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Pの『THE つだん部屋』コミュの【132】ちょっと…言えない

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【コピペ】



哲ちゃんからその話を聞いたのは、夏真っ盛りの頃だったと思う。
ちょうど、ひぐらしの声が心地よかった。

哲ちゃんと僕は中・高同じで、しかも同じ野球部だった。
僕にとって哲ちゃんは、何ものにも代えがたい親友だ。
哲ちゃんはいまだに独身だ。
とはいっても、まりさんという同棲中の彼女がいる。
二人を表現するなら、『美男美女』の『ナイスカップル』だ。

実は僕も彼女のことをよく知っている。まりさんは薬剤師という硬いイメージの職業に就いているが、最高の女性だと僕は思っている。彼女は明るく、いつもおしとやかで余計なことは言わないし、スポーツ万能で我慢強い。そして、何よりもいつも人を思いやる優しい気持ちの持ち主だ。

同棲し始めてから5年くらい経っていると思うが、二人にまだ結婚の話はないようだ。どうも、まりさんのかたぶつの父親が猛反対しているらしい…

哲ちゃんと僕の自宅付近の居酒屋で飲もうということになった。

「実はですね…きんちゃんに報告があります。」

哲ちゃんは何だかあらたまって、ちょっとはにかみながらそう切り出した。


なんと、ようやく正社員として就職が決まったこと、今より広くて駅より近い部屋への引越しが決まり、これからは自分が家賃を払うことになったことを僕に話した。

「よかったなぁ!おめでとう!これからは大黒柱だね!」

僕は突然の吉報に正直驚いたが、心から哲ちゃんを祝福した。哲ちゃんは満面の笑顔に変わった。

僕たちは大ジョッキーで祝杯を挙げた。

哲ちゃんは長く勤めていた会社をやめ、たぶん、2年以上はアルバイトしながら再就職活動を続けていた。
その間、俺はヒモだ…なさけない…と、いつも僕にもらしていた。
薬剤師のまりさんと哲ちゃんでは、収入に差がありすぎるようだ。
哲ちゃんはそれがまりさんとの結婚を反対される理由だと言って、いつも気にしていた。

でも今回ようやくその悩みが解決されたのだ。
哲ちゃんはさほどアルコールに強くないが、さずがに今日は飲むペースが速く、口調も滑らかだった。再就職が決まるまでの苦労話、情けなかった胸の内を一気に僕に明かした。


僕は哲ちゃんの話を自分事のように聞いていたが、

「まぁ、結果よければ全てよしっていうからさ!今日はゆっくり飲もうよ!」

と、精一杯哲ちゃんをねぎらって、もう一度ジョッキを鳴らした。

「きんちゃん…でもさ…何かと大変なこともあってさ…」

哲ちゃんはビールを一口飲んで、一息つくと話し始めた。
僕は思わず身を乗り出した。

ここからは哲ちゃんの話だが…

同棲中のまりさんがうつ状態だった。
それは職場での人間関係に疲れていることが大きな原因になっていた。

薬局の上司は、五十路をはるかに超えたオールドミスのおばさんだが、なんと20年以上もそこの店舗に居座り続けていた。
そいつは、
休みはくれない
いつも重箱の隅をつついて、すぐ怒鳴る
陰口はたたく
ろくすっぽ仕事もしない
自分だけ休みをとって、海外旅行などに行ったりする。
と、とにかく最低最悪だった。

気のいいまりさんはそいつのいじめの標的になった。
気丈なまりさんはそんないじめをよそに、疲れている表情ひとつ出すことなく、もくもくと働いていた。高校時代陸上部で鍛えられたから、それくらい耐えられると言って我慢していた。

ある日、彼女は一日の仕事を終えホッとしながら自宅マンションに着いた。マンションにはエレベーターがないが、自宅のある4階までゆっくりと上がっていった。

すると、3階の踊り場に見慣れない3歳くらいの女児が階段に腰掛けて、指をおしゃぶりしながら、ニコニコしながらこっちを向いている。

根が明るい彼女は、こんにちは、と微笑みながら手を振った。女児の反応はなかったが、依然こっちを見ながらニコニコ笑っていたという。

彼女は部屋に向かう廊下を歩きながら、軽い違和感を覚えた。

その日は夏の日差しが一段と強く風もなかったので、夕方でさえぼうーっとするくらい暑かったが、女の子は長袖の黄色い上着に、紺色のジーンズをはいていた。

彼女はかぜでもひいてるのかな、何気なくそう感じた。

しかし、その時を境に彼女に奇妙な現象が起こりはじめた。



※コメントに続きます

コメント(10)

