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Pの『THE つだん部屋』コミュの買い物

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【コピペ】



薄暗い、怪しげな店。
俺の他に客なんか居ない。
そもそもここに客が来るなんてことがあるのかも怪しい。
俺は辺りにあるものを物色しながら、思う。
・・・情けない。
何が情けないって、自分のことだ。
この北上明雄、人生最大の不覚だった。
腕は軽い捻挫で済み、すぐに治ってしまった。
いっそ折れてでもいれば、自分に言い訳ができたかもしれない、なんて思ってしまう。
自分が守りたいと思っていた人に庇ってもらい、何もできなかった。
しかも最後には彼女は大怪我を負い、そのときも何もできず、結局、何か訳の分からないことが起きて、彼女は事なきを得た。
自分のしたことといえば・・・皆を危険な場所に連れて行ってしまった、ということだけだ。
雨月と鮎川さんは何かを持っている。
羨ましい限りだ。
我が愛しの神尾嬢は、自分と同じといえばそうだが、彼女は彼女なりの強さを持っている。
そこがたまらなく魅力的なんだけどさ。
ここは1つ、自分も何か、こう・・・そう、何か・・・なんだろ?
まぁ、霊的な?超能力みたいな?
・・・よく分からないけど、凄いものを身につけたいところだ。
オカルト系雑誌を熟読していれば何か得るものがあるかと思ったが、そんなだったら世界中のオカルター(何て言葉あるのか知らんが)は、総じて霊能力者だ。
そこで俺は考えた。
いきなりそんな能力を身につけることができるか?
無理だろう。
俺はエスパーでもないし、ニュータ○プでもない。
臨死体験でもすればひょっとしたらイケルかもだが、そのまま死んだらバカバカしい。
とすれば、答えは1つ。
モノに頼るしかない。
オカルトグッズ。
それを持つことで補えばいい。
そんな理由で、今日、俺はこの怪しい店に来た訳だ。


街外れにあるこの店は、俺が偶然見つけたところだ。
看板の無いこの店は、狭く薄暗い。
店員はここにぴったりな、婆さんが一人。
まったく商売気なし。
そもそも開店しているのか閉店しているのかも、外見には分からない。
きっと趣味でやっているのだろうけど、そういった要素が、逆にオカルトなお店としての雰囲気を良くしている。
最初入るときには幾分勇気が必要だったが、いざ入ってみると、中々面白そうなものが並んでいて、興味を惹かれる。
まぁ、デートに使えるような場所ではないけどさ。
店の商品で最も多いのは、宝石の付いたお守りだった。
ルビー、アメジスト、オニキスから、ターコイズやラピスラズリ、ソーダライトなどなど。
本物かどうかは怪しいところだが、たいした値段でもないし、気持ちの問題だろう。


そんな中、それらのお守りに埋まっている変なものを見つけた。
手の平サイズの、銅製の像。
トーテムポールに似ている。
見るからに怪しい。
値段は1980円、とある。
表面に掘られている歪んだ顔に何かご利益?がありそうな気がしたので、俺はそれを手にとって、奥に座っている婆さんに売ってくれるように言った。
・・・が。

「・・・お客さんにそれは売れないよ」

まさかの拒否。

「え・・・何で?これ、もしかして何か危ないモノ?」

「そんなに危険なものは置いてないけどね・・・お客さんじゃ、それは無理だよ」

無理。
無理と言われてしまった。
これは落ち込む。

「呪われるとか、そういうことですか?」

「そう。軽いものだけどね。悪いけど、お客さんじゃ耐えられそうにない」

まさかの呪いのアイテム。
まぁ、見た目からしてそれっぽいが。
でも、買った自分が呪われるアイテムを売っている・・・?

