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COWBOY BEBOPコミュのみんなで創るCOWBOY BEBOP物語 session2

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session1の余韻が冷めやらぬ中、勝手にトピ立てさせていただく無礼をお許しください・・・

『みんなで創るCOWBOY BEBOP物語 session1』
素晴らしかったと思います。

素晴らしい出来だったとは思うのですが・・・皆さんお忘れじゃないでしょうか?
BEBOP号には彼(?)がいたことを!!

そう、みんなのマスコット「EIN」

『わん』と『くぅ〜ん』そして『次回ワイルド・ホーセス』しか喋れない彼を文字だけの表現でどれだけ活躍させることが出来るのか・・・

こんな無理難題に挑戦する猛者が現れるか・・・

さまざまな不安を抱えたまま、勝手に始めさせていただきますm(__)m

でわ始まり始まり・・・




火星の港に停泊しているBEBOP号

それを遠くから見つめる一人の男


「BEBOP・・・あんなボロ船にお宝『データ犬』が・・・?」

コメント(40)

「アイ〜ン!まぁ〜てぇ〜ぇ!」

「ワン!ワン!」

エドがドタバタとアインを追い回している

今日もBEBOPは平和だ・・・

ソファにはスパイクが横になり・・・寝ている・・いや寝てないのか?
いつも通りだ
テーブルの家計簿を見ながら頭をガリガリ掻いているのはジェットだ
左手のタバコはもう葉っぱは焼け落ちフィルターしか残っていない・・・

バタンと扉が開きフェイが来た

「あーもううるさい!あんた達なにやってんのよ!こっちはイライラしてんだからぁ〜、もう」

エドはフェイの顔を覗き込み、健気にも答えた

「えっとねぇ〜、アインが勝手にトマトカチャカチャ〜ってしてぇ、そしたらエドのハッキングプログラム、キャンセルバッタンでぇ、ムキャ〜したからまてまてアインなのぉ〜」

フェイ「あーん?またなの?この前もアインが邪魔してあいつ取り逃がしたってのにぃ・・・。あんた変な餌でもあげたんじゃないの?」

フェイは頭を抱えながら、横目でエドの顔をみた。もちろんエドはもういない。

「まてぇまてぇぇ〜!」
「ワンワン」

フェイ「あー、バカらし・・・。あたしちょっと外流してくるわ」
ジェット「あ!おい、どこ行くんだ?今次の賞金首の・・・・」

バタン・・・フェイが聞くはずもないのだ。





スパイク「おいジェット、俺の嫌いなものが3つあるって」
ジェット「知ってるよ!もう何回も聞いた。」
スパイク「・・・そうか、なら・・・いいんだ。」
ジェット「あぁ」




ぴろりろりん!

エド「スパスパぁ!誰かさんからお手紙きたよぉ。」
スパイク「ん?誰からだ?」
エド「え〜っとねぇ、んきゅぅ??なんか、アインがめちゃくちゃにお手紙送っちゃったみたいにゃぁ、そのお返事・・・かにゃ?」

スパイク「なんだそりゃ?・・・まぁ、見とくか」
「クゥゥン」
寂しそうな甘えるように鳴きながらアインがスパイクに擦り寄る。

スパイクは元々やる気のない顔をさらにやる気なくして画面を見た。

無礼をお許し下さいって言いながら無礼な事する人ってなんなんですか。
思ってるんならやめて下さい。
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=39009938&comm_id=286
コメント1000までできるんだからトピック内で2開始したらいいじゃないですか、もったいないですよ。
 男はもう一度ビバップ号の周囲を確認した。どのような船がビバップ号の周りにいるか、また周囲の人数はどれくらいかを調べた。
 右目の眼帯が彼の周りの空気を冷たい、張り詰めたものにしていた。
 調べている最中、無線機がなった。
「あてどす。どないですか?」
 艶のある女性の声だ。
「今、入る方法を考えている最中だ。」
 女は答えた。
「そうどすか。さっき、言ったように、ちゃんと犬をあてのところに連れてきておくれやす。頼みましたで。」
「お鈴。何度もいわんでも、判っておる。この服部真蔵に任せておけ。」
 男はそういうなり、無線機を切った。
「さて、忍びこむ用意をするかな。」
 男は用意していた小型ボートの船室に入り、特殊な装甲が施された鎧のような服に着替えた。顔を見られないため、目だし帽を被った。口に穴が開いていないが、シュノケールを無理に口にねじ込めば問題はない。そして、小口径弾程度なら防ぐ防弾板が仕込まれているベストと脛当てを着用し、その上から比較的短めの刀を背負い掛けにした。そして小さめの防水バッグを袈裟懸けにし、もう一度ビバップの方を見た。
 男は海に潜った。

 ビバップ号に泳ぎ着いた真蔵はそのまま飛行甲板に先端に鉤の付いたロープを投げ、よじ登った。そして船内に潜入した。

 丁度、その頃、アインは一匹でソードフィッシュ?が駐機している格納庫を歩いていた。そして、目の前にいる不審な男に向かって吠えた。
「ワン、ワン!!」

 真蔵はベストから小型のスプレーをアインに吹きかけた。アインは眠りだした。
 犬を脇に抱え、脱出しようとした時に真蔵は声を掛けられた。
「その犬はどうでもいい。しかし、勝手に船内に入られると不愉快なんだが。」

 真蔵は後ろを振り返った。スパイクが立っていた。
「それは申し訳ない。ではさっさと退散することにしよう。」
「いや、慌てることはない。折角の客だ。あんたを三食付のホテルへ招待しよう。」
「それはどこかね?」
「刑務所さ!」
 スパイクは言い終わるなり、真蔵に飛び掛った。
 まずはキックをいれようとスパイクは飛んだ。しかし、真蔵は何の反応もしなかった。
 キックが真蔵に当たる寸前、左腕でスパイクのキックを回避させると同時に体をずらし、足の次に飛んできた胴体中央に右肘で肘打ちを食らわせた。
 さすがのスパイクもこれは効いた。
 そのまま床に仰向けになり、そのまま立ち上がろうとしたときには、真蔵の蹴りをまともに顔面に受けた。

「卑怯なまねで恐縮だが、今日は虫の居所が悪いんでね。」
 スパイクはジェリコ941改の銃口を真蔵に向けた。
「ホールド・アップ。」

 真蔵はスパイクに言った。
「君は私に勝てない。格闘であろうと、銃撃戦であろうと。」
 スパイクはその言葉に反応した。
「なに!?」
「なぜなら、次の私の手はこれだからだ。」
静かに言い終えると、袈裟懸けにしていたバッグからFNP90サブマシンガンを取り出し、その銃口は火を吹いていた。
 FNP90サブマシンガンが格納庫にある備品を屑鉄へと変えていく。その間、スパイクはビバップ号の隔壁を盾に銃火が止むのを待っていた。しかし、隔壁の一部からはFNP90サブマシンガンの弾が貫通していく。

 銃火が止み、スパイクはジェリコを持ち直し、隔壁から飛び出した。しかし、そこには犬を小脇に抱えた男はどこにも居なかった。
 飛行甲板に走っていき、周りを見回しても、さっきの男はいなかった。
 ジェットがスパイクの側に慌てて来て、尋ねた。
「スパイク!!今の音は何だ!?一体何があった!?」

 アインを防水バッグに入れ、飛行甲板から静かに飛び込み、港の岸壁に泳ぎ着いた真蔵はお鈴に連絡をいれた。
「私だ。」
「真さん。どないでした?犬捕まえてもらえましたやろな?」
「ああ。」
「良かった〜。これであては『データ』を入手できるんどすなあ!!」
 お鈴が喜んでいるのを冷静にきいていた真蔵は静かに言った。
「では、今からそちらへ行く。」
「はいはい。御待ちしとります。」

 お鈴はそういい、無線機を切った。
「シュタイン。もうすぐ、あんたによう似た犬が来ますよってな。」
 そこにはアインに良く似た犬が一匹いた。
 「ああ、全く。何で、こんな目にあわにゃならんのだ。」
 ブツブツ不平をいいながら、ジェットは格納庫の修理・点検をしていた。
 無論、スパイクもそれを手伝っていたが、変なところで力の加減をしないため、修理箇所を増やし、それがまたジェットの機嫌を損ねていた。

 そんな時に、レッドテイルが飛行甲板に着艦した。
「あら、旦那方。何?お揃いで、何してんの?」
「見ての通り、修理だよ、修理。口動かす暇があったら、手伝えってんだ。」
 ジェットがフェイに不機嫌にいった。
「ねえ、何があったのよ?」
 フェイがスパイクに尋ねた。
「変な客が来て、犬をさらっていた。その際、代金代わりにサブマシンガンを乱射していった。」
 スパイクは淡々と答え、修理を続けた。

 そんな時にエドがPCを抱えてやってきた。
「スパスパ〜。お手紙が来たよ〜!!」

 不機嫌な顔で、エドの方を振り返るスパイク。
 その時、ジェットが言った。
「そういや、さっきもお前にメールが届いていたな。」
「ああ、それがどうしたよ?」
「今回の乱射騒ぎと何か関係があるかもしれん。おい、エド、そのメール見せてくれ。」
 エドは3人の前にきて、チョコンと座り、PCをいじった。
 そして、そのメールを見た。
「う〜ん、何だ?この設計図?」
「私にわかるわけないでしょ?」
 スパイクとフェイのやり取りを無視し、ジェットは静かに言った。
「こいつは…?もしかして…?おい、エド、上の方にこれをスクロールしてくれ。」
「あい〜。」
 その設計図と計算式、概要書の上には以下のように書かれていた。

『The Theory of WalterZwo Engine』

 ジェットは呻いた。
「何てこった…。こいつはヴァルター・ツヴォー機関の設計図じゃねえか…!」

 フェイとスパイクはジェットの顔を見て尋ねた。
「な〜に、その何とかぼ〜機関って?」
 ジェットは説明し始めた。
「ヴァルター・ツヴォー機関。幻のエンジン機関だ。現在もそうだが、最高のエネルギーを生み出すのは原子力発電だ。しかし、原子力発電の欠点は問題が発生した時の被害とそのメンテナンスだ。原子炉はその中心に核燃料棒があるんだが、そいつを定期的に交換する必要がある。その交換された燃料棒をどう処理するかも重要な問題だ。」

 フェイとスパイクは解ったような解らないような顔をしていた。
「しかし、このヴァルター・ツヴォー機関は最大のエネルギーを生むだけでなく、メンテナンスの容易性、そして非核性という点で大きな利点があった。」

 フェイが尋ねた。
「じゃあ、なんでこれが普及しなかったのよ?」

 ジェットは静かに答えた。
「答えは簡単だ。誰もそれを達成するための知識も技術もなかったからだ。この機関を発明したヴァルター博士は考案後、行方不明になった。設計図と一緒にな。普及させたくても、設計図がないとなっちゃあ、ヴァルター・ツヴォー機関を活用した発電所は建設できない。だからさ。」
 スパイクはジェットに尋ねた。
「それじゃ、これで、その機関を造れるのか?」
 ジェットは首を横に振った。
「いや、こいつは概要的なものだ。だから、こいつだけでヴァルター・ツヴォー機関を完成させるのは無理だ。」

