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セノスケ ノベルズ(Mixi支部)コミュのオ空ノムコウ 第4話

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4.

(ふぅん。包丁の使い方、確かに慣れてる。口動かしながら何気にサクサク切ってるし。あ、あの切り方。どっかの動画で見た気がする)

「へぇ。このピーラーヤバいね。包丁とセットなんだ。セラミックってこんなに切れ味いいのか。ウチも買おうかな。デザインもカワイイし」

「うんうん。お勧めだよ。これはお母さんがね〜、一人暮らし始める時にプレゼントしてくれたの。でもセラミック包丁って、固いのを無理に切ろうとすると刃こぼれしやすいんだって。お魚の太い骨とか、生のかぼちゃとか」

(目に入れても痛くない愛娘が一人上京。やっぱ普通の親ならプレゼントの一つもするもんだ。まあ、こんなオナゴに育ったってことは家族とも上手くやってるんだろうな。つか陰ではクラブでナンパされてホイホイついていってとか…。う〜む。ウチの直感をもってしても、そういう匂いはしないんだよなぁ。大洋がいない時の態度がどうかってのが当面のポイントだな)

「そかそか〜。後でそっこーググってみる。お、もうそろそろタッパーに移してもいいよね。‘ゴボウさん’」

「そーだよ。ゴボウさん。きゃははっ。ゴボウさんっていうの、変かなぁ?」

(わっ。またひかりスマイルが出たし。大洋は1日おデートしてる間に、何回ひかりスマイル攻撃受けてるんだろ)

 絶え間なく生じる廃材や食材の切れ端を、ゴミ袋へ入れたりタッパーに詰めた食材を冷蔵庫に詰めたりしながら、大洋は笑みを浮かべていた。キッチンで2種類の黄色い声が響くのが心地良かった。恋人と妹。質の異なる最愛の女性同士が笑顔で言葉を交わしている様子に、そっと胸をなで下ろす。ついでに言えば用意したタッパーとクーラーボックスの数がほぼ適正だった。恐らくは数箱余る。予備としては理想の数である。

 そらも、大洋が人心地ついているのを肩口で感じ取っていた。腹でひかりを値踏みし続けていることに若干の罪悪感は覚えるものの、同時に健全な女心とはそんなものだとのニヒルな笑いもこみあげてくる。知らぬが仏とは、根本的に精神構造の異なる男女間にこそ使われるべき言葉である。とりわけ大洋にはそれが当てはまる。そう思った瞬間、背後の大洋がバタバタと動いた。そらは大洋に心底を覗かれたかと思ったが、それはすぐに杞憂だと分かった。ポケットで震えだした携帯電話に応じたのだ。

「もしもし?大地?」

「うーっす。そっちはどーよ」

 受話音量が最大値に設定されているようだ。大地の声はそらにも届く。

「うん。さっきひかりが到着して、今そらと一緒に野菜を切ってくれているよ。まだ月乃さんは来ていないけど、もしかしたら道に迷っているのかなぁ」

「あー悪ぃ。そっちにも言っときゃよかった。アキバ出る時、月乃はそらにメールしたんだろ?その後オレも月乃に電話してさぁ、ついでだから神谷町の駅前で月乃を拾ったのよ。今、助手席に乗ってるぜ」

「そうなの?っていうことは、レンタカーも借りられたんだね。お肉も積んだ?」

「明日の朝まで肉屋の冷蔵庫使わしてもらうことになってさ、だからクーラーボックスと保冷剤だけ2,3箱積んどきたいのよ。その辺大丈夫か?っつー電話。もし箱が足んなかったらこのままホームセンターまでパシるし」

「ああ、ちょうどそれくらい余ってるから大丈夫」

「マジで?ヤルじゃん。大洋、超優秀な裏方になれるぜ。んじゃあ、小物類だけ買ってからそっち行くし」

 大洋達のマンションにある2台の車、即ちサーブ9-3コンバーチブルもフィアット500も、機材や食材の大量に搭載するには向いていない。そこで大地は軽ワゴンをレンタルすることにした。しばしば弁当の配達などに使われる商用車で、最前列のみ座席のある2人乗りだ。後ろは全て荷室となっている。大地曰く、ワゴン1台で機材も食材も運搬出来そうだ、とのことだった。

