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Pの『THE つだん部屋』コミュの泣き虫の森

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※創作


──人は火を使い知恵をつけた時から木を伐採し森を削った。

──産業革命を経ても人は森を削り続け、沢山の火を使い氷河さえ溶かし始めた。

──未来、津波で大半の国々が海に沈んだ。

──人は争いをやめ涙した。

──人々は手と手を取って涙を拭い立ち上がった。

──長い長い時間をかけ人々は元の生活を取り戻して行った。

──そして人々は繋いだ手を振り払って行った。

──同時に世界中の大地に葉や全身が真っ赤な「赤い森」が現れる。

──赤い森は近付く人を泣かせる力があった。

──故に伐採することができなかった。

──伐採しようとする者は激しい怒りと悲しみに体を蝕まれ血涙を流して死んで行くのだ。

──調査や興味本意、逃避といった様々な思惑が人々を赤い森へと足を向けさせた。

──誰一人、赤い森から帰る者はいなかった。

──赤い森は人々を飲み込むように勢力を増し、村や国を地図から消して行った。

──人は争いをやめ多くは絶望し涙した。

──人々は赤い森に畏敬の念と親しみやすさを込めて「泣き虫の森」と呼んだ。

桜が咲き乱れる昼の頃。

今にもぐずつきそうな空の下、一人の少女は家を飛び出した。

次いで開いた扉からは罵声が響き、酒ビンが鈍い音を立てて割れる。

少女は涙と鼻水で顔をクシャクシャにさせて遠吠えのような泣き声をあげた。

小さな少女の痩せ細った身体はグラリと崩れ地面に着地する。

苦痛は背中から徐々にひろがって、背中全体が鳴り響いているようになった。

少女の視界はグニャリと歪み、赤い色が鮮やかに踊っていた。

ざわっ……ざわ……ざわわわわ。

空気が嘶く。

頬を撫でる風は微かな桜の匂いとゾクゾクするほどの寒さを伝えた。

さーっと霧がかかって周りの風景を飲み込みながら赤い樹木が蠢き少女に迫っていた。

ざわざわと再び風が鳴り、桜の花びらが少女にザッザッとかかる。

家の扉の奥からは短い悲鳴が上がり、バタンと扉は閉まる。

少女はヨロヨロと立ち上がると赤い森──「泣き虫の森」にゆっくりとした足取りで向かった。

少女にはもう……帰る家はなかったのだ。

泣き虫の森は少女を歓迎するように霧が二つに割れて少女に道を作っていく。

少女は振り返らず裸足で走る。

瞳からシトシトと雨を降らせながら降り積もった桜を散らして、風を切るのだ。
後悔、不幸、暴力とは無縁だと自分に言い聞かせて奮い立たせる。

チクリと胸に刺さるのはこれから向かう場所が悲しみに満ちているということだった。

しかし少女は選択する。

選択肢がたった一つだとしても……。

森の中は心臓の鼓動があちこちの樹木から鳴り響き、赤く発光しながら葉や枝から赤い液体を滴らせていた。

少女は恐怖や不気味さを感じる前に自然と顔を緩めていった。

少女は身体中を人肌に触れているような感触を覚えながら、心は落ち着いていくのを感じる。

脳裏から喜怒哀楽全ての記憶が薄れ伽藍に帰す。

少女は記憶をなくし赤い土の上に倒れ、ただただ笑顔だけが溢れた。

「何も知らなければ人は幸福でいられるのですよ」

透き通り諭す声は木々を伝って少女に囁いた。

少女はスポンジのようにその言葉を脳髄に染み込ませ反芻する。

「さぁお眠りなさい……人の子よ……人の形を捨てこの森の一部に帰るのです……けれどもし願いがあるなら一つだけ叶えてあげましょう」

声は「代償は頂きます。もっとも記憶がないのであれば願いすら湧かないでしょうが……」と冷ややかに付け加える。

しかし少女は予想を裏切った。

魂はそれを忘れることはなかった。

魂は少女の瞳に光と涙を映し、喜怒哀楽を与えていった。

少女は赤い世界を射抜くような視線を走らせ「優しかったパパはママがこの森に盗られて変わってしまったの!……だからママを返してよ!優しかったパパと約束したんだから!」と叫ぶ。

それを聞いた声は老若男女を伴って大笑し、空気をにぎやかに震わす。

「貴女の母親は貴女を育てるのに嫌気がさしてここに来ました。私が盗ったのではありませんよ?貴女が母親を追い詰めたのです」

少女は怒鳴り返す。

少女は魂いっぱいにふくれあがってくるものを押さえきれず、大地を踏み締め立ち上がるのだ。

声がいくら少女を小馬鹿にしようと怒鳴り跳ね返す。
止めどない涙を流しながら声が押し潰れ老人のような声になろうとも、少女は口走り続ける。

母の名を添えて……。

けれど少女は人間である。
日が傾き曇り空がパラパラと雨を降らせ、赤い森の木々を伝って雨水は地に伏した少女を濡らした。

少女は瞳や口から血を流しピクリと動かなかった。

対して声は少女をせせら笑う自分の声が鼻声であった。

声は知らず知らずの内に少女の懸命な姿に涙していたのだ。

声は今まで下等で矮小な人を見下して接してきた。

それが一人の少女によって泣かされてしまい、大いに驚き涙を止めることができなかった。

泣き虫の森はそれに請応するようにざわめき、透明な涙を流した。


──その日を境に世界中の赤い森……「泣き虫の森」は消えていった。

──同時に泣き虫の森に入って行った人々は家族や友人の元に帰った。

──それに少女と少女の母親が含まれる。

──代わりに人々は知らず知らずの内に代償を払った。

──人々は涙を失ったのだ。

──一人の少女を除き、人々はなくしたのだ。

──だが、一人の少女は円満な家庭の中で思った。


「涙を失っても人は笑顔を失わない」と……。



おわり

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