ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

Pの『THE つだん部屋』コミュの【21】黒猫 後編

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
※狐憑きにあった方はお気をつけ下さい。

※グロテスクな部分があります注意。



「人間なんて嫌い!みんな犬や猫がいくら死んだってなんとも思ってないんでしょ!?」

真っ黒な少女はそう、私に叫んだ。

真っ黒な森。

真っ黒な猫。

真っ黒で悲しい気持ち。

少女は涙を流して罵り続ける。

動かなくなった犬猫を台車に乗せて。

自分の想いと黒い便せんも乗せて。



「黒猫と黒い便せん 後編」

黒猫が黒爽に引き取られて数日経った頃。

「はい、お守り」

と、キツ姉からお守りを貰った。

「肌身離さず持っていて」

と、付け加えて。

私はお風呂に入る時。

困ると思い、「やーだよ!」と舌を出して抗議した。

「ひぎいぃー!?」

とたん、私は悲鳴をあげることになる。

「マーくん、ワガママ言うと舌、引っこ抜いちゃうよ?」

私の舌はキツ姉が有らん限りの力で引っ張っていた。
結局。

私は肌身離さずお守りを持った。

キツ姉は喜んだ。

…これで安心。

…これでどこに居てもわかるから。

キツ姉はそう呟いた。

「ぇ?キツ姉…なんか怖い話聞こえたよ?」

「私は保護者だから何も怖いことなんてないよ?」

キツは笑う。

狐みたいな笑顔で。

裏表が激しい。

それがキツ姉だ。

私は疑る。

「何か隠してない?黒猫が来てから…なんか…変だよ?」

「別に…あの黒猫…気に入らないのよ…昔、家にいた猫を思い出すから」

キツ姉は眉を潜めて、明らかに不機嫌になった。

私は、これは何かあるぞ、と思い。

幼い衝動から来る。

好奇心に負けて聞いてしまった。

「あの黒猫、キツ姉が飼ってた猫だったりして…違う?」

「違う…ありえないわ…私の猫はもう何十年も前も昔のこと……それに、真っ白な猫だったから違う」

キツ姉は否定すると、無表情で再び私の舌を引っ張った。

お風呂の湯船に浸かる度に舌がヒリヒリと痛んだ。

好奇心は猫を殺す、ならぬ好奇心は舌を殺す、と思った。

そんなある日。

私は冷たい風に襟を立てて。

いつものようにキツ姉の家に向かっていると、いつのまにか、真っ白な靄がかかった道を歩いていた。

見渡す限り。

真っ白な世界。

電柱も地面もない。

真っ白な紙の中に飛び込んだようだった。

そんな世界に唯一。

在るのは。

私自身。

鈴の音。

鎖の音。

「にゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあ…!」

「わんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわん…!」

四方八方からこだまする犬猫の鳴き声。

今で言う、パチンコ屋内ほどの騒々しさが一斉に襲いかかった。

私はとっさに耳を塞ぐと、耳元で少女の声が響いた。
「黙って耳で聞いて二つの眼球で視て…みんな温もりを求めている子達なの…あなたは…人には視えないものを見聞きできるんだから存在を認めて…それがあなたの義務」

私は振り返る。

声の主と思われる少女が立っていた。

髪の毛も体をすっぽりと覆うケープコートもマフラーもすべてが真っ暗な少女。

傍らには台車があり。

動かなくなった犬や猫を乗せて異様な存在だった。

私はそれに釘付けとなった。

…なにこれ?

少女は無表情で言葉を続ける。

「みんな眠っているわ…生前に果たされなかった幸せな夢を見てね…」

少女は悲しげに声のトーンを落とし。

踵を返すと、台車から一匹の猫を抱き上げた。

その猫は雪のように白い。
飼い猫なのか鈴がついた首輪をしていた。

猫は相変わらず眠っていて起きる気配はない。

私はそれに視線を外すことができなかった。

白くて綺麗。

触ってみたい衝動。

抱き締めたい衝動。

否。

可哀想…。

そう思った。

猫には前脚がなかった。

切断されたのか。

すっぱり。

不謹慎な綺麗さをもって。
切断面が少女によって晒される。

赤い肉と白い骨が映る。

白い地面や少女の服が赤い斑点に染まる。

世界が軋みをあげて。

黒く。

染まっていく。

影絵のような森。

森の奥から聞こえるのは、音だった。

人と思われる。

かなきり声。

すすり泣き。

罵声。

恨み言。

負に満ちた音。

そして、しばらくすると。
嘘のように静まった。

少女は代わるように語る。
白い猫について。

「この子は生前、飼い主の八つ当たりで…前脚を中華包丁で切断されて川に放り込まれたの…この子は溺れながら考えたの…」

…どうして僕の脚を切っちゃったの?

