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めさのマイミク拡張エリアコミュの【ベタを楽しむ物語】春に包まれて【第8話】

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【第1話】
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【第2話】
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【第3話】
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【第4話】
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【第5話】
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【第6話】
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【第7話】
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−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 あのとき、佐伯がピロティにいたってことは、伊集院とくっついちまったってことだよな。

「ふう」

 少し長い溜め息と同時に、俺はベットに倒れ込む。
 大吾郎が俺の腰に「にゃー」と鳴きながら乗ってきた。

 あれからというもの、佐伯には何も訊くことができず、俺はこの2ヶ月をもやもやとした気持ちで過ごしている。
 佐伯の態度はというと、伊集院と上手くいっているからなのか、俺に対して上機嫌だ。
 こうしている今だって窓を開けて入ってくるかも知れない。

「俺ン部屋に入ってきたりして、伊集院の奴に怒られたりしねえのか?」

 そう、さり気なく探りを入れてみたこともあった。
 しかし佐伯はにやにやと笑うばかりだ。

 くっそ!
 なんで俺が佐伯なんかのために沈んだ気分にならなきゃいけないんだ!
 だいたい、俺は元々麗子さん一筋なんだ!
 佐伯が誰と付き合おうと知ったことか!

 俺はつかつかと居間に下り、連絡票片手に受話器を持ち上げる。

 フラれついでだ!
 このまま麗子さんをクリスマスに誘って、玉砕してやる!
 いや、フラれついでって、別に俺は佐伯なんかにフラれた覚えはないけどな!

 俺は憤然と電話機のボタンをプッシュした。
 今のこの勢いなら、あの麗子さんとだって平常心で話せるに決まってる!

「はい、もしもし?」
「あ、あ、あ、あの、わわ、わたくし、桜ヶ丘学園の生徒の、あの、はは、春樹と申す者でございますけども、れれ、れ、麗子さん、いら、いら、いらっしゃいますでしょうか?」
「あ、春樹君?」

 げえ!
 麗子さんが出た!
 どうしよう!?

 そこからは頭の中が真っ白になってしまい、俺から何を喋ったのかはあまり覚えていない。
 なんだけど、電話を切る間際の麗子さんの言葉だけは衝撃的すぎて忘れることができなさそうだ。

「クリスマス? いいよ。空けておくね」

 ぺこぺこと何度も頭を下げながら、俺は受話器を置いた。
 しばらくその場で立ちすくむ。

「マジで…?」

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「おい、聞いてくれよ!」

 春樹が満面の笑みを浮かべている。
 ここ2ヶ月ぐらい見なかった明るい表情だ。

 放課後の帰り道、あたしは後ろからドンと押され、振り返るとこいつがいた。

「な、なによ急に」
「俺、とうとうさ、麗子さんとデートすることになったんだよ!」

 え?
 今こいつ、なんて?

 まるでハンマーで殴られたような衝撃が頭の中を駆け巡る。
 そんなあたしの様子に気づかず、春樹の機嫌は絶好調だ。

「まさかあの麗子さんにオーケーしてもらえるとはなあ」
「そ、そう。よ、よかった、じゃん…」
「やっぱなんかこう、プレゼントとか必要だよな!」
「え、あ、うん…。いいんじゃ、ない…?」
「そうだ! お前今度の日曜、買い物付き合ってくれよ! 俺、女の子にプレゼントなんてしたことないからさあ、どんな物買ったらいいのか解らなくってよお」
「な、なんであたしが…」
「いいじゃねえかよ! とにかく空けとけよな! じゃあ俺、今日は先帰るわ! デートに着てく服を選ばないと!」
「ちょ、あたしまだ行くだなんて…」
「じゃ、日曜よろしくなー!」

 春樹は浮かれた調子で走り去ってゆく。

「はあ…」

 あたしは深い深い溜め息をつく。

 あいつ、やっぱり今でも白鳥さんのことが好きだったんだ…。

 だいたい、なんであたしが春樹と白鳥さんのために買い物に付き合わされなきゃならないんだろう。
 きちんと断り切れなかったことも、あたしの気分を鬱蒼とさせる。

「あーあ〜。あたし、なにやってんだろ…」

 そこにあった空き缶を、あたしは思わず蹴飛ばした。
 カコーン。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 ここ最近、佐伯が浮かれていた気持ちがよく解る。
 今の俺がそうだからだ。

