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ワライアル★自己紹介よろコミュのKS5-3 蓮池レオン→カペチーノ→ヨシダテルミー

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★蓮池レオン

変わり映えのしない毎日。

その日も僕の一日は目覚まし時計から始まった。


 「琴光。まだ寝ているの?」

 「いま起きた」

 「朝ごはんできているから、はやく降りてらっしゃい」

 「ごっつぇんごっつぇん」


母がせかす。僕は階段を下り、食堂へ向かった。

父と母が既に朝食をとっていた。


 「琴光。おはよう」


新聞を読みながら挨拶をしてくる父に僕はぶっきらぼうに答える。


 「ごっつぇん」

 「ごっつぁんでしょ」


と母がお玉を置いた。


 「その不良みたいな言葉遣いをやめなさい」

 「いいじゃないかママ」


とこれは父だ。肉団子を頬張っている。


 「琴光ももう小結学生じゃないんだ。好きにさせてやりなさい」

 「あなた」


母は朝食のアクを取りながら小言をいう。


 「あなたがそんなのだから、琴光が不良になっていくんじゃない」

 「不良結構」

 「もう」


ふたりの話に耳を傾けず、僕は朝食を黙って取る。

テーブルに肘をつきながら朝ちゃんこを無表情で口に入れる。


 「ごちそうさま。俺、学園いくわ」

 「琴光。あなた食べかけじゃない」

 「もういらない」

 「ちゃんと食べなきゃあ。あ、こら琴光」

 「今度はなに」


母は僕の尻を指差す。


 「あんた、またそんな廻しを腰までおろして。行儀の悪い」

 「流行ってんだよ」

 「露わになってもしらないわよ」

 「露わになんかならねえよ」

 「廻しにストラップなんかもつけて」

 「うるせえな」

 「人様にストラップが引っ掛かって、露わになっても知らないよ」

 「だから露わになんかならねえって」

 「この間までそんなストラップなんか付けていなかったのに」

 「なんとかっていうビジュアル系RIKISHIの影響だろう」

 「なんとかじゃねえよ。羅瑠駆(※1)だよ」


親というのはどうしてここまで小うるさいのだろう。

いうことすべてが僕の癇に障る。


 「マゲもあんなに角度をつけて」

 「じゃあ」


僕は逃げるように学園に向かった。

退屈な毎日の始まりだ。

のこったのこった。



(※1)羅瑠駆(らるく)

ビジュアル系力士集団であり、若者力士のファッションリーダー的部屋。リーダーは盃弩(はいど)。七色の廻しを履きこなし、マゲを金色に染めている。体重240kg、身長121cm。

★カペチーノ

家を出てすぐ、僕は忘れ物に気がついた。


「うっちゃりしてた!今日はソーイングの日か!」


急いで家に戻り、音を立てないようにドアを開けた。

親に気づかれると またあーだこーだとうるさいからな。



食堂の扉を少し開けそおっと中を覗くと、
父と母がまだそこにいた。

僕が出てからずっと言い争っていたようだ。


「近頃突然なのよ。なんであんな風になってしまったのかしら。」


肉団子を頬張った父が箸を置き、
口の中の肉団子をボロッとお椀に戻した。

「もういいじゃないかママ。」

父は箸を持ち、再び鍋の肉団子を頬張った。

「いいもんですか!この間なんて角の高砂さんちの子より細い廻しつけてたのよ!」

「まぁまあ、そういう時期なんだろ。」

「そんな時期ないわよ!それを注意した私にね、あの子なんて言ったと思う!?」

「なんだって。」

「『ああん?俺とやんのかよ?おめぇどこ部屋だよ!?』ですって!!
さすがの私も押し出してやろうかと思ったわよ!この家からね!!」

「はっはっは。かわいいもんじゃないか。」

「笑ってる場合じゃないわよ。
琴光の小琴光が、露になるかならないかの土俵際なのよ?」

「うむ。露になるのは感心せんな。」

「そうよ!それにあの子の部屋のカレンダー、
来週の日曜の欄にね[SUMOUフェス2010(※2)]って書いてあるのよ。
フェスよフェス!あの子がフェスに参戦するのよ!!」

