ジョミニとクラウゼヴィッツ 戦争理論の二つの型 戦争理論は戦争に勝利するための方法論[How to Win]型と、戦争の本質を追求するもの[What is War]型の二つに分かれる。
○ジョミニと[How to Win]型の理論 アンリ・アントワーヌ・ジョミニ(1779-1869)は、クラウゼヴィッツと同時代にスイスで生まれ、フランス軍に入ってナポレオン戦争に参加した。彼は1813年にはロシアに移って皇帝の軍事顧問になり、90才までの長い一生の間に多くの著作を残した。 その代表的な著作が『戦争術概論』である。ジョミニは時代が変わって兵器が進歩したとしても戦争には不変の法則があると考え、戦争を取り巻く政治的・社会的な要因を切り離し、戦争に勝つためのいくつかの法則を抽出した。
『戦争術概論』のような[How to Win]型の戦争に勝利するための方法論は古くからの主流であった。 また、軍人にとっては戦争ですぐに役立つ戦術理論の方が『戦争論』のような哲学的な戦争理論よりも重要だった。 それゆえ、アメリカの南北戦争では両軍の士官が左手に『戦争術概論』を右手に剣をもって戦ったといわれている。 現在でも、各国の軍隊における士官の教育と訓練にはジョミニの影響が強く残っている。
○クラウゼヴィッツの[What is War]型の理論 クラウゼヴィッツの『戦争論』は[What is War]型の代表的な著作である(クラウゼヴィッツ自身の生い立ちは第九章を参照)。 『戦争論』は[How to Win]にも触れているが、クラウゼヴィッツはジョミニとは反対にどの時代にも共通する戦争に勝利するための法則があるとは信じなかった。 彼は戦争という現象を政治的・社会的な要因も含めて総合的に考察した。 それゆえ、クラウゼヴィッツの[What is War]型の理論は普遍性が高く、現代においても十分通用する。しかし、『戦争論』は抽象的で難解な部分も多く、一般にはあまり歓迎されなかった。