「自分が呪われるモノなんですか?呪われたい人が買う・・・?」

「ま、そういうことだね」
・・・どういうこっちゃ。

「呪われてどうするんだろ?・・・まさか、自殺用とか?」

「そんなわけないだろうに・・・」

ハァ、とため息をつかれてしまった。

「それはね、解呪の実験とか、自分を鍛えるのに使うものだよ」

ほほぅ・・・なるほど。

「呪いに対する免疫を高めるのに使ったりもするねぇ。まぁ、安物の、初心者用のものだけど」

キーワードが気に入った。
初心者、鍛える、呪いの免疫、そして安い。

「これ、買いたいです。なんとか売ってくれませんか?」

そう言うと、婆さんは訝し気にこっちを見る。

「言ったことが分からなかったかい?それとも、死にたいのかい?」

「いえ、危険だってことは分かりました。でもどうしても、これが欲しいんです」

「・・・」

婆さんは考え込むように黙ってしまった。
そしてやがて諦めたかのようにため息を付くと、こう言った。

「分かったよ。何があっても知らないからね?」

「望むところですよ」

俺は胸を張る。
そしてお金を払おうとしたが、止められた。

「いや、無料でいいよ。死んじまうもの売って、お金は取れないからね」

中々不吉なことを言う。
しかしここで負ける俺ではない。

「じゃあ、無事に済んだら、払いにくるから」

あぁ、それでいいよ、と言って商談成立。
こうして俺は無事に、自分を鍛える、望みのアイテムを手に入れたのだった。


意気揚々と店を出た俺は、まっすぐ自宅に向かった。
・・・しかし、その途中、さっそくキタ。
なんだか体がダルい。
妙に息切れがして、足が重い。
これが・・・と思った時には、もう俺は一歩も歩けないような状態になってしまった。
なぜか、歩こう、一歩を踏み出そう、という気持ちが沸かない。
体がどんどん重くなっているような気がする。
息苦しい。
首の血管が浮き出ているのが感じられる。
銅像の呪い・・・って、こんなにキツイのか。
初心者用じゃないのか?それとも・・・単純に、俺が弱いだけ、か?
これはヤバイ。
死ぬことになる、と言われたが、確かにこれはヤバイ。
携帯で誰かに助けを・・・と思ったが、体が痺れて上手く動かない。
鞄の中の携帯が余りに遠く感じられ、取り出せる気がしない。
俺はその場に座り込んでしまう。
ここは人通りも無い。
これは・・・ダ・・・ダメかも・・・なんてこった・・・俺は、ここで終わり・・・か・・・?
ふと、傍に人の気配を感じる。
ノロノロと顔を上げると、そこには一人の女性が立っていた。
知らない顔だ。
結構可愛いかも・・・とか、朦朧とした意識の中、思う。

「自殺・・・?変わった死に方するのね」

変わった死に方。
まぁ、そうかも・・・って、あぁ、そうじゃない、助けを求めなければ。
俺は何とか喋ろうとするが、息苦しくて上手く声が出ない。

「何?何か、遺言?」

遺言。
一瞬だが、神尾さんに伝えたい言葉が、たくさん頭に浮かんだ。
・・・あぁ、違う違う!俺は諦めないぞ!あの像だ、あれを何とか・・・
女は、あら?といった顔で、興味深そうに俺を見ている。
俺は全身全霊の力を込めて手を動かし、ポケットに入れてあった像に手を伸ばす。
こんなので死んだら、情けない。
余りにバカげている。
かつてない程の気力を奮い起こし、俺は何とか銅像を掴んだ。
やった!これが愛の力だ!神尾さん、俺、やったよ!
・・・が、そこまでだった。
掴んだ瞬間、意識が急速に遠退いた。
呪いの元・・・発信源に触れたのは逆効果だったのだろうか。
俺はついに道に倒れこみ、そのまま意識を失った。


コロコロと、足元に何か転がってきた。
変な銅像だ。
この倒れこんだ男が持っていたもので、見るからに禍々しい。
それを拾い、手にとってみる。
なるほど。
微弱だけど、この男の命を奪うには十分そうだ。
・・・いや、死なないか。
男の顔からは、既に死相が消えている。
まだ、瀕死の状態だというのに。
私がこういった行動に出ることが決まっているかのようで、なんだか気に入らないけど・・・
私は銅像を持っている手に力を込め、それを粉々に砕いた。
あ、別に私が怪力とかじゃなく、ね。
呪いで成っているものは、それが消えれば当然崩れ去るものだから。
もう、あんな風に死を看取るだけ、というのは嫌だ。
私に出来ることなら、助けてあげたい・・・助かろうとしている人ならば。
この人は、最初は自殺でもしようとしているのかと思ったが、どうやら違うようだった。
まったく珍しい、変わった人。
そのうち目を覚ますだろうが、もう、私を見ることはできないだろう。
このままここに残っている意味もない。

「じゃあね、運のいい、変な人」

そう言って、私は立ち去った。


目を覚ますと、俺は路上に倒れていた。
何だか頭がクラクラする。
えーっと、何だっけ・・・俺、死んだんだっけ?
いや、どうやら生きているようだ。
これはまさか・・・?
俺はガバッと立ち上がる。
呪いを克服したのか!?ついに俺にも霊能力が・・・!
俺は一人、ガッツポーズをすると、急いであの店に向かった。

「婆さん、お金、払いに来たぜ!」

「おや、まぁ・・・無事だったのかい」

婆さんはホッとした、しかし意外そうな顔をして、俺を迎えてくれた。
俺は嬉々として銅像の代金を払う。

「ついに俺の時代が来た、そんな気がするよ。あ、お釣りは要らないよ」

景気良く2000円を払う。

「時代、ねぇ・・・」

婆さんはジロジロと俺を見ている。

「相変わらず、霊力の欠片も見えないけどねぇ・・・」

「え・・・そ、そうか?」

「じゃあほら、そこに誰か立っているの、見えるかい?」

俺は言われて婆さんが指差した先を見る。
店の隅。
・・・が、そこには何も居ない。

「いや、何も・・・誰か居るの?」

「ここの守護霊が居るよ。やっぱり、なーんも身についてないね」

「う・・・で、でも俺、ほら、無事だった訳だし」

「銅像はどうしたんだい?」

銅像は・・・えーっと、どうしたっけ?ポケットに入れていて・・・あれ?

「あれ・・・ない」

「・・・誰かが助けてくれたんじゃないのかね?」

誰か・・・あ。

「そういえば、誰か居たような気がする・・・なんか、女の人が・・・」

フゥ、と、またため息をつく婆さん。

「そういうことだね。まぁ、今後は気をつけなさいな」

「あぁ・・・そう、する・・・」

俺の時代は、ほんの数分で終わりを告げた・・・
がっくりと肩を落とし、店を出る。
帰り際、ふと気になって婆さんに店の名前を聞いてみた。
特に付けてないから、好きに呼んでくれ、という。
じゃあ、婆さんの名前は?と聞くと、教えてくれた。

「牧村だよ。牧村、シズエ」

じゃあここは、オカルトショップマキムラだな。
俺は、また来るよと言い、家路についた。

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