「ほう、あの臆病者の琴光がフェス参戦か。いいじゃないか。」

「よくないわよ!!痛風のあの子が、
モッシュやヘドバンに耐えられるわけないじゃない!」

「まぁまぁ。琴光は一学期の基本技の成績だって良かったし、大丈夫だろう。」


そう言いながら鍋に箸を伸ばし肉団子を取る父のお椀は、
口から出した肉団子でいっぱいになっていた。


今僕がいる事がばれたら大変なことになるな。

下手したらフェス参戦もおじゃんになりかねない。

仕方ない。
指ぬきは諦めて、今日はこのまま学園に向かおう・・・。


はぁ・・・また退屈な毎日の始まりか・・・。


のこったのこった。



(※2)SUMOUフェス 

盃弩(はいど)主催のV系力士による野外試合。
力士の技の動きや、行司の「のこったのこった」等の掛け声のリズムに合わせて、
観客力士が激しいモッシュやヘッドバンギングで盛り上げる。
出場力士が身につけている、派手な回し等のアイテムは
携帯電話やPCでリアルタイムに購入する事ができる。


★ヨシダテルミー

玄関を出ると、そこには無数の肉団子が転がっていた。


料理してる時に母のコントロールが狂って庭まで飛んだのか…

いや、勢いをつけて口から団子を吐き出し喜ぶ父の姿が容易に想像ついた。


「ちっ!行儀のわりぃ。
これじゃ、物言いがつくぞ?」


ぶつぶつ言いながら、肉団子を片付けようと手を伸ばすと、
誰かの手が伸びてきて、
肉団子の上にドバっとヨーグルトをかけられてしまった。


ニヤニヤしながら、ヨーグルトを持つその男は
毎朝一緒に登校している、同部屋の琴欧洲だった。


「はっけよ〜いブラザ〜!ごっつぇ〜ん!」

いつもの通りハイタッチをし
いつもの通り、手を繋いで通学しようとすると
欧洲は、パンと僕の手を払いのけ、
ドア付近に転がっている別の肉団子にドロリとヨーグルトをかけた。


「ブラザー?早く行かないと学園遅刻しちまうぜ?」


僕の物言いを聞いているのかいないのか

ニヤリと笑うと、欧洲は
僕の尻と廻しの間に挟まっていた肉団子に優しくヨーグルトをかけた。


さては今から全部の肉団子にヨーグルトをかける気だな…
ヨーグルトをスプーンでかき回す活発な手首の動きを見て悟った。

こいつは一度言い出したら聞かないブラザーだからな。

僕は仕方なく、付き合うことにした。



注意して見ると、色んなところに肉団子が挟まったり転がったりしていて

家の玄関から、学校への道へはもちろんのこと

僕の鉛筆に刺さっていたり

なんだか息苦しいと思ったら、僕の鼻の穴にも詰められていたり

よく見ると、うちの表札にも、達筆で「肉団子」と書かれていた。


そのすべての肉団子に、てきぱきと手際よくヨーグルトがかけられていく。



それにしても父め!

こんなに肉団子まみれにしやがって!

座布団飛んで来るどころじゃすまねぇぞ!

僕の気付かないうちに、どうやって鼻の穴に入れたんだろう
と考えながら、自分の指すべてに刺さっている肉団子を見つめた。

僕の足の指の間にも知らぬ間に肉団子が挟まってるし
ふと下を見ると、肉団子で、地面に花やら犬やらの絵が描かれている。

これほどまでに肉団子に深い愛情を持つ父を僕は誇りに思っていた。


「琴光がママのお腹の中にいる時な、
ママは女の子がいいって言っていたんだ。
ジイさんは男がいいって譲らなかった。
俺は肉団子ならどっちでもいいと思ったんだ」

わっはっはと笑いながら話してくれた父の言葉を思い出していた。



途中、肉団子と、僕の金星とを間違ってヨーグルトをかけられそうになるというアクシンデントもあったが
無事、すべてにかけ終わり

僕達は、やっと学園へ向かうことにした。


もちろんBGMは
関取ジャニ8のWONDER BOY(※3)さ。



「今日ソーイングの日だって覚えてたか?
指ぬき忘れちゃったよ」

僕の言葉を聞いた欧洲は
マゲに手をかけ
頭からベリっとはずし
中を開け
指ぬきを2つ出すと

ひとつを僕に手渡した。


欧洲のマゲは、小物入れになってる。
便利だよなー。
うっちゃり者の僕にはぴったりだな。

何度見ても羨ましい。




(※3)
関取ジャニ8のWONDER BOYより歌詞引用


さぁ行こうぜ俺とnew world
ハイタッチ交そうぜbrother
ついてこいbeautyなmyガール
hotなbodyでsweetのこった
この街一番の関取になるの
土俵からはみ出していこうぜ


