間を捕らえていた。
自らに死を与えるであろう、光が放たれる瞬間を。
 脅える魂に揺り動かさせられて、シンはただがむしゃらに機体を動かした。二本の火線が辿ると予想されるコースが刹那に閃く。そして、
「だあああああああああああ!」
 デスティニーの背面左部から高エネルギー長射程ビーム砲が回転した。制動をかけていて構えている暇はない。不規則に乱れて暴れる照準――唇をかみ締めながら……それでもシンは中心を射抜く。
 ぶつかり合う三本の赤いエネルギーの奔流。デスティニーの一撃は二本のケルベロスの接点を見事に捕らえる。
 中心から弾けて割れるケルベロス。目標を遮られた巨大なビームは滝が割れるかのようにデスティニーの左右に散って……霧散した。
「……冗談……だろ!?」
「チッ……しぶとい!」
 デスティニーのパイロットの芸当を信じられないといった表情で見つめるディアッカと、忌々しげに吐き捨てるイザーク。そして彼らと対するシンは、「はあ……はあ……はあ……はあ……」
 度重なる緊張から、激しく肩で息をしていた。その瞳に変わらぬ炎を灯したまま。
(……あいつ等……絶対に落とす!)
 戦闘による緊張と高揚は、怒りというな炎にくべる薪にすぎなかった。激情は無限に膨らみつづけるだけで、冷静さなど微塵も無い。眼前の敵を葬り去る――それだけが心を支配していた。
「……あの馬鹿が……」
 飛び掛ってくる二体のムラサメをすれ違いざまにビームサーベルで両断するセイバー。
そのコクピットで呟くカズイの表情は険しかった。
 見えてはいる。だからこそ何とか致命傷を避けているのだろう。だが、それだけだった。
鋭敏に拡大していった感覚を生かしきれていない。ムラサメの群れをいなしつつも、しっかりと見ていたシンの戦いぶりが、カズイには歯痒くてしょうがなかった。
(さっき言ったばかりだろうが……)
 こうなることを危惧して助言をしたというのに――何も学ばずに醜態を晒すデスティニーの姿が酷く彼を苛つかせる。今すぐにでも引っ叩いて冷静さを取り戻させてやりたかった。
 だが、セイバーを取り囲む20余りのムラサメが、それをさせてくれそうにない。ひたすら目立つ真紅の機体に銃口をむけて、ビームの雨を降らせつづけている。
「……鬱陶しい」
 かわし、撃ち、落とす。所狭しと打ち込まれる数十のビームを撃ちこんで来る敵に対して、繰り返す作業にも嫌気がさしてきた。それに、こんなことに時間を浪費する訳にもい
かない。
「ガキのお守りもあるんでな」
 シンも今のままでは長くは持たないだろう。センスや機体の性能だけでは埋め難い、経験という名の巨大な力が二機のインパルスのパイロットには備わっている。彼が相手にするには、まだ荷が勝ちすぎていたのかもしれなかった。
「時が惜しい。早々に終わらせて貰う」
 敵機の撃墜――そのことのみにカズイは意識を集中させた。先ほどまでの苛立ちはすっと消えて行き、心には凍りのような冷たさに満ちていく。
 小さく一呼吸してカズイはレーダーに目を走らせた。それと同時にセイバーの背から十機のドラグーンが飛び立つ。
 ヘルメットに反射する複数の光点。敵機の反応を示すそれは、小さな電子音と共に一つずつ輝きを増していく。そして――
「……消えろ」
――自身のみに聞こえるような小さな声で呟いた。
 それぞれが自我を持ったかのように乱舞する赤いドラグーン。その各々が、正確に一度だけ光を発して主の元へと帰っていった。
 爆発が連鎖した。一瞬にして炎の塊の数は十。寸分たがわず動力部を貫かれたムラサメ等は影も形も残らずに霧散する。
 終息を始める爆炎の数々が妖しくセイバーを照らしていた。業火をその身から滲み出しているようなMSは神々しさすら感じさせた。
 残されたムラサメのパイロットの大半が畏怖を覚えて唾を飲み込んだ。そして確信する――絶対に手を出してはいけない相手だということを。
「次、行こうか」
 鋭い眼光でカズイは次の獲物を見定めた。再び短い電子音が連続し、次々にターゲットをロックしていく。しかし、その途中、
「ん!?」
 高速で接近する機体をレーダーが警戒音を発して伝えた。小さな期待を抱きつつ、カズイはその方角に目をやるが彼が望んだものではない。
 ムラサメを庇うようにセイバーの間に立ち入ったMS。それは眩い金色の装甲に包まれていた。

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