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にゃんちゃコミュ フォーエバーコミュのDocumentary2〜夜を急ぐ男

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 7月に入って初めての日曜日、日付も変わろうとしている深夜、海岸沿いのコンビニエンス・ストアに一人の男がやってきた。

 その男は油揚げをレジに持って、店員にこう言った。

 「この近くに稲荷神社はありませんか?」

 思いつめたようなその男を前にして、店員は動揺を隠さなかった。

 「ちょっと探したい場所がありまして住宅地図があったら見せてもらえませんか?」

 なおも食い下がるその男に、店員は震える手つきで住宅地図を差し出した。
 何かに追われるような顔付きで必死に住宅地図を目で追う男。
 店員は別の客のレジ対応をしようとその男から離れた。

 やがてその男は捜している場所が地図に見当たらないことを知ると、あきらめて油揚げを手に下げて店を後にした。


 “そういえばすぐ近くに交番があったはず”
 その男は、コンビニから程近い住宅地内の交番に立ち寄った。

 「この近くに稲荷神社はありませんか?」

 両手に何やら荷物を下げて切羽詰ったその蒼白な表情でそう言うつもりだった。
 そりゃこんな深夜にそんなこと言う輩が現れたら警察も不審に思うだろう。
 聞こうとしているこっちが怖いぐらいだから。

 だがしかし、深夜の交番には警察官は不在であった。
 その男は無人の交番に侵入すると警官の帰着を待って、壁に貼られた広域地図を眺めてひたすら神社の鳥居マークを探した。

 結局コンビニの地図も交番も頼りにならない。
 その男は記憶を頼りに自転車に乗って深夜の通りを鳥居を探して徘徊していた。





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 「あんた何か憑いてるよ」
 そう言われたのが始まりだった。

 その男は重病で手術入院を余儀なくされた社長が不在の間、社長宅にて犬の世話を兼ねて生活することを約束してしまった。

 ひょんなことで知り合ったその男とその社長は、気まぐれな腐れ縁を続けるようで、犬というキーワードだけで繋がっていただけなのかもしれない。

 社長の手術当日、医師による術後の容態説明にその男は偶然にも立ち会ってしまう。
 耳の下から首すじにそって下顎まで長くメスを入れ、咽頭部を切り開き、患部である部位を切除した後の腫瘍部分を医師の説明とともに見入っていた。
 腫瘍部を広く切り抜いた後は、太もも大腿部から切除した筋肉を移植したという。
 術後の経過は移植部分の結合、膿の防止、咽頭部の流動食の通過など想像を絶する凄まじい闘病が待つだけとのこと。



              *   *   *


 その男は社長宅での生活を始めてほどなく、毎朝起きる度に胸の部分に広く痣が残っていることに気付いた。
 胸の左右から中央部にかけて、一晩中重みのある物体に圧迫され続けていたようなその痣の跡。痣の中にひっかき傷もリアルに残っていた。

 “本を読みつつ、胸に置いたまま寝てしまったから?”
 その程度にしか思わず、気に留めなかったのも事実だった。

 更に通勤途中、いつしか歩いていると足が痛むことに気が付いた。
 右足の指のつけ根に重心をかけると、足が腫れたような痛みが走る。
 “慣れない通勤経路で歩く距離が伸びたから?”
 それでもその男は気に留めない。
 きっとなれない生活を始めて、長時間の立ち姿勢で足に負担がかかっているんだろう、と。





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 「この家、何かおかしい」
 そう思い始めたのは、真っ暗な飼い主の寝室を見つめ続ける室内犬の姿に気付いてから。

 気の弱いその男は主不在の他人の家で一人きり、犬との暮らしを始めてしまったことに少なからず後悔するようになった。

 とはいえ約束してしまったこと。犬の世話を全うし、あとは飼い主の帰還を待つしかないのか。

 夜な夜な、部屋の扉を開け放し廊下に煌々と灯りをともしながらベッドに寝転がっていると、今にも扉の影から何かが姿を現しそうであった。

 「今夜も寝苦しい」
 その男は何の用にも供されていない北側のベランダの窓を毎夜開けていた。


              *   *   *


 「あんた何か憑いてるよ」
 そう言われたのはその生活を始めてちょうど一週間。
 霊能者M氏は酒を傾けながら冷静に言い放った。

 「あんた、いま住んでるところの近くに稲荷神社があるんじゃない?右肩に狐が憑いてる。それもかなりタチの悪い狐。明日の朝にでも油揚げを供えてお参りに行きなさい。」


 その男は涙ながらに胸の痣と足の痛みも問いたずねた。


 「胸の痣は寝てる時に動物霊が乗っているから。寝室の北側には何があるの?使っていないベランダ?そこが溜り場になってるのよ。
 足は自縛霊が憑いてるから。風呂上りに足に水をかけなさい。」

 続けて霊能者は言った。

 「その社長、そのマンションにはいつから住んでるの?建つ前は何だったの?」

 そのマンションは、倒産したホテルの跡地であった。
 それを聞いた霊能者が絶句したのは言うまでもない。

 「社長のマンションに対する思い入れが強すぎて、極限の状態にある社長の念がその家に生き霊になって飛んでいる。
犬が無言で見つめ続けるのは、真っ暗な寝室に魂が飛んでいるから。
 ただごとでない社長の念はマイナスの気となって、それが周りにいるよくない霊を呼び寄せている。
 悪いこと言わないからその家を出なさい。その家に長くいてはいけない。」






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 そう言われたその日曜の晩も、その男は犬の待つそのマンションに帰らざるを得ない。
 駅からマンションまでの戻り道、近所の稲荷神社を探し回っていた。

 犬の待つマンションに戻る。
 何も知らずに帰りを待ちわびていた犬。

 目に見えない恐怖に怯えなければならない男。
 風呂場で右足の甲に水をかけることを思い出した。
 風呂上り、窓際に立ち、電話をしながら左足のかかとが晴れたように痛いことに気付く。
 “そういえば元々痛んでいた右足は?”

