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合作小説「灰」コミュの第20章〜魔性PART2〜2〜

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●・ ・ ・女・ ・ ・●

   

「で今は・・・反対する?」

あたしは紗代ちゃんのコーヒーを飲みながら・・・苦くて美味しいエスプレッソ・・・顔色を伺った。

  

「うーん・・・ダンナから聞いたときにはね、止めた方がいいって思ったヨ。」

紗代ちゃんの目は、相変わらずおっきい。

  

「しょーこ姉さんってね、オシが弱いじゃない?保険って、いっろんなトラブルあるんでしょ?大丈夫かなーって。」

紗代ちゃんの目は、改めておっきい。

  

「うちのダンナもさあ、ああ見えて結構繊細じゃない?今だって、会社辞めるだなんて言い出したりしてさ!」

紗代ちゃんの目は、おっきくてつりあがってる。

  

「二人の子供と愛する女房をどうするのって。そう思うでしょ?」

あたしの相談なのに、いつの間にか自分の愚痴になっちゃってる・・・おっきな目が顔からこぼれそうだわ。

    

「こないだなんてさあ・・・ちょっと!何、目ぇばっかり覗きこんでんのよ!」

「え・・・?あ、ごめん。おっきい目に吸いこまれそうになっちゃってた。」

  

あたしは紗代ちゃんの手作りクッキーをかじった。

紗代ちゃんは、ほんとうに料理が上手。

   

「紗代ちゃんの目ってさあ、武器だよね。」

「な・・・なに?」

  

こくんとコーヒーを飲み込む。

苦味が、柔らかい甘味に変わって、舌の上で踊っている。

   

「そのおっきい目・・・それがグリグリ動くじゃない?達也さんも、そこに惚れたんかな?」

「もう!いきなり変なこと言わないでよお。あたしに気があるのかと思っちゃったじゃない。」

  

レズの気はない・・・あたしはタバコに火をつけた。

マルボロのライト。

  

「しょーこ姉さん・・・タバコの量、増えたね・・・。」

「うん?そうかしら?」

    

そう言われれば・・・そかな・・・?   

「いろいろ考えてさ・・・もう考えることさえ忘れるくらい考えこんじゃってさ・・・とことん疲れちゃったんだ。」

  

カチャ・・・と軽い音をたてて、紗代のカップがソーサーに置かれた。

「やっぱり、姉妹だね。だんだん佳代っちに似てきてる。」

  

「そりゃあ双子だもの。似てるの当たり前じゃない。変なの、今ごろ・・・。」

紗代は、その大きい目をやや小さくして、あたしを・・・というより、あたしの後ろを見るように言った。

  

「佳代はね、ものすごく綺麗な・・・優しい心だった。脆くって、一途で・・・。」

「で、弱くって?」

  

紗代の目が点になった。

「そんなこと言ってない!佳代っちはね!」

  

佳代のことになると、この娘はすぐムキになる。

「わかった・・・ごめん、言い過ぎた。」

  

謝るに限る。

「でもさあ、紀のこと・・・考えるだけで、もう・・・。どうしようもない気持ちになっちゃうんだ。」

  

「紀さん、今何してんの?」

「新しい仕事探してる。」

  

そう、仕事・・・見つかるはずがない!

ただでさえ平成の大不況なのだ・・・ましてや、背中にやっかいなものをショっていれば・・・。

  

「病気は、どう?」

「うん・・・まだときどきね。ね・・・、ひとつ聞きたいんだけど。」

  

「うん?」

「紗代ちゃんね・・・あたしと紀のこと・・・どう思ってる?」

  

怪訝そうな目・・・おっきな目は、どうやってもおっきい。

紗代ちゃん、幸せなんだな。

  

「どういう意味?」

「どういう関係に・・・見える?」

  

紗代ちゃんは、コーヒーをすすった。

そして何かをごまかすように・・・肩をすくめて、首を軽く振りながら言った。

  

「恋人。」

「佳代と山岡さんたちみたいに?」

  

「ねえ・・・何か変だよ。今日のしょーこ姉さん。どうかした?」

紗代ちゃん・・・まだあたしのこと、わかってないんだな。

  

「紀はね、恋人でもなんでもないよ。」

「じゃ、何?」

  

紗代ちゃんのムッとした顔。

紗代ちゃんの中では、まだ佳代が生きているんだろうな。

  

だからあたしの中に、どうしても佳代を見てしまう。

あたしは・・・佳代みたいな女じゃない・・・双子で、色んなとこ似てるんだけど。

  

紗代ちゃんだけじゃない。

みんなそう・・・佳代を知っている人たちは、みんな佳代をあたしをダブらせてる。

  

双子だから似ていて当然・・・でもあたしは向井昌子…宇田川洋蔵の娘で佳代の双子の姉・・・でも、あたしはあたし!

「紀はね、ただのセックスフレンド。」

  

紗代ちゃんの全てが止まった。

目はおっきいんだけど、瞳孔がきゅーんと小さくなって・・・。

  

「あたしは向井昌子・・・樋渡佳代じゃないんだよ。佳代と違ってもいいじゃない?」

紗代ちゃんは、固まったままだ。

  

「向井昌子はね、今日付けで転勤・・・。行き先は、どこかな?」

紗代ちゃんは、まだ固まっている。

  

「ふふ・・・びっくりした?あー、すっきりした!」

あたしは固まったままの紗代ちゃんに背を向けて、バッグを取って立ちあがった。

  

「コーヒーごちそうさま。もう仕事に戻らなきゃ・・・。」

「ちょ・・ちょっと待って!」

  

紗代ちゃんはようやく我にかえり、慌てて立ちあがった。

「しょーこ姉さん、どうしちゃったの?!」

  

紗代ちゃんは自分のスリッパで滑りながら、あたしの前で通せんぼ。

務めて冷静でいようとしているが、完全にパニくっている。

  

あたしは、紗代ちゃんの両肩に手を置いた。

「どいて・・・。」

  

「どかない!あたし・・・何がなんだかわかんないよ!何でいきなりそうなるの?」

紗代ちゃんは、泣いていた。

  

「だって・・・だって、ついさっきまで・・・いつものしょーこ姉さんだったじゃない・・・どうして?」

あたし・・・ずっと考えてきたんだよ・・・。

  

ごめんね・・・。

「紗代ちゃん、あたし・・・しばらくみんなと会わない。でも・・・貴女にだけは、ちゃんとさよならしたかったの。じゃね。」

  

紗代ちゃんの横をすりぬけ、あたしはマンションを出た。

しずかにドアが閉まった。

  

ドアの向こうで、紗代ちゃんがどすんと座り、わあわあ泣き出すのが聞こえた。

こらえてたあたしも・・・。

  

ごめんね・・・紗代ちゃん・・・あたし、佳代みたくなるのが怖いの!

佳代みたくなりそうで・・・怖いの!

  

そしてもっと怖いのが・・・達也さんが好きなの!・・・紀よりも。

だから・・・紗代ちゃん・・・ごめんね。

  

もうずうっと、想い続けてた。

考えるとね、会いたくって会いたくって・・・もうどうにもならなくなる。

   

どうしてあたし、こうなんだろ。

紀は・・・ほんとうにセックスフレンドにしか思えない。

   

それからもうひとり・・・徹也・・・実の兄も・・・まだ・・・想ってる?・・・かな?

あたしって・・・どんな女なんだろ・・・。

  

紀がこないだ言った・・・。

お前は魔性の女だ・・・おれにはわかる・・って。

  

あたしのこんなとこが、紀には見えてるのかも。

歩きながら、あたしは携帯のメモリーを表示させた。

  

もうそこには・・・紀の携帯番号と、会社のしかなかった。

しばらくこの町から離れるために、全部消した。

  

さよなら・・・ありがと。

達也さん・・・徹也・・・さよなら。

  

紗代ちゃん・・・ごめんね・・・これがあたしにできる精一杯。

そしてあたしは、紀が待つ東京駅へと向かった。

  

  

  

●・ ・ ・男・ ・ ・●

  

  

待合室・・・個人的には、どんなシチュエーションでも嫌いな場所だ。

ましてやここは・・・大嫌いな歯医者だ!

