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Pの『THE つだん部屋』コミュの【63】緑のアレ

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【コピペ】



無駄に文字数の多い実話です。
移動時間や待ち時間にどうぞ。



私の友達に寺の息子がいる。
チャラいので仲間内では海老蔵と呼ばれているが、本人はまんざらでもなさそうだ。

夏の暑さも落ち着き始めた数年前のある日、私と勇太は海老蔵の家に泊まりに行った。

それぞれが社会人として働き始め、毎日を仕事に追われていた。
海老蔵も家の跡を継ぐための修行やら手伝いやらで忙しく学生のときのように顔を合わせる機会は少なくなっていた。

今日は久しぶりに語り明かすぞ!
昼間からテンション高めの勇太は海老蔵宅(つまりは寺)に向かって車を飛ばしていた。
助手席に座る私は深いため息をついた。
限度無く飲み続けて暴れまくり吐きまくる二人の面倒を見るのはいつも私だ。

車は軽快に狭い山道を登っていく。
どうしてこんな山の中に寺を作ったのだろう。檀家が気の毒でならない。
近くに人家も無いような山の道なので道路もなかなか整備されないようだ。
アスファルトはあちこちで波打っているし、錆の浮いたガードレールはなんとも頼りない。

「おい、危ないからスピード落とせよ」

助手席で足を踏ん張りながらの私の呼びかけは勇太の耳に届かなかったようだ。
聞こえないふりは勇太の得意技である。

程なくして私の心配事は現実となり、車はカーブを曲がりきれずに路肩に乗り上げて山肌を削った。
これが谷側だったらガードレールもろとも崖下行きだっただろう。

幸いにも車はバンパーをわずかに破損しただけで走行に支障は無い状態だったが、先月納車したばかりの新車を早くも傷物にした勇太は涙ぐんでいた。

意気消沈の勇太と運転を代わり車を路肩からバックさせているとバンパーの下から何かがゴロンと出てきた。
消火器ほどの大きさのそれには緑色の苔がびっしりと張り付いていた。
そのとき私は腹の奥のほうに言いようの無い不安感を覚えた。

あの時、車を降りてアレの正体を確認するべきだったと後悔している。

寺に着くと海老蔵と住職が私たちを迎えてくれた。
住職はやはり海老蔵の父親なだけあってかなりブラックな坊さんである。
この寺に海老蔵は父親と二人で住んでいる。

私たちは久しぶりの再会を大いに楽しんだ。
お互いの職場での働きを自慢し合い、愚痴を吐きだし、酒を呷った。

夜中になると住職の提案により本堂で麻雀を始めた。
どこまでも罰当たりな住職である。

「仏の前から逃げ出すことは許さん!」

なぜか住職は最初から泥酔状態だった。

席を立とうものなら手加減のないプロレス技をお見舞いされた。
トイレに行きたいと懇願すると、無言で320mlのペットボトルを渡された。
あの住職のような人間を鬼畜と呼ぶのだろう。

軟禁状態でおかしなテンションの麻雀デスマッチは熾烈を極めた。
体も財布も大きなダメージを受けたが、酔っ払いの私たちにはとても楽しかった。

そんな格闘技のような麻雀を何時間か続けていると、ついに住職が酔いつぶれた。
床には住職が飲み干した一升瓶が何本も転がっていた。
海老蔵は間違いなく父親似だ。
外も明るいうちから飲み始めていた私たち若者もそろそろ眠気の限界だった。
住職のリタイアから程なくそれぞれがその場に倒れ込むようにして眠った。





猛烈な尿意に襲われた。

暗闇の中で目を覚ました私は自分がどこにいるのかわからなかった。
徐々に眼が慣れるにしたがって自分が寺の本堂で寝たことを思い出した。

外から射し込むおぼろげな月明かりを頼りにトイレに向かおうと廊下への戸に手をかけた。

そのとき私は違和感に気づいた。

その場で振り返ってみる。
暗闇の中に眠る3人の姿が確認できた。
私たちは麻雀をしていてそのまま眠りに落ちた。
私は他の三人が眠りに落ちるのを最後まで見届けたのだ。



明かりは誰が消した?



昼間に感じた不安感が蘇り、肌が一瞬であわ立った。
誰かが私と同じようにトイレに起きて消したのかもしれない。
しかし本能では明かりを消したのが3人のうちの誰でもないことがわかっていた。

外で何かが鳴いている。

野鳥だろうか、とても甲高い鳴き声だ。

鳴き声に耳を澄ましてみる。

いや、鳥ではない。

赤ん坊の泣き声だ。

寺にはここに居る4人以外の人間はいない。
民家すらないこんな山奥に赤ん坊の声など聞こえるはずが無い。


ペタペタ

ペタ・・・ペタ

廊下で何かが動いている気配がする。

動悸が激しくなり、冷たい汗が背中を伝った。



ドンッ

戸が大きな音を立て振動した。

驚いた私はその場に尻餅をついた。

床の冷たさに震えが走った。

いつの間にかさっきまで聞こえていた泣き声が止み本堂を静寂が包んでいた。

虫の声さえも聞こえない。


ふと目の前の戸に目をやった。

床から20センチほどの高さ。

少しだけ開いた戸の隙間から覗く目と視線がぶつかった。

黒目がちな目。

まるで穴が開いているかのように立体感のない目だった。

私の記憶はそこで途切れた。




翌朝、私は海老蔵をつれて昨日の事故現場を訪れた。
私には何となくだが昨夜の体験の原因はここにある気がしたのだ。

苔だらけの物体は昨日と同じ場所に転がっていた。
持ち上げてみるとかなりの重量があった。

私たちは寺から持ってきたタワシでびっしりと張りついた苔を落としていった。
なかなか頑固な苔だったが、徐々にその下が明らかになった。

古い地蔵だった。

どれくらい昔に作られたものなのかはわからないが、風化が進んでおり顔の輪郭さえもはっきりしない状態だった。

綺麗に苔を落とすと地蔵の裏に彫られた文字の一部が辛うじて読みとれた。

『水子供養』

昨夜聞いた赤子の声。

戸の隙間から覗いていた黒目がちな目。

母親を探していたのだろうか。




その後、地蔵は海老蔵の胡散臭いお経で供養され、寺の一角に安置された。

住職が言うにはこの山に水子地蔵など存在しないらしい。
水子供養を行ったという記録も寺にはないという。

いったいあの地蔵はどこから来たのだろうか。

住職からは何か霊障があるかもしれないから拝んでやると言われたが、ぼったくり料金を提示されたので丁重に断った。

霊障と言えば、次の日から1週間ほど勇太の乳首が腫れあがった。
この日から勇太のあだ名は「二プレス勇太」になった。

二日酔いを理由に供養をサボった罰だと海老蔵と一緒に笑ってやった。



あれから何度となくあの寺に泊りに行っているが恐ろしい体験はしていない。

住職主催の麻雀デスマッチは度々開催されている。

その度に悪人顔の住職は言うのだ。

「俺が本堂から出るなと言ったら、絶対に出るな」

あの体験をして以来、私は住職のこの言葉を素直に聞くようになった。

あのとき戸を開けてしまっていたら…想像しただけで怖い。

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