たーちゃんとお母さんコミュの手紙２３通目

たーちゃん、吉報よ！

ケミカルが戻って来たの！ケミカルジーンズがナウいらしいのよ！
お母さんも穿き続けた甲斐があったもんだわ！
お母さんを中心に地球は回ってるんだわ！
春よ！
春が来たのよ！

さて、先日春の装いを買いに町のワークマンまで向かうバスの道中、犬と一緒に乗ってきたキレイな女の人と会ったの。

お母さん、この女の子誰かしらとジッと見つめて考えてたの。

そしたら、ふとカゴに入った犬と目が合ったのよ。

なんて言うのかしらホンワカするほど可愛いらしいのよ～

足元に寄ってばかりいた頃のたーちゃんに張るくらい可愛いのよ。

なんだか「お母さん！お母さん！」て呼ばれてる気がして心地良かったのよ。

はたと我に返ったらつぶらな瞳のワンチャンがお母さんに向かってワン！ワン！吠えてるじゃない！！

お母さんは直感したの！
このワンチャンはたーちゃんだわ！
たーちゃんが憑依してるのよっ！

女の人はワンチャンがけたたましく吠えてるから困って叱り始めたの。

お母さんはすかさず
「アンタ！余計な事するんでない！！」

目を白黒させて驚く女の人に諭すように優しく語りかけたの。
「いい！よく聞くのよ。お宅の…いや、そのワンチャンはワンチャンであってワンチャンでないの！そのワンチャンはたーちゃんなの！お母さんのたーちゃんなのよ！」

口をパクパクする女の人が気を取り戻し、慌てて言った
「な、何を！この犬は私の太郎です！あなたなんて知りません！」

お母さんはしたり顔で言ったの
「ほらね、だからお母さんのたーちゃんなのよ。わかったかしら？」

「な、なんなんですか！私の太郎なのになんてことを！」

お母さんはやれやれって思ったわ。
なんでわからないのかしらと不憫に思ったの。
余りにも可哀相なワンチャン……もといたーちゃん。

憐れよね。
同情にも似た感情で女の人を見たわ。

よりけたたましく吠えてるワンチャンに女の人は
「太郎！いい加減に吠えるのやめなさい！」
て叱ったもんだからお母さん、一瞬見失ったの。
お母さんは人で無かったわ。

鬼よ！
羅生門の鬼よ！

「まだわからないのかえ？このオタンコナスがあ！そのワンチャンはたーちゃんなのよぉ～！たーちゃんが憑依してんのよぉ！たーちゃんがお母さんにＳＯＳを発してるのよ！たーちゃん何何？うんうん、この見知らぬ女の人が怖いの？お母さんの所に来なさい！抱きしめてあげるから！」

「やめてください！なんなのよこの人？怖いわ！恐ろしいわ！」

「アンタ！目上の人に対してなんて言う下品な言い方！恥を知りなさい！恥を！たーちゃん～ごめんね～怖かったでしょう？ちょ、ちょっと何アンタ！なんで『降ります』連打してんのよ！」

「降ろして！降ろして！今すぐ降ろして～！」

キキ～ッ！
バスは急停車し運転手がお母さんをつまみ出したの！

「待って～！たーちゃん、待って～」
急発進したバスをお母さん追い掛けたの！
速度を上げるバスをお母さん、さゆりの天城越えのように手を出して口をワナワナ震わせてたわ。

たーちゃん、田舎のバスは意外と早いのよ！