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清澄さんコミュのマテリアより(習作)

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ttp://music.goo.ne.jp/lyric/LYRUTND59245/index.html(歌詞のみ)
 





 礼拝堂にも似た鳥籠の中、止まり木の『かささぎ』は羽ばたき一つ零さずに、彼女をきつく見つめていた。
 アイリスの花を彷彿《ほうふつ》させる淡い頬の少女――
 閉じた上でも愛らしい曲線を象る瞼の少女、だ。
 
 
 
 晩鐘《ばんしょう》は遂に三度目を数え、寝室はかすかな寝息だけに支配された。
 薄く塗り重ねられた漆喰《しっくい》から滲む香。その広さとは対照的に、高く聳《そび》えた壁のせいで、一際小さく見える寝台と机と、背凭《もた》れにガラスが埋め込まれた丸い椅子。
 白い壁は降り注ぐ月の雫を浴びて尚、白く惑い、楕円形に刳《く》りぬかれた窓からは薄紫の夜空が見える。更に眼を凝らせば、垂直線と平行線で構築された鉄工場の輪郭までもが窺い知れた。
 四本に連なった煙突群は眠りを知らず、まるで死者の吐息のような白煙を夜もすがら吐き出し続けている。
 無論、かささぎ達が好き好む訳がなく、彼等の影を眺める機会も、今となってはもう殆どない。
 恐らく。けたたましい同胞の鳴き声は、二度とこの街に木霊する事はないのだろう。望郷と儚さにその羽根を震わせると、『かささぎ』はくるりと嘴《くちばし》を反転させた。
 アイリスの花を彷彿とさせる淡い頬の少女――月桂樹《げっけいじゅ》の彫刻があしらわれた豪奢《ごうしゃ》な天蓋《てんがい》の下で眠るマリベルは、鳥籠の『かささぎ』にメヌエルーシャという名を与えた、つまり『かささぎ』の主人だ。
 彼女が九歳を迎えたという秋の夜、メヌエルーシャはこの鳥籠と共に、ツヴァイクの一等地に建てられた高層アパートへと運ばれた。プレゼント、という単語を覚えたのもその時だった。
 マリベルは無口だったが、一握りの友達に対してのみは、まるで双子の魂でも秘めているかのように別人な一面を見せる不思議な少女でもあった。
 その事実に気付くまでメヌエルーシャは三日を要し、四日目の朝からは、マリベルの一握りの友達として、今もこうして二度目の秋を迎えている。
 それはとても誇らしいことだった。



 月は夜へと導かれ――
 開け放たれた窓から風が流れ込み、ふと、マリベルの小さな体躯が動いた。
 ひゅう、とした口笛みたいな音色に、ぶわっと羽毛を膨らませながらも、メヌエルーシャは傍観を選んだ。
 錆びた鉄の臭いが漂う。
 どうやら彼がやって来たらしい――歪んだ円形を、毛羽立った漆黒が覆った。その中心から一対の紅い光が見て取れた。まるで水飴に浸したばかりのように、ぬめりと光っていた。
 排水管から垂れ落ちる廃油のような流れで、にゅっと窓から姿を見せたのは、人影だった。
「こんばんわ、マリベル」
 真鍮製の窓枠に片手と膝を掛けたまま、人影は呟いた。低い嬌声だった。
「……こんばんわ、ティカロおじさん」
 骨のように細い指で瞼をぐしぐし擦りつつ、マリベルはベッドの上で身を起こした。幾恵にも重ねられたシルク地のシーツを捲り上げると、まだ夢心地に浮かんでいるかのような、兎角危なげな所作で縁から両足を放る。たったそれだけの動きで、不釣合いに大きなナイトドレスの裾が木板の床にふわりと広がった。
 まるで雪割の花弁のようだった。縁取られたレースが所々にすり解れている所以が、よく分かる。