★蓮池レオン

都立幕内学園。

通称トバク。


僕と琴欧洲はすり足(ビート)を刻みながら学園にようやく到達した。

所属部屋の前を通る。

既にホームルームが始まっているようで、親方の前頭番号を確認する声が聴こえた。

定刻を過ぎていて完全に遅刻だった。

僕と琴欧洲は顔を見合わせ頷きあい、静かに後ろの扉を開けた。


 「前頭2枚目、朝ノ海」

 「ごっつぁん」

 「前頭3枚目、朝乃若」

 「ごっつぁん」

 「前頭4枚目、魁皇」

 「ごっつぁんごっつぁん」

 「返事は一回にしろ」

 「ごっつ」

 「前頭5枚目」


僕の番号は7番目だ。

今日が遅刻扱いされてしまうと、今月で4回目となり生徒指導の親方に審議をかけられてしまう。

それだけはなんとか避けなければ、あとあと面倒な事になる。

僕は姿勢を低くし、小刻みにすり足(ビート)を重ね、親方に気づかれずにようやく席の前まで移動した。

他の力士はにやにやしていた。


 「前頭7枚目、琴光喜」

 「、ごっつぇん」

 「……うん? 琴光喜、いま来たのか?」

 「さっきからいましたけど」

 「なぜ着席していない?」


間に合わなかったのだ。

僕は机の椅子を手を当て腰掛けるところだった。


 「お前いま来たのか?」


親方の訝しげな声に、少し怒気が混じる。


 「あー、その」


汗が噴き出た。

少し色の薄い廻しが黒くにじんだ。


 「親方」

 「なんだ琴欧洲」

 「そいつ、ちゃんといましたよ」


涼しい顔をして席についたブラザーが助け舟を渡してくれた。

琴欧州はブルガリアからの転校力士なので、前頭番号が遅い。

僕が捕まっているときにこっそりと椅子に腰掛けたのだろう。


 「じゃあどうしていま座ってないんだ? なあ琴光喜」

 「あー、ていうか」


頭が白くなる。

気持ち的には、マゲが漫画のように逆立っていた。

琴欧洲が何でもない顔をして言う。


 「肉団子でも落としたんじゃないですか?」

 「なんだって?」

 「肉団子」


気付くと少し離れたところに肉団子が転がっていた。


 「琴光喜。これ、おまえのか?」

 「……ごっつ」


親方は巨体を揺らして近づき、その白味がかった肉団子を物々しくつまんでみせた。


 「おまえのか」


眼の奥を見られる。僕は睨むようにしてそれを返す。


 「ごっつぇん」


やがて親方は肉団子を僕の机の上に置き、教卓へもどっていった。


 「少し中断したがHRを続ける。前頭8枚目。鎖骨花」

 「ごっつぁん」

 「9枚目、死ノ接吻」 「ごっつぁん」 「10枚目、雪楠三昧」 「せっくす」「……」「……」


何事もないように装い心拍を抑えている僕の視界の隅に、サムズアップをした彼の顔が見えた。

助かったと視線を返し、小さく息を吐いた。


昼休み、僕と琴欧洲は席を並べた。


 「ブラザー。危なかったな」

 「欧洲。すまん、助かった」

 「なあに。お互い様」


琴欧洲はやいよやいよと僕の肩を叩いた。


 「テスト」

 「うん?」

 「テスト何点だった?」

 「あー」


僕は口を濁した。


 「今日返ってきただろ? 何点だったよ」

 「お前は?」

 「97点」

 「優等生」

 「イージーミス。『猫だまし』って書いたつもりが『猫ひろし』ってなってて」

 「泣けるな」

 「猫だけにな」

 「にゃーってな」

 「それで、琴光は?」


言いながら、欧洲が僕のテスト用紙に手を伸ばす。


 「おい、猫、よせ」


僕が猫の真似をしてじゃれ合いにいった一瞬の隙を見て、琴欧洲は凄まじい速度で僕にぶつかりをいれた。

油断していた僕に大砲のような重さの肩がぶつかり、体を中に入れられる。