 フェイが少し苛立った調子で聴いた。
「それで、その機関の設計図と乱射騒ぎがどう結びつくのよ?」
 ジェットは答えた。
「さてね。犬一匹誘拐して、身代金代わりにこの概要を渡せと言うのも無理がある。俺には理由が考えつかねえ。」
 溜息を付くジェットにスパイクは言った。
「いいじゃねえか。犬一匹いなくなったとしても。これまでの生活と変わりが無い。いや、食費が少し浮くかな。」
 ビバップ号が停泊している港から航空機で4時間程の距離にある街に真蔵はいた。この街はジャポネス様式の建物が並び立っていた。表通りから裏通りまで、何やら懐かしい趣の街である。
 表通りでも、中心街にある料亭の平安楼に真蔵は向かった。途中、芸子が見習いの舞子を連れて歩いている。
「こんにちは〜。今日もええお天気どすなあ。」
「ホンマどすなあ。」
「その扇子ええ柄どすなあ。」
 彼女達の世間話を背にし、真蔵は歩いた。

 平安楼は中心街では比較的大きく、繁盛している料亭である。真蔵は堂々と玄関から入った。まだ店は開いてはいなかった。
「どちらんさんどすか?」
 仲居の一人が尋ねた。
「服部言います。お鈴さん居てはりますか?」
「へえ。伺っております。さあ、どうぞ。」

 真蔵は仲居に店内へ招かれ、お鈴の部屋へ案内された。
「若女将はん。服部さんがお見えどっせ。」

 お鈴がふすまを開け、笑顔で真蔵を招き入れた。
「真さん。あての欲しいもん、持ってきてくれはりましたんやろな?」

 真蔵は仏頂面で袈裟懸けにしたバッグから眠っているアインを渡した。
「この犬でいいのか?」
「ええ、ええ。この犬どす。このアインいう犬どす!!」
「ふむ。この犬があの“データ犬”かね?」
 お鈴は興奮して答えた。
「そうどす!!あのデータ犬どす!!お疲れさんどしたなあ、真さん。喉かわきましたやろ。ちょっと待ってておくれやす。」
 そういい残し、お鈴は部屋から出て行った。

 真蔵は待っている間、部屋を見回した。
 ジャポネス様式の箪笥、着物掛け、掛け軸、金魚鉢。文机には団扇が置かれていた。
「こいつの部屋へ来れば、何かしら落ち着くな。」
 真蔵はそう呟き、眠っているアインを見た。
「今の内に休んでおけ。今の内に。数日経てば、またビバップの皆に会える。」
 真蔵はアインの頭をなでながら、静かに言った。

「お待たせしましたなあ。はい、真さん、どうぞ。」
 お鈴は酒と肴がのった膳を畳の上に置き、切子のグラスを真蔵に差し出した。
 そして、真蔵はその切子のグラスを受け取った。
「さあ、おひとつ。」
 お鈴はその切子のグラスに、同じく切子でできた銚子で日本酒を注いだ。

 真蔵は静かに酒を飲み始めた。
 そして、お鈴は酌をした。

「お鈴。用意は出来ているんだろうな。」
 酒を飲みながら、静かに真蔵は言った。
「へえ、もちろんどす。あとは二匹一緒に。」
「そうかね。」

 傍らでは、アインが安らかな寝息を立て、眠り続けていた。
ジェットはアインとの出会いを思い出していた

そうあれはまだスパイクと二人で賞金稼ぎをしていたころ ABDUL・HAKIMとかいうアフロの賞金首を追っていた時のことだ

突然スパイクがアインを連れて戻ってきたのだ
それからアインに発信機を付けておとりにし、ヤツをつかまえようとしたがスパイクのバカがまたやらかしやがって 結局ヤツをつかまえることはできなかったが 犬好きのオレとしちゃあ犬が飼える口実ができてラッキーだったのかもしれん しかしせっかくなついてきたと思ったらこれだ ついてないねーまったく ドコへいっちまったんだアイン

嗚呼 かわいかったなぁ 主人に似て賢かったし ハァもっとかわいがってやればよかったなぁ


それを遠巻きに見ていたスパイクとフェイ
「あんなになるまで思い入れがあったのかしら?意外だわ」
「そういや前にジェットの盆栽が水浸しになってたときの落ち込みようと似てるな」
「あんなゴツイ体系してあんなに落ち込むなんて…人は見掛けによらないものね」
「まったくだ」
エド 「まったくだぁ〜 もってけだぁ〜 もってけドロボー♪」

 突然、スパイクとフェイの間に、
 頭にパソコンを乗せたエドが割り込んだ。

エド 「ねぇねぇ! ドロボーさんのおうち みっけたよ〜」
フェイ 「マジ? やるじゃな〜い」

スパイク「おーい! ジェット コイツを見てくれっ!」

ジェット「なにぃ 居場所がわかったのか?
     いったいどうやって… んっ? こっコイツは…」

スパイク「どうかしたのか?」

ジェット「オレが前に付けた発信機だ…」

フェイ 「自分で付けといて今まで忘れてたわけ?
     元ISSPが聞いてあきれるわ…」
 アインに愛着が湧いたのだろうか、酒を呑みながら、真蔵はアインの体を撫でていた。
 そして、静かに何かを掴み取った。
 お鈴が怪訝な顔で尋ねた。
「どないしはりましたん?」
 真蔵は掴み取ったものをお鈴に見せた。
「まさか、それ発信機どすか?」
 真蔵は静かに頷いた。
「どないしまひょ?!あてらの居る所、ばれたんやないどすか?!」
 慌てるお鈴に真蔵は冷静に行った。
「いや、逆にこちらの行き先をくらますのに使える。」
「どういうことどす?」
 お鈴は真蔵が落ち着いていたためか、少し落ち着き、尋ねた。
「お鈴、確か近所の野良猫がこの店の庭に来ると言ってたな?」
 少し微笑を浮かべ、真蔵は尋ねた。
「へえ。今頃、餌を食べに来てる思います…。まさか…?」
 お鈴は微笑を浮かべた。
「すぐに、手を打ちまひょ。」


 「気が乗らねえな。たかが犬一匹のために、何でこんな遠いとこまで来なくちゃいけないんだよ?」
 不機嫌なスパイクをジェットがなだめる。
「スパイク。犬ってのは、結構義理堅いんだぜ。並みの人間よりな。」

 ソードフィッシュ?とハンマーヘッドは火星にある都市キョーへ向かって飛んでいた。キョーは今から200年位前のニッポンのキョウトととか言う街そっくりに設けられた都市であるらしい。

「だからと言ってねえ。」
 納得しないスパイクをジェットはまたなだめた。
「まあまあ、スパイク。オメエだって、キョーへ来たのは、200万の賞金首を追ってだからだろう?」
「俺は賞金首を捕まえに行くんで、犬を探しに行くんじゃねえ。」
 スパイクは不機嫌に言い捨てた。
「そろそろだぞ、スパイク。キョーだ!!」
「渋いねえ。」
 キョーに立ち並ぶジャポネス様式の家屋を見て、スパイクは少し、キョーの街に興味を持った。
 機を駐機場に降ろした後、二人は別行動に出た。ジェットはアインを、スパイクは賞金首を捜すために。
 その賞金首は、スリ魔らしい。余りにも被害が多く、かつ警察の捜査から簡単に逃げてしまうため、賞金がかけられたという。
 瓦と木で家が造られ、障子等を見て、スパイクはさらに興味を持って街を歩いていた。

 同じ頃、平安楼では、お鈴が犬をペット用バッグに入れ、出かける準備をしていた。
「真さん、とりあえず、車使いますよってな。これ、車のキーどす。」
「わかった。」
 真蔵はビバップに潜入した際に着用していた鎧のようなスーツの上からロングコートを羽織っていた。刀は仕込み杖で偽装し、サブマシンガンP90はロングコートの内側に隠した。
 お鈴は振袖のままで、少し大きめのバッグを持っていた。
「ほな、行きまひょか?」
「うむ。」

 仲居の一人にお鈴は数日出掛ける旨を伝え、平安楼の玄関を出た。
 少し離れた駐車場に向かい歩いていると、お鈴が悲鳴を上げた。
 先を歩いていた真蔵が後ろを振り返ると、お鈴がうずくまっており、後ろの方を見ていた。
 一人の男がペット用バッグを持って走っていた。
「真さん!!すられましたえ!!」
 真蔵は男を追いかけていた。

 裏の路地にスリ魔が入り、バッグの中身を確認しようとした際、後を追っていた真蔵が静かに言った。
「返してもらおうか?それはお前には価値のないものだ。」

 スリ魔が後ろを振り返り、言い返した。
「返して欲しい?返して欲しけりゃ、出すもん出せてんだよ!!ええ!!」
 真蔵は無反応でそれに応えたが、スリ魔はそれに気付かなかった。
「ビビッテンのかよ!?それじゃ、さらにビビラせてやるよ!!」
 スリ魔はシャツの内側からサイレンサーの付いた拳銃を取り出した。
「お前、体のどこに風穴を開けて欲しい!?」
 酷薄な笑みを浮かべる真蔵は仕込み杖から刀を抜いた。
 スリ魔は少し驚いたが、すぐに大声を張った。
「刀!?そんなもんで、俺に勝てると思ってんのか!?斬り付ける前にお前の頭に風穴が開くぜ!?」
 笑いながら言うスリ魔に真蔵はゆっくりと近づいていった。
「よっぽど死にたいのか!?じゃあ、望みどおりにしてやるよ!!」
 スリ魔は拳銃を真蔵の頭を狙い、撃った。

 放たれた弾丸が真蔵に命中する寸前、弾丸はあさっての方向に弾かれていた。
 
 命中する弾丸が弾かれたことにスリ魔は驚き、後ずさった。
 真蔵の刀の一閃が弾丸を弾いたのだ。

 ゆっくりとスリ魔に近づき続ける真蔵に向かい、スリ魔は半狂乱で撃った。

 弾丸が命中する寸前の度、真蔵の刀の一閃は弾丸を弾いていた。

 スリ魔の拳銃のスライドがバックしたまま、戻らなくなったことに気付いたスリ魔は尻餅をつき、パニック状態に陥っていた。

 真蔵は尻餅のついたスリ魔の側で立ち止まった。
「返す!返す!だから、だから、助けてくれよ!!頼むよ!!」
 腕で顔を覆いながら、スリ魔は涙を流しながら懇願した。
 真蔵は顔に覆いをしていないことに気付いた。
 刀を振り上げた。
 刀が一閃し、真蔵が刀に付いた血糊を払いのけた時、スリ魔の首と胴体がゆっくりと離れていった。
 ペット用バッグを持った時、真蔵は背後に気配を感じた。

 数秒後、その気配を感じさせる男が言った。
「困るんだよなあ。そういうことをされちゃ。せっかくの賞金がパーだ。」
 スパイクが言った。
「お…お前は… クソッ(今ここでコイツを殺しては円満に解決とはいかんな)」
真蔵は壁を蹴り上がり屋根えと飛び乗り 屋根伝いで逃げ始めた

「チッ まったくなんなんだよたらーっ(汗) クソッ逃がすかぁ」
スパイクは後を追った


「真蔵はんおそいでやんすなぁ」
ピピピピピ「はいな」「悪いが先に行っておいてくれ マズイことになった」ザッザザッザー
「はよぉ来ておくれやす」女は車に乗り何処かへと走り去った




ジェットはききこみを始めた
「いらっしゃい どの反物がいいかね? 最近では大島紡ぎの最上級品まで再現出来るようにならはりましたからね いいのがそろうとりますよ」
「あー聞きたいことがあるんだが…」
「なんでひょか?まぁ確かに高い買いもんとはいえ お買いにならはる方々の品格が試されるもんですからこれを機会に買って損はないと思いますが あぁねだんでっか?なにちがう?それならサイズでしたか?うちはオーダーメイドのもんもとりあつかってはりますから…」
「わるいたらーっ(汗)邪魔した」
ガラガラ ガラガラガラ トンッ…
「ふぅたらーっ(汗)

「あっあのすみません つかぬことをお聞きしますが ウェルシュコーギーという犬種のこういう犬を最近見たことは?」
「はて」
女は考え込んだ
「ウェルシュ・コーギー?犬?はて、そんな名前の犬、見まへんなあ。何か目印とかはありまへんのか?」
 ジェットは気付いた。
「そうだよ!発信機だよ!」
 その女は怪訝そうにジェットを見た。
「いや、気にせんでくれ。邪魔したな。」
 女から離れ、ジェットはタバコに火を付け、携帯無線機を出した。
「いやあ、俺としたことが。発信機を忘れていたとはな。」
 携帯無線機のディスプレイに発信機の発信位置を表示させた。
「う〜ん?動き回ってる。どうした?腹でも空かしてるのか?」
 ジェットはディスプレイの表示に従い、動いた。

 閑静な住宅街。少しの人しかあるいていない。
「そろそろ、合流するポイントなんだがなあ…。」
 しかし、アインはそこには居ない。
 動物で居るのは白い野良猫一匹だけだ。
「どこ行ったですか〜?たま〜?」
 小さな男の子が走っていた。
「たま、そこに居たですか?」
 ジェットを見たその男の子はタマと言う白い野良猫に言った。
「駄目ですよ。知らないおじさんについて行っちゃ。」
 ジェットは少し微笑を浮かべ、腰をかがめ、その男の子に尋ねた。
「坊や、この辺で犬を見かけなかったかい?」
 その男の子は少し驚いたが、考え、答えた。
「犬ですか?見てないで〜す。知らないですぅ。」
 その時、一人の割烹着を着、眼鏡を付けた夫人が言った。
「あれ。お舟ちゃんとこのボンの鱈ちゃんやおへんか?どないしたん?」
 鱈ちゃんという男の子は元気に答えた。
「あっ、こんにちはで〜す!たまが居なくなったから追いかけてたです!」
 婦人はジェットに視線をちらっと移し、また尋ねた。
「その男はんは?」
「犬を探してるです。」
「犬?」
 ジェットは言った。
「いや、俺、いや私が飼っている犬が居なくなりましてね。ただ、まあ迷子になった時に備え、発信機を付けてるんですが、その発信機がこの付近を示してまして。」
 その婦人は答えた。
「あ〜、それはお気の毒どしたなあ。でも残念どすけど、この付近には犬は一匹もおりまへんへ。」
「一匹も?」
 驚くジェットに、その婦人は続けた。
「はい。もう何年も前に狂犬病対策とかいうて、この区域では犬は禁止になりましてな。まあ、お隣の区は飼えるんどすけどな。」
「隠れて飼っているところは?」
「はははは、そんなんやったら、鳴き声で判るやおまへんか?」
「鳴き声…。」
 ジェットははっとした。
 さっきから犬の鳴き声が聞こえないことに。
「じゃあ、この発信源は一体…?」
 真蔵は一度屋根伝いに逃げるふりをし、地上を走って追うスパイクがどのルートで来るか推測した。
 そして、裏道を走り抜け、スパイクが走ってくるであろう、裏道の角で潜んでいた。
 
 スパイクが走り過ぎた瞬間を狙い真蔵はスパイクの後頭部を殴った。
 前へつんのめり、倒れるスパイクに真蔵は静かに言った。
「スパイク。君は私に勝てない。どのような手段であろうと。どのような状況であろうと。どのような戦い方であろうとも。」

 頭を押えながら、立ちあがるスパイクは後ろを振り返り、言った。
「あんたが何者かは知らない。過去に何をしていたかも。正直、あんたとは関わりたくはない。」
「では、何故私を追う?」
 静かに尋ねる真蔵はスパイクは答えた。
「追うつもりは毛頭ないね。」
「では、何故私と戦う?」
 再び静かに尋ねる真蔵にスパイクは答えた。
「気に食わないからさ!!」

 スパイクは言い終わるなり、真蔵に飛び掛っていった。
 組み合う寸前で真蔵は体を左へずらし、スパイクの飛び掛りを避け、スパイクの背後から攻撃する態勢をとった。
 再び後頭部に真蔵は拳を叩き込み、次に腰を蹴った。
 スパイクは前へ飛んだ。

「やるじゃねえか!」
 スパイクはふらつきながら、真蔵の方を振り向いた。

 再び、スパイクは真蔵に飛び掛ったが、真蔵は再びスパイクの飛び掛りを避け、その飛び掛りの勢いを利用し、スパイクの首にラリアットを掛け、頭頂部から地面へスパイクを叩きつけた。

 スパイクは気を失った。

「真さん、遅かったやおへんか?」
 メイン・ストリートの一角で合流したお鈴は真蔵に言った。
「荷物だ。」
「はいはい、お疲れさんどしたなあ。それじゃ、行きまひょか?」

 お鈴は助手席に乗り込み、真蔵は車を出した。

「おい、スパイク?大丈夫か?」
 スパイクがゆっくりと目を開けると、ジェットの顔が映った。
「ジェット…。」
「したたかにやられたようだな。おまえにしちゃあ、珍しいじゃねえか?」
 ゆっくりと上半身をスパイクは起こし、膝を立て、タバコをくわえ、火を付けた。
 紫煙をくゆらせ、スパイクは殴られた頭をさすりながら、言った。
「一仕事終えた後の一服はいいもんだねえ。」
 ジェットは怪訝な表情をした。
「お前、殴られ、気を失うのが一仕事だったてえのか?」
 スパイクはネクタイを手繰り、ネクタイピンを外した。
「そのネクタイピンがどうしたんだよ?」
 ジェットはまだ怪訝そうな表情をして尋ねた。
 スパイクは少し微笑を浮かべ、無線機を取り出し、無線機にネクタイピンを接続した。そして、無線機を操作し始めた。
 そして、ジェットに無線機のディスプレイを見せた。
「この男さ。この前の珍客。そして、さっき会っていた男は。」
 ディスプレイに服部真蔵の顔が写っていた。
 ジェットは微笑を浮かべた。
「お前ってやつは。」

 平安楼等が立ち並ぶ繁華街ギオンから出た一台の車が、キョーの街のある区画を走っていた。人はその区画を「ベンチャー・バレー」と呼ぶ。多くのベンチャー企業が立ち並んでいるためだ。ベンチャー企業だけでなく、ジャンク・ショップ、飲食店、コンビニ、法律事務所等が立ち並んでいる。

 ある建物の前で車は止まった。周囲の建物よりは少し大きいが、ギオンの建物と比べると小ぶりなものだった。
 車を降りたお鈴と真蔵は玄関をくぐり、ロックされたドアの前まで行き、インターホンを鳴らした。
「セールスはお断りやぞ。」
「先生、あてどす。」
「おお、お鈴か。今開けるからな。」

 ドアのロックが外れ、白衣を着た一人の老人が出てきた。
「おお、お鈴!例のもんが手に入ったんやな!!」
 その老人は目を輝かしていた。
「へえ、そうどす。平賀源譲博士。」
 お鈴は笑いながら、言った。
 お鈴は犬が2匹入ったバッグを博士に渡した。
「おい、ちゃんと管理しとけや。」
 平賀は一人だけの助手にバッグを渡した。
「真蔵。お前さんも来てたか?」
「ああ。」
「相変わらず、無口なやっちゃのう。お鈴、こいつ、あんま喋らんやろ?」
「そうどすなあ。ピンチに遭うた時も、あんまり表情変えまへんなあ。でも、それがよろしいですやないの?」
 お鈴は笑いながら言った。
「博士。機器の準備は出来ているのだろうな?」
「ふん。ワシとお鈴の話を邪魔し追って。お前、ギオンで少しやが、生活しとったんやろ?もう少し“粋”を学べ!」

 助手が違う部屋にある二つの犬用のボックスの前に立った。
 そして、各ボックスに犬を一匹ずつ入れ、鍵を掛けた。そして、その部屋から出た。
 助手が部屋から出てしばらくし、アインは目を覚ました。
 アインは感じた。体がだるい。眠りすぎた。何で寝ていたんだっけ?ええっと・・・。
 ボックスの光の取り入れ口から入る光がアインを照らす。
 アインが思い出しているとき、壁から犬の鳴き声が聞こえた。
「ワンワーンワーンワンワンワンワンワンワーンワンワン(ここはどこ?)」
 アインはその犬の鳴き声を聴き、吼えた。
「ワンワーンワーンワンワンワンワンワーンワーンワーン(君は誰?)」
 アインの鳴き声に隣の犬は反応した。
「ワンワンワンワーンワンワンワンワーンワン(僕はシュタイン。)」
 アインはまた吼えた。
「ワンワンワンワーンワン(僕はアイン)」
「(君はなぜ、ここにいるんだい?)」
 壁を隔てて、シュタインはアインに尋ねた。
「(わからない。ええっと…)」
 アインは再び思い出そうとした。
 そうだ!ビバップ号の格納庫を歩いていたら、覆面をした男が現れて、スプレーを噴きかけられて、それから……。あああっ!!覚えていない!!何もわからない!!

「(気が付けば、ここにいたという訳かい?)」
 シュタインの問いかけにアインは答えた。
「(覆面をした男にスプレーを噴きかけられたということしか覚えていないよ。)」
「(スプレー?多分、それは催眠スプレーだね。君は長時間眠らされていたんだよ。僕もさっきまで眠っていたけど、君ほどは眠っていない。)」
「(それで、ここはどこ?)」
 アインはシュタインに尋ねた。
「(分からない。僕も気付けばここにいたという状況だよ。)」
「(…。)」
「(ところで…。)」
 シュタインはアインに尋ねた。
「(お腹減ってない?)」
 アインの腹が鳴った。
スパイクはおなかをさすりながら無線機に話しかけている
「ジェットさんよぉ もう夕飯の時間だぜ?どこで油売ってんだよ」
「あー もうそんな時間か」
「あのなぁたらーっ(汗) こっちは朝食ったっきりなにも食べてないんだ 冷蔵庫は空っぽだし何か買ってくるって言ったっきりどこいってんだよ」
「悪い すぐ帰る もう少し待ってくれ」
ピッ…

「ったく どこほっつき歩いてるんだか おいエド 何か解ったk… だめだこりゃ」
餓死寸前の苦しい表情を浮かべたエドにスパイクはため息をついた



「ただいm… あれ?アンタたちなにやってんの?」
食べかけのバーガー片手に紙袋を持ったフェイが帰ってきた
exclamation & question」「exclamation & question
「めっめしぃ」「タベモノォ」
「あああああんたたち よ、よらないでよ」
声を裏返しつつ後退り背中が壁に触れたときフェイは手にしていた紙袋をはいつくばるエドとスパイクの後方に投げ 素早くもう片方の手にあった食べかけのバーガーをたべてしまった 紙袋に気をとられた二人は紙袋が床に落ち中から香水や化粧品が飛び出て来るのを見て唖然とした
「ハァ」「あぅ」
 スパイク達がフェイに失望したのと、ほぼ同じ頃。

 アインとシュタインにも食事が支給された。

「(ご、ごはんだー!)」
 餌をみるなり、飛び掛って食べるアイン。よほど空腹だったのだろう。
 対照的に、クンクンと匂いを嗅ぐシュタイン。
「(何か変なにおいがするよ、これ。)」
 シュタインは言った。
 それを聞いてアインは餌の匂いを嗅いだ。
「(う〜ん?こ、この匂いは!?)」
 シュタインがそれに応えた。
「(やはり…。)」


「(アルコールだー!!)」
 二匹は叫んだ。
 そしてアインは疑問に思った。
「(でも、なんでアルコールを?)」
 シュタインも考えた。
「(う〜ん、考えられる理由は一つ…。)」
「(何?)」
「(酔っ払わせて、逃げられないようにする為じゃないかな?)」
 シュタインはそう応えた。

 その頃、平賀博士は真蔵を相手にお鈴に酌をさせ、日本酒を呑んでいた。
「博士。データ取得は間もなくかね?」
 平賀は渋面で答えた。
「そうや。お前、ホンマに大丈夫か?ギオンだけやのうて酒までも楽しんどらん。お前の楽しみは一体何なんや?」
「さあ、博士。御一つ。」
 お鈴が酌をする。
「おっとっと。」
 平賀は美味そうに酒を呑んだ。
「やっぱり、お鈴の酌で呑む酒は美味いなあ。ええ、真蔵?お前もそう思うやろが?」
 真蔵は黙々と酒を呑んだ。

 助手が部屋に入ってきて、告げた。
「博士。準備終わりました。」
 博士は助手をにらめ付けて言った。
「お前も真蔵と一緒やのう。無粋な奴やで。まあええ。準備できたんやったら、さっさとやろか。おい、犬二匹とも連れて来い。」
 少し酔っ払ったアインとシュタインを助手は実験室のような部屋へ連れて行った。そして、助手はアインとシュタインの頭に何かヘルメットのような物を被せた。それは大型の機器からケーブルが数本繋がっていた。
 平賀博士は助手に言った。
「よっしゃ。おい、ランニングマシーンに犬2匹乗せろ。」
「博士、何しはりますのや?」
「うん?何言うとる?データ収集や。データ収集。」
「へえ?」
 ぽかんとするお鈴に平賀博士は説明した。
「必要なデータはこいつらの頭の中や。ただな、簡単にいうと、鍵かかっとる。簡単には見られへん。」
「へえ、そこまではわかります。そやけど、何でランニングマシーンなんか?」
「ふふふ。まあ、見とれ。おい、やるぞ。徐々にスピード上げていけや!」

 ランニングマシーンが動き出し、自然とアインとシュタインは走り出した。ジ少しずつスピードが速くなる。アインとシュタインはゆっくりと、必死になって走るようになって来た。さっき食べた餌の中にアルコールが含まれていた。酩酊してきた。そして二匹は意識を失いかけた。その時、博士は叫んだ。
「データ収集。記録開始!!」
 アインとシュタインは酩酊した状態となり、その脳に隠されていたデータを解放した。
 情報収集マシンのディスプレイには多くの概要、計算式、設計図、注釈等が映し出された。
「やったぞ!これでワシらは最高の富と権力を手に入れることが出来る!!」
「博士!やりはりましたなあ!!」
 お鈴も興奮した。
 真蔵は少し微笑を浮かべた。

 意識を失った二匹は助手の手で、ボックスへ戻された。そして体調を整える薬品が混ぜられた水を各ボックスに入れていった。
 二匹のボックスの鍵を掛けようとしたとき、博士が助手を呼んだ。助手はボックスの鍵をかけず、博士の元へ行った。
 夜が白々と明けてきた。
 シュタインはゆっくりと目を開けた。目の前にはアインがいた。
「(アイン…。)」
「(気分は?)」
「(大丈夫…。少しふらつくけど…。って、どうして、君は僕のボックスに?)」
 アインは微笑しながら、答えた。
「(鍵がね、閉められていなかったんだ。)」
「(本当かい!?)」
 シュタインは扉を見た。アインによってか、開けっ放しの状態だった。
「(さあ、どうする?)」
 アインは楽しそうにシュタインに尋ねた。
「(何が?何がしたいの?アインは?)」
 シュタインは聞き返した。
「(僕は外に出たい。)」
 アインが答えるとシュタインは答えた。
「(外か…。でも、だれもご飯をくれたりしないよ。お風呂に入れてくれない。危なくない?)」
 アインは言った。
「(シュタイン。僕は自由でいたいんだよ。ここは餌をくれるけど、閉じ込めらられることになる。僕は、僕は自由に生きたい。)」
 そう述べるアインにシュタインは言った。
「(アイン…。わかった。付き合うよ。でも約束して。変な事はしないと。)」
「(わかってる。僕だって、危険な目に遭うのは嫌だからね。)」

 二匹は脱出するにはどうすべきか、廊下を歩き、探した。
「(ねえ、この通気口はどうかな?)」
 シュタインの提案にアインは答えた。
「(入れる?)」
 シュタインが通気口に嵌っている金網を押すと、簡単に外れた。二匹は底に入った。
 そして、ひたすら歩いた。暗闇の中、静かに歩いた。
 しばらくし、光が差し込んできた。
「(もしかしたら、出口かな?)」
 シュタインが言った。
 二匹はその光へ向かい、歩いた。
 平賀の研究所の外に出た。
 霧が立ち込める明け方のひんやりとした空気が二匹を包んだ。
「(これから、どうする?)」
 シュタインがアインに尋ねた。
「(静かに…。)」
 アインがシュタインに言った。

 霧の向こうから何かが近寄ってきた。
「(なに?なに?)」
 シュタインは怯えた。

「(坊や達?こんなとこで何をしておいでだい?)」
 霧の向こうから話しかけられた二匹は驚いた。

 その話しかけた物はゆっくりと姿を現した。
 シベリアン・ハスキーだった。

「(ここはお前さんたちの飼い主のいる家じゃないのかい?)」
 そういうハスキーにアインは言った。
「(違う。ここは僕達の家じゃない。家に戻りたい。だから抜けたんです。)」
 それを聞いたハスキーは答えた。
「(なるほど。それでお前さん達は、これからどうしたいんだい?)」
「(アイン…。僕、お腹が減ったよ…。)」
 シュタインはアインに言った。
 それを聞いたハスキーは笑いながら言った。
「(それじゃ、とにかく朝食にしようじゃないか。アタシに付いて来な。)」
 そういうなり、ハスキーは走り出した。
 アインとシュタインも続いた。

 アインは恐る恐るハスキーに近づいた。体には綺麗な毛皮がついているが、多くの切り傷や噛み傷があった。

「(坊や達。名前は?)」
 アインは答えた。
「(僕はアイン。彼はシュタイン。)」
「(そう。アインとシュタインね。いい名じゃないか。)」
 アインはハスキーに、ハスキーの名前を尋ねた。
「(ははは。自己紹介がまだだったね。あたしの名はフェリータ。よろしくね、坊や達。)」
 
 3匹の犬は、霧の中に溶けて行った。 
「おまえは馬鹿か!?間抜けか!?このボンクラが!!」
 平賀博士の大声が研究所の外まで響いた。
「貴様のおかげで、ワシは大損しそうなんじゃぞ!!責任とって、腹切れ!!腹を!!」
「博士…。どうしたんどすか?そないな大声で?」
 平賀博士は尋ねたお鈴に答えた。
「昨日採ったデータに一部欠陥があってな。そのため、もう一度データをとうろとしたら、犬が2匹とも逃げたんじゃ!!」
「えっ…?何でですん?ちゃんとボックス入れてたんでっしゃろ?」
「この大馬鹿が鍵を掛けてなかったんじゃ!!」
 絶句するお鈴。激怒し続ける博士。顔が青ざめている助手。そして探しに行こうとする真蔵。

「フェリータさん…。朝御飯まだですか…?」
 シュタインが弱々しく尋ねた。
「ごめんね、坊や達。今日はお店閉まってたから、何も食べさせてあげれなかったね。」
 腹ペコでもアインは普通だった。
「アイン。あんた、意外とタフなんだねえ。意外じゃないか。」
 フェリータは感心しながら言った。
「へへ。」

 しばらくしてから、アイン達に一匹のブルドッグが寄ってきた。
「よお、姐御。元気かい?」
「サージ。あたしは空腹さ!ハハ!!」
「そりゃ、タマらねえな!!ハハ!!」
 二匹は笑った。
 サージというブルドッグはアインとシュタインに気付き、言った。
「姐御。あのチビどもは何なんで?」
「ああ。さっき、アタシが拾ったのさ。家に帰りたいんだとさ。それで、面倒をみようと思ってね。」
 関心するサージはアイン達に言った。
「オメエ達。運が良いぞ。姐御は面倒見がいいんでよ。ちゃんと最後まで面倒みてくれらあな。ところで、姐御。腹減ってんだったら、ファースト・フード店かコンビ二に行くといいぜ。今メシが出てるぜ。」
「本当かい?」
「ああ。このサージ。ウソは言わねえよ。合衆国海兵隊軍曹の誇りがあるからよ!」
 そう断言するサージにフェリータは言った。

