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Pの『THE つだん部屋』コミュの清和の神

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オロチが俺の守護神として、
傍にいるようになった。

あの時には、封印するのがちょっと可哀想に思えたのだが、

コイツと過ごすようになってからと言うもの、
俺は気苦労が耐えない。

今思えば、封印しておけば良かったと、少々、いや、かなり後悔している。

オロチのウザさと来たら、小次郎と同等かそれ以上である。

小次郎とはたまにしか顔を合わせないが、
コイツはずっと、俺の傍について離れない、
いや、命令してどこか離れた所で待機させてもいいのだが、

そうすればするで必ず何か騒ぎを引き起こす。

心配だから、傍に置いておくしかない。

全くどっちが守護しているのか分からない。

今奴は、リビングでテレビに夢中になっている。

しかも、お涙頂戴のクサいドラマを見て、号泣してやがる。

ったく、地上最強の化け物が泣くんじゃねえよ!

オロチが家に来てすぐは、
大騒ぎの毎日だった。

先日など、昼日中から小次郎と喧嘩を始めやがって、
俺が止める間もなく外に飛び出し、
あっと言う間に消えたと思ったら、
街のど真ん中でドンパチ始めて、
最後には自衛隊まで出動して、
エライ事になった。

後始末は結局、罰としてオロチにやらせたが、
あんなことは迷惑極まりない。

あれだけ仲が悪いのに、
小次郎は何故か三日に一回はやって来る。

来てもすぐにオロチと喧嘩を始めるのだが、
それでも、懲りずにまたやって来る。

小次郎は、来るとすぐにオロチはどこか?
と聞いてくるし、オロチは小次郎がちょっと来なくなると、小僧、小僧とうるさい。

そんなに気になるなら、
一緒に住んで思う存分喧嘩したらいい。

あいつら全く、○ムと○ェリーみたいだ。

仲良く喧嘩しなってか!

だいたい、喧嘩の原因が全くもってしょうもない。

自衛隊が出動した時の喧嘩の原因も、
朝飯食ってたらソーセージの取り合いになって、
それが大喧嘩になった。

全くお前達は子供か!?

日本一の霊能者と神がソーセージの取り合いなんかするんじゃねえよ!

それでも、最近はオロチも大人しくなってきて、
小次郎との喧嘩も少なくなって来た。

というか、小次郎が徐々にオロチの操縦を上手くなって来て、
オロチを例の巧みな戦術でたぶらかすことがちょいちょいある。

オロチは小次郎に一杯喰わされて、
後で地団駄踏んで悔しがっているが、
神が人間にたぶらかされてんじゃあねえ!

昨日も小次郎がオロチを挑発して大喧嘩になり、
二人して外に飛びだし、
またまた、自衛隊騒ぎかとドキドキハラハラしていたら、
夜中に二人でベロベロに酔っ払って帰って来た。

お前ら仲がいいのか悪いのか、どっちなんだ!?

今日は小次郎は二日酔いで来ないみたいで、
オロチは退屈そうに雑誌を眺めている。

何を読んでいるのか気になってチラ見すると、
グルメ記事のチョコパフェの写真を食い入るように見つめている。

前に食わせてやったのがよっぽと気に入ったらしい。

コイツは決して俺におねだりなどしないから、
なんだかいじらしくなってしまう。

「食いたいのか?」

「は!?我が君、何がでござりまするか?」

「今見ている雑誌の写真、チョコパフェだろ?
食いたいのかって聞いてんだよ」

「め、滅相もござりませぬ、
我は食したいなど、微塵も思った事はありませぬぞ!」

「そっか」

またチラ見をすると、
やっぱりチョコパフェの写真を食い入るように見つめている。

もう、憧れだな!

「オロチ!」

「御意!」

「出かけるぞ、ついて来い!」


「御意!」

俺はオロチを連れて、いつものファミレスにやって来た。

「我が君」

「ん?なんだ?」

「ここは何処にござりまするか?」

「ファミレスだよ」

「はみれす?」

「そう、ファミレス、ん〜と、飯屋だ」

「ほう、飯屋にござりまするか、なるほど美味そうな匂いが漂っておりまするな」

俺はハンバーグとチョコパフェを注文した。

「わ、我が君、こ、こ、こ、これは!?」

「お前の憧れのハンバーグとチョコパフェだ」

「こ、こ、これを我が食してもよろしいので!?」

「いいぞ、食え!」

「う〜む!」

「ん?どうした?」

「我が君のご慧眼に、恐れ入っておるのでござりまする。
我が胸中を見抜かれるとは、
このオロチ感服つかまつりました!」

俺は可笑しいのを必死で堪えた。

「いいから、早く食え!」

「御意!」

オロチはさも美味そうに、うっとりとした表情で食っている。

安上がりな奴だ!

「やまとさん、やっぱここでしたか!」

「小次郎!何しに来た?」

「何しに来たって相変わらず酷いっすねえ、オロチにだけこんないいもの食べさせて、オイラはハブっすかぁ?」

「わ〜った、お前にもおごってやるよ!」

と言うや否や、ハンバーグとチョコパフェが運ばれて来た。

「来る前にやまとさんいるか確認取って、先に注文しといたっすよ」

「全く、食えない野郎だよお前は」

食い終わって、小次郎はおもむろに口を開いた。

「やまとさん、実は…」

「断る!」

「まだ、なんにも言ってないっすよぉ!」

「言わなくても分かる!どうせ、化け物退治だろうが!」

「当たり!」

「だから、断る!」

「何でですかぁ?」

「俺は、怖いのが嫌いなの!
怖い思いしたくないの!
お前が持って来る話はいっつも怖くて、しかも必ず死にかける!
冗談じゃねえ!」

「オロチなんておっそろしい奴と暮らしてて、良く言うっすよ!」

「やかましい!とにかく断る!」

「そこをなんとか」

「小僧!我が君が断ると仰せなのだ、早々に立ち去れい!」

「お前は黙ってるっす!」

「無礼者!」

ヤバイ、こんなところでドンパチ始めたら、周りが迷惑だ。

それにもし、コイツらの霊力の流れ玉に当たったら、浮遊霊さんや自縛霊さんが危ない。

あそこで本を読んでる、サラリーマンの自縛霊さんなんかひとたまりもない!

「分かった、話だけでも聞こう!」

「さっすが、やまとさんお人よ、いや話が分かるっすね!」

「ちっ、我が君も全く人の良い」

オロチは喧嘩出来なくて残念そうだった。

そうそう喧嘩されてたまるか!

「実は、K市に旧家があるんすけど、
その旧家の所有する土地が祟られているらしくて、
売りたくても売れないんで、
調査と結果によってはお祓いをして欲しいって依頼っす。
どうっすか?」

「断る!以上、終了!」

「やまとさ〜ん!」

「そんな、金持ちの旧家の金儲けの片棒なんか担いで堪るか!断る!」

「金持ちなんかじゃあないっすよ!むしろ貧乏っす」

「へっ!?なんで貧乏なの?」

「その旧家の当主がかなりのお人好しで、
困っている人を見ると助けずにはおれないって人で、
挙句に人に騙されて財産をほとんど失っちゃったんすけど、子供の大学進学のために最後に残った土地を売って、
その資金にしたいって言うっす」

「おお!なんと哀れな話よのう!」

オロチは同情して泣いている。

神が泣くんじゃねえよ!

「オロチ、うるさい!」

「しかも、土地を売ろうとした途端に、不動産屋は原因不明の熱を出すし、
当主は怪我をするし、
挙句の果てにその受験生まで謎の病で衰弱し始めたっす。

これはもうやまとさんの出番だってことで、
お願いしにきたっすよ」

「また、いつものパターンだな!」

「っす!」

「だいたい原因は分かってるんだろ?
久能裏検索システムでさ」

「だいたいは分かってるっす」

「原因はなんだよ?」

「土地神っす」

「断る!絶対に断る!」

「何でですか?」

「神と名がつくもん相手にしたら、
絶対にろくな事になんねえ!
下手したら死ぬ!
オロチがいい例だ!」

「大丈夫っすよ!神って言っても小さい神っすから、
そんなに心配いらないっす。
それにやまとさんには今回ヒーリングをお願いするだけっす」

「マジで?」

「マジっす!」

「それに」

「それに?」

「その受験生が、ハンパない美少女っす!」

「行きます!行かせてください!是非ともお願いいたします!」

こうして、狡猾かつ巧妙・高度な小次郎の戦術にはまった俺は、またまた酷い目に遭うのである。



※コメントに続きます

コメント(29)

※続き



俺と、小次郎と、オロチの三人(?)はK市に向かった。

途中О市を通過するので、西園寺家に立ち寄ることにした。

「小次郎」

「なんすか?」

「オロチのこと、ちゃんと彩さんに話してあるんだろうな?」

「モチロンっす!」

「彩さんの反応はどうだった?」

「そうですかって、意外と平気そうだったっす」

「怒るとか、泣くとかなかったのか?」

「ぜんぜん、あんまりあっさりとしてたんで、オイラも拍子抜けしたっす」

「ふーん」

「まあ、彩さんにはオロチの姿が見えないから、それだけが救いかな」

「見えるっすよ」

「は!?、今なんつった?」

「見えるっす、姫には霊能力があるっす」

「マジかよ!何で?」

「姫は、久能の血も引いているっす」

「じゃあ、久能と西園寺家は親戚なのか?」

「そういう事になるっすね」

「そういう事ってあんた、もう両家は天下無敵じゃねえか」

「っすね」

そうこうしている内に俺達は西園寺家に着いた。

俺達が玄関に入るや否や、彩さんが走って来た。

「やまとさん!お久しぶりです。お会いしたかったです!」

彩さんは、俺の両手を取り、もう既に目に涙を浮かべている。

くう〜っ、いつ見ても可愛いなあ!

直接聞いたわけじゃあないけど、彩さん絶対に俺に惚れてるよな!

惚れてるかもしれない、惚れてたらいいな!

「彩さん、お久しぶりです。
元気にしてたようですね、安心しました」

「やまとさん困ります!」

彩さんはちょっと怒った顔になった。

「え!?、困るって何です?
俺、彩さんになんか失礼なことしましたか?」

「もっと会いに来てくださらないと、彩はまた病気になってしまいますよ!」

こ、これは!?

好きだから会いたいと言っているのか?

自分の健康のためにもっと来いと言っているのか?

どちらにも取れる微妙なセリフ、う〜ん、この小悪魔さんめ!

「ははは、すいません、色々忙しくて、これからはもっとちょくちょく来るようにしますよ」

「本当に、絶対ですよ!
必ず来てくださいね!」

「あ〜っ、おっほん、姫、お取り込み中ですが…」

「きゃっ、私ったら…」

彩さんは慌てて俺の手を離した。

俺は恨めしそうに小次郎の顔を睨んだ。

全く空気が読めない奴だ!

「あら?そちらの方は?」

と、彩さんはオロチを見て俺に尋ねた。

「あ、あのう、それが、これがあのオロチです。オロチ挨拶しろ」

「御意、お目もじ叶いまして恐悦至極に存じまする。
我はオロチと申す者にござりまする」

とオロチは澄ました顔で挨拶している。

彩さんのお父さんを殺したくせに面の皮が厚い奴だ!

「まあ、この方がオロチさんですのね、初めまして、彩と申します、よろしくお願いいたします」

と、彩さんもにこやかに挨拶している。

作り笑いじゃないぞ?

どうなってるんだ!?

「おお、これは礼儀作法に適った挨拶痛み入りまする。
しかも見目麗しい姫君にござりまするな!」

な、なんと!

オロチめちゃ上手い!

コイツ凄え!

「まあ、ほほほ、お世辞がお上手ですわね」

彩さんは上機嫌だ、オロチ、グッジョブ!

「我は生まれてこの方世辞など申したことはござりませぬ、全て本心にござりまする」

と、真面目くさってオロチ、益々グッジョブ!

「ほほほ、さあさあ、立ち話もなんですから、どうぞお上がりください」

俺達は客間に通された。



※続きます
※続き



「あの〜彩さん、分かっていますか?こいつは、このオロチは…」

「分かっております、全て小次郎さんから聞いております」

「もう恨んではいないのですか?
オロチが憎くないのですか?
コイツは彩さんのお父さんを殺したのですよ!」

「はい、恨んではおりません。
憎んでもおりません」

と、彩さんはほほ笑んだ。

「何故です?」

「生きるも定め、死ぬも定め、定めを恨んでも憎んでもしょうがないことです。

それに、元はと言えば当家の先祖の犯した罪の報いによるもの、
罪を犯しながら報いを憎み恨むなど理屈に合いません」

「いくら恨んだところで、
もう父は帰って参りません、
運命を憎み恨んで過ごすよりも、
運命を受け入れ心穏やかに暮らすことこそ人の道かと思います」

なんて女の子だ!