 寝台に置かれた油さしを手に取るマリベルを見つめているのか、ティカロおじさんと呼ばれた人影は微動だにせず、窓辺に佇んだままだった。
 彼は、メヌエルーシャだけが知る、マリベルの――一握りであろう――友達である。
「もう眠ってしまっていたのかい。ごめんよ、マリベル」
 眼球と思わしき赤が、斜めに動く。
「いいえ……来てくれて、うれしいわ。ティカロおじさん」
 微笑んでいるかのような声音で、マリベルはマッチに灯した火を油さしへと滑らせた。焔が寝室を照らし出すと、夜空の白煙はすぐに霞んだ。
 広がった赤燈色、ぼやけた灯りに映し出された二人は、まるで鏡合わせに同じ表情をしていた。初めてのおめかしに見蕩れているかのような、うっとりとした笑みだった。
 いつものように、メヌエルーシャは羽根繕《づくろ》いの仕草から彼を盗み見た。
 どっしりとした、道化師のような男だ。禿げた頭部と良い、蜘蛛の巣にも似た細やかな皺と良い、熟れた果実のように巨大なしし鼻と良い、愛嬌に溢れた容姿であるものの、しかしその体格は不安という真綿をぎゅうぎゅうにつめ込んだかのように、大きく、屈強だった。
 濃紺のツナギを押し上げる胸板は厚く、例え背伸びをしてもマリベルの頭は彼の胸元にさえ届かない。ぎょろりと膨らんだ紅い眼は、仔細《しさい》な観察を要せずとも、血走っているのだと受け止められる。
 ティカロと呼ばれる大男とメヌエルーシャが出会ったのは、その名前を与えられて三日目の夜だった。
 彼が窓から姿を見せるのは、決まって三度目の晩鐘が鳴り終えた後で、七度の夜の全てをその漆黒のツナギで覆ったかと思えば、一月以上も現れない時期もあった。鉄工場に束の間の鎮魂を奏でる、まるで気紛れた凪にも似ていた。
「三日ぶりになるんだよね。マリベルに会えなくて、寂しかったよ」
 部屋に降り立った彼はまず、その場でメヌエルーシャを粘っこく一瞥した。薪《まき》のように太い腕が布地の影をつくる度、メヌエルーシャは羽毛の中に首を埋めた。
 分相応な『かささぎ』の振る舞いに、いくばくか気を良くしたのだろう。彼は満足気に腕を組み、山畑に佇む案山子《かかし》のように上半身を左右へ揺らすと、分厚い唇を笑みのかたちに開いた。
 鋭角に吊り上がった口角からは零れた水銀のような涎が見え隠れしていた。
「マリベルのペットは、いつもおりこうさんだね」
「ええ。メヌエルーシャは、じまんのともだちよ。おしゃべりじゃないもの」
 マリベルは言って、ぺたぺたと軽やかに床を踏み叩いた。空気を含んだレースの裾は緩慢に上下している。少女はそのまま抱きつくように彼の腰へしがみつくと、
「ティカロおじさん、今日はどんなおはなしをしてくれるの」
 問い掛けながら、ころりと首を傾けた。両親の前でさえ見せた事のない、愛らしい瞳の向け方だった。少なくともメヌエルーシャには、マリベルが彼と自分以外の前でそのような笑顔を浮かべた記憶がなかった。
 色素が薄く、柔らかなマリベルの髪を撫でながら、彼はもう一度だけメヌエルーシャを見やり、少女の方へ顎を傾けた。夜よりも暗い色に身を包んだ大男は、まるで幼子のように口元に手を添えると、声をもひそめて、言った。
「今日は、そうだね、金糸。金の糸のお話をしようか、マリベル」
「……金の糸」
 聞き返すマリベルに、彼は頷いた。「ああ、金の糸の、お話だ」
 まるで毛布を頭から被っているかのような内緒話、吐息の重ね方だった。
 ――彼等は『かささぎ』の事をお喋りな鳥と看做《みな》しているらしい。
 忍び込んだ北風に焔が頼りなく揺り動かされる頃、二人の足取りは揃い始めていた。マリベルはせいいっぱいに背を伸ばして彼の手を取り、そして彼もまたその華奢な手のひらを愛でるように握り締めている。