 俺は意味もなく家を飛び出すと、そのまま近所を徘徊しまくった。
 公園を散歩し、商店街をぶらぶらと歩く。
 夕日が眩しかったけど、俺的にはこんなの麗子さんの輝きには及ばない。
 そんな憧れの麗子さんとクリスマスにデートできるだなんて。
 通行人が誰もいなけりゃスキップしているところだ。

「あら、お兄さん」

 声に振り向くと、そこにはおばさんの易者がいた。

「嬉しそうねえ。なんかいいことあったの?」
「あ、はい」
「あらそう、よかったわねえ。よかったらその幸せがもっと続くように占ってあげましょうか? 安くしとくわよ」

 俺は少し「う〜ん」と悩んだが、まあたまにはいいだろう。
 占い師の前にあった椅子に腰かけ、俺はおばさんに両手を差し出す。
 しばらく俺の手相を見ていた易者が目を大きく見開いた。

「これは凄いわよ!」
「え、そうなんですか?」
「ええ。稀に見る幸運な相ね」
「へえ! マジですか!」
「ここまで運気のいい相はそうそうないわねえ」
「そんなにいいんですか?」
「最高よ? クリスマスの日なんて特に凄いわね。輝くツリーの前で運命の人と一緒に過ごせるってところかしら。それぐらい今のあなたは運気がいいの」
「うおお! マジですか!」

 ってことはもしや、麗子さんが俺の運命の人!?
 だから急な誘いにも応じてくれたのか!

「ラッキーアイテムはね、プラチナの指輪」

 おばさんはそんなことを言っていたけど、さすがにそれは高くて買えないし周りに持っている奴だっていない。
 話だけ聞いておいた。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 日曜日。
 春樹はにこにことあたしが家から出てくるのを待っていた。

「じゃ、行こうぜ! 駅前のデパートがいいよな!」

 あたしは「はあ」と浮かない返事をする。
 デパートに向かって、あたしたちは歩き出した。

「俺さあ、デートってしたことねえんだよ。どうするもんなんだ?」
「したことないって、あんた夏祭りのとき、美香ちゃんと一緒にいたじゃない」
「え? あれもデートっていうのか?」
「呆れた。年頃の男女が2人きりで遊びに行ったら、立派なデートでしょ」

 すると春樹はまじまじとあたしの顔を覗き込む。

「だったら、俺と1番デートしてるのお前じゃねえか」

 その言葉に心臓が反応してしまった自分が許せない。

「じゃ、じゃあ今日は麗子さんとのデートの練習ってことにしといてあげる! ちゃ、ちゃんとエスコートしなさいよ!」

 考えなしに出たその言葉のせいで、あたしたちは公園に行ったりゲームセンターに寄ったりと、夕方までデパートを目指すことをしなかった。

「やっべ! もう暗くなる!」

 春樹が街の時計に目をやった。

「買い物する時間がなくなっちまう!」
「あんたがゲーセンで大はしゃぎしてたからでしょ?」
「いやあ、つい夢中になっちまったよ。デートって楽しいんだな」
「…え?」
「ほら、急ぐぞ!」

 春樹があたしの手を取った。
 あたしは、春樹に連れられるようにして駆け足になる。

 急いでいたクセに、春樹は陳列されていたサングラスをかけたり、あたしに帽子を被せたりと楽しそうだ。
 店内にはそこそこの客足があって、がやがやとしている。

「全くもう、麗子さんへのプレゼント買うんでしょ?」
「ああ、いっけね! そうだった! 何にしたらいいと思う?」
「そうねえ」

 あたしはショーウインドウに顔を寄せた。

「そのネックレスなんていいんじゃない? 値段も春樹の予算内だし、デザイン可愛いし」
「よし! じゃあそれにしよう!」

 春樹は店員を呼ぶと、それ包んでくださいと注文をする。

「包装はクリスマス用になさいますか?」
「はい、お願いします」

 あたしはこのとき、聞き捨てならない言葉を聞いた気がした。

「ちょっと春樹」

 緑と赤の包装紙に包まれたネックレスを受け取った春樹が「ん?」というような顔をする。

「あのさ、白鳥さんとのデートっていつなの?」
「あ、話さなかったっけ? 聞いて驚けよ? なんと、クリスマスだ」

 一瞬にして店内の喧騒が消え、来客たちが立ち止まってこちらを見た。
 あたしが平手で、春樹の頬を思いっきり強く打ったからだ。

「最低」

 目から涙が止まらなくて、あたしは走って春樹を置き去りにする。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 いつもの強烈な鉄拳パンチより、遥かに心に響く一撃だったように思う。
 考えてみれば佐伯からビンタされたことなんて、今まで1度もなかった。

