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めさのマイミク拡張エリアコミュの11月のメリークリスマス(後編)

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<裕次郎>

 謎のおばさんと一緒に、やすらぎの家前で車から降りる。
 同時に別の車がこっちに来て、スーツ姿で茶髪のカッコイイお兄さんが運転席から現れた。

「あ、いたいた! お疲れ様です!」

 最初はおばさんに対して言ったのかと思ったんだけどそうではなくて、彼は両手で抱えられそうに大きな白い袋を僕に渡そうとしてくる。

「これ、頼まれたやつです」
「え? え?」
「じゃあ僕もお客さんお待たせしてるんで、これで失礼しますね! 夜にまた!」

 手短に告げると青年は颯爽と車に乗り込んで走り去ってしまった。

 今のお兄さん誰?
 この巨大な袋は何?
 僕の隣に当然のようにいるこのおばさんだって何者なんだか知らされないままだし、なんだか今日はわけの解らないことばっかりだ。

 インターフォンは壊れているので玄関はノックをする。
 軽く叩いてもガラス戸はガシャンガシャンと派手な音を立てた。

「あらまあ」

 管理者のおばあさんは今日も愛想良くしてくれる。

「これはこれはどうもお疲れ様でした」

 深々と頭を下げられ、僕も釣られておじぎで返す。

 顔を上げると、おばあさんは嬉しそうに笑った。

「みんなねえ、本当に楽しそうに笑っててねえ。あんなに楽しそうな子供たちは久しぶりですよ」

 それは昨日の話をしているのだろうか。
 めちゃめちゃ静まり返してしまったのに、実は喜んでもらえてたってこと?
 とてもそうは思えなかったけれども。

 おばあさんは不思議そうにしている僕の様子に気がついていないらしく、絶賛の嵐だ。

「さすがお話が上手ねえ。もっと聞きたい、またあのお兄さんに来てもらいたい、ってねえ、たった今も子供たちみんな言ってたのよ」

 この言葉に背後から謎のおばさんが「へえ、やるじゃない」とつぶやいた。

「それで、あの」

 と、おばあさんの言葉を遮る。

「ちょっと遅くなっちゃって申し訳ないんですけど、今からまたやらせてもらってもいいですか?」

 するとおばあさん、「え、また!?」とやたら大きく驚いた。

 昨日のネタがやっぱり面白くなかったからだろう。
 僕は焦って両手をバタバタと左右に振る。

「あ、あ、違うんです! 前回とは全く違う内容なんで、是非やらせてください! こちらの都合でこんな時間になってしまったのでお願いしにくいんですけども、どうかお願いします!」
「いいええ、とんでもないですよ。子供たちも喜びます。じゃあちょっとみんなに声かけてきますね」
「ありがとうございます! あ、どっか着替えるところはありますか?」

 こうして僕は再び子供たちの前に立っている。

 若いお客さんたちは誰もが目をキラキラと輝かせていて、中には期待感たっぷりといった体で身を乗り出している子までいる。
 まるでもう既に会場が温まっているかのような和んだ空気だ。

「みんな、遅くなってごめんね! また来たよ!」

 元気よく言うと子供らは歓声を上げ、大きな拍手で迎えてくれた。

 なんか僕もの凄く好かれてる。
 こんな感じは初めてだ。
 めちゃめちゃやりやすい。

 僕は自分が着ているサンタの衣装が見えるよう、両手を広げて見せた。

「ご覧の通り、僕ね、実はサンタさんだったんだよ。いやあ、本当に遅くなっちゃった。ねえ君!」

 僕から近い席に座っている小学生の女の子に声をかける。

「今ってさ、何月なのかなあ? 判る?」

 すると女の子はとても高いテンションで「11月ー!」と大きな声を出した。

「11月ー!?」

 僕はわざとらしくびっくりし、その勢いで後ろにひっくり返ってみせる。
 途端、数々響く笑いの声。

 なんだこの好感触。
 めちゃくちゃ楽しいぞ!
 こんなにも自分を出しやすいライブは初めてだ!