  

おまけに俺の横には、島勝郎が座っているのだ。

この変なプロレストレーナーは、今日会ったばかりだというのに。

  

おれは、今日のことを思い出していた。

運命に弄ばれるように、新会社SWSへ出向・・・そして横浜のGAW・・・。

  

「へ?歯医者ですか?」

茶髪で小太り、メガネ顔の島勝郎は、びっくりして言った。

  

紗代からの電話で、俺はとりあえず新宿にある『山崎デンタルクリニック』に行く事にした。

人間とは妙なもので、歯のことを思い出したとたん、疼きだしたのだ。

  

その日の打ち合せは、当然キャンセル。

そのことを告げたとき、島勝郎はそう言ったのだった。

  

「ありゃあ・・・実は自分も今日予約してたんスよ。」

そう・・・偶然にも、同じ歯医者に通っていた・・・という訳だ。

   

ここまで来る間、俺たちはいろいろ話した。

ほとんどが新会社のことだった。

  

それと自己紹介。

島勝郎は、熊本出身だった。

  

地元の高校を卒業後、大阪の整体専門学校へすすみ、縁あってGAWに就職したとのことだった。

「へえ・・・熊本!おれのダチが昔転勤してましたよ。」

  

「行かれたことは?」

「いや・・・残念ながら。」

   

「良かとこですよ。夏死ぬほど暑くって、冬圧倒的に寒くって。」

簡単に飛び出した熊本弁にとまどったものの、どうやら心は通わせそうだとわかり、ほっとした。

  

「俺は根っからの関東人なんで、あっちこっち行ってないんだ。」

「あ・・・自分、ときどき地が出て、熊本弁でますけど、勘弁してください。」

  

島の年齢は、俺より2歳下の28歳。

ぶっちゃけ、ダサい風体であるが・・・確かにいろんなことを任しても大丈夫・・・そんな印象だった。

  

モーニング娘の後藤真希とジェニファー・ロペスのファンであり、彼女いない暦3年(自称)とのことだった。

しかし、歯医者が近づくにつれて、俺達は無口になっていった。

  

もう10分程待っていた。

その間、全く喋っていない。

  

「・・・怖いっスね。」

ぽつ・・・と一言。

  

「ああ・・・。」

ぽつ・・・と返す。

  

「ところで、斎藤さん。大和さんって、いい方でしょ?」

沈黙に我慢できなくなったのか、島は口を開いた。

  

「うん・・・そんな感じだよね。」

「あの方も、同郷なんス。」

  

「へえ・・・熊本?」

「はい。自分は熊本市なんスけど、大和さんは荒尾市ってとこ出身なんス。」

  

「彼は、頭良さそうだね。」

「切れ者ですよ。神社長が仕事に集中できるのも、大和さんがいるからっス。」

  

だんだん喋りがノってきたころ・・・運命のときは来た。

「斎藤様・・・中へどうぞ。」

  

ああ・・神様!

  

  

  

●・ ・ ・男・ ・ ・●

  

  

銀座のネオンは・・・今日はまたやけに眩しかった。

平成の大不況・・・仕事があって、まだこんなことできるんだから、うちはまだいいんだろうな。

  

俺、丸山義一は、仕事も終わり、青年会議所の研修委員会も終えて、ひとり飲んでいた。

いつもなら、大勢の仲間と飲んでいるはずだったが・・・今日ともう一日だけは、毎年ひとりになりたくなるのだった。

  

3月9日・・・磯野孝太の命日。

あいつが死んでから、あの『カルテット』は完全に過去のものになっちまった。

  

ある意味、あいつが最も『カルテット』だった。

斎藤さんより・・・。

  

啓介の命日、12月16日もそうだ。

啓介・・・『カルテット』のムードメーカーだった男。

   

ギターも好きだった孝太がいきがって、俺は『カルテット』のジョン・レノンだなんて言ったとき・・・啓介はすかさずこうやり返したっけ・・・。

「じゃあお前のツレは、ヨーコ・オノかあ?」

  

そのときの孝太のツレは、お世辞にもべっぴんではなかった。

そんな啓介だった。

  

俺と斎藤さんは、ひたすら硬派だった。

ふたりの掛け合いが面白くって・・・それを見ることが、幸せでもあった。

  

『カルテット』の名前を出せば、今でも顔が変わる連中もいる。

この店のマスターも、その一人だ。

  

『カルテット』に憧れ、俺等とともに暴れた若い衆だった。

だからおれは、今でもときどきここに来る・・・一人で。

   

しかし今日は、一人じゃない。

もうそろそろ・・・?

  

「おっす!元気だったか?」

「久しぶり!あれ・・・顔、変わってない?」

  

斉藤さんの顔は、左が腫れている。

「ああ・・・今日・・・歯医者行ったんだ。」

  

斉藤さんとは、毎年こうやって連中の命日に会っている。

そもそも『カルテット』ができたのも、俺と斉藤さんとのガチンコがあったからだ。

  

町で喧嘩に明け暮れていたあのころ・・・俺は無敵だった。

常に10人程度の手下を引き連れていた。

  

そんなある日、あっという間に部下を一人で片付けちまったのが、この斉藤さんだった。

強かった!

  

日を変えておれとタイマン張ったのだが・・・結果は負け。

お互いに認め合って、そして啓介と孝太が参加。

  

新宿ではヤクザ以外の誰もが恐れる恐怖のチーム・・・それが『カルテット』だった。

「天下の『カルテットのヒクソン』も、歯医者には勝てねーか・・・わっはははははは!」

  

「うるせーな・・・。」

乾杯。

  

「あ、そういえば、今日変な奴に会ったよ。東京駅でさあ。」

「ん・・・?」

  

俺は昼間のことを思い出していた。

「なーんかザワザワすんなって思ってたら、男が駅員にタトゥー見せてんだよ。」

  

「ほお?」

「今日びさあ、JRでタトゥー見せて凄むアホなんていねえだろ?」

  

「何話してたかはわかんないけどさ。あ、でもツレの女が・・・どっかで見たような気がすんだがなあ・・・。」

「どんな女?」

  

「長い髪でさあ・・・あ、思いだした!啓介のツレの女の、双子の姉がいたじゃん?あの子だ!」

啓介とツレの遺灰を海にまいたあの日、確かそこにいた女だ。

  

「昌子さんが?・・・じゃツレの男って・・・?」

斉藤さんの携帯が鳴った。

  

「ちょっとすまん・・・あ、俺だ・・・何?・・・何だって!」

斉藤さんの顔色がみるみる変わっていった。

  

「いや、今義一と一緒にいるんだが、東京駅で見かけたらしい・・・わかった、すぐ帰る。」

斉藤さんは携帯を切った。

  

「すまん義一、野暮用ができた・・・俺、ちょっと帰る。」

「ど・・・どした?」

  

「後で話す!悪い!」

ばたばたと、斉藤さんは帰っていった。

  

どーしちゃったんだ?

コメント(17)

●・・・女・・・●


記念すべき日がやって来た。
今日のアタシは 何時にも増して 機嫌がイイ。

それも その筈!
何てったって 今日はアタシの バァスディだもの♪

ふふっ。
誰も居ない台所で一人 ほくそ笑む 姿。

女として すたれないように
磨きをかけなくっちゃ ネ!

ボディーラインをチェックしていた佳代の姿にも似ているのだろう。
満足気に微笑む紗代の気分を害するものは何も無い。。。

筈だった。
「ぎゃあああ!」

あ。 又 騒ぎ始めたな。
これが、現実の 痛いトコロ。

「はいはいはい。。。」
独り言を呟きながらあやすのも もう お手の物。

「2人目とも なればねぇ。。。」
誰にともなく 呟く。

だけど 沙代ちゃん。。。
独り言や、TVに向って話し掛けるコト。。。

それは。。。
オバタリアンの 一歩 手前 なんだよ!!

そんな台詞が どこからともなく 脳裏の奥で蠢く。
「まぁ いっか。 美人主婦とでも 銘打っといてくれる?」

相変わらず 心の中で 自問自答と会話を重ねる
紗代なのであった。。。

「でも。。。」
少し 物足りない風で 呟く。

ダーリン 貴方が 居なくっちゃね!
部屋の奥を覗いても 可愛い天使が眠っているばかり。。。

。。。と言えれば良いのだが
一人は泣き叫んでるし。。。

あき! あき!
怯えない程度の音量で 我が子に 呼び掛ける。

最近 CMで 見掛けたんだよね。
あの 桃ちゃんが 台所で揺りかごを足で揺らしながら
包丁で調理をしているトコ。

あたし、料理しながらあやすなんて出来ないもんなー
。。。なんて TVを見ながら呟いたら
達也が 言ったっけ。

「俺も。。同時に2人の女性を愛するなんて出来ない
 不器用な男なんだよ。。。」

うふふ。
「そんなのアタシが 1番よぉ〜っく 解ってるコトよ♪」

最近の2人の流行りゴト。
『必殺 中学生ちゅ〜☆』

これが、マイ・ブーム ならぬ
our・ブーム な 2人。

深い想いを 微かに表現するのが1番良いのよ。
なんて言いながら、少しだけ 物足りない。

人生 このくらいが 丁度良いのよね。
何にでも 満足してしまったならば
後は 駆け上がった階段が壊れるのを 待つだけなんだもの。

そう 自分に 言い聞かせながら。
ずるずるっと 揺りかごを台所に 引きずって来る。

台所と言っても、沙代の提案で 部屋の一角に有るものだしね。
「ほら、ドラマに出て来る様なシチュエーションって有るじゃない?」

「お前、ほんっとに そーゆーの好きだよなぁ。。。
 先ずは見掛けから。。ってか?」

「やぁねぇ。。。タックンは違うわよ?」
「ん? それって 褒められてんのか 貶されてんのか。。。」

解せない表情をしながら悩む主人を騙し騙しの部屋の区切りから
家具選びが とても懐かしい。

何だかんだ言っても 結局は紗代の言う通りにしてくれる
ダーリンが大好きなのよね♪

床は 夏へ向けて この間 フローリングの部分を多くしたから
引きずりやすい。

台所へ続く部分以外は、カンチが這いずり回るから
カーペットは外せないのだけれど。

だけど、逆に言えば ノミさんが カンチと一緒に
ハイハイして来たら困るよなぁxxx なんて 思いながら。

この揺りかご 選ぶのに苦労したんだよね。
有るようで 無いんだな、 足つきの揺りかご。

「コロコロの揺りかごが イイの♪」
「へっ?!」

「ほら! 言うなれば チャリンコの補助輪みたいな!」
「。。。乳母車と言ってくれ。。。」

あの時の タックンの顔も 最高だったわよね!
ふふ。

いけない。
最近 富に 『思い出し笑い』 が 増えて しまいそうで。

これが スーパーへ買出しに行く途中で 
一人 駐車場で ニンマリしてたもんでから。。。

「あそこの奥さん とうとう。。。」
「可哀相に。。。」

「あのハイテンションって 天然を超えて、とうとう
 イカレポンチになってしまったのね。。。」

なんて 同情 兼 やっかみ(?) の 
近所の主婦の井戸端会議。。。を超えた水の中に
埋まってしまうに 違いない。

「嗚呼 そうしたら 
 アタシは 最高の主人公(ヒロイン)に。。。」

なぁんて 嘘っ!
そうしたら 言い返してやるんだもんっ♪

「あらぁ 奥さぁん!イカレポンチって美味しいんざますのぉ? 
 あたし、フルーツポンチが大好きでしてよ♪」 ってね!