※続き



その夜、てっちゃんは夜勤のバイトのため不在だった。彼女は明日の仕事に備えて早めに床に就き、うとうとしだしたと思ったとたん、テーブルのパソコンがスタート音とともに開いたのだ。

彼女は突然の出来事に目を覚ましたが、疲れがたまっていたため、パソコンの誤作動だろうと思い、強制終了して気にも留めず朝まで眠った。

それからしばらくは何もなかったので、彼女はそんなことなどきれいさっぱり忘れていた。


数日後、てっちゃんはその日も夜勤のバイトに出かけていった。

その夜彼女は変な夢をみた。
女の子が彼女の炊事場で水道の蛇口をひねり、コップの水を飲んでいるのだ。ごくごくと飲みほす…そして、また蛇口をひねって飲む…それをずっと繰り返している。

彼女はじっと女の子の行為を見ていたが、夢の中で、『この子だれ?』と、ぼんやり考えていた。

女の子も水を飲みながら、彼女の疑問に答えるように顔をこっちに向けた。
彼女はハッとなった。『どこかで会った…』




少し前に階段の踊り場で出会った女児だったことに気づくまで少し時間がかかった。
女の子は彼女と顔が合うと、ニッコリ笑って近づいてきた。

そこで夢は終わった。



※続きます
※続き



次の日から奇妙な現象が頻繁に起こりだした。

携帯電話に触れもしないのに、点灯し『♯♯』の文字が出る。

床に就いたら寝具の中に何かある、探ってみたらケースにしまっているはずのブローチやネックレスが出てくる。布団の中からだ…

突然一輪挿しの花瓶が倒れて、水がこぼれる…

首をひねるようなことばかり続くのだ。

まりさんは気が優しく細かいことを気にしない人だから、
この部屋にいたずらっ子がいる…
ほんとに悪いことさえしなければ別にいいよ…
と思って、まったく気にしなかった。
まりさんはその見えない誰かに向かって、『行ってきます!』、『ただいま!』と、その都度明るくあいさつした。また、ときどき『あんまりいたずらしないでね…』とも言っていた。

しかし、次第に彼女の体調に変化が表れるようになった。

眠れない
食欲がない
体が重い
人と話すことがおっくう
外に出るのもおっくう…

彼女は無理をおして、仕事を続けた。
気にしていないつもりでも、あの上司のいじめに体が反応している…そう思ったが、
『そんなこと気にしてられない』と、心に言い聞かせた。
しかし、上司のいじめは日に日に激しさを増していった。

「あんた、こんなこともわからないの!?何年薬剤師やってんのさ!」

「いつでもあんたなんてやめてもらってもいいんだよ!代わりはいくらだっているんだからさぁ!」

「一緒にいる男に食べさせてもらいなよ!」

上司の執拗ないじめとやっかみの入り混じった言葉の攻撃にさらされる日々が続いていた。

哲ちゃんとの同棲は、私が働く以外成り立たない…
哲ちゃんのことは、今は私が面倒をみてあげなくちゃ…
まりさんは、家事をしながら毎晩遅くまで勉強もしていた。



※続きます
※続き



まりさんは哲ちゃんと二人でいるときには明るくふるまい、何事もなかったように取り繕っていたが、ある夜我慢の限界が来たのだろう…人知れず号泣してしまった。
そこへ哲ちゃんが帰宅してきた。

