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めさのマイミク拡張エリアコミュの【ベタを楽しむ物語】終わりと始まりのプロポーズ【第4話・昨日からの卒業】

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 第1話・再会
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 第2話・募る想い
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 第3話・すれ違う想い
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−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 まだ小さな子供だったあの頃は、本当に、本当に幸せだった。

「僕が、君のお婿さんになってあげる」
「なんか男らしくないー」
「…一生、君を守るよ」
「それだったら、まあ、いいかな」

 結婚できる歳になったら一緒に住もうなんて約束も、2人でしたっけ。

「あたしが16歳になったら結婚しよー!」
「ダメだよ、さっちゃん。男は確か、18歳にならないと、結婚できないんだよ」
「じゃあ、なおくんが18歳になったらね!」
「うん!」
「いつなるの?」
「えっとね、えっとね、今3歳だから、ずっと先の3月!」
「どんぐらい先?」
「わかんない。18歳になったら!」

 それであたしたちは、大きな桜の木の根元に手作りの指輪を埋めた。

「ベス…」

 あたしはベットに腰掛けたまま、古びたクマのぬいぐるみを顔の高さまで持ち上げる。

「あたしたち、もう、一緒に居られないのかなあ…」

 冬休みが終わって、新学期。
 もうすぐ卒業式だ。

 あたしはずっと沈んだ気分のままで、学校で無理して明るく振舞うのが辛かった。

 頭の中には近藤くんの、あの言葉が今でもリピートしている。

「僕ら、ほら。友達、なんだからさ」

 友達、かあ。
 そうだよね。
 通じ合っていたのは子供の頃だけ。
 今はあたしの片想いなんだ。

「はあ」

 あれから何ヶ月か経っているというのに、あたしの溜め息はとても深い。

 ふと、電話の音に気づき、あたしは重い腰を上げる。
 受話器を取った。

「はい、畑中です」
「あの、あの…! 畑中早苗さん、いますか!?」

 女の子の声だ。
 誰だろう?

「はい、早苗はあたしですけど」
「あの、あの…! 初めまして! あたし、近藤直人の妹なんですけど」
「…え!?」
「突然すみません! お兄ちゃんのことでお話したくって、あの、今からどっかで逢えませんか!?」

 あたしはその勢いに押され、「はあ」と曖昧な返事をする。

 公園で待っていた中学生の女の子は、あたしに勢いよくペコリと頭を下げた。
 妹というだけあって、どこか近藤くんと似た面影がある。

「突然呼び出しちゃって、すみません!」
「あ、いえ」

 ブランコの正面にあるベンチに、あたしたちは腰を下ろした。

「お兄ちゃん、ここ最近ずっと元気がないんです」

 妹さんは、そう切り出した。
 真ん丸な目をあたしに向けている。

「さっちゃんさん、なにか知りませんか?」
「あたしは別に…」

 ふと、近藤くんが綺麗な女の人にキスされている場面が脳裏に蘇り、あたしはそれで口を閉ざした。

 わずかに風が吹いて、彼女のツインテールが小さく揺れる。

「やっぱり、何かあったんですね」
「…え?」
「ケンカ、しちゃんたんですか? お兄ちゃんと」
「…近藤くんは、なんて?」
「お兄ちゃんからは何も聞いてないです。でも、さっちゃんさんの話をしなくなっちゃって、毎日暗い顔ばっかしてて…」

 妹さんは立ち上がり、真剣な眼差しをあたしに向けた。

「お兄ちゃんと、仲直りしてくれませんか!?」

 そのままガバっと腰を90度に折り曲げる。

「お願いします!」
「ちょ、そんな、やめてよ!」

 彼女に手を添え、身を起こさせる。

「近藤くんはあたしのことなんとも思ってないんだし、仲直りなんてしたって…!」
「え!? もしかして、さっちゃんさん、気づいてないんですか?」
「え…? 気づいてないって…、なにを…?」
「お兄ちゃん、さっちゃんさんに恋してます」
「そ、そんな…! そんなことないよ! だって近藤くんには恋人が…!」
「恋人…? それ、なんの話ですか?」