悟り切っている。

俺は女神の片鱗を見た!

「それに…」

「それに?」

「オロチさんは、今ややまとさんの守護神、
大切なやまとさんを守ってくださる方の事を感謝しこそすれ、
恨んだり憎んだりできるはずはありませんわ!」

ううっ、また意味深な発言!

これもどっちだ?

好きだから大切なのか?

健康のために大切なのか?

女神なのか?

小悪魔なのか?

「姫、勿体ないお言葉、オロチ感謝申し上げまする」

「オロチさん、やまとさんをよろしくお願いしますね!」

「御意!」

彩さんのおかげで丸く収まってほっとした俺は、
空腹を覚え不覚にも腹の虫が鳴った。

「あら、あら、やまとさんお腹が空いたようですね、
直ぐにお食事の用意をさせますから、お待ちくださいね。
私も腕を振るいますからね」

と言って、彩さんは部屋を出て行った。

料理!?

俺と小次郎は顔を見合わせた。

「小次郎!」

「やまとさん!」

「やばい!やばいぞ小次郎!
彩さんが腕を振るうと言って大張りきりだったぞ!」

「やまとさんがいけないんすよ!
オイラあんなに反対したのに!
姫の顔が見たいなんて言うもんだから!

しかも食事時分に来るなんて、
飛んで火に入る夏の虫、
蟻地獄にはまった蟻とおんなじっす!」

「すまん、小次郎俺が迂闊だった、
まさかあそこで腹の虫が鳴るとは!
このやまと一生の不覚!」

「ピンチっす!ピンチ!
どうしたらいいっすか!?
わ〜わ〜わ〜!!!」

「お、落ち着け!小次郎!
座布団かぶって走りまわるんじゃねえ!」

「やまとさんこそ、なんで靴下手にはめてんすか!?」

「あ〜、もうどうするんすか!?
姫の手料理を食うぐらいなら目隠しされて、
両手両足をもがれて、
1000人のオロチと闘うほうがましっす!」

「ん!?小次郎今なんて言った?」

「姫の手料理を食うぐらいなら…」

「違う!もっと後!」

「1000人のオロチと…オロチ!」

「そうだ、オロチだ!」

「オロチっす!」

「小次郎、ちょっと耳を貸せ!」

「へい!」

この時の俺と小次郎は悪魔に魂を売ってもいいような気持だった。

いや、顔つきは正に悪魔だったに違いない。

俺達は、何も知らないオロチに彩さんの手料理を食わせようと企んだのであった。

自分達さえ生き残れたらそれでいい!

卑怯卑劣な考えだったが、俺達は修羅と化した!



※続きます
※続き



「我が君、先程から小僧と何をされておられまするか?」

「ん?いやなんでもない。
オロチ、彩さんの手料理は上手いぞ!
ハンバーグの比じゃないぞ!」

「おお!あの姫は料理も達人にござりまするか?
それは楽しみな事にござりまするな!」

「そこでだ、オロチ、彩さんの手料理は今日の主賓のお前に食う権利がある!」

「な、なんと!我が君それはまっことにござりまするか?」

「まっこともまっこと、今日は彩さんの手料理は、お前が全部食っていいぞ!許す!」

「御意!いやあ、このオロチまっこと良き主君に巡り合えたものにござりまする!」

こうして、俺と小次郎は、まんまとオロチを罠に陥れた。

「お食事の用意が出来ました、みなさんどうぞこちらへ」

彩さんに従って俺達は膳に着いた。

「彩さん、オロチが彩さんの手料理を凄く楽しみにしていまして、是非オロチに食べさせてやりたいのですが」

「まあ、嬉しい!オロチさん、どうぞ、たんと召し上がれ!」

「姫、恐悦至極にござりまする。馳走になりまする」

俺と小次郎は固唾を飲んで見守った。

と、オロチが彩さんの手料理を口に入れた。

オロチはその瞬間目を閉じて固まった。

やっぱり、駄目だっか…。

許せオロチ

ありがとうオロチ

短い付き合いだったがお前の事は忘れない!

お前の墓碑にはこう記そう。

地上最強の守護神オロチ、勇敢に主君を護りて強大な敵に立ち向かい、そして雄々しく散る…と。

俺はオロチに向かって合掌した。

と、その時

「こ、こ、これは!なんと美味なる食べ物でござろう!

はんばぐも美味でござりましたが、
姫君のこの手料理には敵い申さん。

いや、姫君はまっこと良き花嫁になられることでござろう。

姫君を嫁にもらえる者は三国一の果報者にござりまする!」

「!!!」

いた!

彩さんの手料理を受け付ける化け物がここにいた!

「まあ、オロチさんたらお上手ですわね、でも、お気に召していただいて嬉しいですわ!」

彩さんは、上機嫌だ!

オロチナイス!

良くやった!

「姫、世辞ではござりませぬ、姫の手料理は天下一品にござりまする。

それに、何やら力がみなぎって参りまする。
姫君さえご異存ございませぬなら、我が君の奥方におなりくだされ!」

おおっ!

やった!

オロチ、グッジョブ!

俺はお前のような守護神を持てて嬉しいぞ!

「いやだわ、オロチさんたら」

彩さんは真っ赤な顔をして俯いてしまった。

「姫は我が君とちゅ〜なるものを…」

「わ〜、オロチ何をぬかすか!」

「は!?我が君、覚えておられぬのでござりまするか?
我とお闘いあそばした折りに、
姫君とちゅ〜…」

「わ〜っ、わ〜っ、わ〜っ!」

「彩さん、ごちそうさまでした。
また、立ち寄ります。
時間がありませんのでこれにて失礼いたします。
行くぞ小次郎!」

俺はオロチの口を塞ぎながら表まで引きずって行った。

この野郎最後でへましやがって!

こんな奴守護神にすんじゃなかった!

俺は後悔を引きずりながら、K市に向かった。



※続きます
※続き



K市に向かう車中で、俺は小次郎に尋ねた。

「なあ、小次郎」

「なんすか?」

「今回のギャラはいくらだ?」

「オイラはいつも通り、一万円っすけど、やまとさんの分は交渉して出来るだけ沢山貰えるようにするっすよ」

「違うよ、タダでやってやれないのかよ?
先方はお金に困ってんだろ?」

「う〜ん、そうしてやりたいのは、やまやまなんすけど、そう言う訳には行かないんすよね」

「何でだ?」

「コイツは契約なんすよ、
一万は見えない契約書を作るための費用となるっす。
久能の者はこの契約を行わないといけないんす」

「見えない契約書?」

「そうっす、万円を受け取る事によって見えない契約書が成立して、
久納の者の魂に掟が刻み込まれるんす。だから、一旦お金を受け取ったら、久納の者は逃げることは出来ないんす」

「逃げたら掟により、報いがあるか」

「掟破りの中でも、この逃げるって言う掟破りには最大級の報いが訪れるっす」

「最大級って事は?」

「死あるのみっす」

「やっぱ、久納パねえ!」

「じゃあ、依頼者が契約解除したら?」

「依頼者も契約解除出来ないっす。
てか、依頼者の魂にも契約が刻み込まれ、決して解除しなくなるっす」

「ふ〜ん、完璧だな」

「ふん、笑止」

またオロチが突っかかる。

ったく挑発するんじゃねえよ!

「何が笑止っすか?」

「臆病者が混ざっておるから、
さような小賢しい掟で縛らねばならなくなるのだ、
誠のいくさ人ならば、
逃げは死すより恥、恥を晒すくらいなら言われなくとも自ら腹かっさばいて果てるものぞ!」

うわっ、コイツ言っちゃったよ、小次郎怒り狂うぞ!

「そうなんすよね、今の時代命かけるなんて言っても、いざとなったら逃げ出す奴ばっかりなんすよね」

おっ!?小次郎が認めた?

「小僧もなかなかに苦労しておるな」

えっ!?

オロチが慰めた?

コイツら仲良くなったのか?

「まっ、小僧はまっことのいくさ人として、
我が鍛えてつかわす故、
我を師と崇めるが良い!
わっははは!」

「うるさいっす!お前なんかに鍛えて貰わなくても、オイラ十分に強いっす!」

「何を申すか!この無礼者が!」

「やるっすか?」

「おう!望むところ!今度こそ、八つ裂きにして喰ろうてやるわ!」

「お前ら、やかましいっ!」

駄目だコイツら、期待して損した。

「おっ、小次郎、オロチ、サービスエリアだ、寄るか?」

「は〜い!」

「御意!」

もう機嫌直った。

単純な奴等だ!



※続きます
※続き



俺達はようやくK市に着いた。

依頼のあった旧家は、
国道から3キロ程入った所にあり、
森を背にして屋敷があった。

屋敷の隣には、森に続く荒れ放題の土地があった。

「なんか、立派な屋敷じゃねえか?本当に貧乏なのか?」

「本当っす、土地屋敷はほとんど抵当に入ってるっす。
例の土地だけが抵当にも入れられなくて、手付かずなんすよ」

「そうか」

俺達は早速、旧家を訪れた。

旧家は吾妻と言う、清和源氏の流れをくむ由緒正しき家柄らしい。

成る程古い屋敷だ。

当主は冬成、妻は貴美子、そして一人娘の夏海の三人家族だ。

当主は、夜道を歩いていて後ろから跳ねられたらしく、ムチ打ちと下半身不随と言う痛ましいありさまだった。

そして、娘は寝た切りで、目を覚ましたり、眠ったりの繰り返しらしい。

彩さんの時と同じだ。

俺は早速ヒーリングを行うため、当主への挨拶もそこそこに、小次郎を連れて娘の部屋に行った。

オロチは広い所が気に入ったみたいで、偵察とかぬかして遊びに行った。

娘の部屋に入ると、可憐な少女がベッドに臥せっていた。

なるほど、夏海の名の通り、元気ならば夏が似合いそうな、ショートカットの美少女である。

思わず、ほうとため息が漏れた。

「やまとさん、オイラはオロチを探しがてら、
例の土地を見に行くっすけど、変な事しちゃ駄目っすよ!」

「ばっ、馬鹿野郎!しねえよ!」

俺には彩さんがいる、美少女とは言え、心を奪われる訳が…ちょっと自信がない。

俺はヒーリング方法なんて知らない。

俺がヒーリングを施したのは彩さんのみ、
それも偶然抱き締めた形で。

まさか、この少女を抱き締める訳にも行かない。

そんなことしたら完璧変態だ!

俺はとりあえず少女の額に手を乗せてみた。

冷たい、やっぱり彩さんの時と同様、冷たい額だった。

なにかにつけて、彩さんと比較してしまう俺、苦笑してしまう。

ものの五分もしたら、少女の頬に赤味が差して来た。

「いいぞ!上手く行くかも知れない」

俺は全神経を手に集中した。

「んっ…」

と、少女から吐息が漏れ、そしてゆっくりと目を開けた。

「あ…なたは?」

「夏海さん、気が付きましたか?
俺はやまとと言います。
あなたを癒しに来ました」

「やまとさん…」

なんと透き通った声だろう、鈴を転がすとでもいうのか、美しい声だった。

少女は俺に向けて、手を差し出して来た。

俺はその手を受け取るようにして、両手で包んだ。

少女はじっと俺を見つめている。

なんだ?誘ってるのか?

違うやまと勘違いするな!

でも、やばい、やばい、やばい、やばい、負けそう。

少女がす〜っと起き上がった。

「ありがとうございます!
嘘みたいに気分も体調も良くなりました。
やまとさんは凄いですね!」

驚く程の明るく力強い声、こぼれるような笑顔に、俺は一瞬眩しそうに目を細めた。

「じゃあ、俺は一旦客間に戻ります。
何かあったら呼んでくださいね」

「はい、ありがとうございます!」

わ〜っ、こんな娘もいいなあ!

やまとのアホ!

お前には彩さんがいるじゃねえか!

心移りするな!

と自分を叱咤しながら客間に向かった。



※続きます
※続き




客間では、当主が心配そうな面持ちで、座椅子に座っていた。

「やまとさん、娘は?どんな具合でしょうか?」

「もう大丈夫です、完全に回復してすっかり元気ですよ!」

「凄い!どんな医者も匙を投げたのに、奇跡だ!ありがとうございます!」

「お役に立てて良かったです」

と、当主と会話していると玄関の方が何やら騒がしい。

何事かと、行ってみると、なんと小次郎とオロチが、ぼろぼろになって玄関口に座りこんでいる。

「小次郎!オロチ!ど、どうしたんだ!?
ぼろぼろじゃねえか!
もう襲われたのか?」

「ち、違うっす、あれから例の土地でオロチと落ち合ったんすが、
ぶらぶらしてても退屈だったんで、
ちょっと二人でふざけて、
霊波動をぶつけ合いして遊んでたっす」

「そしたら、夢中になっちゃって、
気が付いたらお互いぼろぼろになってたっす」

「お〜の〜れ〜ら〜は〜!
あ、あ、あ、あほかーっ!
遊びで瀕死になるんじゃねえよ!
この大馬鹿野郎どもが〜っ!!」

呆れた、全くあきれた、
こいつらマジ大馬鹿だ、
遊びって、小次郎は左腕の義手が変な風に折れ曲がっているし、
左足の義足は真っ二つに割れている。

オロチに至っては顔の左半分が吹っ飛んでいる。

右手もない。

どっちが先に仕掛けたか分からんが、
多分遊びに見せかけて本気出しやがったに違いない。

「ったく、これから大変になるかも知れんのにど〜すんだよ!
そんな状態じゃあ何にも出来ねえだろうが!」

「取りあえず、治療すっから客間に来い!」

「やまとさん、ちょっと手を貸して…」

「馬鹿野郎!自力できやがれ!」

ったく、怪我してなかったらマジぶっ飛ばす!