 アインとシュタインは不思議に思った。海兵隊?軍曹?入隊経験のある犬って何?
「サージ。あんたは入隊経験ないだろ?あんたのご先祖だろ?」
「そうだった。へへへ。」

「あの〜。ご先祖が海兵隊に入隊してたんですか?」
 アインはサージに尋ねた。
「ああ、そうだよ!俺っちのご先祖は、地球って星にあった最強の軍団、合衆国海兵隊ってとこに入隊してたんだ!海兵隊のマスコットになって、国に忠誠を尽くした誇り高き、マリーン(海兵)・ドッグさ!!階級は軍曹(Sergeant)だったんだぜ!新しく入隊してきた新兵共は俺っちのご先祖に敬礼してたのさ!」
「へえ。」
 感心するアインに対し、シュタインも尋ねた。
「どうして、今はそこに入隊しないの?」
 その質問を聞いて、少し寂しそうな顔をして、サージは言った。
「今は、誇り高き合衆国海兵隊は存在しねえからさ…。俺っちの爺様に言わせりゃ,ガッツのないタマ無し野郎共と戦うのは真っ平御免ってことだからさ!」

「サージ。そろそろ、この子達に食事させなきゃいけないから、行くよ!」
「おう!それじゃあな!姐御!!」

 サージというブルドッグと別れた後、フェリータ達はサージに教えられたファーストフード店の裏口に行った。他に数匹の犬がいたが、何とか3匹食べられそうであった。
 シュタインは言った。
「あ、アレを食べるの…?」
「シュタイン…。アンタ、よっぽど恵まれた生活を送ってたんだねえ。」
 フェリータは言った。
「シュタイン。とにかく食べてみようよ。僕も初めてだけど、とにかく食べなきゃ!」
 励ますアインをフェリータは温かく言った。
「しっかりしてるねえ、アインは!さあ、とにかく食べようじゃないか!!」

 3匹は少し遅めの朝食にありついた。
 シュタインにとって、衝撃的だった朝食も、何も問題なく終わった。しばらくぶらぶらと3匹は歩いていた。
(エド、今頃どうしてるだろ?ジェットも皆もどうしてるかな?)
 アインはふとそう感じた。
 それを察したのか、フェリータは言った。
「アイン。大丈夫さ。きっと家に帰ることが出来るよ!元気だしな!!」
「フェリータさん…。」
「シュタインも元気お出し。きっと大丈夫だからさ!」
「うん。」
「さあて、今日はキョー巡りと洒落こもうかね!あんた達もこの辺りは初めてだろ!?あたしが案内してあげるよ!」
 
 三匹はキョーの街を巡った。ベンチャー・バレーの区域から外れた寺社等を見て回った。その時、観光客や観光客目当ての店のおばさんから餌を与えられた。
 フェリータがその理由をこう述べた。
「人間はあんた達を可愛いと思うからさ。しっかし、何で私を人間は美しいと思わないのかねえ?こんなに綺麗なのにさ!?」
 
 夕方になった。
「さて、夕食にしようか?歩き回ったから、お腹減ったろ?」
 アインもシュタインも空腹だった。
 三匹はある店の裏口に回った。そこには雌の犬が一匹いて、餌を食べていた。
しかも何かしらの必死さがあった。
「フェリータさん。ここで食べるの?」
 シュタインが尋ねるとフェリータは答えた。
「いや、今日はここでは食べれないよ。」
「なんで?」
 シュタインは理由を尋ねた。
「あの娘をよく見な。子連れだよ。子供にお乳を与えなきゃいけないから、必死に食べてるのさ。」
「…。」
 シュタインは衝撃を受けた。初めて見ることばかりだっただけではない。母親の愛のようなものを実感したためであろうか。またフェリータの優しさをも実感したためであろうか。
「ごめんねえ。今日は夕食にありつけないかもしれないねえ。」
 シュタインは元気に答えた。
「いいよ!また明日があるさ!」
「おや、シュタイン。あんた、男らしくなったねえ!!ハハハ!!」
 三匹は笑った。
「でも、折角の楽しい一日だったんだ。あそこへ坊や達を連れて行ってあげようかねえ。」
 フェリータはアインとシュタインをある寺へと導いた。
 その寺は小さな寺だった。
 その寺の門は犬が入れるくらいの穴が開いていた。フェリータは少し苦労してその穴をくぐり抜けた後、フェリータを先頭に三匹は寺の本堂前の広場を走りぬけ、本堂前で止まった。
 一人の僧侶が座禅を組んでいた。
 その僧侶は、坊主頭ではなく、髪を伸ばしていた。また無精髭であった。

「フェリータさん。あの人、何してるの?」
 アインの質問にシュタインが答えた。
「あれは座禅というものだよ。ああいう姿勢で目を瞑って、考えるんだよ。」
「シュタイン、よく知ってるねえ。さて、挨拶しようじゃないか。」

 フェリータの鳴き声にその僧侶は目を開けて、言った。
「やれやれ、また寝てしもうたわ。」
 境内にフェリータがいることを確認した僧侶は笑顔になった。
「おお、よう来てくれたなあ。拙僧を慰めに来てくれたのか?」
 夜だったためか、僧侶はフェリータしか見えない様子だ。しかし月明かりでアインとシュタインを僧侶は確認すると少し驚いた様子で言った。
「何と、まあ。お前、その子犬の面倒を見ているのか?やさしいのう、お前は。」
 そういいながら、僧侶はフェリータの頭を撫でた。

「ちょっと、そこで待ってなさい。」
 そういい残し、僧侶は本堂に姿を消し、しばらくしてから戻ってきた。
「さあ、お食べ。」
 そう言い、僧侶は三匹にコンビーフを振舞った。
 そして、僧侶はそれを見ながら、般若湯を実に美味そうに飲んだ。

 食事が終わってしばらくし、一人の男が門をよじ登り、本堂の前まで走ってきて、ナイフで見せながら、言った。
「その仏像を寄越せ!命が助かりたいならな!」
 フェリータは吼えた。吼えに吼え狂った。
「(アンタ!和尚さんに手を出したら許さないよ!!)」
 犬の鳴き声に少し、腰が引けた男はなお、仏像を寄越せといい続けた。その都度、フェリータは吼えた。
「持ってき。」
 その僧侶は静かに般若湯を飲みながら言った。
「お前さん。あの仏像が欲しいんじゃろ?持ってき。仏様は仏像の中にいてはいないからなあ。あれは飾りみたいなもんじゃ。ただ、価値のあるもんらしいから、傷つけんように持ってきなさい。」
 笑顔で僧侶は言った。

 強盗は涙を流し、謝罪の言葉を残し、寺から出て行った。
僧侶はフェリータの体を抱き、言った。
「怪我はないか?わしを守ろうとしてくれたんだね。ありがとう。」
 僧侶はフェリータを抱き続けた。
 そして、言った。
「今日はもう遅い。泊まって行きなさい。」

 少し高めの床下に僧侶は布団をしいた。それは客人をもてなす為の見栄えの良い布団であった。
「さあ、ここで寝なさい。」
 フェリータ達は驚いた。
「(和尚さん。私達は大したことをしていない。泊まらせてくれるだけで、嬉しいのに…。)」
 アインとシュタインはその僧侶の優しさに驚いた。
「さて、拙僧も寝るかのう。」
 そう言い残し、僧侶は本堂に姿を消した。

「フェリータさん。どうするの?」
 アインは尋ねた。
「あれは人間、和尚さんが使うべき物さ。だからあたし達はあれでは寝ないよ。いいね?」
「うん。わかってるよ。」
 アインとシュタインの返事のフェリータは満足そうな、そして温かい眼差しで見つめ、言った。
「寝ようか。」

 フェリータ達が寝静まった後、僧侶は床下を覗いた。
 そこには布団の上ではなく、地面の上で眠るフェリータ達の姿があった。
「ははは。頑固じゃのう。」
 僧侶はフェリータたちを温かい眼差しで見つめていた。

 翌朝。
 アインが目覚めると、すぐに隣で寝ていたフェリータを起こした。
 アインに起こされたフェリータも驚いた。シュタインも驚いた。
 夜、僧侶がひいた布団の上で僧侶が寝ていたからである。

「う、うん…。」
 僧侶が目覚めると、ニヤッと犬に笑いかけ、言った。
「よく寝れたかな?ははは。犬の生活も悪くはなさそうじゃのう!ははは!!」

 僧侶は門を開け、寺の鐘を鳴らし、朝の日課を黙々とこなした。
 フェリータ達はその僧侶の前に行き、ワンと一声鳴いてから寺を後にした。
 
 僧侶は手を合わせ、犬達の幸多からんことを祈った。

「和尚。おはようございます。御精が出ますなあ。」
「おお、これはこれは。よう来てくれたな。さあ、本堂に入りなさい。」
 僧侶は客人を本堂に招きいれ、茶を振舞った。
「すまんなあ。拙僧のために骨を折ってくれてのう。」
 頭を下げる僧侶に客人は言った。
「いえ、こちらこそ、一休上人のために働けたのですから、名誉なことです。この妙勝寺も復興できることでしょう。」

 一休上人もその客も笑顔で話をした。
「ところで、一休上人。何かよいことがございましたかな?何だか楽しそうなのですが?」
 一休上人は笑顔で答えた。
「拙僧は昨日、犬になってな。それはそれは楽しかった!ハハハハハ!!」
 寺から出た三匹は朝食を摂るため、またファースト・フード店へ向かった。

 しかし、彼らはファースト・フード店に辿り着くことは出来なかった。
 真蔵と遭遇したためである。

 裏通りで、真蔵と遭遇した際、アインとシュタインは強く吼えた。
「アイン!?シュタイン!?どうしたんだい!?」
 フェリータの質問にアインは答えず、吼え続けた。
 シュタインがフェリータの疑問に答えた。
「アイン、言ってた。アインは家から勝手に連れ出されたんだって。多分、この男がアインを連れ出したんだよ!!」
 フェリータは驚き、そしてすぐに言った。
「アイン、ついといで!!逃げるよ!!」
 シュタインもアインに呼びかけた。
「アイン!!急いで!!」

 三匹が逃げ出した時、真蔵はコートの裏ポケットに手を入れていた。催眠ガスのスプレーを出そうとしていたのだ。
 3匹は逃げていったため、真蔵は裏ポケットから手を出し、犬の後を追った。

 フェリータの先導でアインとシュタインは逃げた。

「こっちよ!!」
 三匹は人間の大人は入れそうにない穴をくぐった。誰もいない潰れかけの家の部屋の1つだった。
「しばらく、ここに隠れるよ!静かにしてな…。」
 三匹は静かにした。

 真蔵はその潰れかけた家に犬三匹がいることを確認した。逃げ、隠れそうな場所がそこしかなかったからだ。そして、彼は犬が入った穴からではなく、その家の玄関から入った。

 潰れかけた家の部屋で再度、再開した。

 フェリータが吼えた。
 真蔵は顔色を変えなかった。
「お前、美しいな。」
 真蔵はフェリータに向かい、言った。
「フェリータ、この穴からまた外へ出て逃げよう!」
 アインが言った。
 その時、アインは驚きのため、目を見開いた。
 真蔵はフェリータに向かってP90サブマシンガンを向けていた。
「フェリータ!!」
 アインが叫ぶ。
 同時にフェリータは左へ飛び、P90から放たれた高速弾を避けた。
 
「避けるとはな…。身軽な犬だな…。」
 真蔵は言った。そして再度真蔵は引き金を引いた。タマは出なかった。
 スケルトン・タイプのマガジンのため、残弾を確認できる。残弾はあった。
 真蔵は一度、ボルトを引き、弾詰りを起こした弾丸を強制排出した。
 三匹はさっきの穴から再び外へ出ていた。
「運の良い犬達だ…。」

 三匹は必死になって走った。
 とにかく走った。
 気が付けば、妙勝寺に着いた。

 境内では、一休上人が一人竹箒で掃除をしていた。
「おうおう。一体どうした?また拙僧を慰めに来てくれたのかな?」
 笑顔で一休上人は言った。
「う〜ん?お前達、何かあったね?一体何があったのかな?」
 一休上人が思案していると、寺の門から真蔵が現れた。
「御坊。邪魔をする。」
 真蔵は静かに言った。
「さてさて、この犬の飼い主の方かな?失礼だが、どこかでお会いしませんでしたかな?」
 一休上人は静かに言い、犬と真蔵の間に立った。
 犬達は真蔵に向かって吼えた。
「フフフ…。」
 真蔵は笑った。
「御坊、犬を返して頂けるかね?」
「ほほう。あなたはこの犬達の飼い主かね?しかし、飼い主とは思えんね?なぜあなたはここまで吼えられるのかね?申し訳ないが、飼い主だと判るまで拙僧は犬達を返す気はありませんぞ。」

 一休上人の答えに真蔵は少し固まり、言った。
「もう一度言う。その犬達を返してもらおうか?」
「お断りする。」

 真蔵は静かに身構え、一休上人にとびかかり、みぞ打ちをしようと拳を繰り出した。一休上人は倒れなかった。
 一休上人はみぞ打ちを受ける間一髪で真蔵がくりだした右の拳を両手の手の平で包むようにし、受け止めていた。
「やれやれ…。暴力的な振る舞いはいかんなあ。」
 真蔵は後ろへ飛び退いた。
「御坊…。何者かね…?」
 少し、表情を強張らせた真蔵は、静かに、しかしいつもより少し強めの口調で尋ねた。
「さてさて、その質問の意味はようわからんなあ。拙僧はただの坊主でしかないんだがなあ。拙僧は坊主には見えんかね?」
 一休上人は頭をさすり、続けた。
「まあ、この髪型じゃ、坊主と思いにくいかもしれんわなあ。」

 真蔵は背中へ右手を伸ばし、コートの内側に隠してあった短めの刀を抜いた。
「ほほう。忍者刀を忍ばせていたとはなあ。あなたは丸腰の坊主を相手に刀を抜くのかね?」
 挑発するかのような口調で一休上人は言った。
「御坊。あなたは“着込み”をしているな?」
 一休上人は微笑を浮かべ、言った。
「はははは。これは大したものだ。なぜそれが判ったのかな?」
「鎖の音はしない。ただし、着用していそうな雰囲気をだったんでな。」
 真蔵は、その時にはいつもの調子に戻っていた。
「はははは。では拙僧と貴方は同類かな?」
「さて。答えかねる。」
 さて、少し時を遡る。
 スパイクとエドが飢餓の極限を迎え、フェイが食べるバーガーに喰らい付こうとし、失敗したその頃。

 ジェットはボブと連絡を取り合っていた。

「ジェット。お前さんが探している人物だが、ISSPのデータベースに何の記録も無いぞ。」 
 多くの人々が通う雑多な商店街の中華レストランでボブは小声で言った。
「それじゃ、犯罪歴なしってことか…。」
 ジェットは表情を少し暗くし、目の前にある豚マンにかぶり付いた。
「いや、まだわかんねえぞ。」
 ボブは無表情な顔でラーメンをすすり、言った。
「どういうことだ?」
 怪訝な表情をし、ジェットは尋ねた。
「どこかで見たことがある顔なんだよ、この顔。」
 ボブは自分の携帯無線機にジェットから送られてきた真蔵の顔のデータをディスプレイに映し出していた。
 勢いよく、麺をすすり、スープを飲み干し、ボブは立ち上がった。
「この件、もう少し、調べて見る。何かわかったら連絡する。」

 ボブは火星にあるISSP捜査局の1つへ足を運んだ。玄関から堂々と入り、そのまま3階の隅にある部屋へ向かい、入った。

 部屋には8名分の机が4名分ずつ向かい合わせに並んでいる。その机の群れから窓際の方には室長クラスの机がドアの方を向いて置かれていた。
 部屋には2名しかいなかった。

 窓際の机に1人の男性警官、机の群れでで窓際の机に近い方に1人の婦人警官。

 その婦人警官は黙々とPCのキーを叩いていた。窓際の机の男は眠たそうな目でボ〜とした雰囲気で書類に目を通していた。

「シヴィさん、お腹減ってない?そろそろ食事に行く?」
 窓際の警官がポツリという。
 長い髪を後ろで1つにまとめた婦人警官は答えた。
「今日は忙しいから、出前にするわ。」
「ああ、そう。じゃあ、何注文する?」
「そうね…。私はカニチャーハン。」
「それじゃ、私はワンタンメンと半ライスにしようかな…。」
 男性は電話掛けた。
「もしもし。香港亭さん?ISSPの3階のモンだけどさ、カニチャーハン1つとワンタンメン、半ライスのセットで。お願いしますね〜。」

 電話を掛け終わって、初めてその男性警官はボブの存在に気付いた。
「おや、ボブじゃないの?いらっしゃい。どうしたの?」
 眠そうな雰囲気で尋ねられたボブは答えた。
「お忙しいところ、失礼します。ゴットー司令。」
 少し、微笑を浮かべるゴットー。
「司令…ね。今はISSPに出向中の身で、司令と呼ばれてもって感じだけどね。まあ、いいや。」
「あなたの本来の仕事は機動警備分遣隊司令でしょ?違うのかしら?」
 婦人警官が突っ込みを入れる。
「シヴィ・サウスクラウド小隊長。お邪魔します。」
 ボブはその婦人警官に挨拶をした。
「ボブ。どうしたの?こんな場所にきてるのを他人に見られたら、変に勘ぐられるわよ?」
「シヴィさん・・・。そこまで言う?」
 ゴットーが言った。

「実は教えて頂きたいことがありまして。」
 ボブが要件を切り出した。
「何?私に聞きたいことがあるの?答えられるなら答えるけど、答えられないものはこたえられないよ。それでもいい?」
「司令…。変なこと言ってないで、さっさと聞いてあげなさいよ?」
 シヴィが促した。
 ボブは自分の携帯無線機を取り出し、あの男の顔をディスプレイに表示させ、ゴットーに見せた。
「実はこの男に関してなんですが…。」
「う〜ん、どれどれ…。」
 ゴットーはじっとそれを見ていた。
 そして、ゴットーはボブをしばらく注視して、言った。
「ボブ…。」
「はい。」
 ボブは少し身構えた。
 何を言われるのだろうか…?

「…椅子…、その辺の使っていいから。」
「…はい…。」
 少し、ガクッときたボブ。

「この男性の何を知りたいの?全部?」
 ゴットーはボブに尋ねた。
「ええ。最低一通りのことは聞いておきたいのですが…。」
「ふ〜ん。」

 シヴィも少し興味を持ったのか、携帯無線機のディスプレイを覗いた。
「あら?この人どこかでみたことあるわね?どこでだったかしら…?」
「サウスクラウド小隊長もですか?私も以前にみたことがあるような気がしてならんのです。」
 二人が思い出そうとしている最中にゴットーは言った。
「見たことがあって当然だよ。会ったかどうかは別としてね。生きてたんだ、この人…。」

 シヴィとボブは顔を合わせた。
「どういうこと?」
 シヴィは尋ねた。
「数年前にあった巨大環境プラント占拠事件、覚えてる?」
 シヴィとボブはその事件を思い出した。
「えっと、海岸線から数キロ離れた巨大環境プラントがテロリスト集団に占拠された事件のこと?覚えているわよ?私はその事件の時、隣の管区でパトロールしていたわ。実質的には捜査に参加できなかったけど、隣であったから緊張してたわね。」
「ああ、私も覚えていますよ。私はガニメデ勤務でしたから、その事件の捜査に参加してませんでしたがね。ニュースで聞いたことがあります。」

 ゴットーは眠そうな目で昔の思い出話を話すかのように語った。
「あんまり、事件の首謀者等に関して報道されなかったでしょ?ただテロがあり、占拠されたという程度の報道しかされなかったでしょ?」
「そういえば、余り詳しく報道はされなかったわね…。」

 ゴットーは少し目を細め言った。
「報道期間にISSPは詳細な発表なんかできやしないよ。ISSP本部ですらこの事件を闇に葬ろうとしたんだからさ。」
 シヴィとボブは怪訝な顔でゴットーに尋ねた。
「どういうこと?」
 ゴットーは続けた。
「プラント占拠の首謀者はISSPの最高幹部クラスの男だったからさ。」
 シヴィとボブは凍りついた。
「ISSPの最高幹部クラスの人間が?なぜ?」
 シヴィはゴットーに尋ねた。
「理由はよく判らん。当時ISSP内部でも、その理由は推測の域をでなかったからな。」

 ボブは頭を抱えながら、言った。
「ちょ、ちょっと待ってください…。ゴットー司令。そのテロとこの男がどう結びつくんです?」
 ゴットーは、少し驚いた表情でボブの方を見て、言った。
「ああ、ゴメン。その点を話すのを忘れていたねえ。簡単にいうと、その男がテロ事件の首謀者だったってわけ。」
 ボブとシヴィはまたしても凍りついた。
「で、でも事件に関し、報道機関はテロ首謀者の顔写真等を報道していないわよ…。私達がみたことがあるというのはどういうことなのかしら…?」
 シヴィは何とかゴットーから得た情報を整理しようと勤めながら、その重い口調で言った。
「昔、キョーの警察管轄区で辣腕を振るい、事件発生率を激減させたISSPから火星警察へ出向したISSP幹部がいてね。出向後、その男はISSP本部でも警察活動に関する制度・法制定に辣腕を発揮した。そして、遂にはISSPのナンバー1にまで登り詰めた。実戦経験が豊富で、かつ優れた政治的手腕を有していた。皆が顔を知っているのは、人事異動告知で顔写真付きで告知がなされたからだよ。だから記憶の片隅に残っているというわけじゃないかな?名前はシンゾウ・ハットリ。まあ、今じゃ、データベースからその名前は抹消されてるから調べようも無いがね。」