「うっそ!ひかりちゃんケーキ作って来てくれたんだ?やっべぇ!つーか月乃は月乃で今、超テンションヤベぇんだぜ」

「ダメですっ。恥ずかしいですぅ〜」

 大洋にとっては聞き慣れぬ、そらにとっては聞き覚えのある嬌声が受話器の向こうから響く。

「え?月乃さんが?なんで?」

「まあ、そっちに着いてのお楽しみっつーことで。んじゃな」

 そらが振り返ると、通話を終えたばかりの大洋が携帯電話を片手に首を捻っている。

「月乃ちゃんがハイテンション。メイドカフェで自分の曲をリクエストされたとかじゃない?あんま気にしなくていいよ」

「自分の曲?」

 大洋とひかりが同時に反応した。

「言ってなかったっけ?月乃ちゃん、勤めてるメイドカフェから、夏にCDデビューしてるって。お店の売れっ子5人でユニット組んだんだって。インディーズレーベルつってたけど、ダウンロードと合わせると何千枚って売れてるらしい」

「そうなの?20歳以上年上の、しかも同級生のお父さんと付き合ってて、その上メイドカフェから歌手デビューか。な、なんか僕の頭じゃ最初からついて行けてないなぁ。月乃さんと、会話が成立するんだろうか」

 ひかりは黙っていたが、手を止めて大洋を見つめている。大洋に同意しているのがよく分かった。

「まあ、ずっと敬語だし大丈夫じゃない?」

 大洋とひかりは、リビングでクーラーボックスの脇に並んでいる、東急ハンズの紙袋、つまりビンゴゲームの賞品を見つめた。数日前にそらと月乃で調達してきた品々だ。

(どんなの買って来ているんだろう)

 大洋はひかりを見た。ひかりも自分と同じ懸念を抱いていると確信した。

「まあいいじゃん。もうすぐ野菜切るの終わるし。チャッチャとやってさ、大地達が来たら休憩タイムにしようよ」

 的確なリーダーシップを発揮したそらに従い、大洋とひかりは作業を再開した。

………
「今晩は〜っ。今晩はですぅ〜」

 声優の養成学校で聞いたならば違和感はさほど覚えなかったかもしれない。黄色とも表現しかねるアニメ声が、玄関から響いた。これに比べれば、ひかりの声色は‘大人女子’の領域である。野菜の下ごしらえを終え、スフレケーキを配膳しようとしていたひかりと大洋の前に、黒縁メガネの小柄な少女が現れた。

 身の丈は150センチにも満たない。黒髪のショートヘア…そらよりは若干長い…が幼さを煽った。衣装ケースとおぼしき鞄を手にしているが、フリルを多用した衣服が大洋達の目を釘付けにする。大洋やひかりのような‘初心者’がイメージするアキバ系女子そのものが、目の前にあった。

「大洋さんとひかりさんですね。初めましてぇ。月乃ですぅ」

 月乃は先ほどのひかり以上に勢いを付けて頭(こうべ)を垂れた。黒髪が踊った。大洋とひかりは目を合わせた後、筋力で笑顔を作り挨拶に応じる。

「あ、あの。お店…メイド喫茶でしたよね。着替える時間も惜しんで来てくれたんですね?ありがとうございます。急がせてしまったみたいで申し訳ないです」

 大洋は同い年と知りつつも、敬語で言った。

「これは私服ですぅ。あっ!見て下さい。そらさんもっ」

 月乃はカーペットで女の子座りとなり、衣装ケースを開いた。濃紺でロングスカートのメイド服と、純白のエプロンが現れた。

「これですっ。今月から着ている制服なのです。お店に一生懸命お願いしたら、特別に貸してもらえることになったのです。明日はこのお洋服で行けるのですっ」

 月乃は嬉々として語る。色やフリルの有無など、見比べれば差異はあるのは分かる。しかし大洋にはこの制服と私服とを着分ける意義が理解できなかった。

「そらさんっ。お部屋を貸して下さい。今からお着替えして、見てもらいたいのです」

「うん。いいよ。ひかりちゃんがケーキ作って来てくれたんだ。今から食べるけど、月乃ちゃんも食べるでしょ?」

「本当ですかぁ?ありがとうございますぅ〜。ケーキ大好物ですぅ〜」

 月乃は胸元でパチンと手を合わせ、首を傾げて笑った。

「あ、そうそう。月乃ちゃんって、車の免許取ってもう2ヶ月くらいだよね?運転してるの?」

「それは…。こないだ江傳さんに助手席に乗ってもらった時、言われてしまいました。お前の免許証は、身分証明書として使いなさいって」

「あー。そーゆーこと。都内とか高速じゃなかったら大丈夫じゃね?まあいいや。お着替えどうぞ。紅茶淹れとくし」

「はいっ。ありがとうございますぅ〜。お部屋お借りしますぅ」

 月乃と涼しい顔で会話するそらに、大洋は平然としていられなかった。さすがに江傳のことを‘ご主人様’などとは呼ばないようだ。そのことに後で気付いた大洋は、少しだけ救われた気がした。

