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オリジナルリレー物語コミュのChaos Heart 第二話

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第二話 湿地帯の武人

テッドとルナはヒスイについて歩いていた。
周りはゆっくりと森から湿地帯のじめじめした感じに変わっていく。
ヒスイは黙ったまま。
ルナも「疲れた」とは言わないが、どうもしゅんとしたような顔で歩いている。
テッドも、何も言わないまま思考を廻らせていた。
こんなのんびりで皆を助けられるのか?
時間の猶予はまだある。
でも、本当にこのままで…。
ルナが立ち止まった気配。
振り返るとルナは大きく肩を上下させて呼吸をしていた。
優秀であるが、タイプで言えば魔術師型の彼女のことだ。
単純な表現になるが疲れたのだろう。
テッドは踵を返し、ルナの前に立って手を差し出す。
しかし、顔を上げたルナはその手を見てむすっとし、姿勢を正してまた歩き出した。
テッドもついていく。
湿地帯特有のぬかるんだ地面。
靴が少し湿り始めた。
思わずこけそうにもなる。
「ん、着いたね」
ヒスイがそう言って立ち止まる。
テッドはこけかけながらも走ってヒスイの隣に立つ。
ルナもゆっくりやってくる。
広がる沼。
木は少し腐った感じであるが真っ直ぐ立っている。
足場になりそうな地面は苔に覆われ、踏み所を間違えると滑ってこけてしまうだろう。
「ここに…マンドルゴラが?」
ルナはたずねる。
「そうだね。この奥のほうだって聞いた。足元に気をつけな」
テッドはあたりを見回す。
「あれ…」
「どうしたの?」
「あんなとこに家…」
テッドが指差した方には小屋より少し大きめの家があった。
「こんなところに人が住んでいるんですか?」
ルナはそうヒスイにたずねた。
「いや…聞いたことがないね。でも、湿気で腐ったり、苔で覆われているってわけもなさそうだし…でも、こんなところに?」
ヒスイも首をかしげた。
そうしたらネックレスが音を立てる。
テッドは駆け寄る。
「あ、テッド!勝手に行っちゃダメでしょ!」
ルナの声も無視し、テッドはドアの前で立ち止まった。
少し、足が滑った。
見た目は綺麗でヒスイの言ったように湿気で腐っているわけでもないし、苔もない。
何だか、温かみのある家だ。
テッドはドアを叩こうと手を握り締め、ノックの形にする。
ガチャ。
するとドアが開いた。
きょとんとするテッド。
出てきたのは黒い肌に紫の髪、色素薄い緑の瞳をした耳が尖ったローブ姿の女性。
それは書物で読んだ亜人種族の一つ、ダークエルフの姿だった。
しかし普通の、ではない。
右目に大きな傷があるのだ。
それで右目はふさがっているかのように見える。
「あ、えと…」
初めて見たダークエルフに考えの中心と言おうとしていた言葉をかき消され、しどろもどろになるテッド。
「何か、御用ですか?」
静かであり、鈴を転がしたかのような澄んだ声。
「ああ、あたしにまかせな、テッド」
そう言ってヒスイがやってきた。
「この湿地帯でマンドルゴラが取れるはずなんだけど…知ってるかい?」
「ええ、知っておりますが…それをいかがなさるのです?」
ダークエルフの女性は首をかしげた。
彼女のネックレス…いやペンダントと言える形の飾りが揺れる。
「ん…あんた、それ…」
「あ、はい。これは魔力を抑えるものです。貴女も似たようなものを身に着けてらっしゃいますね」
「ああ、これは…」
「あ」
女性が声を上げた。
「お子達がお疲れのようですね。よければ中へどうぞ。お茶をお出ししますよ」
にこっと女性は笑い、ヒスイを促した。
「あ、ああ…あたしの子供では無いけど…テッド、ルナ、お言葉に甘えようか?」
「「は、はい」」