客間で仁王立ちになっていると、よろよろと馬鹿どもが入ってきた。

オロチは当主には見えないのが幸いだ、見えたら心臓麻痺を起しかねない。

「ど、どうされたのですか?その姿は!」

「ちょっと、例の祟りに襲われたようです。
治療いたしますので、どこか良い場所はありませんか?」

「皆さまのご宿泊用にと、離れを用意しておりますので、そちらへどうぞ」

離れの部屋で、まずは小次郎。

「どれ、見せてみろ」

と、小次郎の左腕の義手に手をかけると、
なんと、不思議な事にみるみるうちに義手が直って行く。

あっと言う間に元に戻った。

義足に触ってみると、これまた同じ。

とどめに小次郎自身の肩に手をかけると、傷も癒えてしまった。

「な、なぜ?小次郎何でだ?」

小次郎も茫然としている。

「た、多分、霊力によるダメージですから、
やまとさんのヒーリングが効いたと思いますが、
他の能力も関係しているもかも知れません、
いずれにしても調べないとわかりません」

こいつ、動揺して言葉遣いが丁寧になってやがる。

「じゃ、オロチ来い!」

「ぎ、御意」

オロチも瞬く間に完全回復してしまった。

「かたじけのうござりまする、我が君!」

「しかし、流石っす!
ここまで凄いとは思わなかったっす、
やまとさん日増しに人間離れして行くっすね!」

「やかましい!誉めてんだか、貶してんだか分からんような表現するな!」

「とりあえず、回復出来たから良かったものの、ったく。
お前らいい加減にしろ!」

「だって、オロチが…」

「我が君、小僧が…」

「やかましい!」

「遊んでるぐらいだから、なんか分かったんだろうな小次郎」

「あの土地と森の境に小さな社があって、
その社から瘴気の残り香みたいなものがしたんすけど…」

「けど?」

「あとは、不明っす。
何日かかけて調査しないと分からんっす」

「分からんっすってテメエ、
不十分な調査なのに遊んでるんじゃねえよ!」

「面目ないっす、調査している傍でオロチが楽しそうに虫捕まえたり、
穴掘ったりしてたもんで、つい」

「何がついだ、ったく」

そうこうしていると、部屋の外から声がした。



※続きます
※続き



「やまとさん、よろしいですか?」

夏海さんの声がする。

「な、夏海さん!?どうしました?また気分でも?」

「いえ、おかげさまで気分はもうすっかり良くなりました。あの、お食事の用意が出来ましたので、客間にお越しください」

「はい、分かりました、ありがとうございます」

「今日は、私が腕によりをかけて作りましたので、楽しみにしていてくださいね!」

夏海さんは弾むような声で客間へと戻って行った。

「小次郎!」

「やまとさん!」

「こいつはやばいかも知れんぞ!」

「っすねえ…」

「美少女の手料理、何か死亡フラグの臭いがプンプンするな」

「っす」

彩さんの手料理がトラウマになっている俺達は途方に暮れた。

「オロチが生身の人間だったら、
奴に毒見させるんだが、
変身なんかできないだろうし、
いくらなんでも目の前で、
料理がどんどん消えたら流石に不自然だしなあ」

「それに、食事を断るのは失礼っす」

「我が君」

「なんだオロチ?」

「へんしんとは、人の身になればよろしいのでござりまするか?」

「そうだよ」

「出来まするが」

「え〜っ?出来んのお前!?」

「御意、雑作も無きことにござりまする」

と言うと、オロチはポンと変身して見せた。

そこには、五月人形の武者のような髭面の大男が立っていた。

「凄え!いいよ!いい!紋付袴ってのがちょっと気になるが似合ってるし、まっいいか」

俺達は客間に向かった。

俺達は、神妙な面持ちで膳についた。

向かいには、当主と夏海さんが座っている。

「やまとさん!」

「夏海さん、どうですかその後体調は?」

「おかげ様でこの通りですっ!」

と、腕をぶんぶんぐるぐる振り回す。

突きの真似をする。

可愛い!

彩さんにはない可愛さだ。

「これこれ、夏海お客様の前だぞ、大人しくしていなさい」

「は〜い」

とぺろっと舌を出して俺に笑いかける。

くるくるっとした感じで本当に可愛い子だ。

「おや?やまとさん、そちらの方は?」

「はい、只今到着しました、オロチと言います。
我々の護衛です。
オロチ挨拶しろ」」

「主殿、お目もじ叶いまして恐悦至極にござりまする。
我はオロチと申しまする。
以後お見知りおきを賜りまするよう、
お願い奉りまする」

オロチは畳に手をついて、平伏した。

ちよっと古臭くて変だが、こういうときのオロチは存外好感が持てる。

「ご苦労様です、オロチさん初めまして、当家の主で吾妻冬成と申します、どうぞよろしくお願いいたします」

「いやあ、やまとさん、立派な方ですなあ!」

主はオロチが気に入ったようだ。

ひとまず胸をなでおろす。



※続きます
※続き



「ささ、どうぞ!今日は娘の夏海が腕によりをかけて作りました、遠慮なさらずにお召し上がりください」

来た!

ついに来た!!

どうするやまと!

この危機をどう乗り越える!!

やっぱり、美少女と不味い料理はお約束なのか?

「いただきます」

「いただきま〜す」

「馳走になりまする」

俺と小次郎は、食べる振りをしながら、オロチを見守る。

と、また、オロチは夏海さんの手料理を口に入れるや否や目を閉じて固まった。

「こ、これは!こちらの姫君も料理の達人にござりまするなあ!
まっこと美味!このオロチ感服つかまつった!」

「オロチさん、嬉しい!もっと食べてくださいね!」

「!?」

「!!?」

このとき、俺は重大な見落としに気がついた。

「おい、小次郎」

「なんすか?」

「オロチって、ハンバーグも彩さんの手料理も美味いって食ってたよな?」

「っす」

「奴は、なんでも美味いって感じるんじゃねえか?」

「多分…」

使えねえ!

この守護神使えねえ!

これじゃあ上手いのか不味いのか判断できねえ!

「いかがなさいました?ささ、遠慮なさらずにどうぞ!」

「は、はい…」

俺と小次郎は目をつぶって料理を口に入れた。

「!!」

「う、上手い、いや、美味しいです!夏海さん料理お上手ですねえ!」

「嬉しい!!」

俺と小次郎は安心して料理を平らげ始めた。

美少女で料理上手。

申し分ない、俺は夏海さんの料理を堪能した。

と、突然オロチと小次郎がごちゃごちゃ言い合いを始めた。

この馬鹿野郎ども、大人しく食えないのか?

恥ずかしいだろが。

「うるさいぞ!小次郎、オロチ!」

「我が君、この小僧が我の料理をば盗んだのでござりまする」

「盗んでないっすよ!こいつが海老の天ぷら残してたんで、嫌いなのかなって思って貰ったんす」

「たわけ!これは後の楽しみに残しておったのだ!それを、この小僧め!成敗してくれるわ!」

「お前らくだらない事で喧嘩してんじゃあねえ!子供か!?ったくみっともない、ほら、オロチ、俺の天ぷらやるから機嫌直せ、涙ふけ!」

「う…我が君、このご恩は…」

「わ〜ったから、いいから食え!」

「御意」

ったく、天ぷら取られたくらいでべそかくんじゃねえよ、お前は神だろうがよ、小次郎も神を泣かすな!

夏海さんは、口に手を当ててくすくす笑っている。

全く恥ずかしいったらない。



※続きます
※続き



「あのう、オロチさん」

と夏海さんがオロチに話しかけた。

「何でござりまするか?」

「さっき、こちらの姫君もっておっしゃてましたけど、他にもお料理が上手な方がいらっしゃるんですか?」

「御意、西園寺家の姫君がこれまた料理の達人にござりまする。
その味たるやこの世のものとも思えない程にござりまする」

そりゃそうだ、確かにありゃあ、この世のもんじゃないよな。

「そうなんですか、どんな方ですか?お綺麗な方?」

「夏海姫殿と互角にござりまする。
しかも我が君の許婚者にござりまする」

「ばっ、オロチ何言ってんだよ!婚約なんかしてねえっつ〜の!勝手に決めるんじゃねえよ!」

「やまとさん、そんなに慌てなくても、顔を真っ赤にしちゃって、可愛い!」

「いや、これは…」

「婚約者じゃないんですか?」

夏海さんは意地悪な目をして聞いてくる。

「違います!」

「良かった!」

えっ!?

良かったって?

どういう意味?

ももも、もしかして、この子も俺に惚れたか?

困る、困るけど嬉しい、嬉しいけど困る。

と、俺は勝手な妄想を抱いていた。

「これ、夏海、やまとさんをからかうんじゃない!困っていらっしゃ…うう」

当主が突然胸を押さえて、膳上に倒れ込んだ。

「ご当主!」

「お父さん!」

俺は、思わず立ち上がり、主を抱き起こした。

「ご当主、しっかりしてください!」

「う…む、おや!?なんともありません」

「え?なんともないとは?」

「今、突然胸が苦しくなって、
目の前が真っ暗になったのですが、
やまとさんが起こしてくださった瞬間、嘘のように…」

「ご当主、その症状は今初めてっすか?」

「いえ、家族が心配するといけないので隠していましたが、土地を売りに出してから起こるように…」

「お父さんたら、そんなこと黙ってるなんて…」

「いや、すまない」

「なるほど」

「小次郎、何がなるほどなんだ?」

「思うところがあるっす。
ご当主、もう一つ質問すが、怪我は自動車事故すか?」

「いえ、歩いていたらいきなり背後に衝撃が走り、気が付いたら病院でした。
警察が調べても、ひき逃げの証拠も痕跡もありませんでした」

「分かったっす」

「小次郎、だから何が分かったんだよ!?」

「ご当主の怪我も、今の症状も霊障っす。
その証拠に…」

「証拠に?」

「ご主人、立って見てください」

「小次郎、そんな無茶言うなよ!」

「大丈夫っす、必ず立てるっす!」

当主は、初め躊躇していたが、
小次郎の自信たっぷりな態度に励まされるかのように、
意を決して、恐る恐る立ち上がる。

「おおっ!立てる!!首もなんともない!」

「お父さん!良かった!でも、何で?」

「やまとさんは、霊障による怪我は治せるっすよ、
ご当主の怪我や症状は霊障だったから、やまとさんがご当主を抱き起した時に治ったんす」

「そうだったんですか、いや、やまとさんありがとうございます。
なんとお礼を言ってよいのか、このご恩は…」

当主は涙にむせんで言葉にならない。



※続きます
※続き



「やまとさん!本当にありがとうございます!」

「いや、そんな、…」

俺は耳まで赤くなるような気がした。

―こんなに感謝されるなんて、この仕事も悪くないかも―

「そうだ、お父さん、もしかしたらお母さんも治してもらえるかも知れない」

「おお、そうか、やまとさん、実は家内が原因不明の病で入院しておりまして、良ければ治療してみていただけませんか?」

「どうりで、奥さんの姿が見えないと思っていました。
いいでしょう、やって見ます」

俺達は早速、当主の奥さんが入院している病院に行った。

結果はやはり霊障によるもので、奥さんの健康はあっと言う間に回復した。

当主は、奥さんを退院させるために病院に残り、俺達と夏海さんは屋敷に戻った。

「やまとさんって凄いですね!夏海尊敬と言うか、憧れちゃいます!」

と、夏海さんは尊敬のまなざしで俺を見つめた。

―お、お、お、臆面もなくそんな事を言うなんて、なんて子だ!
ここにも小悪魔さんがいたよ!
お兄さんは嬉しいぞ!
さあこの胸に飛び込んでおいで―

と、勝手な妄想を抱く俺であった。

「いやあ、この人は化け物っすから、あんな事朝飯前っすよ!」

「小次郎!テメエ、この野郎!!ぶっ飛ばす!!」

「あははは!」

と、夏海さんが男っぽく笑う。

くそ、せっかくいい感じだったのに、小次郎のやつフォローになってねえ、全く空気の読めないやつだ!呪いをかけてやる!