 あたしはそれで、あの日に見てしまったことを話す。
 ノートを届けに家まで行ったら、近藤くんとお姉さんがキスしていた、思い出したくない目撃談。
 その後、近藤くんから「好きな人がいる」と告げられてしまったことも、気づいたら口にしていた。

「あ〜」

 妹さんは何かを察したかのように、自分の顎先に指を当てる。

「さっちゃんさん、それ、誤解ですよ」
「誤解?」
「ええ。お兄ちゃんに彼女なんていません」
「でも、家の前で…」
「それ、本当にキスだったんですか?」
「いや、そこまでは…」
「そのこと、お兄ちゃんにちゃんと訊いたほうがいいです。お兄ちゃんの好きな人が誰なのかも、ちゃんと聞いてあげてください」

 彼女は最後に、「だらしなくて頼りないお兄ちゃんだけど、これからもよろしくお願いします!」と頭を下げた。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 放課後、僕は帰る支度もせず机に突っ伏し、窓の外を眺めるともなく見つめる。
 曇っていた空がじきに雨を降らせ、僕にあの日のことを思い出させた。

「いやあ、参ったなあ。もう逢えなくなるみたいな言い方しないでよ。これからもさ、なんかあったらまたみんなで遊ぼう? 僕ら、ほら。友達、なんだからさ」
「そ、そうだよね! あたしたち、友達、だもんね! これからもまた、あ、遊ぼうね! …さよなら」

 もはや溜め息をつくエネルギーさえもない。

 雨音は強まり、やがて土砂降りになった。
 まるで僕の心の中みたいだ。

「近藤」

 声のほうに振り返る。
 そこには神妙な面持ちをした春樹が立っていた。

「どうしたんだよお前。ここ最近ずっと変だぞ」
「そ、そんなこと、ないよ」
「1人で抱え込んでんじゃねえよ」
「べ、別に悩んでなんかいないさ」
「どうせ、さっちゃんとなんかあったんだろ? 仲直りできねえのかよ?」
「う、うるさいな。放っといてくれよ」

 僕は鞄を掴むと教室を出る。

「おい近藤! 待てよ!」

 春樹は靴を履き替えて昇降口を出たあとも追ってきた。
 土砂降りの雨の中、2つの傘が足早に進む。

 春樹が僕の肩を掴んだ。

「1人で悩んでねえで、たまには相談しろって!」
「うるさいな! 放っといてくれって言ってるだろ!」
「やっぱりさっちゃんのことか? ケンカでもしたのかよ?」
「頼むから、そっとしておいてくれ!」

 怒鳴ると、春樹は「ふざけんな!」と声を荒らげる。

「こっちはな! いい加減、お前の暗い顔見るのはうんざりなんだよ!」
「だったら見なきゃいいだろう!?」
「なんだと!?」
「なんだよ!」

 傘を放り投げ、僕らは大雨の中で胸ぐらを掴み合う。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「せっかく来てくれたのに、ごめんなさい、さっちゃんさん」

 意を決して近藤くんの家を訪ねると、出迎えてくれたのは妹さんだった。

「お兄ちゃん、今は誰とも逢いたくないって言ってて…」
「そう…」
「あ、気を悪くしないでください。さっちゃんさんだから逢いたくないんじゃなくて、お兄ちゃん、お友達とケンカしちゃったみたいで、それで凹んでるだけなんです」

 妹さんは必死になって弁明してくれていたけれど、その言葉は耳には入ってこなくて、あたしはただ「ごめんなさい」と残す。
 雨の中、とぼとぼと家路についた。

 夜中、あたしは自室で机の上にある電気スタンドに明かりを灯す。

 臆病なあたしの、ささやかな自己表現。

 いつも以上に細かな字をハガキにしたためていった。
 こうでもしないと、悲しみに押しつぶされてしまいそうだからだ。

 幼い日に、大好きな人と将来を誓い合ったこと。
 そんな運命の人と、気づかぬうちに再会していたこと。
 再び恋に落ちて、でも上手くいかなくて。

 書いていくうちに涙がぽたぽたと落ちて、水性ペンの文字をにじませた。

 今まで何度かラジオに投稿していたけれど、これでもうおしまいにしよう。
 このハガキが、最後の公開日記だ。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 青春いっぱいのはずの高校生活がいよいよ明日で終わろうとしている。

