面白い日記、マイミク紹介場コミュの　　東　京　脱　出

大原始人と交渉中の日記
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　　　東　京　脱　出
2014年06月05日04:34
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俺は、普段目にしない真新しい商品の整然と陳列された様をひとしきり一瞥してから、不意にふらっと立ち寄ったついでに、今日の昼飯を買っていこうかと考えた。

仕事場とアパートを往復するのみで、慢性的な運動不足と感じていたのもあり、野菜類の多めな弁当を、アルバイトのその日の買い出し担当に専ら注文していた。

『今日の買い出しはどうしますか？』

と聞かれる事に微かに煩わしさを覚え、聞かれてから答える一連の流れが些か(いささか)面倒に感じてからは、そう注文する事に決めている。

しかし、このコンビニに駆け込んだ、そもそものきっかけとなった熱は相当に強力で、未だに(いまだに)体内に籠もって(こもって)いて、寒がりの俺に愛想を尽かせてくれない。

人は暑いと食欲不振に陥って、食事を軽く済ませてしまう。

栄養素が足りないから当然エネルギー不足状態となり、気力も落ち込み食欲は益々回復しない。

こうなるといよいよもって【魔の螺旋】から抜け出せなくなる。

【彼】は相当に厄介者で、音も無く忍び寄り、弄ぶ(もてあそぶ)様に少しずつ時間を掛けて、内側から侵蝕し、やがては全体を支配しのさばる。

それが毎年の決まり事であるかのように、ある一定の時期に日本中で発生する事から、真夏恒例【自然発生型伝染病】とも云える、と毎年この時期の熱中症の死亡者数をニュースで聞く度に思うのである。


人は夏の暑さに根負けすると、冷たいものを欲する。

これは身体の内部から指令が下る訳で、至極当然の事。

俺も世間一般とその部分に於いては、寸分も違わぬのである。

店内の外周を出入り口からグルリと廻ってくると、意識せずともピタリと歩みが止まった地点、冷やし麺コーナーの数ある商品ラインナップの中から、好物の冷やし中華にふっと手が伸びていた。

それを左手に持ち替え、ドリンクコーナーへと向かった。

ーお茶であれば何でもいいやー

特に選ぶでもなく、有名な国民的ゲームのキャラクターの付録付き緑茶のペットボトルを、無意識裡に右手の指先で摘まむようにして持ち、レジへと足を運んだ。

２つのレジにはそれぞれ一人ずつ店員と男性客。

向かって右手のレジの女性は、まつ毛が重力に逆らうようにクルンと天に向けてカールし、アイメイクばっちりで明るめの茶髪を短く切り揃え、小さい額を露わにしており、その外見の印象から明るいイメージを想像した。

ただ、プライベートで何かあったのかと、思わず詮索したくなるほど表情は固く、どこか事務的な応対で、恐らくそういった本人にとって有益であろう第一印象を、接客態度が台無しにしている。

年の頃は２０代前半から２０代後半と言ったところであろうか。

所謂(いわゆる)ギャルと云うのだろう。

一方左手出入り口側のレジの女性は、女性というよりも寧ろ(むしろ)女の子。

すっぴんなのかナチュラルな薄いメイクなのか男性目線だと、判断に難しいくらい自然で、艶のある黒髪を後頭部で一つに束ね、整った鼻筋の先っちょに、出来たばかりと思しき赤いニキビがチョコンと、控えめに主張していた。

一連の所作(しょさ)に、独特の初々しさが見受けられた。

その未熟さを補おうと、笑顔と声色で一緒懸命の振る舞いに、親しみを覚えた。

胸のネームプレートには『研修中』の文字。

あどけなさの残る幼顔は、恐らくは女子高生と思われた。

俺は、接客態度の違いから、一瞬並ぶレジを悩んだが、時間短縮のためにべもない無愛想なベテラン店員の方に並んだ。

買い物の時に常々不思議に想っている事がある。

超人気のアミューズメント施設のアトラクションには１時間２時間平気で並ぶのに、買い物時のレジでは、たったの数秒の時間短縮のために最も早いレジを探す。

ーこれは一種の矛盾なのでは?ー

そう感じていながらも、皆と同じ行動を取っているという事は、その行動の心理を十分備え、寸分も違わぬのである。

目の前の男性客の会計の方が、どうやら予想通り先行して終わるようだ。

単身の男性としては妙にかさばったレジ袋に、伸ばした右手で掴むと同時に半身を捻った(ひねった)。

俺は彼を直接見ようとしていた訳ではないが、彼の去り際に横目でチラッとこちらに放たれた鋭い双眸(そうぼう)からの視線と、此方(こちら)の何気ない視線とが衝突したのである。

『おお！オオハラ。』





つづく……。
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