 ボブとシヴィは最早凍りつくことも出来なかった。自分達の身内がテロリストであったという事実と優れた才能を有していた捜査官だったという事実を整理・把握仕切れない様子だった。

 ゴットーは続けた。
「ISSPのトップに登り詰め、多くの警察活動政策を打ち出し、治安の改善が見られた。また独自の訓練システムで、多くの施設や警察特殊部隊への抜き打ちチェック制度を設け、さらに治安維持及び高い練度を有する警察官を維持しようと努めた。しかし、ある汚職事件で彼の側近の1人が逮捕され、汚職疑惑により、ハットリはナンバー1の地位から退くこととなった。そして後任に敵対派閥の人間が就任した。そしてISSPから退官した。」

 シヴィはゴットーに尋ねた。
「退官後、その恨みを晴らすためにテロを起こしたというわけ?」
 ゴットーは答えた。
「最初、そのように推測されたんだが、敵対派閥の人間を名指しで批判、また暗殺事件が起きていない。現に事故死も確認されていない。つまり怨恨の線は薄いと考えられるようになった。」
 次にボブが尋ねた。
「それじゃ、自暴自棄(ヤケ)になって、テロ活動を起こしたというのはどうです?」
 ゴットーはその考えに対し、言った。
「それも考えられたんだけどね。ただハットリという男は忍耐強く、物静かで鋭い、切れる男でさ。そんな男が単純に怨恨でテロを起こすかという点でその線も薄くなった。」

 シヴィは言った。
「でも、プラント占拠って、警備員と作業員しかいないんでしょう?そんなところを狙って、何をしたかったのかしらね?」

 ゴットーは少し驚いた表情でシヴィを見て、言った。
「後で話そうと思ってたけど、先に言われちゃったよ。まあ、いいか。実を言うとあのプラントはプラント建設及び運営に火星政府が一枚噛んでてね。詳しく調べようにも火星政府の厚いヴェールが遮るのよ。噂ではそこでナノマシン兵器の研究をしてたんじゃないかと言われててさ。確かメンデロ・アル・へディアという博士を中心とした研究チームがそのプラントに出入りしていたと言われているからさ。」
 シヴィとボブは数度目の凍りつきを経験した。
「ナノマシン兵器製造…?条約違反じゃないの…?」
 ゴットーは頷いた。
「そう。噂が正しければ、立派な条約違反。お話にならないことをやってたのよ、火星政府は。でもね、そのプラントで実験・製造していたという証拠はないのよ。あったとしても、プラントはテロで破壊され、海の藻屑と消えたわけだからさ。」
 
 シヴィとボブは溜息を付いた。
 聴かなければ良かった話の部類である。

「ところで、マスコミが黙ったのは何故?ISSPの不祥事なら、マスコミの格好のネタじゃない?それに火星政府のナノマシン兵器製造だって、ネタには困らなかったはず…。」
 シヴィがまた疑問を述べた。
「相変わらず、鋭い点をついてくるよね。シヴィさんは。」
 ゴットーは微笑を浮かべながら、言った。
「何故、マスコミは格好のネタに飛び付かなかったか?答えはハットリの後任の男がやっていたことが原因さ。」
 シヴィとボブは首をひねった。
 それを見て、ゴットーはポツリという感じで言った。
「フーバー長官さ。」
 シヴィとボブは目を見開いた。
「フーバー…?」
 ボブはシヴィに尋ねた。
「何なんです?そのフーバーってのは?」

 シヴィはボブの質問に答えた。自分の知識が合っているのを確かめるように。
「内外の政治家や公務員、はたまたマフィアに関する捜査を行っていたフーバーは調査した内容を武器に政治家等に強い影響力を及ぼした。ISSP長官在職期間は短期だったが、その影響力のため、『独裁者フーバー』と仇名された男…。じゃあ、フーバーがマスコミに裏取引を行ったため、マスコミはテロ事件の隠蔽を幇助した?」
 ゴットーは頷いた。
「そう。報道機関のお偉方の弱みを握っていたから、フーバーはそれに付け込んで、報道を自粛させたってわけ。」
 ボブは唖然とした。

「でも、そのフーバーの幕引きに異論を唱える捜査官がISSPにはいてね。」
 シヴィは信じられない表情をした。
 ボブはさっきのフーバーの話でどのような状況だったかをある程度把握したためか、ある程度驚いた表情となった。
「マスコミに全てを公表すべきと主張したんだが、その捜査官、閑職にまわされてね。」
 ゴットーが相変わらず眠そうさ表情で淡々と語った。
「結局、閑職への異動告知の前に自ら退官したがね。」
 シヴィはゴットーに少し悲しそうな表情をし、尋ねた。
「その人は今は?」
「噂では、出家したらしい。」
 シヴィとボブは顔を伏せた。
「その捜査官、凄い人でさ。頭が切れて、行動力がある人だった。キョー管轄区の捜査官でさ、素晴らしい刑事だったよ。いつも襲撃に備えて、“着込み”、“鎖帷子”とも言うんだが、それを着込んでたよ。防刃ベストを着ればいいじゃないという意見に対し、“キョーではそんなモンは無粋だ。職人技の着込みが一番”と言ってたよ。」
「元ISSP長官がテロリストで、ISSPはプラント占拠事件のもみ消しをしたとは…。」
 ボブは疲れた表情でつぶやいた。
「ボブ。他に聞きたいことはある?」
 ゴットーは言った。
「何でハットリはテロをしたと思います…?」
 ボブは呟くように尋ねた。
 ゴットーは天井をみ、静かに答えた。
「さあね。それは本人に聞くのが一番だろうね。でも、聞いたところで意味はない。もう誰も裁けないからね。」
「でも、テロ事件なのだから、捜査・逮捕しなければならないじゃない?」
 シヴィは静かにかつ力強く言った。
「捜査・逮捕することもISSPは拒否するだろうね。フーバーの尽力で一般にはテロの首謀者が元ISSP長官とは知られていないのだからね。現ISSP首脳陣だって、もう終わったことを、ISSPの権威失墜へ繋がる事件の捜査を再開することをしたがらないさ。」
 ゴットーが淡々と話し、シヴィは力強く言った。
「でも、捜査・逮捕すべきで…。」
「捜査・逮捕したとして、どうする?物的証拠は最早無し。逮捕する理由は無い。ハットリの自首しかない。」
 ゴットーの言葉を聴き、シヴィは沈黙した。
「仮に逮捕したとしても、ISSPはハットリの存在自体を抹消するだろうね。」

 少し、沈黙した時間が流れた。
 夕日はとうに沈み、辺りは暗くなっていた。
 窓からは車のライトが流れ星の如く、流れていくのが見えた。
「ハットリは今、何をしているんでしょう?またテロ計画の練っているのでしょうか?」
 ボブはゴットーに尋ねた。
「それは分らんねえ。ただ、彼はテロを起こすとしても、慎重に計画を練り、勝算を見出し、成功するように実行するだろうね。」

「お待たせしました〜。香港亭で〜す。」
 白いヘルメットを被り、白い調理士用の服を着た、初老の老人が出前を持って来た。
 3人はその老人の方をみた。
「すいませんねえ。今日は団体さんが入って、込んじゃったもんで。」
 そういいながら、机の1つに料理を置いていった。
「気にしなくていいですよ。こっちも話すことがあったんで。」
 眠そうな顔で言うゴットーと対照的にシヴィとボブの表情は暗かった。
 ゴットーとシヴィが夕食をとっている間、ボブは喫煙室でタバコを吸っていた。
 ジェットにこのことを伝えるべきかどうか、悩んだ。頼まれたことだから調べた。そして、ボブ自身が大きな衝撃を受けた。その衝撃をジェットにも感じさせるべきか?いや、そもそも元警官とはいえ、一般人にそのことを話してもいいのかどうか?ボブは悩んだ。

「何悩んでるの?」
 ボブは話しかけた方を振り返った。
 ゴットーが立っていた。
「衝撃的な話だったもんで…。」
 ボブは呟くように言った。

「誰かに話そうと思わない方が良い。話すのなら、元警官というのも伏せた方がいいのかもしれない。」
 ボブはゴットーの顔を見た。
「話したければ、あたしに話せばいい。機密を守れと言っている訳じゃない。話せば、ボブ。君自身、危うくなる。」 
 ゴットーは眠そうな顔だったが、少し目の色を変えていた。真剣にボブの身を案じていたのだ。
「感謝します。」
 ボブはゴットーに言った。
「ついでだ。もう少し、部屋に寄ってきなよ。」

 再びボブとシヴィはゴットーの話すことに耳を傾けた。無論部屋のドアに鍵を掛け、部屋の周りに誰もいないかを確かめてからだ。
 ただでさえ、人通りの少ない区画。誰か来ればすぐに分るが用心のため、行った。

「ハットリが長官を辞任し、ISSPから退官した後、何をするか?フーバーはハットリのその後の行動を恐れ、尾行等の身辺調査を行ったらしい。」
 ゴットーは椅子にかけ、窓の方を見ながら話し始めた。シヴィとボブはゴットーの背中と、窓に映るゴットーの顔を見つめた。
「結果、何も不審な点はなく、引退生活を送っているという報告がなされた。」
 シヴィは言った。
「それじゃ、その後にプラント占拠事件を計画・実行したということ?」
「いや、それが違うんだ。」
 ゴットーは目をさらに細めながら言った。
「身辺調査をした捜査官とて分らない形で計画を進めたらしい。」
 ボブとシヴィは驚いた。
「どうやって?」
「ハットリは特殊な訓練を受けた人でね。訓練内容に関し、詳しいことは知らないんだけど、どうやら何気ない仕草や言葉で連絡を仲間に伝えることが出来たらしいのよ。」
 ボブは“特殊”という言葉に何か引っかかった点を感じた。
 ゴットーは続けた。
「捜査官ですら分らない連絡手段で、連絡を取り合う。というか、彼自身、フーバーのやることの一歩先を読み、対処していた点で怖いんだがね。それで、彼はグループを作り、メンバーと計画を立て、実行した。実に見事だよ。誰にもばれず、隠密裏に行ったのだからさ。」
「退官した後、彼とテロを実行する人間って、どんな連中だったの?」
 シヴィはゴットーに尋ねた。
「ISSPの警官、火星陸軍特殊部隊出身のISSP特殊部隊の隊員と言われてるね。高度に訓練されていたのは当然なんだが、それよりも、ハットリに心酔してた連中というべきかな。」
「ハットリに心酔?」
「ハットリは警察行政で辣腕を発揮したといったよね?その手腕、またその行政方針の趣旨、また最前線で戦ってきたと言う経歴、正にスーパーヒーローのように見えたんだろうね。そんなスーパーヒーローから声を掛けられたら天にも昇る気持ちになったろうね。」
「それじゃ、ハットリはそのメンバーを使い、テロを実行した?」
 ボブは呟くと、ゴットーは頷きながら言った。
「まあ、そういうこと。ただし、心酔してたメンバーの内、ほんの一握りしかテロ・メンバーにならなかったけどね。やはり能力を推し量っていたんだろうね、ハットリは。他に傭兵のような連中も使ってたというし。」

