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セノスケ ノベルズ(Mixi支部)コミュのオ空ノムコウ 第3話

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3.

「いいのぉっ。自分で持つのぉっ」

「え?それだと両手がいっぱいになっちゃうよ。本当に気を遣わなくていいから」

「う〜」

 足音が鳴り止むと同時に、玄関の扉越しに2人のやりとりが聞こえてくる。そらは不織布を装着した掃除用具、商品名で言えばクイックルワイパーを使って、床や下駄箱のホコリを拭っているところだった。建前はひかりを招くにあたっての礼儀、本音では緊張を紛らわすためのものだ。

(はっ!来たっ)

 そらはコートハンガーにワイパーを立てかけると、スリッパを鳴らさぬよう注意しながらリビングに向かった。玄関からすぐの所に、麻製の間仕切り暖簾(のれん)がかかっている。大洋達の視界から消えるのは造作ない。暖簾を潜ったところで、解錠する金属音が背に届いた。続いて扉が開く。そらは不必要に身を屈め、息を潜めた。

「今晩は〜」

「ただいま。さ、上がって。うん。大地と月乃さんはまだ着いてないみたいだね」

(ふぅん。電話越しに聞いたことあるけど、可愛い声だね。肉声の方が更に女子女子してる感じだ)

 そらは湧き上がる感想を呑み込み、さもリビングの奥から出てきたようなタイミングを計り、間仕切り暖簾を潜った。右肩に大きめのバッグをかけた、セミロングのストレートヘアが清楚に香る女性と相対した。明日を配慮しているのだろう。スニーカーで足下を固めている。そらは一段高いフロアに立つ上に、やや厚底なルームサンダルを履いている。ひかりとの身長差は僅かだった。

 ちなみにひかりは、フード付きのプルオーバーシャツの上に薄手のカーディガンを羽織っている。パンツはスキニーデニムだ。対するそらは、ショートデニムパンツをトレンカの上から履き、上半身にはシルバーのパーカーを被っている。

「あっ。今晩は〜。そらさん…かな?初めまして。あたしは…」

 大きな黒目を一点に向けて、ひかりが話し出した。そらは言葉の途中で大洋を横目に見る。家を出る時は手ぶらだったにもかかわらず、大きな紙袋を提げていた。レディスファッションを専門に扱う有名セレクトショップのロゴが踊っている。ひかりが持ってきた物なのは一目瞭然だった。

(ほほぉ。これは可憐なオナゴじゃ。素人の撮った写メより、何倍も実物の方が可愛い。ひかりスマイル。生で見たら確かにヤバいわ。あの大地が何度も言うのも納得。にしても、大洋はこんなオナゴを何年もほったらかしてたんだ。アホな奴。違う男とくっついたら、下手すりゃ一生ウジウジしてたくせに)

そらは大洋の目線を感じ取り、思案を止めた。

〜こらっ。そらっ。早くご挨拶しなさい〜

〜わかってるよ。もっと堂々としてろっての〜

 そらは目と唇の動きで、大洋と言葉を交わすと、目線をひかりに戻した。

「飯田ひかりです。大洋クン…お兄ちゃんと小学校の時から同級生で、6月から付き合っています。あの…」

 ひかりの語尾が淀む。緊張の現れであると察したそらは、フォローのために敢えて語尾を待たなかった。我ながら自然な笑顔が出来ていると誇りつつ、軽く頭(こうべ)を垂れる。

「ようこそ。妹の高井そらです。あ、大洋と名字が違うってとこはお気にならさず…」

 そらは言葉を途中で止め、流し目で大洋を見つつおどけた。アイスブレーキングの場を出来るだけ明瞭に、ひかりに示したかった。果たしてひかりは、みるみる内に大きな瞳を変形させていく。半月型になった時、遂に笑い声が漏れた。

「…ちょっと大洋クンから聞いています」

「はぁい。ウチら3人とも名字違うとこがウケるでしょ?ってか、もしよかったら敬語レスでよくない?」

「そらっ!」

 すかさず大洋がたしなめる。その瞳には、何か粗相があったら迷わずひかりの味方をするという意思が溢れていた。

「あ、大洋クンいいの。そうだね。変に緊張しちゃうもんね。じゃああたしも。よろしくね。そらちゃん。ご挨拶が遅れちゃってごめんなさい。本当はもっと早く来ないといけなかったのに」