それも、最高級の嫌味たっぷりの満面スマイルでね!
。。。いけない いけない。

どうも 紗代の妄想は
留まる処を 知らぬようである。。。

特に、相手をしてくれる者が居ないと。
(この場合 天使2人は ”相手” までとは
 昇格しないんだもんねぇ。。。)

♪ジャジャジャ ジャ〜〜ァアアン♪
突然 鳴り響く 「運命。」

この曲名 選択も どうかと思うのだが。。。
そう言えば、先日 雅代ちゃんの寝床のテレビの上に
ヴェートーヴェンの置物が二つ有ったよなぁ。。。

ブックエンドってヤツ?
あたし、着メロは Night of fire なんだけどネ♪

だって ダウンロードするのめんどいから
既存ノモノから選んだもんだもぉ〜ん。

独り言は やはり続くようで有る。。
「もう 五月蝿いったら!」

最近の広告メールったら ひっきり無しで キライ。
メルアドを いくら替えてみたって 意味が無いんだもの!!

でも、愛しのダーリンからのメールは
絶対に逃したく無いっ!

紗代のメルアドは 愛が溢れるアドレスになっていた。
my.darlin-tattu.lovelove@docomo.ne.jp

「おい。。。本気(マジ)かよ。。。」
なんて 照れながら タックンも 嬉しそうだった。

。。。な、なんて アタシのオゴリかしら?
ま、いっか!

広告メールって 幾らメルアド変えても来るのよね・・・
相手も馬鹿じゃないんだから。。。

「お前 知ってっか? 広告メールって受信にも金かかるんだぜ!」
なんて タックンは言ってたけど。

ホントなのかなぁ。。。
まぁ ネコも杓子もドコモだから 仕方無いと言えば
仕方無いのだけれど。。。

ま、杓子定規は余り感心しないけど
味噌汁に お玉は付き物よネ♪

相変わらずな発想の沙代で有る。

でも、このアドは お気にだしなぁ。。。
それに いちいち惑わされてアド変更する方が面倒(めんどい)や!

それに、「メルアド替えました。再登録オネガイします。」
とかって 友人から良く来るんだケドxxx

あれは あれで 頭に来るのよねぇ。。。
だって、あたしのP210i ちゃんってば
お世辞にも頭良しとは 言え無いんだもの。。。

あたしの使い方が悪いのかも知んないケドさっ!
その点 N ならば同一人物のアドを三件だかまで登録出来る
優れモノだって聞いた様な気がするなぁ。。。

あたしのケータイちゃんの場合、アド変更するのに
いちいち再登録しなおさないと イケナイ。

しかも電話番号を記憶して改めて登録して
以前のその人のアドを削除して。。。

って これって単純にコピペ機能を 勉強してないだけ?!
アタシ、ビデオの予約録画も出来ないからなぁ。。。

そんな事を思いながら 足で揺らしたアキは
いつの間にか すやすや眠ってしまってた。

「こうやって眠ってる時は 天使なんだけどな。。」
もとい!

『寝顔だけじゃなくて 最高の天使。。。なんだよネ♪』
ブブブ。。。嫌ぁな音がして TVがブツッと 途切れた。
「んもう!」

最近 TVの調子が よろしくないのだ。
人間にも寿命が有るけれど
物にも寿命は存在するらしい。。。

「形 有るものは。。。って言うしな。」
タックンも、こないだ 溜め息 付いてたっけ。

昨日は バラエティー番組を見ていた。
珍しく 楽しみながら観れては居たのだけれど。

どうも 電波の調子が可笑しいらしい。
初めは そう 思っていた。

どうやら 違うらしい。。。
何時もは TVが無くても 有線を聞いて居るのだけれど。

「この子達にも 胎教が必要よね!」
「お前、もう子宮から出てる子に対して使う言葉では。。」
「違うのよ! ”支給” すんのよ! 素敵な音楽を!」

なんて言いながらが常なのだけれど。
本当は 最近 覚えたてのギターで弾き語りをしてあげたいんだけどね♪

まだ下手だし、深夜だと音も小さくしなければならないかな。。。
なんて思うアタシは 考え方が少しだけ丸くなったもんだ!

なんて言ったら
「どこが?」
なんて 意地悪タックンの台詞が 聴こえて来そうだけれど! 

そんなタックンは昨日から飲みに出掛けてしまってる。
何時もなら バースデー前夜は ラブラブなんだけれど。

でも、義一となら許すかぁ・・・!
なんて アタシも寛大になったモンだ?!

何てったって 素直に祝えなく なりそうだったのは
昨日が 孝太の命日だったからだ。

「お前が生まれた日は お前だけの記念日じゃ無いんだぞ。
 失った人間は 二度と戻って来ないけど
 生きて居る俺等は その分 楽しまないと。
 泣いてちゃ 彼等も 浮かばれねぇぜ?」

ちょっとキザっぽい感じで タックンが言ってくれたんだ。
一昨日あたりから 塞ぎ込みがちな アタシだったから。。。

だから 今日は スペシャル・スマイルで居るの!
曇り無い笑顔は 絶対に本物の気分上昇に繋がると
アタシは 信じて居るんだもん♪

自分で 自分のテンションを 上げないとね!
微妙な感覚って 子供達にも 伝わってしまいそうだからxxx

去年は アタシの方を優先してくれたタックンだったから
今年は義一に 一晩 「お貸し」 するんだ!

そう思って居ても 本当は少し 寂しかったけど
この子達が居てくれたし、何よりも 今年は日曜日だし♪

毎年 2人だけで祝っていた 紗代のバースデー。
今年は仲間を集めて 大パーティーをしようと言う事になったのだ。

パーティーって言えば 勿論 場所は SEA WIND。
お決まりの面子(メンツ)も、もう減らなければ イイな。。。

つまみは 大体 出来上がった。
後は、二日酔い気味の タックンと義一 を待つばかり。

「しかし。。自分のバースデーのつまみを自炊してるっちゅーんも
 いかばかりかの寂しさが感じられる。。。」

ブツブツ。
まぁ 細かい事は気にしないのが 1番・・・?

ハミング気味の沙代は 絶好調で有る。
今日のパーティーは久々に勢揃いの予定だしな。

「誰が先に 来るのかな♪」
微笑む表情は 更にパワーアップしていくらしい。。。










●・・・男・・・●


「思い出したよ!
 明日は 紗代の バースデーじゃないか!」

こないだ達也の居ぬ間に乱入した時は 何も言って無かったから
思わず忘れるところだった。

プレゼント。。って言ってもな。。。
少し 埃を被った 宝石箱を 久々に開けてみる。

紗代が 達也からもらったと言う お守りのリング。
プラチナで彩られて居る 小さな星の形が憎かったっけ。

今では笑い話。。。までは 癒えて無いだろうが。
紗代(アイツ)は もともと 傷を表に出さない性格だからな。。

「。。。だけど、あの頃は 辛かったけど
 このリングが アタシを守って くれているの。」

俺の目を見詰めて ハッキリと言い放った彼女(さよ)。
・・・ホント、俺じゃなくて良かったよな。

「結婚相手に 悔いは無いって事か。。。」
俺が飲み込んだ台詞。

痛すぎて 痛すぎて 声に ならない。
あの時 無理矢理 犯していた頃の俺も 若かったから。。

いや。
そんなの 言い訳にしか成らないって 
紗代なら 言うんだろうな。

解ってる 解ってるよ。。。
どんだけ お前を 傷付けて しまったのか。。。

あの日の月明かりがキレイだった。。
そう言えるならば。

あのリングの星は 紗代を本当に守って居るんだろうな。
今の俺には もう何も 出来や しないけれど。

俺が 紗代を忘れられないで居る頃、佳代と出会って。。。
でも その頃はもう 紗代(アイツ)はリングをはめてたんだよな。











「ん。。。」
寝返り気味に 声を発する女。

「恵利。。。 起きたのか?」
きゅるっ きゅるっ。。。

歯軋りだったらしい。
昨日  拾って来た 女だ。











昨夜は 非道く 酔っ払って居た。
孝太の命日を忍んで、達也と義一は 飲むと言ってた。

当然 俺も、 誘われた。
でも 何故か 行く気が しなかったんだよな。

何故だろう。。。
思い出したく無い過去に 蓋をしてしまってはイケナイと
十分に 理解している筈だ。

そう 下手に蓋をすれば 精神分裂症に。。。
嗚呼。。。

ここで思い出す女は 唯だ一人。
又 佳代の幻影に 苦しめられてしまう。

机上のチューハイを一気した。
昨夜 一口だけ飲んで 果ててしまったのだ。

まぁ 果てた原因は 他にも起因するのだけど。。。
そう思いながら 恵利の姿を もう一度 見やる。

最近は 父 洋蔵の店を手伝いながら 叔父の洋二の所へ
週2のペースで行き来しながら 治療を勉強しているのだ。

宇田川医院も 少し寂(さび)れて来た風だし
いっちょ 俺が ”モノホン” の医師免許を剥奪して
立て直してやるよ!