 シヴィは尋ねた。
「ちょっと待って。どうやってハットリに心酔していた警官等を洗い出せたの?」
 ゴットーは答えた。
「簡単だよ。ハットリ退官後のフーバー時代に服部の名前を出す警官はハットリの心酔者だよ。あのフーバーが自分の敵対する人間の名前を出す警官をそのままにしておくかい?」
「なるほど…。」

「後、必要な装備等はISSPから横流ししたものなの?」
 シヴィはさらに尋ねた。
「まあ、それもあったろうね。他にハットリの部下が闇ルートで入手したものもあるらしい。」
 ボブは尋ねた。
「どのような装備を彼らはしてたんです?」
「FNP90サブマシンガンを装備してたというね。あの防弾チョッキを貫通させるやつ。爆薬の類としてはセムテックスが多かったと言うよ。プラスティック爆薬の一種だ。あと、特殊な鎧のような服を着ていたというね。人員、装備、計画。全てが揃った段階で、ハットリは占拠に出た。」
 ボブはまた何か引っかかった。
「鎧?」
 シヴィの疑問がゴットーの話の続きを促した。
「そう。多分防弾版を付けた特殊な戦闘服じゃないかな?あと刀を持ってたという情報もあったな。接近戦では刃物は有効だからね。でも刀はどうかなと思ってたんだがね。でもその刀で銃弾を跳ね返したという奇妙な報告もあったな。」
「刀で銃弾を跳ね返す?」
 シヴィとボブは驚いた。
「そんな漫画みたいな話、信じられないわ。」
 シヴィの反応にゴットーはシヴィとボブの方に姿勢を向け、話し続けた。
「プラントにはナノマシン兵器の研究施設があると言ったよね。もし、そのナノマシン兵器が人間の身体能力を極限以上に高める類のものだとしたら?話は繋がるんだけどね。」
 シヴィは驚き、ゴットーに尋ねた。
「そのプラント施設で研究されていたナノマシン兵器は人体能力の極限を高めるものだったの!?」
 ゴットーはのんびりとした感じで答えた。
「さ〜てね。あそこで何を研究されていたか、証拠は海の底。底浚いしたところで、もはや何も有力な物はでてこない。海水による腐食のためにね。それに、火星政府が情報を公開するとも思えないしね。」
 シヴィはなおも食い下がり言った。
「でも、あなた、今人体能力を高めるものだって…。」
 ゴットーは少し目を細め、かつ静かな声で言った。
「シヴィさん…。申し訳ない。あたしの推測なんだ、それ。ただ、報告等を考慮したら、そうじゃないかと推測しただけなんだ。あの時、ISSPは火星政府に情報提供を求めたが、何も提供されなかった。それどころか、火星陸軍が現場に入ってきた。一時、ISSPと火星陸軍の間で一悶着起こるんじゃないか、心配になったよ。」

 ボブがゴットーに確認した。
「それじゃ、結局、その研究内容は…?」
「何も分らず仕舞いさ。プラントは爆破されたしね。」
 そこでシヴィが何か気付き、尋ねた。
「プラントを爆破したのは誰なの?」
 ゴットーは少し驚いた表情をし、そして微笑を浮かべた。
「本当に鋭いよ、シヴィさんは…。」
 ボブは不審に思った。
「報道・ISSP・火星政府は占拠したテロ団体により、爆破されたと発表した。しかし、火星政府にとっては、プラントをISSPによる突入で解放されたくはなかった。ナノマシン兵器製造が明るみに出るからね。それに現場検証等が終わったらマスコミに現場公開だ。火星政府にとっては最悪のケースだ。それらから推測し、シヴィさん、火星政府はプラントにどのようなことを行う?」
 ボブとシヴィは凍りついた。
 何ということを…。ナノマシン兵器の研究・製造を外部に漏らさないため、占拠したテロ組織の行動に見せかけ、火星政府はプラントを爆破した…。しかし、どうやって…。
「どうやって爆破したかと尋ねたそうな顔をしているね、シヴィさん、ボブ?」
 ゴットーは眠そうに目を細め、静かに言った。
 ボブは思った。
 そりゃ、尋ねたいさ。報道機関やISSP、火星警察の輪をかいくぐって、どの様にプラントを爆破するのか?ミサイルを使えば、一般市民にも分るだろうし、一般市民にしちゃ、独裁者フーバーなんざ、関係がねえ。でもどうやって…。

「答えは火星軍にある。」
 ゴットーの言ったことにシヴィは何か感じ、そして言った。
「火星陸軍特殊作戦部隊第7班…。彼らがプラントの爆破を行った…?」
 ボブは不思議そうな顔をした。
 特殊作戦部隊第7班?何だ、そりゃ?
「特殊作戦部隊第7班ってのはね、ボブ。ナノマシン兵器対策を考慮に入れて創設された火星陸軍の特殊部隊なの。もっとも今じゃ、解隊されたがね。タイタン戦役で壊滅状態になったからね。」
 ゴットーは目線をボブに移し、言った。
 
 ボブは何故自分の考えが読まれたかに驚きつつ、ゴットーとシヴィに言うことに耳を傾けようと決めた。どうせ、自分の知っていることは報道されたものしか知らないんだ。

「でも、彼らがプラントへ突入したというわけではないんでしょう?」
 シヴィの疑問にゴットーは答えた。
「誰からも目立たず、プラントを爆破するには、どのように爆破する?海上プラントというものを爆破するには?」

 そのゴットーの問いかけに、ボブが静かに自分の考えを、ボブ自身気付かずに、静かに述べた。
「海から…?海からプラントに接近し、海上プラント内部の基盤区域に潜入。そして爆薬をセットし、撤収後に爆破を行った…?」
 さて、再び妙勝寺における一休上人と真蔵の対峙に話を戻す。

「拙僧は、何かしら同じ臭いを感じるよ。あなた、かつて“修羅場”というものを潜り抜けて来たんじゃないかね?」
 一休の問いかけに真蔵は答えた。
「私は常に“闘い”という場に身を置いていたのは事実だ。さて、御坊、その犬達を渡してもらえんかね。お互い、悲惨な結末を見るのは避けたいことだと思うが?」
 真蔵が手にしている忍者刀が、太陽の光を反してか、怪しげな光を発していた。その光は、不気味な赤みを帯びていた。
「それはできませんな。この犬達は拙僧にとっては大事な“友”なのでな。簡単にお渡しすることはできませんぞ。」
 上人は笑顔を絶やさずに述べていたが、その目は笑っておらず、また、上人から発していた雰囲気は笑顔の時に発せられるそれではなかった。

「それでは、仕方ない。」
 真蔵が刀を振り上げながら、上人に飛び掛ろうとした時、一本の錫杖が真蔵をめがけ、飛んできた。
「!?」
 真蔵は刀でそれを振り払い、飛んできた方を見ると、体格の大きい、髭を伸ばした1人の僧侶が真蔵に飛び掛ってきた。
 その僧の体当たりをもろに受けた真蔵はそのまま後ろへ弾き飛ばされたが、すぐに態勢を整え、その僧侶との合間をとった。
 僧侶は地面に突き刺さった錫杖を抜き、構えた。
「魯辰(ろたつ)!!」
「上人、ご無事ですかな!?遅うなりましたな!?」
 一休上人はその魯辰から発する匂いに気付き、言った。
「魯、あんた、拙僧の般若湯、全部飲んだな?!」
「申し訳ございません。上人から茶をご馳走になりましたが、やはりワシには“酒”が一番でしてな!!しかし上人!今はその話どころではありませんぞ!!」
 上人と話した後、魯辰は真蔵の方へ振り向き直った。

「貴様!!この寺で、乱暴を働くとはいい度胸だな!!」
 魯辰は大声と共に再び真蔵に飛び掛っていった。
 錫杖が唸りを上げ、真蔵の頭を目掛け、振り落とされる。それを真蔵は刀で受ける。受け止められた錫杖を魯は一旦自分の方へ引き寄せ、錫杖の先端を真蔵の喉元を目掛け、突こうとした。しかし、真蔵が後ろへ飛び退き、その突きを交わした。
 魯は再び突きを食らわそうと前へ出てきたが、真蔵はそれをよけ、魯の右腕の方から背後へ回りこもうとした。それをさせじと魯は錫杖を右へ振り回した。
 その振り回された錫杖を刀で受け止めると、真蔵は腹に魯は蹴りを入れようと足を繰り出したが、真蔵は魯の左腕の方へ身を寄せ、蹴りを避け、背中に一太刀浴びせた。しかし、その一太刀を魯は一歩前へ出つつ、前へ身を寄せ、傷を負うことを避けることに成功した。
 斬られた僧衣から魯の背中が見えた。
 その背には、牡丹の花が見えた。背中一面に牡丹の刺青が為されていた。
「見事な…。」
 魯の背に彫られている刺青を見、真蔵は呟いた。
 真蔵はその刺青を惚れ惚れと見つめた。そして、何かを思い出した。
「かつて、木星軍植民地海兵隊、火星軍海兵隊に、背中に花の刺青を彫った凄腕の格闘教官がいた。除隊後、賞金稼ぎをしていたが、後に出家したと聞いたことがある。御坊のことかな?」
 真蔵は静かに尋ねた。その表情は、いつもとは違い、好奇心を感じさせる目だった。
「そうだとしたら、何とする!?おとなしく、この寺から出て行くのか!?」
 魯の凄みのある声が寺の境内をこだました。
「フフフ…」
 真蔵は少し笑った。そして、構えを解いた。
「御坊、いや貴官と格闘戦を臨んでも敵わんだろうな…。フフ,ハハハハハ!!」
 真蔵は、柄にもなく、笑い出した。何が彼を笑わせたのか。
「?」
 魯も一休上人も判らなかった。
「貴官、海兵隊を除隊し、いや、“闘う”ことを止めて、何年経つかね?」
 魯は意味がわからないという表情をした。それは無論一休上人もであった。
「何を言ってやがる!!」
 魯の大音声に真蔵は静かに言った。
「貴官も御坊も“闘い”という場に身を置き、“闘う”ことに喜びを見出してきたはずだ!思い出したよ…。貴官とは一度手合わせしたことがある!」
「何!?」
 魯は驚いた。そして、真蔵とどこで出会ったかを思い出そうとした。
 しかし、思い出せない。
「出鱈目を言うな!!」
 魯は叫んだ。しかし、その叫びを真蔵は微笑を浮かべ、答えた。
「火星で私は貴官と手合わせをしたよ。まだ思い出せないかね?」
 魯は思い出せなかった。
「では海上プラント占拠事件といえば、思い出すかね?」
 静かに話す真蔵の言葉に魯は目を見開いた。思い出したのである。
「まさか…。そんな…。」

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