 ひかりはバッグを両手で膝の前に提げ、頭を下げた。乙女の香りがふわりと舞い上がる。

「あ、ウチこそ気を遣わせちゃってるし。こちらこそよろしくです。ひかりちゃん、今日は来てくれてありがとう。幹事役してくれるって聞いて嬉しかった。上がって上がって。あ、スリッパこれ使ってね」

「うん。ありがとう。お邪魔します」

 ひかりは大洋を見上げ、笑みをこぼしていた。大洋も笑顔で受け止めている。2人ともほっとしている様子だった。

(そっか。そーだよね。向こうもウチと会うのって、緊張してたんだろうな)

 そらは膝を折り、薄ピンク色のスリッパを差し出した。ひかりは一礼してスリッパを引き寄せると、スニーカーの紐を緩め出す。

(うむむ。ひかりちゃんを下手(したて)に出させてしまった。これはウチの借り1だな。どうやって借りを返すか。ひかりちゃんの女を立ててあげるには…)

 そらは思案しつつ、ひかりをリビングに導いた。この家に慣れている足取りでひかりは進むが、そらは指摘しなかった。それを軽い冷やかしとして発するには、まだ場が固い。

「わぁ。お野菜がいっぱい。文化祭の時みたいだねぇ。これ今日のうちに全部刻むんだもんねぇ。大変だぁ。2人で買ってきたんだもんね〜。すごい」

 ひかりが感嘆の声を上げる。リビングのソファで、早速エプロンを身につけ出す。紙袋から普段は書籍などを入れているのであろう、A4サイズの樹脂ケースを取り出した。緩衝材で刃を保護した菜切包丁とピーラーが入っていた。

「へぇ。ひかりちゃん、マイ包丁持ってきたんだ?超気合い入ってる」

「えへへ。使い慣れてる包丁の方が早いだろうし、怪我もしにくいかなって」

 ひかりは照れ隠しなのか、舌先をぺろりと出して答える。シングルポニーで後ろ髪を結うと、普段から持ち歩いている様子のアルコールスプレーを一吹きし、手を擦り合わせる。

「あ、ひかり。一休みしなよ。今、紅茶を淹れるから。一息ついてからで十分だよ。量はあるけど刻むだけだから」

「でも、豚汁でゴボウさんも使うんでしょ?タッパーに入れる前に、お水にさらしたほうがいいよ。30分くらいは漬けておいた方がいいかなぁ」

「そうなの?」

「うん。今のゴボウさんはタワシで軽くゴシゴシするだけで大丈夫って言う人もいるけど、一応ね。色んな人が食べるからね〜。でもお味噌で煮るから、下ごしらえで茹でこぼしとかアク抜きとかはしなくていいと思う」

「そうか。じゃあ、ひかりが大丈夫なら始めようか」

「あっでもねぇ〜、紅茶は準備しておこう〜。デザートを作って来たの。今日はねぇ、さつまいものスフレケーキだよ。大洋クンパパもいらっしゃるのかと思って、6個持ってきた。みんなが揃ったら休憩時間にして食べよう〜」

「ええ?デザートまで?申し訳ないなぁ…。今日の話も直前になってお願いしたのに」

「だってスフレケーキ美味しいよ。生地に練り込んだのとは別にねぇ、さつまいもの固まりも入れてみたの。ケーキ1個に2かけら入れたんだけど、上手に焼けてるかなぁ」

「へぇ。さつまいものケーキ」

「そうっ。小麦粉も少し使うの。最初に焼き芋さんを作ってねぇ〜」

 そらは2人の会話をしばし見つめた。住宅メーカーや食品メーカーの制作したテレビコマーシャル、またはそれらがスポンサーとなっているホームドラマでも見ている気分だった。テレビ画面の中にしか感じたことのない雰囲気が、2人の何気ないやりとりから香り立ってくる。

(ふぇぇ。大洋とひかりちゃんって、こんな感じで会話するんだ。ウチがいるから意識して話題選んでるって風でもなさげ。大洋にそんな器用なこと出来ないだろうし。ザ・お似合いカップルって感じじゃね?っつか、ウチがショボい男しか知らないっつーことか。ひかりちゃんの表情…。ふぅん。これが男に安心しきってるオナゴの笑顔か)

