ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

清澄さんコミュの清澄さん2

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
 

 清澄さんの髪型は非常に可愛らしい。
 キャラメルベージュの色を、きつめのピンパーマーであしらったショートボブ。
 一歩間違えれば、道頓堀のオバさんのようなヘアースタイルなのだが、清澄さんがやると羊のようにふわふわな感じで見ているだけで何とも心地良いのだ。
 実際、店に来る客の過半数が、清澄さんを見て一度動きを止めている。人が人に見蕩れる瞬間を何度も何度も堪能出来て、あたしとしては面白い。
 しかし、あたしは知っている。
 男も女も目を奪われるその魅惑的な髪型が、どんな経緯で誕生したのかを。
 それは、二日前の事。
 陽射しが眩しい、晴れ渡った夏の日の事。
 客の切れ目に交わした他愛のない話の中に紛れていた。
「……プードルとか良いなぁ」
 言っておくが、決して犬の話をしていた訳では無い。唐突もなく清澄さんがぼそりと洩らしたのだ。
「え? 何がですか?」
 当然の如くあたしは尋ねた。
「あぁ、髪型の話」
 髪型とプードル。一体どんな脳内変換をすれば結びつくのだろうか。
 しかし、あたしと清澄さんはもう二ヶ月の付き合いだ。もうそんな事でいちいち話を腰を折ったりはしない。
 あたしは尚も言葉を返した。
「何でですか? 今の髪型とっても似合ってますよ。可愛いと思いますし」
 あたしの、本心からの賛辞にも清澄さんは苦笑い。
「でもねぇ……飽きちゃったんだよね、ワカメ」
「はい?」
 フラット気味な声を上げるあたしを見つつ、清澄さんは自分の頭を指差し、
「これ、ワカメに触発されたのよ」
 世の中には、知らない方が良かったと思う事は確かにあるらしい。
 それからしばらくの間、あたしは胸の中で清澄さんをワカメと呼んでいた。
 
 
 
 
 
 
 信じられない事にワカメ……じゃない、清澄さんは現在彼氏募集中らしい。
「だって、清澄さんモテるじゃないですか」
 既にあたしは、清澄さんが客から電話番号を訊かれている場面を何度も目撃している。 当然、やんわりと断っている時の方が多いのだが、教えている時だって少なからずはある。
 あたしにはその判断基準が分からず、清澄さんはあまり見た目には拘りがない人なんだと思っていたのだが。
「いやぁ、やっぱり理想の男性ってのは中々巡り会えないもんだよ」
 と、清澄さんは眉根を寄せてしみじみ呟いた。
「清澄さんの理想の男性って、どんな人なんですか?」
 勿論、あたしは興味を抱いて尋ねた。女として当たり前の事だろう。
 恋愛話が嫌いな女性なんて泥の中の砂金よりも少ないと思う。
 清澄さんは、はにかみ混じりに答えてくれた。
「んー……一言で言うと難しいんだけどねぇ……見た目じゃないんだよね。勿論見た目も大事だよ? だけど、やっぱり中身とか、雰囲気とかさぁ、相性とかさぁ」
 勿体ぶるような言い回しに内心うずうずしながらも、あたしは清澄さんの継句を待った。 確かに見た目だけが全てではないかも知れない。様々な要素がブレンドされて理想と言うのは象られるのだと思う。その割合に個人差があるだけで。
「何だろうねぇ……難しいね」
 頬を赤らめて唸る清澄さんの表情は、成程確かに魅力的だ。
 しかし、この様子ではいつまで経っても教えてくれなさそうでもある。
「例えばですよ? 芸能人とかでは居ないんですか?」
 あたしは助け舟を出した。具体的なイメージがあれば自然と答え易くなるのは、今更心理学で取り扱うまでもない常識である。
「そうだねぇ……例えば、例えばだけどね? 芥川龍之介と、リバー・フェニックスとジル・ドレを足して3で割ったような人……かな?」
 さてあたしはどう答えるべきか。一言で言えば、理解不能である。
 何の要素がそれぞれにあるのかも分からない上に、そもそも皆故人だ。
 3と言う数字も正直訝しい。
 しかし、清澄さんは恥らいつつも真顔で答えたのだから、本人として本気なのだろう。 しばらく清澄さんに彼氏が出来る事はなさそうだ。
 
 ちなみに、三年前まで付き合ってた清澄さんの元彼は、清澄さん曰く「始皇帝とアントニオ・サリエリとゲイリー・オールドマンを合体させたような人」らしい。
 機会があるのなら、是非とも会ってみたいものである。
 
 
 
 
 
 清澄さんはブーツを愛用している。
 何でも「合わせ易いから好き」なのらしい。非常に単純明快な理由だと思う。
 そういえば夏になっても、清澄さんは決してサンダルを履いて来なかった。
 サロペットスカートにレザーブーツ。ワンピースにショートブーツ。七分丈のボトムスにムートンブーツと、兎に角ブーツ尽くしの夏だった気がする。
 そもそも清澄さんは一体何足ブーツを持っているのだろうか。
 勿論、今日も清澄さんはブーツである。
「ていうか足、ムレたりむくんだりしませんか?」
 そんな素朴な疑問を口にしてみた。あたしはあまりブーツが好きではないので、清澄さんの根性には尊敬の念すら抱いている。
「むくみは嫌だけどねぇ。まぁ、もう慣れちゃったかな?」
 清澄さんはラッピング用の包装紙を整理しながらそう言った。
「え、でもムレるのは?」
 あたしにとってはそっちの方が問題である。あれは宴会帰りの父親の臭いにも負けてはいない。爪の間に溜まった垢のような……と想像するだけで気持ちが悪くなる。
 だが、清澄さんはさらっと、
「あぁ、それは全然平気だね」
 軽やかに言い放った。
「本当ですかっ!? 信じられないっ」
 思わずあたしも感情丸出しで声を上げてしまった。
 それでも清澄さんは、あくまでもさらっと、
「あたしは寧ろ……好きかな? ソラマメとか大好きだし」
 軽やかに言い放った。
 言い放ちやがった。
 言い放ち、やがった。
 当分の間、あたしはソラマメが食べられないだろう。
 
 
 

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

清澄さん 更新情報

清澄さんのメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。