哲ちゃんは当然驚いた。
まりさんはしかたなく、ことの仔細を哲ちゃんに打ち明けた。もう限界だった…
哲ちゃんは激しい怒りにワナワナと震え、

「そんな薬局とっととやめちまえよ!」

と思わず叫んだ。

まりさんは、

「私は途中でやめたり、投げ出すのがいやなの!必ず見返してやりたい!あんなおばさんに負けたくない!」

「あっ!ごめんね…」

まりさんは言い放って、自分の言葉が哲ちゃんを傷つけたことに気がついた。

途中で会社を投げ出してしまった哲ちゃんには、まりさんの気迫になす術がなかった。悲しいことに、実際のところヒモ状態である自分には、

「いや…全部俺の責任だよ…謝るのは俺のほうだよ。つらい思いさせて本当にごめん…」

と、がっくり肩を落として詫びるしかなかった。

そしてその夜のこと…
まりさんはいつものように眠れなかったが、二人が床に就いている部屋で起こっている異変に気づいていた。

女性の子守唄のような歌声がかすかに聞こえる…
子供がダダをこねている…

まりさんは思わず部屋の照明をつけた。とたんに、その声はやんだ。

「まり、どうした…?」

哲ちゃんも眠れない様子だが、まったく気づいてなさそうだ。

「う、ううん…何でもないよ。起こしちゃってごめんね…」
二人とも眠れなかったため、それから深夜テレビを見ながら朝まで起きてようってことになった。



※続きます
※続き



その現象は、その夜を境に頻繁に起こるようになった。
パソコンや携帯電話の誤作動も依然として起こる…
昼間はテーブルの上のメモ用紙に子供の落書きらしきもの、消したはずのテレビがついていたり、止めたはずの水道の蛇口から水が流れていたり…
すべてまりさんだけが気づいていたようだ。まりさんは不眠に悩まされ、ついにメンタルクリニックを受診するようになった。睡眠薬をもらったが、浅い眠りが連日続いた。異変も連日続くようになった。

一方、哲ちゃんはあせっていた。
早くまっとうな職に就きたい…
早くまりを楽にさせてあげたい…
哲ちゃんは昼間は再就職活動に没頭し、夜は夜勤のバイトに出かけるようになった。

まりさんは、連日の異変をずっと押し黙っていたが、あまりに続くためついに哲ちゃんにすべてを打ち明けた。哲ちゃんは驚いたが、上司のいじめによる精神状態のみだれによる、まりさんの幻覚ではないかと思った。だが、すべてまりさんを信じてあげることが彼女への愛情だと…そして対策を考えることにした。

バイト仲間に相談したところ、幸いにして知り合いに霊能力を持つおばさんがいて、数件にもわたる問題を解決していることの情報を得たのだ。

哲ちゃんはその話に飛びつき、Hさんというおばさんと会ってすべてを打ち明けた。Hさんは、霊視してみて自分で除霊ができるかどうかわからないが頑張ってみる、さらに無償で引き受けると言ってくれた。ただし、Hさんは何だか忙しいらしく、まりちゃん宅には1週間先でなければ行けないとのことだった。ちなみに、哲ちゃんにはかなり強い守護霊がついていて、ちゃんと守ってくれているから、安心しなさいと言ってくれた。



※続きます
※続き



哲ちゃんはおばさんが訪問してくるまでの間、自分自身で異変を確かめたいと思った。そして部屋を撮影しようと、ビデオカメラを2台借りてきて部屋全て観察できるように設置した。24時間はとても無理だったが、夜の就寝中を狙って録画した。

案の定、ビデオカメラにまったく異変は現れなかった。

そして、ついにHさんが部屋にやってきた。
Hさんは部屋に入るやいな、今すぐ哲ちゃんに部屋から出なさい、3時間はかかるから、終わるまで絶対に入ってきてはいけないと言った。3時間後に部屋のドアの前で待ってなさいと言われた。


そして、Hさんに言われるまま、3時間後哲ちゃんは部屋の前に立った。
さらに1時間待ち、ようやく静かにドアが開いた。Hさんから入りなさいと言われた。部屋にはかすかにお香を焚いた匂いが残っていた。

まりさんは、首を回しながら自分で肩をトントンと叩いていた。
そしてすがすがしい笑顔を哲ちゃんに見せた。そして、哲ちゃんほんとにありがとうと、声を震わせながら泣いた。

Hさんは、これですべて終わりました。除霊は終わりましたと言った。
まりさんに憑いていたのは、ある女性とその娘の霊だった。しかもかなり昔、親子心中した霊だったという。



※続きます
※続き



15年ほど前のことだ。

女性はまりさんと同じ薬剤師だった。
同じ店だったかどうか定かではないが、その可能性は高い。やはり職場でのいじめを苦に、睡眠薬を大量に飲んで心中してしまった。しかもまだ幼い娘を巻き添いにして…

亡くなった場所はここではないが、まりさんはその女性の霊に職場で憑かれてしまった。

女性はまりさんをいじめている上司から、同じような被害にあっていたようだ。
女性は自分と同じ目に遭って精神的、体力的に相当疲弊していて、しかも気の優しいまりさんに付け込んだ。そのような霊は、極端に精神的に疲れているとき、また何かにおびえている時などに憑きやすい。

幼い娘は女性から無理やり薬を飲まされたが、女性よりは長く息があった。薬の副作用かも知れないが、死ぬまで水をほしがっていた。しかし、なす術がなかったらしい。

女性は自分によく似た境遇のまりさんをあの世に連れて行こうとしたが、まりさんは精神的に疲弊していたものの、いじめと闘おうとする気迫がその危機を乗り切った。

Hさんは、とにかく早くこの部屋から新しい部屋に引っ越すこと、今度は寝室と水場が別室になっている部屋を選ぶこと、そして一日も早くまりさんは職場を変わるか、その上司と同じ空間にいてはいけない、そして、東向きに神棚を備え毎日きれいな水を入れたコップを捧げてほしいと、助言して帰っていったという。



