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Pの『THE つだん部屋』コミュの渦

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【コピペ】



『牢屋』に戻り、背広を脱いでネクタイを外し、布団に寝転がる。
和風に造られたこの部屋には、卓袱台や布団といった、寝泊まりするのに必要最低限の物だけが備えられている。
それだけでも・・・窓が無いことを除けば、ここは案外快適な空間だ。
滅多に使われることはないだろうが、掃除もキチンとしてあり、意外なほど清潔感に溢れている。
私は天井を見上げたまま、ズボンからペーパーナイフを取り出し、目の前に掲げる。
こんなものでも、人の命を奪うには十分なものだろう。
これが武器だ。
私の武器。
これで、大切なものを守るのだ。
これで・・・これさえあれば・・・

「汐崎部長?」

突然声を掛けられ、私は布団から起き上がる。

私「・・・本部長」

いつの間にか、部屋の入口に高城本部長が立っている。
私は慌てて、ナイフをズボンのポケットに仕舞う。

高城「ノックしたのですけど・・・もう、お休みでした?」

私「いえ、ちょっと考え事を・・・」

高城「そう」

本部長はそう言うと、靴を脱ぎ、部屋に上がってくる。
何気ない仕草。
しかし私はそこに、いつもとは違う色気を感じてしまう。
しなやかに伸びた足・・・今日は網状ではなく、普通のストッキングを履いているその足も、やけに魅惑的に見える。
私はそこに見惚れそうになるのを抑えながら、彼女に座布団を勧め、お茶を淹れる。

高城「具合はどう?」

私「具合?至って健康ですよ」

高城「そう。良かった」

ここにきて、まだ1日目が終わったところだ。
それだけで健康を崩すわけもない。
少なくとも、身体の面での健康は。

私「どうぞ」

彼女の前にお茶を出す。

高城「ありがとう」

そう言って、素直にお茶に口をつける本部長。
何とも無防備なものだ。
自分のしたことを、何とも思っていないのだろうか?
脅迫し、殴りつけ、気を失わせて連れてきた相手に対して、この警戒心のなさは?
恐らく、私のことを舐めているのだろう。
何もせず、ただ従うだけだと思っているのだろう。
どうせ、何もできやしないと・・・
そもそも・・・この状況は何だ?
私はこれでも男だ。
そして彼女は一人の女性。
それもかなりの美人で、魅力的だ。
それに加え、挑発的な・・・誘っているかのような格好、仕草をしている。
奥まった場所にある部屋。
窓の無い密室。
定時も過ぎ、他に人が来るとは思えない時間。
そして、私の後ろには布団があって・・・
こんな状況で、危険を感じないのだろうか?
敵対している相手を目の前にして、平然とお茶を飲んでいるが・・・何も考えていないのか?
・・・いや、考えているだろう。
ただ、私を男として『下』に見ているのだろう。
私は、女性に乱暴しようとは思わない。
娘がいる身としては、尚更だ。
しかしそれにしたって、私は男なのだ。
彼女だって、自分の魅力は知っているはずで、普通の男がそれを見て何を考えるかなんて・・・

高城「汐崎さんでも・・・」

私「はい?」

不意に声を掛けられる。

高城「そういう目をするのね」

目?今、私はどんな目をしていた?

高城「初めてじゃないかしら?私のこと・・・そういう目で見てくれるの」

私「・・・」

あぁ、そういうことか。
そんな目をしていたか、私は。
それはそうだ。
当たり前だろう。
よからぬ事も考えてしまうさ。
だが、はっきりと言っておこう。

私「すみません・・・でも、ちょっと違いますよ」

高城「違う?」

私「えぇ。私は、あなたを憎んでいるだけです」

高城「・・・」

言った。
私は、言った。
心の中に、黒いものが渦巻く。
彼女は敵だ。
決して信用のできない、敵だ。

高城「そう・・・」

本部長の顔が曇る。
一瞬だけの、悲しげな顔。
以前にもそんな表情を見た気がする?いや、もうどうでもいい事だ。

私「私は、見張られていたのでしょうね」

高城「・・・そうね」

私があの学生・・・神尾美加と会ったことは、すぐに往来会に知れた。
その理由は、簡単なことだ。
私は見張られていたのだ。
要注意人物として。

私「上の人間に、私について報告したのでしょうね」

高城「えぇ・・・」

これは当然だ。
本部長の立場上、当然しなければならないことで、そこは責めてはいけない。
・・・と、頭では分かっているつもりだが!