なんて 意気込んで居たのだが、洋二に一言 釘を刺された。
「お前。。医師メンは ”剥奪” するもんじゃあ無しに 
 勉学に励んで ”取得” する モンだ。」

そりゃ〜 そうだけど。
ちょっと 気合いがてらに自分にカツ入れただけじゃねえか!

「だから お前は まだまだ甘いんだよ!
 少し 達也くんみたく 丸く なれんのか。。。?」

少し 溜め息ぎみに言われた台詞が 痛かったけど。

そんな訳で、新たに ”勉学” に 励まなければならぬ俺としては
昨日の誘いはとても魅力的では有ったのだが
丁重に辞退する事にした。

。。。と言うか、ケータイに電話が有った時に
既に恵利が 隣に居たからだ。。。

なんつったら、又 どやされるんだろうな。。
。。誰に? 紗代に? 佳代に?

いや。。。 多分 最愛の ”相棒” だろうよ。。
「なぁ ケースケ。。。」

久々に 写真に向かって 語り掛けてみる。
フレームの中の笑顔は 永遠に動く事を 知らない。

隣のピースサインは 佳代のもの。
背景は 緑が濃くて 爽やかなショット。

唯一 手元に有る 「お気に入り」 の 彼等のショットだった。
以前 佳代が 啓介を追っ掛けて 熊本に 乱入した時のもの。

佳代が 自慢気に 沙代に送って居たその写真を 紗代から借りた。
ネガが無いため、ダイレクトで焼き増ししたものだ。

フレームは 木製模様。
あの日 8人で燃やした 木製椅子を 想いながら。

シェーンの形見だった 木製椅子。
俺と昌子が 乱れた 隣りのソファー。

彼等が椅子を燃やした日、俺は傍らに居られなかったから。。。
シェーンの写真は持っていないけれど。

少しだけ このフレームで 思い出を凝縮して
少しずつ 小さくして 癒えぬ傷を 消化出来ずとも。。。

苦しみだけが昇華して逝く様に。。。
そんな願いも 込めたんだ。。














「そう。。。」
昨夜の恵利が 酔っ払って居た事を良い事に
俺は 少し 喋り過ぎて しまったかも 知れない。

彼女が 少し 涙ぐんだ様な気がした。
いや、俺のコンタクトが 10日目を 迎えたからかな。。

ぼんやりと そんな事を考えながら。
だけど この腕だけは 奪えない。

記憶は 奪えても。。。
奪う? 。。。失う。。。?

理性が 効かない。。。
こないだは 紗代に回した 俺の二の腕。

今度は恵利の体温を 感じてる。。。
とても 心地 良かった。

そこで 俺は 思い出したのだ。
此処迄 会話を続けて、 やっと 思い出したのだ。

紗代の バースデーの事を。
少なからず 俺の想いも 焦点をずらして行くように思えた。

そう信じなければ。
俺は ゆっくりと 開かずの扉を 開けた。。。

そう。。。 押し入れの中に有る 小さな戸棚の中の
その又 小さな箱を 開けた。















「それ。。。」
中身は 何時までも 輝いて居た。

俺は 押し入れを開けっぱなしにする癖が有る。
こっちに戻って来てからは 誰も 訪問者が居なかったから。

今日 恵利が来たのだって ほんの勢いで。。。
なんて事は 無いのかな。。

良く解らないけれど。。。
もしも ここに 紗代か達也が来る事が有れば
俺は 押し入れを 封印するだろうけれど。

其此には キラキラと輝く ダイヤが散りばめられた指輪が
忽然と光を増した状態で 鎮座して居た。

「きれい。。。」
「思い出なんだよ。。。俺の。」

そして 俺は 今日 逢ったばかりの恵利に 
説明をしていた。

紗代が21歳のバースデーに 達也から お守りリングをもらったこと。
そして、以前 沙代と付き合ってた頃に言われた台詞。

「本当は 19歳の時に。。。」
其此まで言いかけた時、彼女が言った。

「もしかして。。シルバーリングを貰うと幸せになれるって ハナシ。。?」
俺は 恵利を見た。

「そんな。。驚かないでよ。。。」
どうやら 余程 ハッとした表情をしたらしい。

「目を見開いちゃって。。。可愛いんだから。。」
ちろっと 舌を出す 恵利。

「あ。。  話の腰を折っちゃって 御免なさい?
 だけど。。女の子ならば 憧れるものなのよ?」

そう言いながら触れた唇。
彼女の寂しさが浸透した  俺の 唇。

「ごめんなさい。。アタシも。。寂しくて。。。つい。。」
言い訳じみた恵利の唇が 





” ご・め・ん・な・さ・い ”





そう動く。
俺の中の何かも 同時に 「動く」 。

「オレ。。。ああ言われて 思ったんだよ。
 あの頃は未だ 紗代が 達也と結婚するって 信じて無かったから。」

「信じたく 無かった。。。?」
「ああ。。そう言った方が正解だな。 それで コイツを買ったって訳。」

「だけど 渡せなかった。」
「そ。」

少し 冷た気に言いながら 彼女の指の中で弄ばれるリングを眺める。
「それは オレの 思い出ってワケ。」

「そか。」
今度は 恵利が 感情なさげに 頷いた。

俺達の 行き処の無い寂しさや悔しさ・・?
色々な感情を埋めたのは 互いの温もりで有った。

 











