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Pの『THE つだん部屋』コミュの【】終の店

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【コピペ】



まだ上京して間もない頃。

これは、俺が初めて住んだアパート付近での出来事。

紹介されたのは下町の路地を行った先にある木造のアパート。

静かな山間の町で育った俺にとって東京のけばけばしいまでの騒がしさはそれだけでいてもたってもいられないほどのストレスになった。

初めて新宿駅に降りた時、「あ、これは駄目だ」と思った。

俺は予定していた小田急線を諦めると芽場町、水天宮といった方面へと物件を探しに行き、ようやくその下町に落ち着けそうな部屋を見つけたのだった。

しかし下町と言っても既にバブルの後であちこちが地上げで人がいなくなり、テレビでいうような下町はなく昼間はまだしも、夜はどちらかといえば見捨てられたゴーストタウンに近かった。

俺のアパートでも空き室が目立っていた。

部屋から学校まで一時間足らず、時間が余るとよく川縁を散歩して帰ってきた。

アパートの入口に店屋が5件ほど固まった一角があった。

服屋に布団屋に仏壇屋、それに床屋に和菓子屋。

服屋と布団屋はシャッターがしまりっぱなし、床屋は土日以外は休業だった。

しかし和菓子屋だけは休みが不定期だった。

通りから見るショーケースには、おはぎと団子がポツリと二組。

それと大福とおにぎりが一つずつと、いなり寿司が三つほど転がっている。

隅には明らかにどこからか買ってきたようなジャムパンとアンパンも並べられていて、およそ売る気があるようには見えない店だった。

その店は50歳くらいのおじさんが一人でいるはずだったが、いつも店の奥に隠れていて接客しているのをみたことがなかった。

それによくみると二日も三日もおはぎも団子もお稲荷も位置が変わっておらず、そのままにあった。

その界隈は昼も二時をすぎたあたりからかなりきつい西陽が差し込んだ。

和菓子にも陽は容赦なく当たっていたが、日よけを下ろすとか、ショーケースに布をかぶせるとかの工夫もなく、ただジリジリと道行く人にガラスが日差しを反射させていた。

たまに違うものが並べてあると、「おやっ?」と思うほどその駄菓子屋は変だった。

俺のアパートの入り口が駄菓子屋の側なので、必然的に店の前を通らないと家には帰れない仕組みになっていた。

和菓子屋の状況は他人事ながら気になった。

朝、行くときに甘辛団子が三本並んでいると、夕方、路地に差し掛かった頃に何本売れているだろうかと気になったりもした。

しかしたいてい変化はなかった。

たまにおはぎがなくなっているので売れたのかと驚いているとゴミ捨て場に店の包装紙にくるんで捨ててあるのを偶然、見つけたりもした。

「駄目なんだよ。あそこは偏屈でカミさんも子供もみんな愛想つかして出ていっちまったんだ。この界隈で付き合いがある人間なんていやしない。あんたもあんなところで買い物すると病気になるか、祟られるよ。」

