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創作ストーリー『流転恐怖』コミュの第五十一話 『注文の多いファーストフード店』

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それはとある暗雲が立ちこめ、生暖かい風が吹きすさぶ日のこと。

 銀髪に白い服に白いスカートという全体的に白い少女は一枚の紙を手に古いビルの前に立っていた。紙には地図らしきものが乱雑に書き殴られており、彼女はそれと今いる場所を見比べる。

 地図にある目印はビルやコンビニ、十字路など。それらを自分のいる位置から見渡せば、だいたい地図の通りに配置されていたから、間違いはないだろう。それでも本当に間違いがないかを彼女は何度となく確認をする。

 彼女自身、自分が方向音痴だというのを少なからず理解しているからということもあるが、それ以上に間違っているのではないかと思わせることがあったからだ。

メリー「……やっぱり、ここがここで間違ってないや。なんだろう、人がいっぱいいるけど……」

 そう呟いて、目的のビルの中に溢れる人の群れを見渡す。誰もがピリピリとした雰囲気を放ち、肩が触れ合っただけでも爆発してしまいそうだった。

メリー「うぅ、なんでアルバイトの募集がこんなことになってるの?」

 その嘆きに答えるものはいるはずもない。ただただ、都会の乾いた風だけが通り過ぎるだけだった。

メリー「あうぅ、心細い、帰りたい、遊びたい、引きこもりたい、おやつ食べたい……」

 ぶつぶつと陰鬱な言葉を吐きながら、それでも仕方なさそうに彼女はアルバイト募集会場のビルへと足を踏み入れる。

ラジオ『……定委員会にて可決の見通しが…… と、速報です。現在、スピリチュアル・ハザードが発生したと思われる場所から30kmほど離れたところで発見された首なしの馬に乗った三人組はなおも暴走を続けており、ひゃっはーなどと奇声をあげながら東京方面へと駆けており……』

 人の多さのわりに室内はあまりに静かで、それほど大きくないラジオの音声もはっきりと聞こえていた。言葉数こそないが、既に会場に入っていた人間たちは無関心を装いながらも、警戒と敵意の入り交じった視線が彼女を穿つ。

メリー「はうっ! な、なんか睨まれてる? うぅ、やっぱり一人で受けるんじゃなかったかなぁ。でも、ライバルは少ないほうがいいって先輩が言ってたし。うぅ、でも……」

???「あれ? 君は…… やっぱりメリーこと、タイプライター君じゃないか」

 不安に押しつぶされそうな少女に他とは異なる声がかけられる。

メリー「せめて、ライバルになりえない知り合いがいたら…… って、え? 誰?」

??? 「ここだよ、ここ」

 そう言って人ごみから姿をひょっこりと現したのはライバルになり得ない知り合い…… もとい、GOROであった。

メリー「あ、いた」

GORO「え? なんだい、まるでライバルになりえない、倍率にまるで影響しないだろう知り合いにあったみたいなその笑顔は」

メリー「えへへ〜、わかりますか?」

GORO「いやあ、僕も丁度、君と同じ気持ちだからね。はははっ」

 そう言って笑みを浮かべあう二人の間には静かに火花が散るのだった。

メリー「それでサプリメントさんもアルバイトに来たんですか? ……無駄なのに」

GORO「あぁ、まあね。……君よりも可能性はあるけどね」

メリー「あれ、でもサプリメントさんには本職が……」

 と、そこまで言ったところで彼女は、はっと両手で口をつむぎ、視線をそらす。

メリー「ご、ごめんなさい! そうだよね、この不況だもんね。役にたたない人からリストラされるよね。どうしよう、平日に昼間に公園でブランコ乗ってる友達のお父さんを見つけたときみたいに気まずいよ。あうぅ、しかもこれからサプリメントさんこと、トラウマさんて呼ばなくちゃならないなんて辛すぎるよ! そうだ、まずはソアラちゃんとメルちゃんとママさんにこのことを知らせて、都市伝説とご近所に……。あー、やっぱりこういうのは先輩が一番好きそうな話題だから先輩に連絡しないと……」

トラウマさん「いや、違うからね。君の思っているようなことは何もないからね。あとトラウマさんなんて呼ばないでもらえる? なんか、新しい都市伝説みたいじゃないか」

メリー「いえ、いいんです。お互いに現実から逃げてちゃダメだと思うんです。リストラがなんだっていうんですか! 大丈夫、きっと再就職できますよ。この都市伝説『さとるくん』なんてどうですか? もう廃業寸前だけど、だからこそライバルもいなくて就職しやすいんじゃないかなって思います!」

トラウマさん「廃業寸前のに就職しても、すぐに無職に戻されるじゃないか! そもそもリストラもされてないから! 夏場以外は心霊系の仕事がないからアルバイトしてるだけだから!」

メリー「えー? そんなのつまんないじゃないですか! そんなのトラウマさんじゃないですよ!」

トラウマさん「なんで逆ギレされてるのさ?! あと、いい加減、トラウマさん呼ばわりはやめてくれるかい?」

メリー「えー? 仕方ないなぁ。そんなにサプリメントさんが気に入ってるならサプリメントさんにしておきますよ」

GORO「いや、別にサプリメントと呼ばれるのが好きじゃないんだけどね。それより、僕としては君がこんなところにいることのほうが興味深いね。ここは君のようなタイプライタークラスの都市伝説がくるような生ぬるい場所じゃないっていうのに」

