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小説家版 アートマンコミュの666(ミロク)dD 1月17日?

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 ノート型のパソコンを開いて電源を入れた。モニターに666のロゴが現れて変則的に回転していた。デスクトップに『東京中学自殺ファイル』のフォルダを見つけ開いた時に事務所の扉が開いた。静香達が喫茶店から戻って来たのだ。
「うわー、先生、それ買ったの? 凄いじゃないの。名刺まで作って……一枚もらっておくわよ。何Dプランニング局って?」
 捲し立てるように質問をする静香に俺は弥勒さんの会社と専属契約をした事を教えてやった。もちろん、Dがデスティニーの頭文字と言う事も。肩書きを説明する練習にはなった。
「ふーん、それって凄い事なんだ。それよりも友達を鑑定してあげてくれる?」
 静香の反応はイマイチだった。女子高生に収入の安定なんて話をする事自体が興味ない事なのだろう。大きくため息をつくと事務所の壁にかけてあった白衣を身に纏った。変っているかも知れないが白衣が俺の占いのコスチュームだ。
振り返ると、先程まで弥勒さん達が座っていた場所に二人は既に腰をおろしていた。椅子を取り替えるのを忘れていたが、今さら戻すのも不自然だ。俺は相手よりも低い椅子に腰掛けた。女子高生だったのでかろうじて目線を上げて話をする必要が無かったのが幸いだった。
「山本みどりちゃんね」
 俺は鑑定の前にカルテを作る。デパートのメンバーズカードの申込み用紙みたいに必要な事項を口頭で聞いて空欄を埋めていく作業を進めていった。占いに関係する事だと言えばどんな事でも答えてくれる人が殆どだろう。個人情報が金で売買される時代にこんなに気軽に答えてもらえる業種は占師以外にはないだろう。実際、俺も金に困ってしまえば顧客データーを簡単に売ってしまっていただろう。山本みどりも俺の質問に疑問を持つ事も、拒否する事も無く全ての質問事項を答えてくれた。
「ところで相談内容って?」
 俺が本題にきりだしたのだが、はっきりとは答えようとしない。どうやら静香に話を聞かれたくないようだった。友達の思いを静香は気付くそぶりもなかった。「恥ずかしがらずに何でも相談しなよ」なんてのんきな事を言っていた。
「悪いんだけど先生と二人にしてもらえる? 静香にも聞かれたくない相談なんだ」
 みどりは言い難そうに口を開いた。静香は予想外の言葉に一瞬言葉を失ったのか数秒の静寂が部屋の中に広がった。
「ごめん、気がつかなかった。私、大須のアーケード街に行っているね。終わったら携帯に電話くれるかな」
「ごめんね。変な意味じゃないんだよ」
「いいって。ゆっくり鑑定してもらってね。先生お願いね」
 何となく気まずい雰囲気の中、静香はニコニコして部屋を後にした。夕食の途中でテレビを消されたように急に静かになった。静香が居なくなると静かになるなんて皮肉な名前だと俺は思ったが、本来の鑑定環境が整った事にホッとした。
「じゃあ、本題にいこうか。恋愛かい? 受験かい?」
 時期的にも年齢的にも悩んでいる事を口にしてみたが、みどりは首を横に振るだけだった。
「呪ってほしい人がいるんです」
 小さく絞り出すように口にした言葉は俺にはそう聞こえた。
「噂で聞いたんです。先生は占い以外にも人を不幸にする呪いをかけてくれるって事を。だからお願いしたいんです。お金だってちゃんと払いますから……」
 みどりはそれ以上声にする事は出来ないようだった。悔しさのまじった泣き声が聞こえて来るだけだった。『呪い』という言葉が急に部屋の空気を重くした。
「どこで聞いたのかは知らないが呪いは止めたんだ。呪うって事は君も不幸にする可能性だってあるんだ。どんな理由だってやらない方がいいよ」