ドンドン!
ふいに 窓を叩く音。

「お!」
我に返る 徹也。

ガラガラ。。。。
「ったく お前、まっとうに 入れんのか!」

「ん?」
既に靴を脱いで 窓の桟に両手を掛けながら琢也は呟く。

と 同時に ギョッ とした表情をする。
「え。。り。。。」

「え?! お前等 知り合いなのか?!」












●・・・女・・・●


少し 気恥ずかしかった。
同時に 彼の 傷を 感じて居た。

「俺は 刺青(コイツ)を ひけらかす様な事は 滅多にしねーよ。」
そう言う 紀だった。

だんだんと 周囲に人が 集まって来た。
何か 目立ってしまってる気がする。

もう かれこれ二時間も 押し問答を続けて居た。
駅員は 。。。思い出したくも無かった 男。

此処まで言ったら 彼に 失礼かも 知れないけれど。
でも、彼は 少し 他人を挑発する 癖が有るから。。。

最初は 「おう。」 と言いながら 会話してたんだけど。
だんだんと 語尾が荒くなって来た。

「ちょっと 不味いかな。。。」
女の第六感って ヤツだろう。

昌子は 少しだけ2人と離れて 達也にメールを打った。
もう この人は すがるまい と 自分に思い込ませた筈なのに。

どうしても 頼ってしまう。
そんな達也の人格に魅かれてるだけ。。。

これは ”好き” って感情では 無いんだよって。。
そう 言い聞かせようと していたのに。










「昌子(コイツ)はよぉ、 誰とでもヤル女なんだよ!」
「おい お前 どういう了見だ? それはよぉ!」

何時もの挑発台詞が 紀の神経を 逆撫でしたらしい。
昌子は 過去を 悔やんだ。











あの日は 全てが 嫌になって しまってたんだ。
そんな時に 元彼からのコールが鳴った。

最初は 相手にも してなかった。
電話に出てしまうと あたしは 弱い。

だから。
最初から応対しなければ 野暮な関係に成る事も無いし。

彼とのズルズルとした関係は しばらく続いて居た。
丁度 徹也と付き合う前後、そして紀と出会う前後。

アタシが一人になる瞬間を
まるで狙ってるかの如くに 鳴り続ける電話。

最初は 少しの 懐かしさ。
そして 離れて 解る 幾ばくかの 愛しさ。

そんなものは 嘘っぱちだって 知って居るのに。
あたしは 自分が男を操って行く 「魔性の女」の筈。

――――――――だけど。
時として女は 弱さを発揮してしまう。

愛の無い温もりに 溺れてしまう瞬間。
彼とは 何時だって そんな感覚だったんだ。

だから、逢わないで居ようと 決めた。
だけど。。。










保険屋の話を 取り合えずナアナアにして
今の会社に辞表を出したのが 二月一日。

所謂 Xデーって ヤツだ。
それから 退社までは 結構 時間が掛かった。

社長がOKを出して 呉れなかったのだ。
まぁ 半分 愛人まがいの行為をしてしまった
昌子にも 責任は 有るのだろうけれど。

「何が 不満なんだ? 月給と小遣いも 与えてるのに。」
「アタシ。。。ただのOLで終わりたく 無いんです。」

「何か やりたい事が有るとでも・・?」
鼻で人をこき使う社長という職業柄、
この男は何処か 胡散臭さと傲慢さを 兼ね備えて居る。

まぁ そうでも無ければ 社長なんて
務まんないんだろーけど。

今のアタシには そんな事 どーでも イイ。
「知り合いに 誘われてるんです。 保険屋やらないかって。」

アタシは 思いっ切り 嘘を吐いた。
「上手く行けば 年収1000万も 可能だし。」

「ふん。」
鼻で あしらうような空気。

「まぁ お前の事だから 身体張って契約取るんだろ?」
「そういう言い方は無いんじゃ無いですか?」

最近、夜のお勤めをブッチしまくってたから
この人 キレて いるんだわ。

アタシは 本気(マジ)で そう思った。
冗談じゃない。女を何だと思ってるのかしら、この人。













そもそも 社長から離れはじめたのは
紀との半同棲が キッカケだった。

あたし 紀とは セフレだなんて 紗代に公言したけれど
本当は 信じたかったから。

だから 煩わしい関係は 断ち切ろうと 決めたんだ。
それで、社長との関係も反故にしてしまいたくて。

でも この話は 誰も 知らない。
紀には 知られたく 無かった。

そんなこんなの繁雑な日々の中でも 職安には行っていた。
「有効求人倍率が云々。。」

良く解らない掲示板を眺めながら 溜め息を付く。
基本的に求人数の三分の一しか求人が無いときているらしい。

そりゃあ 就職難と 言われる所以ですかね。。。
そんな事を思いながら 溜め息混じりに車を走らせる。

帰りに本屋に寄ろうと思った。
面倒臭い毎日を忘れさせるには 女性自身でも購入して
芸能人の噂話でも眺めるに尽きる。

そして 駐車しようとした瞬間に 携帯が鳴った。
彼からだった。

一瞬 迷った。
「出ようか、出まいか。」

そう思っているうちに 携帯は途切れてしまった。
最近の携帯って 良く解んないのよねー。

こないだ 紗代も そう言って居た。
あたしの携帯は 受信音が ステップトーンになっている。

。。と言うか、何時の間にか そうなってしまった。
流石に 静かな職安で ピロリロ鳴ってしまっては困るから、と
マナーモードに設定して、バイブも付けただけの筈が。

何時の間にやら ステップトーン。
次第に音が大きくなって行く。

カーステに邪魔をされて、気付いた時には
途切れる瞬間だったらしい。

少し悩みながら 彼のメルアドを開いてみる。
彼とは かれこれ 三ヶ月くらい 連絡を取って無かった。

まぁ 一方的に 、 定期的に 、 着信音は 流れたけれど。
一向に相手にせずに 無視しまくって居たから。

だから 最近は鳴らなくなって 少しだけ 安心してた。
でも タイミングってば 恐ろしいモノよね。

時間と年齢の経過と共に 弱くなって行く 女の感情。
これって アタシだけかしらね・・・?

でも 紗代も 言ってたもんな。
「最近 やたら ファミリーものの感動ドキュメント番組が
 涙を誘うのよ。。」  って。

ま、それと これとは別もんだとは 思うけど。

おもむろに開いた携帯画面。
件名に 「昌子」 と入れる。

これは 紀の癖が 感染ったものだ。
何時も彼は 自分の名前を件名に入れるから。。。

そんな事しなくても ちゃんと解るのにね。
とは 言って居ないケド。

” 久し振り。 元気ですか? ”
たった一行だけの メールにした。

多分 彼の事だから これだけでも再度 電話が
掛かって来るだろう。

そう思った。
だから 本を購入してから 送信ボタンを押した。

直後にケータイが鳴った。
そう、 アナタホントに読んだの? くらいのイキオイで。

(ふふ。 やっぱ 速攻。。。)
笑いを堪えながら 電話に出る。

こういう瞬間のアタシって 
電話来るのを待って居るのか 嫌なのか
ほとほと自分でも 訳解んないや。

まぁ 何時もの 事なんだけどね。
この 「来る者拒まず 去る者追わず」の感覚を
どうにかして払拭しないと。。

永遠の「魔性の女」に なってしまいそうなんだよ。。












●・・・男・・・●


太陽の日差しが暑い。
未だ クーラーなんて つけないけれど。

昨夜 燃え過ぎたかな?
なんて思いながら 思い出に吹かれて居る時だったんだ。

「知り合いだったのか?!」 の台詞と
「きゃあああ!」 

恵利の悲鳴が 同時に鳴り響いたのは。

半裸状態の恵利は 
今 本当に 半狂乱に成ってしまいそうなイキオイだった。

「おっ前 何で。。。!」
「琢也、何で。。。!」

” な・ん・で ” の 合唱コンクールなんぞに
俺は 興味は無いのだがxxx

刻 。   一刻 。
時が 音を立てたような 気がした。

良く 有るだろう?
しぃい〜ん とした部屋の奥の 壁掛け時計の音が
妙に気になる 瞬間って。

あんな感じだった。
まぁ 俺の部屋に そういう古時計は 存在しないけれど。

出来れば ♪大きな ノッポの古時計〜♪ 的
壁掛け時計が有ったら 良い イミテーションに なりそうだけどな。

こんな時に 悠長に考える癖は
紗代から感染ったものだった。

ふと 紗代の歌声を思い出した。
古時計の歌、上手かったよなぁxxx

時と状況を忘れて 又 思い出に浸りそうに成った瞬間
頭を殴られた気がした。

何のこたぁ 無い。 琢也が侵入して来たのだ。
そんな不甲斐無い俺の脳裏に 足が ぶつかったようだ。

御陰で俺は 正気に戻った。
「先ず 上がらせてもらうわ。」

「あ。。。ああ。」
少し 現実に戻り気味の声のまま 相槌を打つ。

「そうだな。そんな格好で 2人して止まられてちゃあ
 周囲住人のハタ迷惑ってモンだ。」

俺は やっとこさっとこ 「本当の」 正気に返った。
そして 2人を残したまま コーヒーを入れる為に 立ち上がった。

(何だか こないだも こんなシチュエーションだったよな。。)
嗚呼 そうか、 こないだは 昌子と紗代だったんだっけ。。

修羅場。。。多いよな。。
心の呟きばかり 増えてる昨今の感情だけれど。














俺の部屋は結構 狭い。
(これは自慢には 成らないな。。)

そもそも 新宿と言う土地柄 地代が高いのが問題だ。
SEA WIND辺りまで ひっこめれば 1番イイんだが。

宇田川医院の近くでも 良かったのだけれど。
だけど 洋蔵がどうしても人手不足だと言うので 
こっちに住み着く事にしたのだ。

二つ目の理由は 勉学に専念したいから。
まぁ 主将の居る 宇田川医院でも良いのだけれど
あそこ等辺は 誘惑が 多すぎる。

俺も SEA WINDの生贄になった一人だからな。。
おっと! こういう言い方は 少し 失礼かな・・?

こぽこぽ。。。
少しずつ 水が流れて行く。

俺は マメな方じゃ無いけれど、沙代に出会った頃から
このコーヒーだけは 外せなかったんだ。

まぁ デカンタをこないだ落として割っちまったからって 
何故か計量カップに落としてるところがニクイだろ?

なんて言って 昨夜 恵利を笑わせたんだっけ。
狭いアパートだから 扉を閉めても2人の会話が聞こえて来る。












「お前、徹也(コイツ)の女なのか?」
「止めてよ。 昨日 会ったばっかりよ!」

「俺は彼氏じゃ 無かったのか?」
「何 言ってるの?」

「お前、 そんなに軽い女だったのかよ!」
「ちょっと 勘違いも甚だしく無い?
 一度 寝たくらいで ”俺のオンナ” 扱いされたんじゃ
 たまらないわ!」

「一度。。。って 何度か寝てるだろ。」
「そういう問題じゃ無いわよ!
 だいたいにして アタシが何処で誰に抱かれよーが
 アナタに管理される覚えは無いわ!」












うーん。 少し エキサイティングしてるな。。こいつ等。
琢也も悪いヤツじゃ無いんだが。。。

彼の遍歴を知っている俺だけに、
「お前。。。それは 責める権利ねぇぞ。。。」 とでも
口を挟みたい気分だが。。

浮気が常習犯のお前だろうよ。。なぁ。。
しかし 良くも悪くも 素敵なタイミングで訪れるヤロウだよ。。

「なぁ 落ち着いてくれよ。。」
そう言いながら コーヒーを差し出そうと思った。

「なぁ。。。」   ぼふっ!
クッションが飛んで来た。

あちゃぁ。。。
これじゃあ 先日の達也と同じ境遇じゃねぇか!

達也の落ち込んだ表情を嘲り笑ってた
あの日の俺を 今程 後悔した日はねぇぜ!












●・・・女・・・●


「アタシ、社長令嬢に 成ったんだ♪」
精一杯の笑顔で 微笑む。

「ええー? どういう事ぉ?」
予想通りのリアクション 有難う。 なんて思いながら。

「うん。何かねぇ、パパが関連会社を任される事になったの。」
だなんて言ってみる。

だけど 口の減らない紗代は言う。
「へ〜ぇ、どっちかってぇと 逮捕礼状の方が近いんでないの?」

「何ですってぇ?」
笑いながら 首を締めたいけれど。。。。

受話器越しじゃあねぇ。。。
これが 相手が 男だったら。。。?