 互いの爪先が仲睦まじく床の上を滑り、歪に重なった一つの影は渦を巻くように寝室を廻り出した。
 四隅をひらりと巡るように、静かで、何処かぎこちないリズムだった。かすかに上下する二人の姿が、メヌエルーシャにはそよぐ森のようにも見えた。
 それは独特な律動で、ワルツと呼ばれる踊りらしい。
「……ティカロおじさん、あたし、びっくりしてるわ」
 漆黒の布地にその頬を埋《うず》めながら、マリベルは感嘆していた。
「どうしてだい、マリベル」
「だって。おとといも、学校で同じことばをきいたの」
「へえ、奇遇だね」
「うん。サーニャがこわいかおで言ってた。マリベル、わたしのかみは金の糸なのよ、って」
 二人のダンスを嘴で追いかけつつ、メヌエルーシャは彼女の、サーニャの面差しを思い浮かべた。マリベルの同級生である彼女は、この寝室にも何度か訪れた機会があった。
 おしゃまな少女で、丹念に梳き整えられた金髪が印象的だった。鳥籠に入れられた『かささぎ』が珍しかったのか――それとも異質に見えたのか――無遠慮な眼差しを嫌になる位を浴びせかけられた覚えがある。
 マリベルが大切にしていた入れ子人形を半ば強引に持ち帰って以来、メヌエルーシャはこの部屋で彼女を見ていなかった。凡そ二ヶ月前の事だ。未だ机の上に戻って来ていない事実を察するに、恐らくそういう事なのだろう。
 それでもマリベルの両親は最後まで、年端もいかぬサーニャに敬語を使っていた。
「ティカロおじさん。金の糸って、何なのかしら」
 マリベルの――紅を滲ませた虹彩《こうさい》が、ベッドの方へと向けられる。
 目線を合わせるように、彼は少し腰を屈めた。
「その名前の通りさ。金箔を纏った、とても綺麗な糸なんだ。それに、とっても高級なんだよ。きっと、サーニャは自分の高貴な家柄を誇りたかったんだよ。何せサーニャの一番の自慢は、あのブロンドの髪だからね」
 そう言って、彼はステップを刻みながら大袈裟に顔をしかめた。「ああ、かわいそうなマリベル。サーニャに叩かれたのかい」
「いたかったわ。あたしはちょっと、サーシャのかみについたほこりを取ってあげただけなのに。きたない手ね、なんて」
 淡々とした口調でマリベルは答え、ひらり片手を離すと、彼の手を支点にくるりと身体を一回転させた。覚束ない動きだったが、翻《ひるがえ》るドレスの美しさで、とても優雅に見えた。
「ひどい子だね。マリベルはいっつも、良い子でいるのにね」
 目を細めて、彼は再びマリベルの手を取った。
「……おじさんのお話、聞きたいかい」
 きちりと腰を曲げた、それは貴婦人めいた楚々な仕草で、少女は「ええ」と、うなづく。ツヴァイクの一等地に住んでいるだけあって、実に洗練された振る舞いだった。
 再びステップを刻みながら、滔々《とうとう》と、彼は語り始めた。
「昔々のお話だ。ある国にね、とても偉い王様が居たんだよ。とっても偉くて、欲しい物は何でも手に入れられたんだ。何せ、その国に居る誰もが彼の命令を聞かなくちゃならなかったからね。皆は、毎日王様の為に貢物《みつぎもの》を用意したんだ」
「みつぎものっていうのは、どんなものなの」
 ドレスの裾をそよがせて、マリベルは尋ねた。
 天井から壁を伝い木床の上で引き伸ばされた、シャンデリアにもよく似た影の模様を踏み、二人はメヌエルーシャの眼前を過ぎ去っていく。
「プレゼントのような物だよ、マリベル」彼は数瞬だけメヌエルーシャを見やる。
「ある日のこと。王様は、プレゼントの中から一際美しい金の糸を見つけたんだ。きらきらに光っていて、すぐに王様はその金の糸が大好きになった。どの位好きになったかというとね、もう金の糸しかを貢物として認めなかったぐらいさ」
