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Pの『THE つだん部屋』コミュの【1164】解き放されしもの

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【コピペ】



 ひろしの部屋は2階にある。新春の高校受験のため、その日も深夜まで勉強していた。


 隣の犬が今夜はやけに吠えている。普段は昼行灯などと飼い主が失笑するおとなしい犬だが、今夜はどういうわけだ?


 漆黒の闇に、朱色の月が幾分青ざめて辺りを照らしている。

午前1時を過ぎた頃である。机の前にある窓のカ−テンが少し揺らいだ。


晩秋の夜だ。勿論、二重サッシの窓は閉めてあり、隙間風が入るはずはない。


閉め忘れたのかなぁ?


ひろしは不思議に思い、カ−テンを開けてみた。


  閉まってる!?


怪訝な表情を浮かべる自分の顔が窓に映るのを見た時、ひろしは息を呑んだ・・・

その向こうの漆黒の闇の中に・・・赤く充血した眼がじっとこちらを伺っている・・・

ひっ!う、うわあ〜っ


動こうとしても、体の筋力が全く機能しない・・・


その時、赤い眼は・・・こう言った・・・・


・・・ ア・ケ・・・テ・ミ・ロ・・・


 開けてぇみろぉ!!



 ひろしの手が窓の鍵へと導かれる・・・・無理矢理に・・・・

 



ひろしの母が目を覚ましたのは午前6時であった。

朝食の仕度をし、夫を送り出すと、時計は7時を少し回っていた。


ひろしを起こさないと・・

階段の下まで来て声を上げた。

ひろしぃ〜起きてるの?
ひろぉしぃ〜!


反応がない・・・


しょうがないわねぇ・・・



2階に上がり、ひろしの部屋のドアまで来る。

ひろし!起きなさい!

もう7時過ぎてるのよ!

   ・・・・・・・・・


開けるわよ!


その時、ふと何か聞こえたような気がした。


 ア・ケ・テ・・・ミ・・・ロ・・・



ドアを開け、中を覗きこむ・・・彼女は驚愕した・・・

開け放たれた二重サッシの窓・・・朝の陽を浴びながらカーテンがそよいでいる・・・・

そして・・・机の上で・・・ひろしは白目を剥いて仰向けになっていた・・・

口から泡を吹いて、身をくねらせながら呻いている・・・



  ひ、ひろし・・・・



その時、まるで起き上がり小法師のように、ひろしは立ち上がった・・・


白目を剥き、こちらを向く・・・くねくねと身をくねらせ・・・ひろしは・・話した・・・


お前も、開けたな・・・

ひぃっひひっ・・お前も開けたな・・・


ひろしは、そのまま床に飛び込むように倒れ込む。
 顔面を強打し、口と鼻から出血しているが、一切構わず彼女の足元まで蛇のように這ってくる。

そして・・・彼女はひろしの手で足首を掴まれた・・・

 白目を剥いた眼が・・・彼女をゆっくりと見上げる・・・・


ひ、ひろし!や、やめなさい!!


動こうとしても、彼女の筋力は全く機能しなかった・・・・・






 閑静な郊外の住宅街・・・
ある家から、男女の二遺体が発見された・・・

第一発見者は、市立中学校の教師(46歳)である。
その日、その家の長男(15歳)が無断欠席し、家庭に連絡しても、電話に出ない。どうにも気になり、その夜に家庭訪問してみることにした。

ドアフォンを鳴らしても応答がない・・・
ドアのノブを回すと、開いた・・・

ごめんください・・・

教師がゆっくりとドアを開けると・・・同時に人間らしきものが教師に抱き着いてきた・・・


ひっ、うわあ〜!!