「それでは、私は父と母が帰るのを待ちますから、
小次郎さん達は先にお休みください。
今日は本当にありがとうございました」

「はい、夏海さん、お休みなさい。
何かありましたらいつでも呼んでください」

「はい!」

俺達は離れに戻った。

「オロチ」

「御意」

「お前は、夏海さんの護衛に付け!」

「御意」

オロチは忽ち姿を消した。

「いやぁ、美味かったな夏海さんの手料理」

「っすね、でも…」

「でも?なんだよ?」

「やまとさん、鼻の下伸ばしちゃって、姫に言いつけちゃうっすよ!」

「ば、馬鹿野郎!しょうもないこと彩さんに言ったらぶっ飛ばすぞ!」

「脅してもだめっすよ。
まあ、条件によっては黙ってないこともないっすけど」

「なんだ?条件とは?」

「チョコパフェ5杯でいいっす!」

「くっ、卑劣な…」

「嫌ならいいんすけど、
姫は悲しむっすかね?怒るっすかね?
ああ可哀想な姫、
極悪非道な男に心をもてあそばれて」

「分かった、分かった、それで手を打つ、それでいいな!」

「へい!」

「それにしても、なんでやまとさんばっかりモテるんすかね?」

「そりゃあ、俺って、ダンディだし、カッコいいし、男らしいし。仕方ないよ、いい男の宿命だな」

「はいはい」

「話は変わるが、明日の予定は?」

「明日は、土地の調査っす、もっと詳しく調べるっすよ。
オロチも借りて行くっす」

「そうか、で俺は?」

「やまとさんには、特に何にもして貰う事はないっすから、ぶらぶらしててもいいっすし、
一緒に来てもいいっすし、
夏海さんとデートしててもいいっす」

「しねえよ!この野郎、ちくちく責めてきやがるな!」

「あはは、悔しかったもんで」

「じゃあ、一緒に行くよ、暇だし、一人は怖いし、お前とオロチがいれば、何が出ても大丈夫だろうし」

「ほんっと、化け物のくせに怖がりっすね」

「うるさいよ!化け物言うな!」

俺と小次郎は明日に備えて、布団に入った。



※続きます
※続き



夢を見た

小さな女の子が一人、
肩からポシェットを掛けている。

一人で遊んでいるようだ。

女の子は、森に入って行く。

入ってすぐのところに社があった。

女の子は、社の傍に腰掛けて、ポシェットを開け、クッキーを取り出し食べ始めた。

「ほほう、美味そうな菓子じゃな」

とふいに声が聞こえた。

「だあれ?どこにいるの?」

と女の子。

「ここじゃよ」

と社の観音開きが開いて、中から神主のような格好をした老人が出て来た。

「おじいちゃんはだあれ?」

「わしか?わしはこの社の神じゃよ」

「かみさまなの?」

「そうじゃ」

「はじめまして、かみさま、なつみです」

「おお、おお、お行儀の良い子じゃな。はい、初めまして、わしは清和じゃ」

「せいわ?」

「そうじゃ、ず〜っと昔に清和という者たちがおってな、その者たちがこの地で信じておった神が、このわし、清和じゃ」

「ふ〜ん、せいわのかみさま」

「そうじゃ」

「じゃあ、なつみ、せいわ様って呼ぶね」

「おお、良いとも。夏海、その菓子はなんと言うのかな?」

「これは、クッキーだよ、食べる?」

「良いのか?」

「うん!」

夏海は清和神にクッキーを分けた。

「おお!これはなんとも美味いものじゃのう。
それに、お供えも絶えて久しかったゆえ、余計に美味じゃ!」

「もっと食べる?」

「良いのか?」

「うん、帰ったらまだあるから、せいわ様にみんなあげる」

「おお、すまんのう」

夏海は清和神にクッキーを渡すと、手を合わせて拝み始めた。

「何を、しておる?」

「せいわ様はかみさまなんでしょ?
お父さんがかみさまは拝みなさいって言ってたから、拝んでるの」

「おうおう、ありがとうよ、夏海はほんに良い子じゃな」

「おそなえがたえてひさしいってなあに?」

「昔はわしに食べ物や飲み物を、毎日のように村の人々が持って来てくれたが、いつの間にかみんなわしの事を忘れてしまい、今では誰も持って来てはくれんのじゃよ。寂しい事じゃ。」

「さびしいの?」

「そうじゃな、やっぱり寂しいもんじゃな」

「じゃあこれからは、なつみが来てあげる」

「おう、それは嬉しいことじゃ、ありがたいのう」

遠くで、夏海を呼ぶ声がした。

「夏海〜」

「は〜い、じゃあせいわ様、また来るね」

「待っておるぞ」

このころは、夏海の家は裕福だったが、近くには夏海と同年代の子供は一人もおらず、
夏海はいつもひとりぼっちだった。

夏海はいつも一人で絵を描いたり、
ぬいぐるみを相手にしたり、
毬で遊んだりしていた。

夏海は、毎日のように清和神の元に遊びに行った。

清和神は夏海に色々な遊びを教えてくれた。

手造りの玩具や森の木の実もくれた。

昔の面白い話や、木や草花の名前を教えてくれた。

やがて、夏海は幼稚園に行くようになった。

しかし、これまで、自分と同年代の子供と接したことがない夏海は、
どうしても打ち解ける事が出来ず、自然無口となった。

しかし、夏海はちっとも寂しくなかった。

夏海は幼稚園から戻ると、すぐに清和神の所へ行った。

「ねえ、せいわ様」

「なんじゃな、夏海?」

「せいわ様はなんでも出来るの?」

「なんでも出来るとは言えんな」

「なんで?神様だったらなんでも出来るんじゃないの?」

「ははは、昔はな。昔はたいていの事は出来た。
雨を降らせたり、村人の病を治したり、悪霊を追い払ったり出来た」

「じゃあ、なんで今は出来ないの?」

「それはな、誰もわしの事を拝んでくれないからじゃよ、いつの間にかみんなに忘れられ、誰からも拝まれなくなったから、いつしか力を失ってしまったのじゃよ」

「皆の信仰心、すなわち、皆が信じて拝んでくれるからこそ力があったのじゃよ」

「ふ〜ん。じゃあ今は何にも出来ないの?」

「ははは、そうじゃな、何にも出来ないことはないぞ、夏海だけはわしを拝んでくれるから、夏海ぐらいなら護ることは出来る」

「おお!そうじゃ!わしはこれからは夏海を護る神になろう、夏海だけを護ることとしよう」

「なつみを護ってくれるの?」

「おお、約束じゃ!」

「じゃあ、指きりげんまんね!」

「おお、良いとも!」

夏海と清和神は指きりをした。



※続きます
※続き



時は移り、夏海は小学生になった。

夏海はやはり、小学校でもひとりぼっちだった。

もとより無口なのに加え、夏海の裕福な事を妬む者達にいじめられた。

ある日、あまりのいじめのひどさに耐えかねて、夏海は清和神の社で泣いていた。

「どうした、夏海?」

「みんなが夏海のこといじめるの。
もう学校いきたくない顔」

「そうか、良し分かった、わしがいじめをなくしてやろう。だから夏海は明日も学校に行くのじゃ」

「ほんとにいじめられなくなるの?」

「任せておけ!約束じゃ!」

「うん、指きりね」

夏海と清和神は指きりをした。

翌日、夏海が学校に行くと、夏海をいじめていた集団が、夏海に近づいて来た。

早速いじめられるのかと、夏海はびくびくした。

いじめっ子のリーダーが、夏海に言った。

「夏海、今までいじめてごめんな、もうしないから許してくれるか?」

夏海はびっくりした。

「清和様が約束を守ってくれたんだ!」

夏海は嬉しくてぽろぽろと涙をこぼした。

「泣くなよ、もういじめないから、ほらこれやるからさ」

いじめっ子は夏海に飴をくれた。

その飴は今まで食べたどんな飴より美味しかった。

清和神は、もともと子供好きな神、いじめっこ達に呪いや祟りを及ぼすなどと言う事はしなかった。

ただ、いじめっ子達の夢に現れ、こんこんと説教したのであった。

それ以来、夏海はクラスメートとも打ち解け始め、明るくなって行った。

みんなと仲良くなり、一緒に遊ぶようになった夏海は、それでも必ず二日に一度は清和神に会いに行った。

また時が移り、夏海は中学生になった。

中学生になっても、相変わらず夏海は清和神に会いに行った。

「清和様こんにちは!」

「おお、夏海、どうじゃな学校は?」

「はい、凄く楽しいです。
みんな優しいし。
清和様が護ってくれているからでしょ?」

「ははは、わしは何にもしておらんよ」

「えっ、そうなんですか?」

「そう、学校が楽しいのも、みんなが優しいのも、それは夏海が明るく、誰にも優しく、良い子だからじゃ。
全て夏海一人の力じゃ」

「なあんだ、いつも清和様が護ってくれているからだって思っていました」

「いつでも神を頼るのはいかん、神を頼ってばかりいると、なんでも神頼みの人間、自分の力では何にも出来ない人間になってしまうのじゃ」

「はい、夏海もそう思います」

「ほんに、夏海は良い子じゃな。
じゃがな夏海、わしは夏海が本当に困ったときや、本当に夏海に危機が迫った時には必ず護るでな、安心するが良いぞ!」

「はい、清和様!」

清和神はこう言ったが、実はいつも夏海の傍にいて、夏海を護り続けていた。

夏海が高熱を出し肺炎を起こした時も、車に跳ねられそうになった時も。

また時が移り、清和神に護られ、夏海は高校生になった。

夏海は美しく成長した。

「清和様、こんにちは!」

「お、お、夏海…」

「清和様どうなさったんですか?何かお顔が苦しそうですけど」

「もうわしも年じゃからな、夏海、今日はお前に大切な話があるのじゃ」

「大切な話って何ですか?」

「実はな、夏海お別れじゃ」

「えっ!?お別れってどういう事ですか?嫌です、夏海は清和様とお別れしたくありません。それに、清和様は夏海を護ってくださるとおっしゃったではありませんか!」

「すまぬ、夏海許しておくれ、わしは老いた。わしにはもう夏海を護ることはできん」

「お別れは嫌です!夏海を護ってくださらなくてもいいですから、ずっと夏海の傍にいてください!夏海のお話相手をしてください!」

夏海はぽろぽろと涙をこぼした。

「すまぬ、夏海、どうしても無理じゃ、わしはもうすぐ消える、その前に約束して欲しい」

「約束ってなんですか?」

「わしが消えたら、決してこの森に近づいてはならん。良いか?それが出来るのなら、わしが消えた後も、夏海が人生最大の危機に直面したとき、もう一度夏海を助けよう。夏海約束じゃ」

「は、はい、分かりました清和様、お約束いたします」

「ほんに夏海は良い子じゃのう」

清和神は夏海に小指を出した。

「夏海…いつまでも明るく健やかにな…」

「清和様…」

清和神は消えて行った。



※続きます
※続き



ここで、やまとは目が覚めた。

「夢か…?あれは、夏海さんの過去の夢。清和様か…」

「いい神様だったな、この神様が祟るなんて考えられないなあ。う〜ん」

やまとは、考え込んでいる内にまた深い眠りに落ちて行った。


また夢の続き

夏海が清和神の社で泣いている。

「清和様、約束を破って来てしまいました。でも清和様は、夏海が人生最大の危機に陥った時には、必ず助けるとおっしゃってくださいました」

「それが本当なら、今がその時だと思います。父が他人に騙されて財産を失い、事故にまで遭いました。母も原因不明の病気で入院しました。清和様お願いです、どうか助けてください!」

社からは清和神は出て来ず、清和神の声すらも聞こえなかった。

「清和様…夏海は清和様のことを信じております」

夏海はとぼとぼと帰って行った。

やまとが夢を見ている頃、夏海が寝ている部屋では異変が起きつつあった。

夏海の傍で、すっと黒い影がどこからともなく現れ、人型を成した。

「むむっ、妖気!夏海姫、ご無礼いたしまする!」

夏海の部屋の外で警護に当たっていたオロチは、妖気をいち早く察知し、夏海の部屋に飛び込んだ。

黒い人影は今正に夏海に覆い被さろうとしていた。

「何奴!」

そう言うや否や、オロチは黒い影に鉄鎚一閃、影を跳ね飛ばした。

影は、オロチの攻撃を受け、部屋中に四散し、やがて消えて行った。

「ふん、歯ごたえのない奴め!しかし、はて?今の感じは?面妖な…」

オロチはまた、夏海の部屋の外に戻ると、再び警護を続けた。

しかし、この夜はそれ以後何も起こらなかった。

翌朝、やまとと小次郎は夏海の声で起こされた。

「やまとさん、小次郎さん、おはようございます。朝食の用意が出来ましたよ!」

「は、はい、おはようございます。すぐに行きます」

やまとと小次郎が支度をしていると、オロチが戻って来た。

「我が君、ただいま戻りましてござりまする」

「オロチ、お疲れ!」

「っす!」

「オロチ、異常はなかったか?」

「ござりました」

「そうか、良かっ、えっ!?あったの?」

「御意。昨夜半、曲者が夏海姫の部屋に現れてござりましたが、我が一撃を受け雲散霧消してござりまする。」

「ようか、良くやったオロチ!で、どんな奴だった?」

「正体は我にも分かりませぬが、何やら黒き霧のようなものにござりました。それに、その曲者は実体ではなく、何やら分身のようにござりました」

「う〜ん、なるほどな。こいつはやっぱり早急に調べる必要があるな」

「御意」

いったん、話はそこまでにして、俺達は客間に向かった。



※続きます
※続き



「おはようございます、やまとさん、小次郎さん、オロチさん」

「おはようございます、夏海さん。あれ!?ご両親は?」

「父は仕事に出かけました、朝早いんです。
母は、昨日無理やり退院しちゃったんで、
もう一度精密検査をするために病院です」

「そうですか」

「今朝はびっくりしちゃいました。
私が部屋を出たら、オロチさんが一晩中護衛についていてくれたみたいで。
オロチさん本当にありがとうございました」

「なんの、我が君のご命令にござりまする。
礼には及びませぬ。礼ならば我が君に」

オロチ!お前って奴は、
主君に手柄を譲るなんて!
いい奴じゃないか!

