たーちゃんとお母さんコミュの手紙４１通目

たーちゃん、明けましておめでとうございます。

男の子って本当に雑なもんね。

年賀状くらい書きなさいな。
せめて電話の一本くらいしてくれたって罰当たらないでしょうに。

お母さん、たーちゃんをそんな子に育てた覚えはありません。

今時は友達感覚の親子が増えてるらしいけどお母さんは納得出来ません。

寒中お見舞いの前に年賀状を書きなさいな。

そうそう年賀状と言えば思い出すわ～。

まだたーちゃんが小学校３年生の時だったわね。

確かクリスマスで初めてケーキを食べた夜だったわよね。

鈴木さんのおばあちゃんから電話があって「煙突が無いからサンタクロースが来ない」だなんて、いい歳して電話口でおいおい泣くもんだからお母さんサンタクロースがプレゼントを持って出ようとしたのよ。

お母さん、困ったわ～
だってせっかくのクリスマスに笑顔のたーちゃんを置いて、一時とはいえ家を空けるんですから。

食卓に並んだ
ちらし寿司
お吸い物
筑前煮
卵焼き
春菊の天ぷら
お母さんの自慢の白菜のお漬物

そして神棚にのせてあるクリスマスケーキ

後ろ髪引かれる思いでプレゼントの白菜のお漬物を包装紙に包んで家を出ました。

とにかく鈴木さんのおばあちゃんにプレゼントを届けて急いで戻ってこようと走ったのよ。

サンタクロース姿のお母さんを見て、神様にするように拝むおばあちゃんを見たら何も言えなくなっちゃってね。

包装紙を開けてパアッと笑顔になる鈴木さんのおばあちゃんに挨拶し家路を急いだのよ。

真っ暗闇の道は、たーちゃんを想うお母さんの心のよう。

だって日中に田中さんの奥さんが
「本物のサンタクロースは宇宙人だっていう噂よ。トナカイじゃなくて宇宙船で来て牛や鶏を連れ去るんだって女性自身に書いてあったのよ」
だなんて恐ろしいことを言ってのけたのよ。

なんだか気になって自然と早足になったわ。

遠くに家が見えた時、ホッとしたわ。

待っててね、たーちゃん。
お吸い物を温めなおすわ。
お母さんの自慢のちらし寿司で喜ぶたーちゃんを思い出したらプッと笑みがこぼれたわ。

その一瞬、パッとまばゆい光りが家の内側からしたの。

ほんの一瞬の出来事。

それはお母さんが口に紅を引く一瞬より短かったわ。

不安に駆られるお母さんをよそに、突き刺すような光りがまた家から一瞬だけもれる。

焦りばかりが募り、何度もつまずきながら
「た～ちゃん」
「た～ちゃん」
叫びながら走ったの。

つっかけすら脱ぎ捨て
「サンタクロース宇宙人よ！大切なた～ちゃんを連れ去らないで～」
乱れる髪を取り繕うとせず必死に走るお母さんに無惨にも凍てつくような閃光が再度走る。

