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小説二人旅since2008コミュのちきゅうじん

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 我々は人類にとって大きな一歩を踏み出そうとしている。初めて踏み入れた、地球以外の惑星。月の上で、偉大なる二歩目を。

 我々、地球親善大使一行は月に停泊している宇宙人の母船にいた。映画で見る冗談のような、どん兵衛のカップを逆さにしたような、台形の宇宙船に蜘蛛のように細く丈夫そうな足が四つ、月に根ざしている。彼は、太陽系の外の銀河から来たのだという。

 ちょうど三ヵ月前、突如軍の無線に割って入った宇宙人からの交信。真偽の確認、交渉、真意の探求、時間はあっというまに過ぎた。

 そして、今、我々の目の前に不健康そうな緑色の裸体の宇宙人がいる。

「初めまして、この度はご足労頂きありがとうございます」

「いえ。こちらこそお会いできて光栄です。時間がかかってしまったことを、お詫び致します」

「無理もないでしょう。地球の方からすれば、信じられないことでしょうから」

「そうですね。正直、当初は誰も信じていませんでした。宇宙人の存在もですが、貴方の言葉があまりにも流暢なので、誰かの悪戯かと」

 宇宙人は、三本しかない指を地球人そっくりの口元にもっていき、上品そうに笑う。挨拶がすむと、白い空間の中央に構えられたテーブルに招待され、我々一行は小便器の底が突出したようなイスに座った。部屋には扉が二つあるだけで、他には何もなかった。

「言語の修得は異種族との交流には不可欠ですから。相手の常識や歴史を調べておかないと、思いがけないことで争いの火種を作ってしまいますので」

 思っていた以上に、賢い生物のようだ。ドラマが考えるような超常の力を持つとか、話もできず奇声を上げ襲いかかってくる心配はないようだ。馬鹿げたことだが、交信で紳士的だからといって腹の中はわからない。我々の身を守るのは、コートに忍び込ませた、通用するかわからない地球制の拳銃だけなのだ。

 我々は、何もわかっていない。彼が何のために地球に来て、何のために我々を調べ、何のために交流しようとするのか。

「なるほど。宇宙でも変わらないことはあるのですね。平和でいたいと気持ちも、我々と変わりのないものであると良いのですが」

「好き好んで争う者は宇宙にもいません。平和でありたいと願う気持ちは、私どもも同じです」

 そう言うと、彼は三本指の手を伸ばした。私は、伸ばされた手をじっと見る。

「私たちのことが良く分かっていらっしゃる。だが、我々は貴方ほど宇宙のことが分かりませんし、異星人のことも、他の銀河系のことも分かりません。貴方のことも。」

「私にできる限り、協力しましょう」

「教えていただけますか? 貴方のことを、貴方の住む世界にある出来事を」

「ええ、喜んで協力させて頂きます。私は地球人の友人になりたいのです」

 彼の剥き出しになっている目は、澄んでいた。宇宙人は常にそうなのか、彼が真実を言っているのかは分からない。自分なりに大使としての役割を果たそうとしたが、結局は何の情報もない地球人には彼を信じる他なかった。他には、攻撃しかない。

 傍にいる数人と目配せをして、私はその手を握った。

「両者の友好が確認できたところで、地球側からプレゼントがあります」

 後ろに控えていた男が、縦長の長方形の真空管をテーブルに置く。中から、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の七色の花が現れた。一色ごとに見事に咲き誇った花が、五輪一束になって競演していた。

「地球には、虹と言う大気光学現象があります。七色のアーチ状の光が、全世界に現れ、地球人にとって最も美しい物の一つとされています。アーチに、乗って頂上まで登ると桃源郷に辿るつけるという逸話もあります。桃源郷とは、地球のどこよりも美しく理想的な場所です。」

「……」

「また、虹には『共存』という意味も含まれています。今回は、虹そのものは持ってくることはできませんでしたので、代わりに七色の花で虹を再現いたしました。宇宙での生活では、花は育ちません。地球の繊細な環境の中でしか咲かない花もあります。我々は、親しい間柄の者を祝う時、好きな人に好意を示す時、傷を負った同僚を慰める時、死者を悼む時、様々な場面で花を贈ります。大事な人に、です。とても重要な場面に、です。我々にとって、花と虹というの…」

 彼は突然手を掲げ、話を中断させた。音を立てず、花にゆっくりと近づく。

「…良い香りだ。嗅いだことのない、甘い…」

「お気に召しましたか?」

「ええ、これ以上ないほど。本当に…嬉しい。とてもとても」

「喜んでいただけて幸いです。苦労して運んできた甲斐がありました」

 彼は本当に満足したように、花に顔を埋めるのではないかという至近距離で香りを楽み、離れては美しさに酔いしれているようだった。宇宙人の趣向も常識も分からない地球にとっては、何を送れば良いのか分からず半月を使ってプレゼントを考え、用意するのにまた一ヵ月を要した。我々の苦悩の半分は、このプレゼント選びに使われた。