私「相談なんてしなければ良かった・・・」

高城「・・・」

あれさえ・・・あんなことさえしなければ、こんな事態にはならなかったのだ。
あそこから狂ってしまったのだ。
どこにもぶつけようのなかった怒りが、フツフツと湧いてくる。

私「何故・・・」

私は立ち上がり、座ったままの彼女を見下ろす。
本部長が嫌う行為だとは知っているが、敢えて、だ。

私「何故報告を?あなたに、何の得が!?」

私はポケットに手を入れ・・・ナイフを握り締める。

高城「・・・」

本部長は何も言わず、俯いている。
黒いものが・・・心が、染まっていく・・・

私「なぜですか!?」

言いながら、私は本部長の傍に歩み寄る。
そして俯いて座ったままの彼女の横に立ち、その首筋を見つめ、『狙い』を定める。
突如として高まってきた激情は、抑えられそうにもない!

私「本部長・・・何か、言ってください」

ジッと彼女を見下ろしながら、呟く。
そして返事を待つ。
・・・私は返事と同時に、彼女の首にナイフを突き立てるつもりだ。
どんな言い訳をしようと、本部長のしたことは許せない。

私「本部・・・」

高城「食事はしたの?」

私「は?」

何?食事?

高城「キチンと食べるように、って・・・真奈美ちゃんからの伝言よ」

私「真奈美・・・?」

なぜここで、真奈美の・・・と思っていると、本部長がスッと立ち上がる。

高城「報告したのは、義務だからよ」

私「義務って・・・」

義務?それくらい、分かっている。
分かっているが、私達はそれで・・・

高城「後悔しているわ。ごめんなさい」

そう言って、本部長は深々と頭を下げる。
予想もしなかった事を言われ、真奈美の名前を出され、開き直られて、謝られて・・・私は少し混乱してしまう。

私「いや、そんな・・・」

高城「私の用事はそれだけよ・・・」

本部長はそう言うと踵を返し、部屋を出て行こうとする。

私「あ・・・謝られたって、この状況は・・・!」

高城「私を殺しても、変わらないわよ」

私「・・・」

高城「他の人でも、そう。それじゃ、悪いようにしかならないわ」

私「そんなこと・・・」

そんなことは、分かっている。
分かっているのだ。
でも、私は他に何をすればいい?
こんなところに閉じ込められて、何ができる?
どうやって娘を守れる?
真奈美を、どうやって・・・
靴を履き、部屋を出て行こうとする本部長を見ながら、私は苦悶する。
・・・と、そんな私に、彼女が言った。

高城「真奈美ちゃんは、私が守るから・・・」

何?

高城「約束するわ」

何を言っているのだ?

私「それを信じろと?」

連れ去ろうとしていた人間が、今更何を?
私の家で、お前達が何をしたのか・・・しようとしたのか。
真奈美を連れ去ることは止めたらしいが、そんな簡単に言われて、はい、お願いしますと言うとでも思ったのか?
それとも、これは脅迫か?
以前にも真奈美のことで脅されたが、そういうことなのか?
娘はこちらの手の内にあると、そう言いたいのか?

高城「信じなくても良いわ」

そう言って扉を開ける本部長。

私「・・・」

高城「私が勝手に、そうするだけだから・・・」

最後にそう言い残し、彼女は部屋を出て行った。
本部長が部屋を出て行ってからも、私はしばらくの間、その場に立ち尽くしていた。
意図が分からない。
本部長は、いったい何を考えているのだろう・・・
なんだかまた、心にポッカリと穴が開いたような感じがする。
先ほどまでそこにあった、黒く渦巻いていたものは、すでに消えている。
まるで、そこから抜け落ちていったかのように・・・

「汐崎さんのこと、心配してくれたんですよ。きっと」

神尾美加の言っていた言葉が思い出される。
私だって、そう思ったさ。
しかし、そう思って話をしようと思った矢先・・・私は殴られ、ここに連れてこられたのだ。
そりゃ、手を出したのは藤木だが・・・本部長も一緒だったのだ。
そこもまた、良い方に考えるべきなのか?
あれは何か・・・事情があったと?
神尾美加なら、きっとそうも考えるのだろう。
でも私は・・・私だ。
娘のいる身で、そこにも被害が及ぼうとしているのだ。
良いようにだけなんて、考えられない。
最悪のケースも考えていないといけない。
だが、もし・・・?・・・か。
ハァ・・・と、ため息を付くと、私はポケットからナイフを取り出す。
何だろうな、これは。
武器?何のための?
何の役に立つ?これが何を生む?
私はナイフを持って、強くなったとでも思ったのか?
くだらない!
私は部屋の隅にそれを投げ捨てる。
もっとちゃんと・・・感情的にならず、落ち着いて考えなければ。
ここからどうすれば、この事態に収拾をつけられるかを・・・

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