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ガンダムSEED 【逆襲のカズイ】コミュの機動戦士ガンダムSEED 逆襲のカズイ

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機動戦士ガンダムSEED 逆襲のカズイ



ギルバート・デュランダルはこう言った
「世界の戦争を陰で操る軍需産業“ロゴス”を滅ぼす」と・・・
しかし、ロゴスの実体はそうではない。かの組織が生まれたのは次のような理由がある

人が宇宙に上がるようになって幾年かの月日が流れたある時、一つの化石が発見された
通称“宇宙鯨”
それが何を意味するか・・・つまり、この宇宙には人の他に生命が存在する
ここまでが世間に公開されている事実である

しかし、発見されたのはそれだけではない
そこには、文明が築かれた後があった
そして、現在の地球では遠く及ばない科学力の痕跡も・・・

その事実を知った各国の首脳陣、財界の有力者は恐怖した
彼らが地球に侵攻すれば、何の術もなく人類が滅びるのが明白だったからである
それに対応する為に、幾つかの計画を立案した
その計画の一つがロゴス計画である

世界の戦争をコントロールし、戦闘兵器を飛躍的に進歩させ、かの“宇宙鯨”と互角
に交戦する力を養う、これが本来のロゴスの目的である

人の遺伝子に手を加えたコーディネーターは、その兵器を使い“宇宙鯨”と闘う為
に生み出された技術である

そしてまた別の計画が動き出す
その中心にいたのが“カズイ・バスカーク”である


C.E 72
激闘の末、カズイらは彼らを撃退することに成功した
しばらくは、この空域に現れることはないだろうとの報告を受けた
地球のロゴス幹部は、権力闘争に没頭するようになる
ロゴスの一員だったプラントの議長デュランダルが反旗を翻し、地球のロゴスを殲滅
その後、デスティニープランを旗印に地球、プラントの統一を図るが失敗する

C.E 73
クライン派をまとめたラクス・クラインの後押しで、アスラン・ザラがプラントの議長に就任
地球上では、プラントの技術力を後押しにオーブが世界の統一を図っていた

C.E 74
カズイ率いるバスカーク艦隊が復旧作業の終了したヤキン・ドゥーエを電光石火の攻撃で攻略
地球、プラントに対し、宣戦を布告した

C.E73 メサイヤ攻防戦から、1年余り、プラント宙域での混乱は収まったものの、
地球上では、オーブ・スカンジナビア王国同盟軍と、大西洋連合との戦争は終結
していなかった。
そして、今、宇宙でもまた、動乱が始まろうとしていた

「くそ! いったいどういうことだ!」
 グフのコクピットでイザークは叫んだ
 約1時間前、ヤキンドゥーエに現れた所属不明の謎船団が現れた。
その数は数は軽く50は超えている。そして、ザフトのデータにはない
モビルスーツの攻撃で、瞬く間に駐留艦隊の大半が壊滅していた。
「落ち着け、イザーク!」
「これが落ち着いていられるか!」
 なだめるディアッカに苛立ちをぶつけつつ、正体不明のMSを、
すれ違いざまにコクピットごとテンペストで分断する
「全艦隊、それもこの数すべてがミラージュコロイド搭載型だぞ!
 いったい、どこの艦隊だ!」
「オレが知るかよ! ともかく、もうヤキンはダメだ。引くしかないだろ?」
「くそ!」
 短く叫ぶとイザークは、撤退の為に信号弾を打ち上げさせた
大勢はすでに決していた。艦隊のすべてがガーティ・ルーと同型艦である。
 それが、ミラージュコロイドを展開したまま、ヤキンドゥーエに接近、
それだけで勝負は決まっていた。
「なんなんだよ、いったい・・・」
 ザクのパイロットは震えていた。全周囲からのビーム砲の攻撃で、
自分以外の小隊員が全滅。自機も、数箇所被弾している。
「くっ!」
 背部からのロックオンの警戒音に自機を、あわてて旋回させる。
その刹那、一条のビームが今まで、自機があった場所を通過した。
 彼の視界に入るのは、数個の爆発。味方機がやられたのだろう。
「ドラグーン・・・か?」
 冷や汗が止まらない。
 敵のMSは見えない、が、ビームが放たれたと思う場所を小さな物体が高速で
移動している。そのときだった。
 目の前に赤いモビルアーマーが高速で接近してしてきた。
あわててビームトマホークを振るうも、脇を通過される。
「あいつか!」
 自機に回避運動をさせつつ、MAがいると思しき方角に機体を向ける。
 しかし、そこにMAはいない。いたのは赤いMS。
「・・・ライブラリーに一部該当? セイバーに酷似?」
 コンソールに映し出される情報に目をやりながら、機体を動かすも、
圧倒的に敵機が速い。
 コクピットはビームサーベルで貫かれ、ザクは爆散した。
「ふん、つまらん。ザフトもこんなものか・・・」
 カズイは呆れたように呟くと、MSを変形させて、次の獲物を求めて飛び去った。

コメント(9)

第一話 プラント
 “ヤキン・ドゥーエ陥落”この一報にプラントの評議会は混乱を極めていた。
議員の大半が意味のない意見を思い思いに発し、それがまた混乱を増幅させて
いく。
「皆さん、少しは落ち着いてください!」
 少し怒気を孕んだその声に驚いた議員たちは、その声の主に注目した。
アスラン・ザラである。
「まだ、情報を集めている段階です! 今、この場で騒ぎ立てても意味がないの
はお解りでしょう?」
「しかし議長! この緊急事態に悠長なことは言っておられませんぞ!」
 なだめるように言うアスランに、その議員は苛立ちを隠さない。
「すでにプラントの防衛ラインに艦隊は配置しております。それにヤキンを奪還
しようにも、相手が何者かもはっきりしないのです。その数も! 力も!」
 力強くそう言ってアスランは議員をゆっくりと見渡した。
「一時、評議会を休会します。先ほど、ヤキンの残存艦隊が戻り始めている
という連絡がありました。情報をとりまとめるのにも、そう時間はかからない
でしょう。再開は12時間後ということで・・・」
 議長の声と同時に評議会は休会となり、議員たちはざわめきながら、
会議室を次々に後にする。
 その中の一人の呟きがアスランの耳を突いた。
「ラクス・クラインの傀儡が・・・」
 アスランは苦虫を噛み潰したような顔で小さくため息をついた。

「どうでしたか、評議会は?」
「どうもこうもね・・・今の段階では何も手の打ちようもないというのに・・・
疲れるよ、大人の相手は・・・」
 執務室に戻ったアスランはため息混じりにメイリンに答えた。
彼女は現在、彼の秘書を務めている。
「・・・ラクスの傀儡か」
 うめくように呟いた。
 そう思われているのは重々承知しているはずだった。しかし、直接耳に入れば、
その言葉は酷く心を打ちのめす。
(カガリもこんな苦労をしていたのかな・・・)
 そんな思いが心をよぎった。
戦争直後、プラントの混迷は激しかった。
 対ロゴス戦後、デュランダル議長はデスティニープランを発表。
しかし、その整合性すら議論されず、具体的にどのように施策していくかも
不明瞭なままだった。要するに、発表しただけに留まったのである。
 当然、プラント国民は動揺した。そして、それに拍車がかかる。発表直後、
プラントは対オーブ戦へ突入したからだ。
 デュランダルはレクイエム、ネオジェネシスなどの大量破壊兵器を使用、
しかし、結果、メサイヤは陥落し、レクイエム等もオーブに破壊され、
デュランダルも戦死する。

「一体なんだったんだ?」
 プラント国民の心情を表現するなら、こんなところだろう。
 結局、ほとんど解らないままなのだ。
 解っているのは、
 オーブはメサイヤを陥落させると撤退し、プラントにも攻めてこなかった。
 オーブには本物のラクス・クラインがいるらしい。
 ラクス・クラインはデュランダルが使用したレクイエムを破壊するために
出陣した。
 ということぐらいである。
 概要のよく解らないプランを提唱したうえ、大量破壊兵器を使用、
こうなると、デュランダル自身の正当性を危ぶみ始める。

 困ったのはプラントの評議会である。
 デュランダル亡き今、その責を問われるのは評議会しかない。世論は評議会を
解散する方向に動き始めた。当然、その責任を追求するため、司法局も裁判を
起こすだろう。
 焦った評議会は次のように発表した。
「今回の騒動はデュランダル前議長の暴走である」
「その暴走を友好国であったオーブとラクス・クラインが阻止した」
 罪をデュランダル一人にかぶせたのだ。それを阻止できなかった責任は免れ
ようがないが、戦犯として裁かれることからは、何とか逃れようとしたのである。
 結果、評議会の解散は免れなかったが、議員たちは戦犯として裁かれることも
なかった。
 人々は混迷の世には英雄を求める。それが、ラクス・クラインであり、
アスラン・ザラである。
 戦争直後、特命を受けたイザークはオーブを訪れていた。
 プラントの復興の為に、戻ってこい−−そうアスランを説得する為である。
 最良な人選はラクスだろうが、旧クライン派の人間が何度も説得に当たるも、
自分にはその資格がないと断られ続けている。そこで、白羽の矢が立ったのが
アスランだった。
 
 オーブの海岸、慰霊碑の前でアスランはこちらに向かってくるイザークを
見つけた。
「イザーク! どうしてここに?」 
「お前こそ、こんなところで何をやっている?」
「オレは・・・」
 口篭もるアスランの隣までくると、イザークは慰霊碑をじっと見つめながら
「お前を連れ戻せとの命令を受けた」
 と吐き捨てるように言った。
「ラクスがダメなら、オレって訳か?」
「そういうことだ」
「・・・オレにもその資格はない」
「ふざけるな!」
 イザークは怒鳴りながら、アスランの襟首に掴みかかる。
「資格だとか、そんな問題じゃないだろう! 誰かがやらなくちゃならないんだ
よ!」
「だったら、お前がやればいいだろう!」
「できればとっくにやっている!」
 突き飛ばすように襟首を離すと、そのままアスランを睨み付ける。
「プラントの公式発表を知っているな?」
「・・・ああ」
「評議会の連中にデュランダル前議長はスケープゴートにされ、その代わりに
ラクス・クラインと貴様は英雄扱いだ。今、プラントをまとめるのに貴様ら以外
の適任者がいるはずがないだろう!?」
「・・・・・・しかし」
「ヤキンでは自分の父親を、そして、メサイヤでは前議長の暴走を止めた。
確かに、英雄扱いされてもいいだろう、だが・・・これ以上、戦争の被害者を
増やさないためには、その前に止めなくちゃいけないんだ!」
 静かに、それでいてはっきりとした口調で言うと、イザークは慰霊碑に目を
戻した。
 自分の母、父、死んだ友人の姿がアスランの脳裏をよぎる。そして、その為
に暴走した少年の姿が・・・
「貴様には、その力がある。こんなところで燻らせずにプラントへ戻れ!
このままのうのうと暮らしていたら、オレは許さんぞ!」
 イザークは怒鳴るとアスランに背を向けた。
「・・・今の評議会は持って1ヶ月だ。遠からず次の選挙がある。
貴様なら間違いなく通るだろう」
「・・・イザーク・・・」
「プラントで待っている」
 静かに、それでいて荒々しく言うとイザークはアスランを振りむきもせずに、
去っていった。
 戦後、これ以上、戦争を、戦火を広げない為にはどうすればいいかをアスラン
はずっと考えていた。
「オレは何と、どう戦えばよかったんだ・・・・」
 個人、そして軍人では何もできないのは前の戦争で痛感していた。
 そして、その答えが少し解ったような気がする。戦争を起こさない、
コーディネーターとナチュラルとの融和、その為に何ができるか。
「なら、覚悟を決めるしかないじゃないか・・・・」
 1週間後、アスランはプラントへ帰還した。
その後、アスランは選挙に無事当選、そのご旧クライン派の議員に奉られ、
議長の席に就任した。
 そして、プラントの情勢も落ち着き、一息ついた頃に入ったヤキン陥落の一報
である。
 