サンタクロース宇宙人やめて～
たーちゃんを連れ去らないで～

家路がどれだけ長かったであろう。
マラソンの瀬古さんより早く走っても着くことの出来ないもどかしさにお母さんは軽くイラッとしたわ。

玄関に着いた時は心臓が飛び出しそうになっていて戸を持つ手が震えた。

唾を飲み込み勢いよく中に入る。

宇宙人よおやめなさい！
お母さんが到着したんだからおやめなさい！

この宇宙人！
宇宙人！
鳩山！
幸！
たーちゃんから手を放しなさい！

居間の戸を開けた瞬間、強烈な光が襲ってお母さん、見えなくなったの。

「グ、グワァー。目が．．」
ホウキを手に「お母さん！」と叫ぶたーちゃんの隣を勢いよく叩いたわ。
何度も何度も何度でも。

手応えありました。
たーちゃんを、ううん地球を救った達成感ににも似た安堵感に浸っていると．．．

お母さん！
お母さんなんてことを！
なんてことをするんだい！

ウワァ～と叫ぶたーちゃん。

視界も良くなってきた頃、はたと気づいた。

泣き叫ぶたーちゃんの隣には無惨にもバラバラになった黄色の破片が。

よく見るとプリントゴッコだったわ。

理解をしたお母さんは心臓が止まりそうになったの。

お母さん、申し訳なくて申し訳なくてブラジルまで穴を掘りたかったわぁ。

口をきいてくれなくなって布団を頭から被るたーちゃんにお母さんは懸命に謝ったわ。
そりゃあ懸命によ。

夜中に黄色の破片とまだ裏が白紙の年賀状を見つめて動けなかったわ。

夜も明ける頃、目の赤くなったお母さんは、はたと気づいたの。

謝るだけでは駄目ね。
行動しなくちゃ。

急いでジャガ芋とサツマイモで芋版を作って押したわ。
そりゃあ夢中で芋版を押しまくったわ。

仕上げに左手で「今年もよろしく」と書き、ポストに投函しといてあげたの。

朝ご飯の時、たーちゃんは口をきいてくれなかったわ。

自慢の白菜のお漬物にも箸が進んでなくて悲しくなったわ。

どんなに話し掛けても、どんなに謝っても話してはくれなかったの。

お母さん、こんなに謝ってるのに口もきいてくれないたーちゃんに思わず

「立派に口がついてるのだから話しなさい！黙ってばかりじゃ日も暮れるわ！」

そしたらたーちゃんったら
「年の暮れだもん」

お母さん、頭にきて
「なんて口答え！お母さんに向かってそんな口の聞き方あるのかえ？次に汚い言葉言ったら頭ポカッよ！ポカッよ！」
拳を握り締めて頭を叩く真似をする。

たーちゃんは
「そんなことしたら鈴木のおばあちゃんに言い付けるもん。それにお母さんの漬物なんか食べないもん！」

そのまま箸を置いて外に飛び出して行った。

お母さん、たーちゃんに嫌われただけでなく大事な大事な白菜のお漬物も無視するなんて．．．

お母さん、困惑したまんま年越し蕎麦を打った。

悲しみを吹っ切るために無我夢中で打ったわ。
ちょびっとこぼれた涙も塩というスパイスになったわ～。

たーちゃんの好きな舞茸の天ぷらも用意したのに黙々と食べるだけで話してくれない。

除夜の鐘も鳴り終わり、お母さんの心はうなだれたまま。

新年になっても明けない心が暗くて．．．

ふと見つめた壁にみつおの言葉が

ありのままの自分でいいじゃない
だって自分だもの

そうだ！
その手があったわ。

意気揚々として夜が明けるのを待ったわ。

たーちゃんが起きても相も変わらず黙りこくっている姿もなんのその！
お母さんには秘策があったのよ！

朝食を片付けてから
宿題の書き初めをやらせたの。

毎年たーちゃんは「お母さん大好き」と書いてくれるの。

期待してたわ～

筆を持ちなかなか書かないたーちゃんにイラッとしながらも悟られないようにお母さんも書き初めをしたわ。

お母さんも毎年恒例
「漬物」と書いたわ。
だって、たーちゃんが書いてくれるはずだもの。

横目でたーちゃんを見たら「プ」の字が見えた。

ま、まさか

続けて「リ」が！

お母さん、改めて根深いと感じたの。
男のくせにグジグジとしつこいわね。

堪えられなくなったお母さんは、外に飛び出してラジオ体操第２を力強く踊ったわ。
精一杯踊りました。

気持ちが落ち着いたところで中に入り、熱～いお茶をすすったわ。

白菜のお漬物を貪ってホッとしたところで居間に入ると

「プ」

「リ」

「ン」

「の」

「得」

「意」

「な」

「お母さん」

だ、

「大好き」

あぁ～、涙で滲んでよく見えない

そんなお母さんに
「お母さん、明けましておめでとう～ﾃﾍｯ」
舌を出して無邪気に笑うたーちゃんは可愛いわ。

お母さんは天にも昇る気持ちでココアと神棚のケーキを分け合って食べたの。

食中毒で病院に運ばれる中、たーちゃんに言ったわ。

「お母さん、プリンって言ってたけど本当は茶わん蒸しなのよ」

黄色繋がりで綺麗にまとめたところで
今年もよろしくお願いします。

P.S. 今から年賀状書くなら元旦じゃなくて吉日よ。