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リレー小説「起承転結」コミュの戦慄奏でるオルゴール〜ニの筋

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少し高い陽に目を醒ました俺。
遥香はすやすや夢の中。頬に軽いキスをして、
そっとそーっとベッドを抜け出しキッチンへ。

メゾンデュオ302号室法典第28条

「前夜、早く帰った者が朝食を作る」

米を研ぎ、炊飯器スイッチオン。
今朝のメニューは味噌汁とベーコンエッグと納豆。
仕事で疲れた遥香に、おいしく食べてもらえるだろうか。
そうだ。簡単なサラダもつけよう。

ご飯が炊けるまで、まだ時間がある。

南向きの出窓を開けると、
秋晴れの爽やかな空気が入り込む。
音量控えめにテレビを点ける。
もう「王様のブランチ」の時間か。

ソファに深く腰掛け、コーヒー片手に少し落ち着く。
透明なテーブルにTokyoWalkerが展げてある。

…ピンポーン…

「氷川さーん。氷川雪夫さーん。宅急便でーす」

小包が届いた。差出人「弦楽 響子」
聞いたことない名前だ。

怪しいながらも恐る恐る開ける。
手回式の小さなオルゴールが一つ。

ふと、寝室から物音が聞こえた。

(ごはんどん)
======

スリッパが床を踏む音と、寝室のクローゼットを開ける気配。
遙香は結婚後も、必ず身なりを整えてから朝食の席に着くことを習慣としている。

小包を隠さなければ、とっさに俺はそう思った。見知らぬ女からの届け物であった事が必要以上の狼狽を俺に与えたのかもしれない。その小包が遙香あてのものであるかもしれない、と言う事は忘れていた。普段滅多に開けない電話台の引き出しが目に入る。隠そうとした時、つかもうとした片手から俺はオルゴールを取り落としてしまった。


「…」
金属の歯ぎしりのような音。
そうとしか表現できなかった。

落としたオルゴールはばねのはじける様な音をさせたあと、手回しのねじを回転させ、音を鳴らし始めたのだ。

カリカリ、と言うのか、体の内側から自分を削られているような音。硬いものをかみ締めるような速度で、遅く、恐ろしく不快だった。

慌てて拾い上げ、ねじを回転とは逆方向に回してみる。機械とは思えないほどの抵抗が指を痛める。とにかく早くこの音を止めたかった。回したり、ひっぱったりしているうちにねじは取れ、ようやく音もおさまった。

「おはよう。どうかしたの?」

引き出しと閉じるか閉じないかのうちに、遙香が寝室から現われた。先ほどの音には気がついていないのだろうか?

「いや、なんでもない。顔洗ってこいよ。飯にしよう」

炊飯器が笛のような音をたてて、飯の炊き上がりを知らせた。

(ふらと)
======

 「ここまで順調に事が進んだのはアンタのお陰だよ、Mr,パーフェクト」

 高層ビルの最上階、大きな窓の前に立ち、遠くに見えるマンションを見つめながら男は言った。


 ガチャリッ


 玄関の扉にキーが差し込まれる音がして、配達員の格好をした男が入ってきた。

 「ジョニー、抜かりはないな?」

 窓辺の男は振り向きもせずに、マンションから目を離さないまま静かに言った。
 時間から推測して入ってきた男がジョニーだと分かっているのだ。
 それだけ今回の仕事が順調に進んでいるのだった。

 「はい」

 ジョニーは短く言うと、ソファに深々と座っているMr,パーフェクトと握手をし、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出した。

 窓辺の男はチラリと腕時計に目をやると呟いた。

 「そろそろだな・・・」

 ジョニーはミネラルウォーターを一口含み、腕時計に目をやると窓際に移動した。
 Mr,パーフェクトはソファに座ったままニヤニヤしている。


 「5・・・」

 「4・・・」

 「3・・・」

 「2・・・」

 「1・・・」

 「・・・・」


 「・・・!」


 「なっ!馬鹿なっ!!!」

 男は叫ぶと、狼狽した表情で振り向いた。

 「おい!一体どうなっているんだっ!!」

 ソファでニヤニヤしていたMr,パーフェクトも愕然とした表情になり、
 急いで立ち上がり窓際に駆け寄ると、

 「何が起こったのだ!私の時限爆弾にミスがある訳がないだろう!!」

 と叫んだ。

 「おい、ジョニー!! 間違いなく届けたんだろうな!!」

 窓辺の男が荒々しく聞くと、

 「は、はい!メゾンデュオ302号室、法典第28条、氷川雪夫、間違いありません」

 ジョニーは確かめるように答えた。

 「ば、馬鹿な・・・あのオルゴール型の時限装置を外すには、
  相当な爆発物の知識が必要なんだぞ!!氷川雪夫、ヤツは何者なんだ!」

 Mr,パーフェクトは膝から崩れ落ちた・・・

(鯊)
======

思い起こせば、Mr.パーフェクト(以下P)は雪夫に全戦全敗であった。

雪夫と初めての出会いは、リトルリーグの最後の試合であった。
Pはその試合前夜、八街産落花生の食べ過ぎから猛烈な下痢に見舞われ、キャプテンであるにも拘らず、プレイボールに間に合わなかった。
相手チームから散々罵声を浴び、嘲笑され、おまけにチームは全打席三振で完敗。

高専に入ったら、そこに雪夫がいた。
共にエレクトロニクスシステム科で、優劣を競った良きライバルだった。
Pが遊びで開発したゲーム機を雪夫が難なくコピーして、自分の手柄のように売りさばいて荒稼ぎした。
更に、デジタルカメラのニューモデル(シャッターを押す時、音声で「はい、チーズ」という)を製作して雪辱果たんと試みたが、雪夫が盗作だと言いふらし、学校から咎められて退学する事態に追い込まれた。

Pは東京に出て《アラン・オオバントー》という貿易会社に就職した。
入社翌日から《キャサリン銀行》に出向という配属だった。
銀行で、キャリヤ先輩格の、雅楽響子とタダならぬ仲になった。
古風な趣味も気に入った。
ポップスよりも小唄を好み、着物の着こなしが小粋だった。フリュートよりも尺八を嗜んだ。
さりげなく同時に有休を取って出雲にも旅した。将来も誓い合った。


『瓢箪から球磨』『暖簾に蛆虫』『三河出た足袋』という諺を知ったのも、雪夫との再々会があったからだった。

情報誌《ザ・タレコミ》記者の名刺を携えて《キャサリン銀行》に姿を現したのが、他でもない雪夫だった。
嫌な予感が的中した。
雪夫は巧みに響子に接近した。果ては、昼夜構わずホストクラブ接待、テニス・ゴルフ・世界遺産招待という目を覆うばかりの攻勢だった。
響子が見る見る綺麗になった。
しかもそれは、Pへの見せ付けの行動であるのは明らかだった。
響子に間違いはない、と信じていたものの、あっけなく落とされた。
ヘッドハンティングは危惧だったが、雪夫の手に落ちたのだった。

雪夫が来なくなった。
響子が休みがちになった。
表向きPに助言やサポートを与えたが、やはり露骨にPを遠ざける気配を見せた。
Pもそれと気づかぬフリしながら、プレゼントをし続けていた。
指輪や花は勿論のこと、「ブルーチップ」や「ベルマーク」までセッセと贈った。

ある日からぱったり出社して来なくなった。
直前に贈った「白い恋人」「赤福」を送り返して来た。決別を意味した。
Pは伝手を頼って捜した。似た女を見かけたと聞けば、外国の地も踏んだ。巣鴨地蔵にも願かけた。全て無駄だった。

已むに已まれず、Pは雪夫を訪ねた。
「俺は奇麗に清算したよ。しかも、お前も知っている“おぼっちゃま”を紹介してやった。その後は会ってない」
“おぼっちゃま”と言えば、あの“三指財閥のおぼっちゃま”以外にはない。
もう響子の未来はない、と悟らされた。救いの手の届く世界ではなかった。


ここまでが響子と知り合って、ほんの八ヶ月の出来事だった。
雪夫の物になっている方がまだしも幸せだっただろう。
Pは、虚しく雪夫を恨んだ。

そんな折、《ジョニーシステムズ》の社長、ジョニーと出会った。
見掛けとは裏腹に、腰が低く、何でも受け止めてくれた。誰にも明かしたことがない胸の内を察してくれる包容力に富んでいた。
ジョニーはPの理工学知識を最大限に生かすプロだった。
Pをマイスター・パーフェクトと呼んで引き立ててくれた。Pは直ちに転職した。

「響子さんは“三指財閥のおぼっちゃま”に捨てられた後、弦楽邦山という宮城一門の箏士に嫁いだそうだ。
雪夫さんは遙香という女性を娶り、高級マンションで優雅に暮らしている」
ジョニーの目が怪しく光った。
「雪夫さんに響子さんからの贈り物をしてみたいんだが。分かるだろぅ」
Pは時限装置を仕組んだオルゴールを作った。完璧だった。

その日、ジョニーは宅配を装って氷川雪夫に「オルゴール」を届けたのだった。

***

  ♪ 月、火、水、木、キンニク、キンニク
  ♪ スイキンチカモク、ドンデンガエシ

遙香が入ってきた。
「ご機嫌ね。その歌、可笑しいわ…」
胸に抱えた雑誌をテーブルにあったTokyoWalkerの上に積み上げた。
「見て。ゆうべ買ったの」

食卓を整えている手を止めて、俺はそちらに顔を上げた。 「10冊も買っちゃった。雪夫にも読んでもらいたいの」

<こんにちは、ニューママ>
<妊娠から出産まで>
<手作りベビー服>
<間違いだらけの命名>
<赤ちゃんの好きな音楽>
<出産後こう変わる、夫の立場>
<田舎で赤ちゃんを育てる>
<英才教育---保育園、幼稚園ベスト50>
<赤ちゃん連れの海外旅行>
<エミール>