駅で偶然、顔を会わせた不動産屋にそう忠告された。

それに刺激されたわけではなかったが、俺は店に寄ってみることにした。



「こんにちはー。」



日曜日の昼下がり、俺は店にいた。

興味本位で声を掛けてみたものの、ショーケースの中の売り物は通りからでは分からないほどに干からびていた。

おはぎは表面にいくつも亀裂が入り、小豆が白く変色していた。

大福は表面が汗をかいているのかしみが出来ていた。

団子も表面が乾き、串に付着した部分は完全に粉を吹いていた。

いなり寿司は見た目に変化はないものの並べ方が雑で四つの俵型の物体がただ放り出されただけのようになっていた。

築40年以上は経っているであろう店内は全体に薄汚れ、三和土のあちこちに埃がたまっていた。

カレンダーは昭和のものだったし、時計も止まっていた。

何か動くことをやめてしまった空間の重さが漂っていた。

俺は三度ほど声をかけてみたが、返事がないので諦めて帰宅した。

翌朝、店のゴミ箱の中に前日見たいなり寿司とおはぎ、団子などが捨てられていた。

それから二日ほど経って、俺は店主が店先にすわっているのを発見した。

黙って頭を下げると、あちらもニコニコ笑って頭を下げてきた。

翌日も、その翌日も、店主は店先にいた。

そして俺は遂に買い物をすることにした。

店主はいたがショーケースの中身は変わっていなかった。

団子におはぎに大福、そしていなり寿司。

俺は迷うほどの種類もないのに、どれを買っても大丈夫かと考え込んでしまった。

そんな俺を店主はじっと見つめていた。

「あ、これください」

散々、迷った挙句に俺はジャムパンを指差した。

すると店主はその声で生き返ったかのように動き出すと、ケースから袋に入ったジャムパンを取り出して置いた。

袋にも入れずそのまま家に持って帰ると俺はジャムパンをテーブルの上に置いたまま手をつけなかった。

賞味期限はまだ二日残っていたが、別に食べようと思って買ったわけではないということに気がついていた。

それからも店主とは、俺が店先を通り過ぎるたびに挨拶をしあうようになった。

挨拶自体はいいのだが、なんだか居心地の悪さも感じるようになってきた。

なんだか毎日毎日素通りするのが悪いようなきがしてきた。

どういうわけか店主は俺が行き来する時間に店先に座るようになった。

近所の人に尋ねてみても、やはり以前のように空っぽの店だよという人が多いというのに。

俺は学校に通っているため同じような時間に出かけていたから、合わせようと思えば合わせられたのかもしれなかった。

しかし、合わせているのだとすれば余計に気持ちが落ち着かなくなってきた。

仕方なく俺は店主と目が合うとジャムパンを一つ買うようになった。

ところが、それから俺が買わないでおくと、ショーケースの中のジャムパンがやたら増えたりする


今までは一つあれば平気で放っておいたのに店主は買い足すようになった。

しかも、近くのスーパーでジャムパンを籠に詰め込んでいるのを俺は目撃してしまった。

ショーケースのジャムパンはまるで俺が買うのが義務だとでもいうように増え続けていった。

それに関して何も言うわけではなかったが、店主の行為はひどく押し付けがましいものに感じられた。

情が熱いのか馬鹿なだけなのか、俺はどうしても素通りするわけにはいかず、ついつい買ってしまう。

だがそれはショーケースの中にあるジャムパンが俺の部屋に移動しただけにすぎなかった。

ある時、大学の友達が三人遊びに来ることになった。

前日、俺は店に行くといつものように座っている店主に「明日の昼までに欲しい」といなり寿司を三十個注文した。

店主は初めての和菓子屋らしい注文に驚いて見せた。

俺「友達が来るんです。男ばかり三人。それでおじさんのいなり寿司を食べさせてあげようと思って」


店主「・・・わかりました」



店主は僅かに興奮した様子を見せた。



店主「がんばります」



※コメントに続きます

コメント(2)

※続き



当日、友達が来る前に俺は店に行くと、注文したいなり寿司三十個がプラスチック製の大きな皿にキレイに並べられ置いてあった。

店主はいつものようにすわっていたが、俺をみるとニコニコしながら皿を差し出した。

店主にお金を渡すと、その皿のままアパートに持ち帰った。

そのあとすぐに友達がきて、早速いなり寿司を食べることになった。

俺はまず一つ手に取ると口に入れた。


俺「ん・・・?」


買ったいなり寿司は妙な味がした。

黴臭いような、しょっぱいような、何ともいえない味だった。

友達もみな残してしまった。

「これ、絶対傷んでるよ・・・」

なかのひとりが飯粒の中からスルメのようなものを引き抜いた。

「漬物かなぁ。」

鼻先に近づけ、臭いを嗅ぐ。

「食べるのよそうか・・・」

申し訳なさそうに友達が俺に告げた。

その午後はなにやらそれでケチがついてしまったかのように会話も弾まず、思ったよりもずっと早い時間にお開きになってしまった。

駅まで送った帰り道、俺は口惜しさに胸が詰まった。

せっかく訪ねてきてくれた友人に申し訳なかった。

他の物ならいざ知らず、和菓子屋のいなり寿司といえば看板メニューじゃないかと俺はおもった。

それをこんな風にいい加減にしてるのはおかしい。

指摘してもいいんじゃないか?