 評議会休会後、執務室に戻ってから、次々に入る情報と資料に目を通し、
解ったことがある。
どうやら、その艦隊は前戦争時にボギーワンと呼んでいた、ガーティ・ルー
の同型艦だということである。
「そうなると、大西洋連合か? いや、しかし・・・」
 当の大西洋連合はオーブと交戦状態にあって、プラントに手を出してくる
余裕などないはずだ。それだけの数のミラージュコロイド搭載艦があれば、
オーブも今頃は落ちていてもおかしくない。
「そうなると、いったいどこが?」
 次に思い浮かぶのは大西洋連合のパトロンであったロゴスだが、
それはすでに壊滅している。
 そんなことを考えている時だった。
「アスランさん、ちょっとコレをみてもらえませんか?」
 神妙な面持ちでメイリンはプリントアウトした書類をアスランにまわした。
「敵の量産型のMSには該当するものはなし。ただし、2機のMSが一部ライブラリ
に該当・・・算出される出力等は異なるものの、改良型のセイバーと・・・
デスティニーと予想される!?」
 途中まで冷静に読んでいたアスランだが、自然に語尾が荒くなった。
「まさか、シン・・・お前なのか?」
 僅かに青ざめたアスランは無意識に握ったコブシをじっと見つめた。

「ずいぶんと、ご活躍だったそうじゃないか、シン」
 艦に戻ったシンにカズイはMSデッキで笑いかけた。彼も先ほど戻ったばかりで
あるが、シンの戦果は聞いていた。
「総帥の前に立ちはだかる奴は、全部オレがなぎ払ってあげますよ」
「あぁ、頼りにしてる。だから、今はゆっくり休め」
「はい!」
 そう元気よく答えると、シンはMSデッキを後にした。
「さて、次はメンデルだな・・・」
 シンの背から自分のMSに視線を移すと、カズイは不適に微笑した
第2話 突き刺さる刃

 C.E73 メサイヤ攻防戦から、1年余り。プラント宙域に突如現れた
カズイ・バスカーク率いる謎の艦隊によりヤキン・ドゥーエは陥落、
世界は再び混沌の渦へと巻き込まれ始めていた。

 --メンデル、かつてバイオハザードを起こし、廃棄されたスペースコロニー
である。
 そして、キラ・ヤマトの出生の地でもあり、数々のコーディネーターの技術の
粋が集められていた場所でもある。
 そこに今、カズイは自らの艦を停泊させていた。
「何も総帥自らなされなくても・・・」
「オレがやることに意味があるんだ。だいたい、後ろで命令だけだして、
部下の手だけを汚させる・・・そんなことはしたくない」
 あからさまに心配顔のアーサーにカズイは乾いた笑顔で答えた。
「しかし・・・」
 なおも異を唱えようとするアーサーをカズイは手で制し、
「アビー、作戦の遂行まで、後どのぐらいかかる?」
「はい。核パルスエンジンの調整に予定よりも時間がかかっておりまして、
およそ6時間程かかるかと・・・」
「遅いな。いつプラントが気付くか分からない。4時間でなんとかしてみせろ」
「はい、わかりました」
 アビーの返事に満足そうに頷くと、カズイは宙に浮かぶ青い惑星を一瞥する。
「アーサー、すべての業はオレが引き受ける。そうじゃなくちゃいけないんだ」
 軽くアーサーの肩を叩いたカズイ瞳には決意の色が満ちていた。
「何? メンデルが? 地球に?」
 アスランの怒声が執務室に響く。
「はい。もの凄い速いスピードで・・・阻止限界点まで5時間もかからない
そうです」
 メイリンの声も震えている。
「くそ! 今から出撃しても間に合わない! 艦隊をプラントの防衛にまわし
すぎたか!?」
 机にコブシを叩きつけたアスランのその手にはうっすらと血がにじんでいた。

「準備すべて完了しました。ご命令があれば、いつでもいけます」
「わかった」
 アビーの声に小さく頷いて目を閉じる。そして、カズイは大きく息を吸い込んだ。
「メンデル、発射!」
 その声はマイクで艦内に響き渡った。続いて乗員の歓声が怒号のように艦内を
包み込む。
 カズイはその歓声に満足するように不敵に笑うと、程なく核パルスに灯が入る。
「受け取れ、キラ。オレからのプレゼントだ!」
 地球に向けて加速していくコロニーを見つめながら、カズイは小さく呟いた。
「くそっ! 数が多すぎる!」
 ストライクフリーダムを駆るキラの顔には疲れの色が浮かんでいた。
 ここ1ヶ月、オーブと大西洋連合の戦闘は熾烈を極めている。
 物量に勝る連合は長期戦に持ち込むべく、戦力を小出しにし、毎日のように
オーブへ攻め込んでいた。
 一機で圧倒的な力を誇るフリーダムとアカツキ、そしてアークエンジェル。
それさえ落とせばオーブは落ちる。しかし、戦力を一気に集中させたところで、
これらを落とせるとは思えない。
 ならばと長期戦でパイロットの疲弊を狙ったのである。
 作戦は功を奏し始めていた。アカツキ、アークエンジェルの動きは日に日に
悪くなり、フリーダムもその動きに精彩を欠き始めていた。
「キラ! ウインダムが西と東に回った! 数は約50と30!」
 軍本部の管制室から、カガリの声が耳に届く。
「ムゥさんはムラサメ10機とアークエンジェルと共に西へ回ってください。
アマギさんは残りのムラサメとM1と東へ! ここは僕が引き受けます!」
「了解! 頼んだぞ、キラ!」
「キラ様! ここはお任せします!」
 各々がキラの指示に従って散っていく。
 それを目の端で確認すると、目の前の敵に対峙する。そこにはフリーダムの
前方を扇状に取り囲むウインダムが約40機。
「・・・オーブは落とさせやしない!」
 キラの叫びと同時にseedが弾ける。
「うおおおおおおおお!」
 ハイマット・フルバーストで10機のウインダムが、その戦闘力を失う。
 その時だった。
 けたたましい轟音が世界に響き、文字通り大地が震撼した。
「なっ?」
 何が起こったか解らなかった。
 見渡せば、戦闘で脆くなった建物は倒壊し、森の木々の幾つかも倒れている。
(地震? ・・・いや、そうじゃない?)
 混乱に包まれた戦場では、ウインダムが海の方へ向かっている。撤退命令が
出たのだろう。こちらも一度事態を把握しなくてはならない。
 そう考えたキラは自分も撤退することにした。
 ただ、その背中には冷たいものが走り、嫌な予感が拭えなかった。
「目標、無事に命中しました。大西洋連合の首都ニューヨークは壊滅です」
 大西洋連合は、ワシントンをサイクロプスで自爆させた後、首都を
ニューヨークへ移している。カズイの狙いはそこだった。
「これでゴミの大元は排除できたな」
 作戦の成功にカズイは安堵の吐息を漏らす。これで大西洋連合は、その勢力
の大半を失うはずだ。後は苦もなく制圧できるだろう。そして、地上に残った
他の勢力は歯牙にもかからない。
「ヤキンへ戻るぞ! プラントも黙っていないだろうからな」
(そして、オーブもな)
 カズイは心の中で、そう付け加えた。
(上がって来い、キラ! 貴様には直接、手を下してやる!)
 だからこそ、わざわざニューヨークにメンデルを落としたのだ。連合が力を
失った今、オーブに後顧の憂いはない。
 そして、彼らが“世界の平和を守る為”に宇宙へ上がってくる大義を与える
為の準備はできている。
 自嘲気味にカズイは鼻で笑った。来るべき決戦の時に思いをはせながら・・・
第3話 追撃

 C.E73 カズイ・バスカークの手によりスペースコロニー・メンデルが
ニューヨークに投下、大西洋連合は事実上壊滅。
 一人の男の手によって、世界は再び戦争への扉を開くことになった。

「コンディションイエロー発令、各パイロットは登場機にて待機してください」
 オペレータのアナウンスが艦内にこだまする。
「プラントから出撃した艦隊の通過を確認、動くわよ、シン」
「わかった。他の艦にも打電しておいてくれ、オレはMSデッキに移る」
 軽く抱擁を交わしてシンはルナマリアと離れた。その際、僅かに笑顔を見せるも、
その表情はすぐに硬くなる。
「そんなに心配しなくても大丈夫よ。“あの人”が簡単にやられるわけがない
じゃない」
「ああ。分かってる。化け物じみてるからな、総帥は・・・」
 呆れるような口調でシンは笑って見せた。ルナも思わず苦笑する。
「ルナはあまり前に出るなよ。後ろで艦の指揮を執ってくれてればいいから」
「うん。シンも気をつけて」
 シンはルナと軽く口付けを交すと、ブリッジからエレベーターに乗りこんだ。
(でも、戦闘に絶対なんてことはない。あの人は絶対に失っちゃいけない人
なんだ)
 その強さは信じていても、万一ということもある。シンは何があっても、カズイ
とルナは守る決意を固めていた。
 コクピットに乗り込んで、目を閉じて軽く深呼吸する。そして、再び開かれ
たその赤い瞳に迷いは感じられない。
「シン・アスカ、デスティニー行きます!」
 イザーク率いるボルテール他20隻の艦隊は、アスランの命により、メサイヤの
地球侵入ポイントと予想される宙域に急行していた。
 事態が発覚した時点で手遅れだった。すでに先ほどそれが降下したとの連絡も
入っている。しかし、メンデルを落とした犯人及び艦は絶対に拿捕、最悪でも
撃墜して証拠を掴まねばならない。
「ユニウス落下の傷もまだ癒えてないってのに、くそ!」
 掌にコブシを叩きつけながら、ディアッカは一人ごちた。隣のイザークは
黙して、ただ映し出されている光景を睨みつづけている。
(あいつの下でやっとプラントも落ち着きを取り戻したんだ。それを!)
 イザークは左手で白服の胸に飾られている物を握り締めた。
(オレは、あいつの邪魔をする奴を絶対に許さない!)