※続きます
※続き



数週間後、哲ちゃんの就職が決まり、なんとまりさんのあの憎い上司の配置換えが決定した。しかも降格だった。店の売上金着服疑いが発覚したらしい。証拠が固まり次第解雇処分を受けるだろうとのことだった。

まりさんによると、15年前に東北出身でシングルマザーの薬剤師が同じ薬局に勤めていたが、例の上司から執拗ないじめ、今でいうパワハラを受け続けていて、それを理由に
退職後故郷に帰ったが、今消息は知れないということだった。上司は自分が結婚できないことを異常に気にしていて、既婚者の女性、或いは子供、彼氏がいるだけで妬み、いじめを繰り返した。それを理由に退職した女性は数知れないとの話を薬局本社筋のとある社員から聞いたらしい。









僕は哲ちゃんの話をビール飲むのも忘れるくらいに聞き入っていた。
気がつけば目頭が熱くなっていた。

哲ちゃんたちは駅から徒歩5分の場所にある新しいマンションに引っ越すことが決まったらしい。哲ちゃんは雲の上を歩いているような晴れ晴れした表情をして、本当に嬉しそうだ。

「今からうちに来なよ!まだ8時だよ。」
哲ちゃんは少し酔っていたが、まじめな顔して僕に言った。
僕も少し酔っていて、

「じゃあ…未来の花嫁にあいさつにいくか!」

哲ちゃんの誘いに乗り、今度は3人で飲みなおすことになった。



※続きます
※続き



哲ちゃんの家ではまりさんが僕たちを待ち構えていた。
僕たちは缶ビール片手にもう一度乾杯をした。
部屋には哲ちゃんが言ったとおり、東向きに神棚があって、お水が捧げられていた。

僕はまりさんに、

「大変だったけどよく頑張ったよね!いやなことや悪いことはずっと続かないから、これからはきっといいことが待ってるよ。」

と、心からねぎらった。

まりさんは、本当にありがとうと消えそうな声で言ったが、声はうれし涙で震えていた。

まりさんは、今日お父さんから連絡があり、哲ちゃんの就職が決まったことで、お父さんの態度が手の平を返したように柔らかくなって、ひょっとすると結婚を許してもらえるかも知れないと哲ちゃんに話した。

その言葉を聞いてから、僕らはお祭り騒ぎになった。

「オレ、こんな大事なときに、今ここにいて、タイミングよすぎ!?」

僕は思わず叫んだ。

泣いていたまりさんが満面の笑顔になった。

少しやせて、顔色が青く見えたが、本当にきれいな笑顔だ。

引越し準備のために部屋にはダンボール箱が積まれていたが、何年後かには二人の子供が生まれ、もっと荷物は膨らむのだろう…なんて、ぼんやり考えていた。僕の横には哲ちゃんが録画したビデオカメラが低い三脚に固定されていた。

僕は二人が最後に同棲していた部屋の証を残してやろうと、

「じゃあ…今から二人を撮りまーす!」

と、いたずらな笑いを浮かべて言った。

まりさんは、

「えーっ!きんちゃん、ちょっと待ってよぉ…」

と言って、部屋を片付け始めた。

哲ちゃんはよっしゃ!と言って、鏡で髪型を整え始めた。



※続きます
※続き



僕はビデオカメラを覗いて、RECスイッチをONにしようとした…

カメラは部屋を片付けようと動くまりさんのうしろ姿をとらえていた。

なんだこれは……………

僕は思わず尻餅をついてしまった。

「フフフフッ!どうしたの!きんちゃん酔っぱらってる!」

まりさんがきれいで上品な笑みを浮かべて僕に駆け寄る…

尻餅ついて動けない僕を見て、哲ちゃんが大笑いする…

「じゃあ、きんちゃんのまぬけなポーズをオレが撮ってやるよ!」

二人は笑いの渦になった…

僕も笑っていたが、苦笑いであることを二人は気づいてないようだ…

まりさんは上手に女の子をおんぶしていた…

女の子は指をしゃぶりながら、ニタッと僕に微笑んだ…

二人は固まった僕を見ながら笑っている…

もうすぐ結婚も決まるだろう…

幸せそうだ…

このことは、二人に言えない…

いま…

ちょっと…

言えない…



※終わり

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