 よろよろと尻をさすりながら立ち上がる。

「いてて…。そっか、11月かあ…。なんてこったい。ってことは僕、11ヶ月も遅れてきちゃったのかあ。みんな本当にごめんね!」

 謎のおばさんはというと部屋の奥で腕組みをして黙って見てる。
 あの人のことは気にせず楽に続けよう。

 今日のネタは、昨日一晩かけて一生懸命考えた。
 経営者のおばあさんから聞いた切ないお話をモデルにさせてもらっている。

 テーマは、へこたれないサンタさん。

「今転んだお尻がまだ痛い。もうね、僕いつもこうだよ。去年なんてこんな感じだった」

 チワワに追われ、噛まれる状況を動作とセリフで表現する。
 すると笑い声。

 次は煙突を探してうろうろしていたらお巡りさんに見つかってしまうシーン。
 常軌を逸した苦しい言い逃れで誤魔化す場面を演じる。
 また笑い声。

 忍び込んだ家で泥棒と間違われ、通報されるとさっきのお巡りさんにまた出くわしちゃった!
 大爆笑!

 もう楽しくて楽しくて。
 楽しんでもらえてることが最高に楽しくて。
 ネタ作りのときには想定していなかったアドリブを調子づいて入り混ぜちゃったりなんかもして。

「サンタクロースはね、人数が少ないからプレゼント配るの大変なんだ。君たちのところにだってそうだし、大勢の子供たちの元に行かなくちゃいけない」

 いよいよ締めに取り掛かる。
 僕の中で再び緊張感が蘇る。

「僕ぐらいドジなサンタさんは珍しいけれど、それでもね、サンタは全員、みんな頑張っているんだよ。なんだけど、今日みたいに遅れちゃったり、プレゼントを間違えてしまったりすること、これからもたくさんあると思います。ごめんなさい。
 でもね! サンタクロースは諦めない! 最近のオモチャのことが判らなくても、1年2年遅くなってしまっても、僕ら一生懸命やるから! みんなが笑顔で過ごせるように頑張るから! だから、たまにしか来てあげられなくて申し訳ないけど、僕たちからのプレゼント、大事に大事に使ってあげてください。貰った物は大切に使ってください」

 僕は最後に「物を大切に扱える素敵な大人になってください」と付け加え、その場を後にする。

 子供たちはさっきと違って静まり返っていたけれど、やがて誰かがパチパチと手を叩いて、思い出したかのように他の拍手が起こって、やがて音が土砂降りのような音量にまで育って、僕はそれを背中で聞いた。

 これで、僕は次の町に旅立てる。
 そう思った。

 気づけば暖かい涙が頬を伝わっている。

 よかった。
 本当によかった。
 これからも僕は、諦めなくてもいいんだ。
 夢を追い続けても、いいんだ。

「見させてもらったわ」

 あのおばさんが壁に寄りかかっている。

 僕は慌てて涙を拭った。

「はあ。ありがとうございます」

 結局この人がどこの誰なのかは判らないままだけど、今更訊くのもおかしい気がするし、もういいやと思う。

「僕、このまま行きますね、おばあさんに挨拶してから」
「そう。あたしはじゃあ、その後にしようかしら」
「え?」
「ちょっとね、ここの運営者に訊きたいことができたのよ」
「はあ、そうですか」
「また会いましょう」
「え、あ、はい」

 やすらぎの家を出て、僕は駅へと歩を進める。
 近所のおじさんにまた車をお願いするのも悪いから、徒歩だ。

 見上げるとすっかり日が暮れていて、星が綺麗に見える。

 人は誰でもサンタクロースになれるのだ。
 そんな当たり前のことを思って、口に出してみる。

「人は誰でもサンタクロースになれるのだ」

 そう。
 そして、サンタクロースはへこたれない!
 どんなに遅れても、サンタは絶対に諦めないのだ!
 いつか必ずお笑い芸人になってやる!