「とってもきらきらしてたのね」
 呟くマリベルの頬は、まるで熱したバターのように柔らかく弛んでいた。
「だけど、困ってしまったのはその国に住む人達だ。金の糸はとても高級で、なかなか手に入らない物だから、多くの人達が貢物を渡せなくなっちゃったんだよ」
 そう言って、彼はわざとらしく眉根を寄せ、続けた。
「貢物を差し出せなくなった人達に対して、王様は怒った。欲しい物は何でも手に入れられるはずの、偉い王様だったから、手に入らないものに対しては、とても乱暴になったんだ」
 綻んでいた口元をマリベルは不満そうに膨らませる。「まるでサーニャみたいな王さま」
 彼は苦笑しながらも、同意したのだろう。
「それから王様は、金の糸を差し出せない人達をとても乱暴な目に合わせた。乱暴な目にあった人達は、その国から居なくなった。毎日毎日、王様は金の糸を差し出せない人達に乱暴を揮《ふる》って……とうとうその国は王様一人だけになってしまった。一人ぼっちになった王様は――」
「金の糸にかこまれて、しあわせにくらしたのね」
 すかさずマリベルは口を挟んで、彼の継句を待たずに微笑んだ。いち早く謎かけを解いたかのような、得意気な笑みだった。
 ――メヌエルーシャは驚かなかった。
 大男の紡ぐ物語の多くは、泡沫《ほうまつ》のような幸福で結ばれる。
 マリベルは只、その言葉を諳《そら》んじているだけに過ぎない。
 あまりにも無垢な微笑みで、繰り返しているだけに過ぎないのだ。
 重なった影は一糸乱れずに回転し、脆弱な焔を揺らした。
 彼は夜霧みたいな息を吐き、片頬だけに皺をつくると、
「ああ。とても幸せに暮らしたんだ」
 そう言って、踵を甲高く鳴らした。
「ねえ……マリベルは、どっちが幸せだったと思うのかい」
 問い掛ける大男をじっと見つめて、「どっちって、どういうこと」と、マリベルも素足で床を弾いた。
 猫のように喉を鳴らしながら、彼は足を止める。
「このお話にはね、実は二つの糸が出てくるんだ。一つは、とても美しい金の糸。そしてもう一つは、王様とその国の人達を繋ぐ、目には見えない、糸だよ」
「……どんな糸だか、わからないわ」
 答えをせがむように、マリベルは彼の袖をぐいぐいと引っ張った。
「マリベルにはまだちょっと難しかったかな」彼は言って、目を細くした。
「糸っていうのはね、つまり僕と君を結ぶものなんだ。そう、王様と国の人達を結ぶ糸だよ。王様はね、金の糸を手に入れた代わりに、その糸を失ってしまったんだ……一人ぼっちになってしまったら、もう偉くもないよね。それに、王様と呼ぶ人が誰も居ないから、もう王様でもない」
「でも、金の糸にかこまれているわ」
 マリベルは平然と言い、彼は笑みの中から眉だけを寄せる。
 困っているようにも、照れているようにも見えた。
「マリベルは、一人ぼっちで良いのかい。学校の友達をつくってないんだろ」
「メヌエルーシャがいるから、他にいらないわ。サーニャも、イリヤも、ソフィアもみんな、王さまみたいにらんぼうなんだもの」
 聞き覚えのある名前達に、メヌエルーシャは首を埋め――羽ばたきへの衝動を押さえ込んだものは、自身の機知ではなく、即座に彼が放った鳥籠への睥睨《へいげい》によるものが大きかった。
 大人しくなった『かささぎ』を認めて、大男はおどけたように唇を指で摘み、
「皆、学校に来ていないそうじゃないか」
「サーニャもきのうから来ていないの」
「へえ、マリベルは皆に会えなくて寂しいのかい」
「わからないけど、つまんないわ」
 言葉を重ねるマリベルの瞳に、だが憂いの色などは認められなかった。