それは血まみれの男だった。

教師は気が動転しながらも、警察と救急車を呼んだ。


警察の調べによると、玄関で亡くなっていたのは、この家に住む会社員の男性(43歳)で、死亡推定時刻は当日午後6時頃、つまり教師が発見するほんの2時間前である。
死因は出血多量によるショック死。異常にも30箇所以上の鋭利な刃物による刺し傷があった。
血痕等の状況から、帰宅したばかりの男性を台所でいきなり襲撃し、男性は玄関ドアまで逃げ出したところで力尽きたと考えられる。

 また、建物2階の長男(15歳)の部屋で、殺害された男性の妻(42歳)が死んでいるのを発見。
手に血の着いた包丁が握られており、外傷は特になかった。また、台所から階段、そして2階までの血痕、及び、妻の衣服に付着した血液などから判断すれば、夫婦間の何らかのトラブルにより、妻が夫を殺害し、自らも薬物等により自殺した可能性が高いとして、妻の死因の特定と血痕の鑑識結果を待つということになった。
 なお行方不明となっている長男が、事件に巻き込まれたか、あるいは事件の事情を知っているものとして、発見に全力を上げている。






 ○○警察署捜査一課。

北村は署の玄関を出て、すぐ隣のコンビニまで歩いた。タバコを買い、署の玄関外に設置された灰皿まで向かう。
情けない話だが、署内禁煙のため、ここに通わなければならない。

それにしてもなぁ〜


北村はタバコを燻らせながら、閑静な郊外で起きた殺人事件を思った・・・


妻の犯行ったって・・・自殺した人間が、凶器の包丁を握りしめてるか?普通・・・どう考えても不自然だろう・・・


 誰かが故意に握らせた・・・・犯人に仕立て上げるために・・・・・
いやいや、それも猿芝居だ・・・わざとらしい・・・
それも不自然だ・・・

 つまり・・・ああいう状況に成らざるを得ない、何かがあった・・・

 そういうことか・・・



西日がまともに射してくる。それが眩しいのか、タバコの煙りに噎せたのか、北村は渋い顔でぼちぼち黄昏れゆくであろう町並みを見つめていた。



「先輩!ここにいたんですか!」

 後輩の古畑が声をかける。


「何か分かったか?古畑・・・・」


「・・・やっかいな事になりました・・・、妻の・・死亡推定時刻なんですが・・・同日午前7時・・・です。」


「・・・死因は・・・なんだ?」

「はい、解剖の結果・・・急性心不全・・なんです・・薬物は何ら検出されませんでした。あっそれと・・・階段並びに妻の衣服、凶器に使われたと思われる包丁に付着した血液は、被害者のものと一致しました・・・。」


「・・・・・そうか、ありがとう・・・・・しかしだ、古畑君よぉ〜、てっことは何かぁ?午前7時に息子の部屋で急性心不全で死んだ妻が、午後6時頃起き上がり、夫をめった刺しにしてから、また2階の息子の部屋に戻り、おとなしく死んでいた、という訳か?」


「・・・・・そういう事に・・・なります・・・」


「で、何かぁ?息子は驚いて逃げちまったってことか・・・」

その時、北村は妻が死んでいた息子の部屋を思い浮かべた・・・・開け放たれた窓・・・何故だ?何故窓が開け放たれていたのか・・・・・


「先輩、すみません。これを最初に言わなくてはいけませんでした・・・長男ひろしの遺体が・・近くの雑木林で先程、発見されました・・・・外傷は顔を強打されたような跡があるそうですが、致命傷とは思われないそうで、解剖の結果待ちです。」


