ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

あいだーぬんリレー小説コミュのfar east samba (個)

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
「ごめんなさい、実は他に付き合っている人がいるの」

 最悪な土曜日だ。五年。五年付き合った彼女にしたプロポーズ。その結果がこれか。
 カラン。歪な氷がグラスの中で音を立てる。空になったグラスを見つめながら思う。何がいけなかったんだろうか
「最悪ね」
 カウンターの端に座った女がこっちを見ている。
「最悪の表情。まるで世界で一番不幸なのは自分だって言ってるみたい」
 偉そうになんなんだ、この女は。
「不幸じゃいけないか」
「っていうより、不幸なのはいいけど、不幸そうな顔をするのはダメ」
 女は一本に縛った長い髪を指で遊びながらそう言った。
「じゃあ、どういう顔をすればいいんだい? 笑えって言うのか?」
「そうよ」
 女ははっきりと言い放った。
「でも、無理に笑うのはダメ。不幸でも心から笑わなきゃ」
「不幸なのにか?」
「不幸なのによ」
「フッ」 
 なんだかおかしくなってきた。ここまでムチャを言われると帰って笑える。
「その顔」
「え?」
「今、一瞬だけすごくいい顔したわ」
 言いながら女は隣りのイスに座る。
「そうか?」
「不幸でも笑えるでしょ?」
「そうかもな」
 不思議な女だ。少しだけ鬱蒼とした気が紛れた気がする。
「ありがとう。少し気分が晴れたよ」
 女はニコッとする。こうして見ると、結構可愛い顔をしている。
 女は突然俺の手を握ってきた。
「ね、もっとスカッとした気分になりたくない?」
「え?」
 まさか、高価な壺でも買わされるんじゃないだろうか。
「いや、俺は」
「行きましょ。いい所があるの」
 女は勘定を済ませると、俺の手を掴んだまま店を出た。
「いや、だから」
「すぐそこだから」 
 そう言って連れて来られたのは明かりの消えたボロいビルだった。しまった、宗教の勧誘か?
「さ、入りましょ」
「いや、待て、俺は―」
 たまには俺の話しを聞いてくれ。とも言えないまま、俺はビルの一室に連れてこられた。何もない部屋だ。何枚も並べられた大きなはめ込み窓から差し込む月の光が部屋全体を照らしている。
「じゃあ、始めましょうか」
 そう言うと、女は上着を脱いだ。まさか、ここで抱けと言うのか? 流石にそれは― 嬉しい。傷心の心を埋めるには新しい恋が必要ということか。なるほど、賛成だ。
 俺も上着を脱ごうとすると、女は音楽をかけ始めた。なるほど、確かにムードは大切だ。しかし―。
「ちょっと曲が騒がし過ぎやしないか?」
「それはそうよ。サンバだもの」
「サンバ?」
 サンバっていうとアレか? リオのカーニバルの。
「さ、踊りましょ」
「お、踊る?」
「そ、サンバだもの」
「踊るって言われても、サンバなんて…」
「リズムに合わせて好きな様に体を動かせばいいのよ」
 そう言って彼女は踊り出した。月の光しか届かない部屋で踊る彼女をただ眺めていた。いつしか音が頭から離れていく。時がゆっくりと流れていく。彼女の汗がゆっくりと舞う。そしていつしか、彼女をずっと見ていたいと思う自分に気付いた。彼女はただ、綺麗だった。
 彼女の動きが止まった時、始めて曲が終わったのだと気付いた。思わず力強く拍手をする。
「すごい! 感動したよ! なんて楽しそうに踊るんだ。見ていて羨ましくなる」
「だったら、アナタも一緒に踊りましょ」
「いや、それは…」
 正直、あんなダンスを見せられた後では踊り難い。
「踊りなんて下手でもいいの。思うがまま、感じたままに踊ればいい。それがサンバだと私は思ってる」
「思うがまま、感じたままに…」
「さ、踊りましょ」
 そう言って俺の手を引っ張る彼女はとても綺麗だった。とても愛らしかった。
 それからどれくらいの間だろう。俺達はただひたすら踊った。いつぶりだろう? 汗をかくことがこんなにも楽しいと感じたのは。
 俺は彼女に恋をした。彼女と一緒にいたい。
 そう思って彼女を抱き締めようとした瞬間、彼女は胸を押さえて膝ま付いた。
「ど、どうした? どこか痛いのか?」
 俺がそういうと、彼女は俺に笑顔を向けた。
「私ね、心臓が悪いの」
 なん―だって?
「心臓が悪いって、どんくらい悪いんだ?」
 動揺で声が震える。
「来週には死んじゃうくらい―かな」
 またも笑顔で彼女はそう言った。俺を笑顔にした彼女の笑顔、それは心を締め付ける程に悲しい笑顔だった。
「冗談だろ?」
 彼女は笑う。悲しい程に。その笑顔が俺に残酷な真実を告げる。
「そろそろ帰らなきゃ」
「待てよ!」
 彼女の腕を掴む。掴んで―どうする? 今彼女を引き止めたところで、彼女の命を救えるわけじゃない。俺に出来ることは何だ? 俺がしたいことは…。せめて―。
「来週、またここで会えないか?」
 彼女はコクンと頷いた。そして、俺は彼女をその場から見送った。
 彼女はどんな気持ちで俺を笑顔にしてくれたのだろうか。ホントは自分こそ苦しいのに。泣き出したい気分だろうに。



 次の土曜日。あの部屋で待っていると、彼女はちゃんと現われてくれた。痩せた。この薄暗い部屋でもよくわかる。
「伝えたいものがある。でも、それを言葉にはしない。だから感じて欲しい」
 彼女は静かに頷いた。それを確認して俺は音楽を流す。部屋に満ちる重々しい音。決して明るくはない。だが、決して暗いものでもない。情熱的なこの音楽と共にキミに伝えたい。
 きっとダンスとして見れたもんじゃないことはわかってる。それでも俺は踊り続けた。彼女から決して視線を逸らさぬまま。
「もしかしたら違うのかもしれない。けれど、キミを想いながら踊ったらこうなった。思うがまま―これが俺のサンバだ」
 手を差し延べると、彼女はちゃんと握り返してくれた。細い腕。唇を重ねると、彼女が如何に軽いかがわかる。
 今夜が最期というならそれでも構わない。ずっと二人で踊り続けよう。 薔薇よりも赤く燃え尽きるまで。昨日よりも愛し合う為に―。

コメント(6)

極東サンバです。
まだまだ拙い文章ですが、読んで頂けたらこれ幸いですあせあせ(飛び散る汗)
ブームだぁ(笑)

曲聞きながらだとイメージ倍増
t.A.K.uと俺を呼んでいただければ目の前で歌いますよ
そうそう!
ビミョーにデュエットしてる曲だから(笑)

ログインすると、みんなのコメントがもっと見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

あいだーぬんリレー小説 更新情報

あいだーぬんリレー小説のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング