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kazooの小説家への道コミュの如月トオル ?

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如月 トオル

             2

 コマツの運転する車は思ったほど不快ではなかった。本人曰く「バイクが好きなんで」とのこと。クラッチがある事が共通するとはいえ、理由としては納得いかないオレではあるが結果が出ているので良しとした。
 事務所を出てすぐの駒沢通りを西へ西へと下る。青々とした銀杏並木を突き抜ける夕日が、ガンメタのボンネットに跳ね返り眩しい。もうすぐオリンピック公園が見えてくる頃か――目に映る風景にフケリながら影武者(運転手)の存在に感謝した。
「まだ真っ直ぐですか?」
「そおね。もぉちょっとね」
 楽だ。しかも楽しい。
「自分で運転しないだけでここまで景色が変わるのね」
「それ、僕もわかります。いいですよね助手席って。僕助手席大好きなんです。バイクの後ろもいいですよね、なんか電車の先頭みたいな感じなんですよね」
 ん?そぉはさせないよコマツ。今後ともしっかり運転よろしく頼むよ。
「あ〜ワカル。ワカルね〜」軽めに返事をしておいた。
「そこの信号右ね」
 オリンピック公園を過ぎた先の交差点を曲がり住宅街へ入る。曲がって曲がってたどり着いた、真白な漆喰塗りの壁が美しい一戸建の前で車を停めた。
「ここがクライアントの家ですか?」
「えっと。ちょっと待ってて」
 長くも無い後ろ髪にコマツの視線を感じながら車から降りた。漆喰塗りの家の脇にある路地を進み、公園の中の滑り台に登る。公園の奥は一段低くなっていて、その先にあるクライアントのお宅のガレージが見渡せる。
(帰るか…)
 ご主人の車があるときは基本的に電話をかけてはいけない約束になっている。今日のアポイントもそれありきなのだ。すなわちアポ取消の業務終了だ。ご主人がいたところで、言ってくれればどんな演技でもするつもりだがお客さんにとってはそんな問題ではないらしい。
「だめだ、今日は中止ね」
 車に戻ってコマツに伝えた。
「えー。何でですか?」
「色々あるみたいよ、お疲れ様でした〜」
 腑に落ちないコマツの顔を見て見ぬようにケツを叩き、その場を後に走り出した。

「さて、どぉしよっか?」
 しょぼくれるコマツに明るい声で話しかけてみた。
「はぁ」
 オクターヴは低い声で返してくる。分かり安すぎる落ち込み様だ。
「なんだよ〜。何で元気無い訳?」
「元気ですけど」
「うそつけ。何に期待してたのよ」
「いえ、期待というか…」
 ウザイ。あんまりウザイので一通り説明した。手前で車を停めた事、お客さんと暗黙の合図がある事。出来る限りそれっぽく。コマツが「探偵」の仕事に眼を輝かせているのに気づいていないワケじゃない。
「まじっすか?」
 説明が終わるのを待たずにコマツが上機嫌になったのは言うまでも無い。
「何て言うかあれですね、暗号ってヤツですね、すごいなあ」
 どの辺がすごいのか分からないがコマツに質問するのはやめておこう。何か思いついた風のそぶりをしながら携帯電話を取り出し、引っ越す前と変わらない番号をダイヤルする。
「もしもしまゆちゃん?」
 4回目のコールでまゆちゃんが出る。
「どおしたの?探偵さん」
「クライアントとのアポ中止になっちゃってさ、どんなかんじ?」
「どんなかんじって…こっちはどうもこうも無いけど。今日で荷崩し終わるワケもないし」
「そっか、じゃあ今日はもおやめようか。明日またがんばろう。まゆちゃん今日は?」
「ごめんなさい探偵さん。パーティの予定だった?さっきね、幼なじみから電話があってね、これから会いに行かないといけないの」
 幼なじみがどちらの性別か聞こうと思ったがやめた。野暮は決まって先行きが暗い。
「まあ残念だけどしかたないね。また近いうちにやろうよ」
「そおね、今日はコマツ君とふたりで歓迎会でもしてきて、第1回の。次はあたしも行くから」
「はいはい。じゃ、お疲れ様。気をつけて帰ってね、戸締りだけよろしく」
「お疲れ様」
「お疲れ様です!!」
 おっと。隣でコマツが叫んだ。コマツの大きな声にびっくりしている間にまゆちゃんの電話は切れていた。そして残ったのは満足そうなコマツの笑顔…オレも出来る限り笑ってみた。みたけども気持ちいい笑顔になってたかは自信がない。

「飲みいく?」
 まゆちゃんに言われたからってんでもないのだけど、コマツは今日は泊まっていくみたいだから飯がてらって事で。
「ハイ!」
 爽やか系の返事。
「そしたらとりあえず車事務所に戻そうか」
 まゆちゃんは免許こそ持ってはいるが、運転できないに等しい。一応マニュアルで免許は取ったらしいがその後はほとんど乗ってないみたいだ。「オートマでも乗れない自信があるわ」なんて言ってたっけ。ネガティブな自信に満ちた笑顔を見たのが初めてで笑ったのを思い出す。ともあれ6年前に事務所を開いてから、自分以外が運転する仕事の車に乗ったことが無かったから今の状況がとても新鮮だ。出世?なのかな。このままコマツに宇都宮まで行ってくれ!って言ったらこいつは行くのかな?餃子で乾杯できるかな?