「あっ。そらちゃんごめんね。玉ねぎから切ろうか。そうだね〜。両端の細いところは細かく刻んで焼きそばとか豚汁の具にしよう。真ん中はこれくらいに切って、爪楊枝を刺してタッパーに」

「包丁使いは2人、ウチとひかりちゃんで十分。大洋はじゃんじゃん爪楊枝に刺して、タッパーに詰めていくよーに。その前にゴボウ。玉ねぎが貯まるまで、タワシでゴシゴシしといて」

「う、うん」

 大洋はそらの指示に、素直に応じた。エプロン姿のそらとひかりが並んで包丁を握る。今まで別個のフォルダに入っていた人間関係が統合された時の、独特の違和感に浸りつつも、初対面の2人が仲良くしている様子に胸をなで下ろしていた。

「わぁ。そらちゃん上手だね。お兄ちゃん達と自炊してるんだもんね〜」

「全然だよ。クックパッド5級って感じかな。めんどくさい時は、そっこー大洋に牛丼買ってきてもらうし」

「きゃははっ。う〜、そらちゃん面白いね〜」

(思ってた通りの、清純な乙女って感じかな。取り敢えずウチが、このオナゴに敵に回す理由は…無い)

 そらはひかりに不審がられぬよう、切った玉ねぎをストック場所に置きながら時計を見た。

(月乃ちゃん、そろそろ着く頃だな。月乃ちゃんが来たら何をしてもらうか。3人並んで包丁は、さすがに息が詰まる。お姉様2人にここは譲って、年下らしく雑用するか。う〜んでも、月乃ちゃんはあのキャラだしなぁ。月乃ちゃんに包丁持たせたら超危なくね?)


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コメント(14)

第3話のアップ、今までよりだいぶ早かったですね!
嬉しく楽しく読ませていただきましたorz
空とひかりちゃんの初会い、いい感じになって良かった◎
大洋、何も心配いらなかったですねw
中学生で成長途中の空、
それで155?やったらまぁ普通ぐらいなんですかねぇ?
大学生で成長終わったひかり、
160?は平均よりちょい高めといったところですかね。
けいこは小6で155?。
中学3年間で163?になり、
高校3年間で165?。
さすがにもう成長期終わってるよな?と思っていたら!
25歳になったときまた2?伸びて167?になりましたw
頼むからもう止まってorzと願うばかりですwww
170?はいりません×
母は150?台前半のちびっこですが、父は年齢的には高い方の173か4?です。
55歳ぐらいで1?伸び、68歳でまた1?伸びたという
成長リズム全く無視した男なので、娘のけいこもわからんかもな..とびびっております!
関西弁、言いますねwww
お芋さんも飴ちゃんも!
大学入学して最初のガイダンスの後に新しくできた友達と食道でしゃべってたんですよ。
そのとき何の気なしに
「あ、飴ちゃんあるけど食べる?」と高知出身の子に聞くと笑われて
「わぁ!ほんまに飴にちゃんつけてるwww」と言われ、
「え?飴玉は飴ちゃんやろ?」と言うと
お母さんが「大阪の子は飴にちゃんつけて‘飴ちゃん’って呼ぶんやで!」と教えられてたそうでwww

先日、ハワイ土産の花のネックレスつけてマッサージに行ったら、見習いあんま師の13歳年下の男の子に
「ネックレス、お花ですね!」と言われて
あぁ、大阪人はアラハタ男子でも語頭に‘お’つけるんやなwwwと思っておもしろかったです!
‘お’つける物は他に、‘おナス’、‘お寿司’‘お鍋’、‘お箸’に‘お日さん’なんかがありますね。

泉州弁使う人は基本的に口悪いイメージが強いですが(美術予備校で岸和田出身のおとなしそうな女の子が「〜しとったらよぉ…」と言ってるのを聞いて恐ろしかったですw堺は南大阪ですが泉州弁は使いません!!)
「飴ちゃん食べる?」と飴には普通にちゃんづけで呼ぶのがかわいいですwww

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