「こんなに良い体験をさせていただいて。実は私どももプレゼントを用意しているのですが、頂いた物を考えるといささか自信を失ってしまいます」

「何をおっしゃいますか。用意していただいた物を見れずに帰るのは残念でなりません。どうか拝見させてください」

「そうですか。では、お見せいたします。たいした物ではありませんが」

 宇宙人の後ろにあった扉が、開く。中からアメーバ状の物体が奇妙な音を立てて近づいてくる。全長は一メートルほどのゼリーのように透き通った白濁色をしている。

「こちらが、私からのプレゼントです」

 これがプレゼント? やはり宇宙人と我々の感覚は違うのか。
 我々が困惑した表情を浮かべていると、宇宙人は、アメーバに向けってあった指を動かした。すると、アメーバーが突如巨大化し。
 いや、変身した。女に。裸の女に。
「こ、これは?」

「ある惑星に住む生物です。単純な生物でして、ただ生きているだけです。攻撃性もありませんので、ご安心を。意志もなく、知性もなく、向上心もない。生命力は強いのですが、自己防衛本能のようなものもない。生存本能はかろうじてあるようですが。本当にただ生きているだけの生物です。利用価値もさほどありませんが、一つだけ面白い特性を持っております」

 今度は二本目の指を動かす。すると、今度は男に変身した。もちろん、裸である。

「……」

「ご覧のとおり、自由に体を変態させることができます。どんなものにでも、思いのままに。この星の生物の情報はほとんど覚えさせていますので、獣にもなれます」

 遊ぶように三本目の指を動かすと、先ほどまで男だった『それ』は縮小し、体つきの良い犬になった。さらに、浅黒く色を変色させながら馬に変態していく。目の前で繰り広げられる、人類史上誰も目にしたことのない光景が我々の想像と恥ずかしさの斜め上をいき、みな一様に口を開けていた。だが、同時に私の腹には、好奇心が沸き上がって来ていた。

「……。触ってもみてもいいですか?」

「どうぞ」

 私は抑えられない衝動に従って、馬になった『それ』に近づいた。立派な毛並みをした馬の横腹に触る。意外にも毛の感触はなく、ぷにぷにとした弾力だけが手に残る。試しに指で押してみると、凹む。

「姿は変えられますが、それ以外は何も変わりません。硬さ・体重・身体構造など、アメーバの時と同じです。ですので、本物の馬と同じように速く走ることはできません。ただ、それぐらいの堅さがあれば地球人の平均と変わらないはずですので、使用には問題はないと思います」

 馬の姿をしていても、馬のように動きはしない。ただ、姿をまねるだけ。

「知性がないということですか?」

「ええ、ですので何も考えませんし、学習しません。普通のやり方では。痛みを与えて反射させるしかありませんね。それも多くは望めないでしょう。複雑なことをさせることはできませんし、人間生活を真似ることもできないでしょう。命令しても理解できません。ちなみに言葉も話せません」

 『それ』が何もできないことを、宇宙人はたいした欠点でないように話す。先ほどは、彼の指の動きに対して姿を変えていたが、それも三つだけだったから覚えていたということか。なんにしても、学習もせず考えもせず命令もできない。姿だけは自由にできるが、後は何もできないか。実際先ほどから女になっても、男になっても、犬になっても、馬になっても一度も声を発するどころか動きもしない。

 まるで人形だ。こんな物がプレゼント? 役に立たない人形が。だが、よく考えれば花も役に立つわけではない。ただ、美しく慰められるだけか。そう考えると、私の中に『それ』の価値が、生まれてきた。他の者は、依然いぶかし顔をしている。

「失礼ながら、これは売買してもよろしいものなのですか?」

「構いません。大丈夫ですよ。宇宙にも法律のようなものはありますが、これは地球でいうところの蟻のようなものです。どこにでもいますし、権利もありませんから咎められることもありませんよ」

「そうですか、それを聞いて安心しました。貴重なものを頂いてありがとうございます。我々にとっても…初めての体験でした」

「喜んでいただけてこちらこそ幸いです。ありふれたもので恐縮ですが、存分に楽しんでいただけるものと保証いたします」

「ええ、地球に帰りましたらすぐに他の者に見せて自慢しようと思います。きっと驚いて、失禁するかも。ところで、この生物は何を食べるのでしょうか?」

「何も。生命力だけが異常に強い生物でして、住んでいる環境に即座に適応します。エネルギーは、大気中の微生物などを勝手に食べて数千年生きのびます。あ、だからといって食べさせてはいけないわけではないので、どんなものでも飲ませて構いません」

「そうですか、特別必要な処置はありますか?」

「何もありません」

 本当に何の特徴もない生物だな。何もしない、喋らず動かず聞かず考えない。何の役にも立たず、ありふれていて存在の価値もない。変態しない元の姿のままなら、美しさもない。こんなもの、すぐに飽きてしまう。喜ぶのはマスコミと生物学者、科学者だけだな。

「わかりました。手がかからなくて結構ですね。では、大切に保管させてもらいます。」

「ま、待って下さい!」

 冷静だった宇宙人が、初めて声を荒げた。万国博覧会のように奇妙な化かし合いで満ちていたが、終始和やかだった会談に突如緊張が走る。傍にいる男たちの目に
鋭い線が走り、スーツへ手を滑らせる。宇宙人は続けて、若干の焦りを含みながら話す。

