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小説家版 アートマンコミュの黒いアルマジロと金色のヤマアラシ プロローグ&第1話&第2話

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プロローグ

遠い遠いもっと遠い海の向こうに動物達の楽園があります。
その楽園ではスズメと鷹だって、ウサギとトラだって喧嘩する事はない。
キツネだって騙さない。
ハイエナだってご飯を横取りしない。
そんな素敵な楽園です。

そんな素敵な楽園だけど可哀想な動物が一匹います。
金色のトゲを背負ったヤマアラシです。
ヤマアラシは皆と友達になりたいのですが、嫌われてしまいます。
仲間になろうと近づくのですが、黄金色の立派なトゲが皆を攻撃してしまうのです。
ヤマアラシは傷つけるつもりはありません。
仲間もそれを知っています。
しかし、誰もヤマアラシに近づく事はできません。
沢山の仲間に囲まれながら、ヤマアラシは孤独を感じているのでした。

そんなある日、楽園に新たな仲間がやってきました。
真っ黒な鎧を身につけたアルマジロでした。
恥ずかしがり屋のアルマジロは楽園の仲間達にとけ込めません。
明るく陽気な楽園の動物達と内気な性格のアルマジロ。
沢山の仲間に囲まれながら、アルマジロは孤独を感じているのでした。
気がつくとヤマアラシとアルマジロは一緒に過ごすようになりました。
幸いな事にアルマジロの真っ黒な鎧のおかげでヤマアラシのトゲは気になりません。
二匹は楽しそうに過ごす仲間達を輪の外から眺めて暮らしていました。

ある日、ヤマアラシとアルマジロの前に神様が現れました。
二匹は神様に悩みごとを打ち明けました。
「仲間達の輪に入れません。僕達は孤独です」
神様は二匹を見て大笑いしています。
「お前達には仲間がいるじゃないか」
「僕にはアルマジロしかいません」
「私にはヤマアラシしかいません」
神様は二匹の答えを聞いてさらに大笑いです。
「お前達は何人の仲間が欲しいのだ?」
二匹は神様の質問に首を傾げました。
何人? 
二匹には答える事が出来ません。

「なぜ仲間が欲しいのだ? お前達は孤独を感じているのか?」
二匹は神様の質問に再び首を傾げました。
孤独?
二匹は一緒に過ごすようになってからは一度も孤独を感じていなかった事に気がつきました。
なぜ仲間が欲しいのだろう?
ヤマアラシもアルマジロも答えを見つけられません。
「沢山の仲間に囲まれて暮らす事を憧れているんじゃないかな? アルマジロよ、お前は沢山の仲間に囲まれていて幸せだったか?」
アルマジロは首を横にふっていた。
「本当に大切なのはたった一匹でも自分を理解してくれる友なんじゃないか」
ヤマアラシとアルマジロは神様が大笑いした理由がわかったのでした。

アルマジロしかヤマアラシの側にいてあげられる動物はいない。
ヤマアラシしかアルマジロの性格を理解してあげられる動物はいないのだ。
それからヤマアラシとアルマジロは仲間を欲しがらなくなりました。
二匹には十分だったのです。
お互いが側にいてくれるだけで十分だったのです。





 向かいのベンチで同僚の女の子達がお弁当を広げている。
 彼女達の頭上では桜の花が咲き乱れ、満開の桜を支えきれずに枝が垂れ下がっていた。
 彼女達は桜の事に興味がないようだ。
 まるで大きな日傘を手に入れたようにおしゃべりに花を咲かせていた。
 それだったら、私にその場所を譲って欲しい……なんて言えるはずがない。私は楓の樹の下で一人静かに食事を済ませた。
 お弁当を鞄に仕舞い、私は書きかけの絵本と筆箱を取り出した。絵本といってもポストカードをファイルしただけの簡単な作りの物。
 最期のページのポストカードをとりだした。
 まだ色のつけていないヤマアラシとアルマジロが仲良く向き合っている場面だ。二匹の間には小さな子供がいるイラストだ。
 筆箱の中から金色のマーカーを取り出し、ヤマアラシに着色していった。

 金色のヤマアラシ……我ながら上手な表現だと思う。
 モデルは私の彼、武クン。ツンツンにヘアムースで固めた金髪、まるで金色のヤマアラシだ。口は悪いし、性格も素直じゃない。
 だから、気がついたら人から嫌われている。自分が嫌われている事に気がついていないから、さらに近づいて嫌われる。
 私みたいにすればいいのにといつも思っている。
 アルマジロのように目立たないようにするのだ。
 絵本の中の黒いアルマジロは私の事。自分の殻の中にとじこもって人に合わせる事なんかしない。もちろん、友達なんていらない。
 だって直ぐに裏切るから。
 私にはヤマアラシがいる。それだけで十分だ。