家の中は温かく、ふんわりとした雰囲気に包まれていた。
台所では女性が茶を淹れている。
「すみません、お待たせしました」
女性が笑顔でそれぞれの前にカップを置く。
その笑顔には傷の強烈な印象が微塵もない。
「うわあ…いい香り」
ルナが喜んでいる声を上げる。
「すみませんね」
ヒスイの言葉に女性は笑う。
「いいえ、この湿地帯にはあまり人も来ませんし…お客様は大歓迎ですよ」
「あの…」
テッドは言葉を出す。
「はい?」
「どうして、こんなところに住んでいるんですか?」
「ああ…」
女性はトレイで口元を隠し、目を細めた。
「修行…と言えばいいのかしら?」
「修行?魔術のですか?」
茶を一口飲んでルナはそうたずねる。
「…まあ、似たようなものですね。ここの魔獣は少し強いですが相手にはぴったりで」
「少し…?かなり強いって聞いたことがあるけど…」
ヒスイの言葉に今度は苦笑。
「まあ、そういわれてはおりますね。でもそのおかげかあまり人が来ないので集中できるんです」
「へえ…」
「少しゆっくりなさっていってください。私は少し出てきますので」
「?」
首をかしげるルナ。
ヒスイも同じくだった。
女性はそう言って外に出て行った。
「少しゆっくりしていこうじゃないか、二人共」
「はい」
「……」
テッドは窓のほうを見ていた。
女性が少しずつ遠ざかっていくのが見えた。

湿地帯、奥地。
女性はフゥーッと大きく息を吐き、正拳。
回し蹴りを放ち、続いて足払い。
バック転をして地面を踏みしめ、ローキック。
すると気配。
女性はどこからか小さなナイフを取り出し、近くの木に投げつける。
カッと小さく木に刺さる音。
「誰です?」
木の後ろではブルブル震える影。
「出てらっしゃい」
すると出てきたのは魔獣の子供。
姿は少し狐に似たようなものだ。
「お前…」
見覚えがあるのか、すたすたと女性は歩み寄る。
抱き上げてそっと撫でると前足で手にじゃれ付いてくる。
「ふふ、いつも可愛いこと」
女性は笑った。
すると子供はパッと腕を離れ、茂みにかけていく。
「あ…親の元に帰ったのね」
フゥッと柔らかい笑みで見送っていた。

「きゃあうん!」
先ほどの魔獣の子供が母親らしい魔獣に駆け寄り、すりすり身を寄せる。
優しい目をしていた魔獣の母親が何かを察知したのか目を見開いて顔を上げた。
するとその魔獣よりもはるかに大きな影が。
「ぎゃ、があああああ!」
母親が叫ぶように声を上げる。
それは湿地帯内に大きく響いた。

「な、何だ!?」
テッドは立ち上がる。
「魔獣の声だね」
冷静にそうつぶやくヒスイ。
「あの人に何かあったんじゃないでしょうか?」
ルナは不安そうな顔をする。
「その可能性はあるね…でも出ないほうが安全…ってテッド!」
テッドはすでにドアを開け、外に飛び出していた。
「ええい、ルナ、あんたはここにいな!」
「先生は?」
「テッドを追いかける。あの子じゃここの魔獣には勝てないよ」
そう言ってヒスイも駆け出る。

女性は声を聞きつけて走っていた。
(あの声はあの子の母親のもの…急がないと)