俺は嬉しいぞ!

「やまとさん、ありがとうございました。
でも、オロチさんって面白い方ですね、武士の言葉を使ったり、
やまとさんの事を『我が君』って呼んだり」

うわっ、来た!

やっぱりな、コイツ変だもんな、時代劇の武士が、そのままタイムスリップしてきたみたいだもんな、どうやって説明しよう。

俺は苦し紛れに言った。

「こいつは時代劇にかぶれてるんです」

「それと、オロチは以前やまとさんに命を助けられてるんす、
それ以来やまとさんを自分の主だと思っちゃったっす」

と小次郎がフォロー。

小次郎ナイス!

「小僧!貴様は余計な事を申すな!」

「なんすか?やるっすか?」

「面白い、成敗してつかわす!」

「やかましい!」

ほんとこいつら、寄ると触ると喧嘩しやがる。

夏海さんの前で恥ずかしいったらない。

まあ、夏海さんは大笑いしているからいいけど…。

「やまとさん、今日のご予定は?」

「あ、はい、今日は俺達三人は、土地の調査に行きます」

「それじゃあ、私もご一緒させていただいていいですか?」

「えっ、夏海さん学校は?」

「ヤマトさん達が解決してくださるまで、お休みしようと思っています。
一人になるの怖いし、やまとさん達といる方が安心ですから」

「そうですね、夏海さんを一人にはしておけないし。それじゃあ一緒に行きますか」

「嬉しい!お弁当作りますね!」

俺はなんだか、ピクニックみたいだなと思った。

ちょっと嬉しい。

オロチは小次郎にソーセージを貰って大喜びしている。

さっきまで喧嘩していたのに何だこいつらは?

俺達4人は土地の調査向かった。

土地に入るなり小次郎が言った。

「これは!昨日来た時には感じなかったすけど、今日は妖気と言うか邪気が漂ってるっすね」

「小次郎、これからどうするんだ?」

「オイラはもう一度この土地を、隅々まで調べて見るっす。オロチには森を調べて貰いたいんすけど…」

「分かった、オロチ森を調べて来い」

「御意」

オロチは森に入って行った。

「で、俺と夏海さんは?」

「取りあえず何にもないんで、遊んでていいっすよ。それに、何かあったらオイラが近くにいるっすから、安心してていいっす」

「そっか…何にも役に立たなくて悪いな」

「気にすることないっすよ!」

慰められると余計に惨めになる。



※続きます
※続き



俺と夏海さんは、適当な場所にシートを広げ、並んで座った。

「ここには、楽しい思い出と悲しい思い出があります」

と夏海さんは少し寂しそうに言った。

「清和様ですか…」

「えっ!?やまとさんなぜ知っているんですか?」

「実は…昨夜夢を見たんですよ」

俺は昨夜見た長い夢の内容を、夏海さんに話して聞かせた。

俺が話し終わると、夏海さんは少し涙ぐんていた。

「そうなんです、その夢は本当の事です。今でも思い出すと切なくなります。」

夏海さんはそっと涙をぬぐった。

「清和様、優しくていい神様でしたね」

「はい、本当に。まるで私のおじい様のようでした」

「俺もそう思いました。あんないい神様が、夏海さんの家族や夏海さんに何かするはずないって」

「でも、なぜ清和様は私の前から姿を消したんでしょう?なぜ森に近づくなって言ったんでしょう?」

「そうですね、姿を消した理由は分かりませんが、この森の悪霊などは、清和様が抑えていたと考えられます」

「夏海さんは、そのおかげで何事もなく、無事にこの森で遊ぶ事が出来たのでしょう。清和様は、自分がいなくなった後、夏海さんが悪霊に取り憑かれるのを心配したんじゃないでしょうか?」

「そうかも知れませんね。いえ、きっとそうです。なのに」

「夏海さんはその約束を破って森に入ってしまった」

「はい」

「そして、悪霊に取り憑かれてしまった」

「はい、今から思えば馬鹿な事をしてしまったと後悔しています」

「しかし、なぜ清和様は夏海さんを助けに来てくれなかったんでしょうね?

俺から見ても今が夏海さんの、
人生最大の危機に思えますけどね。
それとも、これ以上の人生の危機が訪れるんですかね?」

「いやっ、怖い、やまとさんそんなに怖がらせないでください!」

夏海さんは思わず俺の腕にしがみついて来た。

うっ、やまとチャ〜ンス!

チャンスだぞ俺!

馬鹿やめろ!

いやチャンスだ!

馬鹿やめろって!!

俺の中で天使と悪魔が囁いたが、俺にはどっちが天使でどっちが悪魔か分からなかった。

「我が君、お取り込み中恐れ入りまするが…」

オロチがふいに声をかけて来た。

「きゃっ!」

夏海さんは慌てておれの腕から手を離した。

「わっ、びっくりした!オロチいきなり声をかけるんじゃねえよ!」

小次郎とおんなじで、こいつも空気が読めない奴だったか。

オロチよ、俺は今猛烈に悲しいぞ!

「で、何か分かったのか?」

「御意。あの森には大層強い妖気が漂っておりまする。それも、時を経る毎に益々強くなっておりまする」

「そんなに強いのか?」

「御意。このまま見過ごしておれば、我でもいささか手こずるかと」

「そうか、やばいな」

「御意」

「しかも、どうやらそれは、夏海姫殿を狙っているようで、森から夏海姫殿を凝視しておるようにござりました」

「いやっ、怖い!」

夏海さんは、また俺にしがみついて来た。

おおっ!

オロチグッジョブ!

やっぱお前は最高の守護神だ!!



※続きます
※続き



「お取り込み中失礼するっすけど…」

と小次郎が声をかけてきた。

「きゃっ!」

夏海さんは慌てておれの腕から手を離した。

「わっ!」

ちっ、小次郎がいるのを忘れていた。

この空気読めない王の事を。

「びっくりした!小次郎、いきなり声をかけるんじゃねえよ!」

「申し訳ないっす」

小次郎は、にやにや笑っていやがる。

絶対に申し訳ないなんて思ってねえだろこの野郎!

「で、なんか分かったのか?
オロチは森の妖気が増大して来てるって言ってだけど」

「そのとおりっす、特にこの土地と森の境界部分、社に強い妖気を感じるっす。それと…」

「それと?」

「この土地自体にごく弱い妖気の結界が張られてるっすね」

「結界!?大丈夫かここ?」

「結界と言っても、多分侵入者を感知するセンサーみたいなもので、社方面に繋がってはいるっすけど、影響はないっす」

「多分、土地をどうこうしようと考えている人間を察知すための結界みたいっすね」

「そうか、マジ大丈夫か?退散したほうが良くないか?」

「大丈夫っすよ!オイラやオロチがいるし、それに、やまとさんが一番の化け物っすから」

「化け物言うな!!」

「あと、もう一つ分かったことがあるっす」

「なんだよ、まだあるのかよ、ヤバいことか?」

「かなり、ヤバいっす!」

俺は唾を飲んだ。

「な、な、なんだよ、ヤバい事って?」

「オイラ、腹が減ってるっす!」

「こ、こ、こ、このお馬鹿〜!!」

「あははは、みなさんお腹が空いたようですね、やまとさん、小次郎さん、オロチさん、お昼ご飯にしましょう!」

「は〜い!!」

昼食が終わり、腹もふくれてのどかな気分になった。

オロチは虫を追いかけ回したりしている。

武士が子犬のように無邪気に虫を追い回している姿は、より一層キモい。

小次郎はごろんと横になって昼寝を始めた。

ホントこいつらは緊張感がない。

「のどかですね〜、天気もいいし、それにやまとさん達が傍にいてくれるから、ちっとも怖くないしむしろ楽しい!」

俺はちょっとびくびくしているのに、この子は意外と肝が据わっているんだなと感心した。


「やまとさんは彼女いるんですか?」

「えっ!?な、何を突然に!いませんよそんな人!」

「本当ですか?」

夏海さんは疑わしげな視線を向けて来る。

「彩姫さんって方がやまとさんの彼女かと思っていました」

「いやぁ、違いますよ、以前に事件を解決した時に知り合って、それ以来懇意にしているだけです」

こう言ったとき俺の胸がちくりと痛み、彩さんの顔が浮かんだ。

「だったら私やまとさんの彼女に立候補しちゃおうかな〜!」

「な、な、な!!」

「嘘!冗談ですよ、やまとさんからかうとリアクションが面白いからつい」

「あはは、ひどいなあ」

この子はやっぱり小悪魔かも知れないなと俺は思った。

「あははは!」

夏海さんは男っぽく笑う。

明るくボーイッシュで可愛い。

二人で談笑していると、急に風が強く吹いて来た、そして辺りがたちまち暗くなって来た。



※続きます
※続き



小次郎が目を開け、がばっと跳ね起きた。

オロチも異常を感じたようで立ち止り身構えている。

「小次郎!」

「やまとさん、来るっす!」

「何が!?」

「夏海さんをよろしくっす!」

「お、おう!夏海さん、俺の傍を離れないで!」

「は、はい」

夏海さんは俺の後ろにしがみつくように張り付いた。

俺と夏海さんを中心にして、小次郎が前方右手に少し走り出て身構える。

腰を少し落とし軽く両手を広げる。

いかにも、さあ来いと言った感じだ。

普段のいい加減な小次郎の姿とは打って変わって凛々しい。

オロチは小次郎の対極、左方の位置で身構える。

左半身で手刀を構える姿は、刀を持たせると武者そのものだ。

やっぱり、こいつらいざとなったら頼りになる。

二人ともカッコいい。

それに比べて俺ときたら、夏海さんを背中にへっぴり腰で震えている。

怖え〜!

夏海さんがいなかったら一目散に逃げ出してるとこだ。

空手か柔道でも習っときゃあ良かった。

「小僧!ぬかるでないぞ、勝ち目がないと思うたら我の後ろで震えておるが良い!」

「うるさいっす!お前こそ取り込まれないように気を付けるっす!」

「無礼者!」

こんなときに、こいつらまた喧嘩始めやがった。

んな事後回しにして今は敵の襲来に備えろよ!

「ボコッ、ボコッ」

と小次郎の足元で音がして、
地面が盛り上がったと思ったら、
五体の土人形がむくむくと立ち上がった。

オロチの方も同じだ。

土人形達はそれぞれ小次郎とオロチに襲いかかった。

小次郎の方の土人形は、
小次郎を押し包むように包囲を縮める。

その内の一体、小次郎の正面の土人形が小次郎に向かって来た。

瞬間小次郎は土人形の肩口にトンと手をつくと、
ひらりと土人形を飛び越え、
かわし様に土人形に蹴りを入れながら着地した。

そして、小次郎は着地するや否や、
左右後方に展開していた残り四体の土人形に、
突きと回し蹴りを浴びせた。

小次郎の攻撃を受けた土人形はぼろぼろと崩れてまた土に戻った。

この間数秒、あっと言う間だった。

「パねえ〜!小次郎の奴こんなに強かったんだ!」

初めて小次郎の強さを知った俺は、次からはもう少し優しくしてやろうかなと思った。

一方オロチの方は、これまたオロチが体を回転しながら腕をぶんと回すと、
一瞬で土人形達はけしとんだ。

こいつもハンパなく強い!