 片想いは幕を閉ざしたし、親友にも嫌われた。
 まさかこんな沈んだ気分で、卒業式を迎えることになろうとは。

 ぼうっとしていると、いつからか電話が鳴っていることに気づき、僕は死んだ目のまま受話器を持ち上げる。

「…はい、近藤です」
「近藤か!? 俺だ!」
「…春、樹…?」

 意外な相手だった。
 つい先日ケンカしたばかりの僕に、一体なんの用があるっていうんだ?

「近藤! お前今日、誕生日だよな!?」「え? ああ、そうだけど」
「ラジオ聴け!」
「え?」 

 言ってることの意味が解らない。
 しかし春樹は「FM桜ヶ丘だ!」とまくし立てる。

「いいから言う通りにしてくれ! 頼むから今すぐラジオ点けろ! 今すぐだ! 電話切るから絶対聴けよ! じゃあな!」

 一方的に電話を切られる。

「なんだっていうんだ…」

 ぶつぶつ言いながら、僕は机の上にあるラジオのスイッチをいれた。

 軽快なBGMと男性DJの弾んだ声が流れる。

「…こうしてあたしは幼い頃に大好きだった彼と再会しました。
 いいねー! 不良に絡まれているところに助けに入ってくれた人が運命の人だったなんて、なんてロマンチックなんだい」

 思い当たるエピソードだった。
 僕は大急ぎでラジオのボリュームを上げる。

「…でも、あたしの勝手な勘違いのせいで、彼の話を聞いてあげられなくて、あの人を傷つけてしまいました。今じゃもう、逢いに行っても逢ってもらえません。どうしても謝りたいのに。
 もうすぐ、彼は18歳になります。昔あたしたちが結婚するって約束をした日が、もうすぐそこまで迫っています。あたしはその日、指輪を埋めた場所でずっと彼のことを待とうと思っています。
 あたしが幼馴染だってこと、彼は気づいてないのかも知れない。気づいていても、約束のことを覚えていないかも知れない。だから、あの桜の丘にはきっと、誰も来ないんだと思います。それでもあたしには何よりも大切な誓いです。
 Nくん、大好きだよ。こんなあたしで、ごめんね。
 …ラジオネーム、恋するSちゃん! いやあ、切ないねえ! そんな恋するSちゃんに捧げるナンバーはこちら! 春の日フォーリンラブ!」

 なんてこった!
 僕の誕生日っていったら今日じゃないか!
 時計を見るまでもなくなく、とっくに日が暮れている。
 こうしちゃいられない!

 僕は着の身着のまま自宅を飛び出す。
 そこには意外な人影があった。

「俺からのバースデイプレゼントはここからだぜ近藤!」
「春樹…!」

 アパートの前で、春樹が自転車に股がっている。

「乗れ!」

 何が起こったのか解らなくて混乱してしまったけれど、僕はもつれた足でせかせかと自転車に乗り込む。
 春樹が叫んだ。

「飛ばすぜ! しっかり捕まってろよ!」

 2人乗りとはとても思えない勢いで自転車が加速してゆく。

 春樹に謝ったらいいのかお礼を言ったらいいのか判断できなくて、結局何も言えない。

 自転車が細い道に入る。

 どこかで聞いたことがあるような男の声がした。

「あれ? おいテツ。あいつ、いつかの…」
「おう、待て兄ちゃん、コラぁ〜!」

 春樹が「ちっ! 西高の奴らか」と毒づいた。

 以前さっちゃんに絡んでいた2人が、行く手を塞いでいる。

「おうヒーローさんよお、会いたかったぜコラぁ〜」
「オメーのおかげでこちとらポリ公に散々絞られたんだ。たっぷりお礼させてもらうぜコラぁ〜」

 よりによって、こんなときに。
 最悪だ。

 僕の顔色は相当悪くなったに違いない。
 解決策がまるで見えなかったからだ。

 しかし、春樹が自転車を降り、ハンドルを僕に持たせる。

「近藤! 俺のチャリ使え!」
「え?」
「あの丘には別の道からも行けるだろ?」
「え、でも春樹、お前が…」
「行け近藤! これ以上、さっちゃん待たせるんじゃねえよ」