 痛くない。
 わざと右足をひねって痛みを思い出そうとするが、痛くない。

 その代わり今度は左足が...痛い。

 その晩も北側の窓を開け、例の寝室で寝ようとする。
 眠れずに静寂の闇を視線が彷徨う。


 “明日、この家を出よう”


 日中は仕事がある。
 出るとしたら、夕方。荷物をまとめて出て行くしかない。
 犬も連れて行こう。
 後のことは後で考えればいい。






[?]

 果たして翌朝、意を決していつものように渋谷へ向かう。
 途中、唯一頼れる人に連絡を取る。

 『今朝、鏡を見たら別の痣が胸にありました。
  左肩の手前に枝豆ぐらいの大きさの跡が3〜4つ連なっていました。
  昨日の電話では心配かけないように話しませんでしたが、今度は反対の足が腫れて痛くなりました。
  今日の夕方、マンションを出ようと思います。
理由をつけて早めに仕事を上がって、レンタカーを借りて、犬も連れていきます。
  こんなことをいう自分はどうかしているでしょうか。』


 その連絡を受けた人は疑問を持たずに犬とその男を受け入れてくれる約束をした。
 「俺も仕事が終わり次第駆け付ける。18時にマンションのある駅で待ち合わせよう」
 併せて霊能者M氏にも連絡をとってくれた。

 霊能者M氏からはただ一言。
 「その男の持ち物と犬用品は全て残さず持ってくること、決して忘れてこないように。
 家にあった物は何一つ持ってきてはいけない。
 家を出た時は塩をお互いの肩で払うように、もちろん犬も。
 大丈夫、私がついているから安心して。」


              *   *   *


 夕方16時、その男は都内でレンタカーを借りて一人マンションへと向かう。
 自分の荷物は朝のうちにまとめていた。
 マンションについたら、助けの人が来てくれる前にその荷物を車に大方運び込んでおけばいいだろうか。
 助けの人が到着したら駅に迎えに行って、最終的に犬と犬用品を車に乗せて。
 戸締り、元栓、植物の水やり、洗濯物、ゴミ捨て、風呂場の水。
 もうこの家には来ないから。
 一つ一つ抜けがないか、頭の中で確認を繰り返しながら高速を走る。


 早くしないと日が暮れてしまう。
 誰に言われた訳ではないが、日暮れ前に家を出たい。
 お参りだって日が暮れてからでは行けない。
 とにかく日が暮れる前に。


 渋滞に巻き込まれ、焦るハンドルに汗が滲む。
 早く着いてくれ。日が暮れる前に。


 18時。辺りが暮れかけた頃、ようやくマンションのある土地にたどりつく。
 入り口ゲートに車を止め、マンションに走りこむ。
 家の鍵をあける。
 犬が座って待っていた。


 あらかじめまとめていた荷物を車へ運びこもうと手に抱える。
 早くしないと日が暮れる。


 ひとまず荷物は一度に運び込めそうだ。
 戸締り、元栓、植物の水やり、洗濯物、ゴミ捨て、風呂場の水。
 社長の寝室に立てられた数々のおふだ。
 毎日替えるように言われていた水も最後に取り替える。
 追い詰めるようにだんだん薄暗くなってくる部屋。


 あとの荷物は助けが来てから運び出そう。
 一度戻ってくるけど、犬も一緒に車に乗せよう。
 早くしないと日が暮れる。


 両手両肩に荷物を抱える。
 犬も抱きかかえる。
 早くしないと日が暮れる。
 早くしないと日が暮れる。






コメント(6)

にゃまりん

 この話を聞いた社長の知り合いの同年代の女性から「塩」をお守り代わりに渡されたのは言うまでもありまへん。。

 その女性も社長の見舞いや入院中の身の回りの世話をちょこっと頼まれていたんだけど、やはり塩を持参していた...という。。

 それよか今日の衣装の話がバレる日が...こわい。。にゃん。。
たけにゃん

 これ書いてるとき、けっこう怖かったです。。

 途中でマジで背中を振り向いてしまったり。。

 結構ゾクゾクするものがありました。。

 動物霊ってどう対処したらよいんでしょうかねぇ。。
 成仏できずに浮遊していたりするんでしょうか。。

 いやはや。。それにしても、結局書いてしまった自分に多少なりとも後ろめたい気持ちがなきにしもあらず。。

 でもコメントありがとうございます...。。
オパコンタさん

 今はにゃんちゃんは安心してニャンニャン楽しく暮らしています。。
 がんばって毎日のカビとりシャンプーにも耐えてもらっています(てか本人の合意を得ずに強引にやってるんですけど...)

 飼い主が退院したらにゃんちゃんは引き取られてしまうのか。
 できることならにゃんちゃんを安心な場所に引き止めてあげたいと思いますが、今後がどうなっていくのか。時の成り行きがどのような展開を創り出していくのか。。。

 どうぞにゃんちゃコミュを引き続きごひいきに。。。

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