指摘する権利が俺にはあるだろう。

俺はちょうど、店じまいを始めていた店主に近づくと文句をいった。

店主は一言も弁解しなかった。

黙って俺の顔をみつめているだけだった。

聞いているという感じではなかった。

ただ単に目の前で話している俺を観察しているみたいな、すごく嫌な感じだった。

一通り話し終えた俺に店主はぽつりと「みんなで食べたの」とだけ訊ねた。


俺「はい、みんな変な味だと言っていました」


それを聞くと店主は下ろしかけのシャッターの内側に逃げるように駆け込んでしまった。

くっくっと押し殺した泣き声のようなものが耳に届いた。

翌日、店のシャッターは閉じられたままになっていた。

昼ごろ、近隣の者が何度か声をかけたが店主は姿を見せず、返事もなかったという。

帰宅すると店の前に人だかりができていた。

警官もいた。

「あ、○○さん!」

顔見知りが俺に気づき声をかけると警官が近づいてきた。

警官「○○さんですか?ちょっと話が聞きたいのでよろしいでしょうか?」

俺「え?なんですか?」

警官「ここのご亭主が自殺なさったのだけれど・・・ちょっと聞きたいことがありまして」

俺はパトカーに乗せられるとその場で事情聴取された。



※続きます
※続き



俺「どういうことですか」

鼻白んで訊ねた俺に担当刑事が説明した。

刑事「奥の六畳で縊死されたんです。遺書にあなたのことがあるんです。あなた、あの方と交友関係にあったという事実はありますか?」

俺「はぁ?]

俺の様子に刑事は頷いた。

刑事「やはりね。ちょっと来て貰えますか」

刑事は俺を伴って店の裏手から住居部分へと案内した。

刑事「ここが現場になった寝室なんですけれど」

部屋の真ん中に蒲団が敷きっぱなしの十畳ほどの部屋だった。

捜査のためだろうか隣の八畳との境である襖は取り払われ、欄間の一部に何かを激しく擦り付けた痕が残っていた。

下には丸椅子が倒れている。

刑事「そこでやったんですけどね」

刑事は欄間のそこだけ色が新しい擦過痕を指差した。

刑事「日記におたくのことがいろいろ書いてあって、何か夜中に家にまで訪ねてきただの、仕方なく晩酌しただのと・・・まあ、妄想だと思うんですけれど」

俺「俺はそんなこと知りません」

刑事「あ、それは良いんです。ところで昨日、いなり寿司を頼みましたよね。彼は日記にそう書いてるんです」

俺は頷いた。

刑事「召し上がりました?」

俺「はい」

すると刑事はうーんと唸って困った顔をして黙り込んでしまった。

刑事「じゃあ、説明しないといかんなぁ」

その時、俺は捜査員が隅で写真を撮っている奇妙な「根」に気づいた。

やってきたばかりのときは興奮していたため、原木を模した彫刻か何かを調べているんだろうと思ったが、それは色こそ似ていたが全く別の形をしていた。

刑事「実はあの店主、あれを削っていなり寿司に混ぜたらしいんです」

途中から刑事の話は半分しか耳に届かなかった。

「根」には手足がついていた。

顔も。

干柿のように干からびてはいたが、それは人の形をしていた。

刑事「あのミイラが誰だか、これから調べますが、別かれた奥さんが行方不明になっとるんです」

刑事「友達は食べたと証言してくれますかな」

俺「そんな事言えません」

刑事は腕組みをした。

刑事「すると被害届を出されるなら便にミイラの成分が含まれていることを同定しなければなりません。検便を願いたいんですが、今朝はもうお済みでしょうなぁ・・・」





俺はその場で呆然と立ち尽くすしかなかった。





報道や警察発表に圧力がかかったのか、このことがニュースや新聞に取り上げられる事はなかった。





俺はそれから2年後に大学を卒業すると、逃げるように地元に帰った。



※終わり

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