 ジムニーを事務所の前の駐車場に収め、そのままふたりで駅前まで歩いた。
「トオルさん、どおして事務所引っ越したんですか?前の事務所とそんな離れてないですよね」
 歩き始めて1分くらい無言だった事にコマツに話しかけられて気づく。
「どうしてって…ああ、あれあれ」
 オレは足は止めず、後ろを向きながら見えなくなりそうな事務所が入っている建物を指差した。
「窓、カッコよくない?」
「窓?」
「窓。古い洋館みたいでカッコいいでしょ?」
 うちの建物は洋風の3階建てで、事務所があるのは2階の角。白い壁にオレンジ色の屋根を乗せた建物の、全ての窓枠が四角の上に分度器が乗っかったような形をしている。
「それだけ、ですか?」
「前に調査でこの辺来た時あってね、そん時に見つけたんだよね」
 質問に答えたつもりだったがコマツは「はぁ」と気の抜けた相槌を打ちオレの言葉の続きを待っていた。
「でね、気に入っちゃったってワケよ」
 付け足してみたが釈然としないみたいだった。
「ま、一目惚れってやつだよ。事務所がどこにあってもこの仕事変わらないしね」
「あ、そっか。そうですよね。お店じゃないですもんね」
 その後もコマツとどうでもいいような話しをしているうちに目的のお店に着いた。都立大学駅の手前のマンションの3階にあるバーだ。ここには引っ越してくる前からよく一人で飲みに来る。飲みに来るというか仕事を兼ねている時が半分なのだけど。お店の名前は「猿殴り」、7席あるカウンターと二人以上で囲むのは無理であろう小さなテーブルがひとつだけの小さなバーだ。
「よく来るんですか?」
「そおね、結構来るかも」
 お店まで上がる螺旋階段を上りながらコマツが聞いてくる。

 店の重い扉は少し小さめで入りにくい。暗い店内を進むと始めに出迎えるのが次元大介だ。スポットライトを浴びた次元大介の等身大のフィギアが片膝をつき、銃口をこちらに向けている。それから初まり、猿殴りの店内にはフィギアやら昔のおもちゃなんかが所狭しと並ぶ。明らかにバーとしての商業的なスペースよりも陳列棚的なそれの方が広い。
「あら、トオルちゃんいらっしゃい」
「おはよう、キッキ」
「引越し今日だっけ?もぉ終わったの?」
「荷崩し終わっちゃないけどね、ま、今日はとりあえずおしまい」
 オーナーのキッキは、お酒と次元をこよなく愛する女の子。女の子と言ってはみたがキッキが実のところ何歳なのかはオレも知らない。少なくともオレよりは上だとは思うがまだ聞いていない。
「どぉ?かっこよかったでしょ、あたしのダーリン」
 キッキはオレの後ろで猿殴りの中をジロジロと眺めるコマツを見つけた。
「やばいっすね、超かっこいいです!」
 目が飛び出そうだよ、コマツ。
「でっしょう。あれ?このコがこないだ話してた新人君?」
 オレとコマツは同時に無言でコクコクコクとうなづく。そうそうそう。
「あたしはキッキ。あなたは?」
「小松です」
「コマツね。じゃ、コマっちゃんね。ヨロシク。コマっちゃんもこぉいうの好きなんだ?」
「ハイ!大好きなんです」
 爽やかな返事をしてからもコマツは飾られているモノ達に夢中だ。時々歓声を上げながらかぶりついていた。
「良かったじゃないトオルちゃん、新人君と趣味まで一緒で」
「そおね、今の今まで知らなかったけどね。気が合うのかしらオレら」
 コマツは途中のフィギアに引っかかり、なかなかカウンターまで来れないみたいなのでオレはビールを頼むことにした。
「コマツもビールでいいのか?」
「あ、はいお願いします」
 

コメント(8)

4ヶ月以上かかってしまった…
みなさんにはもぉ忘れられてしまってるでしょうけど。
久しぶりに書いたので疲れたなぁ。なんて感想です。
あ。
アテクシ登場。
なんか照れるなぁ、いやはや。
店名最高気に入った!

素面の時にもう一回じっくり読んでみるわ。
>mayuちゃん
ありがと〜
そぉ言ってもらえると嬉しいワ。
また少し時間かかるかもしれないけどちゃんと書くからヨロシクね。

>キッキ
すまんキッキ。
実年齢より上の設定にしちまった…でもね、オレの中ではえらくいい女になってるからその辺で許してくれ。
キッキが主役の話も書くつもりよ。
猿殴り。ほんとにあったら結構いけるとオモワナイ?
わー♪やっと続きがよめたー!!
バー猿殴りでは何がお勧めなのかなー?
私の友人は沢山のおっかないホラー系(B級)フィギアに
囲まれてバーを経営。幸せそうです。
いいわね、趣味の店。

わたくし、ウーコはいつ出てくるのよん!!?
横浜編でお願いします。
>ウーコさん
ありがと。
猿殴りのお勧めは未定ですよ。緑茶梅酒?
でもね、ウーコさんの出番は決まってるのよ。もちっと先ね。まっててください。
お友達のお店は楽しそうね。バーにはお酒以外にもたのしめるところがあると行きやすいわね。
御帰りなさいませ☆
コメント書き忘れておりました。
続きはいつかなぁ。楽しみにしています♪
>tomoさん
お返事おそくなりました。
すっかりご無沙汰してしまったのに読んでくれてありがとう。
今日続きを頭の中で進めていたのですが、早く早く書きたくて書きたくて。
近いうちに書きますからね。また是非読んであげてくださいね。
でわでわ。

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