 桜の花弁がポストカードの上に舞い降りた。
 私の所に来客が来たようで少し嬉しかった。話をしない、動かない、だけど美しい、桜の花弁は私にとって理想的な来客だ。
 ポストカードの上の花弁に鼻を近づけてみた。
 何の匂いもしないけど、太陽の温もりを感じた。少し頬がゆるんだ。
「かわいいイラストですね」
 顔をあげると見ず知らずの女の人が私の前に立っていた。栗色の長い髪がとても良く似合っている可愛い女の人だ。
 制服に見覚えがある。私と同じ制服だ。どうやら新入社員のようだ。
「その動物ってハリネズミですか?」
 私は彼女の質問に首を振った。
 そして鞄に絵本と筆箱を入れて、ベンチから離れた。いや彼女から逃げ出してしまったのだ。
 私が振り向くと彼女はキョトンとしていた。向いのベンチに座っていた同僚が彼女に話しかけていた。
 きっと私の悪口を言っているに決っている。
『あの子は根が暗いのよ。何考えているか分らないから、恐いわよ。あの子がいるだけで暗くなる』
 聞き慣れているフレーズを新入社員の子に伝えているのだろう。
 悔しいが仕方のない事。
 同僚が語る悪口は全て本当の事なんだから。
 でも彼女に伝えたかったな。ハリネズミじゃなくてヤマアラシのイラストだって事。
 しかし、無理。私には自分を表現する能力がない。私にあるのは自分を守るアルマジロの鎧だけだから。

 携帯電話が鳴った。
 メールの着信を知らせるメロディーだ。
 アドレスを知っているのは武クンだけだ。
 だから、滅多にメールは来ない。
 彼からの文面は相変わらず短かった。
 たった一行『花見中止』と書かれていた。
 予想していたとおりになった。武クンが誘った同僚は誰も花見に付き合ってくれなかったんだな。
 可哀想だけど、頬が弛んでしまう。
 ヤマアラシの側にいるのはアルマジロだけなんだな。私は実感していた。





 終労のベルが鳴っている。今日は薄曇りだが風も無く気温も高い。夜桜見物に出かけるには最高の日だ。それに明日は仕事は休み。花見でも行こうと昼間に仕事仲間を誘ったが、全員に断られた。全員といっても四人しか従業員のいない小さな自動車修理工場だが。あと誘っていないのは社長ぐらいだ。あんなオヤジと酒を飲んでも楽しい事ないから誘うつもりはねぇ。
 最近、俺はふと思う事がある。もしかして、職場の仲間から嫌われているんじゃねぇかって事。確かに酒の席で何度か喧嘩した事がある。でも、素直に悪いと思った事を言っただけだ。年上も、年下もねぇ。間違った事は間違っている。誰かに媚びるつもりもねぇ。本当の友情ってのは本音でぶつかってこそ手に入れる事ができると思っている。しかし、誰も付き合ってくれねぇと少し寂しい。
 そういえば、この仕事は長く続いている。いつも職場の人間関係が悪くなって捨てられるように職場を離れていた。この職場だっていつ辞めたって後悔はない。そろそろ潮時だとも思っている。別に自動車の整備士になりたくてここで働き始めたわけじゃない。全くの気紛れだ。新聞の折り込みに偶然、募集案内を見つけただけ。だから退職したって何も後悔しない。
 そもそもここでは働けないはずだった。社長は俺を雇う気なんて少しもなかった。あの日、あの出来事がなかったら別の職場にいただろう。
 この職場に面接に来た日に社長の息子が暴れたんだ。高校になってから学校に行かなくなり、親に暴力をふるうようになったそうだ。息子が息子なら、親も親だ。金髪で高校中退の俺を採用したく無かったんだろうな。社長の息子が学校に通わす事が出来たら採用してやるって条件だしたんだ。その息子に説教をしてやったら、素直に学校に通うようになり、現在社長から給金をいただいて仕事をしているという訳だ。簡単にいえば社長には貸しがあるって事。精神的に有利に仕事ができる職場は居心地がよくなるってわけよ。
 ロッカーの鏡で俺は少しくたびれかけたツンツンの髪型を手櫛で直した。鏡に映っている自分の姿を見て、昨日真理が俺に見せたオリジナルの絵本の事を思い出した。金色のヤマアラシ、真理のやつは面白い事を考える。何でも俺の言うとおりにしか動かない。口数だって異常に少ない。ぼんやりと一日を過ごしているだけだと思っていた。あいつに絵を書く才能があったなんて知らなかった。悪い話の絵本じゃなかったな。職場の仲間は誰も付き合ってはくれないが、俺には真理がいる。黒いアルマジロのように目立たないが俺のベストパートナーだ。でも真理だけではダメだ。真理も俺だけではダメなのだ。やっと最近分かって来た。真理は生きて行かなくてはダメなのだ。俺は自分の右手を摩りながらそう考えていた。

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