 イリヤは丁度二週間前に、ソフィアに至っては約二ヶ月前から学校に来ていないらしい。
 ツヴァイク周辺で多発する児童達の失踪には、マリベルの両親達でさえ神経質になっているらしいが、メヌエルーシャは寝室の向こう側から聞こえる会話でしかその詳細を知らない。
 知らないからこそ、彼の横顔から目が離せなかった。
 少女と視線を重ねたまま、大男も笑っていた。
「もしかしたら……おうちで、金の糸に囲まれているのかも知れないね」
「……うらやましいなあ」
 蕾のような唇をきゅっ、とすぼめて、マリベルは名残惜しそうに彼の肘から腕を放した。
 果たして、いつから持っていたのだろうか。
 垂れる少女の手のひらには煌く織紐《おりひも》のような物が握られていた。
 どうやら逢瀬《おうせ》も終わりに近づいているらしい――彼は一歩、後ろに下がり、ねじ回しのように踵を返した。向かう先には、楕円に刳りぬかれた真鍮製の窓がある。
 メヌエルーシャは思わず止まり木から鳥籠の格子へと跳び移り、何度も首を巡らせた。
 まだ恋に焦がれる年頃でもないのに、ずんぐりとしたその後姿を見つめるマリベルの表情は、呼吸すら憚《はばか》ってしまう程に悲しげで、愛らしかったのだ。
「そろそろ眠る時間だよ、マリベル」
 そう言って、彼は窓辺に手を掛ける。夜の景色を覆う直前で、マリベルは「ティカロおじさん」と、背筋が震えてしまうぐらいに甘い声を発した。
「金の糸って……そんなにきらきらしているのかな」
 跳ね上げた語尾は、あまりにも無邪気な響きだった。彼はきょろっと振り返ると、頬の肉が窪む程盛大に口の端を吊り上げて、言った。
「……そうだね。サーニャが学校に来たら、聞いてみれば良いよ」
 鏡合わせの微笑みを残し、彼は颯爽とした跳躍《ちょうやく》で、夜へと溶け消えた。
 無人の窓辺を見つめたまま、マリベルは油さしを手に取り、寝台の天板をそっと持ち上げた。底の浅い隠し棚には、飾りのように結い上げられた髪の房が幾つも並べられてあった。どれもが等しく、煌びやかな色彩をしていた。
 マリベルは金色に煌くそれを上に重ね、天板を乗せた後で、ふうっと油さしの灯火を吹き消した。すぐさま窓辺から血の管のような薄紫が露になり、水彩画にも似た淡い白煙が空に浮き上がった。
 最上階の窓からでは、見えるのも煙突と工場だけだ。
 わずかな余韻を残し、華奢な影は音もなくベッドへと潜り始め、
「あしたは学校に来てくれるのかしら、サーニャたち」
 マリベルの声で呟くと、シーツを被るように身体をくねらせた。一度だけ寝返りを打ってしまえば、小さく膨らんだベッドからはもうささやかな寝息しか聞こえなくなった。
 再び、寝室に静寂が訪れた。
 主人の就寝を確信してから、『かささぎ』は止まり木の上で羽根を広げた。それから、改めて寝室の天井を見上げる。
 礼拝堂のような天井から吊り下げられているのは、シャンデリアではなく、空の鳥籠を並べたものだった。この部屋に来た『かささぎ』が、プレゼントという言葉の次に覚えたものでもある。十二にも及ぶ鳥籠の中に、鳥達はいない。見た覚えもない。
 故に、利口な『かささぎ』は決しておしゃべりをしない。
 ベッドの下に隠したままの――図鑑についても、決して誰かに告げ口なぞしない。
 知っているのは、マリベルと『かささぎ』しか居ないのだから。
 
 
 
 やがて。
 色素を失くしていく空を見やって、メヌエルーシャはふと思った。
 金の糸を切り取った王様は、果たしてどちらなのだろう、と。


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