 呪う行為は人を不幸にする。殺されても仕方ない者を俺は選んで呪術を行った。しかし、本当に死んでしまうと俺に残ったのは達成感ではなく、罪悪感だった。そうだ。俺は運悪く人を呪い殺してしまったのだ。ヤクザや政治家みたいに強そうにしている者程、心は弱いという事を知っていたくせに、俺は人を自殺に追い込んでしまった。法律では裁けないが俺は罪人だ。思い出したくもなかった記憶が再び蘇って来た。

 依頼者は紺野雪絵という風俗嬢だった。彼女から聞いた話は以下の通りだ。ヤクザな男に騙されて借金を負わされ風俗に沈められた。もちろん、最初から金目当てに近づいて来たのだったが愛という言葉の魔力に冷静な目を奪い取られていた。男の本性に気がついた時はふられた時だった。「金で体を売る女を誰が惚れるか」その言葉で目が冷めたと同じに憎しみも涌いて来た。俺は彼女の話に素直に同情した。調べてみると彼女の話が正しい事も証明された。俺は世の中の悪に罰という鉄槌を下すだけだ。世直しをする正義の味方のつもりでいた。その時は悪い人間が一人ぐらい呪で死んでもどうでもないと、悪い人間などいなくなった方がいいと思っていた。そんな綺麗事は実際に死んでしまう前だから思えた事なのだろう。どんな事だってやった後になって気付くのだ。正しい事だったのか、間違った事だったのか。
 死んだ男の名前が金田紫苑。一生忘れる事の出来ない名前だ。
(あの日からだ。男が自殺した日からだ。俺が自分の殺される夢を見るようになったのは)
 俺の罪悪感が生み出した夢なのかもしれないと気がついた。債権者を自殺に追い込む取立屋も俺みたいに自分の死ぬ夢を見て悩まされているのだろうか? 呪いは悔しい思いを晴らす事は出来ても、幸せにしてはくれない。呪いの依頼だけは引受けてはいけないのだ。

「わかりました。でも呪って欲しいと思う私の事情だけでも聞いてください」
 そう言うみどりの訴えに俺は彼女から目をそらして頷いた。彼女の目を見ながら話を聞いていたら俺の方が呪術にかかりそうだったからだ。それ程真剣な目をしていた。
「呪って欲しい相手は私の元彼です。現金を脅迫されているんです」
「いくら?」
「一〇〇万円です」
「一〇〇万円だって! 何故?」
 みどりは俺の質問に直ぐには答えなかった。悔しくて唇が震えて声が出せなかったようだ。
「沢山の男の人に無理矢理……」
 絞り出すように口にできた事はそこまでだった。泣くのを我慢しようと口をヘの字にしてこらえるのだが、目からは大粒の涙が止まらなかった。みどりは誰にも相談できなかったのだろう。きっと親にも先生にも親友にも。だから言葉よりも先に感情が溢れて来てしまう。俺はそっと彼女の手を握った。その瞬間、みどりは堰をきったように大声をだして泣き出した。俺は彼女の涙が枯れるまで待とうと決めた。
 みどりは何度も泣き止もうと決断して俺に向き直ったが、話をしようとすると涙が再び溢れて来た。冷静に話しができるようになったのは三〇分程後の事だった。
「写真を買えって……。お金が用意できなかったら買ってもらえる所へ売るって……」
「写真って、乱暴されている時の?」
 みどりは小さく頷いた。俺は乱暴という言葉を使ったが、傷付いた少女への配慮の言葉として適切だったかは分らなかった。
「親に正直に話してお金を用意してもらうべき……でも、親が悲しむ。警察に相談……世間に広まってしまう。私にはお金も知恵も勇気も無い。いったいどうすれば良いのか本当に分らなくて」
 みどりの頬に再び涙が流れた。しかし、最初に泣いた時のように崩れ落ちそうな雰囲気はなかった。
「確かに金を払ったとしても、約束を守るとは限らないからな。逆に味をしめて再び金を請求する事だって考えられる。ゴメンね。脅すつもりはないんだ」
 俺は配慮のない事を口にして後悔したが、相手は九分九厘、俺の想像した行為をするだろう。下手をすれば一生食い物にされてしまう。相手を呪いたくなる気持ちは十分に理解できる。