絡み合う瞬間に 愛しさを感じられるのかって
今は 解らないけれど。













そもそも 琢也との出会いは チャットだった。
あたし、最近、パソコン依存症だったのかも知れない。

自分のHPも勿論 気合を入れて 居るけれど。
ちょっと 逃避行してみたい気分の時って 有るじゃない?

そんな時に打って付けなのが チャット。
あたし 結構 ドライビング・マシーンなのかも知れない。

だから チャットで気が合ったりなんかすると
HPにUPしている写真を公開する。

アタシ、写真映りは良いから、大抵の男は気に入って呉れるみたい。
それで、高速代を出してもらって カラオケしようの行脚大会に
突入してみたり。

まぁ 毎回 相手の男には説教されるんだけどね。。。
「こんな事してると危ないから止めろ。」 ってサ。。。

だけど 思うんだよね。
アタシと逢っている時点で アナタにそう言う説教する資格は
存在しないんじゃ無い? って。

そう言いながら 笑ったりする 瞬間が好き。
アタシも 人間関係が 少し冷め切ってしまってるからな。














あの頃は何時も 紗代から電話が有って、
「オケろうか!」 なんて言いながら 結局ブッチしてみたり。

昌子とも何時も言っていた。
「お気に入りのワインが有るから今度 飲もうネ!」
な〜んて言っても きっと実現しないだろうなー の 予測! とかネ。

そんな我儘なアタシの周囲の人間には 感謝してるんだけどね。
まぁ そもそも盛岡から飛んで行くには 少し遠過ぎるんだケド。

紗代とは小学を共に過ごした。
昌子とは中学を共に過ごした。










紗代と恵利は近所だった為、幼少時代は何時も一緒だった。
小学校の帰り道、近所の小さな河に掛かる橋に落とさないようにって
石蹴りをして帰ったりもした。

その途中の「お楽しみ」は 飴を舐める事。
これが少し「悪いコト」だなって思ってたアタシは 
少し可愛げが有るってモンでしょう?










「そーゆーモンかな。。。」
適当な相槌を打つ 琢也は 余り人の話を聞かない。

どちらかと言うと自分の話を優先する男のようだ。
「最近 人と話してないし、 ネタ 全て 放出しきってないしな。。」

そんな事も言う。
そりゃ そーだよね。

だってあたし達 出会って日が浅いんだもの。
いつも酒の肴になるアタシだけれど。

悪口はキライだから。
出来れば 自分が「笑いの種」に成って 居たいもの。

「そうすれば 自分が笑われる事が有ったって
 他人を嘲るコトは 少なくて済むんじゃ無いかと思ってね。」

琢也が少し動きの有る瞳を見せた。
だんだんとアタシの方に会話を寄せてみる。












「紗代ってのはね、今 もう結婚しちゃって神奈川に居るんだぁ。」
「へーぇ。」

「旦那も結構イイ男でね! 
 って 写真でしか見た事ないから こないだ走っちゃったよ!」

「ホント お前 ドライブ好きなんだなぁ。。。!」
「うん♪」

ここで 満面の笑み。
「あのねぇ 最高は 仕事でなんだけど 愛知まで行ったんだ!
 マニュアル高速ドライビングで 24時間ノンストップ御礼だったんだから!」

「それ。。。あったま悪すぎぃ。。。」
これが彼の常套句で有る。

初めは何だか小馬鹿にされた風な感覚がして
好きに成れなかったのだけれど。

そして もう一つ、彼の得意技。
何かにつけて 「ところが どっこいしょ!」 を 連発する。

これが結構 可笑しいんだよね。
何か 「どっこいしょ! って 言われてもねぇ。。。」と言ったら
彼が言った。

「いや、これ おじーちゃんからの伝説でさぁ
 何かってぇと この ”ところが どっこいしょぉ!” が
 出現する訳だよ。」

出現って 化け物じゃ有るまいし。。。
って台詞は 飲み込んでおこっかな。

「だからね、今度 また 神奈川あたりにドライブに行くんだ♪」
「じゃ 俺も一緒に。。。どぉ?」

「うーん。。考えとくわぁ。。」
「何だよぉ。。その やる気の無い返答はよぉ。。。」

少し哀しがるフリをする 琢也であった。












●・・・男・・・●


「アタシ 男が 信じられ無いの。」
俺は どう返答したら良いのか 本気で悩んだ。

だけど、何時も通りの会話は続く。
「嗚呼 俺も 基本的に そう思うけどな。」

どうやら昌子は ストーカーに 悩まされているらしい。
以前、心を許しあった 所謂 「恋人」 って やつに。

「だけど、あたし、信じられなかったのよ。
 だから、問い詰めたんだけど。」

そう言う昌子は 本当に憔悴しきって居た。
「かわいそうに。。。」

そんな ありきたりの台詞が心に浮かぶ。
「その男も どういう神経してんのかってな。」
「違うのよ。」











話に寄ると、最近 昌子宅にFAXや手紙が届くらしい。
しかも、「死ね!」 だの 「生きてる価値が無い!」 だの
「閻魔が待ってるよ!」 etc...

「本当、目を疑ったのよ。HP事務局からの回答を見た時は。」
昌子は 怯えながら言った。

毎日のように来るメール。 これも上記のような内容で。
「しばらく離れることにしよう。 って言ったの。」

昌子は紀との関係をどうしようか悪戦苦闘した挙句
別れる覚悟をしたらしい。

そして 別居を始めてから しばらくして 攻撃が始まったのだ。
「彼以外には考えられない。。。までは思わなかったけどね。」

「でもIPってパソコンに与えられてるもんなんだろ?」
「うん。あたしも知識が無いから 一生懸命 調べたのよ。」












どうしても愛しさの抜けない瞬間に 達也への恋心を芽生えさせた昌子が
死に物狂いで出した結論。 紀と 離れると言うコト。

紀に真意を確かめるため 電話をした昌子の耳に届いたのは
「俺が送ったメールじゃない。 俺、パソコンを先輩の女性に貸してて、
 彼女が送ったんだよ。」 と 言うコトだった。

昌子のHPのBBSの欄にも 沢山の書き込みが有った。
心が痛くて どうしようもなかった。 と 昌子は 泣いた。

「だけど。。信じたいのと。。。1番 愛した人だから。。。」
まぁ 気持ちはわからんでも 無いが。

落ち込む昌子を宥めるので 精一杯だった あの日。
それが 何だってぇ ここに2人で 現れるんだ?!













ボーっと ホームに突っ立って居ると 昌子が男と歩いて来た。
そして 。。。 その男は 紀だった。

昌子は パソコンのデスクトップの壁紙に 紀の写真を貼って居た。
だから解ったんだ。

最初は 入り込んじゃ イケナイ とも 思った。
だけど 俺の中に有る 正義感(?)が躍動した。

「よぉ! 昌子。  何処 行くんだよ。」
振り返る昌子。 少し バツの悪そうな 表情。

「あ。。。今ね、彼を 見送りに来たところなの。」

最初は 世間話しをしていた。
紀の新幹線の時間まで たっぷり有ったのだ。

話に寄ると、紀は 家業を継ぐのだと言う。
「昌子とのナシは ついたのかよ?」

「は?」
紀の目が 光った。

「てめぇに そんな事 言われる筋合いはねぇんだよ!」
「何ぃ? 柄の悪ぃ 物言いだよな!」

少しずつ 会話がエスカレート して行く。
「この女はなぁ! 誰とでも寝る女なんだよ!」

つい口から出た台詞だった。
俺は 昌子の悪口を言いたかった訳じゃ無かった。

だけど 言葉が見付からなかったんだ。
どうしようもない憤りに似た感情が こういう形で爆発した。

「侮辱すんじゃねえよ! お前 昌子の何が解るってんだ?!」
「。。。るせぇ!」

掴みかからんばかりの勢いの2人。
でも 殴らない。 殴れない。

俺は ユニフォームを纏って居たから。。。
横目に映る昌子が 誰かにメールを送っている様だった。












俺は 未だ 理性が有った。
だけど どうしても 許せなかった。

俺は 未だ 昌子を愛して居たから。
そして コイツの為に と 紀へ向けて手を上げるコトは 
出来ないと言うのも 熟知していたけれど。

思わず 胸倉を掴んだ勢いで 紀のシャツのボタンが弾けた。
中からタトゥーが顔を出した。

周囲の人間が ギョッとした顔で後ずさる空気。
「悠 止めて! 彼を責めないで! 彼は悪くない!
 悪いのは アタシなんだから―――」

昌子の悲痛の叫び。
必要とされる男。  俺は、昌子に 必要と されているのか?

