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-夏の日に、夢見た、その風景-コミュの第十四話「知っても変わらない事」

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帰り道を一応教えておく為、川の横の分かれ道まで来た。
「で、見ての通りこの先は一本道だから後は道なりに行けば大丈夫だ」
「はーい」
家が見えてる位置だから、道が分かれていようといなかろうと関係無いが。
「そんなに遠くもないけど近いわけでもないんだね」
「まあそんな感じだな。今のペースで歩くと…大体…まあ七、八分って所か」
俺一人ならもっと早いだろうが。
「じゃあ…どうしよっかなぁ…帰るにしてもすぐだし、隼君の家にいると長いし…」
「…大体三時間…ねぇ…確かに帰るとすると短いけど俺ん家だと長いか…」
絶妙な長さだな。
「うーん…じゃあ、ちょっとお話しようよ」
「またか…と言いたいが、気持ちは解る。じゃあ適当に座るか」
「うん」
橋の縁に足を垂らして座り、由希も隣に同じ様に座る。
「さて、何を話す?既に色々と話した訳なんだが」
今迄散々話して、もう然程重要な事は無い筈だ。
「…覚えてるかな?ここ…私たちが逢った場所だよ…」
…そうか。ここだったな。
「だったな。そう考えると…普段通る道でさえ何だか懐かしいもんだ」
今居るこの場所が、由希と、初めて出逢った場所。
記憶に殆ど残らない程度の、幼い頃の古い記憶。

『いっしょに、あそぼう』

『うん、いいよ』

…こんな感じだったっけか。
「よく考えると、最初に話しかけたのって私なんだよね」
「そういやそうだな。積極的じゃないか」
「うーん…まあ、まだ子供だったから」
「…ま、大体、そういうもんか」
小さい内は意識なんてしないもんだからな。
「あの時…どうしてそう思ったのかな…」
「ん?」
何が、そう思ったか。
「都会の方ではね、いつも一人ぼっちだった。
誰も私の相手をしてくれない。誰も私を認めてくれない。
…誰も…『私』を見てくれない…それが…普通だった…
なのに私は…隼君に声をかけた…
…『いつも通り』…一人になるだけだったかもしれない…なのに…」
…理由なんか。
「…そうだな。それは多分…『それでも』だからじゃないか?」
「…それでも、なの?」
そう、それでも。
「それでも…誰かに傍に居て貰いたかった…只、それだけじゃないか…?」
「…でも…また…」
「またそうなるとしても、チャンスは幾らでも有る。だから、失敗を恐れなかった。
…そうじゃないのか?」
子供にそんな事を考えるだけの事が出来るかと言えばノーだろうが。
「チャンスが…いくらでも?」
「人なんて世界に…何十億と居るんだ。
いつか、その中の誰かが自分の事を解ってくれる。そう思ってたんじゃないか?」
まあ、年齢を考えれば考えてないか、考えていても無意識か、だろう。
「…誰かが、かぁ…」
「そう、誰かが、だ。
少なくとも、その時の俺は間違い無く由希という存在を認めていたんだ。
大して深く考えなかったにしても、な」
多分、俺は只「遊ぼう」と言われた事に対して、普通に「良いよ」と答えただけなんだろう。
考えなんて無く、そこに一人の子が居るから、という風に。
「…今でも…かな…?」
ここで何を迷うか、何を躊躇うか。
「当然だ。今更見捨てはしないさ」
「…これを見ても…そう言える?」
そう言うと由希は突然立ち上がり、着ているワンピースをたくし上げた。
「ちょっ…!な、何を!?」
思わず顔を背ける。
「…見て!」
由希とは思えない、強い声。
「…何が有る…?」
「…見れば…分かるよ」
その腹には、手術か怪我か、取り敢えず何かの痕らしきものが在った。
数も一つではなく、二つ、三つと有る。
「…これ…は…?」
由希はまた座り、静かに話し始めた。
「…私ね、生まれつき欠陥だらけの身体なんだ。数え切れないくらい。
小さいころに何度も手術して、少しずつ直してきたの。
…でも…ここしばらく…手術してないんだ…」
小さい頃に。そして、ここ暫くはしていない。
「…何でだ?」
少々無粋だろうが、ここまで言われたら訊くしか無いだろう。
「…女の子にとってね、身体に傷が付くのは嫌なんだよ。
もう有っても…できれば増やしたくないんだよ…」
「…成る程ね。そういう事か」
本当に訊くべきだったのかと少々後悔する。
…にしても、どうもこれは誘導された気がしてならないが。
「十二年前にも、これは有ったんだよ」
「…俺は意識してたのか…してなかったのか…記憶に無いな」
俺の記憶には「傷の有る子」として残っていたんじゃないからな。
「…そっか。有ったらそれはそれで結構嫌なんだけどね」
…つまりは俺の記憶がそれだったら、って事か。
「それでね、これって今日明日に手術しないと死んじゃう、みたいなものでもないから…つい、ね…」
「今じゃなくても良いなら後ですれば…っていうのがずっと続いてるのか」
「…うん…」
ありがちだな。
「それじゃ解決には繋がらないぞ」
「…分かってる…でも…」
「…嫌か」
「…」
その沈黙が、最早答えだ。
…流石にこれ以上は空気が悪すぎるな。
「もう良い。これ以上は聞かない事にしよう。それに、段々と本題から逸れてきてるしな。
何にしても…俺は今更、由希を見捨てたりしない。それは言っておこう」
「…本当?」
「ああ。ここで嘘を言う程、ふざけちゃいないさ」
「…」
由希は黙って俯いた。
「…ありがとう…隼…くん…」
その声は、震えていた。

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