・・・・・同じことだ・・・


 ひろしも死んだ・・・

結果として・・一家消滅・・・・・


「古畑、こりゃあ俺達の出る幕はないぞ・・・」


これだけの事件だ。県警主導捜査だから何人も応援に駆け付けており、これから第1回目の捜査会議だ。


北村はますます頭が痛くなった・・・


「古畑、行くぞ・・・・。」


北村と古畑が署の玄関に入った時、ロビーの受付では大きな声が響いていた。


「だからぁ〜繁田さん、そういう話を警察に言ってきても困るんですよ。ね、パトロールはしっかり強化しますから、今日のところはどうぞお帰りくださいよ!」

「後悔するぞ!お前らは何も分かっとらん!知らんぞ!どうなっても!!」


繁田という老人はそう言い捨てると、玄関から忿懣やりかたないといった様子で出ていった。


「おい古畑、ありゃ何だ?」


「先輩、しげじいですよ、ほら二三日前から通ってる繁田の爺さんですよ。何でも、怨霊が解き放たれたとか言って騒いでる爺さんですよ。」


 怨霊か・・・・


「古畑・・・今度の事件も、以外とその線だぞ・・・わっはっはっは!」


「せ、先輩・・・・・」



二人の刑事は会議室へと急いだ。







繁田英雄(82歳)・・・

地元で長く郷土史を研究してきた。
県立高校で教鞭を執った後、妻にも先立たれ、今では悠々自適に郷土史研究を続けている。

また彼の父親は元陸軍中将であり、軍都としてかつて栄えたこの地に骨を埋めていた。


ところで繁田は、その父から伝承されたある教えを、今でも忠実に守っている・・・

ムメ様の御所と呼ばれる小さな祠が、繁田の家の近くの雑木林の中にひっそりと佇んでいる・・・

父親が病床についた時だから、かれこれ30年前のことだが、繁田を呼び寄せ、父親はこう語ったという。

「わしもそう長くはない・・・お前に・・どうしても言っておかねばならぬことがある・・・」


そして、次のような話を語った・・・・


 明治時代、富国強兵を錦の御旗に近代国家建立に躍起となった明治政府は、封建時代の古き因習を一掃しようと様々な変革を試みた。

しかし、変革の時期には反動勢力が台頭してくるのが世の中の常で、特に呪詛などを生業とする陰の勢力が躍進した。


そのような傾向を助長したものが、薩長を中心とする藩閥政治の陰湿な抗争であった。

俄に近代国家に変貌したと言っても、その連中の頭の中は魑魅魍魎が跋扈する不思議な国のアリスであった。
特に軍部における抗争は激烈を極め、対抗する勢力の要人暗殺のため、呪詛を中心とするエスパーたちが暗躍したという。


しかし、日清、日露の大戦を終え、曲がりなりにも近代化が骨身に滲みてくると、手の平を反すように、反動組織の一掃に躍起となった。


 その中で特に標的に上がったのは、招魔開霊会という呪詛集団であった。

その教祖がムメであった。史上最強の呪術師として、多くの暗殺に関わっている。皇室にも顔が利くほどのエスパーである。

特に陸軍は躍起となった。あまりに知られすぎている・・・

 ムメ暗殺に格好の機会が訪れた。

明治天皇の崩御である・・・・

陸軍は天皇の崩御を、ムメを中心とする招魔開霊会の呪詛によるものだと決め付けた。


早朝、身柄を拘束されたムメを始めとする十数名のエスパーは、即日惨殺された。


その時・・・
 陸軍高官の前で、切り捨てられたムメの首は、宙に浮かび上がり、恨めしげに辺りを見回し・・・
血の出るほどの勢いで、こう叫んだという・・・


・・・天皇も御崩御なされました上は、このムメの一命など・・いかほどのものでございましょう・・・


されど・・・されど!帝様へ、恐れ多くも・・帝様への反逆の汚名を着せられては、死んでも死に切れぬぅ〜!!

この上はぁ・・この上は・・怨霊となりて・・・この国をぉ!この国を喰らい尽くしてみせよおぞぉ〜!!



