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小説二人旅since2008コミュの空の気まぐれ〜前編〜

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初投稿です。舞台は一応精華大学ですけど、あまり固有名詞は出してません。

そして、案外長くなってしまったので、前後編で行こうと思います。楽しんでいただけると幸いです。

あらすじとしては、図書館通いの男の子が、図書館で見かけたお姉さんに恋をする、というものです。
では、どうぞ。


【空の気まぐれ〜前編〜】

最近雨が気になって仕方ない。大学に入ってもう3ヶ月が過ぎた。一人暮らしにも慣れたが、どうも梅雨時分のうっとうしい天気だけはごめんである。

今日も朝から雨が降っている。厳密に言うと、昨日から降り続いている。つい一週間前に梅雨入り宣言が出され、それから見事に曇天続きだ。イヤな方ばかりに予報は当たる。

こう毎日太陽が顔を出してくれないと、気分まで沈みがちだ。大学に行くのも億劫で、何度家で寝ていようと思うことか。
ただそう毎日休むわけにもいかない。大学生になったとはいえ、まだ3ヶ月。徐々に慣れてはきたが、まだまだ勝手が分からない部分が多い。出だしでつまづくと後々大変になってくるとは、いとこの談で、特に一回生での単位取得は重要らしい。彼は留年して大目玉を食らったらしいから、説得力が違う。だから、僕は渋々家をでる日々が続けている。

今日も雨のなか大学に出てきたはいいが、やっぱり足元と背中のリュックが濡れてしまっている。家から大学まで徒歩10分。自転車で来れば5分で行けるが、さすがに雨のなかは行きにくい。
ともあれ、身なりを整えるために、図書館のエントランスに入る。傘を閉じて、リュックからタオルを出す。こいつで濡れた箇所を拭いておく。それだけで後々の気持ち悪さが全然違う。

少し落ち着いたら、図書館の中に入り新聞を読むのが最近の習慣だ。大学に入ってようやく新聞を読むようになった。それまではせいぜいテレビ欄しか見ていなかったとゆうのに。

こぢんまりとした新聞コーナーに腰掛ける。主要4紙と地方紙、英字新聞が置いてあるが、もっぱら読む新聞は決まっている。傘とリュックを足元に置いて、新聞をくる。見出しをさらって、興味のある部分は読み込んでいく。この時事ネタが案外教授陣と話すときに効力を発揮する。お堅いオジサンたちと話すのには取っ掛かりが必要なのだ。

ふと、人の気配がしたので顔を上げる。


また、あの人だ。最近、いや梅雨に入ってからよく会う。いつも髪が濡れていて、肩に掛けたカバンも濡れている。ただ、そこまでひどい濡れ方はしていない。軽く濡れている程度。たぶん僕と同じようにタオルか何かで拭いてきているのだろう。

彼女はいつも僕の向かい側に座る。その新聞がお気に入りらしい。僕は新聞を読むつもりなのが、どうしても視線は彼女の方に向いてしまう。
髪は肩より少し下まで伸びていて、結ってはいない。目は細長で視線は下向き加減。化粧も派手ではないため、落ち着いた感じを受ける。年の頃は20そこそこ。ウチの大学には珍しいタイプの女性だ。

名前を何と言うのだろうか。ふとそんな疑問が浮かぶ。梅雨に入って数日間会っただけの関係。しかも向こうは認識しているかわからない。話しかけるには、材料が足りない。

時事ネタを振ろうにも教授とは勝手が違う。面識が無いのだから。

変なやつと思われないだろうか。相手にされないんじゃないか。ネガティブなことばかりが浮かんで、なかなか話しかけることができない。

そんなことを考えながら視線を泳がせていたら、彼女が顔を上げた。

目が合った。

新聞を隔てて数十センチ。僕は慌てて視線を逸らそうとする。

だが、彼女は微笑んでくれた。僕の中から動揺が消えていく。

自然と言葉が出た。
「この雨、うっとうしいですね」
「ええ」
彼女も答えてくれる。
「でももうすぐ明けるらしいですよ」
「そう。でも少し残念だな。しとしとと降る雨を見てるの、好きだったから」
そう言えばここの大きなガラス窓からは外の様子が広く見渡せる。
彼女の視線にあわせるように僕も外をみた。