 それはアスランが議長に就任してから1週間が経ってのことだった。
 アスランの執務室にイザークは呼び出された。今、この場には二人しかいない。
人払いをさせたからである。
「オレはこっちで頑張るから、軍の方はお前に任せる」
 そう言って、アスランは差し出したケースを開いて見せた。
「フェイスか・・・直接お前の下につけってのか?」
「オレの周りも敵が多くてな。だから、せめて軍には一番信用できる奴を置いて
おきたいんだ」
 イザークの皮肉にはもちろん悪意はない。それが解っているから、アスランも
笑って見せた。
「ふん、つまらん。だが、貴様をたきつけたオレにも責任はある。やってやるよ」
 そういってイザークはフェイスの紋章をアスランの手から奪い取るようにして
受け取った。
「ああ、頼む」
 そんな姿にアスランは、思わず苦笑した
「状況は!」
「降下ポイントとヤキンを直線で結んで、そのままの進路をとったと仮定すれば、
後30分ほどで接触できるはずです。もっとも、敵艦をエターナル級と同速度だと
仮定した場合ですが・・・」
「ふん、素直にそんな進路をとるとは思えんがな・・・。まぁ、いい。
コンディションイエロー発令、パイロットは搭乗機にて待機」
 イザークの命令をオペレーターが復唱したアナウンスが入ると、艦全体の緊張度
が上がっていく。
 その15分後、イザークがそろそろ、艦隊を分けて索敵範囲を広げようかと考えて
いた時だった。
「艦長! 追従艦が後方から攻撃を受けています!」
「何! 索敵班は何をやっていた!」
 怒鳴ってはいるが、ミラージュコロイドを展開していれば、発見が遅れるのも
解っている。
「どうする、イザーク?」
 ディアッカの質問に対しては一瞥しただけで答えずに腕を組んだまま考える。
普通に考えれば、メンデル落としの主犯を逃がす為の陽動であろう。
「確認できている敵艦の数は?」
「5隻です」
(やはり陽動か?)
 本気でこちらを潰そうとしているには、奇襲部隊は少なすぎる。
 メンデル落としの部隊の方も、そう多い数ではないだろう。人員は多いほうが
いいだろうが、作戦を秘密裏に行う為にはその数は少ないほうがいい。
(メンデルの艦隊は多くても5隻、奇襲してきた艦隊も5隻・・・あわせても10隻か)
 メンデルを落とした部隊との挟撃も考えなくもなかったが、それは返って
好都合だ。10隻程度の艦隊に遅れをとるつもりはない。
「全艦転回! 奇襲してきた敵艦隊を殲滅する!」
 イザークの出した命令にディアッカと他の乗員は少し動揺する。
「おいおい、あっちはいいのかよ!」
「奇襲を受けた時点で、あちらの作戦は成功だろう。この隙に逃げる実行犯を確保
できる可能性は低い。だったら、こっちを落として捕虜を尋問すればいい」
 証拠としての重要性は多少低くなるだろう。しかし、このまま進んだとしても、
敵と接触できる可能性は、お世辞にも高いとはいえない。
 そう説明するイザークの言葉に他の乗員も納得した。
「取り囲むように陣を引けと味方に伝えろ! 一隻たりとも逃がすなよ!」
 イザークの命令に各員は一斉に動き出す。そんなイザークの姿に感心した
ディアッカは彼の肩に手を置いた。
「どうした? ずいぶん、冷静じゃないか?」
「ふん、当然だ! ディアッカ! オレたちも出るぞ!」
「OK、了解!」
「ふん、やはり陽動だったか」
 グフのコクピットでイザークは吐き捨てるように呟いた。
 あちらから攻めてきたものの、どこかその動きは消極的だ。常に退路を確保
しながら戦っているように見える。
「イザーク! 後ろ!」
「うるさい! 解ってる」
 テンペストを横なぎにし、敵MSの頭部を粉砕、その勢いを保ったまま、回転して
腹部を蹴りつける。
 吹き飛んだ敵MSは体勢を立て直す間もなく、ディアッカにオルトロスで貫かれた。

「・・・さすがに劣勢か」
 味方の方が機体の性能は高いが、敵の数の方が圧倒的に多い。それでも、
シンのデスティニーは獅子奮迅の活躍ぶりだった。すでに10機以上落としている。
「隊長! Nフィールドがそろそろ限界です!」
「わかった。そっちにはオレがまわる。ここは任せるが、退路の確保は怠るなよ!
 もう少しの辛抱だ!」
「了解しました!」
 劣勢には違いないが、よくやっている。戦場を駆けるシンの目にはそう写った。
ザフトも歴戦の猛者には違いないが、こっちもそれ以上の激戦を生き抜いたという
自負がある。互角以上には戦っているのだ。一部のフィールドを除いては。
 味方機の指定したポイントにたどり着いたシンが見たのは、圧倒的な強さを誇る
グフとザクだった。
 他のそれとは、その操縦センスがあきらかに違う。息があったコンビネーション
から繰り広げられる攻撃に味方機が次々に落とされていく。
「あの動きは・・・そうか、あの人たちか!」
 かつてユニウス・セブン落下阻止作戦の際、シンは自分がその強さに驚愕した
のを思い出した。ザフトでも伝説になっている、旧クルーゼ隊のその力を。
「でも、オレもあの時とは違う!」
 デスティニーから放たれた太い火線が味方機とグフとの間に割って入った。
「イザーク! あいつは・・・」
「ああ、デスティニーだ」
 かつて、フェイスに所属したパイロット“シン・アスカ”の搭乗機。そのことは
イザークもディアッカも知っている。
「確か行方不明になったと聞いてたが・・・本物か、それとも偽者か?」
「そんなことはどうでもいい。あれはただのテロリストの一味だ。行くぞ!」
「OK、行くぜ!」
 ブレイズザクファントムからオルトロスが放たれる。それは軽くかわしたものの、
その動きを予想していたかのように、グフ・イグナイテッドのビームライフル的確
にデスティニーを捕らえる。
「くっ!?」
 ビームシールドを展開させてライフル受けるが、一瞬動きが止まった。
そこを狙って、オルトロスの二射目が迫る!
(避けられない!?)
 そう判断したシンは抑えてシールドの出力を上げてオルトロスを押さえ込んだ。
しかし、隙が大きくなったところを見逃すイザークではない。
「終わりだ!」
 デスティニーにテンペストが振り下ろされる!
「・・・くっ!」
 シンのseedが弾ける!
 デスティニーのバーニアを強引に噴かしてテンペストを避ける。
 無理な動きに機体と自分の体が軋んだ。
「やらせるかあっ!」
 軋む体を無理やり動かし機体を制御、その掌から放たれたパルマフィオキーナが
グフのテンペストを砕く。
「やるじゃないか! だがっ!」
 イザークはスレイヤーウイップでデスティニーの足を絡めとり、そのまま放り
投げる!
「ディアッカ!」
「OK!」
 イザークの声に応えてザクの照準がデスティニーを捕らえたその時!
 一条のビームがオルトロスを貫いた。
「何っ!」
 慌ててオルトロスを離し、爆発を免れる。
 再びデスティニーに目を向けると、そこには赤いMAが。
「なんだ? ずいぶんと苦戦してるじゃないか?」
「遅いですよ、総帥」
 今しがたの攻撃に冷や汗をかいているのを誤魔化すかのように、シンはカズイを
毒づいた。
「悪いかったな。じゃあ、続きと行こうか!」
 つまらなそうにそう言うと、カズイはセイバーをMSに変形させた。
第4話 元クルーゼ隊

 C.E73 スペース・コロニー・メンデルをカズイ・バスカークが地球に投下。
その部隊を殲滅せんと、イザーク・ジュール率いるザフトの艦隊がカズイの
下に迫っていた。

