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SNOWBOARD NOVEL「CARPEDIEM」コミュのスピンアウト【ヤスヒロ編】

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「はぁ〜。ついに辞めちまった……」

俺は大きなため息をつきながら駐車場へ向かった。
そう。2年勤めた会社を辞めた。
仕事は車の営業。

仕事ができなかったわけじゃない。
販売成績はそれなり。
上司に怒られない程度の成績を納めていた。
お客さんからの評価もまずまず。
やりがいが無かったわけじゃない。

なぜ辞めたのかって?

ピーターパン症候群。
聞いたことありますか?
オトナになれないオトナ。
俺はオトナになりきれていないのかもしれない。
そんなことを考えていたら車に着いた。

この駐車場にくることももう無いな……。
職場のショールームからすこし離れた従業員用の駐車場。
人気の無い駐車場で車に乗り込む。

いつ辞めてもよかった。
いつでも辞めていいと思っていた。
タイミングだけを見ていた。

タイミング……。

営業所長が言った。
「お前、最近頑張ってるから俺の売った成績をお前に付けてやるから
責任持って納車してくれよ」
所長が売った車は各営業マンに割り振られる。
当然成績は割り振られた営業マンのものになる。
つまりなにもしていないのに販売台数が稼げる。
当然歩合給ももらえる。
要は所長に仕事ぶりを認められたボーナスってわけだ。

俺はそれを断った。

責任持って納車……。
これを受けたらまた辞めるタイミングを逃す。
そう考えたら今が辞めるタイミングだと判断した。

「所長……じつは……オレ……」
突然の話に所長はびっくりしていたっけ。
そしてさびしそうにしてたな……。

オレが人より早く出社してオフィスの掃除をしたり、洗車したり
ショールームの車を磨いたり、そんな姿勢を見ていてくれていた所長。
「考えなおせよ……」
そう言われたが、もう引き返せない。

生まれて初めて辞表を書いた。
転職雑誌にあった【円満退社の手引き】というコーナーを
読みながら、何度も書き直した。
皮肉にも入社するときに読んだ雑誌を、
退社のときに再び読み返すことになった。

エンジンをかける。
カーステレオから静かに音楽が流れはじめる。
出勤の時に何度も聞いた曲。
気分が乗らないときは大音量で聞いた曲。
今は静かに流れる。

これからどうしよっかな……。

入社が決まったとき、親は喜んだ。
ピーターパンがオトナになったから。
でも本当はピーターパンはピーターパンのまま。
会社を辞めたことは、親にはまだ話していない。

何度となく通った通勤路を家路に向かう。
今日も変わらずいつもの風景だ。
いつものカドを曲がり、いつもの信号に捉まる。
全ていつも通り。
そんな些細な事がピーターパンには大きな事だったのかも。

信号を待つ間、車の窓を開けた。
12月の夜風は肌に冷たい。

会社を辞めたら……。
いつか会社を辞めたら……。
会社を辞めたら、やってやろうと思っていた事がある。
それは、スノーボードをしに新潟へ行くこと。
旅行ではなく、新潟に住む。
住んで、生活して、毎日山に上がる。

それで?
その後のことは考えていない。
それがピーターパンがピーターパンである所以なのだろう。

きっと春がくればオトナになれるさ。


ピーターパンはまだオトナになれない。

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