…柱で爪研ぎしたから?

…黙って布団にもぐりこんだから?

…近所の野良猫とケンカしたから?

…ごめんなさい。

…脚を切らないで。

…歩けなくなったら。

…お散歩も。

…駅伝で走る姿も。

…川遊びする姿も。

…見守れない。

…一緒に歩くこともできなくなるから。

…僕の大好きな──。


少女は飼い主の名で締めくくった。

私は言行できない。

やるせない気持ちと可哀想と思うだけで。

起こってしまった事をどうすることもできず。

ただ聞くことしか。

「この子の飼い主は駅伝の選手になれず、八つ当たりで…脚を切ったの…本当にただの八つ当たりで…!」
少女の頬からポロポロと涙が伝う。

猫が流せなかった分の涙を代わりに流すように。

そうして少女は猫に、頑張ったね、と声をかけ。

猫は蒼白い炎を纏って、消えていった。

台車で眠っていた犬や猫も次々に。

少女は仰ぐ。

空から黒い便せんが降り注いだ。

私はその一枚を拾い、読んだ。

飼い主に向けた手紙を。

短い字に綴られた。

優しい気持ち。

「みんな黄泉の国に逝ったの…それでもみんなは…人間を心から恨んでないの……むしろ心配してたから…私が眠らせて…夢をね…みせてあげたの……幸せな…偽物の夢…だってそうでしょう?そうじゃなきゃ…救われない…みんな救われない!人間に蹂躙されて終わるのが人生!?違う!絶対違う!」

少女は叫んで歩み寄る。

無表情だった顔をクシャクシャにして。

眼の周りを赤く腫らして。
私に同意を求めるように。
一歩。

二歩。

私も歩み寄る。

一歩。

二歩。

一人の愚かな人間代表として。

少女は歩みを止める。

「人間なんて嫌い!みんな犬や猫がいくら死んだってなんとも思ってないんでしょ!?」

真っ黒な少女はそう、私に叫んだ。

真っ黒な森。

真っ黒な猫。

真っ黒で悲しい気持ち。

少女は涙を流して罵り続ける。

動かなくなった犬猫を台車に乗せて。

自分の想いと黒い便せんも乗せて。

重いものを小さな体で。

一人、背負って。

「もっと…全部吐き出せ!」
受け止める。

小さくて。

ガキの小さな体だけど。

目の前の女の子を抱き締めて。

受け止める。

普段キツ姉にしたり、されたりして。

こんな方法しか思い付かないから。

少女が「人間」を罵り、泣き止むまで。

私は受け止め続けた。

「ありがとう」

不意に少女は言った。

「どういたしまして」

私は苦笑して言った。

正直、複雑だったから。

けれど、少女ははにかんで。

「あなたに嫉妬してごめんなさい」

と謝った。

私は口を開くが。

少女に手で制された。

少女には理由があった。

「むかしむかし、ある所に狐憑きの女の子がいました。女の子は狐の霊を操れる特別な体質を持っていましたが、それが原因でいつも子供たちにいじめられて一人ぼっちでした…見かねた女の子のお母さんは一匹の白猫を女の子にあげました。女の子は大喜びで白猫とすぐに仲良くなりました。二人は衣食住いつも一緒。だけど、そんな幸せは長くは続きませんでした。女の子が年を重ねる毎に体に憑いた狐が表立って現れ女の子をたぶらかしました。白猫はそれを知って狐を抑え込めようと奮闘しました。狐は白猫を邪魔に思い、女の子に囁きます」

人間ト仲良クナリタイナラ。

飼イ猫ヲ殺セ。

人間ハ残酷ナ事ガ好キ。

人間ハ恐イ事ガ好キ。

人間ハ悲劇ガ好キ。

ダカラ飼イ猫ヲ殺セ。

「女の子はそんな狐の言葉に抗いましたが、心のどこかでは人間の子供と仲良くなりたいと思っていました。ある日、女の子は白い便せんに手紙を書きました。」

ゴメンナサイ。ゴメンナサイ。ゴメンナサイ。ゴメンナサイ。ゴメンナサイ。ゴメンナサイ。ゴメンナサイ。ゴメンナサイ。ゴメンナサイ。ゴメンナサイ。ゴメンナサイ。ゴメンナサイ。ゴメンナサイ。ゴメンナサイ。ゴメンナサイ。ゴメンナサイ。ゴメンナサイ。ゴメンナサイ。コレダケ謝レバ殺シテモ許シテクレルヨネ?