「け、決して『それ』の扱いに口を出すつもりではないのですが、保管なんてしてはこの生物の価値は半減してしまいます。数が心配でしたら、用意いたします。ですのでどうぞ、遠慮などなさらずにお使い頂ければ結構です。どんなことにも答えますし、決して抵抗もいたしません。地球人よりずっと長持ちしますし、壊れにくく、安全です」

「? 何のことでしょうか?」

「ああ、とぼけるのは無理はないでしょう。地球ではあまり公には奨励されていない地域もありますから。しかし、恥ずかしがられるのもわかりますが、ここには私どもしかおりません。私が貴方がたを辱めることはいたしません。我々には、その行為に対する感情はありません。ただ、もしもですが、もしも、本当にお分かりでないのなら、商品を選んだ私としては、商品価値を下げるようなことは放っておけないのです」

 宇宙人の慌てようは、逆に我々を冷静にさせた。とりあえず、気分を損ねたり敵対行動に出るわけではないようだ。警戒は解いて良さそうだが…。それにしても、彼は何を言っているのだろうか。商品価値も何も『それ』は姿を変えること意外には何も使えないはず。

 そういえば先ほどから、彼の会話には多少噛み合ないところがあった。使ってほしいと言っていたが、それは能力のことを言ってないのだとしたらいったい…
「プレゼントの価値は、変身能力ではない?」

「ええ、無論です。地球の方々が私のために頭を悩ましてプレゼントを選んでくれたように、私どもも地球の方々が心から喜べるものを、と考えました。僭越ながら、地球で最も栄えている人間の歴史・風俗・趣向などを調べさせていただきました。その結果、地球人にとって最も身近で、最も刺激的で、最も喜ばれるプレゼントを思いつきました。それが、この生物です」

 再び、『それ』に手を向ける宇宙人。心なしか胸を張っている。対して、いつの間にか女に戻っている『それ』は、やはりぴくりとも動かない。宇宙人が丁寧にそれらしいことを並べ立ててくれたのはありがたいが、彼の言わんとすることが全く私にはわからなかった。周りの者にそれとなく聞いても、色よい返事はない。地球人のことを今日初めて会った宇宙人に聞くのは、気が引けたがわからないまま帰るわけにもいかない。私は、彼に教えを乞うように聞いた。

「地球人が最も喜ぶもの? それはいったい何ですか?」

「セックスです。男にも女にも獣にも自在になって、抵抗せず従順で丈夫で知性もないので、どんな事にも答えます。地球人でもありませんから、違法でもありません。宇宙のどこを探しても、これ以上貴方がたを喜ばせるものはないでしょう。さあ、どうぞ遠慮なさらずに。いつものように、存分に楽しんでください」

 そうして、我々は宇宙船を後にした。一人の女を連れて。

コメント(4)

笑いはどこに?まぁ俺も人のことは言えんが。

あと、品が無いですね。小便器とか失禁とか。その辺が読む人を選ぶ。

馬をさわった下りで、堅さもその程度であれば地球人のそれと変わらないってあったけど、そこであぁダッチワイフですか、みたいな展開が見えてしまった。

虹の花の表現がせっかく美しかったのに、アメーバの虐げられっぷりと差別ぶりがギャップある。蟻みたいになんの権利もないって表現も好きじゃない。

前半は良かった。地球人側からのプレゼントに関しては。桃源郷も伏線に出来るし。ただただ甘いだけの世界じゃ無いでしょ、桃源郷って。影をもってる。

アメーバ以降の展開が疑問だね。結局宇宙人は何をしたかったのか?アメーバを送っただけで満足なのか?来た意味がわからん。

女性の裸体を利用して地球人に甘い夢を見させる。んでそっから侵略開始だぜ、とか。それなら宇宙人が必死にアメーバを大量投入しようとした理由も頷ける。
>ハニーさん

ブラックユーモアですよ。笑いは。

宇宙人は、冒険者みたいな存在で地球侵略より冒険者兼商人なのさ。
コロンブスのような存在かな。友好的になって、次に儲けられそうなものを見つけるつもりだったのさ。

桃源郷には、甘い想像しかしてませんでしたね。

伏線の張り方はまだ甘いみたいだね。
男という生き物の愚かさをシニカルに笑い飛ばそうとする高尚な作品にも読めるし、
ただただ下品なだけの作品にも読める。

美しい花を贈った地球人とダッチワイフを贈った宇宙人というのは、
男の女に対する建前と本音を象徴しているようでおもしろい。

ブラックユーモアよりシニカルな笑いのほうが向いているのでは?

どちらにせよ笑いのキレが悪かったのは残念。
無駄が多いので、もっと洗練させる必要あり。

評価★★★☆☆
狙いは良かったようですね。

ブラックユーモアとシニカルの笑いの違いがわかりません、すみません。

キレが全ての話でキレが悪かったのは、外してますな。

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