「総帥、あいつらはジュール隊・・・元クルーゼ隊のパイロットです」
「なるほどな、お前がてこずる訳だ」
 緊張感の漂うシンに対し、カズイはいかにも面白そうな物を見つけたかのような
調子だった。
(デュエルにバスターか・・・)
 かつてアークエンジェルを何度も攻撃してきたクルーゼ隊、そのうちの二つ
の機体を直感的に思い出す。そして、アークエンジェルのブリッジで、何度も感じ
た、落とされるかもしれないという感覚も・・・。そして、それは決して面白い
ものではない。
(ならば、借りを返させてもらう!)
 シンはデスティニーにアロンダイトを構えさせた。そして、セイバーを庇うよう
に前に出る。
「オレが片方を引き受けます、だから・・・」
「いらん」
「え!? でも・・・」
 自分の言葉を短く遮るカズイにシンは少し困惑気味に反論する。
「黙って見てろ!」
 有無を言わせぬ迫力にシンは思わず機体を下げる。戦闘とは違った恐怖に体が
震えた。
 下がったデスティニーに満足すると、カズイはセイバーにビームライフルを取り
出させた。バーニアを軽く噴かせて前に出る。
(さあ、楽しませてもらおうか!)
 コクピットのカズイは頬を不敵に緩ませていた。
突然の新手の攻撃に舌打ちすると、ディアッカはザクにビーム突撃銃を構えさせ
た。
「デスティニーの次はセイバーかよ・・・」
 コンソールに映し出される情報とは細かい所が違っているが、セイバーと同型
なのは間違いない。ディアッカは何で元々はザフトのMSが謎の艦隊を指揮している
のかが理解できなかった。
(ユニウス・セブンの時と関係があるのか?)
 そんな考えも過るが、あの時とは規模が違う。それに、テロリストと呼ぶには、
部隊の練度も高すぎる。
「そんなことはどうでもいい! 落としてから調べればいい!」
(そんなに単純じゃないと思うんだけどね)
 軽くため息を吐いてみるが、イザークの言うことにも一理ある。検証は後でも
できるのだ。まずは、ここで敵を抑えて証拠を掴むことが先決である。
「OK、イザーク。さて・・・」
 どうしようかと言いかけたときだった。セイバーが前に出てデスティニーが
後ろへ下がった。まるで、
「一体で十分だというこか! ふざけるな!」
 イザークの叫びが自分の考えを代弁する。作戦か、それともフォーメーション
なのか・・・その可能性は否定できない。しかし、
「どうやら、舐められてるみたいだな」
 呟いた声は小さいものだったが、それには自然に怒りが混じった。ディアッカ
にも、ザフトのトップ・エリートだというプライドがある。
「行くぞ! ディアッカ!」
「OK、イザーク! 目に物みせてやろうぜ!」
 ディアッカは突撃銃の照準をセイバー合わせ、イザークは一気に距離を詰め始め
た。
 ザクの降らせるビームの雨を飛ぶようにかわすと、グフのビームガンが飛んでく
る。カズイはセイバーの速度を上げて、そのまま上方に避けていった。
「息の合った、いい攻撃だ」
 感嘆の吐息を漏らしたカズイは、牽制の為にビームライフルを両者に一発ずつ
放った。相手がそれに気を取られている隙に、左右のドラグーンを一基ずつ
切り離し、セイバーを変形させる。
「くそ! 速い!」
 両者の間を貫くように飛行するセイバーに照準があわない。無駄に宙を駆ける
ビームの尾に顔をしかめながら、ディアッカは舌打ちする。
 セイバーはグフの後ろをとるように進路を取って、再びMSに戻った。
「この野郎!」
 半ば慌ててグフを転回させて、右手のスレイヤーウィップを振るうグフ。
しかし、それはセイバーの機関砲の斉射で弾かれた。そして、コントロールを
失ったウィップはビームで貫かれる。それも、彼の思いもよらない方向から・・・。
「何? 新手か!?」
 そう思って一瞬目をやれば、宙に漂う小さな物体が一基。そして、イザークは
気付いていなかったが、そこは先ほどまで、セイバーがいた場所でもある。
「くそ! ドラグーンか!?」
 射出したのではなく、ただ切り離したために気付かなかったのだ。また、その
前に撃たれた牽制のビームライフルに気を取られたためでもある。
 ドラグーンは不規則な動きを繰り返しながら、グフ近づいてくる。しかし、
それだけに意識を集中してはいられない。
 自機に向かって接近するセイバーにグフはビームガンを放つも、あっさり、
シールドで防がれる。
「イザーク!」
 慌ててグフとセイバーの間にビームを連射するザク。しかたなく、
カズイはバーニアを逆噴射させて、セイバーにそれを避けさせた。
 それを見たイザークはドラグーンの動きを気にしつつ、ザクの方へ機体を
逃がしていった。このままでは、勝てないと無意識に感じたからである。
 ディアッカはそれを援護するため、ビーム突撃銃をセイバーに撃ち続けた。
だが、それも長くは続かない。
 ふと、何かを目の端に捕らえたディアッカは、機体を横にすべらせた。すると、
その瞬間に、一条のビームが突撃銃を貫通していく。そして、そこは一瞬前まで、
ザクのコクピットがあった場所である。
 カズイは先ほど切り離したもう一つのドラグーンをディアッカに気取られない
ように動かしていたのだ。
「まいったね、こりゃ」
 自分の心を誤魔化すように、軽口を叩いてみるも、戦慄に支配させれているの
は否定できなかった。
「ディアッカ!」
 心配そうなイザークの叫び声がコクピットに響く。
「大丈夫だ。それよりも・・・退くぞ、イザーク」
「ふざけるな! 舐められっぱなしで終われるか!」
「落ち着け、イザーク! ザクの装備をほとんどやられた。お前だって、残りの
武装でやれる相手じゃないことは分かるだろう?」
 ザクはオルトロスと突撃銃、グフはテンペストとスレイヤーウィップを1本を
すでに失っている。お世辞にも満足な装備とはいえない。
「くっ・・・」
 怒鳴り返すディアッカにイザークは悔しそうに引き下がった。しかし、そうは
決めたとしても、まだ問題が残っている。
「だがな、簡単に逃げられるとも思えんぞ?」
「そこは、オレが引き受ける。だから、お前は行け」
「何を!? お前を置いていける訳がないだろ!」
 あくまで軽い調子で言うディアッカに、イザークは声を荒ぶらせる。
「お前はこの艦隊の指揮官だ! 戦争っていうのは指揮官が死んだら負けも同然
だろうが!」
「・・・ディアッカ」
「なあに・・・何とか生き残って見せるさ!」
 静かに覚悟を決めたディアッカはザクのシールドからビームトマホークを
取り出した。
 切り離していた2基のドラグーンを収納し、カズイは眼前の2機の動きを見つめて
いた。
「終わりだな」
 いかにもつまらないといった感じで、カズイは呟いた。機体ごしでも、敵に戦意
がなくなっていくのが解る。
「シン、行くぞ!」
「え!? あいつらはいいんですか?」
 戦闘中のカズイの通信に少々驚きながら、シンは疑問を口にした。
「ああ。それよりも、味方の被害をこれ以上広げたくない。陣が手薄な場所を
一気に叩いて突破する。あまり時間をかけて援軍を出されても面倒だ」
(いつでも勝てるってことか)
 そう考えてシンは納得した。だからこそ、目の前の相手よりも味方と作戦の遂行
を優先したのだろう。
「・・・了解です」
 シンは小さく嘆息した。自分があれだけ苦戦をした相手を軽くあしらわれて
は自分の立場も無い。
「行くぞ」
 そう言うと、カズイはセイバーを変形させた。そして、デスティニーをその背に
乗せる。
「次にあったら、もっと楽しませてくれよ」
 カズイは2機をそれぞれ一瞥すると、その宙域を飛び去った。

「・・・見逃して・・・くれたのか?」
 飛び去るセイバーの後姿を見ながらディアッカは呟いた。緊張がとけたのか、
その顔は少し呆けている。
「くっそぉぉぉぉぉぉぉぉお!」
 敵に情けをかけられたと感じたイザークは、その屈辱からコブシでコンソールを
激しく叩いた。
第5話 覚悟

 C.E73 スペース・コロニー・メンデルをカズイ・バスカークが地球に投下。
世界は再び混迷の扉を開くこととなった。

 ボルテールに戻ったイザークの表情は極めて厳しかった。
「何をやっているんだ! こっちは倍以上の艦を揃えているんだぞ!」
 苛立ちがピークに達しているイザークはブリッジで叫びつづけていた。いつも
ならば、それを諌めるディアッカも、先の敗北の苦汁から押し黙ったままである。
「もっと艦を迅速に動かせと伝えろ! 絶対に奴等を逃がすんじゃない!」
 虚しく響くイザークの怒号だったが、決して意味の無いものではない。
彼が戻るまで、部隊の指揮系統は混乱するばかりだったのだ。
 奇襲を仕掛けてきた敵艦は5隻。それを逃がさんと取り囲むように陣を退いた
イザークの作戦は、順調に進んでいたはずだった。
 実際、数で上回っているザフト艦隊は、相手を徐々に追い詰めいていた。あと少し
時間があれば、完全に敵の退路を断って、勝敗が決したところであろう。
 しかし、それも巧くはいかない。すでに、状況は悪化の一途をたどっている。
 ボルテールに戻って解ったことだが、挟撃をしかけたコロニー落としを敢行した
部隊はたった3隻、完全にイザークの想定の範囲内である。多少の混乱をきたしたと
しても、戦力差は20対8、負けるはずがなかったのだ。

 部隊の背後から攻め込んできた、その艦隊は瞬く間に2つの艦を沈め、そのまま
陣の中央に侵入してきた。
 味方の一部はそちらに対処しようと攻撃を開始したものの、圧倒的な力を持つ
赤いMSにそれを阻まれたという。
 神出鬼没なそのMSは、戦力が拮抗したポイントに突如現れると、あっという間に、
そのバランスを引っくり返し、変形して次のポイントに移っていく、そんな戦い方を
していたらしい。結果、どのポイントでも押し切ることが出来なかったということ
である。
 結局、味方の部隊は敵艦を攻めきれなかった。結局、敵はそのまま最大戦速で
自陣を突っ切り、先の奇襲部隊と合流、現在は何とか逃がさないように抑えている
状態である。
(あいつぅぅぅうっ!)
 怒りと悔しさで握り締めたコブシとその腕は、わなわなと震えている。本当ならば、
補給が済み次第、イザークは再出撃するつもりだった。奴に一泡吹かせなければ
気が済まない。しかし、そんな感情を許さないまでに艦隊全体が混乱していた。
 挟撃自体には冷静に対処できたはずだという報告が入っている。それもそうだろう。
戦闘開始前にイザークは、全ての艦にその可能性を示唆していたのである。
 それにもかかわらず、戦況を引っくり返された理由はただ一つ。
「まるでフリーダムやジャスティスのようだった」
 ヤキン・ドゥーエ攻防戦、メサイヤ攻防戦を生き抜いたパイロットの一人はこう
言った。つまり、強大な力を持つ一機のMSの登場により、少しで済んだはずの混乱に、
拍車がかかった。それは次第に戦場を包み込み、やがて簡単には収拾できない程に
大きく成長してしまう。
 その混乱をボルテールに戻ったイザークが、やっと歯止めをかけたのだ。

「やっと落ち着いてきたな」
 ブリッジの状況、そしてオペレーターから飛び交う情報を分析しつつ、ディアッカ
はひとりごちた。そして、当然それは隣のイザークにも聞こえている。
(行くか?)
 無言で語るディアッカの瞳にイザークは小さく頷いた。二人とも、このまま終わる
つもりはない。
 しかし、そんな想いは無情に断ち切られる。
「ダメです! 味方艦2隻轟沈、突破されます!」
 ブリッジに悲痛なオペレーターの声が響く。
「くそっ!」
 短く叫ぶイザークと、小さくうめくディアッカ。この借りは絶対に返すと、二人は
心に決めたのだった。
「ヤキン・ドゥーエがテロリストに占拠されたらしい」
 オーブの行政府、その会議室にアークエンジェルの主なクルーを集めたカガリは、
現在の状況を説明し始めた。
「そのテロリストが、コロニーを連合に落としたってのか?」
「ああ。そうらしい」
 怪訝な顔で訊くムゥに、カガリは答えた。そして、少なくともアスランからあった
連絡では、そう言っていたと付け加える。
「アスランも、何とか阻止しようとしたものの、失敗したらしい。本当は、完全な
証拠を掴んでから、公式発表するつもりだったらしいが・・・」
「それも失敗に終わったと?」
「ああ。いったいどうして、こんなことに・・・」
 確認するように問うムゥに答えるカガリの声は少し上ずっていた。コロニー自体は
交戦状態にあった連合に落ちたとはいえ、その被害は世界規模である。一国の首長と
して、ひとりの人間として、それは彼女の心に深い影を落としている。
「どうも解せないわね。大西洋連合はオーブをずっと攻めてたから、そんな余力が
あるとは思えない。でも、他の国にプラントを脅かす力があるとも・・・」
「思えませんね。それにただのテロリストとは思えない」
 独り言のように考えを述べるマリューに、キラは相槌を打った。度重なる戦争で、
その国力は疲弊しているものの、プラントの軍事力は大西洋連合に次ぐものであった
はずだ。そんな簡単に遅れをとるとは思えない。

