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三文物書へな書庫をコミュの痩せ獅子

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「…どこに行った?」

「先ほどからの雨で足跡が流されて追跡困難で…」

「そんなことはわかっている!奴を捕獲せねば任務は完了しないのだ。全力を持って捜索にあたれ!失敗は許されん!」

「サー!」


ゴトゴトゴトゴトゴトゴト


足音が遠ざかっていく…
どうやらひとまずは撒けたようだ。
安堵の溜息を吐いて男が黒いゴミ袋の中から顔を出す。
周囲を確認する。…誰もいない。味方も、敵も。いや、

「敵なのか?」

首を傾げる。
狙われるような謂れはないのだ。いままでの自分の任務に関して特に失敗があったわけでもない。自分が優秀であるという自負もあるし、そうであるからこその勲章が左胸元に輝いている。陸軍特殊部隊総兵隊長の証…
これまで相対してきた敵に生き残りはいない筈だ。徹底した殲滅作戦以外では任務に就くことはない。任務に就けば完璧にこなしてきたのだ。
遺恨の類を残すことなく、その根源すら抹消してきたのに…

「一体、何の冗談だ…」

今、自分が置かれているのは味方一人いない、地の利もない四面楚歌。
絶体絶命―そんな言葉がよぎるが、すぐさま思考から追い出す。

俺には使命がある―

腰をかがめ、姿勢を低くして向かいの家まで走る。
屋根から伝う雨水で体を洗い流し、生臭い臭いを少しでも消す。
万に一つでも、と思い窓を軽くノックするが、中から人が、いや、生物が動く気配がない。やはりこの街には自分と、自分を追う部隊以外に動く者はいないようだ。
ちらりと覗き見たそこには、子をかばうようにして息果てた母親と、それもろとも銃剣によって貫かれた幼子。墓標のつもりだろうか、貫かれたそのままの状態で―

静かに窓を開け、音を立てないように注意しながら家に入る。
子供部屋だろうか…四畳ほどの部屋に死体がふたつ。短い毛並みの絨毯が血を吸って、赤黒く染まっている。

「許せ」

母親の背に足をかけて銃剣を引き抜く。トプ、と血が溢れ、上等そうなショールを赤く染め上げていく。その血を人差し指で掬い、すかっり血の気の失せた唇に塗っていく。せめてもの償い。
鮮やかな死に化粧を施して、壁にかかる地図を見上げた。


なぜ見つからん…やはりこの人数では“痩せ獅子”を捕らえるのは不可能なのか…?

小隊は捜索を中断し、ベースである小さなトンネルに集まっていた。
いくら時間をかけても見つからないことに焦り、指揮官が不安を口にしそうになったその時

「たしかに逃げられるものではないな」

不意に響いた声に反応して兵士は銃剣を構える。
侵入を見過ごすほど見通しの利かない大きさのトンネルではない。
奴はどこから―

ドカッ

指揮官の目の前に黒い塊が落ちる。
兵士は即座にその塊に向けて発砲し、指揮官の上空に向けて構える。

「やめろ!これは罠に決まっ」

「そのとおりだ」

地の底から這い出てきたかのような声に兵士は戦慄する。
反撃を想定して侵入経路を特定するためにベースをトンネルにしたというのに、誰も気付かなかった。反響した声はその源を教えてくれない。

周囲を警戒する兵士達だったが、そのうちの一人が突然両脇の兵士を切りつけた。両手に握られたコンバットナイフは正確に、そして無情に首を掻っ切り、二人の兵士はその場に崩れ落ちる。

「なっ!?」

驚く兵士と指揮官に構わず、次々に切りつけていく。
混乱した兵士は恐怖心からか銃剣を手放せず、隣り合った兵士とそれを絡ませてまたさらに混乱する。
瞬く間に指揮官以外を闇に沈めた兵士は、ヘルメットを脱ぎ捨て振り返り、無表情のままニヤリと笑んだ。

「貴様…!“痩せ獅子”!?いったいどうやって…」

「罠だと自分で言っていただろう?やかましい銃声に紛れて一人潰されたことに気付けなかったな」

「バカな…」

「そんなゴミ袋に必死になって鉛玉打ち込んで標的に追い詰められ、部隊は壊滅。全く以って優秀な指揮官殿だ」

薄く嘲笑う。歯噛みする指揮官。

「くっ!」

「慌てるなよ」

指揮官が抜こうとした銃をナイフの投擲によって弾き落とす。
もはや獅子を前にした兎に等しい。

「言え。何故、私を狙う」

「だ、誰が言うものか!」

「そうだろうな…ならば質問を変えよう。何故、一般の犠牲者を出した」

「き、貴様だって今までに星の数ほども人を殺してきただろう!」

「私が殺したのは全て軍人だ。敵対する者以外を手にかけたことはない」

「そ、そんなわけがあ」


ドスッ


「…私を貴様らのようなゲスと一緒にするな」

指揮官は眉間をナイフに突き抜かれ、その場に崩れ落ちた。


トンネルの外では既に雨は上がり、その陽光は世界を照らす。
しかし、一匹の“痩せ獅子”は未だその身を暗闇の牢獄に置いたままだった。

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