「ただいま〜っと。お、月乃早速勝負服お披露目じゃ〜ん」

「そうですっ。みんなに見てもらうのです」

 靴を脱ぐのに時間がかかったのか、大地が月乃と入れ替わりでリビングに現れた。ハンドルを握っていたこともあり、大地もメガネをかけている。目の負担を考えてのことか、最近の大地はコンタクトレンズとメガネをしばしば使い分けるようになった。

 大地のメガネも黒縁だが、その意匠は月乃の物とは大分異なる。本人曰く、人気テレビドラマシリーズ‘時効警察’に出演していた時のオダギリジョーを意識していているそうだ。ちなみに月乃のは伊達メガネらしい。

「どもども〜。お待たせっす。あ、そちらは…飯田さんね。初めまして、大洋の弟、大地っす。同じ顔でソーリーっつーことで。いつも兄貴がお世話になってま〜す。あ、もしかして月乃のキャラにカルチャーショック受けてる?」

「え?そ、そんなことないですよ。弟さん。大地君ね。こちらこそ初めまして。飯田ひかりです。大洋クン…お兄ちゃんにお世話になっています」

「あ、一応メガネにしたのは大洋との区別のためもあるんだけど。まあ、飯田さんなら簡単に見分けるか」

(ふふん。大地、超緊張してるじゃん。飯田さんとか言ってるし。今の大地をサーモグラフィーで見たら、真っ赤っかじゃない?へぇ〜。大地ってひかりちゃんみたいなオナゴも前だとこんな感じなんだ?ある意味大洋以上にキョドってるし。まあこの5人の中で、一番冷静なのはウチだな)

 そらは並べたティーカップにミントティを注ぐ手を止めることなく、腹でほくそ笑んだ。5枚の小皿銘々にペーパーナプキンが敷かれ、その上に6分割されたスフレケーキが置かれている。残った一つは、明日江傳に渡すことになった。中心まで過不足無く熱が通っているようで、ふっくらと仕上がっていた。

(そっか。大地がメガネかけてるのは、少しでも素の表情を隠すためだな。それを大洋との区別とか言ってるし。まあ、大地に言わせたら大洋とひかりちゃんへの気遣いなのか)


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コメント(7)

第4話アップされてる!と発見したときの嬉しさ☆
初登場の月乃、今までにおらんかったキャラの濃さwww
ますますおもしろくなりそうですね◎

秋葉原といえば…
まさお君が入社1年目に東京勤務やったとき初任給で秋葉原のドン・キホーテで折り畳み式ではないけどちっこい自転車買ったそうで。
時が過ぎ大阪勤務になり入籍して再び東京異動があって大阪再異動して我が家の横のチャリ置けるスペースに停めてたんですが、最近なくなって×
確実にパクられたようです!
朝は停まってたはずのが昼にはなくなってて、まさお君にメールしたんです。
そしたらその返信が「そうですか。それは残念です。」で母に告げると「めっちゃ他人事な感想やんwww」と2人で笑いました。

堺のチャリ盗難率は全国ワースト2位らしいですwww
ちなみに1位は大阪の布施だとか。
けいこも高校時代に2台パクられました×
1台は高校帰りに友達とプリクラ撮るのに店の前にちゃんと鍵かけて停めたのに撮り終えて店の外に出てびっくり!チャリなくなってるやーん;;
そこから歩いて帰りましたよ。小1時間かけて..
2台目はまぁ仕方ないと言えば仕方なかったです。
高2の夏やすみにまさお含めたcamera部の友達5、6人でチャリで河内長野市にある滝畑ダムというところにキャンプに行った帰り、まさお君の実家でちょっとゆっくりして帰ることにして、団地の駐輪場に停めたんですが疲れててボーっとしてたようで鍵かけるの忘れてたんです×
駅前に買い物に行こうとしたらなくなってる!
交番に盗難届出しに行きましたが中年のポリさんに「自転車はまず見つからんけどまぁ書いとくか?」と言われ、もっと必死に探してや!と思いましたがしょうがない↓↓
2台とも被害届出しましたがどっちも発見されることはなくでした×

確かに中学のときヤンキー女子が学校帰り歩いて帰るのダルいと思い、雨降った翌日やったかで家の前には傘干してありそれを1本取って中心の骨をバキっとへし折りジャンプ傘の開くのに押すとこの中にある金属部を取ってそれでその家に停めてあったチャリの鍵部に突っ込んで開けて乗って帰ったwと言ってたので、そんな簡単に開くんやったらチャリについてる鍵かけただけではパクられるわなwwと思いました。
傘壊して鍵の代わりにしたもののことは「カッキー」と呼ばれてました。

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