小次郎、オロチそれぞれ五体の土人形を倒したかと思ったら、
また土がむくむく盛り上がり、
今度は倍の20体の土人形が出てきた。

倒しても倒しても、次から次へと土人形は出てくる。

これじゃあきりがない、
オロチはいくら出て来ても平気なようだが、
小次郎は生身の人間、
いずれ疲労してくる。

このままではまずい。



※続きます
※続き



俺がおろおろとしながら二人の闘いを見ていると、
不意に夏海さんが悲鳴を上げた。

「きゃ〜っ!」

振り返ると夏海さんの腕を一体の土人形が掴んでいた。

「うわっ!」

俺は一瞬逃げ腰になったが、
自分で自分に言い聞かせた。

「逃げるな、やまと、勇気を出せ!小次郎もオロチも頑張っているし手一杯だ、お前しかいないんだぞ!」

俺は勇気を振り絞って土人形に向かった。

「こんのヤロー!!」

俺は渾身の力で土人形をぶん殴った。

すると土人形は一撃でぼろぼろと崩れ落ちた。

「おおっ!俺もやればできる子やん!」

なぜか俺は大阪弁で叫んでいた。

小次郎、オロチと同じく土人形は数を増しながらしつこく俺と夏海さんに向かってくる。

俺は無茶苦茶に腕を振り回して次々と土人形を粉砕していった。

小次郎もオロチもかなりの土人形を相手に手こずっている。

確かにこれではキリがない。

俺はへとへとに疲れてしまい、やがて手が出なくなった。

俺と夏海さんは土人形に押し包まれてしまった。

俺は夏海さんをかばうようにして彼女を胸に寄せたが、
俺と夏海さんは土人形に押し潰されそうになった。

重い、だんだんと重さが増してくる。

小次郎もオロチも自分の闘いに夢中でこちらに気づかない。

チクショウ!気づけよ、小次郎オロチ!やられちゃうよ!

「チクショウ!重いんだよ〜、お前らは〜!!」

俺の感情が一気に爆発し、俺は大声を上げた。

その刹那、

「グワ〜ッ!」

と音がしたかと思ったら、
俺の体から真っ白な光がほとばしり、
俺を中心として辺り一帯を真っ白にした。

やがて、光が治まり、周りを見渡すと…

そこにはもう土人形は一体もおらず、ただ俺達四人が立ちつくしていた。

「す、凄い!」

小次郎がつぶやいた。

「我が君、お見事にござりまする!」

「へっ!?何?どうしたの?お前達がやったんじゃないの?」

「やまとさんす、やまとさんの楯の力が一気に爆発して、あいつらを一撃木端微塵にしたっすよ!さすがっす!」

「お、終わったの?」

「ひとまず、終わったっす。
やつらは退却したようっすね!」

「ひとまずって、また来るのかよ!」

「必ず来るっす。今はひとまず手を引いといて、再度攻撃してくるつもりっすね」

「かんべんしてくれよお〜、もうやだ」

「無理っす、奴らを倒すか、オイラ達が倒されるかっす」

「そんなぁ〜!」

「それに今のは木偶、雑魚みたいなもんす、多分オイラ達の力量を計りに寄こしたっすよ、多分次は親玉が登場っすね」

「親玉!?なんでいきなり次は親玉!?」

「やまとさんがあんなハンパない力を放出するからっすよ、

オイラやオロチが咄嗟に結界を張らなかったら、
オイラ達も吹っ飛ばされてたっすよ。
もっとセーブしてくれないと」

「んな事言ったって、
力のセーブなんて知らないし、
必死だったし、
第一そんなもんが出るとも出せるとも思わなかったし」

「やまとさんってホント化け物っすよね!」

「化け物言うな〜!」

「まっ、とりあえず帰って対策を立てるっす。それと…」

「それと?」

「やまとさん、そろそろ夏海さんを離した方がいいんじゃないっすかね、
羨ましいすけど…」

「あっ!」

俺は夏海さんを抱きしめたままだった。



※続きます
※続き



「ご、ごめん」

俺は慌てて夏海さんを離した。

「ごめんだなんて言わないでください。やまとさんにしっかりと護って貰って安心でした。
それに…」

「嬉しかったです!」

夏海さんはそう言うとにっこりと笑った。

う、嬉しい!?

またまた、この子は微妙な事を…

俺と夏海さんが見つめ合っていると小次郎が言った。

「とにかく早々に退却するっすよ。それに…」

「それに?」

「オイラ腹が減ったっす!」

この空気の読めないあほんだらが〜!!

俺達は屋敷に戻り、客間に落ち着いた。

夏海さんは食事の支度のために台所に行った。

「いやぁ〜ヤバかったなあ!一時はどうなる事かと思ったよ!小次郎、オロチ良くやったな、偉い!!」

「お誉めの御言葉、恐悦至極にござりまする」

「いやあ、大したことないっすよ」

と言いながら得意そうな小次郎、ちょっとムカつく。

「小次郎は何か格闘技でもやってるのか?
あの動きはとても素人とは思えなかったけど」

「久能流体術っす。オイラその総帥っすよ」

「その若さで総帥かい!
何年位やってんだよ?」

「生まれてすぐっすから、
もう二十年以上っすね」

「生まれてすぐって、赤ちゃんにどんな事するんだ?」

「両手足に重りを付けたりとか、
水中に投げ込んだりとか、
毒に慣れさせるために少量づつ毒を飲ませたりとか、
電流を体に流したりとか…」

「もういい!パねえな久能流、下手すりゃ幼児虐待じゃねえか、聞いてて怖くなる。今まで良く生きてたな!」

「ったくっす!」

「やまとさんもどうっすか?久能の血も引いてる事だしきっと才能あると思うっすよ!」

「そうかな?いやぁ、
実はさっきお前達の闘い見てて何にも出来ない自分が情けなくてさ、
俺も何か護身術でも身につけようかなんて思ってたんだよな」

「やまとさんがその気ならいつでも教えるっすよ、
まずは軽いところから」

「突きとか蹴りとかからか?」

「まずは、猛毒を少々…」

「少々って、猛毒なら少々でも死ぬわい!
この野郎、俺を亡きものにして彩さんを奪うつもりだな!」

「ははは、バレたっすか」

「ったく、とんでもねえ野郎だ!」

「あはははは!」

「小僧!無礼者め!我が君には我が伝授しまするぞ!」

「オロチなら、俺の守護神だし無茶はしないよな」

「御意!まずは…」

「まずは?」

「毒を少々」

「馬鹿野郎!小次郎とおんなじじゃねえか!」

「我が君、我の毒は弱き毒にて三日程気を失う程度にござりまする」

「断る!冗談じゃねえ!ったく小次郎もオロチも洒落になんねえ!」

小次郎は冗談としても、
オロチは真面目くさった顔して本気だから余計始末が悪い、自分の守護神に殺されてたまるか!



※続きます
※続き



「冗談はこの位にして、これからどうすんだよ?対策は?」

「まずは、この屋敷に結界を張って防御を固めるっす、
そして奴が襲って来たら迎え撃って撃滅するっす」

「正攻法だな。まあ何にも出来ない俺としては反論の余地はないけどね、
戦術とか戦略なんて立てられねえし、
実戦はモチロン無理だしな。
ここは闘いのプロに任せるよ」

「一つ気になる事があるっすけど…」

「気になる事って?」

「さっきの闘いでの敵の妖気というか、邪気なんすけどかすかに異質の気が混じってたっす」

「異質の気?なんだそれ?」

「闘いの最中だったんで深く探る余裕はなかったんすけど、複数の気を感じたっす」

「複数って、じゃあ親玉は複数の悪霊なのかよ?」

「それも、なんとも…まあ、本体は大小様々な悪霊怨霊を取り込みながら成長してる事は確かっすけどね」

「なんだか良く分からんな、とにかくまずはその結界とか言うのを始めてくれよ」

「了解っす、それと、夏海さんにはオロチを護衛に付けた方がいいすね」

「奴の第一の目的は夏海さんす」

「なんで?当主の吾妻さんじゃないの?」

「まずは、当主の一番大切なものを奪って痛めつけようと企んでいるっす。相手の弱点を攻める事は闘いのセオリーっす」

「くそっ、卑劣なやつらだな!オロチ、今すぐ夏海さんの護衛についてくれ!」

「御意!」

「それじゃあオイラも結界を張ってくるっす」

小次郎は持って来たデイバッグを片手に立ち上がった。

「俺も一緒に行くよ、一人でいても何にもやる事ないし…」

俺と小次郎は屋敷の外に出た。

「まずは内結界と式鬼っす」

「内結界?」

「内結界は屋敷自体を包むっす、
そして式鬼はガードマンっすね、
内結界を破ろうとすると式鬼が襲いかかるっす」

「へえ〜!」

小次郎はデイバッグから、
何やら難しい文字が書いてあるお札と、ヒト型の紙を取り出し、
屋敷の玄関口の左右と屋敷の四隅に貼り付けた。

そして、玄関口の前に立つと、
両手を頭上に上げ大きく円を描き、
胸の前で指を組み印を結びながらごにょごにょと呪文を唱えた。

「内結界はこれで良し!次は外結界っす」

小次郎は屋敷の門と周囲の塀の四隅にも、内結界と同じ処置をした。

「これで結界は終わったっす。
まあちっとやそっとじゃあ破られないっす!」

「お疲れさん!しかし、結界って何か難しそうだな」

「今の内外結界はちょっと高度な術なんで修行が必要っすけど、
自分自身に張る結界は、
能力があるやまとさんならやり方さえ習得すれば、
張れるようになるっすよ!」

「マジか!?
じゃあ教えてくれよ、
俺もせめて結界ぐらいは張れるようになりたいよ!」

「う〜ん、もちろん教えるっすけど、簡単とは言っても今日の明日張れるようにはならないっすよ」

「それでもいいからさ、今からでも練習するにこしたことはないだろ?」

「それもそうっすね、じゃあまずイメージするっす」

「イメージ?」

「そうっす、自分の周りをドームで包むイメージをするっす。
このイメージをする力が一番大切なんす。
そしてこのイメージに乗せて、
自分の霊力を開放すると結界が張れるっすよ」」

「印を結んでもいいっすけど、
慣れないなら合掌でいいっす。
胸の前で合掌してイメージしてみるっす」

俺は目をつぶり胸の前で合掌し、ドームをイメージした。



※続きます
※続き



すると…

「やまとさん!凄い!!ありえないっすよ、出来てる!」

「えっ!?これでいいの?ってかもう出来たの?」

「信じらんないっすけど、完璧出来てるっす、完璧な結界…えっ!?」

「『えっ』ってなんだよ!?何か変か?」

「う〜ん」

小次郎は唸りながら俺の周りをくるくると回った。

そして、デイバッグからナイフを取り出すと俺に向かって投げようとした。

「ちょ、馬鹿、何すんだよ!俺を殺すつもりかい!やめろ小次郎!!」

小次郎は俺の制止を無視して、力一杯ナイフを投げつけて来た。

「わ〜っ!!」

俺は両手で自分をかばうようにしながら顔をそむけた。

すると…

「チーン!」

ナイフは高い金属音を発して地面に落ちた。

俺が恐る恐る顔を向けると、小次郎が呆れた顔をして俺を見ている。

「小次郎!この野郎!
狙いが外れたからいいけど、
当たってたら大怪我か下手すりゃ死んでたぞ!
冗談じゃすまねえんだからな!!」

「当たってたっすよ…」

「え!?」

「確実にやまとさんを狙ったんすけど、狙いが外れたんじゃなくて、
跳ね返されたっす。

オイラ久能流手裏剣術の免許だから、
10メートル離れても狙った的は外さないっす」

「今、やまとさんの周りには目には見えないっすけど、
物理的な壁、
SF的に言うとバリヤーが張り巡らされているっすよ、
これは凄いことっすよ!!」

「そうなの?お前にも出来るんじゃないの?」

「霊的エネルギーに対する結界は張れるっすけど、
物理的バリヤーなんてそんなの、
出来ないっすよ!
漫画や小説じゃああるまいし、
これもやまとさんの隠された潜在能力の一つっすね、
びっくりしたっす」

「そういや、以前彩さんと崩落した屋敷の下敷きになりかけたけど、何故か潰されなかったぞ」

「もう、その時には無意識の内に化け物になってたんすね!」

「化け物言うな!!」

「いやあ、こんなに早くしかも期待以上の成果、言う事なしっすね、夏海さん親子を完璧ガード出来るっす!」

「それは嬉しいな!俺もやっと役に立ち始めたな!!」

「いやいや、もう十分に助かってるっす、
やまとさんもっと自分に自信を持ってもいいっすよ!」

「そうかなぁ〜…?」

「そうっす!」

「自信云々はいいとして、どうやってこれ消すんだ?」

「また、イメージするっす。
今度はドームが消えるイメージを」

小次郎の言うとおりにすると、俺の結界が消えた。

「なるほどね、いや、小次郎ありがとな!」

「とんでもないっす!」

続けて結界を張ったり消したりする練習をしていると、夏海さんとオロチがやって来た。

「お疲れ様です、やまとさん小次郎さん。お食事の用意が出来ましたよ!」

「ありがとうございます。すぐに行きます」

と、ここで俺に夏海さんにいいカッコしたいという衝動というかスケベ心が沸き起こった。

「夏海さん、俺結界が張れるようになったんですよ、これで夏海さん達をガード出来ます!」

「我が君、それは誠にござりまするか!?」

「まこともまこと、まことにござりまするよ!
そうだ!
夏海さんと俺を一緒に結界を張って見せましょうか?」

「わあ、面白そう!」

「じゃあ、夏海さん俺の傍に」

「はい!」

「もっとくっついた方がいいなあ!」

この時の俺の顔はエロくにやけていたに違いない。

何度後から思い出しても赤面する。



※続きます
※続き



俺は自分と夏海さんを包むドームをイメージした。

「小次郎どうだ?なんか投げて見ろ」

小次郎は落ちていた石を拾うと俺たちに投げつけた。

「ガン!」

と音がして石が跳ねかえった。

「おお!我が君、お見事にござりまする!」

「やまとさん凄い!!」

俺は得意満面だった。

「じゃあこれぐらいにして夏海さんの手料理をいただきましょうか」

俺はそう言うとドームを消すイメージをした。

しかし…

「あれっ?変だな?結界が消えない!」

いくらイメージしても結界が消えない。

俺は焦って来た。

冷や汗がだらだらと流れて来る。

消そうとして焦れば焦る程上手く消えない。

「やまとさん、なんか邪心を抱かなかったっすか?」

「ば、馬鹿、抱かねえよそんなもん!」

俺は嘘をついた。

「本当っすか?術は掛けるより解く方が難しいんすよ、邪念や邪心があったら余計に難しいっす」

「すいません、嘘ついてましたっ。夏海さんにいいとこ見せようと考えてました」

「やっぱり、やまとさん邪念を捨てて落ち着いて結界を消すイメージをするっす」

「落ち着けって言ったって、焦るんだよ〜!」

すると、夏海さんが俺の腕を取って優しく囁いた。

「やまとさん、大丈夫、落ち着いてください、やまとさんは出来ます」

夏海さんにそう言われて俺は自分の邪念を恥じ、冷静さを取り戻した。

「き、消えた!」

結界が消えた。

「夏海さん、ありがとうございます。夏海さんのお蔭です。それにしても面目ない」

俺は穴があったら入りたい心境だった。

「気にしないでください!やまとさんの結界凄かったですよ!夏海ますます憧れちゃいます!」

ホント、この子は優しい子だなあ!

ヤバいよやまと、惚れちゃいそう…

「やまとさん良かったっすね、そんじゃあご飯をいただくっす!」

ホントこの馬鹿は空気が読めない奴だ。

とりあえず、夏海さんのナイスフォローのお蔭で事なきを得た俺は、屋敷に戻った。

「我が君、まっことお見事にござりましたな!」

「ありがとオロチ、でもその話はやめてくれ!」

俺はまだ引きずっていた。

「御意」

やがて、当主の冬成氏と貴美子さんが戻って来た。

「お帰りなさいご当主、奥様」

「やまとさんやめてくださいよ、そんな固い言い方。
名前で呼んでください、お願いします」

「はい。それでは、奥さんご退院おめでとうございます」

「ありがとうございます、やまとさん、それに小次郎さん、オロチさん。皆さんのお蔭ですっかり良くなりました」

「ほんと良かったっす。あとはアレを退治するだけっすね!」

「アレとは?祟りの原因が分かったのですか?」

「森を入ったすぐの社に、
怨霊悪霊が終結して合体し強大化してるっす、
こいつが土地に係る者や当家の方に災いをなしてるっす」

「社に悪霊がですか?
しかし、あの社には『清和』という神が祀られていてこの土地や、
清和源氏の末裔である私達を護っていてくださると信じて参りましたが…」

「清和様はもういないの…」

夏海さんがぽつりと言った。

「いない?夏海、どう言うことだね?」

夏海さんは清和様との出会いから別れまでをぽつぽつと話して聞かせた。



※続きます
※続き



「そうだったのか、清和様は私達に信仰心がなくなった事を嘆かれて、
私達をお見捨てになったのかも知れないな」

「お父さん、夏海はそんなことないと思います。
清和様はきっと助けに来てくださると信じています」

「うん…そうだな」

「小次郎さんこれからどうするのですか?
どうしたらいいのですか?」

「オイラ達が来たことを奴は知ったっす、
早晩襲って来るんで迎え撃ちするっす。この屋敷には内と外に結界を張ってあるっすから安全す。
それに、やまとさんが護衛として強力な結界で皆さんを護るんで、
全てが終わるまで屋敷から絶対に出ないで欲しいっす」

「分かりました、よろしくお願い致します」

当主は深々と頭を下げた。

緊張と沈黙に包まれた食事を終え小次郎が立ち上がった。

「それじゃあオイラ警戒に付くっす、
もしも奴が襲って来て闘いが始まったら、
やまとさんは結界を張って吾妻さん達を護って欲しいっす」

「わ、分かった」

「それと、これを」

小次郎はまた難しい文字が書かれた紙片をよこした。

「なんだこれは?」

「伝心符っす、これで連絡を取り合うっす、携帯電話みたいなもんすね」

「便利なもんだな、分かった!」

「オロチはどうする?」

「オイラ一人で十分っすよ!オロチなんか必要ないっす!」

「無礼者め!小僧、貴様に何が出来る、我の手助けなくばあ奴に取り込まれるか喰い殺されるがオチぞ!」

「ふん、お前の手助けなんか必要ないっす、むしろ足手まとい、むしろ邪魔っす!」

「重ね重ねの無礼もう許せん!即刻成敗してくれるわ!!」

こいつらこの状況でまた喧嘩始めやがった、全く呆れるよ。

「いい加減にしろよお前ら!オロチはここにいて屋敷内の警護、分かったな!」

「ぎ、御意…」

小次郎が外に出て行った後、
オロチはそわそわして落ち着きがない。

小次郎が心配なのか?

「オロチ、何をそわそわしてる鬱陶しいぞ!小次郎が心配なのか?」

「何を仰せになられまするか我が君、あのような小僧我は何とも思ってはおりませぬぞ!」

「分かった分かった、屋敷内を見回って来いよ!」

「御意」

オロチは屋敷内を巡回始めたが、巡回にも限りがある。

傍にいても鬱陶しいが、やたら歩き回る音がするのはもっと鬱陶しい。

オロチの屋敷内巡回が十数度を数えたとき、屋敷の外がにわかに騒がしくなった。

それと同時にオロチが客間に飛び込んできた。

「我が君、来ましたぞ!奴が襲って参りましたぞ!!」

「みたいだな」

「して、我はいかがいたしまするか?」

「いかがって、お前は屋敷内の警護に決まってんじゃん!」

「ぎ、御意…」

オロチはまた屋敷内の巡回に行った。



※続きます
※続き



外の様子がますます騒がしくなった、時折ケダモノの咆哮のような声が聞こえる。

「小次郎さん大丈夫でしょうか?」

夏海さんが心配そうな顔をしてつぶやいた。

「そうですね、小次郎に連絡を取ってみましょう」

おれは小次郎に貰った伝心符を取り出した。

「小次郎聞こえるか?」

「やまとさん、どうしたっすか?何かあったっすか?」

「いや、こっちは異常ない。お前の方はどうなんだ?奴が襲ってきてるんだろ?」

「っす、今外結界を破ろうとしてるっす、
それにしてもこんなに強大な奴とは思わなかったっすね、
外結界と式鬼が破られるのは時間の問題っすね、
あははは!」

「あははって笑ってる場合じゃねえよ!破られたらどうすんだよ!?」

「その時はオイラが迎え撃つっす、初めからそのつもりだったすからね。
防ぐだけじゃあ解決にならないっすから」

「一人で大丈夫か?オロチを行かせようか?」

「大丈夫っすよ…多分」

「多分って、不安になるような事言うなよ!」

「あはは、絶対に大丈夫っす!
屋敷は死守するっす、
例え奴と刺し違えてもね!」

「馬鹿野郎!刺し違えるな!絶対に勝てよ!」

「分かったっす、あっ、外結界が破られ…」

突然小次郎との通信が途絶えた。

「おい!小次郎!小次郎!」

それっきり小次郎の応答はなくなった。

「我が君…」

「オロチか、聞いてたか?」

「御意」

「小次郎大丈夫だと思うか?」

「小僧は、我ほどではござりませぬが、なかなかの手練れ、心配には及びませぬ」

「そうか…」

そう言うオロチはそわそわとして落ち着きがない。

しばらく思案顔をしていたが、何か思いついたような顔を俺に向けた。

「我が君、我は小僧の無様な闘い振りを、高見の見物にて笑ってやりとうござりまする。ご下知を!」

小次郎が心配なくせに、こいつホントに素直じゃないな。

「分かったオロチ、小次郎の闘い振りを笑って来い!」

「御意!」

オロチは表にすっ飛んで行った。

屋敷玄関前、悪霊と小次郎が対峙している。

悪霊は獅子舞の獅子のような顔、五本指の爪は鋭く長い。

そして、その眼光は鋭く、悪意に満ち満ちていた。

「ギエエエエエエーッ」

悪霊が一声吼え小次郎に襲いかかるが、小次郎はひらりと身をかわして悪霊をいなす。

そして、悪霊に霊波動を撃つ。

小次郎の霊波動を受けた悪霊は少しひるんだものの、体勢を立て直し小次郎に向けて口から熱線のような霊波動を撃ち返した。

小次郎は悪霊の霊波動を間一髪でかわし、再度霊波動を撃ち返す。

撃ってかわして撃つ。

お互いこの攻撃をひたすら繰り返していた。



※続きます
※続き



「小僧!」

オロチが小次郎に叫んだ。

「オロチ!何しに来たっすか?お前は中に引っ込んでるっすよ!!」

「ふん、貴様の闘いを笑いに来たのだ、そんなもの早く片付けぬか!」

「言われなくても分かってるっす。お前はそこで黙って見てるっす」

オロチに気を取られたのか、悪霊の霊波動が小次郎に命中した。

小次郎は命中する刹那結界を張ったが、結界ごと吹き飛ばされて屋敷の塀に叩きつけられた。

「小僧!」

小次郎が叩きつけられた衝撃で塀が崩れた。

小次郎は瓦礫の中からヨロヨロと立ち上がった。

「小僧、しっかりいたせ!」

「ふん、大きなお世話っす」

小次郎は減らず口を叩いたが、相当なfダメージを受けてしまった。

「くっ、やばいっすね」

小次郎は印を結ぼうとしたが、
左手の義手は破壊されていて印を結べない事に気が付いた。

小次郎の攻撃の隙をついて悪霊が渾身の霊波動を撃った。

「し、しまった」

小次郎の回避行動が一瞬遅れ、
悪霊の霊波動が当たるかに思えたとき、小次郎の視界を黒い影が塞いだ。

オロチが小次郎の前に立ちはだかり、
悪霊の霊波動からその身を楯にして護った。

「オロチ!」

「ぐううう、小僧、早く立て直すのだ。こやつ、なかなかのものだ、我とてさほど持たぬ」

「おう、オロチすまん」

「ふん、礼には及ばぬ、貴様を八つ裂きにするのは我のみぞ、横取りは許さぬ」

「へん、言ってるっす」

小次郎は大きく跳んで悪霊の背後に廻った。

悪霊の霊波動を防ぎ続けていたオロチは小次郎が回避したと同時に吹き飛ばされた。

「オロチ!大丈夫っすか?」

「ふ、ふん余計な心配は無用ぞ!これしきなんともないわ!」

「お、お前右腕が吹き飛ばされてるっすよ!」

「なんともないと言っておる、それより小僧、行くぞ!」

「おう!」

小次郎とオロチは悪霊に交互に霊波動を浴びせては悪霊の攻撃をかわし、また悪霊を攻撃する。

悪霊の何度目かの攻撃をかわしたとき、小次郎の左義足が音を立てて折れ、小次郎がバランスを崩して倒れてしまった。

悪霊は小次郎の隙を見逃さず、すかさず霊波動を小次郎に浴びせた。

倒れた所を間髪入れず攻撃されたから堪らない。

小次郎はもろに霊波動を受け吹き飛ばされた。

「小僧!」

オロチは小次郎を呼んだが、小次郎はそれには答えられない程のダメージを受けたようだった。

しかし、致命傷は受けていないようで、必死で起き上がろうとしていたが、ダメージに加え左義手と左義足を失ってしまってはもはや立つことは難しかった。

悪霊が小次郎に止めを刺そうと、霊波動を撃とうとしたとき、その背後にオロチが霊波動を浴びせた。

「小僧は我が獲物、貴様には渡さん」

オロチと悪霊の一対一の熾烈な闘いが繰り広げられた。



※続きます
※続き



屋敷内では、やまとと夏海親子が外の様子を息を飲んでうかがっていた。

「物凄い音が聞こえます。
小次郎さんとオロチさんは大丈夫でしょうか?」

夏海さんが心配そうに言った。

「だ、大丈夫ですよ、
あいつらは地上最強ですから、
それに俺達には何にも出来ませんし、
ただあいつらの勝利を信じて祈るだけです」

「そうですね…」

俺は何にも出来ないでただ祈るだけの自分が情けなく、
そして、様子が分からない事がじれったくてしょうがなかった。

小次郎、オロチ、負けるな!

心の中でひたすらに念じていた。

と、ふいにどこからか声が聞こえてきた。

「夏海、夏海や…」

「ん?なんだこの声は!?」

「こ、これは!この声は!?もしかして…」

「夏海、夏海や、わしじゃ」

「清和様!」

「えっ!?清和様!?」

俺は夏海さんに視線を向けた。

「間違いありません、この声は清和様です。清和様がとうとう来てくださったんです」

夏海さんはぽろぽろと涙をこぼした。

「清和様、約束通りに助けに来てくださったのですね!?」

夏海さんは天井に向けて叫んだ。

「そうとも夏海、約束通りお前を救いに来た。お前とお前の父・母を救いにきたぞ」

「ああ、嬉しい、清和様ありがとうございます。夏海は信じておりました、きっと清和様が来てくださると」

「夏海はほんに良い子じゃのう。
夏海、今外では若者ともう一人の者が悪霊と闘っておる。
しかし、若者は深手を負いもう動けん、もう一人の者も敗れるのは時間の問題じゃ」

「えっ!?小次郎さんとオロチさんが?」

「小次郎が深手を負った!?」

「清和様、小次郎さんとオロチさんを助けてください!お願いです!!」

「無論じゃ、夏海、しかし、わし一人では力が足りん、夏海お前の力をわしに貸しておくれ、一緒に来てわしのために祈りを捧げておくれ、お前の力がわしに力を与えるのじゃ!」

「はい、清和様、喜んでお伴いたします。」

夏海さんは立ち上がり外に出て行こうとした。

俺は咄嗟に夏海さんの腕を掴み叫んだ。

「いけない!夏海さん、これは悪霊の罠だ?
俺も以前に似たような罠にかかって外におびき寄せられた事があります。
きっと悪霊が清和様の声を真似て夏海さんを外におびき寄せようとしているんです!」

「やまとさん、もしも、これが罠じゃないとしたら、
小次郎さんやオロチさん、
清和様を見殺しにしてしまいます。
そんな事したら万一助かったとしても一生後悔します。
それに、罠だったとしたら夏海は本当の危機に見舞われます、
そうしたら今度こそ清和様が助けに来てくださいます」

夏海さんはにっこりと笑った。

この子は心の底から清和様を信じているんだな、と俺は夏海さんの一途で純真な心に感動した。

「分かりました夏海さん、俺も一緒に行きます、夏海さんを護ります」

「ありがとうございます、やまとさん!」

「いけない、夏海!そんな危険なことはやめてくれ!!」

吾妻さんが叫んだ。

「そうよ夏海、そんなことやめてちょうだい、お願いよ!」

奥さんも金切り声をあげて夏海さんを止めた。

「いいえ、お父さん、お母さん、行かないと清和様や小次郎さん、オロチさんが死んでしまうわ。

負けてしまったら私達も助からない。

罠でも同じこと。

それなら行ったほうが勝てる可能性があるわ!」

夏海さんはきっぱりと言った。

こんな状況で冷静に判断し決断してのけるこの子に俺は心底感動した。

「吾妻さん、奥さん、夏海さんは俺が死んでも護ります、約束しますから行かせてください!」

「そ、それじゃあ私達も一緒に行きます。
娘だけに危険な事はさせられません」

「いいえ、吾妻さん、結界で護れるのは俺には夏海さん一人で精一杯です。お二人はここにいてください」

「し、しかし…」

「もう時間がありません。お願いします、ここにいてください」

「わ、分かりました。夏海くれぐれも気をつけるんだよ!」

「はい、お父さん、お母さん、行って来ます」

俺と夏海さんは屋敷の外に出た。



※続きます
※続き



外では満身創痍のオロチが悪霊と凄絶な闘いを展開していた。

塀の傍ではぼろぼろになった小次郎が仰向けに倒れていた。

「夏海さん、俺から離れないで!!」

「は、はい!」

俺は夏海さんの手を引いて小次郎に駆け寄ると小次郎を抱き起した。

「こ、小次郎大丈夫か!?」

「や…やまとさん…出て来ちゃダメっすよ…」

「清和様の声が聞こえて来て、助けて欲しいって言われたんだよ!」

「また、引っかかったすね…罠っすよ、罠。ったく学習能力…ないっすね…やまとさん…は」

「うるさい!こんなぼろぼろになって減らず口を叩くんじゃねえ!!」

小次郎と言い合いをしてる間に小次郎は完全回復した。

「まあ、お蔭で助かったっす!でもホントやまとさんは人の言う事聞かない人っすね!」

「やかましい!憎まれ口きいてる暇あったらオロチと代れ!!」

「おう!!」

小次郎はすぐさま悪霊に向かって行くと霊波動を発射した。

「オロチ来い!!」

「御意!」

跳んで来たオロチに俺が手を触れると、オロチもたちまち完全回復した。

「我が君、ありがたき幸せ、このオロチ…」

「礼はいいオロチ、行け!!」

「御意!!」

オロチは悪霊を小次郎とはさむ位置に着いた。

「小僧!」

「オロチ!」

「同時に撃つぞ、良いか、力を出し惜しみするでないぞ、全力を出せい!!」

「それはオイラの言うセリフっす!!」

「こしゃくな小僧め!!」

「ムカつく奴っす!!」

こいつらこんな時でも喧嘩してやがる、いい加減にしろって〜の!

「行くぞ小僧!!」

「おう!!」

小次郎とオロチが渾身の霊波動を悪霊に撃ちこんだ。

が、しかし、悪霊は身を翻してこれをかわすと、俺と夏海さんに向かってきた。

「し、しまった!やまとさん危ない!!」

「我が君!!」

「うわっ!!」

俺は咄嗟に結界を張ったが、悪霊の霊波動を受け俺と夏海さんは結界ごと吹き飛ばされた。

幸い結界がクッションになり怪我はしなかったが、かなりの衝撃をうけた。

しかも、なぜか解けないはずの結界も解けてしまった。

「ふふふ、娘、わしの狙いはお前だ、覚悟せよ」

悪霊は不気味な声でそう言うと、鋭い爪を振りかざして襲いかかってきた。

「危ない!!」

覚悟を決めた俺は夏海さんの前に出て、彼女の楯になった。

「やまとさん!!」

「我が君!!」

悪霊の鋭い爪が俺に届く寸前、爪先がぴたりと止まり同時に悪霊も固まったように動かなくなった。



※続きます
※続き



「!?」

「夏海、夏海や、わしじゃ清和じゃ」

「せ、清和様!?」

夏海さんが叫んだ。

悪霊の胸の辺りが盛り上がり、白い老人の顔が現れた。

「夏海よ、待たせたな、助けに来たぞ」

「せ、清和様、なぜ悪霊に?」

「悪霊になったのではない。
悪霊に取り込まれておったのじゃ。
力を失ったわしは悪霊に取り込まれそうになった。
それで夏海を遠ざけるために社に来てはいかんと言ったのじゃ」

「そうだったのですか…」

「今夏海を救うために最後の力を使っておる。
若者よ、そして豪の者よ、こ奴は今わしが引きとめておる。今のうちじゃ撃つが良い!」

「分かったっす、清和神感謝するっす!やまとさん夏海さん離れて!!」

「分かった、夏海さん早くこっちへ!」

「いや〜!清和様が!やめて〜!!」

「夏海や、聞いておくれ、お前を救うにはこれしかないのじゃ、わしは可愛いお前さえ救う事が出来れば本望じゃ。良い子じゃから聞きわけておくれ」

「清和様、清和様!!」

「最後に一つ、夏海の父御の所有しておる土地に一本の杉の木があるじゃろ?」

「は、はい」

「後で木の下を掘り起こすが良い。分かったな夏海」

「は、はい…清和様…分かりました…」

夏海さんは号泣していた。

「ほんに夏海は良い子じゃのう」

「オロチ、今っす!!」

「おう!!」

小次郎とオロチが掛け声一閃、渾身の霊波動を悪霊に浴びせかけた。

「グワ〜ッツ!!」

と物凄い音がして辺りは閃光に包まれた。

閃光の中から弾け飛ばされた清和神の顔が俺の前にふっと浮かんだ。

俺は思わずその顔を受け止めるようにしたが、
かすかに触れた感触がしたかと思ったらす〜っと消えてしまった。

「…夏海、さらばじゃ…」

「せいわさま〜っつ!!」

夏海さんは俺の胸に顔を埋め子供のように泣きじゃくった。



今回の闘いもやはり苦い闘いだった。

やむを得ないとは言え、あんなに良い神様を消滅させなければならなかったのは本当に悲しかった。

翌日、俺達と吾妻さん一家は清和神の言った言葉に従って、吾妻家の最後の財産である土地の一本杉の根元を掘った。

2メートルぐらい掘り進めるとスコップに何かがかちんと当たる音がした。

更に掘ると大きな甕(かめ)が出てきた。

甕の中には…なんと、多量の大小小判や、いかにも高価そうな昔の宝飾品が一杯に詰まっていた。

「こ、これは!?」

当主の吾妻さんが驚きの声を発した。

「お父さん、清和様の贈り物よ。清和様は本当に夏海を、夏海達を救ってくださったのよ!ああ!せいわさま〜!!」

夏海さんは甕を抱きかかえるようにして泣き崩れた。

「そうですね、清和様は本当に夏海さんが可愛かったのですね。」

俺の声は感動に震えていた。

「ありがたいことです。清和様のお蔭で我が家は救われました」

「これでこの土地も売れますね!」

「いえ、この土地は売りません。売らずに森の清和様の社を移してもっと立派な社にして末代まで清和様を祀ります」

「そうですか、それが一番良いと思います…もう清和様は消えてしまったけれど、きっと喜んでくださることでしょう」

「それでは、事件も解決したことですし、俺達はこれで失礼します」

「えっ!?もう行ってしまうのですか?やまとさん!」

夏海さんが悲しそうな顔をして俺を見つめた。

「ええ、またいつかお会いしましょう!」

「また、いつかなんて嫌です。これっきりにしないで遊びに来てください!」

夏海さんは俺の手を握ると目に涙を浮かべた。

「ははは、分かりました。また遊びに来ますよ!」

「本当に、絶対、絶対に約束ですよ!」

「分かりました。約束します」

俺達は夏海さん親子に見送られながら屋敷を後にした。

振りかえると気のせいか、にこにこ顔の清和神が夏海さんの横で手を振っているように見えた。



※続きます
※続き



「やれやれ、終わったな、小次郎、オロチお疲れさん!」

「っす!」

「御意」

「それにしても、清和様なんか可哀想だったな。
本当に夏海さんが可愛かったんだな。
俺も情にもろいもんだから、
見送りの夏海さんの横に清和様が立っているような気がして泣きそうになったよ!」

「清和様いたっすよ」

「えっ!?いたって?マジ?」

「マジっす、やまとさん見たっしょ?」

「あれって俺の気のせいじゃなかったのか?」

「オイラも見たっすよ、間違いないっす!」

「オロチも見たのか?」

「御意。確かに清和神はおりましてござりまする」

「な、なんで!?お前達の攻撃で悪霊もろとも消滅したんじゃないの?」

「オイラあの閃光の中で見たっすけど、やまとさん吹き飛ばされた清和神を受け止めたっしょ!」

「う、うん、確かに。でも一瞬だぞ、触れたか触れないくらいだったぞ!」

「でも、触ったっしょ?」

「うん…」

「それっすよ、消滅しかけた清和神にやまとさんが触れたことによって、やまとさんが清和神に力を分け与えたっすよ、だから清和神は復活することが出来たっす。」

「そっか!良かったな、これでまた夏海さんは護ってもらえるな!!」

「そうっすね!しかし…」

「しかし、なんだよ!?」

「神様に力を与えて復活させちゃうなんて、やまとさんどこまで化け物なんすかね〜!」

「やかましい!化け物言うな〜!!」

「あはははは!」

「わはははは!」

俺達三人は笑いの中で車を走らせた。



※終わり

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