しまったと思ったときには既に僕は宙を舞っていた。

容赦無いGにさらされ、僕と廻しが空中分解する。

リアルタイムのモザイク処理が追いつかず、僕は(試験管内で)生まれたままの姿となって天井の蛍光灯にたたきつけられた。

部屋内に土埃とともに転がり落ちる。

角界の若きブルガリア王は、猫を殺すのにも全力を尽くすのだ。



琴光鬼 0点。

廻しを装着し直し、琴欧洲の手元のテスト用紙をひったくる。

 「お前、また」

 「うるせえ」

 「いい名前じゃねえか。琴光喜」

 「そんなダセえ名前。角界でブレイクできねえよ」

 「琴光」

 「俺は鬼なんだよ。デスペニスネーム(※4)琴光鬼!」

 「琴光……」

 「俺は角界の鬼人になるんだ。欧洲。お前はいいよ。実力がある。強い。ドラゴンにさえ迫る強さだ」

 「ドラゴン? ああ、朝先輩か」

 「俺は俺のやり方で角界の、いや、宇宙のスターになってやる。ならなきゃいけねえんだよ」


バツの悪い表情を浮かべる彼に、僕はしばらく沈黙して軽く手を張ってみせた。


 「悪い。熱くなりすぎた」

 「ブラザー」



(※4)デスペニスネーム

四股名の意。この世で琴光喜だけが使う特殊な言葉。誰も理解ができない。


★カペチーノ


放課後、さっきの事があったせいか、
僕達はいつもより少し気まずい雰囲気で学園を後にした。


「もうすぐ…って言っても半年後だけど、節分だよなブラザー。」

「お…おうそうだな。豆まきの練習、しとかないとな。」

「Hey…」

「…Yeah」


お互い少し照れながらハイタッチをした。

「さてブラザー、気を取り直していつものように決め技バトル(※5)でも始めようぜメーン。」

「ごっつ ぇ〜〜ん。」


その時、
ドスドスという足音を立て、
誰かがこちらに向かってきた。


「こらー!琴光に琴欧洲勝紀ー!!まちなさーい!!」


「ちっ、内館か。」


内館は学園のアイドルだ。

見た目は妖怪だが、
この学園唯一の女力士という事で、
図々しくアイドルの座に君臨し続けているのだ。


女のくせに、口うるさくて態度もでかい。

前頭審議委員だかなんだか知らないが、

「相撲道の精神に反する!!」

とか古臭い事ばかり言って、とにかく生意気な女だ。


「ありえないっつうの!」

「ぁあん?」

「その腰まで下げた廻し!ありえないっつーーの!!!」


またその話か。
どいつもこいつも。


「こんにちは、牧子ちゃん。」

欧洲が得意のブルガリアンスマイルで笑いかける。


「こ…こんにちはじゃ…ないわよ!」


ちっ、こいつ照れやがって。


「琴欧洲勝紀からも言ってやってよ!
琴光の廻しと、このストラップ!
それにマゲの角度だって見れたもんじゃないっつうの!」


「うるせー!ヨーダみたいな顔しやがって!!」


「ヨーダですって!?私のどこが!?ありえないっつうの!」


「はん、威勢がいいな、なんなら俺の女にしてやってもいいぜ?」


「や…やめてよ!ありえないっつうの!」


そんな内館を見て、
欧洲がヨーグルトをかき混ぜながらニヤニヤしている。


「そういう牧子ちゃんだって、その小脇に抱えた重箱。」

「え、あ、これは…」

「それ、何が入ってるのかなぁ?」


欧洲は手の動きを加速させた。


「こ…これはその…」


牧子が恥ずかしそうに重箱の蓋を開け、一段ずつずらした。


「お前…全部肉団子じゃないか…」


「あ…ありえないっつうの…」



欧洲はヨーグルトをかき混ぜたまま、
はっけよいの体勢になった。


「内館、肉団子がスキなのか?」


「…ちょっと、ばっ…バカ!」

「何だよ急に!何がバカなんだよ!」