 不良たちが迫ってくる。

「なにごちゃごちゃ言ってんだコラぁ〜」
「西高の風神テツと雷神カズ舐めんじゃねえぞコラぁ〜」

 そんな彼らの声をかき消すかのように春樹が吠える。

「行け近藤!」

 すまない!
 と告げて、僕は自転車に股がった。

「あ、待ちやがれコラぁ〜!」
「逃がさねえぞコラぁ〜!」
「おっと!」

 春樹が2人組の前に立ちはだかるのが、背中越しに解った。

「ここから先は通行止めだぜ?」

 すまない、春樹。
 ありがとう。

 心の中で告げながら、ペダルを漕ぐ足に力を込める。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 小さなシャベルでそこを掘ると、出てきたのは小さな箱だ。
 開けると、出来がいいだなんてお世辞でも言えないようなリングが2つ。
 知らない人が見たらゴミにしか見えないだろうなあ。
 色付きの針金で作られた婚約指輪だ。

「あはは。ちっちゃい」

 3歳児の薬指に合わせたサイズのそれは、付けてみると指の途中で止まった。

 あの頃は、一生懸命これを作って、この桜の木の下で結婚するなんて夢を2人で思い描いていたっけ。
 この指輪が入らなくなるぐらい大きくなった今は、そんな夢ももう見ちゃいけないのかも知れない。

 ぽたりと、指輪に雫が落ちた。

「なおくん、素直になれなくって、ごめんね」

 あたしは無理に笑って桜の木を見上げる。

「えへへ。一生、一緒に居たいのは、昔も今も変わらないんだけどなあ。あたし、やっぱりダメだなあ」
「ダメなんかじゃないよ!」
「…え?」

 驚いて振り返る。
 あたしはそれで、さらに驚くことになった。

 近藤くんが息を切らせ、肩を大きく上下させている。

「近藤くん!? どうして!?」
「さっちゃんに、言いたいことがあって」

 春を思わせる暖かい風が吹いて、さあっと夜桜が揺れた。

「あたしに、言いたいこと?」
「うん」

 近藤くん、いや。
 なおくんが息を整えて、あたしの正面に立つ。

「僕が、君のお婿さんになってあげる」

 涙が一気にこぼれだすのを、あたしは必死に笑って誤魔化した。

「なんか、男らしくないー」

 桜の花びらが踊る。
 なおくんが優しげな目で、あたしの髪を撫でた。

「…一生、君を守るよ」
「それだったら、まあ、いいかな」

 えへへ、とあたしは涙を拭う。
 なおくんの胸に顔を埋めて、あたしは彼の背中に手を回した。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「約束、覚えててくれたんだ」

 抱きしめると、さっちゃんはポツリとそう言った。

「もちろん」

 包み込むようにして彼女の髪に手を添える。
 夜風がまた吹いて、桜の花びらをさらに降らせた。

 ふと丘の麓で何かが動いたような気がして目をやると、親友が気取った素振りで肩をすぼめている。
 春樹はそのまま踵を返すと、背中越しに手を降って自転車に乗り、帰ってゆく。

「どうしたの? なおくん」
「ううん、なんでもないよ。それより、待たせてごめん」
「えへへ。15年も、だもんね」

 僕も少し笑って、さっちゃんから指輪の片方を受け取った。
 それはとても小さくて、薬指の先で止まってしまう。

「ちゃんとした指輪、買わなきゃいけないなあ」
「ううん。これで充分だよ」

 さっちゃんが僕の首に腕を回した。

「その代わり、守ってね。一生」

 彼女が目を閉じて、つま先立ちをする。

 桃色の花びらが僕らを包み込んだ。

 3歳のときに1度。 
 18歳になって、もう1度。

 どうやら2回で、僕のプロポーズは成功したみたいだ。



 ――了――

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 参照リンク。
【ベタを楽しむ物語】春に包まれて
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1550468573&owner_id=1137065

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