解らない。
ただ 燃え上がる血を抑えるのに 必死だった。












その後の事は 余り 覚えて居ない。
ただ 俺は 押さえ付けられて 駅長室に呼ばれ 説教をくらった。

まぁ 当たり前か。
紀は 時間になって 新幹線に乗っている頃だろう。

しばらくしてホームに戻ると 昌子は 居なくなっていた。
周りを見回す。

今日の昌子の格好は目立つ赤だった。
「赤。。。赤。。。」

ひたすらに捜してみる。
地上ホームを見渡してから 地下に降りてみる。

何しろ 東京駅は広い。
この俺でさえ 時に迷いそうになる程だ。

まぁ 迷ってしまっては 仕事に ならないのだが。

そして やっと 見付けた。
昌子は 見知らぬ男に抱き抱えられるようにして
かろうじて立って居た。

少し 儚い風貌で。
近寄って行く。  昌子が顔を上げた。

「・・・大丈夫か。。。」
大丈夫な訳 無いじゃないか。
こんな時に使える台詞が 俺の辞書には無いみたいだった。

「ああ。。。 お前。。か? 悠ってのは。」
「ああ。」

「俺は 達也。  ひととおり、話は聞いたよ。
 後は 俺が連れてくから。」

俺は 達也の風貌に圧倒されて 何も言えなかった。
何と言ったら良いのか。。。

凄み。。。と言うのでも無いな。
貫禄が有る。。。

無言の俺を 置き去りして 二人はホームの向こうに消えて行った。











●・・・女・・・●


「何か。。。しんみりしちゃって 御免ね。。。」
うなだれる昌子。

「うん。。いいの。。。気にしないで?」
精一杯の紗代。

円卓に着飾られたケーキが 所在なさげに佇んで居る。
ローソクも 灯されぬ ままに。

だけど びっくりした。
やっと ダーリンが戻って来たと思ったら
倒れそうな昌子さんが 一緒なんだもの。

一通り 話を聞くまで あたしは 珍しく落ち着いて居た。
何時もならば とっくに キレちゃってるんだろうけど。

それは タックンに対しての ”信用” かな。
信頼の無い家庭は 円満で有れないって思うしね。

荒れない雰囲気を作りたかったバースデーだし。
何よりも ショーコさんの雰囲気が 尋常じゃ無かったから。

「でも。。こないだ 言って呉れれば 良かったのに。。。」
何も相談に乗れなかった自分が 悔しい。

「ごめんね。。紗代には 強がり言って おきたかったの。」
「てっきり 紀とは 続いているもんだと思ったよ。。」

「うん。。そういう言い方 したもんね アタシxxx」
「うんxxx」

「でもね、失いたく無かったの。
 それが どんな感情なの? って聞かれても
 今のアタシは 複雑過ぎて。。。」

「もうイイよ。。。」
達也が 宥めて居る。

「ショーコさん 疲れたんだよ。 少し 休みなよ。」
「カンチ! ちょっと おいで! ママと 遊ぼ!」

あたしは カンチと揺りかごの中のアキを連れて 庭に出た。
ガラス張りの部屋のソファーに 横たわる昌子の姿が見える。












「アタシ。。。 可笑しかったんだ。。。」
「ん・・?」

達也は 窓の向こうでおどける三つの天使を眺めてる。
「ショーコさんって つくづく 色んな体験 するよな。。」

「波乱万丈ってヤツ?」
「ん。 そーかも知んない。 無理しすぎなんじゃん?」

「ん。。そだね。。 何時も 慰めてもらっちゃって。。。」
「イイってコトよ! 紗代の大切な友達だかんな!」

昌子は少し躊躇いがちに零した。
「そんな風だから。。 少し 達也さんに 恋しちゃってたのかも。。」

え・・・? 一瞬 驚いた風の達也。 
「ははっ  いやー 照れちゃうなぁ!」

乾いた笑い。
届かないんだな。。。 昌子の胸は 更に深く 閉ざされた。

「でも もう大丈夫だから。。。 そろそろ徹也も来るんでしょう?
 私 少し眠るわね。。。このソファー心地良いわ。」

「幾らでもまどろんで下さいよ。。 一応 愛しのハニーのバースデーだからね。
 パーティーの始まる頃には 少しだけでも復活しますように。。。」

昌子の頭を ぽん・ぽんっと 叩くと
達也は 表に出て行った。

背もたれ側に 寝返りした昌子の瞳から
熱い涙が 零れ落ちた。。。












●・・・男・・・●


やっと 「会話」 なるものが出来る雰囲気に突入した模様だ。
俺は心の中で溜め息を付く。

最近 こんなん 多いよな。。。
これ、啓介がいつも 言ってたっけ。

まぁ アイツは ”いいヤツ” だからな。。。
いいヤツ ”だった” とは 言わない。

まだ 啓介は生き続けて居るから。。
な? そうだろ?

声には成らぬ問い掛けを写真へと寄せる。
アイツが生きて居たならば きっと こう言いながら笑うんだろうな。。

♪ 目 と 目 で つ〜じあう〜〜ぅ ♪
そう思いながら見つめると 写真が少し歪んだ気にした。

違う。 まただ。
最近の俺の涙腺は ゆるみっぱなしらしい。

他人が側に居る時は 先ず無かったのだが。
あの時 海岸で 彼等の遺骨を持って居た時も―――

「。。。て。。つや?」
我に返ると、心配そうな2人の顔が有った。

「あ。。あ、、、、悪ぃ。」
俺は何か いたたまれない面持ちになり 視線を宙に這わせた。

「いけない!」
「えっ?!」

2人の大合唱。
こいつ等って 通じ合ってんのか? 又 ハミングだぜ!

そう思いながら。
「なぁ、お前等も 一緒に行くか?」

「どこに?!」
。。。又だ。。。 うーん 勘弁してくれよ。。。

俺は独り身の侘しさを 今程 強く感じたコトはねぇぜ!












