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ワライアル★自己紹介よろコミュの口癖  正直、本当な話

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僕は学生時代、ファミリーレストランでアルバイトをしていた。

大学前に店を構えていたせいもあり、暇な学生が『山盛りポテトフライ』を狂ったように注文し続ける、

そんなお芋レストランだった。

アルバイトは、キッチンとホール、デリバリーに分かれていて、僕はキッチンスタッフをしていた。

社交性(※)を母の胎内に置き忘れたような惨めな性分を授かった僕だけれど、

幸いなことに仲の良い後輩もでき、いま思えば毎日を有意義に過ごしていた。



(※)母の胎内に置き忘れた社交性

のちに弟が拾った。
弟は中学校ですでに彼女がいた。何が何だかわからなかった。




その日も、僕はファミリーレストランでアルバイトをしていた。

キッチンには僕と後輩しかいなく、のんびりと料理を作っていた。


 「そういえば先輩」

 「うん?」


後輩がハンバーグを焼きながら言う。


 「先輩、デリバリーはもう慣れましたか?」

 「慣れない。キッチンのほうが楽しい」


つい先日から、僕はデリバリースタッフも兼任するようになっていた。

デリバリー要員が不足していたらしい。

NOと言えない黄色人種(亀頭はもちろん淡いピンク)の僕は、

店長の暴力的ともいえる苛烈な依頼を断ることができなかったのだ。


 「デリバリーには向いていない。まず道がわからない」

 「確かに」

 「このあたりに住んで一年になるけれど、デリバリー区全域はさすがに覚えられないよ」

 「僕ら他県の人間ですからね」

 「うむ。あと料理渡すとき」

 「はい」

 「噛むんだよ。料理名を」

 「先輩の舌、滑らかじゃないですからね」

 「滑舌悪いってことをオブラートに隠したのかもしれないけど、わかるからね」


後輩はハンバーグを慣れた手つきで裏返した。


 「ファミリーセットってあるじゃん」

 「あの面倒なやつですか」

 「その時も、商品持って行ったんだよ。お客さんに」

 「はい」

 「普通、『ファミリーセットお持ちしました』って言うじゃん」

 「はい」

 「噛んでさ」

 「どうなったんですか」

 「『ファブブブブブブ』って言った」

 「パネエっすね」

 「噛んだ瞬間に噛んだって分かった。でも止まらなかった」

 「先輩の『ブ暴走』パネエっすね」

 「もう『ブ』で世界の果てまで行ったれって気になって、行ける所まで言った」


後輩はコンベアオーブンで流れてきたハンバーグを取り、デミグラスソースをかけた。


 「それで、どうなったんですか?」

 「どうもなってないよ。お客さんに怪訝な顔されて、下向いて帰ってきた」

 「それは恥ずかしかったですね」

 「デリバリー苦手なんだよ」

 「先輩、しゃべるのはいいですけど、手動かしてくださいね」

 「ごめん」



それからしばらくして、僕らはシフト通りにあがった。

ふたりで休憩室に戻り、賄い食の『蓮池スペリオル(※)』という非公式メニューを食べていた。


(※)蓮池スペリオル

オムライスの卵とチキンライスの間に、これでもかというほど唐揚げを詰め隠すステルスメニュー。店長にばれると尻を蹴られる。



僕らがやんよやんよと食事をしていると、デリバリースタッフの先輩が帰ってきた。


 「おー、お疲れさん」

 「山岸さん、お疲れ様です」 「お疲れ様です」


デリバリー古参スタッフの山岸さんは、ヘルメットを大仰に机に載せて煙草を吸った。


 「山岸さん、遅かったですね」

 「おう、なんか道込んでてな。堪らんで、正味ホンマ」

 「もう一件デリバリーの注文入ってましたよ」

 「ホンマ? 時間やばい?」

 「いま料理できたばっかりなんで、まだ大丈夫じゃないですかね」

 「これ吸ったらいくわ」


休憩室で3人。

僕と後輩は無言で夕食を食べた。

一服を終えた山岸さんが芝居がかった仕草でヘルメットをつかんで配達に向かう背中を見て、

後輩が話しかけてきた。


 「山岸さん、よく働きますね」

 「うん」

 「山岸さんに教えてもらったらいいじゃないですか?」

 「うん?」

 「デリバリーのコツとか」

 「うーん。山岸さんかあ」


僕らは当時大学生だったのだけれど、山岸さんは30歳を少し過ぎたあたりだった。

大らかでいい人なのだが、年齢の差と古参特有の不可侵オーラなどがいろいろ邪魔をして、

距離感がつかめず僕らは上手く親しくなれずにいた。

髪は長く茶髪で、ずんぐりとした体形で、そして山岸さんは必要以上にブタ鼻だった。