湿地帯・中央辺り。
「な、何だよこれ…」
テッドは呆然としていた。
魔獣の親子が、血を流して倒れていた。
母親らしい大きな魔獣の亡骸は、口に出すのがおぞましいほど引き裂かれ、子供の魔獣の亡骸は両目と腹部から血を流していた。
「先生に言わずで飛び出してきちゃったし…怒られるよな?」
そっちの恐怖も感じながらテッドは数歩下がった。
すると背中が壁のようなものにぶつかった。
「へ?」
顔を上げると巨大な、熊のようにも見えて虎のような頭を持った不思議な姿の魔獣が立っていた。
「う、うわ!」
テッドは条件反射的に剣を抜き、跳び退った。
足が地面のぬかるみにはまり、上手くバランスが取れないが何とか立ち上がる。
「ぐうるるるるるる…」
唸る魔獣。
「く、くそ…」
自身では勝てない。
それを悟っているが逃げ道がない。
前にその魔獣。
後ろは奥地に続くぬかるみ道。
奥に行けば、危険度は増す。
「やってやる…」
刀に火という文字を曲げたようなものに円を組み合わせて陣…呪紋を書き、刀を空に向けるようかざす。
すると刀身に炎が宿り、燃え盛る。
「効くかわかんねぇけど…これでどうだ!!」
刀を振るい、振り上げて跳びかかる。
魔獣はそれを大木のような腕が防ぐが、炎がその深い体毛に燃え移る。
「ぐが!?」
炎は瞬く間に魔獣を包み込む。
しかし、それでやられてくれるわけがない。
燃え盛る腕をテッドに振り下ろし、一撃を加えたのだ。
その攻撃が当たったのは丁度右頬で、鋭い爪が頬を切り裂き、それと同時に火傷も負わせる。
「い、痛ってえええええええ!!」
そう叫んでしまう。
頬を押さえるとべったり血が付着。
切り裂かれた痛みと、さらにジリジリ痛む火傷の症状もある。
「ぐ…うぅ」
テッドは急いで手に魔力…命のマナを集めて自身の傷を治そうとする。
当然ながら、回復をするのを待ってくれる敵などいるわけがない。
魔獣は今度は両腕を振り下ろしてきた。
目を閉じてしまう。
ダメだ、やられる!
テッド!とヒスイの声がしたような気がした。
しかし、いつまでたっても腕は振り下ろされない。
ゆっくり目を開ける。
すると風の壁が魔獣の燃える腕を防いでいた。
「これ…」
「間に合いましたね」
女性の鈴の音の声。
後ろにペンダントを外し、手をかざしている女性が立っていた。
「お、お姉さん…」
「名前をまだ、言っていませんでしたね。私はジャネルです」
「じゃ、ジャネルさん、どうして…」
女性…ジャネルは魔獣の親子の亡骸を見て悲しげな顔をした。
「あの子達は、私に懐いてくれていた可愛い家族でした。それが…」
目を閉じ、前の魔獣を鋭い視線で射抜くかのように見つめる。
魔獣が唸る。
「この魔獣はこの湿地帯の魔獣達の中で一番凶暴で、生命力も体力もある。もちろん力も。それでこの湿地帯を支配している種族です」
ジャネルはスッと構えを取る。
空手に近い構えだ。
「生態系を壊してはいけないと思い今までほおって置きましたが…お前のことは許すことが出来ません」
するとジャネルが消えた。
「!?」
テッドは目を見開く。
するとジャネルが強力な回し蹴りを魔獣の腹部に叩きこんでいた。
「す、すご…」
しかし、テッドは自身の回復も急ぐ。
マナが集まり、それを頬に押し当てると温かい感触とともに痛みが引いた。
「はああああ!!」
連続で拳を叩き込むジャネル。
そして拳にマナ…これは風…を集中させ、顔を殴り飛ばした。
大きく魔獣がたたらを踏み、後退。
「テッド!」
ヒスイの声。
そっちを向くとヒスイが息を切らせて駆け寄ってきた。
「大丈夫かい!?怪我は?」
「治せたぐらいだから、大丈夫…でも、ジャネルさんが…」
「ジャネル?あの人のことかい?」
「うん。今、俺を守って戦ってくれてるんだ。それと…」
テッドは後ろを見る。
先ほど見た魔獣の親子の亡骸。
「あいつらの仇討ちに…」
「ここは人が来ない…だから魔獣であっても家族だった…ってことか」
「うん、ジャネルさんはそう言ってた。先生、加勢してあげて」
「分かった」
ヒスイは片膝を突いて地面に水の呪紋を描く。
その上に暗の呪紋。
この二つはヒスイの先天的な属性だ。
「仄暗き水、今ここに濁流となりて敵を巻き込め」
ヒスイがそう唱えているうちにテッドはジャネルを呼んだ。
「ジャネルさん!こっち!!」
その声に反応し、ジャネルは跳び退る。
それと同時に黒い大きな津波が魔獣を飲み込んだ。
「ジャネルさん!」
テッドは戻ってきたジャネルに声をかける。
「お怪我は、大丈夫ですか?」
穏やかな声。
「うん!大丈夫!」
「消えているところを見ると…命のマナでしょうか?」
「あんた、分かるのかい?」
ヒスイの言葉に苦笑するジャネル。
「こんな場所に住んではいますが、かつてはちゃんとダークエルフの里で暮らしておりましたし、情報は入ってきていました。それに意外と生きておりますので。命の賢者と何らかの関係がおありで?」
「それに関しては、黙秘権を使わせてもらうよ」
「そうですか、ならば深く追求はいたしません」
すると、ジャネルが吹き飛んだ。
前を見ると津波で火が消え、あちこちから黒煙を上げる先ほどの魔獣。
「先生!」
振り下ろされた魔獣の腕、ヒスイを押し倒すようにしてそれを回避させ、テッドは跳んで避ける。
ジャネルはすぐに体勢を整え、魔獣に向かって飛んだ。
その際、風が吹きジャネルを押していた。
「風のマナが普通より強い…あの人、先天は風のようだね」
ヒスイはポツリと呟く。
今度は拳に氷を宿らせ、両方の氷の拳の正拳を魔獣にお見舞いしていた。
氷は硬い。
単純に考えて痛さは相当だろう。
足には雷。
それによる何度もの蹴りは神経を麻痺させるほど痺れさせる。
痺れによって感覚がないのかふらふらになる魔獣。
今度は両足に竜巻を宿らせ、それをバネのようにして飛んだ。
全身は氷で覆われている。
それの先、尖った先が魔獣を貫いた。

ジャネルの家。
ルナは家の前でそわそわしながら、忙しく歩き回って待っていた。
(先生は待っていろって言ってたけど…心配だなぁ…)
「お〜い!ルナ!!」
顔を上げるとジャネルとヒスイ、そしてマンドルゴラが一杯入ったかごを持ったテッドが帰ってきた。
「皆!大丈夫なの?」
「ああ!見ろよこれ、ジャネルさんが場所教えてくれたんだぜ?」
テッドはかごを示す。
「これが、マンドルゴラ?」
「ああ、そうだよ。ジャネル、世話になったね」
「いいえ、皆さんとお別れになるのは寂しいですが…」
「ねえ、ジャネルさん」
テッドが駆け寄ってきた。
「はい?」
「待ちな、テッド。あんたが言いたいことは分かるよ」
「え?」
「ジャネル、旅に同行してくれないかい?」
「…私が、ですか?」
ジャネルは少し目を細めた。
「今、あたし達は旅をしてるんだ。そこには魔獣や魔族、強いやつらがたっぷりいることだろうね」
「…ええ、話は分かります」
その言葉にヒスイはこう切り出した。
「あんたの力が必要だ。同行してもらえないだろうか?」
「……」
ジャネルは目を閉じ、数秒たってから、
「…貴女の熱意に打たれました。共に行きましょう」
「ホント!?」
「ええ、私などでかまわなければ」
「よっしゃ!」
「あの、ジャネルさんが、いっしょに来てくれるってことなんですか?」
話が見えないらしいルナは首をかしげた。
「そう言うことだね。よろしく、ジャネル」
ヒスイは手を差し出す。
「はい、同じ…少し違いますがエルフ同士、仲良くいたしましょう」
「…分かってたのかい?」
「はい。貴女は純正エルフの混血のようですが。魔力の波動でなんとなく、です」
にこっと微笑むジャネル。
「…あんたには負けたよ。あたしはヒスイ。改めてよろしく」
「はい」
こうして、新たなる仲間、ジャネルが加入した。
次はどこに向かうのだろう?

続く▽

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