「まだ、テロリストの正体は、まだ解ってないのよね?」
「これに関しては、混乱を避けるために、少し発表を遅らせると言っていたんだが
・・・」
 マリューの問いに、カガリは一度言葉を切った。一度息を飲み込んで、その場に
いる全員を見渡す。そして、意を決したように言葉を発した。
「テロリストの艦隊は、先の戦争で連合が使っていたガーティ・ルーと同型艦で、
その数は少なく見積もっても50以上だそうだ」
「おいおい! あの艦は連合でもトップシークレットだったんだぞ! とても一介の
テロリストなんかが手に入れられる代物じゃない! それが50以上だぁ?」
 ネオ・ロアノークとしての記憶が、ムゥにそう意見させた。彼の記憶では、あの艦
は一隻しか用意されてないし、量産するという話も聞いていない。
「あいつがそう言っている。嘘を言っているとも思えない」
「それもそうだが・・・」
 誠実で生真面目、そんなものを絵に描いたような少年の顔をムゥは思い出した。
確かに、アスランはそんな嘘を吐くような人間ではない。しかし、その現実が
突拍子も無さ過ぎる、そう彼は感じた。
「キラ、軍の方はどうなっている?」
「ずっと、連合との戦いが続いていたからね。みんな疲弊してる。でも、そんなこと
を言っていられる場合じゃなくなるかもしれないね」
「もしかしたら、第2波があるかもしれない。いつでも動けるようにしておいて
くれ」
「うん。解ってる」 
 カガリに答えながら、キラはメサイアで対峙した男のことを思い出した。
「覚悟はある、僕は戦う」
 デュランダルに問われた時にキラはそう答えた。そして、彼が言ったように
再び混迷する世界・・・それと戦う覚悟、それに揺るぎはない。
 そんな決意を再び胸に刻み付けている時、いつも自分の隣にいる少女の顔が
青ざめているのに、キラは気付いた。
「ラクス、どうしたの?」
「いえ、なんでもありませんわ」
 気丈に笑顔を作って返すラクスだったが、その胸中は穏やかではなかった。
カガリの話から感じた一抹の不安、そして、ヤキン・ドゥーエを占拠したという
テロリスト・・・彼女はそれに心当たりがあった。そして、その予想は正しかったと
すぐに知ることになる。
 ただ、この時、ラクスはその可能性を否定したかった。

「木星から、例の物が届きました」
 ヤキン・ドゥーエに仮設した自分の執務室で、アビーの報告を聞いたカズイは
満足げに頷いた。
「そうか、ヤキンの方はどうなっている?」
「準備はあと3日程で完了します」
「よし、それでは作戦は4日後に開始。それまで戦闘員は警戒中の者を除いて、
できるだけ休養させろ。忙しくなるからな」
 そう命令すると、カズイは総帥服の襟を緩めて、椅子の背もたれに寄りかかった。
そして、軽くこめかみを抑えて深呼吸するように息を吐き出す。
「カズイ様も、少しはお休みください」
 自分の姿を心配そうに見つめるアビーの顔に、カズイは僅かに苦笑した。よほど、
疲れているように見えたらしい。
「解ってる。オレもいい加減疲れたからな。もう少ししたら休むよ。君も無理は
するなよ」
 カズイは一瞬だけ、年相応の少年の笑顔を垣間見せた。しかし、すぐにそれは、
一軍を統率する総帥の顔に戻る。
「了解しました。カズイ様、くれぐれもご自愛ください。それが、ここに皆の願い
なのですから・・・」
 そう言い残して執務室を去るアビーの背を見送ると、カズイはその視線を天井に
向けた。
「もうすぐだ・・・もうすぐ始まる。待ってろよ! キラ!」
 準備が整うのも時間の問題だ。そう思うと自然に心が高揚してくる。心地よい
その感覚に心を震わせながら、カズイはもうしばらくは眠れそうにないと感じていた。
第6話 決意

C.E73 ヤキン・ドゥーエの陥落、コロニー・メンデルの投下・・・すべては一人の
男、カズイ・バスカークの手によるものである。しかし、それは彼にとっては、
まだ、作戦の一部に過ぎなかった。

 オーブ連合首長国に停留しているアークエンジェル。その通路で、艦を降りると、
カズイはサイ・アーガイルに伝えていた。
「でも、オレだけ降りるっていったら、卑怯者とか、臆病者とか、オレのこと思うん
だろ?」
 嫌な奴がいなくなった。そう思ってくれた方が、自分にとっても、相手にとっても
楽なはず・・・そんな思いから、カズイは臆病な人間を演じ続けていた。
「カズイ・・・」
「どうせ、そうなんだろうけどさ。でも、だってオレ、できることなんかないよ!
 戦うなんて! そんなことは、できる奴がやってくれよ!」
(嘘だ。オレは嘘を吐いてる)
 できることは山ほどあった。自分がスカイグラスパーに乗れば、トールは死なな
かった。そして今も・・・仮にM1だとしても、自分が操ればオーブを優勢に導ける。 
「解ってる。お前には向いてないだけだよ、戦争なんてさ。お前、優しいから」
「サイ・・・」
「平和になったら、また会おうな。それまで、生きてろよ!」
 カズイの肩に手を置く、サイの表情はひたすら優しかった。
「サイ、オレ、やっぱり・・・」
(くそっ! オレは・・・)
 ここで自分が残れば戦局は変わるかもしれない。それに、艦を離れなければ、目の
前の友人が命を落とす可能性は確実に減る。そう思うとカズイはたまらなかった。
 だが、自分が成すべきことの重要性は痛いほど解っている。
「だから止めとけって、そういうの! また後悔するぞ」
「・・・わかった。サイ、また会おうな」
 別れを告げ、踵を返してアークエンジェルを降りる。
(そうだ。サイや、みんなの為にも、オレは・・・)
 カズイはすでに、臆病者の仮面を脱ぎ捨てていた。その下から現れるのは、一人の
戦士、そして生まれついての覇王としての顔である。
「カズイ様、お待ちしておりました」
「ああ。シャトルの準備はできているな?」
 艦を降りると同時に現れた黒服の男達。それが仰々しく挨拶するの迷惑そうに
制すると、カズイはリーダーと思しき男に確認した。
「はい。全ての準備は整っております。登場口まで案内させていただきます」
 シャトルに続く通路、その入り口で一人の男が佇んでいた。自分を待っていたことを
悟ったカズイは黙って男に近づいていく。すると、その気配に気がついたのか、男は
カズイに向かって一礼した。
「マルキオか・・・」
 盲目の神父の前に立つと、カズイは黒服に少し待つように手で合図する。
「行かれるのですね」
「オレが行かねば、世界が終わる。それが、運命だ。だがな、そんなものに従うのは
これで最後・・・事が済めば、オレは全てを造りかえるぞ。ロゴスもな」
「あなたが望むのならば、止めは致しません。ただ、それには大きな痛みが伴うこと
も、努々お忘れないように」
「ああ、解ってる。それに、まずはこの戦いを終わらせることが先決だしな」
 黒服に視線を向けて、話が終わったことを伝えると、カズイは通路を歩き始めた。
その背に向かって神父は深々と頭を下げる。
(そうだ。全ては、この後だ・・・)
 その為に今は、自分ができること、成すべきことを全力でする。宇宙へ飛び立つ
シャトル、その座席でカズイは胸に誓った。これから戦火にまみれるであろう、
地上の祖国を見つめながら・・・。