「ふん!鈍感!ありえないっつうの!」


今だ!と言わんばかりに、欧州は目を見開き地面を蹴った。

「はぁはぁ ごっつぁんですごっつぁんです はぁはぁ」


興奮しながら全ての肉団子にヨーグルトをかけ、
廻しを脱ごうとする欧洲に
内館が気付き「ヒイッ!」と声を震わせた。


「こらぁああ!琴欧洲勝紀ぃーーー!!

なにこれ!ありえないっつうの!

せっかくの肉団子が台無しじゃない!!!

あんた達二人共!!いい加減にしなさいよーー!

はっけよい・・・のこったぁあ!!!!!」



一瞬にして、僕達は廻しをつかまれてしまった。




「ま…牧子ちゃん落ち着いて…」

「お前、自分が何してるかわかってるのか…」



「ありえないっつうのうるさいっつうのだまれっつうの!!


自分のケツに手も届かない、クソデブどもがぁあああああ!!」



ぬぅあああぁぁあああ!!!!




次の瞬間、僕達は空にいた。


さっきとは比べ物にならないくらい強いG。

廻しも、ストラップも、まげも、
あらゆる場所に挟まっていた肉団子も、全てが体から離れた。

気流に乗った僕の廻しとストラップ、
それに欧洲の廻しやまげが、
激しくそして複雑に絡み合い、


船っぽい形になった。


露になった僕達は、
空に舞ったまま手を取り合い、
ふわりとそれに乗った。




なぁブラザー あの頃の夢の話 覚えているかい?


あぁブラザー 俺達はただ高く 土俵という名の空を 羽ばたきたかったんだ


見ろよブラザー 僕達が夢見た両国だ 


はっはっはっ あれが両国国技館か こんなに小さいとはなぁ


まるで消しゴムのようだねブラザー


ああ まるで消しゴムのようだなブラザー



※5 決め技バトル

相手にぶつかるかぶつからないか、ギリギリのところまで体を近づけ、
行事の「のこったのこった」等の掛け声に会わせて、
決め技を組み合わせた動きを相手に見せ付け威嚇する。
最後の決め技ポーズ終えた瞬間のドヤ顔が、
勝ち負けを大きく左右する、曖昧なバトル。


★ヨシダテルミー

「それでそれで?その後どうなったの?」

「二人はどうなっちゃったの?」

孫達のキラキラした目がわしを覗き込む。


「で?バアちゃんはどっちが好きだったの?」

「はあ!?ありえないんじゃっつうの!
わしが好きなのはジイさんだけじゃったんじゃっつうの!」



琴光も琴欧洲勝紀も
そのまま戻ってくることはなかった。


わしは自分を憎んだ。

自分の怪力と、
2人を宙に放り投げてしまった
あの時のテンションを。
だって恥ずかしかったんじゃもの。


戻って来ない2人を思って自分を責めたことも
自暴自棄に陥って、
酒、タバコ、ギャンブル、ロックンロール、
フォークリフト・移動式クレーンなど各種技能の取得に
走ったこともあった。


そんな時、わしに手を差し伸べてくれたのが

朝先輩じゃった。


わしの花道を飾ってくださって
やっぱり朝先輩に愛されてたんだなと。
フフ
でも残念ながら
横綱、それは片想いよ

それは片想いよっつうの。


色々あったけど、

人並みに努力もして
人並みに涙も流し
人並みな幸せを手に入れた。


辛いこともたくさんあったけど

踏まれても踏まれても負けない
妖怪魂で、ここまでやってきた。



「ねえ、どうしてバアちゃんは男みたいなの?」
「どうしてバアちゃんの顔は溶けてるの?」

「溶けてないんじゃっつうの!ヨーダじゃないんじゃっつうの!」


こらー!と拳を振り上げると
孫達がキャーキャー嬉しそうに逃げていく。

何より幸せな、ごく普通の日常。



子供達が巣立ち

朝先輩が先に逝ってしまい

でもこうして、たまに孫達が遊びに来てくれる。

何を寂しいことがあるの?