 あれ以来、あいつは口を利いてくれなくなった。
 なにをそんなに怒っているのか解らないから、謝ろうにも謝れない。
 俺、あいつに何か酷いことでもしたのだろうか。
 駄目だ、解らない。

「春樹君、どうしたの?」

 麗子さんが心配そうに俺を見た。

「え、いや! なんでもない、よ」

 日はすっかり落ちている。
 俺と麗子さんは今、ベンチに腰を下ろし、カラフルで品のよい光の点灯を眺めている。

 予行演習の通りに公園を散歩して、ゲーセンで賞品を取って、それでこの商店街まで戻ってきたのだ。

 イルミネーションは色鮮やかで、その形をトナカイに変えたりサンタクロースに変えたりと輝いている。

「春樹君、聞いてもいい?」
「え?」
「さっきのプレゼントなんだけどさあ」
「うん」
「ホントはあたしにじゃなくて、佐伯さんに用意してた物なんじゃないの?」
「いや、そんなことないよ! なんで麗子さんまでそんなこと!」

 すると麗子さんは照れたようにコロコロと笑う。

「あたしね、こないだフラれちゃったんだ」
「え!? 麗子さんが!?」
「うん。あたしずっと、伊集院君のことが好きだったの。頑張って告白したんだけどなあ」
「あ、うん。そうだったんだ」
「でもね、伊集院君、好きな人がいるからあたしとは付き合えないって」

 伊集院の好きな人というキーワードがグサっと胸に突き刺さる。
 佐伯と伊集院も今、2人で過ごしているのだろうか。

 麗子さんは続ける。

「でも、その伊集院君もフラれたって、こないだ笑って話してた」
「え!?」

 思わず身を乗り出す。

「麗子さん、それどういうこと? 佐伯の奴、伊集院と付き合うならピロティに来るように言われてて、それで…」
「佐伯さんは、付き合うために行ったんじゃなくて、謝るために行ったって聞いたよ? 黙って行かないなんてことしたら、相手に悪いと思ったんじゃないかな」

 なんてこった。
 そうだったのか。
 あ!

 今にしてようやく、佐伯が怒っていたわけに思いが至った。

 そんな俺の顔色を、麗子さんは伺っていたらしい。

「ペンダント、やっぱり返そうか?」
「いや、それはホントにプレゼントなんだ! でも」
「でも?」
「ごめん、俺ちょっと用事思い出しちゃって!」
「うん、解った」

 麗子さんがついっと立ち上がる。

「あたしは今でもまだ伊集院君のことが好き。その素直な気持ちを、誰かに聞いてほしかったんだ。だから…」
「だから?」
「春樹君も素直になってあげてね」
「え、いや、うん、えっと」
「今日はありがと」
「うん! 今日はホントごめん! また学校で!」

 走りながら、俺は文化祭の練習に付き合ってくれた佐伯のことを思い出す。

 佐伯と伊集院がくっついたなんて誤解をしていたからこそ、俺はクリスマスに麗子さんを誘った。 
 とはいえ、我ながら酷いことをしていた!
 あの場所に初めて佐伯を連れていったとき、先に言い出したのは俺のほうじゃねえか!

「今日のお礼によ、クリスマスになったらまたこの場所に連れてきてやるよ」

 俺の馬鹿野郎!
 待ってろよ、佐伯!

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 あたし、バカみたい。
 ここに誰も来ないことなんて、始めから解っていたことなのに。
 それなのに、普段ならしないメイクを薄っすらとして、お母さんからアクセサリーまで借りて。

 あたしは両手を口に近づけ、はあと白い息を吹きかける。

 鉄柵の前にしゃがみ込んで膝を抱え、どれぐらいの時間が経っただろう。
 春樹の言う通り、ここから望める光のショーはとても綺麗で。
 でも、その美しさがあたしをさらに悲しくさせている。

「あ」

 ふっと、イルミネーションが消えた。
 タイムオーバーだ。

 お化粧、涙で滅茶苦茶になってるだろうな。

 あたしはふらっと立ち上がると、そのままよろよろと手すりに背を向ける。
 とても前を見て歩けそうもない。
 1歩、また1歩とあたしはお年寄りのようにゆっくりと進む。

 前方から、ぜいぜいと荒い息遣いが聞こえた。

「え、なんで…」

 春樹が両膝に手をついて、息を整えている。
 なんで春樹が!?