「夢、か・・・・」 
 目を覚ましたカズイは自分のデスクで、そのまま寝てしまったことに気が付いた。
 今、見たのは、木星圏にいた頃は良く見た夢。そして彼にとって大切な思い出の一つで
ある。
「そうだ。オレは造りかえる。この腐った世界を・・・」
 自分の宿命、それを伝えられたのは、まだ年端も行かぬ子供の頃。そんな幼い少年でも、
事が済み次第、正さねばならないと思ったものだ。
 そして今、その思いは決意へ変わる。
 一度大きく深呼吸すると、デスクの資料に目をやった。それには、これからの作戦の
詳細を記しされている。
 すでに暗記すらしている書類をざっと眺め、作戦の内容に穴が無いの確認する。
「そう、あと少しだ・・・」 
 改めて、その内容に満足すると、カズイは妖しく笑みを浮かべた。
「以上、報告終わります!」
 プラント最高評議会議長、アスラン・ザラの執務室にイザークの凛とした声が響く。
淡々と、事実と結果のみを語るイザークだったが、時折、顔が悔しさに歪む。
それはまた、彼の隣にいるディアッカも同様であった。
「わかった」
 そう言うと、デスクの上で腕を組みながら聞いていたアスランは、直立不動の姿勢を
崩さないの二人に向かって、小さく頷いた。公式な報告は終わりでいい、という意味である。
 その合図を見て取って、二人は肩の力を抜いて姿勢を楽にした。アスランが先ほど
メイリンに人払いをさせた為、この部屋に他に人はいない。アカデミー時代からの
旧友に戻っていいはずだった。
「まったく、冗談じゃないぜ。いったい、何なんだよ、あいつらは?」
「調査中だ。簡単に解れば苦労はない」
 自分たちが赤子の手をひねるように一蹴された。その事実は先ほど報告したが、
それで落ち込んでいると思われるのは癪である。そう思って、努めて明るく訪ねる
ディアッカだったが、それに答えるアスランの表情は険しいままだった。
「未だに正体不明? あれだけの戦力をどこに隠してたっていうんだよ。
宇宙人って訳でもないだろうし・・・」
「ろ獲した敵MSの解析は進んでいる。調査班の報告によれば、間違いなく地球の技術
だということだ。もっとも、ザフトの物より、幾分進んでいるらしいがな」
「なるほどね。それで、ろ獲したMSのパイロットは?」
「・・・脱出、もしくは捕虜にする寸前に自害したそうだ」
「そいつはまた・・・」
 嫌な話だとディアッカは心の中で付け加えた。軍の機密保持も大事だろうが、自分
の命を安々と捨てることはない。そんなことをするのは、宗教を盲信している人間
ぐらいのものである。
(もしくは、それ以上の信念か・・・)
 自分の考えにディアッカは鳥肌が立った。捨て身の相手の恐ろしさは、じゅうぶん
に理解しているつもりである。
「それで、その敵のMSなんだがな・・・」
「解っている。ザクやグフでは力不足だと言うんだろう?」
 ためらいがちに切り出すイザークの言葉をアスランは遮った。プライドの高い彼に
みなまで言わせない為の配慮だったが、それでもイザークの顔は苦汁に歪む。
「サードステージの開発は進んでいるが、とても実戦に投入できるレベルではない。
幸い、数はこちらの方が多いんだ。なんとか今の戦力で頑張ってもらうしかないな」
 その返答に、あからさまにディアッカは落胆の色を見せ、イザークは悔しそうに
舌打ちした。
(そこまで、敵の力は・・・)
 彼等がそこまで、機体の非力さを嘆くとは思わなかった。報告にあった敵の戦力、
そしてセイバーとデスティニー、その力をアスランは改めて実感する。
 一度嘆息すると、アスランはデスクの電話を取った。
「車を回してくれ、行き先は工場区だ」
 MS工場は喧騒に包まれていた。メサイア攻防戦の後、一時は訪れた平穏も、今はもう
ない。ヤキン・ドゥーエ陥落後、ここのメカニック等もフル稼働で働いているのだ。
 メイリンの案内のもと、イザークとディアッカを携えたアスランは、二体の灰色一色
に染まったMSの前で歩みを止めた。
「これで、何とかならないか?」
 そう言うアスラン、そして傍らのメイリンの表情は複雑だった。この機体に二人は
あまり、いい感情を持てなくなっている。
「こいつは・・・インパルスか・・・」
「まあ、グフよりはマシな機体か・・・」
 一体はソードシルエット、もう一体はブラストシルエットを装備している。
 口を空けたまま見上げるディアッカと、睨み付けるように見るイザーク。アスランも、
二体のインパルスを見つめていると、ディアッカが疑問を口にした。
「でも、なんでインパルスなんだ?」
「ミネルバにシルエットとチェスト・レッグフライヤーが幾つか余ってたからな。
それを流用させてもらった」
「なんとも、ケチ臭い話だな・・・」
「言うなよ。戦争続きでプラントの財政も楽じゃないんだ。毎日のように財務大臣の
愚痴を聞かされる身にもなってみろ」
 少し鬱気味になりながら、アスランは自分も愚痴るように言った。その様子から、
政治家も大変だと思ったディアッカは、少し議長という立場に同情する。
「それで、スペックは前と同じままなのか?」
「コア・スプレンダーはコストが高くてな。だから、合体、シルエット換装機能は
排除してある」
「おいおい、劣化版か?」 
 イザークは声を荒立てた。コスト削減ばかりを重視している機体に、自分の命など
預けられるはずもない。
「いや、その代わりにデスティニーやレジェンドと同じハイパー・デュートリオン
システムを採用してある。出力は前のインパルスとは段違いだ。しかし、少々無理を
して乗せたから、かなりピーキーな機体に仕上がっている。だが、お前たちなら問題
ないだろう」
「なるほどな。そういう訳か」
 その言葉に安堵すると共に、イザークは、この機体を隠していた理由が解った。
ハイパー・デュートリオンシステムは核と電力のハイブリッドである。故に、核の使用を
禁止しているユニウス条約に抵触してしまうのだ。相手が何者か、それが解らないとは
いえ、できるだけ核の使用を避けたいのは間違いない。
 それでも、万が一ということもある。有事の際に、頼りになる機体が有るのと無いので
は、状況が変わってくる。その準備を怠らないアスランに、イザークは少し感心した。
「一長一短のある機体ですが、こと得意なレンジではデスティニーを上回る性能が発揮
できるはずです。もちろん、計算上のことですが」
 手持ちのノートPCに二機のスペックを表示させ、メイリンは二人に回した。
それを見た二人の目が驚きに変わる。
「グゥレイト! こいつなら!」
「ああ、次は勝つ」
 敵のセイバーの力とパイロットの技量の高さは解っていたが、この機体で負けるはずが
ない。モニターに映し出される予想以上の数値の高さに、二人はそう確信した。
 自分の機体の調整に向かう二人の背から、アスランは二体のMSに目を移した。
 その姿を目に写せば、自然に一人の少年を思い出す。力を求め、それに溺れ、策謀に
踊らされつづけた赤い瞳の少年を。彼を正しく導けなかった後悔は、ずっとアスランの
心の奥深くに、鋭い棘として刺さっている。
(シン、お前はそこにいるのか?)
 報告ではデスティニーが敵の部隊にいるらしい。彼は今、何を思い、何を考えてそこに
いるのか、アスランは何度も自問しているが、答えはでない。
 傍らにいる少女は、インパルスに行方不明の姉の姿を重ねているのだろうか、
その表情は、どこか悲しげだった。
「強すぎる力は、また争いを呼ぶ!」
「いいえ、姫。争いがなくならぬから、力が必要なのです」
 アーモリーワンでの、カガリとデュランダルの言葉が脳裏を過る。恐らく、どちらも
真実だ。争いが力を必要とし、その力がまた争いを呼ぶ。
(しかし、力がなくては何も守れない)
 それもまた真実だ。だから、力を求める。
 結局、人は争い、戦うことをやめようとはしないのだ。たとえ、願うものが同じで
あろうとも、その手段や考え方が違えば、おのずと対立してしまう。
 平和を望み、力を求める。そんな矛盾した思想を、目の前の機体が象徴している・・・
アスランは、そんなことを感じていた。
(やはり、オレは戦士でしかないのかもしれないな・・・)
 何があってもプラントは守らなければならない。それが、議長という自分の肩書き
にかせられた使命である。そして、その使命を果たす決意を新たに誓う。
「シャスティスの調整を進めておいてくれ」
「えっ・・・?」
 突然のアスランの命令にメイリンは戸惑いの表情を浮かべた。
「それと、ミーティアの準備もだ。ミネルバと一緒に、いつでも出られるようにしておい
てくれ」
「アスランさん・・・」
 自分の袖を掴んで見上げる少女の目は潤んでいた。そして、小さく首を振る。
姉と同じように、身近な人間がいなくなるかもしれない。そんな恐怖に脅えている
のが見て取れた。
「大丈夫。オレは、ちゃんと帰ってくるよ」
 アスランは彼女の肩に手を添えると、安心するようにと笑顔を作った。

 ヤキン・ドゥーエの司令室、その司令官の席に座ったカズイは、モニターの作り出した
作戦地図と、そこの端に写しだされた時刻表示をじっと見つめていた。
 いや、彼だけではない。その場にいる20人ほどの人間も、モニターに集中している。
「作戦開始時刻まで、後、10、9、8、・・・・・」
 カウント・ダウンの声に司令室の人間すべてが、息をのんだ。沈黙が支配する中で、
ただひとつ響く透き通った声・・・次第に緊張が高まっていく。
 ・・・そして、待望の数字が一際大きく耳に届いた。
「ゼロ!」
 そのタイミングに合わせて、カズイは大きく息を吸い込んだ。そして、一瞬だけ間を
空けて大きく叫ぶ。
「ヤキン・ドゥーエ、発進だ!」
第7話 偽装と本命と 

C.E73 カズイ・バスカークの手によって、ヤキン・ドゥーエの陥落、コロニー・メン
デルは地球に落とされた。そして、今、ヤキン・ドゥーエが地球に進路を取って動き出
す。新たな策謀が彼を中心に渦巻いていた。

 カガリ・ユラ・アスハが黙読している書類の見出しには、次のような文字が並んでい
る。
――大西洋連合艦隊によるオーブ侵攻作戦に伴う核兵器の使用について
「これは、一体どういうことなんだ?」
 机上に肘を突いて、そのまま掌を額に押し付ける。
諜報部員の報告によると、大西洋連合はオーブに対し、核兵器を使用する用意があった
らしい。作戦開始予定時刻はコロニーが落ちた日から3日後のことである。
軍としての機能がじゅうぶんに働いている場合はともかく、今のオーブでこの作戦が防
ぎきれるとは思えなかった。時間をかけて侵攻を続けられた為、オーブ軍は酷く疲弊
している。現在の状況を鑑みれば、連合の作戦が成功する可能性は非常に高かったと
いえるだろう。
「テロリストに助けられた?」
 一人ごちたカガリは慌てて首を振った。そんなことはありえるはずがない。結果的に
助けられという形になっただけに過ぎないはずだ。
 そんな思いを振り切って、次の書類を手に取った時、けたたましい電話の音がその
作業に水を差した。
「カガリだ。えっ!? 何だって? ・・・ヤキン・ドゥーエが、動き出した?」
 その一報を受けたカガリは、背筋に冷たいものを感じながら、オーブの首長会を開く
ように命じるのだった。
「どうだったの?」
 行政府の会議室で待っていたキラは、カガリに首長会の様子を訊ねた。
「ああ。軍を宇宙へ上げるということは、全会一致で決定した。ただ・・・」
「ただ?」
「必要以上、といったらおかしいかもしれないが、酷く脅えている首長が何人か
いてな。確かに、あんな物が地球に落ちてくる、なんて考えたら恐ろしいのも解るん
だが・・・」
 腕を組んで考えるようにしながら、カガリも席につく。彼女等の他に円卓に座して
いるのは、マリューとムゥ、そしてラクスである。
「それで、すぐに宇宙に上がるの?」
「そうしたいのも山々だが、そっちも準備する時間が必要だろう? 現在のヤキンの
速度から計算すると、後100時間は余裕がある。だから、限られた時間だけど、できる
だけしっかりとした準備をして上がってもらいたいと思っている」
 キラの質問に答えるカガリだったが、その内容を聞いてマリューとムゥは怪訝な表情
を浮かべて顔を見合わせた。
「そりゃあ、また随分とゆっくりだな」
「そうね。余裕がありすぎるわ。そっちに目を向けさせて、他の物を落とそうなんて
可能性はないの?」
「メンデルが落ちてから、地球周辺の隕石や廃棄コロニーにはザフトが目を光らせて
いるから、それは大丈夫だと思う」
 そう答えるカガリだが、釈然としていないのは端から見て明らかだった。ヤキン・ド
ゥーエを地球に落とそうとするのであれば、その速度が遅すぎる。しっかりと、準備を
して止めにきてくださいと言っているようにすら感じるのだ。
「のんびりしていたら、仮にこれが陽動だった時に、僕等は止められないかもしれ
ない。でも、準備を怠ったら、ヤキン・ドゥーエにいる敵の本隊も止められない。
できるだけのことをやって、早めに宇宙へ上がりましょう」
 言って周りを見渡すキラに、一同は頷く。
「クサナギ級が20隻とアークエンジェル。これが、今のオーブが動かせる最大限の
戦力だ。アスラン達と協力して、絶対になんとかしてくれ」
「うん。解ってる」
「指揮はキラに任せる。それと・・・」
 カガリが視線をラクスに移すと、彼女は微笑をたたえた。
「はい。エターナルも動かしましょう」
 いつもと変わらないとは思いつつ、キラは何かラクスに違和感を抱いていた。
問えば自分には答えてくれるだろう。しかし、無理強いはしたくない。
 だから、いずれ自分から話をしてくれるまで、キラは待とうと思うことにした。
「予想通りといったところか・・・」
「はい。ヤキン・ドゥーエの進路上にザフト艦隊が集まり始めています」
 ヤキン・ドゥーエの司令室、その大型スクリーンが映し出す地図と情報を眺めながら
呟くカズイにアビーが答える。
「宇宙に上がってきたオーブと共に、オレ達を迎え撃つ。まぁ、当然といったら
当然か」
「現在、集結しているザフト艦の数は約40、最終的には100隻近く集まると予想されま
す。地球から上がってくるオーブ艦隊は多くても30といったところですから、敵艦隊の
総数は110から130ぐらいになるかと」
 手元のコンソールを操りながら、アビーは次々とスクリーンに情報を表示させる。
それを見ながら、カズイの隣にいるアーサーが、
「まいりましたね。オーブが上がってくれば戦力比は倍以上ですか・・・ちょっと、
厳しかないですか?」
「本当にそう思っているなら、もっと深刻そうに言って欲しい物だがな?」
 呆れた顔でカズイは答えた。しかし、アーサーは調子を変えず、ひょうひょうとした
感じで言葉を続ける。
「僕だって負けるとは思ってませんよ。でもね、できるだけ味方の被害は減らしたい
じゃないですか?」
「言ってみろ」
「今、ザフトは地球近辺の廃棄コロニーや隕石への警戒が高まってます。ですから、
それにあえて、チョッカイを出してやりましょうよ」
 得意げに言葉を紡ぐアーサーに、カズイはそのまま続けろと目で促す。
「あちらさんだって、馬鹿じゃない。本命が違うところにあると予想している人間も
いるはずです。だから、相手の予想通りのことをしてやるんですよ」
「廃棄コロニーを監視している部隊を攻めれば、当然、敵も警戒するようなる。そっち
に部隊を割かざるを得なくなれば、敵の本隊も減る、ということか・・・」
「さすが、総帥! ご明察です。それで、ちょうどいい廃棄コロニーがないかと思って
探してみたんですが・・・」
 立ったまま、自分の席のコンソールを動かすアーサーに、アビーは迷惑そうに椅子
を動かす。
「ちょっと、艦長、この場所は?」
 スクリーンに表示された廃棄コロニーの位置に、アビーは驚愕の声を上げる。
それは、プラントからザフト艦隊の進路上と思しきポイントにあるからだ。
「はっ! いいだろう、やってやるよ」
 不敵な笑みを浮かべて自分を見るアーサーに、カズイは高らかに笑って答えた。
そもそも、味方の方が、敵より数が劣っているのである。時には危ない橋を渡って
見せねば、こちらを優勢に導けない。その為の作戦は、大胆であれば大胆である方が
いい。カズイは、そう考えた。
「すぐに出撃する。アーサー、準備しろ。オレも出る」
「何も総帥自ら・・・」
「場所が場所だ。オレが行った方がいい。それにお前が発案者だ。付き合ってもらうぞ」
「それについての異論はありませんが・・・」
 わざわざカズイが自ら出る必要ないのである。本来であれば、今の席から動いて
欲しくは無い。しかし、任務に危険が伴えば伴うほど、カズイは自分が行くというのだ。
そして、言い出したらなかなか聞かないのは解っている。
 そう思って諦めたアーサーは渋々とカズイに頷いた。
 ヤキン・ドゥーエを阻止するために、ザフト艦隊と合流するため発進していたミネル
バのクルーは、目の前の出来事にざわめきだっていた。進路上の廃棄コロニーが
襲撃を受けているのである。   
 すでに、この宙域を警戒していた2隻の艦は沈んでおり、それを沈めたと思われる1隻の
敵艦がコロニーに向かっている。
 艦長席のアスランは苦虫を噛み潰したような思いだった。いくらなんでも、ザフト艦
隊の進行ルート上にあるコロニーを襲撃されることは、想定していなかった。あまりに
も大胆な犯行である。
「MS隊発進させろ! 敵艦を殲滅する!」
 アスランの叫びがブリッジに轟くと、オペレーターのメイリンの声に従って、次々に
MSが発進していく。
 敵の本命がこちらとは思えなかったが、放置しておくわけにはいかない。ヤキンだけ
でなく、このコロニーまで動かされたら、厄介なことこの上ない。
「オレも出る! あとは任せる!」
 壮年の艦長に怒鳴るように命令すると、アスランはMSデッキに下りた。
 自分の愛機に乗り込んで、OSを起動させると、程なくその目に光が灯る。
(これ以上好き勝手にさせてたまるか!)
 機体の持つ名にかけて、これ以上の愚考を許すわけにはいかないと、アスランは怒り
にも似た感情を抱いていた。
「アスラン・ザラ、ジャスティス出る!」
第8話 剣と正義(前編)