 「山岸さん、ずっとアルバイトしていくのかな」

 「どうなんでしょう」

 「30過ぎてるんだよね」

 「過ぎてますね」

 「悪いことじゃないけれどね」

 「悪くないです。ブタ鼻ですけど、山岸さん悪くない」

 「まわりみんな大学生なのになあ」

 「どう思ってるんですかね」

 「今後どうするんだろう」

 「なんか、将来の夢とか前語ってましたよ」

 「まじで? 自分に?」

 「いえ、ホールの女の子にです」

 「女の子好きだよね」

 「女の子いると、たばこの吸い方がワイルドになりますよね」

 「なるなる」

 「この前、たばこ吸いながら女の子に向かって『もうこんな時間だ。お譲ちゃん、早く寝な』っていってましたよ」

 「まじで? ポルコ・ロッソじゃん」

 「紅の山岸ですね。するとあの鼻はまさか」

 「間違いない。呪いだな」

 「するとデリバリーバイクはまさか」

 「間違いない。飛行挺だな」

 「するとここはまさか」

 「間違いない。ここはホテル・アドリアーノ!」

 「カッコいいとは?」

 「「ああいうことさ!!」」


僕らはけらけらと笑い合い、紅の豚の主題歌をうたった。 

良き時代の残滓。



一通りふざけ合った。

引き笑いから復帰した後輩が帰り支度を始めた。

僕もそれにならってエプロンを外す。


 「あ、そういえば先輩」

 「イタリア空軍への入隊でも決意したの?」

 「山岸さんの口癖って知ってます?」

 「口癖? しらない」

 「よく『正味ホンマ』って言いますよ」

 「へええ」

 「今度意識してみてくださいよ。絶対にいいますから」

 「うん。わかった」


そう言って、後輩は僕より少し先に帰った。

僕も山岸さんがデリバリーから帰ってこないうちに、そそくさと着替えをして夜道を独り、

イタリア空軍になった気分で疾走した。



数日後、偶然にもこの前と同じような状況がやってきた。

休憩室には僕と後輩と山岸さん。

幸いなことに、デリバリーの注文は入っておらず、お互いにしばらく時間がある。

後輩の目配せに小さくうなずいて、僕は思い切って山岸さんに話しかけた。


 「山岸さん」

 「おう」

 「僕、最近デリバリーやってるんですけど」

 「おう、あれな。忙しい時とか助かってるで、正味ホンマ」


 (言った! さっそく言った! ものの10秒で言った!!)


僕は無意味に歓喜し、笑いをこらえるために下唇をかんだ。

後輩は太ももをつねっていた。

本来ならもうこの段階で会話の目的は達せられたので、

もうこれ以降の会話にはすべて『でも結局、鼻だけは人間に戻れなかったんですよね』と返してもよかったのだが、

僕も欲が出てきてしまって、あと数回『正味ホンマ』というフレーズを聞き出そうと思っていた。

あわよくば、10回くらい聞いて1upくらいしようと思っていた。


 「それで山岸さん。いろいろと教えて欲しいんですけど」

 「おう。なんでもええで」


山岸さんは基本的にいい人なので、僕ら後輩の頼みにいろいろと応えてくれる。


 「山岸さん、いつからここで働いてるんですか?」

 「うーん、5年くらい前かな」

 「まじっすか。そんなにっすか。すごいですね」

 「俺がデリバリースタッフ第一号やねん。教えてくれる人がおらんで、正味ホンマ大変やったわ」


 (まじかよ。入れ食いじゃねえか)



 早くも2ポイント獲得。1upが見えてきた。来世にへの期待が高まる。


 「それで――
 「そこからずっとやってるなんて、凄いですねー」


後輩だ。

何故か後輩が合いの手を入れ出してきた。

顔を見る。


 (こいつ……、まさかお前も)


間違いなかった。

後輩も面白がって、山岸さんからあらん限りの『正味ホンマ』を聞き出そうとしているのだ。

そしてあわよくば1upを狙っているのだ。

僕は闘争心に震えた。


後輩はたたみ掛けるように山岸さんに笑顔で話しかける。


 「でも、そこからほぼ独りでやってきて、大変なこととかたくさんあったんじゃないですか?」

 「いや、正味ホンマな、いろいろあったで。ずっとやってきてるからな、正味、ホンマ」


まさかの2コンボ。

あっという間に逆転を許した僕は、後輩をじらりと睨めつける。

後輩は涼しい顔して、熱心に山岸さんの熱い言葉に耳を傾けるふりをした。

そしてうまく合いの手を入れ、着実に『正味ホンマポイント』を奪い取っていく。

その後輩の話術は思いのほか洗練されていて、僕が言葉を刺す隙を一切と与えてくれない。

今度は悔しさの意味で僕は下唇を噛んだ。


気がつけば後輩は急ぎすぎもせず堅実に話を聞き出し、『4正味ホンマポイント』を獲得していた。

後輩がせせら笑いを浮かべた。


 (先輩もどうですか?)