「女の子は白猫に手紙を渡しました。白猫は好奇心から手紙を覗き込みます。女の子はその間に隠し持っていた包丁で白猫を刺しました。何度も何度も…。原型を留めないくらい。刺しました。白かった猫や便せんは赤く染まり続け、いつしか真っ黒になっていました。けれど白猫は女の子を憎んではいません、憎むべきは狐ただ一人。猫は死して呪いとなり狐を一時的に縛りました。猫の魂は黄泉の国へと運ばれ消える運命にありましたが。イザナギと、飼い主には二度と会わない、という契約を結んで魂は残り救われない犬や猫の魂を黄泉の国へと運び続けました。でも、ある日、白猫は好奇心から見てしまいました。成長した飼い主の姿とその傍にいる人間の子供の姿を。白猫の好奇心はいつのまにか嫉妬となって、姿を現しました。黒猫として。伝えたい言葉を黒い便せんに乗せて」


少女は。

白い猫は全てを語り終えると「あなたに嫉妬してごめんなさい」

再び謝った。

もう良いのに。

嫉妬されて当然だと思う。
世界がひび割れる。

ガラスを割ったような音を奏でて。

影絵を裂いた穴から狐の霊が飛び出し。

キツ姉が顔を出すと、笑う。

「マーくん、今から悪い妖怪を片付けるからそのままじっとしててね?」

口だけ笑って。

眼は白猫を射抜くように睨んでいた。

風がヒュンと切れる。

真っ赤な返り血が私の視界を覆った。

コメント(3)

狐は容赦がなかった。

初撃で白猫の喉笛が噛み千切ると、押し倒し。

手足を噛み砕いていく。

私は制止を求めた。

それを察知すると、狐達は私の手足や口を尾で縛り上げて封じ込める。

余計なことをするな、と言うように。

白猫は一本だけになった人差し指を血の池に浸けると何か文字を刻むが。

「あら?命乞いでもするの!?ダメよ?なんたって今、私は凄く虫の居所が悪いの…なぜだか分かる!?大事な物をどこかの泥棒猫が奪っていったからよ!わかるっ!?」

ぐしゃり。

鈍くて嫌な音。

キツ姉の足が白猫の手を踏み砕いた。

白猫の指は動きを止め。

バシャッと血飛沫が飛んで、ごめんなさい、と書かれた文字を打ち消した。

「痛い?私はもっと痛かったわ…謝ったって許さない!私は二度と大切なものは失わない!」

キツ姉はそう言って白猫を蹴り飛ばす。

白猫は血泡を口から吹き出しながら、ヒューヒューと声にならないまま語るように口を動かし。

蹴り飛ばされて、床にうつ伏せになると。

赤い舌を伸ばして文字を描こうとする。

私は狐と格闘しながら、やめろ!と叫んでも二人はやめてくれない。

「無様ね?そんな肉塊になってまで命乞い?どこまで私を怒らせれば気が済むの!?」

キツ姉が白猫の髪の毛を鷲掴みにして、憎しみを込めるように叫ぶ。

けれど、白猫は微かに笑って。

涙と赤い血を流して。

語りかけるように口を動かす。

「なに…?その眼…?昔飼ってた猫みたいな眼をして…私に同情しているの……?そんな眼で…視るな!視るな!視るな!視るな!視るな!視るな!視るな!視るな!視るな!視るな!視るな!視るな!視るな!視るな!視るな!視るな!視るな!視るな!視るな!視るな!視るな!視るな!視るな!視るな!視るな!視るな!視るな!視るな!視るな!視るなー!!」

キツ姉は半狂乱になって叫ぶと、白猫の眼を指で潰し続けた。

キツ姉の顔や着物に白猫の返り血が飛んで染めていく。

白猫の体は痙攣して。

しばらくすると動かなくなった。

「これで視たくても視れないわね?と言っても…死んでしまったら同じことなのだけれど…ふふ、あはははははは…!」

赤く染まったキツ姉は狂った笑みを浮かべると、仰向けに倒れて笑い続けた。

変わり果てた白猫の体は蒼く燃え上がり。

黒い灰となって消えていった。

黒い便せんを残して。

便せんはユラユラとキツ姉の顔に着地する。

キツ姉はそれを笑う。

「遺書かしら?」

けれど、笑いは続かなかった。

キツ姉の便せんを持つ手は震え。

歯はカチカチと鳴り響き。
眼をカッと見開いて。

呟き続ける。

「嘘……!嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘…!嘘八百!誰か!誰かそう言って…!!」


嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼ー!!

キツ姉は鳴く。

ここに来て初めて。

私が聞いた犬や猫達のように。

鳴いて。

哭いて。

啼いて。

泣いて。

最後に。

「どうか私を許さないで」と呟いた。


おわり

ログインすると、みんなのコメントがもっと見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

Pの『THE つだん部屋』 更新情報

Pの『THE つだん部屋』のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング