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Pの『THE つだん部屋』コミュの【210】8番スクリーン

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【コピペ】



私のバイト先の話です。

もう4年以上も前になりますが、私は新人スタッフとして、映画館で働き始めたばかりでした。

その頃、右も左も全く解らない私でしたが、そんな私に仕事を丁寧に教えてくれたのが、K田先輩でした。

その日、私とK田先輩、それと、もう一人、先輩がいて、その三人がレイトスタッフでした。

レイトスタッフは日にもよって変わりますが、大体、5時〜6時入り。

それで、最終上映が終わって、大体、23時30分ごろ。
全てのお客さんが帰ったのを見計らって、扉を施錠。

社員さんに鍵を預けて、お疲れ様でーす、というのが仕事の流れです。

K田先輩は、ずっとレイトがメインで入ってる人だったので、さらに上の先輩から伝えられた、速やかに閉めて、素早く帰宅するという、様々な裏技染みた方法も、たくさん教えてくれました。

それで、ある日、確か平日でお客さんの入りも、かなり疎らな、のんびりした日だったと思います。
9時を過ぎて、最終上映回が全て上映を開始。

売店やチケットカウンターも営業が終わり、フロア全体が半消灯の状態で薄暗くなっていました。

そんな中で、ある若い女性のお客さんがやって来て、私に声をかけました。

さっき、劇場内に忘れ物をしてしまったが、こちらに届いてないか?との事でした。

話を聞くと、忘れたのは、小さなポーチ。こちらには届いていませんでした。

スタッフは上映終了の度に、清掃に入るのですが、小さな落とし物だと、見逃してしまう事は珍しくありません。

スクリーンを聞くと8番、今、ちょうど上映が始まったところなので、まだ終了まで、2時間近くあります。
消灯された場内で忘れ物を探すのは一苦労です。

お客さんに、大体の座席の場所を聞き、パソコンで座席状況を調べると、まさにお客さんが座っている席。
これでは、懐中電灯で探すことも出来ません。

上映が終わり次第、探しますので、また、ご連絡致します。と、言って、連絡先を聞き、とりあえず、その場はお客さんに帰って貰いました。

K田先輩にその話をすると、先輩は「ああ、そう」と仔細なく頷き、一言。
「でも、閉めるの、遅くなるよね」

8番は、その時、やっていたレイトショーの中でも、最も遅く終わる上映で、そこで、もたつかれると、いつまでたっても帰れません。

K田先輩は、不適な笑みを浮かべながら。じゃあ、こうしよう、と言いました。

私が、PHS(一台だけある)を持って、8番の上映終了後、お客さんが出たのを見計らい、忘れ物をチェック。

ある、ないに関わらず、すぐに事務所に電話。
K田先輩が、電話を取り、確認後、お客さんに電話、落とし物台帳に記入、明日の早番に引き継ぎ。

その間に私はスクリーンを全て施錠して、忘れ物を保管。という流れを指示されました。

なるほど、さすがだなあ、と思ったのを覚えています。

スクリーン8番の終映が近付いてきました。

8番はスクリーンの中で、フロアの最も奥まった所にあります。

また、8番だけ、通路を10メートルは歩きます。

スクリーンのすぐ裏は、何年も使ったことの無いような、薄暗い緊急非常口で、普段は施錠されています。

私は薄暗くなった通路を、一人、PHSと鍵束を持って、8番に行きました。

スタッフの女の子が、8番は「出る」という噂をしていたことが、頭をよぎりました。

確かに、深夜の映画館。
特に、ここだけ、何か切り離された、別の空間のような違和感があります。
ですが、私は他愛のない噂話としか思っていませんでした。

8番の映画が終了しました。
全てのお客さんが出払ったのを確認した後、早速、忘れ物を探しました。

お客さんが言っていた座席付近を見ると。
ありました。黒の女性物のポーチ。

早速、K田先輩に電話しようと思いましたが、ふと視界に、おかしな物が入りました。

ポーチが落ちていた座席よりも、ずっと奥の方の座席に、黒い紐のような物が絡まっていました。

何だ、これ?と思って手に取ると、髪の毛でした。

さすがに気味悪く思いましたが、黒のウィッグ、何かの拍子に取れてしまい、面倒臭くなって捨てて行ったのだろうぐらいに思いました。

実際、髪の毛はよれよれで、汚く、白髪まで混じっています。

私は、自然に、あー、これはゴミだな、と判断しました。

そのまま、座席全体を一周するように、スクリーン前方にある裏手の非常口に繋がる扉が普段通り、施錠されているか確認。

そして、後方の入場口を場外から閉めました。

扉の前に立った私は、手に持ったポーチを見て、K田先輩に電話をしていないことに気付きました。

私は慌ててPHSを取り、事務所に電話しました。
ポーチと髪の毛を持ったまま。

僅かなコールですぐ繋がりました。

「○○です。忘れ物、ありました。」
「○○君?あ−−聞−−る?」

通話はノイズ混じり。
8番だと繋がりにくいのか、安物の古いPHSだからなぁ。

ノイズ混じりのまま。

「○○君?ん、だよね?」

「え、あ、はい、忘れ物ありました」

「え?誰かいるの?」

「は?」

「何て−−−言ってる?も−−もし、誰−−るの?」

「とりあえず、そっち行きますね」

「来るな!!」

「え、え?」

「○○君、何持ってるの!?」

「え、あ、ポーチ・・・」

「だけ!?」

その時、私の手に、ポーチともう一つ、いまだに「髪の毛」があることを思い出しました。

その瞬間。

ドンッッ!!

私のすぐ後ろ、8番の扉が内側から強く叩かれました。

中には絶対に誰もいません。
場内を一周して確かめました。

私はその時、完全にパニックに陥っていました。

「え、え???」

「捨てて!!」

「早く!!」

私は「髪の毛」を地面に叩き付けるように捨てて、事務所に走りだしました。

その時、一瞬ですが、非常通路から人影のような物が、こちらに向かって、追い掛けてくるような、そんな「何か」を見ました。




私は息を切らして、K田先輩の元に走って行きました。

優秀なK田先輩は私が電話するまでに、ほとんどの締め作業を終えていました。

ですが、8番から走って来た私が見たK田先輩の様子は、蒼白で私より遥かに憔悴していました。

何も知らない社員と、もう一人の先輩と合流しましたが、K田先輩は黙ったままでした。

何か、あったんか?と二人は訝しんで聞きますが、K田先輩は答えません。

K田先輩は、私からポーチを奪うように取り、社員に、あと電話連絡だけ、お願いします、と呟くように言って、私と、もう一人の先輩を急かして、休憩室に上がりました。

休憩室で、K田先輩は上着とシャツを脱ぎ、座りこみました。

K田先輩は尋常でないほど、汗がにじんでいました。

どうしたんやー?と先輩が聞きます。

「なー、○○君。電話の時、誰もおらんかったよな」

「え?あ・・・僕だけです」

「マジか・・・」

「あれ、どういうことなんですか?」

「あの時な、電話出て、○○君の声、よく聞こえんかったんよ。
電波悪いんかなぁ、って思ったんやけど、なんか違ってん。

なんか混じっててん。
人の声、多分、女。
ずっと近くで、つぶやくような感じやったんよ。
何言ってんか最初、解らんかったけど、だんだん、はっきりしてきて、逆に○○君の声聞こえんくなってん。
多分、あれ、ずっと、こう言ってたわ。

『返セ返セ返セ返セ返セ返セ返セ返セ返セ返セ返セ返セ返セ返セ返セ返セ返セ返セ返セ返セ返セ』

って。」

「だから、○○君、絶対ヤバいもん拾ったと思って・・・あー・・・早よ帰ろ・・・」

そのまま、私たちは、いそいそと帰宅しました。

普段なら、駅まで談笑しながらですが、私たちは、別れるまで、その日は黙り続けていたと思います。

後日、残席照会で調べましたが、やはり、その日、あの席に座ったお客さんはいませんでした。

髪の毛は恐らく、清掃業者の方が片付けたと思いますが、詳しいことは、解りません。



※登場した方は全て仮名であり、実在の人物とは関係ありません。

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