 駅についたらコインロッカーに預けた荷物を引き取って、そしたら切符売り場の前でコイントスをしよう。
 そうして次の行き先を決めるんだ。

 次の町を想い、僕は早くもその景色を想像する。
 そうだ。
 せっかく用意したんだからサンタの衣装はまた使おうかな。

「あ」

 つい口に出る。
 サンタの衣装で思い出した。
 あの茶髪のお兄さんがくれた白い大袋、やすらぎの家に置いてきちゃった。
 あれの中身、一体何だったんだろう。



<真矢>

「いらっしゃいませ。この時間帯にいらっしゃるだなんて珍しいですね。それにお1人だなんて初めてじゃないですか」
「ちょっと色々しててね、遅くなっちゃったのよ」
「いえいえ、嬉しいですよ」

 目黒が店にやってきたのは日付が変わる間際の頃だ。

 いつものように奥へと通し、ソファに座ってもらう。
 スマートに見えるよう、流れるように水割りを作って差し出す。
 ご一緒しても良いですかと短く断りを入れ、了承を受けて自分の酒も用意した。

「いただきます。乾杯」
「お疲れ様」

 2人同時に酒を口に含んだ。

 グラスを置いて、俺はバツが悪そうに顔を歪める。

「僕の負けです」
「やられたわ、あなたには」

 ほぼ同じタイミングで目黒も開口していた。

「え?」

 驚いて彼女を見る。
 目黒は涼しげな調子だ。

「見事にやってくれたわね。私の負けよ」

 彼女は何を言っているのだろうか。
 1週間で人生を変えろとのお達しは今日が最終日で、俺は何もできなかったではないか。

 相変わらず真意が読めず、聞きに徹することしかできない。

「やすらぎの家、っていったかしら?」

 やはりあの施設、目黒と関係があったのだ。
 俺は「ええ」とだけ返しておいた。

「吉川さんに色々と話を聞いたんだけど」
「吉川?」
「呆れた。あなたあそこの経営者の名前も知らなかったの?」
「ああ、いえ、失礼しました」
「吉川さんから色々と伺ったわ」

 どうやら目黒もあのご婦人から長話を聞かされたらしい。

「今の市長は駄目ね。前々から予算の使い方が偏っていたとは感じてた。どう考えても予算の優先順位がおかしいわ」

 珍しく感情的になって、目黒は2口目を飲んだ。

「予算の問題、なんとかしましょう。市長に影響力のあるコネぐらい、私にだってあるわ」

 その発言に俺は目を丸くした。

「ということは、あの施設、閉鎖しないで済むんですか!?」
「ええ、そういうことにしてみせる」
「老朽化した建物はどうするんです?」
「これね、吉川さんからお借りしてきたの」

 言って目黒はボロボロになった大学ノートを鞄から取り出す。
 中を拝見すると個人名とその住所、連絡先などが書いてある。

「全部で62人、あの施設から出ているの。みんなそれぞれ仕事をするなり家庭を持ったり、しっかりと暮らしているみたい」
「へえ、いわばあの施設の卒業生ってわけですか」
「全員と連絡を取ったわ」
「え!? 今日ですか!?」
「そう。さすがに誰もが在宅していたわけじゃなかったから全員と話せたわけじゃないけど」

 目黒が穏やかに笑んで続ける。

「事情を話したら何人かの主婦が交代交代で手伝いを名乗り出てくれたわ」
「へえ、それはいい。あのおばあさん、助かるでしょうね」
「大工になっている人もいたし、建設業に携わっている人もいた。来月から忙しくなるわよ」
「あ」

 目黒が言いたいことが解ったような気がした。

「そう、察しがいいわね。安く請け負うと約束はしてくれたけど、さすがに市から出るお金だけじゃ足りないでしょう。これは私が個人で負担します」

 綺麗に建て直されたやすらぎの家がふっと脳裏に浮かんで、思わず鳥肌を立ててしまった。
 もしかして俺は今感動しているのか?