※コメントに続きます

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※続き



謎の多いムメの生涯だが、おそらく殺された他の者達の中には、彼女の肉親も含まれていたのかもしれない。

権力に散々利用され、反逆の汚名まで着せられたムメの怨念は、国家と国民そのものに向けられた。実質的な意味での国家近代化のため、ムメ達は人柱にされたと言っても過言ではなかった。

ムメの首塚は、中央から離したいという意図もあり、師団の駐屯地であるこの地に造られたが、しばらく不気味な振動が止まなかったという・・・


 首塚を祠で覆い隠し、当時、最高位に座す僧侶による強力な法力を込めた封魔のお札を内部に張り巡らしたところ、ようやくその振動は止まったそうだ。


だが、その間に・・・ムメ殺害に関わった多くの陸軍高官やその家族が謎の死を遂げたというが、詳しい資料は残っていない・・・・・


そして繁田の父親は語った・・・

「わしが・・・極東軍事裁判で有罪となり、運よく服役も終え、この地に戻ってからというもの、一日もあの祠の管理を怠ったことがない・・・いいか!英雄・・・あの法力を込めた封魔のお札が・・・一枚でも剥がれれば法力は消える!
そうなれば・・・ムメ様が解き放たれてしまう・・・

そうなれば・・この国は・・この国は滅びる・・・!!

いいか!恐れるのだ!ひたすら恐れよ!!剥がしてはならぬぞ!いいか!分かったか!英雄!!」


 間もなく父親は亡くなり、繁田は父の言葉通り毎日、祠に通い続けてきた・・・お札が剥がれないよう、時には風よけの工夫をしたり、梅雨時には水が入らぬよう入念に細工を施した。
花と御神酒を絶やさず、ただひたすら祈った・・・そして詫びた・・・ムメ様という恐れるべき怨霊に・・・

繁田には祈り、詫びることしかできなかった・・・



三日前のことである。

繁田はいつものように雑木林に入っていった。さすがに夕方になると寒い・・・すでに薄暗い中を、足元に気をつけながら進んでいった。


 しばらくすると、人の笑い声が聞こえてくる。

繁田は胸騒ぎを覚え、道を急いだ。

繁田にとって信じられぬ光景が現れる・・・

中学生と思われる4人が祠の前で嬌声を上げている・・・女の子も一人いた。
一人の男子がうずくまって祠の扉を開け、中を探っている・・・


繁田にとって恐るべき光景であった・・・


こ、こらあぁ〜!!お前ら・・な、何てことを!!


 驚いた彼等は、一目散に逃げて行った・・・


慌てて祠に走り寄った繁田は愕然とした・・・・

扉がこじ開けられ・・・お札は何枚も無惨に引きちぎられている・・・・


一枚の破れた紙切れが、繁田の顔の前を風に吹かれて飛んでいった・・・

彼は暫く茫然自失となっていたが、やがてよろよろと歩き始めた・・・・


終わりだ・・・もうこの国は滅びる・・・・


繁田がふと振り返ると、祠が不気味にも振動を始めていた・・・・・・






北村は、事件現場の近郊にある雑木林を歩いていた・・・

一家消滅かぁ・・・

たった一日のうちに・・・


北村の苦悩は深かかった・・・
長男ひろしの死亡推定時刻は午前1時頃・・・母親が亡くなる6時間前である・・・・死因は急性心不全・・・母親と同じだ・・・


いったい何があったのだ・・・

葉を落とした木々の隙間から明るい朝の陽光が射している。
北村は眩しそうに目を細め、タバコに火を着けた。


ここか・・・・


ひろしの遺体が発見された場所だ・・・・


ふと見ると、祠が建っている。

 そして・・・その祠が不気味に振動しているのを、 北村は魅入られたように見つめていた・・・



・・・ 分からん・・・・・・・







莉奈は中学3年である。来春の女子高校入学試験に備え、今日も深夜まで勉強していた・・・

午前1時。数学の幾何の問題を解いていたのだが・・・どうしても集中できない・・・

先日亡くなった同級生のひろしの事を思っていた・・・・

あの祠で・・・・


その時、部屋の窓のカ−テンが大きくそよいだ・・・

莉奈は不思議に思い、立ち上がると、ゆっくりと窓に向かって行った・・・・・・・・・








※終わり

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