「まずは、遙香に栄養つけてもらわなきゃ」
戻す視線は、つい「電話台」に寄り道してしまう。

「そうね」
そう言いながら、食卓に寄って来て、俺の手先を見つめている。
「あら、血が滲んでいてよ」
俺は自分で気づかなかった事と遙香が先に気づいたことに焦った。
「なんでもない」

遙香は薬箱を捜した。
「どこだったかしら。妻として、それから母として、失格ね」
はにかみながらも嬉しそうに、そこら中の引き出しをかき回した。

「そこ、そこじゃない、ったら」
俺の間違いだった。
さっき、オルゴールを閉じ込めた電話台の引き出しの奥に救急箱があった。

オルゴールが除け者にされて、床に落ちた。
壊れていた筈の手回しオルゴールが、コツリコツリと回転して間延びした音を奏でた。
俺の指に包帯を巻き終えた遙香が、やっと気づいた。

「どうしたの?あのオルゴール」
「今朝、ゴミ捨て場で見つけたから拾って来た。壊れていたんだ。…」
俺の取り繕いは、遙香を感銘させたのだった。
「うれしいわ。お腹の赤ちゃんに聴かせたかったの」
オルゴールの音に耳を傾けながら、俺は「弦楽響子」が誰なのか、思い巡らせていた。
そんな響きの名前を聞いたことはあったが、分からなかった。

時限装置が断線して、オルゴールは命拾いしたのだった。
赤ちゃんの笑顔のような無垢な調べだった。
新しい命の誕生の前祝いのようだった。
ゼンマイが開放されて、曲が終わった。
「さあ、食べよう」

俺はオルゴールの蓋をした。
その時、…



高層ビルの最上階で、ジョニーは呆然自失のPを見下ろしていた。
「ちょいと、驕り過ぎだな、こいつ」

その時、
ソファが崩れて、Pが床に叩きつけられた。
Pはようやく目が覚めた。
「やられたな。雪夫の事は忘れよう。深追いは身の破滅だ」
旅立とうと思った。

翌日《ジョニーシステムズ》に退社願いを出した。

(P)

コメント(32)

ついつい小包開けてしまいました。ここから物語が始まります。
「起」の役割を充分に果たしたと自画自賛です。

海の見える別荘地。かどうかは「承」の方次第。
おいしく料理してくださいませ。味付けはおまかせします。
ルーレットに続いてオルゴールも破壊。

回るものはいつかは壊れる。。。

Pさんが「結」であることに、
なんらかの因縁を感じずにいられません。
『起承転結コミュで回るアイテムを登場させると必ず壊れる』
法則が1つ出来ましたw

し、支払いですね・・・
『転』を書き上げるまでに、
Pさんが温泉でのぼせる可能性大です(笑)

ふらとさん、かしこまり〜です!
わあ!映画のプロローグ観てるみたい!!
一つ一つのシーンが頭に浮かびます。いい雰囲気になってきました。
そろそろオープニングテーマが流れてきそうです。

問題は、、、GFHがよってたかって「プロローグ」を
書いてしまったことですなあ。
Pさん>
確かにそうですねw
「時同じく場面は変わる」的な一文を入れた方が良かったですね。
隠れ『暗』があるということで、よろしくお願いします。

Gさん>
やりたい放題してしまいましたw
もう『転』なのかどうなのかさえ分からなくなってしまった上での暴挙ですw
『転』を書いた後に、
あれこれ『結』を想像してみたのですが、
き、厳し過ぎですねコレ・・・(汗

やっちゃった系、第一弾です。
うにくら丼出してくれるなら何でもお話いたしますが。。。
Mr,パーフェクトはなんと!
エールどーもどーも。

そんな「起」の私は、バッドエンド前提で、いろいろしかけてました。

土曜日の昼のデートのために、
雪夫は、TokyoWalkerや王様のブランチ見てるけれども、
オルゴールの到着。そして寝室からの物音をきっかけに、
全てが崩壊していくみたいな。。。

私の潜在願望。過去を洗い流したいという洗剤願望。。。

むしろ「Mr.パーフェクト(P)」さんに
シンパシーを感じる私です。絶対幸せになって欲しい!
おお〜、
スリリングな展開でドキドキしました!

>雪夫が蓋をした。
 その時、…

この部分で、
「爆発するのか!?爆発させちゃうのか!?」
ってなりましたよ。

P(Mrの方)にとってもハッピーエンドだったのかも知れないですね。
Pさん作の挿絵UPしました。かっこいい。
(もっと気の利いたこと言いたかった。。。)
意味不明コミュの時から思ってたんですが、
Pさんの挿絵はどれも良いですよね。

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