それでいいじゃない。



朝先輩を愛し、相撲を愛し
それなりに愛されてきた。

何の不満があるの?



それでもいつも探してる。

何かを。

誰かを。



「バアちゃん、悲しいの?」

「バアちゃんの目、垂れ下がってて
頬の肉もだらしなくシワシワで
口元も野犬のそれだけど
どうしたの?悲しいことでもあったの?」

息子達と孫に何度心配されたか分からない。

ほっとっけっつうの。
それは生まれつきじゃよ。
生まれつき、こういう顔なんじゃよ。



枕元にいつも置いてある
大きな箱をひざの上に置いた。

ふたをゆっくり開け
琴光と琴欧洲勝紀が残した
廻しとまげとストラップを取り出した。

カラッカラに乾いた肉団子のカケラを、指先でコロコロ転がす。


「ふふ、こんなもの
こんなものに夢中になってたなんて ね。

大体これ、何の肉じゃっつうの!」




その瞬間、

強い G

ものすごく強い G


わしの心の廻しとまげを、何かの強い力が引っ張った。


ぐぬぬぬぅぅぅあああああ!!!


強いGで、そのまま空に投げ出された。


「顔が!!顔がぁぁ!溶けてしまうぅぅうう!!
いや生まれつきこの顔じゃったぁぁぁああああ!」



う、うう〜ん


大気圏を越え
気がついたら宇宙に放り出されていた。


「…メ〜〜ン」

遠くから懐かしい声が聞こえる。




「次は、土俵殺し(※6)で結着つけようぜ」

「のぞむところだブラザー!」

「はっけよーい、のこった」

「めんめん!めんめんメ〜〜ン!」

「ごっつ えんえんエ〜〜〜ン」



…あ、あんた達!!!


呆然と立ち尽くすわしに気付いた2人が
あの頃となにひとつ変わらない調子で軽く手を振る。



「牧子ちゃん!早くこっちおいでよ」

「お前が行事してくれねーとはじまらねぇよ」



おかえりなさい、2人とも。


またルール無用のバカ相撲を取ろうとしているバカ達。
まったく!勝てばいいってもんじゃないんだからね。



視界を邪魔する涙を、片手でグイっと拭うと

2人の元に走った。



「…ほんっとにあんた達は…

ありえないっつうの!!!」





〜閉幕〜


※6 土俵殺し

とにかく土俵から早く出た方が勝ちという
琴光が考えた新相撲。
お互いに尻と尻をぴったりくっつけ
通常とは逆向きに構えた形をスタートとする。

コメント(27)

すごいー!やっぱりひとつもブレてない!!
ピシャってしてる!!おもしろい〜!!
最初はいらっとした「ありえないっつうの!!!」が最後は切なくなりました!

ごっつぇんでした!一票!
ありえないはずなのに脳内再生できちゃいましたww
一票です!w
肉団子が食べたくなりました。一票。
らしいです。名前見なくても誰が書いたかわかるっていうかんじでらしいです。
面白かったです。
「ごっつぇ〜ん!」を今後日常生活に取り入れていきたいと思いました。
なにかと面白かったです!
楽しくも、切なくもなる良い話でした!

一票!!

お父さんの肉団子待ち発言には思わず肉団子を吹いてしまいました

1肉です
最後は立って読みました。
スタンディングオベーションです一票です
牧子ちゃんにキュン萌えてしまった。
ありえないっつうの!!!
※のハードルがどんどん上がっていくのに、ことごとく面白くてびっくりしました!

一票!
何回も何回も読み返したいです!!一票です。
この3人が書いて面白くないわけがない。
ごっつぇんからアウトでした。
勝紀に一票
あぁぁーーー!!やっぱりすごいです!!一票です!!
スゴイ豪華!当然のように面白かったです!なんかお腹いっぱいになりました!
一票です☆
大笑いだよ!チキショウ!!!

せっかく寝かしつけた赤子が起きちゃったよ!チキショウ!!

来年のオートバックスのCMが見えました。一票です。

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