 あたしは慌てて涙を拭う。

「あ、あんたなんで!? 白鳥さんは…?」

 春樹はすっと息を吸い込むと、それを一気に吐き出した。

「佐伯! 遅れてごめん!」
「バカ!」

 せっかく拭ったのに、また涙が出てきちゃうじゃない。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 デートに浮かれたせいで小遣いのほとんどを使い果たしていたから、俺は「たいした物は買えないけど」と断りを入れて、佐伯を連れて商店街まで引き返す。
 遠慮する佐伯に、俺は温かな缶を渡した。

「悪い、こんなことしかできなくて」
「ううん、ありがと」

 ぷしゅっという音がして、佐伯はコーンポタージュに口をつけようとした。
 しかし佐伯は動きをピタリと止め、驚愕の眼差しで手元を凝視する。

「ない!」

 佐伯の顔色が一瞬にして悪くなった。

「ない! さっきまであったのに!」
「どうした、なにがないんだ?」
「お母さんから借りてた指輪! 大事な指輪なのに」

 その焦った様子からも相当大切な物らしい。
 俺は「さっきまであったなら、まだそこら辺に落ちてるはずだ! 探そう!」と地面に這いつくばる。

 どれだけ探していただろう。
 同じ道を何度も何度も行ったり来たりしていたが、闇夜のせいで指輪はなかなか発見できずにいる。

 不意に、懐中電灯の光が俺を照らした。

「こらこら、君たち、高校生でしょ〜。こんな時間に何やってんの」

 少し訛りのある警備員のおじさんに、俺は事情を説明する。

「そっちの女の子が、お母さんから借りた大事な指輪をここら辺で落としちゃったんです」
「なに!? そりゃ大変だ。ちょっと待ってろよ。今明かり点けてやっから」

 小走りで警備員が去る。

 顔面蒼白になって地面をまさぐる佐伯の肩を、俺はポンポンと優しく叩いた。

「佐伯、大丈夫だぞ。今明るくしてくれるって」
「うん、ごめんね。ごめんね」
「いいって」

 さっきからずっと、佐伯は泣き出しそうな顔だ。
 一刻も早く、指輪を見つけてやらないと。
 そう思った瞬間、自販機の下で何か小さい物が光を反射させたような気がした。

 足早に近づいて、それを拾い上げる。

「佐伯ー!」

 佐伯の元に駆けつける。

「もしかして、これじゃないか?」

 シンプルなデザインの銀色の指輪を渡すと、佐伯はパアッと表情を輝かせた。

「これ! この指輪! ありがとう春樹!」
「そうか、よかった」
「ホントにありがとう! これ、お母さん凄い大事にしてたんだ! お父さんから貰ったプラチナの指輪なんだって」

 プラチナの指輪?
 ふと、先日の占い師の言葉を思い出す。

「ラッキーアイテムはね、プラチナの指輪」

 それに、あの占い師はこうも言っていた。

「最高よ? クリスマスの日なんて特に凄いわね。輝くツリーの前で運命の人と一緒に過ごせるってところかしら」

 まさか。
 だいたい、この町にクリスマスツリーなんてないじゃないか。

 そう思っていたら、突然辺りが眩しくなる。

「わあ」

 佐伯が感嘆の声を上げた。

 あの警備員の人、イルミネーションを点灯させてくれたのか!

 見上げると、そこには光が折り重なって見事なクリスマスツリーが描き出されている。

「輝くツリーの前で運命の人と一緒に過ごせるってところかしら」

 占い師の言葉が再び蘇った。

 佐伯と2人、しばらく呆然とネオンを見上げる。

「あ、雪」

 佐伯が大きく天を見渡した。
 釣られて顔を上げると、ひらひらと大粒の雪が踊るように落ちてきている。

「ねえ、春樹」

 すっと、佐伯が俺の目の前まで移動してきた。
 にこりと笑んだその表情に、思わずドキッとなる。

「メリー、クリスマス」

 なんだか照れ臭いけど、俺も「メリークリスマス」と返しておいた。

 ふわふわと、雪が俺たちの周りを舞っている。

 続く。
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