「全く」

 目黒がふっと息を吐いた。

「あなたにしてやられたわ。まさか若い頃の情熱を蘇らせるなんてね」
「いえ、僕は何もしていません」

 これは謙遜しているわけでもなんでもなく、本当に何もしていないから出た言葉だ。
 しかし目黒の耳には届いていなかった。

「たまたまとはいえ、あなたに頼んでよかった」

 加えて目黒はぼそりと「病気に負けてる場合じゃないわね」とつぶやいた。
 寂しさを帯びたその言葉が、あの要望の根源にあるような気がした。

「見届けさせていただきます。最後まで」

 言うと目黒は初めて笑顔を見せる。

「お願いするわ。…あ、そうそう」

 せかせかとした様子で目黒が再び鞄をまさぐる。

「これ、返品ですって。サンタクロースさん」

 差し出された小箱は1度梱包が解かれた形跡があった。
 それが再び包み直されている。
 なんだろうと開けると、中にはミンテンドウDSが入っているではないか。

 どうやら零士の奴、遅刻はしたがちゃんと頼んだ物を持って来ていたらしい。
 万が一ウケが悪かったときのため、金に物を言わせて用意した子供たちへのプレゼント。
 いわば袖の下ってやつだ。
 ご婦人から話を聞いていたから物の1つはDSを選んだのだが、それが返されてしまうとはどういうことだろうか。
 他のオモチャはちゃんと全員に行き渡ったとは思うのだが。

「あそこの子から預かってきたの」

 首を傾げていると、目黒から水色の封筒を渡された。

「今読んでも?」
「ええ、どうぞ」
「ちょっと失礼」

 目を通すと、子供の文字が次のように並んでいる。

 サンタさん、ミンテンドウDSをくれて、どうもありがとうございます。
 でも、ぼくは、これはいりません。
 ぼくはきょねん、ミンテンドウDSをほしいといったのに、ゲームワールドアドバンスが入っていて、そして、それをよしかわママの前ですててしまいました。
 あとになって、サンタクロースがだれなのか気がついて、ぼくはゲームワールドアドバンスをひろって、そして、いっしょに入っていたゲームで遊んでみました。
 とても面白かったです。
 でも、よしかわママにかわいそうなことをしてしまいました。
 よしかわママに、いつか、ありがとうとごめんなさいを言いたいです。
 ゲームワールドアドバンスでもうれしいです。
 だから、ぼくは、ミンテンドウDSはいりません。
 サンタさんがせっかくくれたのに、かえしてごめんなさい。
 これは、ほかの子供にあげてあげてください。
 さっきサンタさんが言っていたように、ぼくは、物を大事にしようと思います。
 ゲームワールドアドバンスを大事にして、そして、色んなゲームで遊ぼうと思います。
 でも、サンタさんには、また来て、そして、面白いお話をもっとたくさんしてほしいです。
 だから、また来てください。

 読み終えて、俺はグラスを持ち上げ、中身を少し飲む。

「これは吉川さんに教えてあげたいですね」
「そうね」
「目黒さん」
「なあに?」

 俺は改めて目黒と向かい合う。

「僕の名前、真矢ってのは源氏名です」
「ええ、そうでしょね」
「普段隠している本名なんですが、これがその、親には申し訳ないんですが、率直に言いますとダサくてね」
「へえ、なんて名前なの?」
「漢数字の三に太郎の太。三太っていうんですよ」

 あはは。
 2人で声に出して笑い合う。

「ふう」

 俺は背もたれに身を預ける。

 そうか。
 あの施設、まだこれからも運営を続けられるのか。

「目黒さん、やっぱり負けたのは僕のほうです」
「あら、どうして」
「あなたの人生を変えようと意気込んでみましたが、結果、人生を変えられてしまったのは僕のほうでした」

 今度は目黒が目を丸くする。

「どういうこと?」
「やすらぎの家、跡取りがいないとも言ってましたね、吉川さんは」
「ええ、おっしゃっていたわね」
「ホストなんて一生続けられる仕事じゃないです」
「あら」
「ああ、いえ、今日思いついたことなんで、まだ決心はしていないんですよ。でも、やすらぎの家は無くならないことを目黒さんが教えてくださいましたし、ちょっと考えてみてもいいかな、と」
「いいんじゃない? 向いてるわよ、あなた。子供にウケがいいもの」
「え!? もしかして、見ていらしたんですか!?」
「あら、気づかなかったの? 真正面にいたのよ? 部屋の隅だったけど」
「これはお恥ずかしいところをお見せ致しました」
「いいえ、楽しかったわよ」

 再び笑い合う。
 まさかこの人とこんなに気安く談笑をすることになるだなんて、昨日までは思いもしなかった。

「目黒さん、もう1度乾杯しませんか?」
「いいわよ。何に?」
「子供たちと吉川さんに」

 再度、グラスが小さく音を立てる。

「メリークリスマス」

 気取った調子になって、俺は精一杯キザにグラスを掲げた。



 ――了――

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