 モニターに映し出される白い戦艦は、闇色に染まる空間に一際映えて美しく見える。
ガーティ・ルー二番艦のブリッジ、その艦長席に座したアーサー・トラインは、かつて
自分が乗艦していたミネルバの姿、感慨深げに見つめていた。
 当時の任務は、セカンドステージのMSの戦闘データ収集と地球圏の情勢の報告で、それ
を知っていたのは、デュランダルを含む、プラント上層部の一部だけである。かつての上官
であるタリア・グラディスはその余地もなかったはずだ。
 おどけた副長、そんな雰囲気は崩していない。しかし、今の彼は、自他共に認めるカズ
イ・バスカークの右腕だ。ミネルバの時とは違い、自分の手腕を如何なく発揮することが
できる。
「どう思う?」
「旗艦であるのは間違いないでしょう。今でも、あの艦はザフト随一の戦闘艦ですから」
「そうだね。なら、彼もいるんだろうね」
 アビーの答えに同意しながら、アーサーは一人の青年を思い出した。
 パトリック・ザラ元議長の息子にして、フェイスに所属していたザフトのトップ・エー
ス、アスラン・ザラ。共に轡を並べて戦った彼も、現在は、プラント最高評議会議長と
いう立場である。しかし、ザフトの誇る最強の戦士であることには間違いない。
 今回の事態に対し、自らの手で終止符を打つ為に出撃する可能性は高いだろう。
「総帥が負けるとは思えないけど・・・さて、どうするかな?」
 ここでミネルバを沈めるのも一つの手である。アスランとミネルバを落とすことができ
れば、ザフトは混乱を極めるだろうし、今後、こちらの陣営が有利になるのは疑いようは
ない。ただし、問題が一つ残っている。
(時間の余裕はどの程度かな?)
 敵部隊の進路上である為、すぐにコロニーのエンジンを始動させて撤退する予定
だった。重要なのは、敵にこちらの狙いを絞らせないことで、意識を廃棄コロニーや隕石
に向けるということ。その意味で作戦自体は、もう成功したといってもいい。
「ここで無理をする必要はないと思われますが・・・」
 目を閉じて思索をめぐらせるアーサーに、アビーが意見を述べる。確かに、ここで無理
をする必要はない。ただ、目の前の獲物が惜しいのも事実である。それに、このまま撤退
すると、カズイの機嫌が悪くなりそうだ。
 ここから、ヤキンに戻る時間。敵の増援が来る時間。そして、ミネルバを沈める為に
必要な時間、それらを複合的に考察して答えを出す。
「15分たったら撤退の信号弾を出してくれ。それ以上、ここに留まるのは危険すぎる」
「了解しました」
 敵にアスラン・ザラがいるのであれば、この短時間にミネルバを撃沈するのは無理で
あろう。しかし、そうで無ければミネルバは落とせる。ただし、その確立は低そう
だが・・・
(あとで怒られなきゃいいんだけど・・・)
 小さな不安を抱えつつ、アーサーはそっとため息を吐いた。
 技術力以上に、軍としての練度が高い。アスランは、その現実に驚愕していた。敵の
小隊は、統率された動きと連携のとれた攻撃を繰り広げていた。対して数が多いはずの
味方の小隊は、後手に回らざるをえなくなり、徐々に追い詰められていく。
(赤服クラスの力を敵パイロットは持っている)
 ここ最近は戦争続きで、ザフトのパイロットの質は非常に高い。それにも関わらず
味方は圧されている。認めたくはないものの、アスランはそう評価せざるを得なかった。
「これ以上やらせはしない!」
 叫びと共に、アスランはその愛機、インフィニット・ジャスティスを戦闘に割って
入れる。
 ビームライフルの牽制によって、動きを封じられる一機のグフ。それに照準をつけて
いる敵機を発見すると、ジャスティスがラケルタ・ビームサーベルで、その腕を肩から
分断した。
「確かに、グフよりも上かもしれないが!」
 強力な加勢に、戦闘バランスが一変した。味方機を援護しつつ、ジャスティスは次々
に敵機を戦闘不能にしていく。
「次!」
 叫んでアスランが次の獲物にビームライフルの照準をつける。すると、見覚えのある
機体が高速で前を横切った。思わず引き金を引くのを忘れて、アスランはその動きに
目を奪われる。
――我らが誤った道を行こうとしたら、君もそれを正してくれ・・・。
 その言葉と共にデュランダルから与えられた、救世主の名を冠する真紅の剣。
迷いと共に滅びたかつての愛機。一瞬でその記憶が甦る。
「セイバーか!?」
 その姿を昔の主人に見せつけるようにMAから変形するセイバーに、アスランはうめく
ように呟いた。
 細部は確かに違う。しかし、間違いなくセイバーの同型機である。そして、イザークと
ディアッカを相手にしてなお、それを一蹴した、現在確認されている最強の敵機・・・。
「まさか、こんな所に出てくるとはな・・・しかし!」
 この敵を撃墜すれば、戦局は一気にこちら側に有利に傾くはず・・・。
 懐かしさすら感じる赤い機体を見据えながら、アスランはここで討つと心に決めた。
「ジャスティス・・・。アスラン・ザラか」
 ――キラ・ヤマトの親友にして、プラント最高評議会議長。そして、ザフトの誇る
最強の戦士である。愛機、インフィニット・ジャスティスはストライク・フリーダムと
共に、現行のMSのトップクラスの出力を誇り、特に近接戦闘に関しては、無類の戦闘力
を発揮する。
 カズイは、目の前の敵に関する情報を、その胸中で復唱した。自分の目的を達成する
為に邪魔となる、最大の障害の一つでもある。
「ここで落とすのも、また一興か」
 この場で出会えるとは思わなかった大きな獲物に、カズイは一瞬、頬を緩ませた。
いずれ倒せねばならぬ敵である。予定より早いかもしれないが、だからといって
不都合がある訳ではない。
 距離を保ったまま、ビームライフルの引き金を引かせると、カズイはジャスティスを
中心に、弧を描くようにセイバーを動かした。その間もライフルは連射させ、ビームの
雨を注がせる。
 ジャスティスは、直撃するものはシールドで受け、当たらないと見切ったものは、
そのまま機体の脇を素通りさせる。
(こんなものなのか?)
 セイバーを正面に捕らえながら、アスランの脳裏に疑念が浮かんだ。
 十数発に及ぶビームの内、ジャスティスを捕らえたのは僅か3発。とても正確とは
言いがたい射撃である。イザーク達が苦戦する相手とはとても思えない。
 しかし、その考えはすぐに改めさせられた。
 背後で起こるけたたましい爆発音。コンソールを見れば、5機の味方が撃墜されたと
表示させている。
 自分の機体を狙ったかに見えたビームは、ことごとく味方機に命中していた。セイバーの
狙いはジャスティスではなく、周りの味方機。それも、ジャスティスをブラインドに
しての攻撃である。おのずと反応が遅れた味方機はを回避できずに爆散していった。
「みんな下がれ! 巻き込まれるぞ!」
「しかし、議長!」
「いいから下がれ! お前等が手を出せる相手じゃない!」
 ここにいるレベルのパイロットでは、援護に入られても邪魔なだけ。それが返って自分
の隙を生むかもしれない。
 背筋を凍らせながら、アスランは残った味方機に命令を出した。怒気を孕んだ声と迫力
に親衛隊を名乗る5機のグフはおずおずと機体を下げる。
「ほう、サシで来るか・・・。潔いじゃないか!」
 カズイも味方機を下げさせた。巻き込む可能性があるのは、こちらも同じ。そんな
つまらないことはしたくない。
 右手の獲物をビームライフルからビームサーベルに代えると、カズイはジャスティス
に向かって、セイバーを全速力で突進させた。
第9話 剣と正義(後編)

