座・一座（旧山﨑千惠子一座）コミュの代表のつぶやき　第９回

　最近テレビで翻訳版（石原さとみ氏主演）「ピグマリオン」を見ました。

ご存知の方はご存知の通り、ジョージ・バーナード・ショウの名作戯曲です。

ご存知ない方も、この戯曲をミュージカル化した「マイ・フェア・レディ」はよくご存知なのではないでしょうか？

1913年初演のこのお芝居の基になっているのは、いうまでもなく「言葉」です。

20世紀初頭のイギリスは世界に冠たる大英帝国であり、多民族が流れ込み、世界中の富みも貧しさも一身に受け止め、受け入れていた状態でした。

今日のアメリカを想像すれば、少し近いのかもしれません。

こうした中、栄えあるアングロ・サクソン系民族の言葉、キングス・イングリッシュを汚す人々が横行する様をバーナード・ショウは憂いたのかもしれません。

このお芝居の見所は何と言っても貧民層に暮らす花売りの娘が淑女へと変身する過程です。

ここで見方を変えて、では貧民層に暮らす娘を日本語で演じるとしたら…ただ汚い、乱暴な言葉を話すだけで事足りるでしょうか？

そもそもアメリカにも存在するスラングは汚い言葉なのでしょうか？

「ピグマリオン」の中で表される言葉とは、汚い言葉を指すのではなく正しい「発音」ができていない、つまりヘンリー・ヒギンズがエンリー・イギンズであるということなのです。

ヒギンズ教授はメモを持ち歩き、人々の発音を記号によって記録し、それを分析するお仕事をされています。
そして誤った発音を嘆いています。

ここで話しを強引に変えます。

これも最近、日本映画の「舟を編む」を見ました。

辞書編纂という仕事の大変さは十分理解できましたが、そこに生きる人々には遂に共感することはできませんでした。

松田龍平さんの演技はとても高く評価されていますが「僕は辞書が好き」というたった一つのセリフが全体のトーンを崩しているようです。

言葉を題材にする構成では、特に言葉が生きていなければなりませんし、繊細な「言葉を編む」、つまり脚本には人の生き様が詰まっていなければならないと感じました。

そもそも日本人に「言葉」をテーマにしたドラマができるのか？

企画者には是非この事について考えていただきたいと思います・・・どうも自虐的でよくありません。

ドラマとは「生きる人間を描くこと」だと思います。

それが葬儀社に働く人であろうと、辞書を編纂する人であろうと、また侍であろうと、町人であろうと・・・人を描くための環境である構成が、どうも環境が優先した仕事案内のような形になるのはなぜでしょう？

芝居やドラマ、映画を見る時、私はこんな事をいつも考えています。
時に嫌な人間だと思います。
作品のあげ足取りに終始する時もあります。

重箱の隅をつつくのも希ではありません。嫌な性格です。

ですが、舞台や映像でこういう人間を描こうとするとどうも精神異常者にさせられるようです。

要するにガラの悪い人間を描く時は汚い言葉を使い、何かに執着する人間を描こうとすれば異常者になる。

これでは人間を描こうとしても薄っぺらな人物にならざるを得ません。

その原因は脚本なのか？　演出なのか？　俳優なのか？　
観客なのか？

みなさんも一度是非こういう視点で「作品」を考えてみてください。

山﨑千惠子一座　代表