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人と自然コミュの「銃・病原菌・鉄」・・・さよなら狩猟採集民

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◎「銃・病原菌・鉄」(上・下)草思社文庫 各¥900+税

 2012年2月に文庫になったので購入できました。単行本の時から注目していたのですが、ちょっと手が届かなかったんです。購入した時には、上8刷、下6刷ですから読まれているのだと思います。それぞれ400ページ近い長い本です。
 タイトルから想像できるように、16世紀に南アメリカのインカ帝国をスペイン軍がわずか168名の軍で滅ぼした、このような現象を説明しようという壮大な試みの本です。「古代文明」や先住民族はなぜ滅んだのか。タイトルのような武器を持つ文明の勝利と言った簡単な理由付けではありません。

 まず上巻です。狩猟採集民がどのようにして農耕民、牧畜民になっていったかが各地の例を挙げて書かれています。狩猟採集生活は食べ物の確保に労力がかかりすぎて「余裕」がありませんが、農耕になると貯蔵が可能になるし、農耕に関わらないで済む人の分も生産できるようになり、そこから鉄器の開発を含む技術「文明の利器」を作り出して、先住民・狩猟採集民よりも優位に立った、との説明です。また、牧畜民が馬を戦争の道具に使うようになると、戦力の差は更に顕著になります。農耕への移動は一様ではなくて、気候環境によって様々だが、ユーラシア大陸のように緯度が変わらない東西へは素早く伝搬するが、アフリカ大陸、南北アメリカ大陸など南北には緯度の変化に阻まれて、なかなか伝搬しない。採集した野生種からタネを集めて、それを農耕に利用し、野生動物を家畜化して牧畜が始まるわけだが、世界の地域により、自生している植物は様々であって、農耕や牧畜に適した野生植物、野生動物の種類が(たとえば、南北米・アフリカに)少ない、などの「自然条件」の差が後々の文明発達の要因であるらしい。人種に能力的差があるわけでなく、環境条件の歴史的積み重ねが文明の差に繋がっているのだと納得できる。

 銃や鉄の説明はほとんどなく、「病原菌」の説明が始まったばかり。家畜から感染する病原菌に、免疫を持つ文明人が先住民に接触すると、先住民は免疫を持たないので交流があるだけで滅びてしまう例がある。


 下巻。言語と文字の考察。言語については複雑で読みにくい。文字は支配の道具として、まず書記官などに使われた。納税品としての農産品、家畜数などの記録である。国内で今でも発見される「木簡」には租税の記録が有ることが多い。文字が伝来した初期には決して短歌やつぶやきの記録などはない。
 農耕が始まると、定住化が進み、小規模血縁集団社会から部族社会、首長社会そして国家へと進む。ここで、ニューギニアとオーストラリアのアボリジニの歴史が書かれていて、その大陸の気候・環境にはアボリジニの狩猟採集生活が最適だったと説明される。イサベラ・バードの「日本紀行」でアイヌの詳しい歴史を読んだことが思い出されるが、この本にはアイヌの記述は無いが、アイヌもアボリジニも温和な人たちの印象を受ける。狩猟採集民は移動生活なので、様々な制約があり、食糧確保にほとんどの労力と時間が費やされる。持ち物も最小限。集団化も進まないし、技術開発も伝搬の機会も少なかったが、農耕民の進出により、滅ぼされるか、消えていく。このあたり、日本国内での定住狩猟採集民から農耕民への変遷はどうだったのか。他民族からの支配ではなくて、自民族が狩猟採集から農耕へも替わっていった例ではないだろうか。少し前に「ヤノマミ」(ブラジル・アマゾン奥地で原始生活を続ける民族のルポ)を読んだのだけれど、今や狩猟採集民は化石的な存在になってしまっている。

 書かれているすべてのテーマに関心があるわけではないので、粗雑な読み方をした箇所もあるし、個人的には、先住民の暮らしに留意してきたので、そういう部分は興味を十分満たしてくれたが、狩猟採集民の滅亡、欧州人の征服は「戦い」でもあるので、読みづらいものがある。欧州人の優越人種観は間違いであり、どの民族も優劣などはなく、すべては環境要因が現在の結果を生んだというのが、本書の一貫した主張でもある。一方で銃を採用しなかった日本や、弓矢を使わなかったアボリジニのような例も希になるようだ。暑いシーズンでもあり、なかなか読み続けることができず、2ヶ月近くかかってしまい、印象もぼんやりしたものになってしまいました。文明度が高い地域・国家・民族ほど勝ち残っていく・・・というのが本書を含めて、これまでの史観であったと思われるが、まだ人類がコントロールできない技術に突き進んだために起こったフクシマ原発事故がその史観に修正を迫るのかどうか、私たちがそういう高度な危険な文明の中にいることに人々はようやく気づき始めたのではないだろうか。

(2012年8月28日)

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