「なっ!? 速い!!」
 ジャスティスに向かって加速するセイバーに、アスランはビームライフルを向けようと
したが、一瞬で諦めた。引き金を引く前に、セイバーのサーベルが自らに届くと判断した
からだ。
 ビームシールド展開して、横なぎにされるサーベルを受けたジャスティスは、右腰部の
ビームサーベルに手をつけた。
 引き抜きざまに刃を生み出すビームサーベル。それを逆手に持ったまま、ジャスティス
が振るう。しかし、ビームの生み出したピンク色の軌跡は目標に到達する前に、セイバー
のシールドにかち上げられた。
「終わりだ」
 右腕を跳ね上げられ、大きな隙を見せるジャスティスに向かって、カズイは静かに宣告
した。
 左手で、もう片方のビームサーベルを引き抜いて、ジャスティスのコクピットに目標を
セイバーに定めさせるカズイ・・・だが、彼の脳裏に警鐘を響いた。
 回収したデスティニーに残された戦闘データを瞬間的に思い出す。その両足を切り裂い
た鋭利な刃物は、どこに搭載されていたのかを・・・。
「くっ!? 」
 身の危険を感じたアスランのseedが弾ける! 感覚が研ぎ澄まされていくのを感じ
ながら、迫るセイバーに対してジャスティスの脚部を唸らせた。
「あれを見ていなかったら、危なかったかもしれないが!」
 左のサーベルで、ジャスティスの右足のビームブレイドを受けると、セイバーは右のサ
ーベルを叩きつけた。それを、ジャスティスはシールドに内臓させれているビームブーメ
ランの刃で受け止める。
「なに!?」
 直撃を確信していたカズイの目が、驚きに大きく開かれる。
「落ちろ!」
「チッ!」
 アスランは密着した状態のまま、ファトゥム-01のフォルティス・ビーム砲をセイバーに
向けた。舌打ちをしながら、カズイは咄嗟にビームシールドを展開させる。
 激しいビームの干渉音が両者のコクピットに轟いた。セイバーは大きく弾かれたものの、
殆ど隙を見せずに姿勢を建て直す。二機の間に大きく距離が開いた。
「あれを・・・防いだ!?」
 今度はアスラン驚愕する番だった。今のは、必殺を疑わなかった一撃だったからである。
(何でセイバーが・・・何者なんだ、こいつは?)
 出力は殆ど同じだろう。機体やサーベルをぶつけ合った限り、相手が有利にも、自分が
不利にも感じなかった。だが、そこはさして問題ではない。問題なのは、近接戦闘に特化
したジャスティスが、この距離でアドバンテージを保てないという事実なのだ。
 以前、自分が乗っていたから尚の事、アスランには解っている。確かに、セイバーはど
の距離でも戦える機体だ。しかし、こと近距離において、ジャスティス以上の戦闘力を誇
るとは思えない。こちら方が圧倒的に近接用の武装が多いのだ。
 イザーク達の持ち帰った戦闘データと以前のデータを照合した結果、出力の向上と小型
のドラグーンを装備している他は、大して変わりがないとの報告も受けている。
 そこまで考えて、アスランは気付いた。
(・・・ドラグーンだって?)
 過去に相対したドラグーンを使用する機体は、中距離以上を好んで戦っていた。それも
そうだろう。自在に操れるとはいえ、複数のビームを様々な角度から放つのだから、自機
から、より遠いほうが危険が少ない。
 それにも関わらず、あえてセイバーはジャスティスに接近戦を挑んできた。よっぽど自
信があったのか、それとも自分が舐められていたのか・・・どちらにせよ、敵は最大の武
器を使ってはいない。そこから導き出される答えはひとつ。
「まだ、本気を出していないってことか・・・だが!」
 敵は真の力を見せていない。そのことにアスランは戦慄を感じつつも、戦士としてのプ
ライドが自分を奮い立たせた。

 セイバーのコクピットで、カズイはジャスティスの姿を見ながら感嘆していた。
「さすがに、キラと並び賞されるだけのことはある。シンがやられる訳だ」
 予想以上だった。捕らえたと思った攻撃を防いで、尚、反撃してくる。その反応の鋭さ、
機体の制御、どれをとっても、過去に出会った敵の中でも、間違いなく最上級の強さであ
る。
 カズイは不思議と顔がにやけてくるが解った。弱い敵に勝っても、喜びなど微塵も感じ
ない。強い敵に勝ってこそ、その勝利に意味が見出せるというものだ。歓喜にも似た感情
が心に満ち始める。
「見せてやるよ、その強さに敬意を表してな!」
 カズイはセイバーのドラグーンを全て射出させた。
 10機のドラグーンが、ジャスティスを取り囲む。あくまで不規則に、それでいて正確に
放たれるビームをアスランは避けさせ、あるいはシールドで防がせる。
「この距離じゃ・・・!」
 遠距離でドラグーンに攻撃され続けば、なぶり殺しも同然である。しかし、ドラグーン
のエネルギーは無限ではない。必ずそれを補給する為にポッドに戻る。アスランは、その
時を狙って再び接近戦に持ち込むつもりだった。
しかし、セイバーの動きはアスランの予想を裏切る。
「馬鹿な!?」
 ジャスティスに降りしきるビームの雨、まるでそれが見えていないかのように、セイバ
ーは突っ込んでくる。
「こいつ!? 狂ってるのか?」
 少しのコントロールミスで、ビームは自機にあたるだろう。そして、自らの攻撃によっ
て、動ける空間は狭まっているのだ。こちらの攻撃を避けるスペースも小さくなっている。
常人の感覚とは思えない。
 ビームの雨を掻い潜りながら、アスランは僅かな隙を見つけてセイバーにビームライフ
ルの銃口を向ける。しかし、その刹那、ライフルはセイバーのビームライフルに撃ちぬか
れた。
「くぅっ!」
 ライフルの爆発をジャスティスはシールドで防ぐが、セイバーはその間に距離を詰めて
いる。
振り下ろされるセイバーのビームサーベル、狙いはジャスティスの頭部からコクピット。
何とか機体をスライドさせて、狙いは避けるも、ジャスティスの右腕が肩ごと切り飛ばさ
れた。
(やられる!?)
 返す刀でジャスティスを狙うセイバー。死の恐怖を感じるのとは裏腹に、アスランは、
無意識に右手でスイッチを押した。
 ジャスティスから射出されるファトゥム-01、その翼部のビームブレイドが、セイバーの
右手に持ったビームサーベルを弾く!
「なっ・・・に!?」
 思いもよらない攻撃にカズイがうめく。大きな驚きと共に、セイバーが始めて大きな隙
を見せた。
「このっ!」
 振り上げられるジャスティスの右足。反射的にカズイはセイバー反らせるようにするも
のの、その脛部のビームブレイドは、ビームライフルを持った左手首を切断する。
「ふっ、やるじゃないか!」
「ぐあっ!」
 小さな笑いと共に、カズイはセイバーにジャスティスの腹部を蹴りつけさせた。ジャス
ティスは吹き飛び、再び両機の距離が開く。
セイバーはドラグーンをポッドに戻し、エネルギーの補給させる。対してジャスティス
のファトゥム-01も、大きく迂回しながら主人の下へと帰っていった。
「左腕部の損傷は・・・シールドの展開には問題なし、か」
 損傷のチェックをしているカズイは、どこか楽しげだった。愛機に傷をつけられたのは
腹立たしいものの、目の前の獲物はそれを忘れさせるほど楽しませてくれている。
「シンには悪いが、ここで終わりだな。アスラン・ザラ」
 セイバーは左手を、ジャスティスは右腕を失っている。共に損傷はしているものの、被
害の度合いはジャスティスの方がはるかに大きい。多少は粘るかもしれないが、油断をせ
ねば自分の勝利に揺るぎは無い。
 カズイはジャスティスに意識を集中させた。第二、第三の手足ともいえるドラグーンは、
自分が意思を発すると同時に飛び立つはずだ。ジャスティスを見据えながら、カズイはそ
のタイミングを推し量る。その時だった。
 ガーティ・ルーの方角から数発、光がはじけて消えた。
「撤退か? くそっ! アーサーめ・・・」
 コンソールに表示されている時計を見れば、作戦終了時刻を少し過ぎている。アーサー
もギリギリまで待って信号を出したのだろう。それは解ってはいるものの、カズイは毒づ
かずにはいられなかった。
「まあ、いいだろう。もともとアレはシンの獲物だしな」
 小さくため息を吐きながら、カズイは無線の周波数を動かしていく。やがて止まった数
字が示すのは、国際救難チャンネルだった。

「撤退するのか?」
敵艦の方向から上がる発光弾にアスランは呟いた。撤退信号であることは間違いないだ
ろう。
このまま続けても勝てる可能性は少ない。下げた味方も自分を不利と見て、援護に入ろ
うとしているが、それも敵軍が抑えるだろう。
それでも、何とか勝たねばならない。そう覚悟を決めていたアスランは、心底安堵する
の感じていた。
「・・・・・・ジャスティスのパイロット!」
 突然入った無線に、アスランは戸惑った。無線の周波数は、国際救難チャンネル・・・
つまり、味方ではない。
「セイバーのパイロットか! 貴様、いったい何者だ!」
「いずれ解るさ。だが、今、話したいのはそんなことじゃない。シン・アスカを知っているな?」
「何・・・だと?」
 シン・アスカ。その名前にアスランは動揺を隠せなかった。自分の声が少し震えている
のを自覚する。
「シンは今、オレの下にいる。いずれ貴様の前にも現れるだろう。ここで討てればと思ったが・・・
やはり貴様の相手はあいつに任せることにするよ。じゃあな、楽しかったよ、アスラン・ザラ」
「ちょっと待て! お前! シンは!」
 話は終わったとばかりにMAに変形するセイバー。それに向かってアスランは叫ぶが、
声はもう届かない。
バーニアの尾をなびかせて小さくなっていくセイバーを、アスランは見送ることしかで
きなかった。

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