「最初はとても優しかったのに……どうして……」
 彼女の発した『どうして』は、どうして彼は変ってしまったの?なのか、どうして私は見抜けなかったの?なのかはわからなかったが、悔しいのは伝わって来た。騙す目的で近づいて来る人間に無知な者が対抗できるはずがないのだ。人生経験にしては辛すぎるし、重すぎる。
「呪っても相手を不幸にできるかは分らないよ」
 俺の言葉に彼女の目が輝いた。
「かまいません」
「今までの経験上、呪が自分に跳ね返って来る事もある。今以上に不幸が君に訪れるかもしれないよ」
「もう不幸ですから……、私の身を案じなくても結構です」
 彼女の言葉に深いため息をついた。頭では呪術を禁じていたが、心が俺の口を動かしていた。
「君の為に呪いを行う事にするよ。でも呪いを行っても、写真を取りかえすのは不可能だ。写真がある限り君は幸せになれない。悔しいかもしれないが、君の身に起こってしまった事は受け入れなさい。そして親に相談しなさい。君の悔しさはできる限り俺が晴らしてあげる。傷付いた君の心は親にしか癒す事はできない。君の人生は元彼の悪行でマイナス地点に落ち込んでしまったが、元に戻す事は必ずできる。その為に現実に起きている事を客観的に見つめて、とるべき対応をしなければ今よりも悪い方向へ向かってしまう事に必ずなる。それには俺が君の為にやるべき事をやり、君が君自身の為にやるべき事をやる。君は恥ずべき行為を何もしてはいない」
 俺の言葉で彼女の目から涙がこぼれた。今までと質の違う涙に見えた。
「分りました。今日、明日の間に告白できるか自信はありませんけど、挑戦してみます」
 泣き声にまじった声だったが俺の耳にははっきりと聞こえた。
「それじゃあ、元彼の情報を教えてくれるかな」
 俺は蛇の道へ進む事を選択していた。俺にとって良い事など無い辛い道だ。『やっぱりお前は心の弱い偽善者なのだ』と頭の中の冷静な自分が自らの行動を批判していた。

 俺は東京に向かう新幹線の中で弥勒さんからもらったパソコンに新しいフォルダを作成した。フォルダ名は横井ハジメ。みどりから依頼された呪う相手の名前だ。下の名前の字はわからないのでカタカナで表記した。そしてフォルダの中にみどりから得た情報を整理して保管しておく事にした。
 現在彼は大学の三年生。東京都の有名大学に通うエリートさんだった。彼が冬休みを利用して名古屋に帰省して来た時にみどりは知り合ったそうだ。知り合った先は鶴舞にある図書館。みどりが彼の大学の赤本(過去の試験が載っている本という事だ)を使って勉強をしていた時に声をかけられた。第一志望の大学が彼の大学だった事もあってみどりは彼に気をゆるしてしまった。彼が憧れの大学に通っている事もあり、みどりの心に恋が芽生えてしまった。自分の受験をする大学の下見をすすめられ冬休みの最終日、東京にみどりは出かけてしまった。東京で会った横井ハジメこそ本当の彼の姿だった。大学の下見の前に立ち寄った彼の部屋で待っていたのは悪意に顔を歪めた横井ハジメの仲間達だった。
 情報はそこまでしか聞きだせなかった。弁護士や警察では無いので、何をされたのか正確に聞く必要も無かった。男に襲われた女性が警察に相談出来ない理由が分る気がした。相手の行為を立証する度に自分の傷を広げていくのだろう。道端で犬に噛まれるのとは全く違うのだ。
 情報を整理してみると問題がいろいろとある事に気がついた。なによりも横井ハジメという男は偽名かもしれない。最初から犯罪を計画していたのならば考えられる事だ。呪いをかけるどころか、横井ハジメを探し出す事ができるかも不安だった。車で連れまわされたので襲われた部屋の住所や最寄りの駅も特定できなかった。唯一分るのがお金を振り込む為の銀行口座と名義だが、銀行が契約者の情報を教えるとは考え難かった。今の俺には彼の大学に行って調べるしか手立てがなかった。彼が大学に在学していなければ完全にアウトだ。偶然にも弥勒さんの依頼を受けた中学校の側に大学があったのでついでに調べる事は決めていた。頭の中で横井ハジメという人物と出会えなければと思っている自分がいた。呪なんてしたくないと叫んでいた。