メリー「そんなことないですよ。サプリメントさんが来れるようなところなんて、私なら楽勝ですよ?」

GORO「はっはっはっ!」

メリー「ふっふっふっ!」

 他のギスギスした空気さえも凌駕し、思わず引いてしまうほどの冷たく激しいぶつかり合いを見せる二人であった。

GORO「まあ君は倍率に関係ないとして、それ以外はまたかなりの猛者が集まったみたいだね」

メリー「猛者?」

GORO「知らないのかい? 数々のアルバイト募集会場に現れる謎の漢達を!」

メリー「そ、そんな強敵がいるんですか?!」

GORO「ああ、いるとも! 例えば…… そう、あそこの悪魔のような姿の男」

 GOROは人ごみの中にありながら、誰一人として近づけていない男を指さす。

梅菌マン「内定? はっ、そんなものに興味なんてないんでな。興味があるのは、ここに俺を満足させられるだけの奴はいるのかどうかだけだ!」

GORO「あれは感染者・梅菌マン。強い相手を強引に掘ることにしか喜びを見いだせない危険な男だ。彼にとってアルバイト募集会場なんて強敵をみつけるためのハッテン場にすぎない。前に狙われたときは生きた心地がしなかったよ」

メリー「狙われたことあるんですか……」

 ある意味、恐れられている梅菌マンの隣へ、何食わぬ顔をしてボロの服を着た骸骨のような男が擦り寄ってくる。

掘羅マン「さすがは梅菌の兄貴。まあ、あっしは他の参加者を掘って掘って掘りまくるだけですがね」

GORO「ま、まさか隣の骸骨姿の男は掘羅マンか?! 真夜中の貴公子の異名を持ち、強力なドリルで多くの犠牲者を生み出してきた危険な男だ。前に狙われたときは痔を覚悟したものさ」

メリー「なんで狙われてるんですか……」

梅菌仙人「なら、わしは面接官を掘るとするかのう」

 そんな彼らに和やかな笑みを向けながら梅菌マンに似た老人が、無数のうめき声が漏れるトイレから姿を現す。その瞬間、老人と梅菌マンたちとの間にいた人たちは一斉に道をあける。その様はまるで海を割ったモーゼのようだ。

GORO「くっ……! やはり奴もいたのか、感染源・梅菌仙人! 梅菌マンと掘羅マンを統べる怪人だ。前に狙われたときは、警察よりも先に病院に連絡を入れたものさ」

メリー「やっぱり狙われてるんですね。あとよくわからないけど、感染者と感染源の関係が気になるんですけど……」

 梅菌マン達の姿を目の当たりにして、会場内は静けさから一転してざわめき立つ。それも当然のことだろう。相手が相手なのだから。

 だが、そんな中でも平然とした漢達もいる。そう、彼らもまた梅菌マン達と肩を並べる猛者ということだ。

邪夢「パンが売れないなら、ファーストフード用のパンを作るまで。これも時代とはいえど、虚しいものだな」

GORO「ば、馬鹿な、あれは伝説のパン職人、邪夢おじさん! パン屋で生計をたてられなくなったのか……」

メリー「あれ? 今回はファーストフード用のパン製造の募集じゃなかったような」

拉麺男「漢は黙って残酷拉麺! 闘将・拉麺男!」

GORO「あ、あれは伝説のラーメン職人にして格闘家の闘将・拉麺男! ラーメン・二郎のバイトをクビにされたという噂は本当だったのか」

メリー「なんでラーメン職人がファーストフード店の面接に来てるんですか!」

ヤ無茶「もう無職なんて言わせないぜ。これからはフリーターだ!」

GORO「嘘だろ? あれは伝説のヘタレ職人、ヤ無茶じゃないか。まだ就職してなかったのか?!」

メリー「だからなんでヘタレ職人がファーストフード店の面接に…… と、いうか、ヘタレ職人ってなんですか?!」

口裂け女「スマイル0円? ふふっ、あはは! 私のスマイルがそんな安いわけないでしょうが」

GORO「あれは都市伝説『口裂け女』の長女か次女か三女! キャバクラに就職しにいったんじゃないのか?!」

メリー「なんかお店にでたら賠償請求されるんじゃ……」

???「う、うわーっ! た、助け……!」

 ざわめき立つ会場を更に荒立たせる悲鳴が響き渡る。

メリー「な、なに?!」

GORO「あ、あれは……!」

ドナルド「んー、犯バーガー四個分くらいかな?」

GORO「あ、あれは前回の試験で気に入った面接官を掘って失格になったドナルド・魔苦怒奈留奴。まさか、この採用試験にも出てるなんて。この試験、荒れるぞ……!」

 ドナルドはハンバーガー頭の警官を壁に埋め込んでいた。いわゆる証拠隠滅である。

ビッグ魔苦ポリス「や、やめ…… うわーっ!」

メリー「って、掘るどころから埋めてるんですけど?!」

GORO「埋められてるのはドナルドの悪行を諌めようとして闇に葬られたビック魔苦ポリスじゃないか。戻ってきたみたいだけど、また埋められるのか」

 ドナルドの参戦を知った参加者たちは一気に恐慌状態へと陥り、力ある者、臆さぬ者、逃げ遅れた者を除いて全てこの場を去っていった。

 メリーは一度こほんと咳払いをして、GOROへと尋ねる。

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