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荒野に生きるチームコミュの吉良 Change the worlD vol.94

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【第93話】http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=31175641


「吉良くん‥‥ごめんなさい」
「どうしたんだ、単衣先輩」
「どうしても謝っておきたいことがあるの。吉良くんは忘れているみたいだし、今さら謝って済むことでもないし、私の自己満足と言われたらそれまでなんだけど」

 希美は吉良の腕の中で、時折苦しげに、弱々しい寝息をたてている。

「‥‥あの事件なら、俺が先輩を守れなかったから‥‥」
「違うの。そうじゃないの。あの事件で襲われたのは、私じゃない」

 由美子は涙の浮かんだ目を伏せた。大粒の涙が、今にもこぼれ落ちそうだ。

「カンちゃん、あなたなの」
「!?」

 それを聞いた瞬間、吉良の脳裏には今まで消していた記憶が、怒涛のごとく押し寄せた。それはあまりに耐え難い12年前の記憶。吉良がまだ小学校に上がったばかりの暑い夏の日だった。

「私は、カンちゃんを置いて逃げ出した。その場だけじゃなくて、沖縄からもね。事件が金城先生によって解決したのも、東京で聞いたのよ」

 軍服を着た大人たちの大きな手が、吉良に向かって伸びてくる。その手は吉良の服を破りとり、ボタンが弾け、服が破けたことを母に叱られると思った。
 恐怖の時間が終わるまで、どれほどの時間が経ったのだろう。俺は徹底的に打ちのめされていた。もはや自分は男ではないと思った。
 男たちを叩きのめした金城先生と一緒に帰ってきた吉良を、母が泣きじゃくりながら抱き締めたのを覚えている。

「あれは‥‥俺だったのか」
「人は、自分を守るために、簡単に自分の脳を騙すのね。レイプされたあなたが、わたしを被害者だと思い込むことで自分は被害を受けていないということにしたのは無理もないわ」

 そうだ。俺は米兵に暴行された。しかしユミちゃんが被害者だと思い込んだから、次は守れるように強くなろうとした。反面、暴行された自分はもう男ではないと思った。だから女装を始めたのだ‥‥。

「そうか‥‥そうだったんだな」
「うん。ごめんなさい、カンちゃん。だからもう、苦しまないで」

 海が、空が、突然鮮やかな色彩を放った。

−ああ、これまで俺は色のない世界で生きていたんだ。いや、生きてさえいなかったのか。苦しんでいることさえ、自覚できていなかった。そして常に言っていたのだ。「くだらん」と。
 それをたしなめてくれた先生もいた。「世界は美しいものよ。くだらなくなんてないわ」と。あれは‥‥。

「う、ううん」
「希美」

 希美がうっすらと目を開けた。唇は、何かを語ろうとしている。

「希美、なんだ」

 吉良は耳を希美の口元に寄せた。

「青い瞳のカーン‥‥ちゃん、世界は‥‥まだ‥‥くだらない?」

 吉良は目をむいた。青い瞳のカーン。それは子供の頃に、ただ一人だけに呼ばれた名前だった。
 辛いことがあった吉良にせめて勉強だけはと、母がつけてくれた家庭教師‥‥。

「‥‥のぞみ先生。世界は、美しいです」
「良かった‥‥。じゃあまたね、お兄ちゃん」

 希美は、逝った。

【Epilogue】

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