しばしの沈黙。しとしとと言う擬音が聞こえてきそうな、そんな時間だった。

「あの」
僕がその沈黙を破った。
「お名前、教えてもらってもいいですか」
「ハルカ。高木ハルカよ」何の躊躇も無く彼女は答えてくれた。
「僕は」
言いかけたところで始業のベルがなった。
「私、もう行かなきゃ。今日は話せて良かったわ。さよなら」
ハルカさんはそれだけ言うとスッと行ってしまった。

取り残された僕はしばし呆然とするしかなかった。あまりに急で、あまりにあっけない終わり。僕は自分の名前を伝えることすらできなかった。

僕は授業に向かったが、考えているのはハルカさんのこと。もう一度話したい。そして自分の名前を名乗りたい。考えが頭から離れず、授業は上の空。教授が何をしゃべってたかなんて全く覚えていない。出席表だけ書いて教室を出た。
すると、久しぶりに太陽が顔を見せていた。


しばらく続いていた曇天は一時回復するそうだ。それでも、数日したらまた下り坂で、梅雨明けはその雨をやり過ごしてからになるらしい。今日は快晴で、昨日の空が嘘みたいである。

ハルカさんの名前を知った翌日。昨日と同じように図書館の新聞コーナーに座る。ハルカさんと会うために。
人の気配に顔を上げた。
だが、そこにいたのはハルカさんではなく、別の女性だった。

結局、今日はハルカさんは来なかった。

その次の日も。
その次の日も。

なんとなく予感はしていた。サヨナラを聞いたその日から。もう会えないような気を起こさせる、そんなサヨナラだった。

でも、まだあきらめるわけにはいかない。このままではすごく悔いが残ってしまう。

僕は学生課に赴いた。高木ハルカについて聞くために。

「すいません、本学に高木ハルカさんと言う女性は在籍していますか」

「高木ハルカ、ですか。どうしてそんなことを?」

職員は怪訝そうな顔で尋ねてくる。当たり前だ。個人情報保護がうたわれて久しい昨今、いきなり尋ねてくる学生が怪しく見えるのも当然だ。

「えっと、拾いものをしたんです。財布、なんですけど」
もちろんウソ。理由を尋ねられた時のために用意していた。
「その、申し訳ないとは思ったんですけど財布のカード入れの一番上のカード、見たんです。そしたら高木ハルカってあって。そのまま財布の中を全部見るのは気が引けるでしょ?図書館で拾ったし、うちの学生なのかなと思って」

「現物はお持ちですか?」
「いえ、うちに置いてあります。僕が持ち歩いて落としてしまったらシャレになりませんから。」
今の説明が理屈として通っているかはわからないが、職員は納得してくれたようだ。パソコンで検索をかけてくれている。

「高木ハルカで間違いないですか?」
「はい。」
彼女の口から聞いたのだから間違い無い。
ところが職員からの返答は意外なものだった。

「高木ハルカという学生は本学には居ませんね。別の高木さんなら居ますけど、ハルカで間違い無いんでしょ?」
「はい。でも、本当に居ませんか?」
「ええ。全学部、全職員検索をかけましたけど居ませんね」

僕は呆然とするしかなかった。彼女は僕にウソをついたのだろうか。何のために?
いや、そもそも学生じゃないとも考えられる。でも職員でもない。となると彼女は何なんだ?
肩まで伸ばした髪が印象的で落ち着いた雰囲気の少女。名前は高木ハルカ。
僕にはそれしかわからない。

「本学の関係者じゃありませんので、財布は近くの交番に届けておいてくださいね。ちょっと、聞いてます?」
職員にたしなめられて、考えから戻った。そういえばそんなウソを付いたっけか。
「わかりました。ちゃんと届けておきます。お手数おかけしました。」

一礼して学生課をでると、雲行きが怪しくなっていた。白い雲ではなく黒い雲が立ち込めていて、一雨来そうな気配がぷんぷんしていた。数日続いた晴天とはしばらくお別れになりそうだ。
雲の色と同様に、自分の気分が沈み込んでいくのがわかった。

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