スカイラインの調子が 少し可笑しかった。
まぁ あの一人旅の手前あたりから ずっとオイル交換してないもんな。。

「じゃあ 俺のに乗ってけば? 素敵なマシーンだからさ」
「マシーン?」

「あ! 思い出した! アタシ 昔、そんな難破されたコトが有ったよ!」
恵利の思い出話しを聞きながら。

「そいつ等ねぇ、自慢げに ”俺のマシーンに乗らない?” って言うから
 一応 拝んでやるかぁ! くらいのイキオイで行ったらさぁ。。。」

そこで口を閉ざしそうになる。。。
「どした?」

隣の達也の肩を押しのけるように 運転中の琢也の方に身を乗り出す恵利。
「それがさ! こんな風な ” ちゃちい 軽 ” だったのよ!」

「あははっ!」
思い切り笑う達也を ミラー越しにニラむ 琢也。。。

「仕方ネェだろ! これ オフクロのなんだから!」
「ぶすくれんなって♪」

つんつん。
恵利が いじけぇ琢也の頬を 人差し指で突付く。

おおおおぉぉ!!
今度は三人の 大合唱。

「あぶねぇよ!」
「お前だよ! 変なことすっから!!」

ぶれそうな琢也のハンドル操作に戸惑いながら
一向は 確実に SEA WINDへと近付いて行くので有った。。。














「あーあ、 たっちんのセフィが 心底 恋しかったぜ!」
どたばたと侵入者が三名。

SEA WIND は やっとこさっとこ華やかさを取り戻しつつ有った。
「遅かったじゃないの!・・・あれ?」

「恵利?」
「お・ひ・さ〜ぁ さ〜よ ちん♪」

嗚呼 こんな光景 何時ぞやも有ったよなぁ。。。
あの時は 紗代と 佳代だっけ。

徹也はそんな事を思いながら 一服する。
何しろ 琢也の愛車(?)は ママンのだから 禁煙だったのだ。

「又 来てたんだぁ!」
「うんうん! あ! ちわっす 達也さぁ〜ん♪」

調子のイイ 恵利で有る。
「さぁて、どんな風に彩られているのかな〜ぁ。」

勝手にスリッパをGETしてパーティー風に着飾られた居間へと歩く。
『あああああああぁぁ!!』

女の二重奏。
うーん。。。今日は何だか 人間演奏会の様だぜ・・・ と 徹也は呟く。

え?
怪訝そうな 達也と琢也を尻目に 徹也は庭の子供達の所へ駆けて行った。

「昌子!」
「恵利!!」

。。。やはりな。。。
庭からでも十分聞こえる二回目の再会を徹也は窓越しに眺める。

「ほらほら。。おじちゃんと遊ぼうね〜ぇ。」
アキとカンチが 擦り寄って来る。

中は タイヘンな状況らしい。 
何せ 女三人のキンキン声が まことしやかに美しく(?) 鳴り響いて居るのだから。

「えええ? ショーコ姉さん、恵利と知り合いなのぉ?」
「そうなのよぉ! びっくりぃ! 恵利、何時こっちに来たのぉ?」

「んー きのぉ〜〜〜♪」
恵利は のほほーん と フルーツ盛り合わせの1番上のチェリーをくわえる。

「ほんっと ドライビングするわよねぇ! で こっちの人は?」
紗代の問い掛けに 達也が応える。

「ああ〜 こいつ、徹也の友人で 琢也。 俺も一回 飲んだくらいだけど。。な?」
こくこく。 琢也が頷く。

何しろ 炸裂しまくりの女性陣パワーに 圧倒されたらしい。
そそくさと徹也を追って庭に出ようとした琢也の首根っ子を 恵利が掴む。

「ねーねー てっちんと あの子達 連れて来て〜ぇ。」
「はいはい。」











そうこうしてる間に 紗代がワイングラスを冷凍庫から出して来た。
「まー とりあえず 乾杯と 相成りますか!」

達也の一声で 一斉に 『かんぱぁあ〜〜ぃ』 の 大合唱。
『ハッピバースデー 沙〜〜代〜〜〜♪』

シェーンのゴスペルを思い出しながらの合唱。
達也は2人の子を膝の上に抱きながら、 沙代が肩にもたれながら。。












「なぁ〜んか ごちゃごちゃ してるよなぁ。。。」
徹也の一言に 全員が頷く。

「ほだほだ!」
達也は上機嫌らしい。

「いっちょ 整理してみっか?」
こくこく。 またも全員が首を縦に振る。

「じゃあ〜〜〜先ずぅ。。。 紗代っち何歳のバースデー?」
「えええ〜〜。 ぢょせぇに年齢 聞くなんて〜〜ぇ!」

ちょっと頬を膨らます 紗代。
まぁまぁ。。。 達也が宥める。

「整理。。って 自己紹介じゃないのぉ?」
「あ、それ イイねぇ! じゃ やっぱり 本命はトリを飾るってコトで!」

強引に逃げの体勢に入った沙代は 料理にパクついた。
「仕方ねぇなぁ! じゃあ 俺からな! 右回りで順繰り!」

達也が自己紹介を始めた。
「俺〜〜ぁ。愛しのハニーの だんな〜ぁ♪」

ひゅーひゅー。
冷やかしの口笛が飛ぶ。 琢也はちょっと下手っぴだけど。

そう言う恵利を睨む琢也。
「ほんで〜この天使がぁ〜〜 カンチ 2ちゃい♪ と〜ぉ」

「アッキ レイちゃぃ♪」
紗代が口を挟む。

「お前 喰ってんじゃ無かったの?」
「いやぁん 麗しの 徹子と呼んで♪」

「ああ。。。あの玉ねぎさん? 人の倍のスピードで喰いながら
 他人の五倍 喋りまくり 食べ終わるの早いってヤツ?」

「そぉそぉ。。。♪ ん〜〜〜っ☆ 」
紗代の唇が 達也へ向かい。。

この2人は 他人目はばからず ちゅーをしている。
まぁ 他人。。。という感覚でも無い ”仲間達” なんだケド。

ヒューヒュー。。。 の 再来。
徹也 持参のクラッカーがケーキに入りそうになる。

すかさず琢也がGET。
「な〜〜ぃす キャッチぃ!」 喜ぶ昌子も絶好調モードに突入。

「・・・で 紗代 何ちゃい?」
からかい気味の徹也。

「あなたの五コ 下よぉ!
 でも この ”舌” じゃあ 無いからね〜〜ぇ♪」」

と言いながら ”舌” を出す 紗代。
笑いながら言う沙代の舌は ケーキの生クリームを舐めていた。

「お前、CAKE(メイン)はラストだろぉ。。やっぱぁ。。。」
「まだ カットもしてないのにぃ。。。」

「だって 紗代 が MAIN だ もぉお〜〜ん♪ 
 今のうちに ツバつけとくの〜〜ぉ!」

「ほんとのツバ つけんなよぉ。。。」
呆れ顔のままで笑う達也。

燃え尽きそうなローソクが 垂れそうになっている。
「火傷したら どーすんだよぉ。。。」

やんや やんや。
「いいんだもぉ〜〜ん♪」 笑う一同。

「えっと ショーコ姉さんはぁ? 紗代と同じだよなぁ?」
「あたし 二十歳と84ヶ月♪」

笑いながら 少しだけ 先日 紀に告げた台詞だと思い出す昌子。
曇りがちの表情は 悟られては イケナイな、 と 無理に笑う。

「じゃ、ショーコさんと恵利は 寅年ぃ?」
「そ。あたいは さみし〜 うさぎちゃん☆」 と 紗代。

「うにゃ♪ ご・お〜の 寅だぜぇ。。がぉぉぉおお!」
示し合わせたかのような 昌子と恵利のハミング。

おちゃらけ過ぎたみたいだ。
がぉぉおおの顔に泣きそうな表情をするアッキ。

「ああ。あっきぃ ごめん ごめぇん。。。」
これまた2人同時に頭を下げる。

「みんなぁ 知ってるぅ? ごお〜って 豪族の ”ゴウ” じゃ無くて
 五つの黄色で ”五黄” なんだってよぉ!」

「あ、それって占いか何かの方角でしょ?
 さっすが 紗代ちん あったまイ〜ィ♪」

「・・・自分で言うなよ。。。」
達也が零す。

「紗代は 早生まれなんだもんネ♪」
「昌子(ね〜さん) も もー少しで 追い付くよ〜〜ぉ。」

ニヒヒ。 と 笑う紗代。
「だぁりん は〜ぁ、みそぢ なんでちゅ〜〜ぅ♪」

「俺は 切れ痔なんでちゅ〜〜ぅ♪」
「琢也! 汚いから! そういうアンタは?」

「俺あ 26〜ぅ♪ こん中で いっちゃん 若者〜〜ぉ!」
「いや、お前は 馬鹿モノだよ。。。」

徹也の一言で 大爆笑。
「若しくは 子供って こったなー」 達也も応戦。

「ひっどぉ。。。 って 達也(に〜さん) いくつっす?」
「俺ぁ みそぢって言ったろ! お前 飲み過ぎ!」

少し撃沈の琢也。
「ほいで 徹也は33かぁ。。。年 喰ってんな!」

「るさぁい かるてっとぉ。。。」
徹也も へべれけ突入の様子。

「恵利は 紗代と 同じなんだよね?」
「うんうん。 あたしも 未だ 84ヶ月〜ぅ♪」

「おい、二十歳 と が抜けてんで〜〜〜」
琢也が すかさず突っ込む。

「な、紗代って何時まで 岩手に居たん? 
 ショーコさんと恵利と 同級生だったん?」

「んーとね、15のときぃ くらい? 高校は佳代っちと一緒の女子高だからぁ。
 でぇ、恵利とは幼馴染だったのぉ!」

「じゃ、そこで佳代っちと出会ったんだ。」 と琢也。
「そうそうショーコさんとは中学が一緒だったけど 知らなかったんだよね!」

「ね!」
紗代と昌子が顔を見合わす。

「何かねぇ 雅代ちゃんがぁ。。。 あ、雅代ちゃって あたしのママンね!
 都会の生活より こっちで。。って 紗代を出してくんなかったのら〜ぁ!」

「それで 一生懸命 勉強した ”フリ” したんだよな!」
「タックン ひどぉい。。。 さぁよ、ぐわんばったのに〜〜ぃ。。」

「あ、でも お前 言ってなかったっけ? ほら、雅代ちゃんの義母(かーさん)の
 墓参りで 麻衣子さんと。。。」

「あ! そうそう! ほいでねぇ、雅代ちゃんと 麻衣子さん。。って」
「あたしの母親。。佳代の母親ね。」 昌子が助言する。 

だんだん訳の分からなくなりそうな琢也は
必死で頷いて理解しようとしてる。

「おら。メモ帳で家系図でも 書いとくか?」
ひやかす徹也をニラむ琢也。

「あの頃は 未だ ショーコ姉さんの存在しか知らなかったんだよねぇ。。。」
「そうそう。。。この人にナンパされる迄はね〜ぇ。」

ちらっと徹也を見やる昌子。
今度は徹也が立ち竦む番だ。

「まいったなぁ。。。」
「ま、過ぎた事ってコトよ!」

「お前が無理矢理ドライブしたんだろぉ! 山形にぃ!」
「え?」 とぼける達也。

「あの頃からだもんねぇ。。。タナカに行ったのってぇ。。。」
「佳代も若かったよなぁ。。 22だろ?」

「ん。。。 22で ”ニコニコ笑う年なのよ” なんて言ってたよねー」
こんな会話をしながらでも しんみり とは しない。

それは誰もが 思い出を楽しく語ろうと 努めて居たから。
この会話の中に 彼等が生きてる と 信じたい気持ち。。。

注がれたシャンパン、二杯目はワインが入れられた、
一口も減らぬグラスは 6つ。 

丁度サボテンの数と一緒だ。
5つ有ったサボテンと 今日 恵利が持って来て呉れた 岩手のサボテン。

佳代・啓介・孝太・麻衣子。。。そして シェーン・SANDYの分。
そして 犬小屋には アンディーの皿。。。 

「琢也と恵利は どこで出会ったの?」
沙代に説明をする 徹也。 達也と昌子も耳を傾ける。

「ふーん。 メル友って ヤツかぁ! 微妙なカンケ〜ぃ?」
妖しい視線の紗代。 完全にイカレモードに突入の様だ。

「琢也は出身が岩手なんだけど、東京に出ててね、
 丁度 会社が潰れて戻って来たところでメールが来たって訳。」

琢也は業界関係の仕事をしていたらしい。
車のショー関係で 徹也とは知り合ったらしく、丁度 遊びに来てた時に
徹也の部屋で恵利とバッティングした。。。と。

「ちょっと 元カノに預けてた荷物取りに行くつもりが
 徹也に会いたくなってさー」

琢也と徹也は年齢差を感じさせぬ タメ口を叩いてる。
それが少し不思議だな、なんて思う紗代の瞳は益々クレイジーさを増してゆく。

♪ ぴんぽ〜〜〜ぉん ♪
やっと 残り二人の到着だ。

「いやぁ。。。参ったよ。。。」
「今日も患者?」

「あーあ。。。」
降り出した雨粒を避けるように、洋二と洋蔵が入って来た。

これで やっと 勢揃い♪
・・・だけど 沙代は もう 夢の中 xxx

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