 『横井ハジメ』のフォルダを閉じて、『東京中学自殺ファイル』のフォルダを開いた。自殺A〜自殺Eまでの五つのデーターが入っていた。どうやら自殺した順番にアルファベットの記号をつけているのだろう。それぞれのデーターを開くとどうやって調べたのか、自殺した生徒の名前や住所まで記入されていた。学年、クラス、部活動など他のデーターと見比べてみても共通する点は見当たらなかった。唯一共通するのが、自殺する前の日には元気だった事、遺書がない事、いじめなどのトラブルに巻き込まれてはいなかった事などの理由の見つけられない自殺だという点のみだ。
 自殺の方法もそれぞれバラバラだ。
 自殺Aの場合、中学一年男子、夕食後、両親と雑談中にトイレに行くと席を立つ。なかなか戻ってこない息子を心配してトイレに行くと、トイレのノブの前にうなだれるように座っていた。ドアノブに首を吊って死んでいた。
 自殺Bの場合、中学三年女子、元日の夜、一〇時頃まで自室で受験勉強をしていた。母親に風呂に入るように促され、勉強を中断。入浴するが一時間たっても風呂からあがらない。母親が見に行くと風呂にうつ伏せになって浮んでいた。事故死の可能性もあり。
 自殺Cの場合、中学三年男子、学校の帰り道、友人三人とコンビニに立ち寄りおでんを購入し、店先で食する。友人達がゴミを捨てにコンビニに戻るとCの姿がない。大きな音に友人達が振り向くとCが血を流して倒れていた。コンビニがテナントに入っているビルの屋上から飛び下り自殺を計った。
 自殺Dの場合、中学二年男子、所属しているバスケットボール部の練習後、着替える為に部室に戻る。他の部員達のいる前でDはナイフで自分の首の頸動脈を切断する。ナイフは常に護身用の持ち歩いていた物だった。
 自殺Eの場合、中学一年男子、Eは毎朝登校にバスを利用していた。その日の朝は運転手の後ろの座席に座って文庫本を読んでいた。Eは突然窓を開けてバスから飛び下りた所、対向車線を走って来た乗用車に跳ねられ即死した。
 男四人、女一人の死は弥勒さんの言う通りの『不可解な死』がぴったりの自殺ばかりだ。突然、生徒達の頭に『自殺』というキーワードが浮び、躊躇する事も無く直ぐに実行した。まるで見えない誰かに命令されたようだ。俺が調べなくてはいけない事こそ、その『見えない誰か』なのかもしれない。事の大変さに改めて気付いてため息をついた。なんだか、最近ため息の回数が増えたなと思った時、携帯電話が鳴った。新幹線のデッキまで行き、携帯の着信表示を見ると兄からの電話だった。新幹線に乗る前に俺の方から電話をかけたのだが、繋がらなかった。着信履歴を見て、かけ直してくれたのだろう。
「ごめんな。電話くれたみたいで」
「別にいいよ。仕事中だったんだろう」
「まぁな。心理カウンセラーって結構忙しいんだよ」
「ところで兄貴、今日の夜って暇か?」
「別に予定はないけど。お前東京に来ているのか?」
「まだ新幹線の中だけどな。時間があったら話がしたいと思ってさ。心理カウンセラーのアドバイスも聞きたいし」
「別にかまわないぞ。七時か八時には仕事あがれるようにしておくから連絡くれよ」
「分った。とりあえず、兄貴の仕事場近くに行くよ」
 俺は手短な会話をして電話をきった。パソコンを置きっぱなしにしてきた事を思い出したからだ。携帯をポケットにしまいながら座席に戻った。デッキに出た時と全く同じ状態にホッとした。座席に座り直すとこれから目指す中学校と大学の場所を確認する事にした。

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