目で僕にそう蔑んだ。

僕は噴き上がる怒りを鎮め、焦るように山岸さんに向かって、


 「山岸さん、紅の豚好きですか?」

 「ふつう」


意味のない質問をした。

0ポイント。

視界がにじんだ。


会話が途切れかけた瞬間、ここぞといわんばかりに後輩が的確な質問を投げかけた。

山岸さんも気分を良くしたのか、後輩には嬉々として『正味ホンマポイント』を大盤振る舞いした。

それを空中でいとも簡単にキャッチする後輩のほくそ笑みに、僕は心の中で機関銃を掃射した。


カウントするところ、後輩はすでに8〜9のポイントを奪取していた。

途中何度か僕も会話の軸を変えようと様々な角度からちゃちゃを入れたが、

山岸さんがエクスタシーに達しているのではないかと思えるほど気持よく話を続けるので、

もうどうすることもできない状態に仕上がってしまっていた。


そして後輩が急に手綱を手放した。

どうです? 最後に悪あがきでもしませんか? とでも言いたげな、妖しげな目線をくれた。

こなくそといきり立った僕は再び闘志を再燃させた。

今度は計画を練った。

そもそも、僕と山岸さんは同じデリバリースタッフなのだ。

後輩が知りえない、デリバリースタッフならではの苦労話か何かをして、ふたりして盛り上がり、

最終的に尻小玉でも引っこ抜くくらいの勢いで『正味ホンマポイント』を獲得して見せればいいのだ。

僕は戦略を立てて切りだした。


 「山岸先輩」

 「おう」

 「デリバリーの時、ファブブブブブ」


噛んだ。

0ポイント。

地球の地軸爆発しろ。



僕はやけになり、後輩が動きを見せる前に再び猛アプローチを開始した。


 「山岸さん! 山岸さんっていまおいくつでしたっけ?」

 「今年で32だな」

 「その、今後どうするんですか?」


言った自身が目を見開いた。

僕は何を聞いているんだろう。何を聞いてしまったんだろう。

僕みたいな年下が気軽に聞いていいことではない。

にこにこしていた後輩もさっと表情を変え、息をのんだ。


山岸さんは答えなかった。

僕をじっと見ている。

場の温度が下がった。

怒られると緊張していた僕に、けれど山岸さんは静かに語り出した。


 「正味ホンマな、俺もよく考えんねん、それ。いや、正味ホンマの話な。俺ももう、32やから、正味ホンマに今後のこととかもっと真剣に考えないかんと思ってん、いや、正味ホンマやで?ただ、ホンマの話すると、正味な、俺も夢があってな。正味ホンマ、ビッグになりたいねん。ビッグになりたいねん、正味ホンマ。正味、別になんでもええねん、ホンマに。俺が、正味ホンマにやりたいことだけやって、その行くつく先で、ビッグになりたいと思ってんねん。正味ホンマな、甘いかもしれんで。ただ、正味ホンマ今の生活を続けられるところまで続けていきたいねん。正味な、これホンマに」


ミラクルが起きた。

壊れた自動販売機よろしく、山岸さんの口から狂ったように『正味ホンマ』がバリエーション豊かに溢れだしたのだ。

笑うどころかあっけにとられて、僕と後輩は口をあけて聞いていた。


それからすぐにデリバリーの注文が入り、山岸さんは配達に出かけた。

僕と後輩は複雑な顔をして互いに少しだけ笑った。


 「ね、先輩。言ってたでしょ」

 「うん。でも少し悪いことをしたのかもしれない」

 「そうですね。でも山岸さん、凄く楽しそうでしたよ」

 「本当に?」

 「山岸さん、みんなと年齢が少し離れているじゃないですか。だから、いろいろ話せて満足そうな顔してましたよ」

 「そうだといい」

 「そうですよ」

 「1upは結局しなかった」

 「1upってなんですか?」


僕と後輩は帰り支度を始めた。

お疲れ様でした、という後輩に、ふと気になり僕は声をかけた。


 「そういえば」

 「はい」

 「山岸さんて、関西の出身?」

 「なんでですか?」

 「こてこての関西弁、ぽいしゃべり方」

 「ぽい?」

 「微妙にアクセントが違う」

 「山岸さん、出身横浜ですよ」

 「まじで?」

 「だからあれ、エセ関西弁ですよ」

 「あー、たまにいるよね、そういう人」

 「正味ホンマに」


僕らは笑い合った。

正味ホンマに、わいわいと。

コメント(31)

一票わーい(嬉しい顔)
紅の山岸に笑いました電球
最後、ちょっとせつなくなった涙
正味ホンマのラストスパート凄かったです。ディープインパクトかと思いました

一票です
関西の人間ですが「正味ホンマ」なんて1回も使ったことありません。正味ホンマに。

一票です!
正味ってなんなんですかね。正味ホンマ。
正味ホンマ山岸さんの今後が正味ホンマ気になりますわー。

一票です。
僕の中の名探偵がいまだに「場所はガストだな!」と睨んでいます。

面白かったです!一票
正味ホンマという言葉を見すぎて正味の読み方が分からなくなりました。

一票です!!
やっばいウケたwww
ポルコ・ロッソーーー!!www

ガストの山盛りポテトフライ、大好きです!!

一票ぴかぴか(新しい)


正味って、実質って意味だから「正味ホンマ」って同じ意味の事繰り返してるんですよねwwうれしい顔

ホンマ祭りにいっぴょーうれしい顔
面白かったです(≧〜≦))ププッ

一票人差し指

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